少年
市場にはやはり夕飯の買い出しにやって来た街中の人でにぎわっていた。
店先にはところせましと魚や野菜が売られており、特にこの島特産の赤や黄色の果物が目を引いている。
香辛料やちょっとした工芸品なんかも売られていて、例外的にさっきのじーさんの店のようなちょっと怪しいところもある。
うちの宿は一週間前に二、三人の客を泊めたくらいで、今日もお客はいない。
大陸からの客船も最近はやって来ないので、夕飯のメニューも適当でいいわけだ。
それなら今日はステーキにしてもらおうと思い、普段めったに入らない高級精肉店に入ってみる。
「う~ん、おっちゃんじゃないからどれがいい肉かなんて見分けられないよ…」
そこで俺はとりあえず一番高い肉を買ってみることにした。
おっちゃんからさっき抜き取った財布の中身までなくなってしまったので、いいわけを考えながら肉の包みをかかえて歩いていると、なにやら言い争う声が前の方から聞こえて来た。
「失礼なこと言うなよ!これはちゃんとしたお金だぞ!」
「ここではそんなもので物は買えないんだよ、困ったねえ…」
見ると、黒い上着に白の短いマントをはおったバンダナ頭の少年が、果物屋の店先で店員と押し問答している。
「おばちゃん!どうしたの」
「ああ、ケンかい。それがねえ、この子の持ってる硬貨なんだけど、ちょっと見てやってくれる?あんたなら分かるだろ?」
少年は手に小さな金色のコインを持っていた。
どうやら大陸の通貨で買い物をしようとしてトラブったらしい。
しかし、旅で様々な通貨を見てきた俺にもその模様は見たことがないものだった。
俺はあきらめて顔を上げた。
「しょうがないなあ…じゃあそれ、俺が買うよ」
わずかに残っていたお金と交換におばちゃんの持っているビニールの袋をうけとり、
「はい」
そのまま少年に渡す。
少年は呆然と受けとった袋を見ていたが、突然はじかれたように、
「俺は頼んでないぞ!こんなことしてなんのつもりだよ!」
こぼれそうなくらい大きな目を見開かせて叫んだ。
なんか、すごい吠えるちっさな犬みたいだな…
「ああ、実は代わりに両替はうちの宿屋でしてもらおうと思って☆」
この不景気、こんな子供にでもうちの宣伝をしておかなくてはならない。
ああ、俺ってなんて店想い。
それにおっちゃんならあの金貨もどこのものか分かるに違いない。
最終更新:2011年07月04日 18:03