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赦しは少女仕掛けの…-03

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「どーゆー事だか説明しろ」
「どうもこうも、見たままだ」
 裂けたシャツの間からのぞく、簡素だが上質な絹のコルセット。
「マジかよ・・・」
 小うるさく理想主義者の“老紳士”は実は淑女だった・・・アルバート・ルイスの名も、偽名に決まっている。
 女がズボンを穿くことすら有り得ない、女性はか弱く、憂愁に沈み良妻賢母であるべき、このヴィクトリア朝のご時世で!
「婆さんが男装して刑事とか有りなのか」
 まあ、普通なら有り得ない。
 その“有り得ない”を実行できる後ろ盾が彼、いや、彼女にはあるのだろう。
「婆さんとか言うな」
「婆さんだろうが。どこのご婦人だか知らねえが、女が力持ってハバきかすのは〈教会〉だけで充分だぜ、鬱陶しい」
「女だって王にもなれるんだ。刑事になって何が悪い・・・孫がな、今回の事で嫌疑を掛けられていて。私は彼を信じているが、世間は口さがない。放っておけなくなったのだ」
「身分を偽造できるほどの権力者のご婦人なんだから、旦那に任せとけよ」
 エディが白けた瞳を向けると、彼女の表情が沈んだのを見て取れた。
「私は既に未亡人だ・・・「アルバート」は、亡くなった夫の名だ」
 夫の生前はさぞおしどり夫婦だったのだろうその表情に、エディは自らの発言の拙さを少しだけ悔やむ。
「それで、あの子供に心当たりは」
「ない」
「じゃ、あんたの孫はシロか」
「そう思いたい」
 彼女がそう思いたくても、捜査は結局何も進んでいない。
 切り裂きジャックと少女の関連は不明。
「あのガキが犯人なら、あんたの孫は即ちシロ・・・ともいかねえな。何らかの理由で協力してる可能性もある」
「馬鹿な!」
 彼女が叫んだ理由は、エディの想像からは少々ずれていた。
「あんな子供が、殺人!?馬鹿も休み休み―」
「バカはあんただ!」
「男装して刑事の真似事なんかする割に世の中しらねーな!路頭に迷ったあげくに、食うために小銭で何でもするガキなんかごまんと居るんだよ!」
 無性に苛立つ。この女の無知に。
 この女も、きっと家に帰れば女中がいて、上流階級の奥様としての生活を満喫するのだろう。
 そして慈善と称して、貧にあえぐ労働者や小作人達のために寄付やら何やら善人ぶって・・・

(くだらねえ、誰のお陰で、こいつらは!)

 誰のお陰で、こいつらは何不自由ない生活を満喫しているというのか。

「・・・見つけた」

 かすかに潜めたような、ちいさなソプラノの呟きに、エディは我に返る。
「追って来やがったか、畜生」
 背後を振り返り、一瞬言葉を失った。
 銃撃のせいか、裂けたドレスの裾から覗く左足―膝から下が無くなり、片足だけの覚束ない足取りで近づいてくる。
 それでも少女は顔色ひとつ変えるでなく、千切れた足からも血の一滴すら零れない。

「人間じゃねえ・・・」
 人間ではあり得ない。即ち、それは。
「〈伝説〉か!」
 吐き捨てるように呟くと、再び銃を構える。
 とりあえず何の〈伝説〉かはどうでもいい。とにかく動きを止めなくては。残った片方の足をやれば、少なくとも歩くことは出来なくなるだろう。
「エディ・・・」
「ご覧の通りだ。こいつは人間じゃねえ。鉛玉もう一発くらいじゃどうこうならねえ。黙って見てろ」
 「自称アルバート」に背を向けたまま、エディが引き金に指を掛けた。
「その足・・・白磁(ビスク)か。人形が動くたぁどういう〈伝説〉だ?」
「・・・わたしは、わたし。お父さんの子供のエリザベス。それだけ」
「まあいい。お前の身柄、〈教会〉が貰い受ける」
「わたしの・・・お父さんの邪魔をするなら、あなたも殺す」
「お父さん・・・?」
「親父とやら、もしかしなくても『切り裂きジャック』か・・・そりゃ、捕まえようとする俺達はさぞ邪魔だろうよ、俺達を殺せとでも言われたか」
「あなたが悪いの。お父さんを、捕まえて殺すんでしょ」
 少女の人形はナイフを振り上げる。

「やめるんだ!」

 次の瞬間。
「・・・・・・?」
 「自称アルバート」が、少女の人形を庇うように抱きすくめていた。
「もう、いい・・・エリザベス・・・と言ったか。もう、やめなさい」
「・・・なあに、あなた」
「エリザベス、君の父親のしていることは、人殺しだ。」
「・・・・・・」
「罪なことなんだ。協力してはいけない。そして、君のお父さんは、罪に見合う罰を受けなければならない」
「・・・・・・」
「・・・私は、君も、君のお父さんも、出来るだけ救いたい。難しいかもしれないが、出来る限り力を貸すから、私を信じて一緒に来てくれないか」
「わたしを・・・お父さんを、救う・・・?」
「ああ」
「いいのかよ、それで」
「ああ」
「・・・お父さん」
 人形の無表情な瞳が、何故か葛藤と闘っているようにエディには見えた。

「エリザベス!」

 俄に響いた声に、一同がはっと振り向く。
 そこに立っていたのは中年の男。生活というより生きること自体に疲れているようにやつれてはいたが、瞳だけはぎらぎらと殺意に光っていた。
「お父さん・・・」

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