ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 01
ひたすら走りはじめて数時間、今にも破裂しそうなほど心臓が高鳴り汗が噴き出ている、思うように進まない足に苛立ちを覚えながら俺は怯えるように後ろを振り向いた。
次の瞬間、見えない「何か」が鋭い音を立てて俺の頬を掠めるように飛来する。
後方で何かが爆散するのを感じた、月明かりに照らされた其れを見て愕然とする、破壊されたのはどうやら墓石のようだった
必死になりすぎて今まで気付かなかったが、いつの間にか墓場へと到着していたらしい、そして破壊された元墓石には俺の家名。
「お、俺のご先祖さまが…」 「あらごめんなさい、貴方が入るお墓が無くなっちゃったわね」
突然、かけられた声に振り返る、きっと今の俺の顔面は蒼白に見えるだろうな、10メートルほど離れた場所に佇む少女の周りには30cm程の奇妙な物体が浮いているのが見えた。
きっと、アレが俺の家の墓をガラクタに変えた下手人だろう、棒状の身体に四対のヒレ、まるで空中を泳ぐ魚のようだ。
「でも心配しなくて良いわよ、私のスカイフィッシュが貴方の身体を原型も留めない程に粉々にしてあげる、死体が無くなればお墓に入る必要もなくなるものね」
なんだその理屈、心配しなくて良い要素がまるで見あたりません、というか安直なネーミングセンスですね、まんまやがな。
「あら、急に黙っちゃったね、恐怖のあまり声が出ないのかしら、ねえ聞いてる? 何とか言いなさいよ」
馬鹿にするように挑発しながら近づいてくる少女、その距離が3メートルほどに縮まった辺りで俺は初めて彼女に向けて声をかけた。
「おい、そこ危ないぞ」 「え?」
疑問の呟きと共にすっころぶ少女、俺が昼間に草を結んで作った罠の一つに引っかかったようだった、恐怖の表情から一変、ニヤニヤと嗤う俺の態度に少女は怒りに叫ぶ。
「くっ、この馬鹿にして! あんた、今すぐ粉々にして後悔させて……えっ?」
だが、その叫びは途中で疑問の声へと変化する、彼女の契約した都市伝説スカイフィッシュが居ない、焦ったように周りを探す少女に俺は笑いを堪えながら苦労して話しかけた。
「おいおい何を探しているんだ?」 「何って、決まってるでしょ! 私のスカイ…」
「都市伝説との契約は契約者が死亡するまで、そんな事も知らないのか?」
「何を、私はまだ生きてるわ! スカイフィッシュ早く出てきて此奴を殺しなさい!」
俺の言葉を無視して叫ぶ少女、ああ五月蠅い、これだから餓鬼ってやつは…
「やれやれ、そんな君に一つ古い都市伝説を教えてあげようか」
「黙れ! どんな都市伝説だって私と私のスカイフィッシュには!」
「夜の墓場で転んだ者は死者に連れ去られてしまう」 「…………え?」
「さっき転んだよな」 「……嘘……まさか……」
「もう既に君は墓穴に片足突っ込んでいるんだよ、さあ後ろを見てごらん」 「ひっ……いや……助けっ……」
引きつった口から漏れた少女の懇願は次の瞬間には絶叫に変わる。
共同墓地より溢れ出た死者の群れの中へと消えていく少女の姿を見送りながら俺は一人、月を見上げ、いつものように呟いた。
「くくっ……任務、完了」
任務を終え瓦礫が散らばる墓地に佇む俺の元にパチパチと手を叩く音と共に男の声が届いた。
「いやいや流石、お見事」
音の聞こえる方へと視線を向けると案の定、いつものように黒服の男が立っていた。
真夜中だと言うのにサングラスを掛けたその男は片手に一枚の紙を持っている、今回の報酬だ。
「しかし、あの少女、中々の手練れだった筈ですが良くもまあその様な不便な伝説で倒せたものです」
「御託は良い、さっさと報酬を渡せ」
黒服はオーバーな仕草で肩を竦めると、手に持っていた報酬をこちらに渡す。
一枚の真新しい用紙には血のように赤いインクでこう書かれていた
「都市伝説契約書」
「これで私が貴方に渡す契約書は三枚目となりますね今回はどういった都市伝説を? つい先ほど空位となったスカイフィッシュとでも契約なさいますか」
「馬鹿な事を言うな、あれほどの力を持った都市伝説を契約したら容量がパンクしてしまう、貴様のような存在に俺はまだなるつもりはない」
「ふふふ……其れは残念、では一体今回は何とご契約を?」
「そうだな……今回は「夜に口笛を吹くと蛇が出る」辺りと契約するか」
そう答えた俺に、黒服は大げさに溜息をつく。
「貴方は何故、その様なマイナー且つ使えない伝説ばかりを選ぶのです」
「お前には関係ないだろう、使えるかどうかは俺が決めるさ」
その言葉を聞くとお手上げだと言わんばかりに首を振る黒服
「まあ、宜しいでしょう、次のターゲットが決まり次第、またご連絡させていただきますよ」
そう言うと、いつものように俺から背を向ける、去っていく黒服の背を見ながら俺は言いようのない不快感を振り払うように言い捨てた。
「ふん、「組織」め……いつか必ず後悔させてやるぞ……」
都市伝説に関わる事件の解決、隠蔽に携わる団体、それ自体が伝説と化した最大規模の都市伝説「組織」そして、その端末であると言われている「黒服」
奴らに抗すには未だ力が足りない、今は彼らに従事する立場ではあるが、いつかは力を付けそして……
「鮫島事件……その正体を必ず曝いてみせる」
その為にも、まずは、胸ポケットから取り出した手鏡を取り出す。
俺は、鏡中で憮然とこちらを睨む仲間候補の少女を説得するため話しかける事にした。
「そうだな、まずは自己紹介から始めようか、おい餓鬼、名を名乗れ」
暫くの間、少女の口から吐き出される嵐のような罵声に身を晒す羽目となった。
白み始めた空の下、俺は小さな鏡を手に歩く、鏡の中には一人の少女、つい先ほど俺が始末した契約者。
死んだはずの彼女は鏡像の俺の隣で不機嫌そうに頭上のツインテールを揺らしている。
鏡越しでしか認識出来ない少女、当然現実世界の俺の隣には誰もいない。
「で、これからどうするのよ」
「そうだな、取りあえずは新しい都市伝説とでも契約でもするか」
そう返す俺に、少女の顔は更に不機嫌そうに歪む。
「って言うか、なによそれ」
「それって、どれの事だ?」
「新しい契約ってのに決まってるでしょ、なんであんた幾つも都市伝説を持ってるのよ卑怯だわ」
文句を言いながらゲシゲシと地団駄を踏む少女、ああ五月蠅い、やっぱり見捨てれば良かったかもしれん。
そんな事を考えながら、目の前の少女に向かって説明をする、多分、今の俺は端から見ると完全に危ない奴だ。
「まあぶっちゃけると、都市伝説との契約は何回でも出来るし、複数持つ事は誰でも可能だ、ただし人にはそれぞれ都市伝説を保有するためのキャパシティがあり、其れを超える都市伝説と契約することは出来ない」
「なにそれ、初めて聞いた」
「まあ、一般の人間には……まあ、契約者が一般人かは置いといて、とにかく大多数の契約者はその事をしらないだろうな、なぜなら、まず都市伝説と出会うことが稀な上に、さらにそれと契約関係になる事は奇跡に等しい」
「そうね、私も初めてスカイフィッシュと出会った時はまさに神様が与えてくれた運命なんだと感じたわ」
「いやいや、運命と感じたからといってクラスメート三十一人全員を惨殺は少しやり過ぎだと思うんだが」
「五月蠅いわね、私の事はどうでも良いでしょ、其れより続きを話なさい」
「やれやれ……まあ兎に角、普通はその奇跡的な邂逅に満足し、二つ目の都市伝説を何て誰も思わない事が一つ、もう一つは、基本的に人間との契約をするような都市伝説は力が強いため、単体で契約者の容量が一杯になってしまう事が理由だ」
「じゃあ、あんたはどうして複数の都市伝説を持てるようになったのよ」
「そりゃあ俺の都市伝説との出会いが、今言った二つの例にまったく当てはまらなかったからだろうな」
「どゆこと?」
「つまり……まず俺が最初に契約した都市伝説はこれだ」
そういって俺は一つの硬貨を懐から取り出した。
「……十円玉?」
「ただの十円玉じゃない、「運を招くギザ十」だ」
「ショボ……」
「そう、ショボかった……だがそのお陰で俺の許容量は十分に余っていた、そして運良く、もう一つの都市伝説と出会った、其れがこの鏡だ」
「ああ、私が見える鏡ね」
「違う「幽霊が写る鏡」だ、その名の通り死者が写り話も出来る、現にお前以外の幽霊も写っているだろう」
そう言い、手に持った鏡の角度を少し傾けると、少女の背中にピッタリとくっついて歩くおかっぱの少女が写る
「っていうか、さっきから凄く鬱陶しいんですけど! こいつ何っ!?」
「鬱陶しいとは酷どいな、仮にも俺のご先祖様だぞ」
「ご先祖様って、あたしとそう変わらない年齢じゃない」
「まあ、戦国時代の人らしいしそんなもんなんじゃね?」
そう言う合間にも、ご先祖様は鏡越しにニコニコしながら手を振ってくる、こちらもニッコリ笑って手を振り返す。
「そもそも、なんであんたのご先祖様があたしの背中にくっついてくるのよ」
「そりゃ、お前が墓を壊して行くところが無くなったからだろうなぁ…」
「うっ……」
俺の一言に、視線を盛大に泳がせる少女、祟られなかっただけ運が良いと思うべきだろう、普通なら絶対末代まで恨まれる
まあ、もっとも彼女を殺す時に一番張り切っていたのは、このニッコニコ満面の笑顔を振りまくロリ婆だった事実は内緒だ。
「そ、其れよりも続きはっ、話が脱線してるわよ!」
そう叫びながら話題を反らそうと必死の少女、ご先祖様も気にしてないようなので、わざわざ追及する事もなく俺は溜息を一つ吐いて話を戻す。
「そんな事があって、二種類の都市伝説と契約してしまった当時の契約者の中では少々特異だった俺は……奴らに眼を付けられる事に羽目になった」
「奴ら?」
「そ、お前を俺に殺すように依頼してきた相手、「組織」、そしてその構成員である「黒服」達だ」
「組織、黒服……そいつらの所為で私は……」
「まあ正味、お前の場合は自業自得でもあるけどな、つか公共の面前で殺りすぎ」
「うっさい!」
「そんな訳で、何か黒服の言う相手を始末すればボーナスで新しい「契約書」が貰えるらしいので「組織」の犬になりましたまる」
「ちょ、肝心の所で何で適当になるのよ、その「契約書」ってなに!?」
「いや、もう何か面倒になってきて、つかお前の所為で俺結局、今日は徹夜だし」
「良いから続きを話せ!」
少女の怒鳴り声を聞きながら空を見上げる、既に周りは明るく、雀がチュンチュンと囀りを奏でている。
もう、こいつ無視して家に帰って寝てしまいたい、しかしきっと、寝ようとする俺のすぐ横でギャーギャーと五月蠅く喚くんだろうなぁ
そう思い至り、結局俺は嫌々ながらも続きを話しだす。
「まぁ…そうは言っても別に「契約書」自体は特別な事でも何でもない、幾つもある都市伝説との契約方法の内の一つだ」
「へえ、契約方法って色んな種類があるんだ?」
「お前は何にも知らんのな、この世に都市伝説が多数あるように契約内容にも多数の種類がある、何故なら「契約」そのものも都市伝説の一つだからだ」
「へー、へー、へー、3へー」
「懐かしいな……まあしかし、これは「黒服」の受け売りで、実際はどうか俺も知らん」
「何それ、関心して損した、いまの3へー返せ」
「うるせーよ、まあ、その話が嘘だろうと本当だろうと、契約内容が何種類も有る事は確かだ、この「契約書」もそうだし、例えば俺の「ギザ十」これは知り合いのちょっとしたオマジナイが契約の切っ掛けになった」
「オマジナイ?」
「で、この鏡、これはたまたま写った幽霊……まあ、そこのやたらニコニコしてるご先祖様との口約束がそのまま契約となって成立された」
「へー、で、オマジナイってなにさ?」
「んで、まあ他にも、例えば昔出会った花子さんの契約者なんかは指切りで契約したらしいし、他にも都市伝説の血を飲まれたり、都市伝説の肉を喰らうなんて契約方法もあるらしい」
「ふんふん、だからオマジナイは?」
「そう言えば、お前は都市伝説の卵をたまたま孵化させたんだって? いやぁ、インプリンティングで契約ってのも珍しいよなぁ、はっはっは」
「さっきから無視するなボケーー、どんなオマジナイだったのか教えろーーー!!!」
「うるせええええーーー!!! 人がワザとスルーしてんだから空気読めや糞餓鬼がああぁーーーー!!!!」
「はっはーん、そんなに恥ずかしいオマジナイだったわけね? ねー、先祖ちゃんは、そのオマジナイの内容しってる?」
「うおおおああぁーーやめろ、ご先祖様、言うな!!! てめっ、ぶっ殺すぞこらああーーーー!!!」
自分の不注意とはいえ裏歴史を突かれた俺は、怒りに顔を染め腕を振り上げる、既に何の話をしていたかは頭に無い、
ご先祖様が笑顔で見守る中、不審者として警察に職務質問を受ける事になるまで、朝日の下を糞餓鬼を追いかけ全力疾走することとなった。
次の瞬間、見えない「何か」が鋭い音を立てて俺の頬を掠めるように飛来する。
後方で何かが爆散するのを感じた、月明かりに照らされた其れを見て愕然とする、破壊されたのはどうやら墓石のようだった
必死になりすぎて今まで気付かなかったが、いつの間にか墓場へと到着していたらしい、そして破壊された元墓石には俺の家名。
「お、俺のご先祖さまが…」 「あらごめんなさい、貴方が入るお墓が無くなっちゃったわね」
突然、かけられた声に振り返る、きっと今の俺の顔面は蒼白に見えるだろうな、10メートルほど離れた場所に佇む少女の周りには30cm程の奇妙な物体が浮いているのが見えた。
きっと、アレが俺の家の墓をガラクタに変えた下手人だろう、棒状の身体に四対のヒレ、まるで空中を泳ぐ魚のようだ。
「でも心配しなくて良いわよ、私のスカイフィッシュが貴方の身体を原型も留めない程に粉々にしてあげる、死体が無くなればお墓に入る必要もなくなるものね」
なんだその理屈、心配しなくて良い要素がまるで見あたりません、というか安直なネーミングセンスですね、まんまやがな。
「あら、急に黙っちゃったね、恐怖のあまり声が出ないのかしら、ねえ聞いてる? 何とか言いなさいよ」
馬鹿にするように挑発しながら近づいてくる少女、その距離が3メートルほどに縮まった辺りで俺は初めて彼女に向けて声をかけた。
「おい、そこ危ないぞ」 「え?」
疑問の呟きと共にすっころぶ少女、俺が昼間に草を結んで作った罠の一つに引っかかったようだった、恐怖の表情から一変、ニヤニヤと嗤う俺の態度に少女は怒りに叫ぶ。
「くっ、この馬鹿にして! あんた、今すぐ粉々にして後悔させて……えっ?」
だが、その叫びは途中で疑問の声へと変化する、彼女の契約した都市伝説スカイフィッシュが居ない、焦ったように周りを探す少女に俺は笑いを堪えながら苦労して話しかけた。
「おいおい何を探しているんだ?」 「何って、決まってるでしょ! 私のスカイ…」
「都市伝説との契約は契約者が死亡するまで、そんな事も知らないのか?」
「何を、私はまだ生きてるわ! スカイフィッシュ早く出てきて此奴を殺しなさい!」
俺の言葉を無視して叫ぶ少女、ああ五月蠅い、これだから餓鬼ってやつは…
「やれやれ、そんな君に一つ古い都市伝説を教えてあげようか」
「黙れ! どんな都市伝説だって私と私のスカイフィッシュには!」
「夜の墓場で転んだ者は死者に連れ去られてしまう」 「…………え?」
「さっき転んだよな」 「……嘘……まさか……」
「もう既に君は墓穴に片足突っ込んでいるんだよ、さあ後ろを見てごらん」 「ひっ……いや……助けっ……」
引きつった口から漏れた少女の懇願は次の瞬間には絶叫に変わる。
共同墓地より溢れ出た死者の群れの中へと消えていく少女の姿を見送りながら俺は一人、月を見上げ、いつものように呟いた。
「くくっ……任務、完了」
任務を終え瓦礫が散らばる墓地に佇む俺の元にパチパチと手を叩く音と共に男の声が届いた。
「いやいや流石、お見事」
音の聞こえる方へと視線を向けると案の定、いつものように黒服の男が立っていた。
真夜中だと言うのにサングラスを掛けたその男は片手に一枚の紙を持っている、今回の報酬だ。
「しかし、あの少女、中々の手練れだった筈ですが良くもまあその様な不便な伝説で倒せたものです」
「御託は良い、さっさと報酬を渡せ」
黒服はオーバーな仕草で肩を竦めると、手に持っていた報酬をこちらに渡す。
一枚の真新しい用紙には血のように赤いインクでこう書かれていた
「都市伝説契約書」
「これで私が貴方に渡す契約書は三枚目となりますね今回はどういった都市伝説を? つい先ほど空位となったスカイフィッシュとでも契約なさいますか」
「馬鹿な事を言うな、あれほどの力を持った都市伝説を契約したら容量がパンクしてしまう、貴様のような存在に俺はまだなるつもりはない」
「ふふふ……其れは残念、では一体今回は何とご契約を?」
「そうだな……今回は「夜に口笛を吹くと蛇が出る」辺りと契約するか」
そう答えた俺に、黒服は大げさに溜息をつく。
「貴方は何故、その様なマイナー且つ使えない伝説ばかりを選ぶのです」
「お前には関係ないだろう、使えるかどうかは俺が決めるさ」
その言葉を聞くとお手上げだと言わんばかりに首を振る黒服
「まあ、宜しいでしょう、次のターゲットが決まり次第、またご連絡させていただきますよ」
そう言うと、いつものように俺から背を向ける、去っていく黒服の背を見ながら俺は言いようのない不快感を振り払うように言い捨てた。
「ふん、「組織」め……いつか必ず後悔させてやるぞ……」
都市伝説に関わる事件の解決、隠蔽に携わる団体、それ自体が伝説と化した最大規模の都市伝説「組織」そして、その端末であると言われている「黒服」
奴らに抗すには未だ力が足りない、今は彼らに従事する立場ではあるが、いつかは力を付けそして……
「鮫島事件……その正体を必ず曝いてみせる」
その為にも、まずは、胸ポケットから取り出した手鏡を取り出す。
俺は、鏡中で憮然とこちらを睨む仲間候補の少女を説得するため話しかける事にした。
「そうだな、まずは自己紹介から始めようか、おい餓鬼、名を名乗れ」
暫くの間、少女の口から吐き出される嵐のような罵声に身を晒す羽目となった。
白み始めた空の下、俺は小さな鏡を手に歩く、鏡の中には一人の少女、つい先ほど俺が始末した契約者。
死んだはずの彼女は鏡像の俺の隣で不機嫌そうに頭上のツインテールを揺らしている。
鏡越しでしか認識出来ない少女、当然現実世界の俺の隣には誰もいない。
「で、これからどうするのよ」
「そうだな、取りあえずは新しい都市伝説とでも契約でもするか」
そう返す俺に、少女の顔は更に不機嫌そうに歪む。
「って言うか、なによそれ」
「それって、どれの事だ?」
「新しい契約ってのに決まってるでしょ、なんであんた幾つも都市伝説を持ってるのよ卑怯だわ」
文句を言いながらゲシゲシと地団駄を踏む少女、ああ五月蠅い、やっぱり見捨てれば良かったかもしれん。
そんな事を考えながら、目の前の少女に向かって説明をする、多分、今の俺は端から見ると完全に危ない奴だ。
「まあぶっちゃけると、都市伝説との契約は何回でも出来るし、複数持つ事は誰でも可能だ、ただし人にはそれぞれ都市伝説を保有するためのキャパシティがあり、其れを超える都市伝説と契約することは出来ない」
「なにそれ、初めて聞いた」
「まあ、一般の人間には……まあ、契約者が一般人かは置いといて、とにかく大多数の契約者はその事をしらないだろうな、なぜなら、まず都市伝説と出会うことが稀な上に、さらにそれと契約関係になる事は奇跡に等しい」
「そうね、私も初めてスカイフィッシュと出会った時はまさに神様が与えてくれた運命なんだと感じたわ」
「いやいや、運命と感じたからといってクラスメート三十一人全員を惨殺は少しやり過ぎだと思うんだが」
「五月蠅いわね、私の事はどうでも良いでしょ、其れより続きを話なさい」
「やれやれ……まあ兎に角、普通はその奇跡的な邂逅に満足し、二つ目の都市伝説を何て誰も思わない事が一つ、もう一つは、基本的に人間との契約をするような都市伝説は力が強いため、単体で契約者の容量が一杯になってしまう事が理由だ」
「じゃあ、あんたはどうして複数の都市伝説を持てるようになったのよ」
「そりゃあ俺の都市伝説との出会いが、今言った二つの例にまったく当てはまらなかったからだろうな」
「どゆこと?」
「つまり……まず俺が最初に契約した都市伝説はこれだ」
そういって俺は一つの硬貨を懐から取り出した。
「……十円玉?」
「ただの十円玉じゃない、「運を招くギザ十」だ」
「ショボ……」
「そう、ショボかった……だがそのお陰で俺の許容量は十分に余っていた、そして運良く、もう一つの都市伝説と出会った、其れがこの鏡だ」
「ああ、私が見える鏡ね」
「違う「幽霊が写る鏡」だ、その名の通り死者が写り話も出来る、現にお前以外の幽霊も写っているだろう」
そう言い、手に持った鏡の角度を少し傾けると、少女の背中にピッタリとくっついて歩くおかっぱの少女が写る
「っていうか、さっきから凄く鬱陶しいんですけど! こいつ何っ!?」
「鬱陶しいとは酷どいな、仮にも俺のご先祖様だぞ」
「ご先祖様って、あたしとそう変わらない年齢じゃない」
「まあ、戦国時代の人らしいしそんなもんなんじゃね?」
そう言う合間にも、ご先祖様は鏡越しにニコニコしながら手を振ってくる、こちらもニッコリ笑って手を振り返す。
「そもそも、なんであんたのご先祖様があたしの背中にくっついてくるのよ」
「そりゃ、お前が墓を壊して行くところが無くなったからだろうなぁ…」
「うっ……」
俺の一言に、視線を盛大に泳がせる少女、祟られなかっただけ運が良いと思うべきだろう、普通なら絶対末代まで恨まれる
まあ、もっとも彼女を殺す時に一番張り切っていたのは、このニッコニコ満面の笑顔を振りまくロリ婆だった事実は内緒だ。
「そ、其れよりも続きはっ、話が脱線してるわよ!」
そう叫びながら話題を反らそうと必死の少女、ご先祖様も気にしてないようなので、わざわざ追及する事もなく俺は溜息を一つ吐いて話を戻す。
「そんな事があって、二種類の都市伝説と契約してしまった当時の契約者の中では少々特異だった俺は……奴らに眼を付けられる事に羽目になった」
「奴ら?」
「そ、お前を俺に殺すように依頼してきた相手、「組織」、そしてその構成員である「黒服」達だ」
「組織、黒服……そいつらの所為で私は……」
「まあ正味、お前の場合は自業自得でもあるけどな、つか公共の面前で殺りすぎ」
「うっさい!」
「そんな訳で、何か黒服の言う相手を始末すればボーナスで新しい「契約書」が貰えるらしいので「組織」の犬になりましたまる」
「ちょ、肝心の所で何で適当になるのよ、その「契約書」ってなに!?」
「いや、もう何か面倒になってきて、つかお前の所為で俺結局、今日は徹夜だし」
「良いから続きを話せ!」
少女の怒鳴り声を聞きながら空を見上げる、既に周りは明るく、雀がチュンチュンと囀りを奏でている。
もう、こいつ無視して家に帰って寝てしまいたい、しかしきっと、寝ようとする俺のすぐ横でギャーギャーと五月蠅く喚くんだろうなぁ
そう思い至り、結局俺は嫌々ながらも続きを話しだす。
「まぁ…そうは言っても別に「契約書」自体は特別な事でも何でもない、幾つもある都市伝説との契約方法の内の一つだ」
「へえ、契約方法って色んな種類があるんだ?」
「お前は何にも知らんのな、この世に都市伝説が多数あるように契約内容にも多数の種類がある、何故なら「契約」そのものも都市伝説の一つだからだ」
「へー、へー、へー、3へー」
「懐かしいな……まあしかし、これは「黒服」の受け売りで、実際はどうか俺も知らん」
「何それ、関心して損した、いまの3へー返せ」
「うるせーよ、まあ、その話が嘘だろうと本当だろうと、契約内容が何種類も有る事は確かだ、この「契約書」もそうだし、例えば俺の「ギザ十」これは知り合いのちょっとしたオマジナイが契約の切っ掛けになった」
「オマジナイ?」
「で、この鏡、これはたまたま写った幽霊……まあ、そこのやたらニコニコしてるご先祖様との口約束がそのまま契約となって成立された」
「へー、で、オマジナイってなにさ?」
「んで、まあ他にも、例えば昔出会った花子さんの契約者なんかは指切りで契約したらしいし、他にも都市伝説の血を飲まれたり、都市伝説の肉を喰らうなんて契約方法もあるらしい」
「ふんふん、だからオマジナイは?」
「そう言えば、お前は都市伝説の卵をたまたま孵化させたんだって? いやぁ、インプリンティングで契約ってのも珍しいよなぁ、はっはっは」
「さっきから無視するなボケーー、どんなオマジナイだったのか教えろーーー!!!」
「うるせええええーーー!!! 人がワザとスルーしてんだから空気読めや糞餓鬼がああぁーーーー!!!!」
「はっはーん、そんなに恥ずかしいオマジナイだったわけね? ねー、先祖ちゃんは、そのオマジナイの内容しってる?」
「うおおおああぁーーやめろ、ご先祖様、言うな!!! てめっ、ぶっ殺すぞこらああーーーー!!!」
自分の不注意とはいえ裏歴史を突かれた俺は、怒りに顔を染め腕を振り上げる、既に何の話をしていたかは頭に無い、
ご先祖様が笑顔で見守る中、不審者として警察に職務質問を受ける事になるまで、朝日の下を糞餓鬼を追いかけ全力疾走することとなった。