喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
輪 ─りん─
ボクの名前は "輪 ─りん─"
ある日
マスターの仕事の手がおろそかになっていたことがあった
なんだか朝からずっとソワソワしていたから
何かと思って新聞を読みながらも観察していたんだけど
突然、ボクに向かって
マスターの仕事の手がおろそかになっていたことがあった
なんだか朝からずっとソワソワしていたから
何かと思って新聞を読みながらも観察していたんだけど
突然、ボクに向かって
「"りん"……名前、これでどうかな?」
どうやら、ずっとタイミングを計っていたらしい……
このヒトときたら……まったく
このヒトときたら……まったく
「輪廻転生の"輪"だよね?」
「ああ、駄目かな?」
「……"わ"は閉じていて抜け出せない気がして、少し……ね
ボク、今まで、ずっと、同じことの、繰り返しを、してきたからさ……」
「ああ、駄目かな?」
「……"わ"は閉じていて抜け出せない気がして、少し……ね
ボク、今まで、ずっと、同じことの、繰り返しを、してきたからさ……」
今まで経験したことを思うと、どうしても言葉が詰まる
「……そうか……でもな、輪にも色々あるんだ
例えばだな、自分の両手つなげて腕で輪をつくってみてくれ」
「こう?」
「そうだ、確かに独りでつくる輪は何だか寂しい気がするな」
例えばだな、自分の両手つなげて腕で輪をつくってみてくれ」
「こう?」
「そうだ、確かに独りでつくる輪は何だか寂しい気がするな」
そういいながら、カウンターから出てボクに歩み寄る
「だが、こういうのはどうだろう?」
マスターの大きい両手が、つないでいたボクの小さな両手をとると
「独りでつくる輪とは違う気がしないか?」
ふたりの腕で大きな輪がつくられている
……ボクは少し体が熱くなって、ふわっと宙に浮く様な気がした
「男と手をつなぐなんて、何だか暑苦しいよ」
両手を振りほどいて、元の椅子に戻って新聞をまた読み始め
その後はあまり会話をしなかった……
その後はあまり会話をしなかった……
次の日
マスターがまた、朝からソワソワしていた
マスターがまた、朝からソワソワしていた
「今日はタイミングを計る必要はないよ」
「……ええと、食後は何を飲もうか?……輪」
「ミルク、はちみつ抜きで」
「……ええと、食後は何を飲もうか?……輪」
「ミルク、はちみつ抜きで」
もう十分に甘みは足りている
飲み物くらいはさっぱりにしておこう、そう思った
飲み物くらいはさっぱりにしておこう、そう思った
ボクの名前は "輪 ─りん─"
マスターが付けてくれた名前だ
マスターが付けてくれた名前だ