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罪人のペル・エム・フル(後編)

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罪人のペル・エム・フル(後編) ◆ug.D6sVz5w




◇ ◇ ◇




 ――御坂美琴

 学園都市の中でも5本の指に入る名門校、常盤台中学のエースで、学園都市でも七人しかいない超能力者(レベル5)の一人である少女。
 その能力名でもあり、また本人の異名でもある超電磁砲(レールガン)は同じ電撃系統の能力者であれば目の当たりにしただけで、ショックのあまり気を失うことさえある。
 10億ボルトもの出力を誇る電撃、雷撃の槍や落雷、強力な電磁波、チェーンソーの様な砂鉄剣などその能力は破壊力、応用力ともに優れており、序列二三〇万人中第三位は飾りではない。

 ――だが。


「……え?」

 人識の言葉が聞こえなかったわけではないが、思わず美琴は彼の言葉に疑問の声をあげていた。

 殺人鬼、人殺しの、鬼。
 自らのことをそう言った彼の言葉がデタラメや冗談の類だとは思えない。

 御坂美琴が目指すのはこのくだらない舞台からただ脱出すれば良いと言うものではない。
 力を持つものの責任として、自らの身を守ることさえできない無力な参加者を一人でも多く守ることも彼女にとっては重要な目的だ。
 ならば、今彼女の目の前にいる殺人鬼の少年、零崎人識は彼女の目的に従うならば無力化、少なくとも他人を殺すことができないようにしなくてはならない存在のはずだった。 

 ――だが。
 美琴は一歩後ろに下がる。
 じゃり、と道路を足が擦る音はびっくりするぐらいに大きかった。


「かはは、おいおいどうしたんだ。単に聞かれたことに答えてやっただけだっつーのに」
 零崎人識は殺人鬼の少年は、そんな彼女を見て、ただ笑う。

「え……だから、あの、その、えっと……」
「おいおい、そんなんじゃあ、なにが聞きたいのかなにが言いたいのかわからねーって。電撃使いの女の子ちゃんよ。要するにあれだろ? 
この俺が殺人鬼、人殺しの鬼っつーのがわかって、てめえはこの俺に対してどういうスタンスを取るのかってことが言いたかったんじゃねえのか?」
 人識の言葉がどうこうというわけでもなく、ただ彼の放つ殺気、その雰囲気に恐怖を感じて彼女はまともに喋れない。
そんな美琴に対して、笑みを浮かべたそのままで人識は喋りつづける。


 少なくともついさっきまでは、美琴は自分が荒事には対処できると思っていた。
 たしかに最初に出会った参加者にして、最初に出会った殺し合いに乗った参加者でもあるガウルンを相手に彼女は敗北を喫した。
が、それはどちらかといえば相手が強かったからではなく、自分自身の油断、慢心のせいだと彼女は思っていた。

 主観的な感想を抜きにした、ただのデータ分析だけでもその事実は代えようがない。
 例えば零崎人識、目の前にいるこの少年は学園都市の存在さえ知らない、つまりは能力開発さえ受けていない、正真正銘の無能力者(レベル0)なのだ。

 ――だから、そう。
 ……雷撃の槍で貫かれたら彼は死ぬ。
 ……砂鉄の刃で切り裂かれたら彼は死ぬ。
 ……手加減抜きの電撃を放つだけで彼は死ぬ。

 ――そんな考えが机上の空論に過ぎないことが今の美琴には実感として理解できる。

 能力の有無とかそんなものは関係がない。
 アマチュアとプロ。 
 彼と美琴の間にある差はそんなもので覆せるほど甘いものではなかったのだ。

「――俺が怖いか?」
「……え?」
 怯える美琴に不意にそんなことを人識は尋ねる。

「そ、そんなことは……」
「かはは、別に嘘つく必要はねえよ。相手を怖いと思うのは相手の強さが理解できるからだ、なんてな」
「…………」
 そう言って笑う人識が一体何を言いたいのかまるでわからずに、美琴はただ沈黙することしかできなかった。

「俺の怖さがわかるって言うんなら、実感としてお前も理解してるだろ。俺は殺人鬼としちゃあ三流だが、それでもアマチュアには負けやしねえ。
例えお前がどんな力を持っていようともお前じゃ俺には逆立ちしたって勝てやしねえ。百年遅いんだよ」
 言葉だけを聞いたなら挑発とも取れる人識の言葉。
 だが、今の美琴にとってはその宣言はただ厳然たる事実を指摘しているようにしか聞こえない。

「――それで、てめえはどうしたいんだ?」
「……その」
「逃げたいんなら逃げりゃあいい。今すぐに尻尾を巻いて逃げ出すってんなら何もしないで逃がしてやんよ。助けて欲しい、殺さないで欲しいっていうんなら俺に手出しをしなけりゃそれでいい。
あの最強との約束は守る義理も保証もどこにもねえが、それでもこれまでは守ってきてやったし、これからも破るつもりは一応ねえしな」
 だが、と人識は言う。
「だが、この俺が怖いとわかって、それでもなお俺と闘おうってんなら兄貴の武器じゃねえけど、そいつは単なる自殺志願だ。
残念ながら自分から死にたがるような馬鹿に情けをかけてやるほどオレは優しくねえ。知っているか?
 殺人罪と自殺幇助、罪は比較にゃならねえぞ。正当防衛が過剰防衛になろうが知ったことじゃねえ。殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」
「…………」
「――で? そうした一切合財含めたところで、わかったところで、てめえはいったいどうしたいんだ、美琴ちゃんよ?」

(……あ、ああああああ)

 ――恐怖、ただそれだけに美琴の感情全てが塗りつぶされる。
 今すぐにでも目の前の恐怖から逃れたい、そのために電撃を放とうとする衝動を理性が必死に押さえ込む。
 最初から人識の言葉に嘘はない。
 もしもそんなことをしてしまえば、彼女は彼に殺される。そんな光景が生々しいほどに明確にイメージできてしまう。
 しかし、人識と対峙しているただそれだけで、恐怖はどんどん強くなる。まともな思考能力はどんどん削られていく。

(……いや! 待って、止めて!)
 体が美琴の意思を裏切る。
 恐怖に負けて、彼女が破滅への引き金を引こうとしたそのとき。

「……おっと」
「……え?」
 いきなり人識は美琴から視線を逸らすと、後ろへと跳ぶ。
 次の瞬間、美琴と人識の間を遮るようにリボンのような白い何かが地面へと叩きつけられた。
「大丈夫でありますか?」
「危機一髪」
「……え? あ、その」
 人識の重圧が消えるのと同時に緊張の糸が切れて、へたり込みそうになる美琴を何者かが支えた。
 視線を向けるとそこにいたのはメイド服を着込んだ女性。

「お知り合いがあちらに」
「再会」
「……え?」
「短髪ー! こっちなんだよ」
 彼女の言葉に振り向くと、少し前の進行方向、道を少し下ったところに見覚えのあるシスター服を着た少女がいた。

「ここは我らに任せるのであります」
「離脱」
 美琴の側にいるのは女性一人、だが聞こえてくる声は二つ。
 二つの声がそう言うと、女性は人識へと向き直った。


 ◇ ◇ ◇


 先に彼らのことに気が付いたのはインデックスだった。

「……ヴィルヘルミナ!」
「……む?」
「察知」

 彼女の言葉に足を止め、やや遅れてヴィルヘルミナも気がついた。
 道の先からはっきりと、濃密に感じ取れる――殺気。

 戦いか、あるいは虐殺か。

 慎重に、だが可能な限り急いだ彼女達が見たものは一人の少女に強い殺気を向けている少年の姿。

「――短髪!」
「……お知り合いで?」
「知己」
 ヴィルヘルミナ達の言葉にインデックスは頷いた。

「うん、たまにとうまと一緒にいる子なんだよ」
 状況だけでも充分。それに加えて襲われていると思しき少女がインデックスの知り合いというのであるならば、彼女がどう動くべきかなんてことは決まっている。

 抱きかかえていたインデックスをおろすと、彼女はそのままインデックスが短髪と呼ぶ(名前は御坂美琴というらしい)少女をかばうように少年と対峙する。

「かはは、何だよその格好は。コスプレイヤーってやつか?」
「機能性に優れているので愛用しているのであります」
 美琴が逃げるのを気にした様子もなく、気楽に話し掛けてくる少年に返事をしながらヴィルヘルミナは身構える。

 ――目の前の少年からは殺気しか感じない。

「念のために尋ねるのでありますが」
「質問」
「なんだ?」
「あなたはこの殺し合いをどのように捉えておられるので?」
 ヴィルヘルミナの言葉に人識は笑う。

「かはは、傑作だぜ。さっきの美琴ちゃんといい、今のアンタといい、どいつもこいつも殺人鬼に殺し合いの何を聞きたいんだっつーの」

 その言葉にヴィルヘルミナは、次いで人識は動いた。
 動き出したのは両者ともにほぼ同じタイミング。

 ヴィルヘルミナはリボンを放ち、零崎人識はヴィルヘルミナ目指して大地を疾る。

 筋肉から関節、骨にまで至る人体のありとあらゆる部分。
 それをどのように動かせば速く動くことができるのか、それを本能的に理解している人識のスピードはヴィルヘルミナの予測を超えていた。
 相手は゛紅世の従”でもフレイムヘイズでもないただの人間。そんな油断があったことも手伝って、ヴィルヘルミナへと人識は一気に近付く。

 ――しかし『戦技無双』、彼女のこの二つ名は伊達ではない。

 神器『ペルソナ』から伸びた一条のリボンが翻り、人識の踏み出した足へと当たる。
……とはいえ、たかがリボンの一条程度だ。彼にダメージをあたえることは適わない――がそれによって、踏み込みはほんのわずかに、しかし確実にずれる。

 最短距離を進むが故の相手の反応すら上回る最速だ。
 それに加えて、真っ直ぐに進むつもりでとった体のバランスは斜めに進んだことによって、わずかとはいえ崩れている。

 この距離はまだ人識の間合いではない。
 だがこのまま進むのならば相手のほうが速い。

 打てる手は一つだけ、人識は手にしたナイフをヴィルヘルミナ目掛け投げつける。
 人識自身の速度も加えて投げられたナイフは高速でヴィルヘルミナへと向かい、その軌道上にリボンが伸びた、次の瞬間には速度はそのままに、方向だけを大きく曲げられて、ナイフは山の脇へと消えていった。

「ああ、くそ! もったいねえ!」
 ナイフのデザインなどは人識は気にいっていたのだ。それがまた無くなった事に文句をいいながら、人識は一度間合いを外す。

 ――だが。

「――ちっ!」
 人識の舌打ち。
 彼が後ろに跳ぼうとしたその瞬間、彼の足元へとリボンが伸び、軸足を絡めとった。
 手をつくとか、体をひねるとかそんな余裕はどこにも無い。
 跳ぶ勢いはそのままに、バランスを崩した人識は背中を地面へと強く打ち付ける。

「か、かはは、傑作だっつーの」
 一瞬、息が止まるほどの衝撃に耐えて、人識はそのままクルリと後ろ回りをしながら、回転の勢いのままに身を起こす。
 デイパックから新しくナイフを取り出すと、彼は改めてヴィルヘルミナへと向き直る。


 ◇ ◇ ◇


「短髪、短髪、大丈夫」
 戦場から離れて、へたり込んだ美琴にインデックスが心配そうに声をかけてくる。

「う、うん……」
 ようやく一息つける状況へとたどり着き、改めて自分が何をやっているのかと考えて美琴は落ち込む。

 こんなはずじゃなかったのに。
 もっと上手くやれたはずなのに。

 目覚めてからこれまでの自分の行動。それを改めて振り返ると、あまりの情けなさに自己嫌悪のあまり死にたくなってくる。

 ガウルンにはいいようにあしらわれて殺されかけて。
 人識には無様なぐらい怯えて。
 メイド服の女性には助けられて。
 挙句の果てには最初は自分が守ってあげるつもりでいた知り合いの一人、ちびっ子シスターにまで心配される始末だ。

「怪我はないみたいだけど、大丈夫? あ、お腹がすいているんならこれを食べる?」
 そう言いながらインデックスは先ほど入手したばかりの缶詰、そのうちの一個を美琴へと差し出した。
 インデックスと同居しており、彼女の食欲魔人ぷりをよく知る少年上条当麻。彼が見たら驚愕のあまりに腰を抜かしてもおかしくは無い光景。
 あのインデックスが自らの食料を他人に譲るという珍事にさえも美琴の心は動かない。

「ごめん……。悪いけどしばらくあたしを放っておいて」
 そう言うと美琴はしゃがみこみ、自らの体を抱え込む。

「……!」
 そんな彼女にインデックスはまだ何か言葉をかけてくれていたが、もう聞く気さえ起きなかった。
 もちろんインデックスが自分のことを心配してくれているのはわかるし、そのことに対しての感謝もある。けれども今の美琴にとってはその優しさは心を抉る刃にしかならない。
 自分自身にそんな優しさをかけられるだけの価値が今の彼女には見出せない。 

 どこまでも続く自己嫌悪の悪循環。
 どんどん沈み込んでいく彼女を止めたのは誰かの言葉ではなく、ただの音だった。

 ひどい音があたりに響く。
 思わず顔をあげた美琴が見たのは、ずざざざっ、とここがもしも剥き出しの地面だったら盛大な土ぼこりを巻き上げていそうな勢いで路面をすべる人識だった。
彼はそんな勢いで吹き飛ばされたにもかかわらず、即座に身を起こしてメイド服の女性、ヴィルヘルミナへと躍りかかる。

 そのスピードはかつて彼女が見た彼の戦闘風景、ガウルンのときよりもなお速い。

 ――アイツ、手加減してたんだ。

 いかに油断していようとも、自分を軽くあしらった相手であるガウルン、それを手加減した状態で軽く上回っていた人識。
 そんな彼と互角以上に戦っているヴィルヘルミナ。
 彼ら彼女と自分を比べると自らの情けなさが一層際立つような気がする。

 ――あたしなんて役立たずもいいところじゃない。

 そんな思いとともに再び彼女の気持ちは沈みこみ、

 ――え? ちょ、ちょっと待って。

 ふと彼女はあることに気が付いた。

 零崎人識は殺人鬼。それは彼自身が言ったことであり、また彼と対峙してその殺気をじかに浴びた美琴にとっては疑い様の無い真実だ。
 しかし、ならばそんな彼が手加減する必要が、そして自分を助ける必要がどこにあった?
 これまでは恐怖のせいでろくに働かなかった思考がようやく動き始める。

 曰く、最強との約束。
 曰く、逃げたいんなら逃げりゃあいい。

 いずれも彼自身が言った言葉だ。
 そもそも彼は殺気を美琴に向けてはいたが、彼の本気のスピードを見れば、そんな暇が在ったらとっくの昔に彼女は殺されていてもおかしくは無かったはずだ。
 けれど彼はそうしなかった。

 美琴はもう一度前方、戦っている二人を見る。

 ヴィルヘルミナのリボンによって、またバランスを崩された人識が、今度は倒れるその前に地面に手をつき体を支える。彼はそのまま倒立の要領で身を伸ばして、回転。その勢いに任せてヴィルヘルミナに刃を振るう。
 それをヴィルヘルミナは軽く横へと動いてかわす。その場に残されたのは彼女のリボン。
 それがわずかに動いたかと思えば、人識の回転が加速して、頭から地面へと向かう。
だが、彼は空中で身を丸める事によって距離を稼ぎ足から着地。加速した勢い、その反発をも利用して、高く、飛んだ。

 しかしいくら人識とは言えども何もない空中ではその動きは単調なものとなる。

 それを好機と見て、ヴィルヘルミナは無数のリボンで追撃をかけ――。

「む?」
「操作不能」

 彼女の意思に従って自由自在に動くはずのリボン。それが突然何かに絡め取られたかのように彼女のコントロールを離れた。リボンはそのまま狙いを逸らす。

「かはは!」
 そして殺人鬼はその隙を見逃すはずがない。
 落下の勢いそのままに、人識の刃がヴィルヘルミナへと振り下ろされて――。

 ――迷っている暇はなかった。

 ひょっとしたら自らの安全を優先するならば、動かない方がよかったのかもしれない。
 だけどそんなのはさっきまでの自分と同じ――御坂美琴らしくない。

 覚悟は、決めた。

「――な?」
「……む?」
「危」
「た、短髪?」
 インデックスが驚いたように美琴から一歩離れる。

 まるで爆弾でも炸裂したかのような轟音。
 美琴が放った電圧数億ボルトの電撃は激突直前のヴィルヘルミナと人識の二人の間を貫いた。
 その一撃によって、二人の集中力は殺がれ――人識、ヴィルヘルミナの双方ともが交錯することなく一旦後ろへと下がって間合いを離し、激突に水を指した相手、美琴の方へと視線を向ける。 


「かはは、何だ何だ美琴ちゃん。てめえも参戦するつもりなのかよ」
 そう言って笑いながらも、人識は美琴に殺気をぶつけてくる。

「とりあえず零崎、殺しあうつもりは無いから武器をしまって」 
「は? 何傑作なこと言ってんだ?」
「あたしはアンタに助けて欲しい、殺さないで欲しい」
 だが、美琴はその恐怖、殺気に負けずに人識から視線を逸らさない。
 先に視線を逸らしたのは人識だった。

「傑作つーか、戯言だな、こりゃあ。あー……何か白けちまった」
 つまらなそうにそう言い捨てると人識はナイフをしまう。

「どういうことでありますか?」
「説明要求」
 人識から殺気が消えたのを見て、とりあえず場が落ち着いたと判断したヴィルヘルミナは美琴に話し掛ける。

「えーっと……」

 かくかくしかじか。

 これまでのことを美琴は彼女達に話す。
 彼に助けられたこと。彼は殺人鬼でもあるが同時に「約束」とやらがあって、少なくともこちらから彼に戦いを挑まない限りは殺気は向けても、彼から手を出すつもりは無いらしいこと。

「彼女の言葉に嘘は無いので?」
 美琴の説明を聞き、ヴィルヘルミナは少し離れた場所で つまらなそうに立つ人識に話し掛ける。
 少なくとも彼女達が会話している間、彼は手を出そうとはしなかった。

「かはは、なんだなんだ」
 ヴィルヘルミナが改めて彼に向き合うとなぜか人識は笑った。

「何か?」
「かはは、傑作だぜ。仮面なんぞつけてっから妙な女だと思っちゃいたが、なかなかどうして。あんた好みのタイプだ。そう言うことなら話ははやい。
安心しろってオレは好みのタイプは殺さねえ事にしているんだ。ま、ちょいとばかし身長は足りねえみたいだけど」
「……」
 かはは、と笑う人識をヴィルヘルミナは呆れたように見る。
 今の彼からは先ほどまでのような殺気は感じ取れない。

「……どう思われます?」
「うーん、正直よくわからないんだよ」
 少し離れてひそひそと、ヴィルヘルミナ、インデックス、美琴の三人は意見を交換する。

「……でもここは信じるしかないと思う。あいつが殺人鬼っていうのは多分本当だし、あいつにどんな形でも手綱を付けられるのはメリットだと思う」
 そう美琴は主張した。
 人識が殺人鬼であるというのは美琴とヴィルヘルミナ双方に共通する意見だ。

 そして双方ともにわかっていた。もしも今、人識を信用せずに戦おうと、放置しようとどちらを選ぼうとも、決して少なくない犠牲は出る。
 本来フレイムヘイズであるヴィルヘルミナや、超能力者(レベル5)である美琴の持つ戦闘能力は常人のそれを大きく上回る。だが、人識はそんな彼女達と互角、あるいはそれ以上に戦った。
 そんな彼と戦わずにある程度無力化できるというのなら。

 ――ならば、監視できるように手元に置くべきだ。

 そう彼女達が結論つけようとしたときだった。

「おいおい、意見交換もいいけどよ。誰か来るぜ」
 人識が急にそんなことを言った。
 人識の視線の先、山のふもとの方に眼をやれば、つい先ほどヴィルヘルミナ達が登ってきた道を一台のジープが登ってくるところだった。

「ちょっと水前寺! 慎重に行動するとかいってたのはどこにいったのよ!」
「はっはっは、何を言うのだ島田特派員! おれの行動のどこが無謀だと?」
「全部よ、全部!」
 そんなふうに大声で自分達の存在をしめしながらのぼって来るジープを見て4人は思う。「また変なのが来た」と。

 ……とはいえ実際のところ、水前寺の行動は無意味に大胆だったわけでは無かった。
 そもそも彼らは今ここにきたわけではない。彼らがこの近くにやってきたのは少し前、ヴィルヘルミナと人識が闘っている間のことであった。

 進行方向から聞こえてきた明らかに「複数の人間が争っている」物音を聞きつけた水前寺は一度ジープから降りるとこっそりと偵察へと赴き、その場の様子を観察した。

 もしも仮に、戦う力を持っていた3人の内、誰か一人でもあの紫木一姫古泉一樹のように「乗った」人間がいたと考えるには場の状況は奇妙すぎた。

 ということは最低でも交渉の余地はあるということだ。

 そう水前寺は考えたわけなのだが、そんなことは4人はもちろん、いきなり車を離れたと思ったら戻ってきた水前寺に、何の説明も無く連れてこられた美波にも到底理解できるはずも無い。

 ――いつのまにか場の雰囲気は緊迫したものから、疲れたような白けたようなものになっていた。



【C-1 道路 一日目 夜明け】

【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】肋骨数本骨折(応急処置済み)
【装備】なし
【所持品】支給品一式 、金属タンク入りの航空機燃料(100%)
【思考】
基本:この世界からの脱出、弱者の保護
1:知り合い(白井黒子、インデックス、上条当麻)との合流
2:当面は基本方針優先。B-1消滅の半日前ぐらいには黒子、当麻との合流を優先する。
3:人識への強い苦手意識。けど、彼の殺人を防ぎたい。

【備考】
※マップ端の境界線は単純な物理攻撃では破れないと考えています。
※この殺し合いが勝者の能力を上げる為の絶対能力進化計画と似たような物であるかも知れないと考えていますが、当面のところ誰かに言う気はありません。
※人識への苦手意識は彼を前にしたとき、少しからだが竦みます。会話ぐらいは平気。

【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態]:疲労(小) 背中に軽度のダメージ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ8本@空の境界、七閃用鋼糸6/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
1: ヴィルヘルミナが結構気に入った。
2:両儀式に興味。
3:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探すが、段々飽きてきている。
[備考]
原作でクビシシメロマンチスト終了以降に哀川潤と交わした約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。
ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです

【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、
     未確認ランダム支給品0~2個、缶詰多数@現地調達
[思考・状況]
1:まだ見える間に星空を確認したいんだよ
2:地図の「端」も確認したいんだよ。「なくなったエリア」も外から確認したいんだよ。
3:だから山に行って、天文台に行きたいんだよ
4:人識に対しての態度は保留

[備考]
※タイミング悪く騒いでいたため、D-4ホールでのステイルの宣言に全く気が付きませんでした。
※自分を含めた、一部(あるいは全て)の参加者が「コピー」である可能性を疑っています。
※『灼眼のシャナ』の世界について基本的な知識を得ました。

※【缶詰@現地調達】
インデックスがホテル厨房にて多数確保した。
肉、魚、野菜、フルーツなどの缶詰類。
肉や魚の缶はプルタブ形式なので缶切りは必要じゃなかったり。

ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(16/20)、缶切り@現地調達
[思考・状況]
1:当面、インデックスに付き合って、山または天文台を目指す
2:人識に対して不信。
3:登って来る彼らに対しては――?
[備考]
※封絶使用不可能。
※D-4ホールでのステイルの宣言は、部分的にしか聞き取れませんでした。大して重要視していません。
※自分を含めた、一部(あるいは全て)の参加者が「コピー」である可能性を疑っています。
※『とある魔術の禁書目録』の世界の魔術サイドについて、基本的な知識を得ました。

※【缶切り@現地調達】
ヴィルヘルミナがホテル厨房にて確保した。
ごく普通の業務用の缶切り。
家庭のものよりも素早く缶は切れるが、武器としての使用はオススメできない。

水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーを運転中
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、シズのバギー@キノの旅
[思考・状況]
基本:島田特派員と共に精一杯情報を集め、平和的に園原へと帰還する。
1:「彼ら」と交渉。可能ならば情報交換や協力したい。
2:当面は島田美波に付き合って、人探し。
3:間接的な情報ながら、『涼宮ハルヒ』に興味。

【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、服が消火剤で汚れている、シズのバギーの助手席に搭乗中、精神疲労(中)
[装備]:大河のデジタルカメラ@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:水前寺邦博と行動。吉井明久、姫路瑞希、逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨と合流したい。
1:も う い や
2: 逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨の三人を探して高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
3:竜児の言葉を信じ、「全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒ」を探す。


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前:SIDE BY SIDE 島田美波 次:『物語』の欠片集めて



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