喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
マスター(後編)
*
- ♪RequieM (試験運用中)
*
─ 17:42 ─
男は"背"に突き立った掌を素早く引き抜く
「クソッ!! 何なんだッ!! クソッ!!」
「クソッ!! 何なんだッ!! クソッ!!」
少年の顔が苦しみで歪む
「な……なんで……ダメだよ……そんなの……」
「な……なんで……ダメだよ……そんなの……」
サチが目を開くと、輪に覆い被さるマスターの姿
「マスタぁ……? いやァぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「マスタぁ……? いやァぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「お、俺は悪くない……悪くないだろ? コイツが……勝手に間に入っただけで……」
これはゲームだ
男が狩るのは、あくまでも敵───都市伝説
これまで、ニンゲンを殺したことはなかった
ゲームで敵を倒すのは当たり前で、疑問の余地は無い
だが、ニンゲンを殺せば、それはただの犯罪だ
男が狩るのは、あくまでも敵───都市伝説
これまで、ニンゲンを殺したことはなかった
ゲームで敵を倒すのは当たり前で、疑問の余地は無い
だが、ニンゲンを殺せば、それはただの犯罪だ
「じ、事故だッ! そ、そうだッ……これは、自殺だろッ?! 俺は悪くないッ!」
少年と眼が合う
「そうだよ……コイツが悪いんだよ……都市伝説なんかがいるからいけないんだ」
少年を睨み付ける
憎しみの篭った眼で……
「お前のせいだよ……全部、お前のせいなんだッ!!」
少年と眼が合う
「そうだよ……コイツが悪いんだよ……都市伝説なんかがいるからいけないんだ」
少年を睨み付ける
憎しみの篭った眼で……
「お前のせいだよ……全部、お前のせいなんだッ!!」
「凍てつく風よ……北より来りて……眼前の敵の命を……」
─ 17:46 ─
「奪……ぇ?」
純白の鳩が舞う
右腕が、どさりと重い音を立てて斬り落とされる
「……ハ……ト?」
振り返ると、軍装の男
隻腕で抜き身の軍刀を構えている
「出て行け」
静かな声に威圧される
腕を斬り落とされた痛みすらも忘れる程の恐怖
隻腕で抜き身の軍刀を構えている
「出て行け」
静かな声に威圧される
腕を斬り落とされた痛みすらも忘れる程の恐怖
楕円を描く様にして、お互いの位置を入れ替える
「クソッ! 俺のせいじゃないッ! お前ら都市伝説のせいだッ!!」
カラン・コロン……カラン・コロン……
吐き捨てる様に言い、男は店を出て行った
吐き捨てる様に言い、男は店を出て行った
カシマはサチに向かい頭を下げる
「遅れて済まない……」
「遅れて済まない……」
遅すぎた
もう少し、あと数分だけでも早ければ……
だが、時は戻らない
決して
もう少し、あと数分だけでも早ければ……
だが、時は戻らない
決して
─ 17:52 ─
「マスター……どうして……」
少年は、契約者をヒザに抱えあげて声を絞り出す
「どうしてもこうしても……ないさ」
背中から徐々に凍結していくのが分る
あの男が言っていた様に、確実に死へと向かっていた
もう、助かりは……しない
少年は、契約者をヒザに抱えあげて声を絞り出す
「どうしてもこうしても……ないさ」
背中から徐々に凍結していくのが分る
あの男が言っていた様に、確実に死へと向かっていた
もう、助かりは……しない
「まだ、少しだけ時間がある様だ……輪、よく聞いてくれ……」
「……うん」
「契約を解除する」
「ぇ?」
ふっ……と、何かが薄れて消えるのをお互いに感じる
「どうやら……上手くできた様だな……」
「なん……で?」
「こんな事もあるだろうと思って……黒服さんに聞いておいたんだ……解除法をね」
「……うん」
「契約を解除する」
「ぇ?」
ふっ……と、何かが薄れて消えるのをお互いに感じる
「どうやら……上手くできた様だな……」
「なん……で?」
「こんな事もあるだろうと思って……黒服さんに聞いておいたんだ……解除法をね」
記憶が脳裏をよぎる
プールから帰ったあの日の事が……
『良い契約者と出逢いましたね……』
黒服がすれ違い様に掛けたあの言葉が……
プールから帰ったあの日の事が……
『良い契約者と出逢いましたね……』
黒服がすれ違い様に掛けたあの言葉が……
「これで……輪は消えなくて済む……一緒に消える必要はないだろう?」
「なに言ってるんだよッ! いやだッ! そんなこと認めないッ!!」
「……輪」
「勝手に決めるなよッ!! こんなこと、ボクは望んでいないッ!!」
「私が……心から望んだ結果だ……済まないな……」
「謝るなよッ!」
「なに言ってるんだよッ! いやだッ! そんなこと認めないッ!!」
「……輪」
「勝手に決めるなよッ!! こんなこと、ボクは望んでいないッ!!」
「私が……心から望んだ結果だ……済まないな……」
「謝るなよッ!」
─ 17:56 ─
「もう私たちは……契約関係に無い……た……他人だ」
「!……なに言ってるんだよ……そんな言葉でだまされると思うなよッ!!」
「……忘れるんだ」
「忘れるかよッ! 契約が無いからなんだって言うんだッ! だってボクら……」
「……」
「ボクらは家族だろッ?!」
「……か……ぞく」
「マスターはボクの……ボクの父さんだろッ!!」
「!……」
「……いやだよ……こんな形で言うのなんて……父さん……もっと呼ばせてくれよッ!」
「……………………ありがとう……輪……ありがとう……済まない」
涙が流れる
ニンゲンの流す熱い涙
「いやだよ……謝るなよ……」
涙が流れる
都市伝説の流す熱い涙
「!……なに言ってるんだよ……そんな言葉でだまされると思うなよッ!!」
「……忘れるんだ」
「忘れるかよッ! 契約が無いからなんだって言うんだッ! だってボクら……」
「……」
「ボクらは家族だろッ?!」
「……か……ぞく」
「マスターはボクの……ボクの父さんだろッ!!」
「!……」
「……いやだよ……こんな形で言うのなんて……父さん……もっと呼ばせてくれよッ!」
「……………………ありがとう……輪……ありがとう……済まない」
涙が流れる
ニンゲンの流す熱い涙
「いやだよ……謝るなよ……」
涙が流れる
都市伝説の流す熱い涙
この熱い涙が、魔法で凍りついた体を溶かしてくれたのなら
どんなに良かっただろうか
どんなに良かっただろうか
─ 17:59 ─
「そうだ! 約束しただろ?! 泳ぎを教えてくれるって!!」
「後の事は、黒服さんに任せてある……」
「そんな事は聞いてないッ! 今は約束の話をしてるんだッ!」
少年は現実を受け入れられない
あまりにも残酷な物語に耐える事が出来ないでいる
「少年!」
カシマが一喝する
凍りついていないのは、すでに首から上と四肢だけになっていた
「最後の言葉だ……聞いてやれ」
カシマを見上げ……サチを見る……力なく頷くサチ
「サッちゃん……」
「は、ハイッ!」
「これからも……輪と仲良くして下さい」
「もちろんですッ……独りになんかさせませんッ」
「ありがとう……サッちゃん」
「軍人さんも、ありがとう……お礼を出来ませんが許して下さい」
「ワタシはカシマ……礼など無用……それよりも、続きを」
「……ありがとう、カシマさん」
「後の事は、黒服さんに任せてある……」
「そんな事は聞いてないッ! 今は約束の話をしてるんだッ!」
少年は現実を受け入れられない
あまりにも残酷な物語に耐える事が出来ないでいる
「少年!」
カシマが一喝する
凍りついていないのは、すでに首から上と四肢だけになっていた
「最後の言葉だ……聞いてやれ」
カシマを見上げ……サチを見る……力なく頷くサチ
「サッちゃん……」
「は、ハイッ!」
「これからも……輪と仲良くして下さい」
「もちろんですッ……独りになんかさせませんッ」
「ありがとう……サッちゃん」
「軍人さんも、ありがとう……お礼を出来ませんが許して下さい」
「ワタシはカシマ……礼など無用……それよりも、続きを」
「……ありがとう、カシマさん」
─ 18:03 ─
マスターは少年に視線を戻す
「……生きるんだ、輪」
頷く
「生きるよ……」
「……優しい心を、忘れるな」
頷く
「忘れない……」
「……孤独なヒトがいたら、手を繋いで……輪(わ)の中に入れてやれ」
頷く
「判ってる……」
「……愛しているよ、輪」
何度も頷く
「ボクもだよ……愛してる、父さん」
「……生きるんだ、輪」
頷く
「生きるよ……」
「……優しい心を、忘れるな」
頷く
「忘れない……」
「……孤独なヒトがいたら、手を繋いで……輪(わ)の中に入れてやれ」
頷く
「判ってる……」
「……愛しているよ、輪」
何度も頷く
「ボクもだよ……愛してる、父さん」
─ 18:08 ─
全てが凍りついていた
もう、何も動かない
優しく微笑む姿のまま
もう、何も動かない
優しく微笑む姿のまま
そして
砕け散る
氷の結晶がキラキラと輝き舞う
舞い落ちて
溶け
消える
最初から何も無かったかの様に
砕け散る
氷の結晶がキラキラと輝き舞う
舞い落ちて
溶け
消える
最初から何も無かったかの様に
逢魔ヶ刻に夜の闇が忍び寄る時刻
セミの声に混じり
嗚咽が、いつまでも響き続けていた
嗚咽が、いつまでも響き続けていた