想い
広場からすぐ、市場の中に異様な雰囲気の漂う店がある。
黒一色に塗られたその建物は、看板というものを出しておらず、何を売っているのか、そもそも中に人が居るのかも分からない。
何故なら建物の窓という窓は閉ざされ、厚いカーテンに覆われているため中の様子を探る事が出来ないのだ。
人々が避けて通る店にケンは躊躇わずに入っていく。
「じーさんいる?」
店内に入ると灯りは無く、暗闇がケンを覆う。
「今回は何がお入用かの」
そう言って奥の部屋からひょいひょいと店内を横切り俺の方に寄ってきたのはこの店の店主だ。
「この紙に書いてあるやつ頼むよ」
ポケットから紙を出し、じーさんに差し出す。
じーさんの身長は俺の腰までしかなく、暗闇で見るのはちょっとしたホラーだ。
「ふむ…これならすぐに用意出来るわい、待ってな」
そう言って、じーさんが奥の部屋に行き、一人残された俺は改めて店内を見渡した。
棚や壁は、何に使うのか分からないような道具に溢れていた。
俺が使っている仕込み傘や、吹き矢はじーさんの作品だ。
最初、おっちゃんにこの店に連れて来てもらった時は、あまりの暗さと不気味さにびびったものだ…
しかし、ここでの二年の修行のお陰で、この位の暗さなら敵がどこに居ようと一撃で仕留められる力を付けた。
一人になるといつも思い出すのが二年前の事件。
俺の力では助ける事の出来なかった少女。
今なら君を救う事が出来るのだろうか…
「出来たぞい」
「わっ!」
何時の間にか戻って来ていたじーさんが紙袋を放ってくる。
慌てて受け取り、紙袋の中身を確認し、代金をじーさんに渡す。
店を出ようと、ふと思い出し
「そうだ!じーさんから貰った麻酔薬、とっても役に立ったよ☆」
…どうりで…
今日は一人足りないと思ったわい…
「一応あれはモンスター用なんだがの…」
「大丈夫、おっちゃんなら半日で目を覚ますって」
ケンが帰った店内では、一人物思いにふける老人の姿が見られた…
「あやつが来るようになってから二年か…早いもんだわい」
何時の間にか一人でこの店に顔を出す方が多くなったの…
店を後にした俺は、本日の目的であった買い物をする為、市場を見渡す。
「今夜の夕飯は何にするかな~」
最終更新:2011年07月04日 18:03