KIT
秘め事

階段の脇にある自室に入ると、俺はベッドに突っ伏した。そのまま目を閉じて想う。
旅、かー…
あの四人組はどこから旅をして来たんだろう。そしてどこへ行くのだろう…
俺も大陸を旅してたことがあった。
でも、二年前、止めた。
目的のない旅に終止符を打ったのは一人の少女と会ったあの日。
あの日旅を続けることを考えさせられてから、俺はこの町を出ていない。
でも最近、旅の格好をした人に自然と目がいってしまう。
自分でも旅に惹かれているのが分かる。しかし俺は彼女のように理由を持っていない。強い意志も。
二年か…
彼女は今もあの強い瞳でいるのだろうか。でも俺はまだ…
夕焼けに照らされて俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
そう、あの少女の名前は、確か―――

おやじは数十分前に買い物袋をぶらさげて帰って来ていた。
今は台所に立って夕食の準備をしている。
何故かフリルのエプロンをつけていて、その姿はちょっと異様だった。
しかしそんな事など全く気にしないフェザは匂いにつられておやじの周りをうろうろしている。
台所には人数分の野菜が積まれていて、自分自身も大柄というせいもありおやじはちょっとフェザが邪魔だった。
「悪い、ちょっと二階からケン呼んできてくれるか?あいつまた昼寝でもしてるに違いねえ。」
「俺が手伝うよ!」
少年の純粋な申し出に、相手はふるふると首を振った。
「いやいや、お前はお客様だろ。そんなことさせるわけにはいかねえよ」
「分かった呼んでくるー」
あっさり納得したフェザが踵を返す。
「…パシリはいいんですか?」
階段をきしませながら駆け上がる少年の後ろ姿を目で追いながら優雅に紅茶を飲んでいた女僧侶が声をかけた。
「ねえちゃん硬いこと言うなよ!子供は走り回ってるのが正しい姿だぜい!」
おやじはそう言うとフライパンに油を引いて料理を再開した。
(ねえちゃん…?)
「おい貴様!クロスが呼んでるぜ!」
ふいに近くで声をかけられ思考を中断させられたロッカは、声の主である丸っこい生物が何故か自分の膝の上に乗っているのを見た。
瞬間投げ飛ばす。台所の方に飛んでいった。
「あっと、すみません手が勝手に!」
今投げ飛ばした生き物の相棒に謝罪する。
テーブルの上、ティーカップの中のティキはめずらしく身を乗り出して怒っていた。
「や、やめて下さい!口は悪くてもかわいい弟なんです…!」
「そうですか、呼んでるんですね?」
ロッカは相手の言葉をさらりと流しつつそのティキのあるかなしかの首根っこをつかみ席を立った。
ロッカは小動物が嫌いだった。

ティキの案内で宿の裏手にいる仲間を見つけた時、ボルとクロスは何故かじゃんけんをしていた。
どうやらクロスが勝ったらしい。ボルがしかめつらをした。
何をしているのかと怪訝に思いながらロッカは木に寄りかかっていたクロスにティキを投げる。
「そんなの使わずに、普通に呼んで下さい」
「…足りない」
「ちょっとおやじさんにバレたくない話なんだよなー」
「なんですか?」
「俺が言うのかー…いや、怒らないで聞けよ?実は…底ついちゃったんだよ。」
「何が?」
ちょっと嫌な予感がした。
「お金が☆」
「なんですって――!?」
最終更新:2011年07月04日 18:06