「子供の頃傘持ってジャンプとかしたよね」
ざあざあ、ざあざあ。ざあざあ、ざあざあ。雨が降っている。学校の屋上に、傘をさした少女が一人。
屋上は弁当を食べたり、黄昏たりする場所であるというイメージがある。いくら傘をさしているとはいえ、本来雨の日に行く場所ではない。
しかしそこには確かに少女が居た。傘をさした少女が居た。ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、長靴で水たまりを踏みながら歩いていく。
そして。次の瞬間―――
屋上は弁当を食べたり、黄昏たりする場所であるというイメージがある。いくら傘をさしているとはいえ、本来雨の日に行く場所ではない。
しかしそこには確かに少女が居た。傘をさした少女が居た。ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、長靴で水たまりを踏みながら歩いていく。
そして。次の瞬間―――
「え~いっ!」
傘をさしたまま――――少女は飛び降りた。屋上から飛び降りた。
コンクリートから足を離した少女の身体は、そのまま地球の重力に従って、真っ逆さまに―――
傘をさしたまま――――少女は飛び降りた。屋上から飛び降りた。
コンクリートから足を離した少女の身体は、そのまま地球の重力に従って、真っ逆さまに―――
―――落ちなかった。何ということだろう。その少女の身体は、ふわふわと。ふわふわと、宙を舞っているではないか!
背にパラシュートを背負っているわけではない。天使のような翼が生えているわけではない。
あるものと言えば、手に握った傘ひとつ。にもかかわらず、少女の身体はふわふわしていた。
「やっぱり気持ちいいなあ、雨の日の空の旅!」
少女の名は傘松 小雨(かさまつ こさめ)。小学生である。黄色い傘が可愛らしい。
「こんな~雨の日は~ヘリとか~鳥とかもいないし~。雨空は~私だけの~フリ~ワ~ルド!」
傘を差すだけで宙を舞っている。その異常性だけで気づく人は気づくだろうが、彼女は都市伝説契約者である。
彼女の契約都市伝説、それは『傘をパラシュート代わりにできる』。星のカービィなんかでイメージが付いたのだろう。
我々は子供のころ、傘を差して飛び降りるとパラシュートのようにふわふわ舞い降りることができると信じていた。
それが形になった、その『子供たちの夢』から生まれた都市伝説。それが『傘をパラシュート代わりにできる』である。
「地面ならともかく~、こ~んな雨の日に空飛んでる都市伝説なんていないだろうしね~」
言いながら、少女はふわふわ空を舞う。雨音をBGMに、空を舞う。
「あっ、そろそろ地上かぁ。しょうがない、また昇り直……」
その瞬間、びゅん、と何かが飛んでくる。器用に位置を変え、小雨はそれを間一髪躱した。
「なんなの~、も~……」
呟き、地上に足を付ける。何が飛んできたかは分からないけど、危ないじゃない。気を付けてよね―――と、思っていると。
「きゃっ!」
躱したはずの『それ』が戻ってきて。小雨の小さな体を突き飛ばした。
「ひっひっひっ」
飛んできた何かは不気味に笑う。動きを止めたことでその正体が露わになった。老婆だ。
「何~、何なの~?」
「こんな雨の日に出歩くなんて危ないじゃないかい」
「そんなこと~、聞いてないんだけど~?」
「暗くて誰もいない時に一人で出歩くだなんて……私達に襲われたいって言ってるようなもんだよぇ!」
言いながら、老婆は腰を曲げ、小雨めがけて飛びかかる。
「当たらないよ~? 何なのお婆さん?」
しかし、小さな体躯を生かしてすらりと躱す小雨。
「やっぱり子供は子供。甘いねぇ!」
二度も同じ手に引っ掛かるだなんて――――言いながら、老婆は戻ってきた
「んぐっ……!」
クリーンヒット。小さな体に老婆一人分の体重は大ダメージとなり得る。
「何で……羽根もないのに~……。いや~……そっかぁ~」
苦しそうにしながらも立ち上がり、小雨は言う。
「『ブーメラン婆』~! だから避けても避けられなかったんだぁ~~!」
「ひっひっひっ、ご名答。子どもにしちゃ賢いじゃないか」
「どうしてこんなことするのよ~。人が気持ちよ~く飛んでるときに~」
「ひっひっひ、都市伝説(わたしたち)が人を襲うのに……理由が必要かい?」
「あはは~、そりゃそうだ~!」
言いながら、小雨は飛び退き『ブーメラン婆』と距離を取る。
「逃げるつもりかい? 無駄だよ、遠距離(それ)は私の間合いだ!」
『ブーメラン婆』はその名の通り、ブーメランのように回転しながら、小雨めがけて飛んでくる。
「逃げる? ちがうよ~?」
その瞬間、強い風が吹いた。こんな天気だ、風くらい吹くだろう。しかし―――それが何だというのだ?
「戦うつもりかい? でも残念! 私はこの程度の風、物ともせず飛んで行ける!」
一方お前さんの得物は傘じゃないかい。突風の中じゃまともに傘なんか差せない。
どうやら天は私に味方したようだね!言いながら、『ターボ婆』は飛んでくる。
確かにそうだ。この状況、普通なら圧倒的に小雨の不利。
「違うよぉ~? 天運はどうかしらないけど~……天気はいつでも、私の味方なの~」
そう、あくまで普通なら。普通も常識もないのが都市伝説や契約者の戦いだ。
『ターボ婆』の身体は風にあおられ、地面にたたきつけられた。
「ぐえっ……! お前、何をしたんだい!?」
「『何をした』~? おかしなことを聞くんだね~? 貴女は風に吹き飛ばされ落っこちた。それだけでしょ~?」
「そんなわけあるかい! 私が吹き飛ばされるくらいの風なら、お前が吹き飛ばないわけがない! お前、契約者だね!?」
都市伝説の力で風を起こしたんだろう!? と、『ターボ婆』は吠える。
「さぁ~? ど~だろ~ね~?」
間延びした声で、小雨は答える。しかし、質問には答えない。
「なめんじゃあないよっ、ガキめ!」
『ターボ婆』は体勢を立て直し、再び飛びかかろうとする。しかし、それは叶わない。
「全く~、大きな声をあげるものじゃ~ないよ~? お婆さん。血管切れますよ~?」
頭では冷やしたらどうです~? と小雨が言うのと同時に、『ターボ婆』の頭上に滝のような鉄砲水が降り注いだからだ。
「ごぽごぽ! げほっ、げほっ! やっぱり……契約者!」
恐らくは水や風……つまり、嵐を操る能力! 『ターボ婆』は推理する。
「残念だけど~、お婆さんに勝ち目はないよ~?」
「言ってろ!」
と吠えてみるものの、しかしその通りだ。ターボ婆は本来雨の日の都市伝説ではない。
嵐という、最上級の悪天候を操る能力者への対抗法を持ち合わせていない。
しかし――――
「あれ~~~?」
心なしか、雨足が弱まってきた? いや、気のせいではない。確かだ。なぜなら――――
「ひっひっひっ、どうやらやっぱり、天は私に味方しているようだねぇ!」
突如雨が上がるばかりか、雨雲も晴れ上がったからだ! これ幸い、と『ターボ婆』は反撃の体勢に入る。
「だ~か~ら~、言ったでしょ~? 天運はともかく、天気はいつでも私の味方だって~」
言いながら少女は『ターボ婆』に傘を向ける。傘に付いた水滴が日光を反射し――――
「うぎゃああああああああ!」
ビームのように、『ターボ婆』を焼いた。
「何……『嵐を操る能力』じゃあないのかい……?」
「嵐を操る~? そ~んな怖い能力、私が持ってるわけないじゃな~い」
私はただ、天気を味方に付けるだけだよ~? 言いながら、少女は指鳴らそうとする。
が、鳴らない。すっ、となるだけである。
「う~~~~……」
可愛い。
しかしその可愛さと裏腹に、能力はしっかりと働いていて。
天から降り注ぐ光が、『ターボ婆』を焼き尽くした。
「まさか~……私の持ってる傘がただの傘だとでも思ってたのかな~?
答え合わせしてあげるね~。『幽霊傘』。それが私の、もう一つの契約都市伝説だよ~」
その声に答えるように、傘は―――否、『幽霊傘』は目と口を開き、ぺろりと舌を出す。
『幽霊傘』。『唐傘お化け』の類話の妖怪であり、突風の日に人を空へ巻き上げてしまう。
契約によって得た能力は、『天気の影響の超強化』。
即ち風であらゆるものを吹き飛ばし、雨を鉄砲水に変え、日光を熱光線に変える。そんな能力。
「屋外で私に勝負を挑んだのが~、貴女の敗因だよ~? な~んて、聞こえてるわけないか~」
そう呟き、少女は踵を返す。
「あ~あ、晴れちゃった。スカイダイビングはおしまいだね~。しょうがない、帰ろ~」
空はすっかり晴れたけど、小雨は相変わらず傘を差し。長靴で水たまりを踏みながら、ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ、家に帰るのであった。
背にパラシュートを背負っているわけではない。天使のような翼が生えているわけではない。
あるものと言えば、手に握った傘ひとつ。にもかかわらず、少女の身体はふわふわしていた。
「やっぱり気持ちいいなあ、雨の日の空の旅!」
少女の名は傘松 小雨(かさまつ こさめ)。小学生である。黄色い傘が可愛らしい。
「こんな~雨の日は~ヘリとか~鳥とかもいないし~。雨空は~私だけの~フリ~ワ~ルド!」
傘を差すだけで宙を舞っている。その異常性だけで気づく人は気づくだろうが、彼女は都市伝説契約者である。
彼女の契約都市伝説、それは『傘をパラシュート代わりにできる』。星のカービィなんかでイメージが付いたのだろう。
我々は子供のころ、傘を差して飛び降りるとパラシュートのようにふわふわ舞い降りることができると信じていた。
それが形になった、その『子供たちの夢』から生まれた都市伝説。それが『傘をパラシュート代わりにできる』である。
「地面ならともかく~、こ~んな雨の日に空飛んでる都市伝説なんていないだろうしね~」
言いながら、少女はふわふわ空を舞う。雨音をBGMに、空を舞う。
「あっ、そろそろ地上かぁ。しょうがない、また昇り直……」
その瞬間、びゅん、と何かが飛んでくる。器用に位置を変え、小雨はそれを間一髪躱した。
「なんなの~、も~……」
呟き、地上に足を付ける。何が飛んできたかは分からないけど、危ないじゃない。気を付けてよね―――と、思っていると。
「きゃっ!」
躱したはずの『それ』が戻ってきて。小雨の小さな体を突き飛ばした。
「ひっひっひっ」
飛んできた何かは不気味に笑う。動きを止めたことでその正体が露わになった。老婆だ。
「何~、何なの~?」
「こんな雨の日に出歩くなんて危ないじゃないかい」
「そんなこと~、聞いてないんだけど~?」
「暗くて誰もいない時に一人で出歩くだなんて……私達に襲われたいって言ってるようなもんだよぇ!」
言いながら、老婆は腰を曲げ、小雨めがけて飛びかかる。
「当たらないよ~? 何なのお婆さん?」
しかし、小さな体躯を生かしてすらりと躱す小雨。
「やっぱり子供は子供。甘いねぇ!」
二度も同じ手に引っ掛かるだなんて――――言いながら、老婆は戻ってきた
「んぐっ……!」
クリーンヒット。小さな体に老婆一人分の体重は大ダメージとなり得る。
「何で……羽根もないのに~……。いや~……そっかぁ~」
苦しそうにしながらも立ち上がり、小雨は言う。
「『ブーメラン婆』~! だから避けても避けられなかったんだぁ~~!」
「ひっひっひっ、ご名答。子どもにしちゃ賢いじゃないか」
「どうしてこんなことするのよ~。人が気持ちよ~く飛んでるときに~」
「ひっひっひ、都市伝説(わたしたち)が人を襲うのに……理由が必要かい?」
「あはは~、そりゃそうだ~!」
言いながら、小雨は飛び退き『ブーメラン婆』と距離を取る。
「逃げるつもりかい? 無駄だよ、遠距離(それ)は私の間合いだ!」
『ブーメラン婆』はその名の通り、ブーメランのように回転しながら、小雨めがけて飛んでくる。
「逃げる? ちがうよ~?」
その瞬間、強い風が吹いた。こんな天気だ、風くらい吹くだろう。しかし―――それが何だというのだ?
「戦うつもりかい? でも残念! 私はこの程度の風、物ともせず飛んで行ける!」
一方お前さんの得物は傘じゃないかい。突風の中じゃまともに傘なんか差せない。
どうやら天は私に味方したようだね!言いながら、『ターボ婆』は飛んでくる。
確かにそうだ。この状況、普通なら圧倒的に小雨の不利。
「違うよぉ~? 天運はどうかしらないけど~……天気はいつでも、私の味方なの~」
そう、あくまで普通なら。普通も常識もないのが都市伝説や契約者の戦いだ。
『ターボ婆』の身体は風にあおられ、地面にたたきつけられた。
「ぐえっ……! お前、何をしたんだい!?」
「『何をした』~? おかしなことを聞くんだね~? 貴女は風に吹き飛ばされ落っこちた。それだけでしょ~?」
「そんなわけあるかい! 私が吹き飛ばされるくらいの風なら、お前が吹き飛ばないわけがない! お前、契約者だね!?」
都市伝説の力で風を起こしたんだろう!? と、『ターボ婆』は吠える。
「さぁ~? ど~だろ~ね~?」
間延びした声で、小雨は答える。しかし、質問には答えない。
「なめんじゃあないよっ、ガキめ!」
『ターボ婆』は体勢を立て直し、再び飛びかかろうとする。しかし、それは叶わない。
「全く~、大きな声をあげるものじゃ~ないよ~? お婆さん。血管切れますよ~?」
頭では冷やしたらどうです~? と小雨が言うのと同時に、『ターボ婆』の頭上に滝のような鉄砲水が降り注いだからだ。
「ごぽごぽ! げほっ、げほっ! やっぱり……契約者!」
恐らくは水や風……つまり、嵐を操る能力! 『ターボ婆』は推理する。
「残念だけど~、お婆さんに勝ち目はないよ~?」
「言ってろ!」
と吠えてみるものの、しかしその通りだ。ターボ婆は本来雨の日の都市伝説ではない。
嵐という、最上級の悪天候を操る能力者への対抗法を持ち合わせていない。
しかし――――
「あれ~~~?」
心なしか、雨足が弱まってきた? いや、気のせいではない。確かだ。なぜなら――――
「ひっひっひっ、どうやらやっぱり、天は私に味方しているようだねぇ!」
突如雨が上がるばかりか、雨雲も晴れ上がったからだ! これ幸い、と『ターボ婆』は反撃の体勢に入る。
「だ~か~ら~、言ったでしょ~? 天運はともかく、天気はいつでも私の味方だって~」
言いながら少女は『ターボ婆』に傘を向ける。傘に付いた水滴が日光を反射し――――
「うぎゃああああああああ!」
ビームのように、『ターボ婆』を焼いた。
「何……『嵐を操る能力』じゃあないのかい……?」
「嵐を操る~? そ~んな怖い能力、私が持ってるわけないじゃな~い」
私はただ、天気を味方に付けるだけだよ~? 言いながら、少女は指鳴らそうとする。
が、鳴らない。すっ、となるだけである。
「う~~~~……」
可愛い。
しかしその可愛さと裏腹に、能力はしっかりと働いていて。
天から降り注ぐ光が、『ターボ婆』を焼き尽くした。
「まさか~……私の持ってる傘がただの傘だとでも思ってたのかな~?
答え合わせしてあげるね~。『幽霊傘』。それが私の、もう一つの契約都市伝説だよ~」
その声に答えるように、傘は―――否、『幽霊傘』は目と口を開き、ぺろりと舌を出す。
『幽霊傘』。『唐傘お化け』の類話の妖怪であり、突風の日に人を空へ巻き上げてしまう。
契約によって得た能力は、『天気の影響の超強化』。
即ち風であらゆるものを吹き飛ばし、雨を鉄砲水に変え、日光を熱光線に変える。そんな能力。
「屋外で私に勝負を挑んだのが~、貴女の敗因だよ~? な~んて、聞こえてるわけないか~」
そう呟き、少女は踵を返す。
「あ~あ、晴れちゃった。スカイダイビングはおしまいだね~。しょうがない、帰ろ~」
空はすっかり晴れたけど、小雨は相変わらず傘を差し。長靴で水たまりを踏みながら、ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ、家に帰るのであった。
続く