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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 夜刀浦奇譚-06

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夜刀浦奇譚
第六話 -恋人がサンタクロース-


 十二月二十四日。
 この国に住む者ならばほとんどが知っている特別な日。
 望む望まぬに関わらず聖なる夜は誰にでも等しく訪れる。
 それはここ――学校町にも。

『こちら北海道第三分隊。先ほどリア充とおぼしき集団と衝突した。至急支援を要請』
『こちら三重支部。駅周辺にてトナカイのフンを確認。まだ温かいため、そう遠くには行っていないと思われる』
『こちら鹿児島支部。火山灰で視界が悪い。十分に注意して偵察部隊は配慮せよ』
「そろそろおっ始まる頃合か?」
「だろうな」

 支援要請、目撃情報、注意喚起……数多の情報が無線から聞こえてくる内容に髭面の男は神経質そうな男に向かって不敵な笑みを浮かべた。
 無線を通して聞こえる仲間の声は緊張こそあるものの意気軒昂だ。
 連中に対する敵対心もさることながら、総勢二十一万の兵士が控えているという情報も士気を高めている要因だろう。

「連中はいつ来るかわからん。油断するなよ」
「わかってるさ。他と違ってこの町のは特別……だろ?」
「連中と天使と肉ダルマ――悪夢のような三つ巴の戦いが起きたイカレた町だ」
「その通りだ。だからこそここを攻略する意味は大きい」
「中佐!」

 さすがに緊張を見せる髭面達を手で制し、中佐は言葉を続ける。

「ここだけの話だが、本部は決戦の場をこの町だと予測している」
「この町が、ですか」
「『ラプラスの悪魔』を使った結果らしい。――この結果を弾き出すだけで契約者と契約者候補合わせて六十人ほど潰れたがな」
「……本作戦の結果はどうなったんでしょうか?」
「そこまで深くは読めなかったらしい。人間が使うには過ぎた力なんだろう」

 肩を竦めて笑う中佐の姿を見て、髭面はどうして中佐クラスの階級がこの町を訪れたのかを理解した。彼らは自分達を最期まで使い切るつもりなのだ。でなければ機密を自分達のような伍長クラスに聞かせる必要などない。
 異能の力を使うまでもなく自分の未来がわかってしまった髭面は、それでも逃げようという気持ちにならなかった。自分の生命以上に連中に対する敵意が強いのだ。
 それは隣の神経質そうな――髭面と同じく伍長の――男も同じなのか、怯む様子がない。

「国境に二十一万の兵士を待機させているのは知っていると思うが、決戦時にはそいつらも投入される」
「万が一もないということですね」
「その通りだ。本作戦終了後に最多殺害数を叩き出した奴には生体強化の道が開かれるとかなんとか――ま、こいつは噂だがな」
「本作戦には生体強化戦士は投入されないのでしょうか?」
「本部が何らかの開発を行なっているらしいとは聞いたことがあるが、生体強化そのものが都市伝説レベルの噂だから期待はするな。それとも、自信がないのか?」

 試すような目を遠慮なく向ける中佐。
 ふたりの伍長は気後れせずに真正面からその視線を受けた。
 伍長達の視線を受け、ふたりよりは年下であろう中佐は深い笑みを浮かべる。

「……十九世紀には登場していた連中に対して俺達の歴史は浅い。だが、古さと強さが必ずしもイコールじゃないことはこの町の魑魅魍魎が証明してる」

 中佐の目に光が宿る。
 敵意と殺意と強い決意と。
 トナカイが引くソリで夜空を駆り、煙突の中にも自由に入り込める相手とは違い、彼らは訓練されたとはいえただの兵士だ。
 ただの兵士を敵の前に立たせることのできる原動力。
 何よりも誰よりも勝る唯一の武器――その名は勇気と呼ばれる。

「連中を殺すぞ」
「はい!」

◆  □  ◆  □  ◆

「ダメだよぅ」
「!!」

 突如聞こえたのは場違いな女の声。

「ダメだよぅダメだよぅ――あれ?」

 三人の行動は驚くほど早かった。
 髭面が現れた女の両足に弾丸を撃ち込むと、もうひとりが押し倒して押さえ込んで喉元にナイフを突きつけた。
 中佐の抜いた銃は寸分違わずに眉間に向いている。

「どこの手の者だ?」

 伍長達の背筋が凍るほどの感情のこもらぬ声で中佐が銃を額に押し付けた。
 声をかけられる直前まで誰もいなかったのは間違いがない。兵士が見張りをしているこの内部にどうやって侵入したのかという疑問は、この町が学校町である以上意味がないことを中佐は知っていた。
 ありえないことがありえる町では何が起きても不思議ではない。

「以前反対派の手によって壊滅させられたと聞く。お前も同類か?」

 彼らの行動には反対派も多い。反対派の中でも行動に移すような者は少ない――逆を言えば少ないが存在する。
 以前『写真に写ると魂を抜かれる』都市伝説契約者の手によって、二十人の兵士達を失ったことがある。学校町に配属された一個小隊のうち半数以上を失ったために作戦は失敗。結局は全滅の憂き目に遭っていた。
 後の調査によって反対派の契約者の手によるものだと判明したが首謀者の特定までは至らずに二年が過ぎている。
 女の行動が反対派なのか、それとも三つ巴の戦いのようなある種偶発的なものなのか。

「ダメだよぅ」
「指を落とせ」
「ハッ」

 答えぬと見るや否や、中佐の決断は早い。
 早々に口を割らせて本部に連絡せねば――その思いがあった。
 そこに中佐の誤算があった。

「ダメだよぅダメだよぅ」

 中佐の言葉を受けて髭面が女の指を切り落とそうとした瞬間――髭面の体を棒状の金属が貫通した。

「あ゛……?」

 自身に何が起きたかすらわからず、髭面は絶命した。
 続けて、第二射。
 今度はもうひとりの伍長の左足を貫通する。

「ダメだよぅダメだよぅ」
「な――なんだ、何が起きている!?」
「痛いのはダメなんだよぅ」
「しょ、中佐……逃げ……」

 伍長の右腕、左肩を二本目三本目の金属が貫く。
 動きが封じられた伍長を軽く持ち上げて女は立ち上がる。

「痛いでしょぉ? 痛いのはねぇ、ダメなんだよぅ」

 にんまりと笑った瞬間、伍長の頭頂から肛門まで一直線に金属が貫いた。

「ほらぁ、痛いでしょぉ?」
「――動くな」

 制止の言葉をかけつつ、銃弾を浴びせる。
 両足に弾丸を撃ち込まれても苦もなく立ち上がった女相手に容赦する必要はない。
 中佐の動きには部下ふたりを失った動揺はない。戦場において動揺することないように本部から処置を施されている。

「あの人達を殺すんでしょぉ? 殺しちゃダメだよぉ」
「連中の差し金か?」

 全弾を発砲し、リロード。

「違うよぉ」
「では何の目的だ?」

 全弾を発泡し、リロード。
 手足のみならず顔にも額にも撃ち込んでいるのだが、女は傷ひとつ衝撃ひとつなく立っている。

「あなた達がねぇ、私の恋人を殺したから敵討ちに来たんだぁ」
「お前の恋人とやらは連中の仲間に成ったのか?」
「そうだよぉ。だからあなた達に殺されちゃったんだぁ」
「そいつはお気の毒だが、それが俺達の任務でな。」
「うん。死んじゃったものは仕方ないよねぇ」

 女が屈託のない笑みを浮かべた。
 数多の死線を経験した中佐ですら二度と見たくないと祈る笑みを。

「だから、殺したんなら殺されても仕方ないよね?」

 中佐は知らぬことだが、彼女が契約した都市伝説はひとつ。
『神の杖』と呼ばれるそれは、高度一千キロの上空を浮かぶ人工衛星から彼女の定めた対象めがけて確実に着弾する。
 発動条件として彼女自身がその目で対象を視認しなければならないが、危険をはらむ発動条件を考慮しても威力と精度は絶大であり、回避できる人間は存在しない。
 中佐が上空を見上げたのはただの勘にしか過ぎず、それ以上の行動はできなかった。
 脳天と心臓を正確に貫かれた中佐は倒れることすら許されず、先に死んだふたりの伍長同様に何が起きたかわからぬまま即死した。

「これ脱ぎたいなぁ。でも脱いだらきっと痛いもんなぁ」

 周囲を見渡すや否や設備を串刺しにした女は、自分の起こした惨状に興味をなくしたのかこの場を立ち去った。
 彼女が身につけていた戦闘服――強化骨格とも呼ばれるそれには「P」の文字が書かれていた。
『屋根にPを書くと爆撃されない』能力を秘めた強化骨格は彼女を守る。
 戦中の都市伝説を身に纏い、大国アメリカの都市伝説を持つ女はふらりと拠点を後にした。
 学校町に残る残党を鏖殺するために。

 日付が変わり十二月二十五日。
 聖なる夜は誰にでも等しく訪れる。
 ただし、学校町では死も等しく訪れる――望む望まぬに関わらず。


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