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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代ーズ-CL11

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匿名ユーザー

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一日目の夜、『ピエロ』




「マヒル、お前に端末預けてたよなぁ? はよ」
「かぁクンちょっと待ってね」
「あーマジゴミだわ、ゴミカス、カスカス」


 グリングリンがその場へと乗り込んできたのは日付が変わって間もない頃だ
 横合いから聞こえる契約者共の談笑を無視
 彼は大量のモニターと機材に囲まれたピエロと白衣の女へと詰め寄った


「おい、ジョーの首尾はどうなってる」


 低く静かだか凄みのある声に白衣女はたじろいだ
 女の代わりにピエロ装束の男がグリングリンの前に出る


「現状、特に問題があった等の連絡はありませんが」

「チッ、それが大問題なんだ。身内に先走りやがった馬鹿共がいる
 大方焚き付けた連中がいるんだろうが……。しかも勝手に自殺まで始めやがって。気に食わねえ」


 グリングリンは銀色の眼光を鋭く女へと向けた
 白衣女は唐突に現れたこの長身ピエロに気圧されていた


「放火チームのことですか? あれは“自己終了処理”も含めてジョーからの直接指示ですよ」
「それも気に食わねえ、一遍ジョーと話させろ。ルーキーには繋がるだろ」


 グリングリンはピエロの肩を掴み脇へどけると女に構うことなく卓上の機材を乱雑に操作し始めた
 彼女とピエロは若干困惑気味に顔を見合わせた
 ヘッドセットを不適切に耳へ押し当てグリングリンはモニターの一つを睨む
 間もなくコネクション中のステータスから「Sound Only」のアイコンへと表示が変化した


『隊長、どうしました?』
「ルーキー、俺だ、グリングリンだ。ジョーと繋げ」
『えっ、グリングリン……? な、何か問題でも』
「いいからジョーと繋げ、問題も問題だ。あいつは何考えてんだ」
『しかし……、ジョーは既に“接続”を……』
「その状態でも放火の指示は出せたんだろ? 繋げ」
『えっ、あの……。しょっ、少々お待ちを』


 会話はヘッドセットだけでなく壁面据え付けのスピーカーからも響いていた
 そしてルーキーの焦った声色の後に音声は沈黙した


「“先生”、すいません! さっきの俺なんだわ。悪いって伝えといて!」


 突然の大きく響く声に白衣女の心臓は縮み上がった
 咄嗟に声の方向へ目を向ければ、「七尾」の問題児とその目付け役の少女だ
 グリングリンに悟られぬよう白衣女は何処かに通話中の問題児を黙らせるようジェスチャーを送るが
 肝心の少女がこちらを見ていない


「悪いって、さっきのは拾った携帯で間違えて掛けようとしただけだよぉ
 もち、任務はじゅんちょーじゅんちょー。悪いことは全然してないしぃ、俺ってばいい子だからあ
 だからぁ違うって、ほんとにぐうぜん拾った携帯なんだって。盗んでないし、襲ってもいないよお! うん、まだな。まだ」


 神経を逆撫でするような問題児の声質に白衣女は気を揉んだが
 グリングリンは問題児へと一瞥をくれるに留まった


『グリングリン、駄目です。ジョーの応答が無い』
「ふっざけんな、“接続”中だろうが知」
《  何事だ  》


 暫くあって返ってきたルーキーの応答、苛立ちを隠しすらしないグリングリンの返事
 そして、別の音声が介入したとき、白衣女は突如として恐怖を覚えた

 老人じみたその声は彼ら「ピエロ」の親玉のものだ
 スピーカーからの音声は若干ノイズ掛かってはいるが、明瞭に聞き取れる
 ただそれだけなのに、何故こうも背筋を撫でつけるような薄気味の悪さを帯びているのか?
 そもそもだ、この声はスピーカーから発されたものなのか? 自身の内側から響く錯覚に囚われなかったか?


「……出れるじゃねえか」
《  “接続”そのものは済んだ 今や俺自身が通信だ グリン 何用だ  》
「何用もクソも……、放火はお前の指示か、どういう魂胆だオイ」


 回線に割って入ったジョーにグリングリンも鼻白んだ様子だったが
 苛立ちを取り戻したかのようにマイクに向かって凄み出した


「完全に『組織』の注意が向いたぞ、東区の放火でな
 結構な数のピエロが削られてやがる
 おまけに『通り悪魔』と『淫魔』が忌々しいクソ垂らしやがった
 それだけじゃねえ、傭兵共の一部が『組織』の連中と派手に殺り合ってる!
 大半の屑共ならともかく、穏健派が本格的に動き出したらどうする積りだ!?
 一ケタが出張ってきたらヤバいぐらい不利になるぞ!!」

《  そのための「先生方」だ 「一ツ眼」の動きも把握している  
   放火は必要な措置だ “サーカス”と同じく陽動の一部と考えろ  》

「こんなに早くか!? 前倒ししたのか!?」

《  そうではない だが 当初の計画を変更せざるを得なくなった  》


 二人のやり取りを白衣女と傍のピエロは見守るより外ない


《  俺は今「中心」に接続している 「門」が休眠状態にあるのも確認済みだ  
   「門」を開くには当初の通り生贄が必要だ 封印は汚染されなくてはならない  
   プロトコルに従い生贄を潰したが 「門」は覚醒の兆候を見せなかった 「教授」の想定に無かった問題だ  》

「アクティベートに失敗したってワケか」

《  「門」は無垢なる者の生贄を欲している 要するに血が足りない 我々はそう考えた  
   事態の解析には「教授」の助力が要る これを「組織」に気付かれるわけにはいかん  
   結果を焦り護りが疎かになれば 我々のビズは全て徒労に終わる そのための陽動だ  
   現時点では 既に「教授」の解析は済んだ  ピエロ達には撤退 もしくは自害を命令している  
   ともあれ 「教授」の解析過程で 問題は血の量では無いことが判明した  
   どうやら封印の解錠には 生贄の条件が設定されているようだ これが最大のイシューだ  
   我々では到底対処できる規模のものではない これ以降の仕事は「教授」に任せることにした  》

「ようやく話が見えてきたぜ。でもよ、元々『門』云々は『教授』の問題だろ?
 俺らのビズはあくまで『門』の確認まで、後は知ったこっちゃ無えって取り決めの筈だ
 ああクソッ……。で、どうなんだよ。もう一つの大問題は。俺らにはそっちのが最重要だろ」

《  無論よ 莫大な報酬が掛かってるからな  
   そちらに関して大きな変更はない 手筈が済み次第「行動」を開始する  》

「それでどうすんだ。もう24時回ってるが、今からド派手にやんのか?」

《  話を急ぐな 続きがある 夕方頃に「狐」が動いたという報告があった  》

「ああ゛!? おいおいおい、なら今直ぐやんなきゃ駄目だろうが!!」

《  だが 奴が動いたにしては 観測の網に一切の反応が無い  
   「中心」も 沈黙を守ったままだ 「先生方」からにも確認を要請したが  
   「狐」の活動を確認できたという 追加報告はまだ上がっていない  》

「あ゛、どっちなんだよ。ガセか?」

《  「先生方」の確認が済んだ後でも 「サーカス」は遅くない  
   だが 知っての通り 「組織」はこちらの動きをある程度察知している  
   既に 陽動の中で 全知の観測者が迎撃に向かったという情報も入っている  
   在野の契約者の中にも 多少骨のある者が頭を回しているようだ  
   この状況で 「狐」の出方を窺うあまり チャンスをみすみす逃すわけにいかん  》


 ジョーは一旦言葉を区切った
 モニター上の「Sound Only」のアイコンを、グリングリンに加え白衣女とピエロが凝視する


《  状況判断の結果だ  本日 日没前に 「サーカス」を決行する  》

「ヘッ、散々引っ張りやがって! 全部『組織』に潰されなきゃいいがな!」


 グリングリンの言葉に、先程までの苛立ちとは異なるある種の興奮が滲んだ
 彼とて今更「組織」の一桁ナンバーを恐れているわけではない
 折角の「サーカス」を丸潰しにされないか、そこだけがグリングリンにとっての問題なのだ


《  その点は問題ない 「先生方」にも更なる切り札はある
   「教授」の側にも隠し玉があるという話だが これはお楽しみだな  
   「組織」幹部の動きは気にするな いずれにせよ お前はサイドビズにでも集中していればいい  》

「そうもいかねえだろ、不死身のジョーさんよ
 『信念の無えビズは容易にクソ以下に成り下がる』
 これ、誰の言葉だったか忘れちまったってか? あ?」

《  お前がそれを言うようになるとは いよいよ今日は血の雨でも降るかな  》

「降らしてやんだよ、学校町によ! 売れる喧嘩は売っとかねえとな、こっちにもプライドがあんだろ? なあ」

《  そっちの仕込みは任せたぞ  》


 話は終わった
 グリングリンはヘッドセットを投げると、おもむろに白衣女へと向き直った


「ジョーは傭兵を高く買ってるらしいが」


 通信での会話とは違い、この場へやって来たときの低音で唸った
 白衣女と傍のピエロに緊張が走る
 グリングリンは白衣女に一瞥をくれ、件の問題児と少女の契約者へと剣呑な視線を向けた
 問題児は依然として携帯越しの相手と耳障りな声色で通話を続けている


「俺は全ッ然信用してねえ。『教授』の義理だから言いたかねえがよ
 今夜は『先生方』が結構暴れたみたいじゃねえか、あれも適切な行動だったんだよな?
 そうであってほしいもんだ。おい隊長、後は任せたぜ。全『ピエロ』に『サーカス』は本日の日没前と伝えろ」

「はっ、はい! 了解です!」


 隊長と呼ばれた、白衣女の傍にいるピエロは慌てたように姿勢を正す
 グリングリンは大仰に首を振って骨を鳴らした


「ブギー! スカル!」
「「ここに」」


 白衣女の目には突如として新手のピエロが現れた、少なくともそう見えた
 グリングリンの両脇には、最初から存在したように二人のピエロが控えていた
 両名ともに仮面を装着した者達だ。各々白と黒、気味の悪いデザインの仮面である


「ジョーの言葉通りだ、まだ16時間ちょっとある。取り掛かるぞ」
「「仰せのままに」」


 グリングリンは二人のピエロを従えてその場を後にした
 最後に一度、白衣女に双眸を向けた


「“スプリンクラー”の最終調整に入る」










 その場から立ち去るグリングリン達を胡乱な目つきで追いつつ
 問題児の契約者は端末の通話を切り上げた

 彼は「七尾」出身の契約者、そして問題児
 少なくとも一部外野からはそう呼ばれている

 数時間ほど前に南区で女子生徒二名を襲撃し
 ビル屋上に拉致した後で拷問と暴行を加えた挙句
 内一名の容姿に「変身」して制服を奪い彼女の実家を襲撃
 母親をゆっくり捕食する段となったところで「組織」黒服の介入を許し
 しかし女子計三名の黒服を牽制しつつ余裕の離脱を決めて此処へ戻って来た者こそ
 この契約者、「七尾」ANクラス出身で「けものへん」所属、閏猾二である

 彼はまだなお襲った女子の容姿を保持し続けていた
 無論女子の制服も着用したままである


「はぁー、あの様子じゃ“先生”も気付いてないっぽいな。まじチョロ」


 閏は言い切らぬ間に、定時連絡のために使用した彼本来の地声から
 「変身」によって得られた女子生徒の声へと戻した


「あの子の携帯で掛けようとするなんて、かぁクンっぽいうっかりだよね」
「褒めんなって照れんだろぉ。まあいいや“先生”も許してくれたし」
「でもかぁクン、なんで女の子の格好続けてるの? ちょっと複雑な気分だよ?」
「そりゃ明日のためよ、まずはテキトーに男モンの制服手に入れないとだしな」


 そのためには、そう彼は少女声のまま続けた
 定時連絡の直前まで弄っていた携帯を再び取り出す
 これは女子生徒から制服を奪った際についてきたオマケだ
 携帯の生体認証などは「変身」能力でどうにでもなるので楽勝である


「檻に囲われた家畜って何やって無駄に生きてんのかある程度掴んどかないと」
「ふぅん、でもあの子の携帯の中身なんかより私の中身を見てほしいなあ」
「気が向いたらな」


 閏はソファにだらしなく身を沈め、詰まらなさそうに携帯を弄んでいる
 傍らの少女はそんな問題児の肩に頭を預けて半ば抱き着く格好だ

 余談だが、このとき遠巻きに彼らを凝視していた白衣女はその光景に絶句していた
 元々少女、稲尾まひるは「七尾」の問題児を監視するべく彼の担当となった契約者だ
 しかしその実、彼女は完全に篭絡されていた。こうとなっては閏のストッパーとして全く役に立たない

 そんな白衣女の胸中を知ってか知らずか
 閏は心底どうでもよさそうな雰囲気で言葉を続けた


「『ピエロ』の皆さんも大変なんすねえ、俺らは関係ねえけど」

「パートナーなんだから仲良くしないとだよかぁクン」

「まっ仕事だし文句言わないけどさぁ
 こっちは明日の一仕事をクリアすれば全部オッケーだし」


 女子携帯の物色に飽きたのか、閏は簡易テーブルに携帯を放った
 代わりにテーブルに置かれていたタブレット型の端末を手繰り寄せる


「そーいやマヒルは早渡脩寿の顔、知らないんだよな」
「早渡クンのことはかぁクンが全部やってたからね、どんな子なのかな?」
「特別に見せてやんよ、見事なゴミ面だぜ」


 話題が今回の任務のターゲットに及んで、閏の声色が俄かに活気づいた
 軽快なタップ操作によって画像データが表示される
 遠景から撮影されたと思しき学生の静止画だった
 写っている男子が着ているのは学校町南区の商業高校の制服だ
 丁度、閏が現在着用している女子制服と同じ高校のものである


「こいつが早渡脩寿、ANクラスで扱かれたとはいえ能力的には大したことない」
「でも任務的には結構重要っぽいんでしょ、この子」
「佳川の“計画”に必要な駒なんだってさ」


 閏は爪先で執拗にタブレット表面を叩いた
 彼が早渡脩寿というターゲットに執着していることは稲尾まひるも把握している


「ここ数週間、こいつの動きを観察してた
 なんで学校町に来たのは知らねえけど、相変わらずクソみたいな性格してるよ
 懇ろでもないのに身の程知らずもいいとこ、女に付きまといやがってるだけのゴミ屑が」

「かぁクンはどうしたいの? 殺しちゃう?」

「バァカ、生きててこその利用価値だろ
 まぁ個人的には直ぐにでもぶっ殺しときたいゴミだけどさ
 てかそもそもこいつは初等部6年の頭で死んでなきゃおかしい筈だったんだよ
 余計なことした馬鹿が絶対いるんだよなあ」


 そう口にする閏の両眼に剣呑な光が宿る
 それは彼の内側で膨れ上がる憎悪と共振していた

 閏が“先生”から受けた命令は「早渡の生存確認」だ
 これは佳川有佳の意向を受けた任務でもある
 閏は学校町到着から程なくして早渡の存在を突き止めていた
 だがまだ“先生”には未報告、その点は稲尾も理解していた


「生存確認オッケー、でもそれじゃ足りねえんだよ
 早渡脩寿の“サンプル”まで回収しないことには片手落ちってやつだからな」

「“サンプル”?」

「これだよ、おら」


 閏は制服の内側から取り出したそれを無造作に稲尾へ押し付けた
 バイオハザード(生物災害)とへクスハザード(呪詛災害)のシンボルが記された透明袋だ
 中には炭化したかのような黒い棒状の破片が収容されている
 稲尾は閏から袋を受け取り、袋越しに破片の硬い感触を確かめた
 閏はついでにタブレットも稲尾に押し付け、彼女に持たせた


「まじチョロ、ってわけには行かなかったけどさ、いちお回収には成功した
 でもこれじゃ足りねえんだよなあ、これだけじゃあ俺が満足できねえんだよ」


 閏は間延びした声色だが先程よりも興奮が昂ぶりつつあることに稲尾も気付いている
 彼は稲尾の背中から手を回して彼女を抱き寄せるとその胸を揉みしだき始めた
 稲尾もそれに合わせて肢体をくねらせ閏により密着する


「あいつの“血”が要る。“先生”もそれが狙いなんだよなあ
 佳川は絶対に欲しがるだろうし交渉のカードとしちゃSSレアでしょ、マジで
 古い奴なら俺も持ってるけど、今現時点の早渡脩寿の血液ってところが大事なわけ」


 空いたもう一方の手を咥え、指先を噛み潰した
 痛みと己の骨が砕ける感覚とが内なる獣性を刺激する


「まっ前提としてはそうなんだけどさ、その上で?
 俺としてはあのゴミ野郎を徹底的に痛めつけないと気が済まないんだよなあ
 あいつは自分がゴミだと思い知らなくちゃいけない、生きてちゃ駄目な奴なんだよ
 呑気に学生ごっこやって、女に付きまとって。あのカスは一体何様の積りなんだろうなあ」

「ふぅん、そんなに嫌いなんだ。早渡クンのこと」

「嫌いっていうより? ゴミが人間のフリして振舞ってるのが駄目だろって話?
 とにかくこいつを殺って血を抜き取る
 殺しちゃアウトだけど別に捥ぐなとは言われてないし、ダルマにするくらい余裕だろ」

「あー、かぁクン悪ぅい♥ いまのかぁクンすっごい悪い顔してるぅ♥♥」


 きゅうと悪意の滲んだ笑顔を浮かべる稲尾の横で
 閏はバキバキと音を立てて己の指を骨ごと噛み砕いていた
 足りない、全然足りない、早渡脩寿の味わう痛みは俺以上のものでなければ


「あいつはゴミで低脳の屑だけど家畜じゃない
 普通のやり方じゃ警戒されるから、“餌”が必要なわけ
 おびき寄せるために、マヒルにも分かるよねえ?」

「何匹か候補がいるんでしょ、大丈夫♥ ちゃんと理解してるよ♥」


 相方から放たれる憎悪と獣じみた悪意こそ稲尾を魅了してやまないものだ
 両手の塞がった閏に代わって彼女がタブレットを操作した
 何名かの女子の静止画をスライドする


「まずこの神経質そうな眼鏡と早渡脩寿が鼻伸ばしてたこの巨乳女は駄目だ
 学校町の契約者で、ANは知らんけど結構動ける
 俺が本気出せば幾らでも嬲れるけど作戦的にリスクなんだよなあ
 というわけで第一候補は今んとこ、――そっちの子」


 閏は顎でしゃくって稲尾の画像スライドを停めさせた
 表示された制服女子の静止画に、稲尾の眼が僅かに細まる
 セーラー冬服を着た少女が、友人と連れ立って気の弱そうな微笑みを浮かべている
 この町の東区にある高校の制服だった


「とおくらせとちゃん、早渡脩寿がせとちゃんせとちゃん言ってっから名前覚えちゃったよ
 契約者じゃないのは確実。トロそうだけど意外と脚速いよこの子
 あと勘が良いのかお友達の入れ知恵か、野良のANを避けて動いてる
 理想なのは人目の少ない所に連れ込んでから両脚をへし折って持ち運ぶってとこだけど
 上手くいくかちょっと心配だなあ、でも早渡脩寿が結構入れ込んでるみたいだしなあ」


 稲尾が遠倉千十の画像に冷酷な眼差しを向けることなど知らず
 閏は噛み砕いた指先で犬歯を何度も撫で付けている


「やっぱこの子の血が欲しいなあ、犯しながら食ったら最ッ高に美味そう
 俺がせとちゃんに成り代わって早渡脩寿を騎乗位で舐めプする予定だったけど
 どうしよっかなあ、ゴミ野郎をダルマにしてから目の前でせとちゃんレイプしても楽しそうだし」

「ふぅんふぅん、私の前でそんなこと言っちゃうんだあ、不貞腐れるよ?」

「なんだよマヒルたん、嫉妬してんの? 醜いなあ」


 稲尾が拗ねたときどうすれば良いのかを閏は熟知している
 彼女の首筋に血塗れの舌を這わせ、筋に沿って舐め上げた
 嫌がる素振りを見せるがただのフリだ、彼女はこうされるのが好きなのだ


「それで♥ かぁクンッ♥ この子は、どうするのッ♥」


 照れ隠しのように稲尾はタブレットを更にスライドした
 彼女が閏に見せたのはこの町で最も大きい中学の制服を着た女子の画像だ


「ああ、いよっち先輩ね。早渡脩寿がそう呼んでるガキんちょ
 第二候補だったんだけどちょっと難しいかもな
 この子も面白そうなんだけど、まずどういうわけか人間辞めちゃってる
 早渡脩寿も結構この子に執着してるっぽいから使えると思ったんだけど
 集めた情報でも行動パターンがはっきりしないから厳しいんだよなあ」

「じゃあ狙いは♥ やっぱりせとちゃんなんだねっ♥ んっ、かぁクンくすぐったいよお♥♥」


 稲尾はタブレットをテーブルへ放ると閏の肩に腕を回した
 彼は今、稲尾の首付け根を丹念に舐めている
 彼女はそんな相方の頭を優しく包んだ


「ねえかぁクン、せとちゃん使い終わったら私の好きにしていい?」

「いいよお」

「本当にいい? 壊してもいい?」

「いいよお」

「ありがとう♥」


 稲尾は嬉しそうに閏の頭を自分の首に抱き寄せ、薄く微笑んだ


「かぁクン大好き♥♥」










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