----体の震えを、振り払う
駄目だ、しっかりしろ
何度も、自分に言い聞かせる
駄目だ、しっかりしろ
何度も、自分に言い聞かせる
『そんなに悲しいなら、寂しいなら……そのマリアって女、生き返らせてやろうか?』
かつて、自分に向けられた問い
自分よりも大人の姿をしている癖に、自分よりも子供っぽい魔法使いが
あの時、真剣なまなざしを向けながら、問いかけてきた
自分よりも大人の姿をしている癖に、自分よりも子供っぽい魔法使いが
あの時、真剣なまなざしを向けながら、問いかけてきた
『俺様の万能の魔法があれば。その女を蘇らせる事もできる。お前がそれを望むなら、強く願うなら、それを可能にできる』
あの日に
同じ問いを、自分は向けられたのだ
同じ問いを、自分は向けられたのだ
『………どうする?選ぶのは、望むのは、カインだ』
その、向けられた問いに
自分、は
自分、は
カインの腕を掴んでいた悠司は、彼の震えが止まった事に気付いた
俯いていた顔を上げる
翡翠色の瞳は……強い、意思を灯しているように見えた
ただただ、まっすぐに……エイブラハムを、睨み付けている
俯いていた顔を上げる
翡翠色の瞳は……強い、意思を灯しているように見えた
ただただ、まっすぐに……エイブラハムを、睨み付けている
「…お断りします」
エイブラハムの問いに
カインは、そう答えた
カインは、そう答えた
カインのその答えに……カラミティのエイブラハムへの攻撃が、止まる
傷だらけのボロボロの状態から即時に再生し、エイブラハムは小さく首をかしげる
その顔には、人のいい笑みが浮かび続けていて…しかし、その笑顔の下に、どす黒い何かが流れているような気がして、悠司はぞっとする
己には到底理解できそうもない、深い深い邪悪が、仮面の下に隠れているような錯覚を覚える
その顔には、人のいい笑みが浮かび続けていて…しかし、その笑顔の下に、どす黒い何かが流れているような気がして、悠司はぞっとする
己には到底理解できそうもない、深い深い邪悪が、仮面の下に隠れているような錯覚を覚える
「何故です?……あなたは、姉の死を悲しんでいたでしょう?」
「…悲しいに、決まっています…………唯一の、肉親、でしたから」
「…悲しいに、決まっています…………唯一の、肉親、でしたから」
途切れ途切れに、カインは答えている
つらい感情を、押し殺しているように
それでも、それに押しつぶされまいと、必死にこらえているように
つらい感情を、押し殺しているように
それでも、それに押しつぶされまいと、必死にこらえているように
「死者は……安らかな眠りを、保障されなければならない」
ゆっくりと、カインは続ける
…悠司は、知らない
かつて、同じ答えを、カインがカラミティに答えた事に
…悠司は、知らない
かつて、同じ答えを、カインがカラミティに答えた事に
「生きている者の勝手な都合で、その安らかな眠りを妨げてはいけない……だから。姉さんを蘇らせることを、俺は望まない」
まっすぐに、まっすぐに
半ば、エイブラハムを睨み付けるようにしながら、そう答えたカイン
半ば、エイブラハムを睨み付けるようにしながら、そう答えたカイン
その、答えに
エイブラハムは、笑う
エイブラハムは、笑う
「安らかな……ですか。果たして、「飲まれた」人間に安らかな眠りなど保障されるのでしょうかね?」
自ら、その結果を招かせながら
それを棚の上にあげるように、エイブラハムはそう、カインに告げる
それを棚の上にあげるように、エイブラハムはそう、カインに告げる
「私の神の力をもってすれば……人ならざる存在に飲まれた者さえも、救って見せますよ」
「違う」
「違う」
続けられる、悪魔の誘惑に
カインは、屈しない
カインは、屈しない
それでも
わずか
ほんの、わずか
カインの体が再び震えだしたことに、悠司は気づいて
わずか
ほんの、わずか
カインの体が再び震えだしたことに、悠司は気づいて
……少しでも
ほんの少しでも、力になりたくて
震えるその手を、掴んだ
ほんの少しでも、震えるその体を、支えたくて
ほんの少しでも、力になりたくて
震えるその手を、掴んだ
ほんの少しでも、震えるその体を、支えたくて
悠司が、手を握ったのかきっかけだったのか
それに、背中を押されたように、カインはエイブラハムに、はっきりと告げた
それに、背中を押されたように、カインはエイブラハムに、はっきりと告げた
「-----あなたは、神ではないっ!」
どんな奇跡を起こそうとも
それは、神である証拠にはならない
それは、神である証拠にはならない
『奇跡はな、誰だって起こせるんだよ』
先ほど、目の前で自分の為に怒ってくれた親友が、かつてそう言っていた
『奇跡は魔法。魔法は奇跡。そして、魔法には代償があるように、奇跡にもまた、代償が生じる』
そう
代償なき奇跡はあり得ない
代償がないように見せかけても、必ず何かしらの代償があってこその、奇跡なのだ
代償なき奇跡はあり得ない
代償がないように見せかけても、必ず何かしらの代償があってこその、奇跡なのだ
親友が、かつて、姉を蘇らせようと言ってきた時の代償は………まぁ、あれは即座に親友を蹴り飛ばす結果になったふざけたものであったが
…エイブラハム司祭長が求めてくる代償は、さらに大きなものに思えた
…エイブラハム司祭長が求めてくる代償は、さらに大きなものに思えた
たとえ、代償を求めてこなかったとしても
自分は、それには答えない
自分は、それには答えない
姉は、飲まれた
自分が契約した「奇跡を起こすサントニーニョ」に
自分が契約した「奇跡を起こすサントニーニョ」に
ならば
自分は、その契約した存在を、否定しない
その中に、姉がいると言うのならば
その魂があると言うのならば
「奇跡を起こすサントニーニョ」と契約できた、奇跡
その代償が、姉の焼失だったと言うのならば
自分は、その契約した存在を、否定しない
その中に、姉がいると言うのならば
その魂があると言うのならば
「奇跡を起こすサントニーニョ」と契約できた、奇跡
その代償が、姉の焼失だったと言うのならば
-----死ぬまで、それと共に生きていこう
姉の力を借りていこう
そう、思うのだ
姉の力を借りていこう
そう、思うのだ
たとえ、それが自己満足であったとしても、だ
「…愚かな。家族を取り戻すチャンスを捨てるばかりか、神である私を否定するとは」
「貴方がどんな奇跡を起こそうが、周囲がどれだけあなたを持ち上げようが……俺は、貴方を神とは認めない」
「貴方がどんな奇跡を起こそうが、周囲がどれだけあなたを持ち上げようが……俺は、貴方を神とは認めない」
否定の言葉を打ち付ける
今、この人を認めてしまえば
今、この人を認めてしまえば
自分は、きっと
取り返しのつかない場所まで、落ちてしまう気がして
自分の為に消失してしまった姉を
否定してしまう、気がして
取り返しのつかない場所まで、落ちてしまう気がして
自分の為に消失してしまった姉を
否定してしまう、気がして
「貴方は、神なんかじゃない。俺は貴方が神であるとは、決して認めないっ!!」
強く、強く
そう、断言した
そう、断言した
to be … ?