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連載 - 三面鏡の少女-08

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三面鏡の少女 08


「なんか、あたしだけ遊んでたみたいだったなー。お姉さん、あたしなんかと一緒で楽しかったのかな?」
暗い路地を一人てくてくと歩いていく三面鏡の少女
頭にお面、腰には団扇、水ヨーヨー、スーパーボールの入った袋、手に提げた袋には冷めても美味しいと評判の屋台食の数々と大きな綿菓子の袋
久々の開放的な豪遊にすっかりはしゃいでしまったが、迷惑ではなかっただろうかと反省しきりである
もっとも、チョコバナナやリンゴ飴を口にする姿や、輪投げや射的やスーパーボール掬いではしゃぐ折に発展途上の胸元や太股を(自覚なしに)惜しげもなく覗かせる姿
それらを黒服Hが見たら喜ぶだろうなという妄想だけで充分楽しんでいたともいえるし
何より一緒にお祭を楽しむという事だけでも彼女にはとても楽しい一時だったのだから
「今度、いつ会えるのかなー。お姉さんの歌、早く聴いてみたいなー」
遠くにまだ祭の喧騒が響く中、浮かれた足取り鼻歌混じりで静かな夜道を歩く少女
彼女はとても油断していた
夢の国、鮫島事件との戦いが終わった事に
彼女は気付かなかった
邪悪で狡猾な者達はその騒ぎが収まるまで息を潜めていた事に
彼女は知らなかった
先日まで起こっていた戦争じみた戦いの他に、毎日のように様々な事件が起きているという事を
「………………?」
少女は訝しげに耳を澄ませる
微かに届く祭囃子に混じって、自分以外の足音が聞こえるのを
(たまたま同じ方向に行く人だったらいいんだけど)
内心に少々の不安を感じながら、少女は食べ物でいっぱいの手でなんとか携帯電話を取り出す
(お父さんとお母さんはまだ帰ってきてないし……でもお姉さんやHさんに迷惑掛けるのもなー)
電話帳を見ながらかちかちと携帯電話を弄っていた手を
不意に近付いてきた人影が、ぱしんと叩いた
「……え?」
アスファルトの上に乾いた音を立てて落ちる携帯電話
少女は一瞬、何が起きたのか判らなかった
「ダメじゃないか、夢と違う事をしちゃ」
その言葉で、少女の脳内に最大級の警告音が響き渡る
(都市伝説!? それとも契約者!?)
少女は携帯には目もくれず、すぐさま男に背を向け――その瞬間には既に腕と肩を掴まれていた
「え、ちょ――」
あっという間に組み付かれた少女の眼前に、まだ若い、少女と同世代であろう少年の顔があった
これといって特徴のない、どこにでもいるような平凡な少年の顔
だがそこには、これから何をするという意思すら感じられない
「だってさ」
そんな少女の心の声を聞いたかのように、少年は呟いた
「唐突に遭遇して不条理に被害に遭う。そういうものだよね、都市伝説って」
都市伝説『夢の結末』を宿した少年は、まるで自動改札機に切符でも入れるかのような気軽さで
少女の腹にナイフを突き立てた
「えぐっ、う」
喉から洩れた声が自分のものには聞こえなかった
淡い空色の浴衣が、仄暗い夕闇に落ちる夕焼け空のように赤黒く染まっていく
「怖い? 痛い? でもまあそういうものだから諦めて。ああ、あと死ぬ前にもっと色々するからよろしく」
そう言って少年は、少女の浴衣に手を掛け――すぐさま手を放し後方へ飛び退る
その瞬間、それまで少年が立っていた場所に、物干し竿のような長い棒の先端が凄まじい勢いで突き込まれた
「……誰? 夢で見てないのに出て出来てちゃダメじゃない」
「あんたが俺の事を知ろうが知るまいが、それこそ知った事か」
コンビニ袋をアスファルトの上にごそりと置くと、青年は手にした長い棒の先端をぴたりと少年に据える
「引っ越してきた途端に猟奇殺人とか起こると困るんだよ、ただでさえ新参者は馴染むまでが大変だってのに」
「……そう、越してきたばかりだったんだ。見た事無かったから夢に出なかったんだね」
そう言うと少年は、そのまま青年に背を向ける
「おい、待て!」
「顔を覚えたから、夢で確認したら遭わないように気をつけるよ。それじゃ」
青年は後を追おうとするが、すぐ後ろには血塗れで倒れている少女がいる
「くそっ、こっちを放ってはいけないか」
少年が闇夜に消えたのを確認すると、青年は少女の無事を確認するべく振り返り
「そこの手前ぇ、動くな。っても、もう動けないだろうがな」
「っ!?」
身体が、性格には四肢が全く動かない
「糸……違う、髪の毛、か?」
その四肢を拘束するのは、暗闇に紛れて張り巡らされた髪の毛の束
黒服Hは倒れて動かない少女を抱き起こしながら、青年を睨みつける
「あいつ……この黒服が来るのに感づいて……いや、知っていて逃げやがったのか」
青年は舌打ちすると、黒服Hに向かって声を張り上げる
「俺はその子を襲ってた奴を追っ払っただけの通りすがりだ! 先日この近くで開業した医者の助手をやってる、手当てをさせてくれ!」
「この近くの……なるほどな」
黒服Hは僅かに思案した素振りを見せると、髪の毛による拘束を解く
「手当てが済んだらその医者のところに運ぶぞ。遠くはないんだろ?」

*



空家を改築して作られた急拵えの診療所
「ああ、実に勿体無かった。刺されたりしてなければ、はだけた浴衣が実に良い感じだったんだが……まあ命に別状は無かったからこんな話をしていられるんだが」
その玄関先で携帯電話で話している相手は、呪われた歌の契約者
少女が携帯電話を叩き落された時、開いていた電話帳がたまたま彼女のところだったために、不審に思い黒服Hへと連絡したのだ
「ん? ああ、相手の素性を確認するまでは、霊薬の類は見せたく……いや医者も傷跡は残らないって言ってたから大丈夫だって」
電話の向こうで心配そうに声のトーンを落としたのを察して、わざと明るく声を掛ける
「大丈夫だから、明日にでも見舞いでもしてやってくれ……俺? 俺は遠慮しておかないと、ツッコミを誘発して傷を悪化させそうだ」
相手が落ち着いたのを確認して、黒服Hは一旦電話を切った
そして
「……ああ、俺俺。偶然ってのは恐ろしいもんだな。こないだ聞いた侵入してきた組織……『第三帝国』の出張所と接触ができた。随分とけしからんボディの女医さんだ。彼女がもうちょっと来るのが早ければ浴衣姿が拝めてたかもしれないと思うと残念極まりない」
にょろにょろと髪を伸ばしたりしながら、黒服Hは言葉を続ける
「都市伝説の医療研究だそうだ、隠すつもりもあまり無いらしい。ヒゲ伍長の中でも穏健派だそうだから、こちらから突付かない限りは大丈夫そうではあるな」
ふと、玄関先に明かりが点る
「機会があればもうちょい探ってみるが、期待しないでくれ。それじゃ」
そう言ってさっさと電話を切る黒服H
そこへがらがらと引き戸を開けて出てきたのは、白衣姿のドクターだった
「内緒話は終わったかね? まあ我が『第三帝国』は探られて痛い腹は無いわけだが」
「一応ギリシャ語で話してたんだがな、判るとは思わなかった」
「ボクは世界中どこの国の女性でも口説けるよう、ありとあらゆる言語に通じているのさ」
満面の笑顔でそう言い切られた瞬間、黒服Hは理解した
性別こそ逆ではあるが、この女は自分と同類であると
「……あの子に手ぇ出すなよ? いや百合百合しいのは見ててとても良いものではあるんだが」
「怪我人に欲情するほど腐ってはいないさ。手を出すなら傷跡一つ残さずきっちり治してからにするから安心したまえ」
豊満な胸を無駄に逸らし、自慢げに言い放つドクター
「揉め事は起こさないと信じておくが、降りかかる火の粉には気をつけるんだな。あんた達が思ってるほど、この町は優しくない」
「ふむ、心配してくれていると好意的に受け取っておこう。それでは患者は任せたまえ」
軽く手を振って診療所の中へ戻っていくドクター
その背を見送りながら、黒服Hは静かに呟いた
「百合からどうにかバイにさせる方法は無いもんかな」
その髪は止め処も無くにょろにょろと伸びていたのだった

*



その深夜
「生首ー!?」
少女の悲鳴で診療所が騒ぎになったのはまた別の事



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