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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 三面鏡の少女-87

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Elfriede

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三面鏡の少女 87


「おかーさーん、百華ちゃんが泣いてるー」
「おむつ確認してあげてー。そうでなかったらお腹空いてるんだと思うからちょっと待ってねー」
「うわ、いっぱいしてたー!」
「佳奈美、替えてあげれるー? 無理そうならお母さんがやるから、転げ回らないように見ててねー」
「はーぃ……にゃー!?」
「あらあら、そんな調子じゃダメよ、佳奈美。あなたもすぐにお母さんになるんだから」
「まだだよ!? 宏也さんとは卒業するまでそういう事しないんだからね!?」
「それじゃあ3月に卒業式で、新年には初孫ね♪」
「それ早いよ!? 色々早いよおかーさん!?」
「あら、宏也くんもずっと我慢させたままなんでしょう? だったらすぐよ、きっと」
「生々しいよおかーさん!? それより百華ちゃんのおむつー!」
「しょうがないわねー、ここはお母さんに任せて。あなたは手を洗っていらっしゃい」
「うにゃー……」

 どたばたと慌ただしい逢瀬家の2011年10月28日は、ただただ平々凡々に過ぎていく
 その裏で
 破壊と殺戮のために
 人型をした獣の群れが町を駆け回る
 統制も秩序も無いその動きは、人類を、文明を蹂躙し全てを滅ぼそうとするもの
 だが、この一角だけは
 間違いなく意思か目的を感じさせるように、獣の群れは殺意と破壊衝動を一点に向けていた
 逢瀬佳奈美という少女、ただ一人に

―――

「ここから先は通行止めだ! 一歩たりとも進むんじゃない!」

 黄金色に輝く光の壁に捕らわれて、まともに動く事もできず唸り声を上げるジャガー人間の一団
 だが塀を、屋根を、仲間の背を踏み台に、数と速さを武器に駆け回る相手には、言葉を使い一手遅くなる星の能力は分が悪かった
 突破を目的としていたかのような集団の中から、鋭い爪をぎらつかせた一体が星の背中目掛けて飛び掛った
 が、その身体がアスファルトを突き破り生えてきた樹木の枝に絡め取られ、あっという間に拘束される

「油断してはいけません!」
「悪ぃ、助かった」

 見れば、既に数匹のジャガー人間が樹木に取り込まれており、その姿はさながらバイオベースといった有様だ
 とん、と星の背中に背中を合わせ
 ニーナは首から下げた十字架に祈りを捧げる

「主よ、大切な人を守る力を。私だけではない、万人の大切な人を守る力を、どうか」

 磔刑の十字架の材料となった事を嘆き悲しみ、細く折れ曲がった幹となったドッグウッドの木
 本来のその姿は大きく、そして強固であった

「はは、こりゃ後始末が大変そうだ」
「後の事より、今の事デス!」
「確かにそりゃそうだ!」

 そう言って星は、ドッグウッドの幹にそっと手を触れる

「ニーナの祈りを、より強く、より確かなものに!」
「聖人が咎を引き受け守りたもうた子羊を、今一度守りたまえ!」

 優しい黄金色の輝きに満ちたドッグウッドの木は、幹を伸ばし枝葉を伸ばし、星の力を広く遠くへと伝えていく
 ドッグウッドの木が押さえ付けていたかのように、黄金色の光がジャガー人間に絡みつきその動きを止め
 異文化の、異教の存在であるにも関らず、浄化されるように黄金色の光と同化して天に昇り散り消える

「真っ直ぐな心ってのは本当に強いな。俺も見習わなきゃ」

 そう呟いた星の姿は、普段より僅かに幼く見えた
 内包した力を消費し続け、本来の小学生である姿に戻り始めているのである

―――

 一抱えほどもある、糸をねじり合わせて作ったような巨大な拳
 繰の髪の毛による一撃は、ジャガー人間の顔面を容易にひしゃげさせ、アスファルトに叩きつけて粉砕した
 伸ばし、捻り、織り合わせ、更に伸ばし、いくつもの巨大な拳を振るう繰

「後ろにまだ控えがいるとはいえ……一匹たりとも逃がすつもりは無いんだから!」

 髪の毛の拳で地面を打ち、電柱を掴み、屋根を駆け、迫り来る獣の群れを次々と捻り潰していく
 それでも数と速度で攻め立てられ、その目的が繰ではなくその場の突破である以上、どうしても討ち漏らしが多くなる
 苛立ちと焦りが募る中、パーカーのフードに収まっていた菊花がぺしぺしと首筋を叩く
 即座に身を捻る繰だが、既に眼前まで迫っていた鋭い爪が、繰の髪の生え際を掠めて斬り裂いた
 本体から切り離され、力を失い元の長さに戻った髪が、風に吹かれてはらりと宙を舞う

「あっぶな……脳天抉りにきたわね、このクソ猫」

 ばっさりと切り落とされた髪を撫でながら、繰はぎりと歯を食い縛る
 髪自体は僅かにでも残っていれば自由に伸ばせるので、戦闘には問題は無い
 ただ、突破を目的としながらも時折こうして仕掛けてくる相手がいるという現実は、繰の攻め手をどうしても鈍らせる

「ったく……前の担当もそうだったけど、怪我をして心配される相手がいると……どうもね」

 脳裏に浮かぶのは、いつも不安そうにあたふたとしているディランの顔

「こんな事してるのを知ったら、佳奈美なんか泣きそうよね。まあ教えないけど」

 髪を切り飛ばし一撃離脱で逃れようとしたジャガー人間を、即座に髪の腕を伸ばして掴み、絞る
 ぶちぶち、ごきりと千切れ砕ける音が、髪の毛越しに頭骨に響く

「なるたけ数を減らすから、あとは一匹たりとも討ち損じるんじゃないわよ」

―――

「まあ、数が少なければ心配無用ではありますが」

 逢瀬家の屋根の上に座り込み、蒼白く燃え盛る鬼火に囲まれたA-No.18782が不安げに唸る

「あれ全部来たら、沈む仲間を踏み台にして無理矢理突破されちゃいますねぇ……くわばらくわばら」

 A-No.18782の『ウィル・オー・ウィスプ』は、鬼火を見てそちらへと進むものを沼化した地面に沈ませる
 逢瀬家の屋根の丁度真ん中で能力を発動させた現状、逢瀬家に向かうジャガー人間は必然的にそれを視界に捉え沼に沈んでいく事となる

「まさか実戦で、最終防衛ラインに使われるとは……私、保身のため以外に使うつもりゼロだったんですけどね」

 町のあちこちで戦闘に駆り出されている黒服達がいる手前
 何故か標的にされた少女、それも『組織』所属の契約者がいる以上、防衛に適した能力を揮わないわけにはいかなかった

「勘弁してほしいですよ、私はデスクワーク派なんですから」

 ジャガー人間が一匹、また一匹と防衛ラインを突破してくる様子に、A-No.18782は溜息を漏らす
 ずぶりずぶりと、沼のように液状化したアスファルトに沈んでいくジャガー人間を眺めながら
 それが沈み切るまで新手が来ない事を、ただ祈る

「しっかし……そんなに重要人物とか、そういうもんじゃないはずなんですけどね、逢瀬さん。『鮫島事件』のアレで危険視でもされてるんですかね?」

―――

「毎度の事ながら……あいつは何でこう、色々狙われるんだ」

 やや呆れ顔で溜息を漏らしながら、宏也はサングラス越しにジャガー人間達を睨みつける

「その辺、何か知らないかお前ら」

 だが宏也の問いに人語の答えは返ってこない
 唸り声と咆哮を吐きながら、ジャガー人間達は宏也を避けて散開し

「おいおい、もうちょっと落ち着いて話ぐらい聞いていけよ」

 獣の俊足で駆け抜けようとしたジャガー人間が、そのままの勢いで空中で細切れとなり、ばらばらと血煙と共に撒き散らされた

「慌てる奴ぁ……長生きできねぇぞ? まあ佳奈美を狙っている以上、慌てなくても長生きさせるつもりは無いがな」

 誰も語らず、誰も知る事は無かったが

 一部のジャガー人間が『偶然』に都市伝説や契約者よりも、一般人の女子供とより多く出会っていた事を
 殺戮の上に嗜虐を乗せて味わう切っ掛けをより多く与えられていた事を
 それに引き摺られるように足並みを揃えるジャガー人間が多かった事を

 たまたま都市伝説や契約者の足が向かなかった場所に
 たまたま都市伝説を認識しやすい一般人が踏み込んでしまった場所に
 たまたまジャガー人間達の足が向けられていた事を

 それは、始まりは一枚の枯れ葉だったり
 一つのひしゃげた空き缶だったり
 路上に転がる小さな石ころだったり
 小さな小さな一匹の虫だったり
 一迅のそよ風だったり
 ほんの僅かないらつきだったり
 ほんの少しの悲しみだったり
 そういったものが積み重なって、ドミノ倒しのように訪れた結果の一つ

―――

「さて、と」

 あちこちで戦端が開かれている様子を、マンションのベランダから眺めながら
 羽鳥はペットボトルのお茶を手に、楽しそうに笑っていた

「ご機嫌だね、羽鳥」

 羽鳥の後ろ、リビングのソファに座った『友達』も、つられたように楽しそうに微笑む

「ああ、ご機嫌だとも、僕の『友達』」

 人間と都市伝説を引き合わせる『友達』と、本当の意味で友達である男は、視線を町から逸らさずに囁く

「まだ地球も人類も滅びないだろうけどね。個々の人間という世界は、いくつも滅びていくんだ。その為にたくさんのドミノ牌を並べてきたんだしね」
「原稿もいっぱい書いたしね」
「そりゃ勿論。1999年のアレは本当に羨ましかったからね。僕も色んなところに寄稿して、今日という日を世に知らしめるために頑張ったんだから」

 頑張って夏休みの宿題を終わらせた小学生のように、屈託のない笑顔で自慢するように語る羽鳥

「あれは色々派手だったからねぇ」

 その時、向かいのマンションの屋上から跳ね、葉鳥に迫るジャガー人間
 ちらりと視線を向けただけで、まるで気にした様子もない葉鳥に、『友達』はやれやれと肩を竦める

「ねえ、知ってる? 『ノストラダムスの大予言』って話」

 ソファに座っている『友達』が、ジャガー人間の耳元で囁いた
 次の瞬間、飛来した自動車ほどの大きさの隕石がジャガー人間に直撃して挽肉にすると、地面に落ちる前に消滅する

「終末思想好きだよね、人間って。聖書の頃からあるじゃない」
「世の中は不満を持った人間ばっかりだからね。世界を全部巻き込んで滅びたいって傍迷惑な思考は心の奥底に満ち満ちているのさ」
「年がら年中世も末だねぇ」
「そんな人達に滅亡論を知らしめれば、その力はきっと強くなる。まあそれでも未然に防がれるんだろうけど……それでも、何処かで誰かの世界を終わらせられる可能性は高くなる」
「君が終わらせたいのは、あの逢瀬佳奈美っていう娘の人生だけだろ?」
「それは心外だな」

 視線は外の騒乱に向けたまま

「逢瀬佳奈美は、一番食べたいとても美味しいデザートみたいなものさ。でもデザートを一品食べるだけじゃ、お腹一杯にはならないだろ?」

 楽しそうに
 とても楽しそうに
 待ちわびたデザートを口にできる事を待つ少年のように
 期待に満ちた顔で微笑んでいた


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