甘い、甘い
甘ったるい匂いが、辺りに充満している
甘ったるい匂いが、辺りに充満している
胸糞悪い匂いだ
繰は、そう感じた
以前、ディランが女郎蜘蛛に襲われて能力を暴走させた時にまき散らした匂いとは、似ているようで違う
酷く、不快な気分に感じる甘さをまき散らす匂い
繰は、そう感じた
以前、ディランが女郎蜘蛛に襲われて能力を暴走させた時にまき散らした匂いとは、似ているようで違う
酷く、不快な気分に感じる甘さをまき散らす匂い
思考を苛立たせる、その匂い
そして
目の前にいる、黒服の姿
そして
目の前にいる、黒服の姿
その、様子は
以前、自分を担当していた黒服の
あの、最期を思い出させて
以前、自分を担当していた黒服の
あの、最期を思い出させて
もし
あの黒服も、また
以前の黒服と同じ状態、ならば
あの黒服も、また
以前の黒服と同じ状態、ならば
せめて
自分の手で、葬ろう
自分の手で、葬ろう
そう考え、とっさに能力を発動しようとした繰
しかし
それよりも先に、彼女の体が、宙に浮く
それが、ディランに背後から抱きしめられ、ディランがその状態で飛んだのだ、と理解した瞬間………頬が赤く染まり、一旦、思考が停止する
が、直後、もっと重大な事実に気付く
そもそも、自分達が地上を歩いていたのは、敵の襲撃を受けて、ディランの翼が傷ついたからだ
当然、その傷はまだ癒えてない
そんな状態で飛んだらっ!?
それよりも先に、彼女の体が、宙に浮く
それが、ディランに背後から抱きしめられ、ディランがその状態で飛んだのだ、と理解した瞬間………頬が赤く染まり、一旦、思考が停止する
が、直後、もっと重大な事実に気付く
そもそも、自分達が地上を歩いていたのは、敵の襲撃を受けて、ディランの翼が傷ついたからだ
当然、その傷はまだ癒えてない
そんな状態で飛んだらっ!?
「……っ」
「先生っ!?」
「先生っ!?」
やはり、無理があったのだろうか
さほど高くも、長時間も飛べなかった
やや後方へと跳びのいた程度
それでも、相手との距離はとれた
さほど高くも、長時間も飛べなかった
やや後方へと跳びのいた程度
それでも、相手との距離はとれた
考える時間が、会話する時間は、できる
「繰ちゃん、あの人達は、みんな、操られているだけだから……できれば、その状態を、解除してあげたいんだ」
「操られている…」
「操られている…」
そうだ
そういえば、彼はそう言っていたではないか
そういえば、彼はそう言っていたではないか
……それじゃあ
「…あの、黒服も?」
恐る恐る…操られているのだと言う、自分の担当の黒服…A-No.18782を、繰は指差した
まるで人形のような無表情で、こちらに近づこうとしている黒服
能力を展開している訳では、ないようだ
もっとも、油断はできないが
まるで人形のような無表情で、こちらに近づこうとしている黒服
能力を展開している訳では、ないようだ
もっとも、油断はできないが
「そう、だから…………殺す必要は、ないよ」
「………ぁ」
「………ぁ」
殺さなくてもいい?
壊さなくともいい?
壊さなくともいい?
また
あの時のような思いを、しなくても、いい?
あの時のような思いを、しなくても、いい?
ディランがかけてくれた言葉
それは、以前と同じ覚悟を背負おうとした繰の心を、ほんの少し、慰めてくれた
それは、以前と同じ覚悟を背負おうとした繰の心を、ほんの少し、慰めてくれた
あぁ
自分は、また、自分に親しい存在を壊さずにすむのか、と
自分は、また、自分に親しい存在を壊さずにすむのか、と
それは、些細な事だったかもしれない
しかし、繰にとっては、何よりも大きな救いだったかもしれない
しかし、繰にとっては、何よりも大きな救いだったかもしれない
「……あら、そんな事を言っていいの?」
…繰の思考を邪魔するように、かけられた声
見れば、女がクスクスと笑っていた
どこか、見下したような視線
見れば、女がクスクスと笑っていた
どこか、見下したような視線
…繰を見ているのではない
視線の先に居るのは、ディラン
視線の先に居るのは、ディラン
「そんな事を言ってもいいのかしら?私の魅了を、あなたがごときが解除できると?ねぇ、最初期に生まれた、出来損ないの淫魔の癖に」
言っている言葉の後半は、意味はよくわからない
ただ、はっきりとわかるのは
彼女が、ディランを侮辱していると言う、その事実
ただ、はっきりとわかるのは
彼女が、ディランを侮辱していると言う、その事実
「…あぁ、貴方がサキュバスとしての力を使えば、貴方の魅了の力が上書きする形で、解除できるでしょうね?もっとも………出来損ないで、サキュバスの力が制御できない貴方じゃあ、この駒達の心を、完全に壊してしまうでしょうけれど」
「………、」
「………、」
女の言葉に、ディランが小さく、体を硬直させたのが伝わってきた
かすかに、何かに恐怖しているような、そんな印象
かすかに、何かに恐怖しているような、そんな印象
あの女が言っている内容はよくわからない
……お世辞にも頭が良いとは言えず、また、都市伝説と呼ばれる存在…人外の存在の知識にも疎い繰には、余計にわからなかった
……お世辞にも頭が良いとは言えず、また、都市伝説と呼ばれる存在…人外の存在の知識にも疎い繰には、余計にわからなかった
だが
女が、ディランを侮辱したことと
女が、ディランを恐怖させている事だけは、わかって
女が、ディランを侮辱したことと
女が、ディランを恐怖させている事だけは、わかって
「私の魅了で操れぬ男などいないっ!この街の男全員を、貴方は相手にできるかしら!?」
ついでに言うと
自分が、あの女にとって完全に眼中にない事実にも、気づき
自分が、あの女にとって完全に眼中にない事実にも、気づき
様々な怒りを、全て、まとめ上げて
繰は、女に向って怒鳴りつけた
繰は、女に向って怒鳴りつけた
「何よ、さっきから訳わかんない事言って、先生を虐めてっ!!すべての男を操れるって言うんなら、先生相手はどうなのよっ!!」
繰は、気づいていない
「あ、繰ちゃ……」
「先生だって、男なのよ!その先生を操れないって言うんだったら、あんたの能力なんて、大したことないじゃないっ!!」
「先生だって、男なのよ!その先生を操れないって言うんだったら、あんたの能力なんて、大したことないじゃないっ!!」
繰は、ちっとも気づいていない
自分が、大地雷を踏んだ事実に
自分が、大地雷を踏んだ事実に
まぁ、確かにディランは男である
その人格の性別は、どちらかと言えば一応は男性である
が、彼は淫魔
インキュバスにしてサキュバス、サキュバスにしてインキュバス
すなわち、男にして女、女にして男
淫魔で、なおかつ両性である存在
………魅了が効くがずがない
たとえ、どちらか一方にしかなれぬ淫魔とて、魅了系統の力に対しては耐性を持っているのだし
その人格の性別は、どちらかと言えば一応は男性である
が、彼は淫魔
インキュバスにしてサキュバス、サキュバスにしてインキュバス
すなわち、男にして女、女にして男
淫魔で、なおかつ両性である存在
………魅了が効くがずがない
たとえ、どちらか一方にしかなれぬ淫魔とて、魅了系統の力に対しては耐性を持っているのだし
その事実を知らない繰にとって、それは怒りをありったけ込めたものではあるものの、大した罵倒ではなかったかもしれない
ただ
女………ゲルトラウデにとっては
リリスの端くれである、彼女にとっては
女………ゲルトラウデにとっては
リリスの端くれである、彼女にとっては
そして
自分が、ディランより劣っていると等考えたくもない、プライドの高い彼女にとって
自分が、ディランより劣っていると等考えたくもない、プライドの高い彼女にとって
繰の叫びは、完全なる、地雷
「………ふ、ふふふ………」
ゲルトラウデは、ぷるぷると肩を震わせた
その顔に浮かぶのは、憎悪がたっぷり混じった、美しさすら掻き消えるほどの醜い表情
その顔に浮かぶのは、憎悪がたっぷり混じった、美しさすら掻き消えるほどの醜い表情
まさしく、悪魔の如き表情
夜の女王リリスの美しい表情ではなく
悪魔の女王の、醜い表情
夜の女王リリスの美しい表情ではなく
悪魔の女王の、醜い表情
「ーーーーーーーそっちの餓鬼から、八つ裂きにしなさいっ!!」
ゲルトラウデは、憤怒の感情に任せるままに
繰を指差し、そう、高らかに命令を下したのだった
繰を指差し、そう、高らかに命令を下したのだった
to be … ?