ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 02
窓から差し込む光の眩しさに耐えきれず目を覚ます
太陽は既に真上を通り過ぎて、やや西側へと傾いている。
カーテンすらない殺風景な部屋のど真ん中で布団に包まれた俺は身を震わせるような悪寒にくしゃみを一つ。
電気代の嵩張る冷房は一切点けていないはずだが何故か寒く感じる。
もしやと思い、枕元に置かれた「幽霊を映す鏡」を自分へと向けると。
案の定、俺の胸元でスヤスヤと気持ちよさそうに眠る、ご先祖様の姿があった。
この人は初めて会った頃から、よく俺にくっついてくる、その理由は分からないが
墓が壊されるより以前にもたまにチョクチョク、俺の部屋に現れては布団に潜り込んでくる事があった。
幽霊に接触されると、まるで背筋が凍るような悪寒に苛まれるので勘弁して欲しいのだが…。
と、そこまで考えてふと思い出す、そう言えばそのご先祖様の住処を完膚無きまでに粉微塵にしくさらした張本人も
この部屋に招いたはず、一体あいつは何処へ…
鏡の角度を調整しながらグルリと部屋全体を見回すように件の人物を探す。
どうやら外へ出て行く事もなく部屋の中に居たようだ、俺の居場所から一番遠い位置にある部屋の角には
布団の中で抱き合う俺たちへと向けてめいいっぱい白い眼を向けてくる体育座りの幽霊少女の姿が鎮座していた。
「……この変態」
言うと思った。
太陽は既に真上を通り過ぎて、やや西側へと傾いている。
カーテンすらない殺風景な部屋のど真ん中で布団に包まれた俺は身を震わせるような悪寒にくしゃみを一つ。
電気代の嵩張る冷房は一切点けていないはずだが何故か寒く感じる。
もしやと思い、枕元に置かれた「幽霊を映す鏡」を自分へと向けると。
案の定、俺の胸元でスヤスヤと気持ちよさそうに眠る、ご先祖様の姿があった。
この人は初めて会った頃から、よく俺にくっついてくる、その理由は分からないが
墓が壊されるより以前にもたまにチョクチョク、俺の部屋に現れては布団に潜り込んでくる事があった。
幽霊に接触されると、まるで背筋が凍るような悪寒に苛まれるので勘弁して欲しいのだが…。
と、そこまで考えてふと思い出す、そう言えばそのご先祖様の住処を完膚無きまでに粉微塵にしくさらした張本人も
この部屋に招いたはず、一体あいつは何処へ…
鏡の角度を調整しながらグルリと部屋全体を見回すように件の人物を探す。
どうやら外へ出て行く事もなく部屋の中に居たようだ、俺の居場所から一番遠い位置にある部屋の角には
布団の中で抱き合う俺たちへと向けてめいいっぱい白い眼を向けてくる体育座りの幽霊少女の姿が鎮座していた。
「……この変態」
言うと思った。
*
「いただきます」「い……いただきます」
一人用の小さなちゃぶ台に並んだ料理を前に三人で唱和する。
最初、ちゃんと声を出そうとしなかった幽霊少女も
意外と作法に五月蠅いご先祖様の連続チョップの前に屈して恥ずかしそうに声を出した。
「食べてるのに料理が減らないって何か変な感じ……ていうか、死んでからもご飯食べれるとは思わなかったわ」
まだ、昨日なりたての幽霊少女は首を傾げながら俺の作ったモヤシ炒めを食べながらそう言った。
「まあ、ご飯とか饅頭とかお供えするのにも意味があったって訳だな、ごちそうさま」
「食べるのはやっ!?」
「早寝早飯は芸の内、お前もさっさと食べ終われよ」
行儀が悪い、と頭をペシペシ叩こうとしてくるご先祖様の攻撃をかい潜りながら空になった自分の茶碗を流しへと持っていくために立ち上がる。
と、そこでポケットの中の携帯が振動した。
水を溜めた洗面器へと茶碗を沈めながら、携帯を開くと奴らからメールが着信していた。
「任務か、最近多いな……」
「なによ、また昨夜の私みたいに人を殺しに行くの?」
何かトゲのある声で聞いてくる幽霊少女の声を聞きながらメールの内容を確認していく。
「いや、今回の相手は野良都市伝説のようだな」
「野良都市伝説?」
「誰とも契約していない都市伝説の事だ……なになに、ほほう幼気な子供を何人も惨殺しているだと、これはゆるせんな」
「あたしを殺したアンタが言う事かー」
俺の言葉に、ご飯粒を飛ばすような勢いでツッコミを入れてくる少女、お前の場合は自業自得だろ、まったく。
溜息を吐きながら俺は、かつて自身のクラスメートを惨殺した少女の成れの果ての前に置かれた料理を片付け冷蔵庫へと仕舞うと、外出の準備を始める。
「あ、こら、まだ食べてる途中なのに!」
「うっせえ、さっさと、ごちそうさまして外出の準備をしろ糞餓鬼!」
場所は東地区の住宅街、今から向かえば着く頃には夜になっているだろう。
まだ見ぬ相手を想像しながら俺は、先ほど署名したばかりの契約書を握りしめ部屋を出た。
一人用の小さなちゃぶ台に並んだ料理を前に三人で唱和する。
最初、ちゃんと声を出そうとしなかった幽霊少女も
意外と作法に五月蠅いご先祖様の連続チョップの前に屈して恥ずかしそうに声を出した。
「食べてるのに料理が減らないって何か変な感じ……ていうか、死んでからもご飯食べれるとは思わなかったわ」
まだ、昨日なりたての幽霊少女は首を傾げながら俺の作ったモヤシ炒めを食べながらそう言った。
「まあ、ご飯とか饅頭とかお供えするのにも意味があったって訳だな、ごちそうさま」
「食べるのはやっ!?」
「早寝早飯は芸の内、お前もさっさと食べ終われよ」
行儀が悪い、と頭をペシペシ叩こうとしてくるご先祖様の攻撃をかい潜りながら空になった自分の茶碗を流しへと持っていくために立ち上がる。
と、そこでポケットの中の携帯が振動した。
水を溜めた洗面器へと茶碗を沈めながら、携帯を開くと奴らからメールが着信していた。
「任務か、最近多いな……」
「なによ、また昨夜の私みたいに人を殺しに行くの?」
何かトゲのある声で聞いてくる幽霊少女の声を聞きながらメールの内容を確認していく。
「いや、今回の相手は野良都市伝説のようだな」
「野良都市伝説?」
「誰とも契約していない都市伝説の事だ……なになに、ほほう幼気な子供を何人も惨殺しているだと、これはゆるせんな」
「あたしを殺したアンタが言う事かー」
俺の言葉に、ご飯粒を飛ばすような勢いでツッコミを入れてくる少女、お前の場合は自業自得だろ、まったく。
溜息を吐きながら俺は、かつて自身のクラスメートを惨殺した少女の成れの果ての前に置かれた料理を片付け冷蔵庫へと仕舞うと、外出の準備を始める。
「あ、こら、まだ食べてる途中なのに!」
「うっせえ、さっさと、ごちそうさまして外出の準備をしろ糞餓鬼!」
場所は東地区の住宅街、今から向かえば着く頃には夜になっているだろう。
まだ見ぬ相手を想像しながら俺は、先ほど署名したばかりの契約書を握りしめ部屋を出た。
*
雨の降る人気のない道。
街灯に照らされた真新しい花束は、閑散としたこの場所の雰囲気の中にあって何処か浮いているように見える。
一週間ほど前に起こった落雷事件を皮切りに、この場所では雨が降るとある都市伝説が出るようになった。
「黒犬」、雨の降る日に雷と共に現れ人を襲い喰らう、イギリスなどで見られる極めて危険度の高い都市伝説だ。
その外国の都市伝説が何故、この町に突如現れたのかは分からない、ただその「黒犬」は住宅街に住む子供達を中心に10人以上もの人間を焼き喰らって来た。
本来、このような人に害をなす都市伝説は、地元の霊能者や、正義感溢れる契約者なんかが人知れず退治するものなのだが、それよりも先にワイドショー関係者が眼を付けてしまったようで
最近では、昼になるとひっきりなしに「怪奇!子供を狙う雷の正体とは!」や「自殺した子供の怨念? 被害者の子供はいじめ常習犯だった!」なんてテロップがTVの中を流れているらしい。
さて、これに気を良くしないのが「組織」である、奴らは世間に「都市伝説」を認識されるのを嫌う。
いや、正確に言えば「都市伝説」として人知れず噂になるのは歓迎しているようだが、ニュースになり実際に起こった事件として調査される事を何よりも嫌っている。
幽霊の正体見たり枯れお花、そうなってしまうと困るのだ。
「しかし、何でまた俺を派遣するかね「組織」も、もっと直接的な戦闘能力を持つ子飼いの契約者だっているだろうに…」
雨の中、小一時間程待たされた俺はぶつくさと文句を言う。
今まで所有していた唯一の攻撃的な都市伝説は墓場以外では使えない、それ以外の場所では、俺はただ少し運が良いだけの人間だというのに、多分、試されているんだろうなぁ……くそぅ組織の奴らめ死んだら化けて出てやる。
そんな事を考えながら鏡の中の先駆者を見やると、ボヘッとアホ面を晒しながら退屈そうにしゃがんでいる幽霊少女と、何が楽しいのかニコニコと笑顔で此方を見守るご先祖様の姿があった。
どうやら二人とも手伝う気はさらさら無いらしい、溜息を吐きながら今朝、書いたばかりの新しい契約書を取り出す、未だ一度も使った事のない都市伝説、さて、どうなる事やら…
目の前で雷鳴と共に現れた漆黒の毛並みの犬を眼前に、震えそうになる身体を強引に無視するように俺は敵を睨み付けた。
強烈な炸裂音と共に「黒犬」の身体より放たれた稲光を紙一重で避ける。
空気中で有るにも関わらず電気の流れが目視出来る程に強力な電撃に肌が泡立つ。
直撃すれば待っているのは確実なる死、避けられたのは完全なる運。
「黒犬」の瞳が赤く光る、慌てて転がるように飛び退る、間髪入れずに放たれる雷撃。
ズボンの右ポケットに入れた十円玉硬貨の握りしめる、今、俺が生きて居られるのは此奴のお陰だ。
戦闘能力の持たない今の俺がただ一つ頼る事の出来る力。
また電撃が走る、腕にビリビリと痺れるような衝撃、当たっていない、擦っても居ない。
ただ避けるのが浅く、放たれた稲妻に近づき過ぎただけだ。
俺の背後に置かれていたポリバケツが融解し、中身が破裂するのが見えた。
やばい、このままではジリ貧になってしまう、痺れる左手指を口にくわえ込む。
「夜に口笛を吹くと蛇が出る」、新しい俺の都市伝説。
グルグルと遠雷のような唸り声を上げる「黒犬」、俺を完全に敵と認識したようだ。
怖い、足が震える、頭が真っ白になる、息を吸う、敵を見据える、息を吹く。
何も起こらない……もう一度、何度も何度も口笛を吹こうとする。
しかし、フーフーという空気の抜ける様な間の抜けた音が出るだけだ、畜生、緊張の所為で上手く吹けない。
焦る俺に「黒犬」が牙を剥く、いや嘲笑ったのか? 何も出来ない、恐怖に震える俺を?
死ぬのは嫌だ怖い、足が震える、逃げたい、何で俺は何も準備をしていなかったんだ。
そうだ、あの糞餓鬼と相対した時もそうだった、怖かった、まだ生きたかった、だから罠を仕掛け猪口才な策を弄した。
今回は何だ、一度の勝利に自身の弱さを忘れていたのか、怖い、怖い、死ぬのは嫌だ!
そもそも、新しい都市伝説は此奴に効くのだろうか、蛇が出る? そんなものがこの化け物相手に効果があるとでも?
嫌な想像が頭を過ぎる、「黒犬」の咆哮、アスファルトの上に倒れ込むように避ける、すぐ頭上を撫でる様に過ぎていく稲光。
避けた先のアスファルトが割れ、弾けた破片が倒れた俺へと降り注ぐ。
ああ、力があれば……俺にもっと強い都市伝説があれば……。
恐怖に怯えて顔を上げる、助けを求めるように手の中の鏡を見ると、いつもの笑顔を消し、怖いくらいの無表情で此方を見つめるご先祖さまの顔が見えた。
彼女との約束を思い出す、こんな所で死ぬぐらいなら、かつて拒否した契約を今……。
チャリンと、小気味の良い金属音が聞こえた、どうやって落としたのかポケットの中にあったはずの十円玉が地面に転がっていた。
平等院鳳凰堂の絵柄に視線が吸い付けられるように感じる。
『勇気が出ない時はコインを弾くの、もし表が出れば必ず良い結果になるから』
『裏が出たらどうするの?』
『そんなの表が出るまで何度でも弾けばいいでしょ』
昔、誰かに教えてもらったオマジナイ、幼い子供が作った稚拙な遊びは巡り巡って俺の力となっている。
強くなりたかった、勇気が欲しかった、あの子に想いを告げるくらいの小さな勇気。
かつて、ちっぽけな子供だった俺は、そんな小さな勇気すら持てなかった、今はどうだ、今もまだちっぽけな大人だ。
転がる十円玉を握りしめ、立ち上がる、あの子の言葉を今一度思い出す。
『表が出れば必ず良い結果になるから』
既に表は出た、後は勇気を出すだけだ。
ちらりと鏡を見ると、無表情だったはずのご先祖様が嬉しそうに笑顔を向けてくれていた。
震えはいつの間にか消えている、感を頼りに走り出す、道の端に置かれた植木鉢が爆ぜるのを感じる。
目の前の「黒犬」に狙いを定めるように睨み付ける、口に指を銜え込み、大きく息を吹く。
甲高い笛音が辺りに木霊する、身体が焼けるように熱い、雨と汗でグシャグシャになった契約書が青白い光を放ち始める――
そして次の瞬間、ズンという重い落下音と共に上空から強襲した体長10m近いアナコンダの直撃を受けた「黒犬」は物の見事に圧死した。
「くっく、計算どお……って流石に無理です、いやマジで、その発想は無かったわ…」
思いの外、強力だった都市伝説に、自分の容量の残りが不安になる俺であった。
街灯に照らされた真新しい花束は、閑散としたこの場所の雰囲気の中にあって何処か浮いているように見える。
一週間ほど前に起こった落雷事件を皮切りに、この場所では雨が降るとある都市伝説が出るようになった。
「黒犬」、雨の降る日に雷と共に現れ人を襲い喰らう、イギリスなどで見られる極めて危険度の高い都市伝説だ。
その外国の都市伝説が何故、この町に突如現れたのかは分からない、ただその「黒犬」は住宅街に住む子供達を中心に10人以上もの人間を焼き喰らって来た。
本来、このような人に害をなす都市伝説は、地元の霊能者や、正義感溢れる契約者なんかが人知れず退治するものなのだが、それよりも先にワイドショー関係者が眼を付けてしまったようで
最近では、昼になるとひっきりなしに「怪奇!子供を狙う雷の正体とは!」や「自殺した子供の怨念? 被害者の子供はいじめ常習犯だった!」なんてテロップがTVの中を流れているらしい。
さて、これに気を良くしないのが「組織」である、奴らは世間に「都市伝説」を認識されるのを嫌う。
いや、正確に言えば「都市伝説」として人知れず噂になるのは歓迎しているようだが、ニュースになり実際に起こった事件として調査される事を何よりも嫌っている。
幽霊の正体見たり枯れお花、そうなってしまうと困るのだ。
「しかし、何でまた俺を派遣するかね「組織」も、もっと直接的な戦闘能力を持つ子飼いの契約者だっているだろうに…」
雨の中、小一時間程待たされた俺はぶつくさと文句を言う。
今まで所有していた唯一の攻撃的な都市伝説は墓場以外では使えない、それ以外の場所では、俺はただ少し運が良いだけの人間だというのに、多分、試されているんだろうなぁ……くそぅ組織の奴らめ死んだら化けて出てやる。
そんな事を考えながら鏡の中の先駆者を見やると、ボヘッとアホ面を晒しながら退屈そうにしゃがんでいる幽霊少女と、何が楽しいのかニコニコと笑顔で此方を見守るご先祖様の姿があった。
どうやら二人とも手伝う気はさらさら無いらしい、溜息を吐きながら今朝、書いたばかりの新しい契約書を取り出す、未だ一度も使った事のない都市伝説、さて、どうなる事やら…
目の前で雷鳴と共に現れた漆黒の毛並みの犬を眼前に、震えそうになる身体を強引に無視するように俺は敵を睨み付けた。
強烈な炸裂音と共に「黒犬」の身体より放たれた稲光を紙一重で避ける。
空気中で有るにも関わらず電気の流れが目視出来る程に強力な電撃に肌が泡立つ。
直撃すれば待っているのは確実なる死、避けられたのは完全なる運。
「黒犬」の瞳が赤く光る、慌てて転がるように飛び退る、間髪入れずに放たれる雷撃。
ズボンの右ポケットに入れた十円玉硬貨の握りしめる、今、俺が生きて居られるのは此奴のお陰だ。
戦闘能力の持たない今の俺がただ一つ頼る事の出来る力。
また電撃が走る、腕にビリビリと痺れるような衝撃、当たっていない、擦っても居ない。
ただ避けるのが浅く、放たれた稲妻に近づき過ぎただけだ。
俺の背後に置かれていたポリバケツが融解し、中身が破裂するのが見えた。
やばい、このままではジリ貧になってしまう、痺れる左手指を口にくわえ込む。
「夜に口笛を吹くと蛇が出る」、新しい俺の都市伝説。
グルグルと遠雷のような唸り声を上げる「黒犬」、俺を完全に敵と認識したようだ。
怖い、足が震える、頭が真っ白になる、息を吸う、敵を見据える、息を吹く。
何も起こらない……もう一度、何度も何度も口笛を吹こうとする。
しかし、フーフーという空気の抜ける様な間の抜けた音が出るだけだ、畜生、緊張の所為で上手く吹けない。
焦る俺に「黒犬」が牙を剥く、いや嘲笑ったのか? 何も出来ない、恐怖に震える俺を?
死ぬのは嫌だ怖い、足が震える、逃げたい、何で俺は何も準備をしていなかったんだ。
そうだ、あの糞餓鬼と相対した時もそうだった、怖かった、まだ生きたかった、だから罠を仕掛け猪口才な策を弄した。
今回は何だ、一度の勝利に自身の弱さを忘れていたのか、怖い、怖い、死ぬのは嫌だ!
そもそも、新しい都市伝説は此奴に効くのだろうか、蛇が出る? そんなものがこの化け物相手に効果があるとでも?
嫌な想像が頭を過ぎる、「黒犬」の咆哮、アスファルトの上に倒れ込むように避ける、すぐ頭上を撫でる様に過ぎていく稲光。
避けた先のアスファルトが割れ、弾けた破片が倒れた俺へと降り注ぐ。
ああ、力があれば……俺にもっと強い都市伝説があれば……。
恐怖に怯えて顔を上げる、助けを求めるように手の中の鏡を見ると、いつもの笑顔を消し、怖いくらいの無表情で此方を見つめるご先祖さまの顔が見えた。
彼女との約束を思い出す、こんな所で死ぬぐらいなら、かつて拒否した契約を今……。
チャリンと、小気味の良い金属音が聞こえた、どうやって落としたのかポケットの中にあったはずの十円玉が地面に転がっていた。
平等院鳳凰堂の絵柄に視線が吸い付けられるように感じる。
『勇気が出ない時はコインを弾くの、もし表が出れば必ず良い結果になるから』
『裏が出たらどうするの?』
『そんなの表が出るまで何度でも弾けばいいでしょ』
昔、誰かに教えてもらったオマジナイ、幼い子供が作った稚拙な遊びは巡り巡って俺の力となっている。
強くなりたかった、勇気が欲しかった、あの子に想いを告げるくらいの小さな勇気。
かつて、ちっぽけな子供だった俺は、そんな小さな勇気すら持てなかった、今はどうだ、今もまだちっぽけな大人だ。
転がる十円玉を握りしめ、立ち上がる、あの子の言葉を今一度思い出す。
『表が出れば必ず良い結果になるから』
既に表は出た、後は勇気を出すだけだ。
ちらりと鏡を見ると、無表情だったはずのご先祖様が嬉しそうに笑顔を向けてくれていた。
震えはいつの間にか消えている、感を頼りに走り出す、道の端に置かれた植木鉢が爆ぜるのを感じる。
目の前の「黒犬」に狙いを定めるように睨み付ける、口に指を銜え込み、大きく息を吹く。
甲高い笛音が辺りに木霊する、身体が焼けるように熱い、雨と汗でグシャグシャになった契約書が青白い光を放ち始める――
そして次の瞬間、ズンという重い落下音と共に上空から強襲した体長10m近いアナコンダの直撃を受けた「黒犬」は物の見事に圧死した。
「くっく、計算どお……って流石に無理です、いやマジで、その発想は無かったわ…」
思いの外、強力だった都市伝説に、自分の容量の残りが不安になる俺であった。