21世紀深夜アニメバトルロワイアル@ウィキ

永別

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永別 ◆x/rO98BbgY



密林の中を、歩く。
僅かにでも街灯が灯っていた市街地とは異なり、星の輝きですら覆い尽くす森の中は真正の暗闇だ。
武藤カズキは、マグライトで前方を照らしながら、信用出来そうな人間を探していた。
支給された名簿の中に、彼が知る人間の名前はない。
つまり参加者全てが彼とは無関係。無条件でカズキが信頼出来る人間は、この島にはいない。
だが最初に出会い、友好関係を築けた少女は大勢の信頼出来る仲間たちと共に連れて来られたらしい。

果たしてどちらがマシなのだろう。
孤立無援のカズキと、大勢の仲間たちがいる遠見真矢。
カズキは試しに妹や親友たちが、この会場に連れて来られていると想像してみて、背筋を冷たく凍らせる。
冗談ではなかった。
確かに会えれば心強いだろうが、それよりも不安で心が押し潰されそうになる重圧のほうがよっぽどキツい。
自分は運が良かったと、カズキは胸を撫で下ろす。
そして、あの少女が一人残った塔の中で、どれほど心を痛めているだろうと考えた。

「真矢ちゃんの為にも、早く見つけてやらないとな……」

 真壁一騎
 皆城総士
 遠見真矢
 羽佐間翔子
 カノン・メンフィス
 春日井甲洋
 近藤剣司
 小楯衛
 要咲良

遠見真矢と共に記載されている、名前の一覧である。
このうち、カノンという名には心あたりはないらしいが、他は全て真矢の知り合い。
見つかったら、塔で待つ真矢の元へと連れて行ってやろうとカズキは思う。

しかし――カズキは不審に思う。
こうして知り合いごとに名前が記載されているのだとしたら、自分の名が含まれる一群は一体何なのかと。

武藤カズキ
津村斗貴子
中村剛太
早坂桜花
早坂秋水
火渡赤馬
ヴィクトリア・パワード
ヴィクター

まるで見覚えのない名前ばかりだった。
外人らしき名前まで含まれているが、カズキは外人の知り合いなどいない。
自分のように、他に知り合いがいない人間を、適当に集めたのだろうか。
しかし、それだと早坂の名字を持つ二人の存在が引っ掛かる。
どう考えても、この二人は家族だろう。

「うーん。まぁ真矢ちゃんの所にも知らない子の名前が入ってたみたいだし……特に規則性があるってわけでもないのかなぁ」

どうせ、考えてもわからない事だったので、とりあえず名簿の事は頭の片隅に追いやる。
この名を持つ者と出会った時、事情を問いただせば自分との共通点も見つかるのかも知れない。

カズキは、支給されたバールのようなもので生い茂る雑草を掻き分けながら、神社を目指す。
起伏に富んだ自然の地形は、整備された市街を歩くよりも、ずっと体力を使う。
額に汗を流しながら、カズキは闇の中を歩いていた。

と、その時であった。
闇に慣れたカズキの視界が少しだけ明るくなり、森の茂みの中から建物が立ち並ぶ路地裏へと抜ける。

「ありゃ?」

森を出て、再びアスファルトで舗装された道路へと降り立ったカズキは、荷物からコンパスを取り出してみる。
南と東には森が広がり、北と西には市街地がある。
森の中を直進していたはずが、右手へと逸れてしまったようだった。

「暗いからなー。ちゃんとコンパス見ながら進まないと駄目かー」

ぼやき、再び森へと入ろうとして、カズキはもう一度周囲を見渡す。
ぽつりぽつりと、点在する光源に照らされた路地裏は、闇に慣れた目には妙にくっきりと見える。
そこで気付いた。
少し遠くの街灯の下、座り込んでいる小さな人影に。

「おお、さっそく発見! やっぱりオレって人探しの達人だったのか! おおーい!」

声をかけながら、小走りで駆け寄る。
人影は、呼びかけにも反応せず、ぐったりとしているようだった。
寝ているのだろうか。
近付いて、カズキはそれが違うという事に気付く。

人影は――少女は、死んでいた。
深く切り裂かれた脇腹から、大量に溢れだした鮮血が白地のセーラー服を赤く濡らしていた。
綺麗にカットされた黒髪。
顔を一文字に横切る傷が印象的な、その少女の死に顔は凛々しかった。

こんな寂しい場所で、満足して逝けた訳がない。
理不尽に断たれた、己の人生に納得している筈がない。
しかし、その死に顔は、そんな懊悩を全て呑みこんだかのようで――カズキは知らず、合掌していた。

この少女が、あの薄暗い工場でカズキが救おうとした少女である事に、彼は気付いていない。
そこから始まるはずだった運命を、彼は知らない。

それでも武藤カズキは、津村斗貴子の早すぎる死を、心から悼んだ。
初めて見た、この戦いでの犠牲者。
その尊厳に満ちた死に顔は、未だ一般人に過ぎない武藤カズキに戦士の心構えを教えるかのようであり――
言葉にならない何かを、カズキへと伝えたのだった。



湿った森の土を、バールのようなもので掘り返す。
小柄な少女一人埋められるだけの穴を掘るのは、かなりの重労働だった。

「最後に見送るのがオレなんかでゴメン。友達とか、家族に会いたかったよな……」

カズキは、腕の中に抱いた少女の体を、ゆっくりと土中へと横たえる。
森の片隅に作ったこの墓は、死者が眠りにつくには少し寂しすぎる場所かも知れない。
縁者が居たとしても、探し当てる事も出来ないかも知れない。
なにせカズキは、少女の名すら知らないのだ。
墓碑に名を入れてやる事すら出来ない。

それでも、路地裏の片隅に少女を放置していく事は、カズキには出来なかった。
吹きさらしの風に冷えていく体を、休ませてやりたかった。

少女の体に、黒々とした土をかける。
徐々に隠れていく、白皙の肌。
最後に顔の上に土をかけると、それで束の間の死者との別れは済んだ。
その辺で拝借してきた名も知らぬ花を盛土の上に乗せてやると、カズキは知る限りの鎮魂の経文を唱える。
心の中で、見知らぬ少女の死への悲しみとともに、こんなゲームを開催した主催者への怒りが燃え上がっていた。

「オレが……絶対に、この戦いを終わらせてみせるから。だから、今は――」

どうか、安らかに。
そんなカズキの願いが通じたのかどうか。


ありがとう。


そんな、聞き覚えもない少女の声が、聞こえたような気がした。






「……さてっ!」

気を取り直すかのように、カズキは元気よく声を出す。
思わぬ事で、大分時間を費やしてしまった。
まだ太陽こそ登ってはいないが、森の外は既に白じみ、朝靄がたゆたっている。
死者の埋葬に時間を使った事を後悔する気持ちは微塵もないが、放送前に帰ると約束した手前、もはや神社まで行って戻るだけの時間はないだろう。
なにより、人の死を現実に見た為か、一人残してきた少女が心配だった。

妹よりも幼い、中学生の少女。
はたして別れて行動するのは、適切だったのだろうか。
カズキの中で、少女の安否を気遣う気持ちが急激に膨れ上がる。
その足は、後にしてきた塔へ向かって、いつの間にか駆け出していた。


【一日目 C-6 森 早朝】

【武藤カズキ@武装連金】
[状態]:健康
[装備]:バールのようなもの@現実
[道具]:基本支給品×1、ランダム支給品0~2(確認済み)
[思考]
基本:生き残る
1:真矢ちゃんの所に戻る。
2:友好的な参加者を探す。
3:殺し合いが起きているかどうか確かめ、起きていれば止める。
[備考]
※一話にて、斗貴子を助ける為に飛び込む寸前からの参加です。



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034:黒豹少女-閃光と共に- 時系列順に読む 040:宿縁
015:鮫は地を這い、竜は天を撃つ 武藤カズキ 051:バタフライエッジ

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