KIT
プロローグ

近年アストローナ大陸は激しい抗争の只中にあった。
ディアス帝国が皇帝に新しくリン・ハザードをたててから周りの東方の都市の侵略を始めたのだ。
この圧倒的な軍事力の前に数々の国が膝を折った。
これを脅威とみた東方の都市は、そのディアスに対抗すべく近隣諸国と手を携え、ヴァルキオン都市同盟を組んだ。
目下、西と東ではにらみ合いが続いている。

アストローナ大陸から南東に位置するヴァーダ島。
その首都ガルヴァーダはアストローナ一、と呼ばれるほどの港を持ち、その自然を利用した観光に力を入れてきた。
その歴史には他国からの侵略という文字が無いかわりに、他の国に与えた政治的影響も少なかった。
常夏の楽園であるためシーズンともなれば大陸から金持ちが海を越えてやって来る。
その採算も含め、ガルヴァーダは旧オルフ時代から財政の安定した豊かな国だった。
最も本土の各地では一触即発の状態が続いているため、わざわざバカンスに来ようなどという者はここ数年ない。
つまり国全体の収入が減ってしまったわけだが、周りには新鮮な魚類、果物が豊富にとれるので民衆が食うに困る状況にまでは陥っていない。
民衆はなにせ侵略の危機が薄いため、まあそのうちなんとかなるだろう、といった自覚しか持っていなかった。
それが首都から離れた田舎であればなおさらだ。

その田舎――首都ガルヴァーダから東に60km、2日ほど馬車で行ったあたりに、まさに漁で主計を立てている自給自足の小さな町があった。
その町の目抜き通りから少し外れた所にある宿屋。 そこでは朝から、もう日課になりつつある青年の文句の声が響き渡っていた。
最終更新:2011年07月04日 17:57