KIT
死闘

洗濯物を干し終えて、俺達は食料の買い出しにと市場へ向かっていた。
その途中にある広場でおっちゃんはふと足を止め、俺に稽古をつけてやると言い出した。

「お手柔らかに頼むぜ、おっちゃ…ギャ―――!!」
俺が構えをとろうとした時にはすでにおっちゃんは俺に向かってもの凄い勢いで突進してきているところだった。
目の前まで迫って来ていたおっちゃんの巨体がいきなり消えたかと思うと、俺は背後に殺気を感じた。
振り向く間も無く頸動脈を絞められ生死の狭間を彷徨う。
こ、これはスリーパーホールド(関節技)!?
このままでは気を失いかねない。そう思った俺は力の限り暴れてようやくおっちゃんの腕から逃れた。
素早くおっちゃんから離れ、たとえ空に雲一つ無くても常に携えている傘に手をかける。
傘の柄の部分を一気に引き抜くと中に仕込まれていた剣が露になる。
稽古をつけてもらう筈がいつの間にやら殺し合いになっているような…
そんな雑念が瞬間頭を過ぎったが、隙あらばまた息の根を止められそうなので掻き消した。
「おっちゃん…行くよ!」
俺はそう言い放つとおっちゃん目掛けて走り出した。
正面からおっちゃんに突っ込んでいっても敵わないという事は今までの経験上、嫌という程分かっているので、走りがてら腰に提げている笛を吹く。
俺が笛を一吹きすると中に仕込まれていた麻酔針が目にも見えない速さで飛んでいく。
お頭の弱そうなおっちゃんはそれを避けようともせず、全て受け止めた。
…どうでもいいが、俺の服に穴が空いたようだ。
「こんなもの痛くも痒くもないわ!はははは…ウッ!!」
どうやら早くも麻酔針の効果が現れたようだ。
ほんの数秒前まで豪快に笑っていたおっちゃんが今は地べたを這い回っている。
と、思いきやもう動かなくなってしまった。
「はあ…俺一人じゃおっちゃん運べないし、どうしようかな…」
とりあえず俺は地面に転がっているおっちゃんを置き去りに、一人市場へと向かった。
最終更新:2011年07月04日 18:02