喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
残されたモノ
葬儀が終わり、店に戻る
店内には黒服Dと輪の二人だけ
サチとカシマは外に出て待っている
店内には黒服Dと輪の二人だけ
サチとカシマは外に出て待っている
「お疲れ様でした……なかなか良い挨拶でしたよ」
「……」
「少しは落ち着きましたか?」
「……はい」
「では、お疲れのところ申し訳ありませんがマスターが君に残したものについて説明します」
「……よろしくお願いします」
「まず、この建物ですが……組織が借り受け昼は喫茶店、夜はバーとして利用します
皮肉にも……事実上"組織の拠点の一つ"となるワケですが……」
「そうですか……けれど……店は今のまま残して欲しいです」
「外観・内装ともに出来るだけ維持する様に努力しましょう」
「お願いします」
「このままここで暮らすのは危険ですので、少し離れた場所に部屋を用意してあります」
「ありがとうございます」
「もちろん、いつでもこの店に来て構いません」
「……はい」
「何故なら……輪くん、貴方がこの店のオーナーだからです」
「?!」
「したがって、貴方の住居や生活費はこのテナントの賃貸料から支払われます」
「……ボクがオーナー?!」
「ええ、マスターからそう処理するように頼まれています」
「……なんで……なんでそういう事ばかり気が回るんだよ……バカ親父」
「……」
「少しは落ち着きましたか?」
「……はい」
「では、お疲れのところ申し訳ありませんがマスターが君に残したものについて説明します」
「……よろしくお願いします」
「まず、この建物ですが……組織が借り受け昼は喫茶店、夜はバーとして利用します
皮肉にも……事実上"組織の拠点の一つ"となるワケですが……」
「そうですか……けれど……店は今のまま残して欲しいです」
「外観・内装ともに出来るだけ維持する様に努力しましょう」
「お願いします」
「このままここで暮らすのは危険ですので、少し離れた場所に部屋を用意してあります」
「ありがとうございます」
「もちろん、いつでもこの店に来て構いません」
「……はい」
「何故なら……輪くん、貴方がこの店のオーナーだからです」
「?!」
「したがって、貴方の住居や生活費はこのテナントの賃貸料から支払われます」
「……ボクがオーナー?!」
「ええ、マスターからそう処理するように頼まれています」
「……なんで……なんでそういう事ばかり気が回るんだよ……バカ親父」
*
私はあの日の……今は亡きマスターとの会話を思い出す
「最近は何が起こるか分りませんから……黒服さんも大変そうですね」
「ええ、確かにここのところ物騒な事件が続いていますからね」
「もし、仮に……私の身に不幸が降りかかることがあったとして……」
「不幸……ですか」
「つまり、死んだ場合の話です」
「……」
「そう、顔をしかめないで下さいよ……もしもの時の話です」
「保険……ですか?」
「保険というか信託ですね……ですが、一般企業には頼めない内容ですから……」
「なるほど……相続人は戸籍が無いなどの事情がある……つまり」
「そういうことです」
・
・
・
「ひとつ……お聞きしても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「何故……彼にこんなにも尽くすのですか?」
「これは、親として当然の事ですよ……子がいれば、誰でも将来のことを考えます」
「将来……ですか……」
「貴方にも……いや、貴方になら分るはずですよ」
「ええ、確かにここのところ物騒な事件が続いていますからね」
「もし、仮に……私の身に不幸が降りかかることがあったとして……」
「不幸……ですか」
「つまり、死んだ場合の話です」
「……」
「そう、顔をしかめないで下さいよ……もしもの時の話です」
「保険……ですか?」
「保険というか信託ですね……ですが、一般企業には頼めない内容ですから……」
「なるほど……相続人は戸籍が無いなどの事情がある……つまり」
「そういうことです」
・
・
・
「ひとつ……お聞きしても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「何故……彼にこんなにも尽くすのですか?」
「これは、親として当然の事ですよ……子がいれば、誰でも将来のことを考えます」
「将来……ですか……」
「貴方にも……いや、貴方になら分るはずですよ」
カラン・コロン……カラン・コロン……
輪の帰宅を告げるベル
「では、これで……」
話を切る……この少年に聞かせてはならない内容だった
「ええ、よろしく頼みます」
頭を下げるマスター
輪の帰宅を告げるベル
「では、これで……」
話を切る……この少年に聞かせてはならない内容だった
「ええ、よろしく頼みます」
頭を下げるマスター
*
「判らない事があるんだけど……」
「何でしょう?」
「どうして、庇ったんだろう……ボクは転生出来たかもしれないのに……」
「確かにその可能性は否定できません……ですが」
「"子を亡くしたことのある者によって*される"という条件でないと発動しないかもしれないから?」
「まぁそうですね、それもあるかもしれませんが……違うと思いますよ」
「違う?」
「ええ、転生すると分っていても庇ったでしょうね……恐らく」
「どうして……かな」
「転生するとしても、一度は死ぬわけです……死ぬのは痛くて苦しいですからね」
「それは……そうだけど……?」
「分りませんか?……単純なことです」
「ボクが……苦しむのが嫌だった……から?」
「ええ、単純で明白です」
「そんな理由で……」
「これはね……ヒトの親として当然の事なんだそうですよ」
「……バカだよ……本当に、バカ過ぎるよ……」
「何でしょう?」
「どうして、庇ったんだろう……ボクは転生出来たかもしれないのに……」
「確かにその可能性は否定できません……ですが」
「"子を亡くしたことのある者によって*される"という条件でないと発動しないかもしれないから?」
「まぁそうですね、それもあるかもしれませんが……違うと思いますよ」
「違う?」
「ええ、転生すると分っていても庇ったでしょうね……恐らく」
「どうして……かな」
「転生するとしても、一度は死ぬわけです……死ぬのは痛くて苦しいですからね」
「それは……そうだけど……?」
「分りませんか?……単純なことです」
「ボクが……苦しむのが嫌だった……から?」
「ええ、単純で明白です」
「そんな理由で……」
「これはね……ヒトの親として当然の事なんだそうですよ」
「……バカだよ……本当に、バカ過ぎるよ……」
あの少年が……大人に対してあれ程までに猜疑心を持っていた少年が……
随分と、しおらしくなったものだ……
契約によって強く結ばれた結果なのだろうか?
いや、そんなものではない
これが絆……それは私にも築き上げられるものなのだろうか?
私と……例えば、あの少女との間にも……
随分と、しおらしくなったものだ……
契約によって強く結ばれた結果なのだろうか?
いや、そんなものではない
これが絆……それは私にも築き上げられるものなのだろうか?
私と……例えば、あの少女との間にも……
「それではこれで失礼します……サチさんを呼びましょうか?」
少年は無言で頷く
「では……分らない事があれば、いつでも連絡して下さい」
マスターの使用していた携帯電話と通帳やカードをテーブルに置く
既に組織の用意した名義に変更されていた
少年は無言で頷く
「では……分らない事があれば、いつでも連絡して下さい」
マスターの使用していた携帯電話と通帳やカードをテーブルに置く
既に組織の用意した名義に変更されていた
*
黒服Dが出て行くと、入れ替わりにサチとカシマが入ってくる
「輪くん……お疲れ様」
「うん……サチもありがとう……それから、カシマさんもありがとうございました」
「頑張ったな……少年」
「輪くん……お疲れ様」
「うん……サチもありがとう……それから、カシマさんもありがとうございました」
「頑張ったな……少年」
サチはひどい顔だ
まぶたが赤く腫れ、折角の可憐さが台無しだった
「サチ……ひどい顔だよ」
「もう……輪くんもヒトのこと言えないよ」
「……うん……そうだね」
まぶたが赤く腫れ、折角の可憐さが台無しだった
「サチ……ひどい顔だよ」
「もう……輪くんもヒトのこと言えないよ」
「……うん……そうだね」
沈黙が3人を包む
「サチとカシマさんに……頼みがあるんだけど……聞いてくれる?」
「ええ」「うむ」
「カシマさん……ボクに剣を教えてください」
「?!」「……」
「サチが学校に行っている間にだけでもいいんだ……」
「少年……何の為に剣を振るうつもりだ?」
「そんな……ダメだよ……危ないコトしようとしてるの?」
「違うよ……ただ……」
「ただ?」
「自分のことぐらい……自分で護れる様になりたいんだ」
「本気で言ってるの?……輪くん」
「うん」
「わたしの目を見てもう一度言える?」
「ボクは……復讐なんて考えていないよ」
「ええ」「うむ」
「カシマさん……ボクに剣を教えてください」
「?!」「……」
「サチが学校に行っている間にだけでもいいんだ……」
「少年……何の為に剣を振るうつもりだ?」
「そんな……ダメだよ……危ないコトしようとしてるの?」
「違うよ……ただ……」
「ただ?」
「自分のことぐらい……自分で護れる様になりたいんだ」
「本気で言ってるの?……輪くん」
「うん」
「わたしの目を見てもう一度言える?」
「ボクは……復讐なんて考えていないよ」
「……分った……その申し出、受けよう」
「ぇ?! カシマさんッ?!」
「サチ殿……ワタシに任せてくれ」
「……でもッ!」
「剣の道とは、己を知る為の道でもある……導き手がワタシでは不足かな?」
「……もうッ……これだから男のヒト達はッ!」
「少年……ワタシは厳しいぞ……良いか?」
「はいッ! よろしくお願いしますッ!」
「ぇ?! カシマさんッ?!」
「サチ殿……ワタシに任せてくれ」
「……でもッ!」
「剣の道とは、己を知る為の道でもある……導き手がワタシでは不足かな?」
「……もうッ……これだから男のヒト達はッ!」
「少年……ワタシは厳しいぞ……良いか?」
「はいッ! よろしくお願いしますッ!」
「でも、二人とも! 危ないことはダメですからねッ!」
*
こうして少年は一人で生活する事となる
料理は店の手伝いで覚えていた
サンドウィッチと卵料理くらいは出来る
洗濯だってマスターより上手いくらいだ
サンドウィッチと卵料理くらいは出来る
洗濯だってマスターより上手いくらいだ
昼間はカシマによる稽古
16時過ぎにはサチが世話を焼きに来る
寂しさを感じる暇もない
16時過ぎにはサチが世話を焼きに来る
寂しさを感じる暇もない
独りになるのは寝ている時くらいのものだ
寝ている間も、組織による護衛という名の監視がついている
安全といえば安全だ
寝ている間も、組織による護衛という名の監視がついている
安全といえば安全だ
でも……心にぽっかりと空いた穴は埋まることはない
誰に埋めることは出来ない
誰に埋めることは出来ない
だが、それが彼らの絆の証でもある