24 新参ナンバー
∂-No.0は憂鬱な顔のまま廊下を歩いていた
柔らかな亜麻色の髪を幾重にも緩く巻いており、歩く度にそれが揺れる
彼女の碧眼も物憂げな表情の中にあっては何処となく陰って見えた
彼女の碧眼も物憂げな表情の中にあっては何処となく陰って見えた
普段の彼女はその美貌からか見る者に何処か冷たい印象を与える
尤も今の様子ではそうした冷たさすら、暗然とした雰囲気の中で影を潜めていた
尤も今の様子ではそうした冷たさすら、暗然とした雰囲気の中で影を潜めていた
「あー、ボス。また溜息吐いてます」
半ば非難するような声色だ
No.0の後ろに随うスーツの女子が発したものだ
この若い女子はNo.0の秘書を担当している黒服である
No.0の後ろに随うスーツの女子が発したものだ
この若い女子はNo.0の秘書を担当している黒服である
「幸せ逃げちゃうって言うじゃないですかー。またイヤミ言われちゃいますよー?」
「そうね、気をつけます」
「そうね、気をつけます」
部下の言葉にNo.0は曖昧に微笑んで応じた
外部の、それも過激派相手には決して見せない顔だ
外部の、それも過激派相手には決して見せない顔だ
「それにしても脅迫の積りなんですかねー、ほんと頭にくる」
「彼らは私達のオブザーバーですからある程度は仕方ありません」
「……ボス、まさか、さっきのアレに従っちゃうんですか? やーですよ、そんな」
「ええ、ですから『ある程度』は仕方ないのです。『ある程度』から先は私達の裁量になります」
「彼らは私達のオブザーバーですからある程度は仕方ありません」
「……ボス、まさか、さっきのアレに従っちゃうんですか? やーですよ、そんな」
「ええ、ですから『ある程度』は仕方ないのです。『ある程度』から先は私達の裁量になります」
それはNo.0と部下との静かな会話だ
しかしこのとき、No.0の言葉には僅かな戦意が滲んでいた
それをこの秘書の黒服がどれほど察したのかは定かでない
しかしこのとき、No.0の言葉には僅かな戦意が滲んでいた
それをこの秘書の黒服がどれほど察したのかは定かでない
「もう、私達は私達で動いちゃいましょうよボス、イエスマンは駄目って仰ってたじゃないですか」
「そう焦ってはいけませんよ、何事においてもです」
「いっそ“狐”の件に着手するというのは?」
「あれは穏健派が専属で担当する問題です。大丈夫、すべきことはまだ沢山あります」
「むー、“狐”の件を解決できたら絶対キャピタルナンバーに迫れますって、絶対ですよー!」
「そう焦ってはいけませんよ、何事においてもです」
「いっそ“狐”の件に着手するというのは?」
「あれは穏健派が専属で担当する問題です。大丈夫、すべきことはまだ沢山あります」
「むー、“狐”の件を解決できたら絶対キャピタルナンバーに迫れますって、絶対ですよー!」
逸る秘書の言い分もわかる
ここで功績を上げればオブザーバーからある程度解放されるのではないか、という算段だ
しかし、その点はもう少し慎重にやらなければならないだろう
むしろ逆に、更に首輪を掛けれられる危険性が無いわけでは無いのだ
未だに全ては彼らの手の内だ
ここで功績を上げればオブザーバーからある程度解放されるのではないか、という算段だ
しかし、その点はもう少し慎重にやらなければならないだろう
むしろ逆に、更に首輪を掛けれられる危険性が無いわけでは無いのだ
未だに全ては彼らの手の内だ
フンフンと鼻息の荒い秘書に微笑みながらも
∂-No.0はこれから先の流れについて懸念せずにはいられなかった
∂-No.0はこれから先の流れについて懸念せずにはいられなかった
先程の“会合”ではオブザーバーから「あまり勝手をし過ぎぬように」と釘を刺された
彼らの言い分を言葉通りの意味で受け取ってはならない
それは「我々の手駒であることを忘れるな」という脅迫に近いニュアンスを帯びているからだ
彼らの言い分を言葉通りの意味で受け取ってはならない
それは「我々の手駒であることを忘れるな」という脅迫に近いニュアンスを帯びているからだ
どうしたものか
ボスである彼女は苦悩は当分晴れることは無いだろう
ボスである彼女は苦悩は当分晴れることは無いだろう
∂ナンバー
数年前に結成された「組織」の新設ナンバーだ
表向きは次期の黒服を養成する長期計画を試す等の口実で設置された
数年前に結成された「組織」の新設ナンバーだ
表向きは次期の黒服を養成する長期計画を試す等の口実で設置された
「組織」で憂慮されてきた問題の一つに黒服の質の低下があった
穏健派は早くからその対策に手を打ち始めていた
穏健派は早くからその対策に手を打ち始めていた
しかしその問題についても
これまで過激派、あるいは強硬派と呼ばれる「組織」内の派閥が
後のことを考えずにやりたい放題やって来た、その当然の帰結なのであり
尻拭いを穏健派がしなくてはならなかったのだ、そうはっきりと批判する者すら存在する
これまで過激派、あるいは強硬派と呼ばれる「組織」内の派閥が
後のことを考えずにやりたい放題やって来た、その当然の帰結なのであり
尻拭いを穏健派がしなくてはならなかったのだ、そうはっきりと批判する者すら存在する
彼ら∂ナンバーは
黒服を養成して質を向上させる数々のプログラムが
有用であったのかどうかを見極めるために結成されたナンバーである
黒服を養成して質を向上させる数々のプログラムが
有用であったのかどうかを見極めるために結成されたナンバーである
表向きはそのように説明されている
だが実態はそうでは無かった
∂ナンバーは表向き、穏健派に親和的なナンバーとして見做されている
しかしながら彼ら∂ナンバーのバックに付いているのは旧過激派、旧強硬派であった
∂ナンバーは表向き、穏健派に親和的なナンバーとして見做されている
しかしながら彼ら∂ナンバーのバックに付いているのは旧過激派、旧強硬派であった
ここ十数年の間に「組織」穏健派は内部の政治で徐々に優位性を高めつつあった
それに伴い、暗黒面に与する後ろ暗い派閥は力を削がれ、あるいは直接に排除された
それに伴い、暗黒面に与する後ろ暗い派閥は力を削がれ、あるいは直接に排除された
過激派や強硬派はこうした穏健派の情勢に反発し
穏健派の施策を平然と無視する者や、無意味な襲撃行為に手を出す輩も存在した
一方、彼らの中には穏健派の理念や思想を受け入れ、穏健派への転向を装う者も存在した
穏健派の施策を平然と無視する者や、無意味な襲撃行為に手を出す輩も存在した
一方、彼らの中には穏健派の理念や思想を受け入れ、穏健派への転向を装う者も存在した
∂ナンバーの背後に控えるのは、そうした融和主義の黒服達だ
彼らの大きな目的は、穏健派に取り入ることでその内部へと潜り込み
元々過激派や強硬派で培われた思想を密かに植え付け、育んでいくこと
そして最終的には穏健派を元々の過激派や強硬派に作り替えていくことだった
彼らの大きな目的は、穏健派に取り入ることでその内部へと潜り込み
元々過激派や強硬派で培われた思想を密かに植え付け、育んでいくこと
そして最終的には穏健派を元々の過激派や強硬派に作り替えていくことだった
彼らにとって∂ナンバーとはそうした目的の為の駒でしか無い
むしろ∂ナンバーは彼らの熱烈な推薦によって創出されたナンバーである
それ故に∂ナンバーの構成員には元穏健派所属の黒服だけでは無く
強硬派や過激派所属の黒服も所属しているのだ
むしろ∂ナンバーは彼らの熱烈な推薦によって創出されたナンバーである
それ故に∂ナンバーの構成員には元穏健派所属の黒服だけでは無く
強硬派や過激派所属の黒服も所属しているのだ
No.0は内部に監視の目があることを悟っていた
しかし現状に甘んじるわけには、いかなかったのだ
無論、成立の経緯が経緯だけあって穏健派の助力を乞うことは難しい
融和主義の黒服達の目論見に寛容であるほど、穏健派も愚かでは無いからだ
加えて彼女自身の出身は、今なお“瑕疵ある穏健派”と評されているPナンバーだ
しかし現状に甘んじるわけには、いかなかったのだ
無論、成立の経緯が経緯だけあって穏健派の助力を乞うことは難しい
融和主義の黒服達の目論見に寛容であるほど、穏健派も愚かでは無いからだ
加えて彼女自身の出身は、今なお“瑕疵ある穏健派”と評されているPナンバーだ
だが、それでも成し遂げなければならない
人と、都市伝説との、「共生」とは何であるのか
その回答困難な問いに対する彼女自身の答えを出す為に
人と、都市伝説との、「共生」とは何であるのか
その回答困難な問いに対する彼女自身の答えを出す為に
それに今、∂ナンバー内部には敵だけでは無い
頼もしい仲間が存在するのだということも、彼女は知っている
頼もしい仲間が存在するのだということも、彼女は知っている
No.0の憂いは未だ晴れない
しかし、彼女の胸中には決意の火が揺らめいていた
しかし、彼女の胸中には決意の火が揺らめいていた
□□■