鬱陶しい。揺れる車体が。
鬱陶しい。手足を戒める錠が。
鬱陶しい。自分の思い通りに事を運ばせない世界が。
鬱陶しい。手足を戒める錠が。
鬱陶しい。自分の思い通りに事を運ばせない世界が。
(クソっ!クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがっ!!)
『天岩戸事件』。
次代の日本を背負うと目される第64代目日ノ本 八千代を攫い、人質となった彼女の身柄と引き換えに莫大な身代金並びに国防の要となる遺継装具(オーパーツ)や重要霊地の破棄といった要求を突き付けた国家転覆計画。
日本国政府が従っても従わなくても「日本」という国に甚大な損害を齎し、機能不全の混乱に陥れることが出来るはずであった。
しかし珠代が立案し、実行したこの計画は『カミガカリ』を始めとする巫女達と警察の連携により阻止された。
日本国政府が従っても従わなくても「日本」という国に甚大な損害を齎し、機能不全の混乱に陥れることが出来るはずであった。
しかし珠代が立案し、実行したこの計画は『カミガカリ』を始めとする巫女達と警察の連携により阻止された。
(照咲 陽菜……!)
計画が完遂する直前で激突した『カミガカリ』のリーダーの少女。
実戦経験と人を傷付けることへの躊躇いの差から当初は珠代が圧倒的優位に立っていた。
それこそ殺す寸前にまで追い込む程に。
だが、逆転を許した。許してしまった。
実戦経験と人を傷付けることへの躊躇いの差から当初は珠代が圧倒的優位に立っていた。
それこそ殺す寸前にまで追い込む程に。
だが、逆転を許した。許してしまった。
(おのれ……!土壇場でシンクロ率の急上昇だとぉ……!何が「みんなとの絆の力」だ馬鹿馬鹿しい!くだらない!くだらない!くだらない!)
戦闘においてやってはならないことを幾つもしでかしたことが己の敗因だというのに、それを棚に上げて珠代は怨敵へ更に憎悪を募らせていく。
(64代目が成長するまでの繋ぎのくせに!埋め合わせのくせに!当て馬のくせに!生意気にもワタシ様と張り合うだなんて……!お前はあの場でワタシ様に殺されているべきだっただろうが!そうだあんなものは紛れだ。卑怯な騙し討ちだ。紛い物風情にワタシ様は負けていない!)
貴船 珠代が掲げる「命を奪われない限り敗北ではない」という理念に従うならば、確かに彼女は敗北していないのかもしれない。
尤も、捕らえられて身動きも取れずにただ荷物のように積まれて運ばれている今の状況を「敗北者」と呼ばないなら何と称するべきか定かでは無いが。
尤も、捕らえられて身動きも取れずにただ荷物のように積まれて運ばれている今の状況を「敗北者」と呼ばないなら何と称するべきか定かでは無いが。
(「こんな物」などいつもなら糸屑のように引き千切ってやるのに……!)
珠代は自分を拘束する遺継装具(オーパーツ)でも何でもないステンレス製のありふれた手錠と足錠へ忌々し気に視線を落とす。
巫女相手ではあまりにも頼りなさげな戒め。
それが今や十全な効果を発揮している。
即ち、彼女は現在限りなく巫女としての力を失っていることを意味していた。
巫女相手ではあまりにも頼りなさげな戒め。
それが今や十全な効果を発揮している。
即ち、彼女は現在限りなく巫女としての力を失っていることを意味していた。
(──────闇龗神。やはり無茶をさせ過ぎたか。こちらから呼びかけても反応すらしない)
原因は組織が行っていた『臨界者』でなくとも巫女の命を落とさずに『超過顕現(オーバークローズ)』を発動することを目的に進められていた禁断の実験。
そのデータを参考に照咲 陽菜に追い詰められた際に珠代は一か八かの奥の手として自爆覚悟で闇龗神が保有する龍神の側面を表出化させ、ドラゴンとして解放してみせた。
が、これも結局は集結した『カミガカリ』によって鎮圧された。
かの邪神は完全消滅を何とか免れ這々の体で戦闘不能となっていた依代の元へと再び戻ったものの、今にも消えてしまいそうな程に酷く衰弱していた。
そのデータを参考に照咲 陽菜に追い詰められた際に珠代は一か八かの奥の手として自爆覚悟で闇龗神が保有する龍神の側面を表出化させ、ドラゴンとして解放してみせた。
が、これも結局は集結した『カミガカリ』によって鎮圧された。
かの邪神は完全消滅を何とか免れ這々の体で戦闘不能となっていた依代の元へと再び戻ったものの、今にも消えてしまいそうな程に酷く衰弱していた。
(正確に測ったワケじゃないがわかる。ワタシ様のシンクロ率は今、かつてない程に低下している)
後先考えない即興の術式の反動に加えて神性そのものに与えられた多大なダメージが闇龗神の存在を不安定にしていた。
下手すれば契約を維持できずに次の瞬間にでも霧散して『座』へと退去してしまうかもしれない。
それはつまり巫女としての死。
力を完全に失うことを意味している。
下手すれば契約を維持できずに次の瞬間にでも霧散して『座』へと退去してしまうかもしれない。
それはつまり巫女としての死。
力を完全に失うことを意味している。
「……………………………………………………」
このまま『奈落』に収監されたら果たしてどうなるだろうか。
人の命など幾らでも奪って来た。その他有象無象の余罪など数えることすら億劫だ。
何の躊躇いも、罪悪感も抱かずに。
貴船 珠代はありとあらゆる悪行に手を染めてきた。
どれだけ腕利きの弁護人がいたとしても、少なくとも一生幽閉は免れない量刑であることが確実視される程に。
だが、そんなことは真っ平ご免だ。
人の命など幾らでも奪って来た。その他有象無象の余罪など数えることすら億劫だ。
何の躊躇いも、罪悪感も抱かずに。
貴船 珠代はありとあらゆる悪行に手を染めてきた。
どれだけ腕利きの弁護人がいたとしても、少なくとも一生幽閉は免れない量刑であることが確実視される程に。
だが、そんなことは真っ平ご免だ。
(嫌だ……!嫌だっ!!ワタシ様がこんな無様な末路を迎えるなんてあり得ない……!自由も何もかもを奪われるなんて耐えられない!このまま失敗したままでいられるものか!ワタシ様を見下して来た全てのカス共を踏み潰すまでワタシ様は、ワタシ様は……っ!誰か……誰でもいい!助けろ!ワタシ様を今すぐにでも助けろ……!!)
天井を見上げて瞼を裂かんばかりに目を見開き、袋小路の八方塞がりに囚われた事態の打破を乞い願う。
果たしてその祈りが聞き届けられたのか。
悔しさと絶望から奥歯を砕きそうな程噛み締めている最中。
果たしてその祈りが聞き届けられたのか。
悔しさと絶望から奥歯を砕きそうな程噛み締めている最中。
キキィッッッ!!っと言う音が車内に響き渡る。
「──────ぅぐっ!!」
突如働く慣性の法則とそれに伴う前へと引っ張られる感覚。
手足を満足に動かせない珠代は抗えず、為す術もなく床をイモムシのように転がされる。
手足を満足に動かせない珠代は抗えず、為す術もなく床をイモムシのように転がされる。
(急ブレーキ……?)
辺りをキョロキョロと見渡しても何が起こったのかがわかるはずが無いので、取り敢えず這いつくばったまま耳を澄まして様子を伺う。
何やら外が騒がしい。
何やら外が騒がしい。
『何……前は……!?』
『止ま……!…………ぎっ……!?』
『誰……応援……べ!早……ぐぁ……っ……!』
『止ま……!…………ぎっ……!?』
『誰……応援……べ!早……ぐぁ……っ……!』
壁越しでは上手く聞き取れない。
しかし、理解出来ることが一つ。
外では護衛達にとって何か予想外の出来事が起こっている。
しかし、理解出来ることが一つ。
外では護衛達にとって何か予想外の出来事が起こっている。
(一体何が……?事故か?)
騒ぎ自体は直ぐに収まった。
ものの30秒も経たないうちに声は聞こえなくなり、車内は静寂に包まれる。
ものの30秒も経たないうちに声は聞こえなくなり、車内は静寂に包まれる。
「…………………………………………」
何か物凄く、彼女にとって身に覚えの有る不吉な予兆が感じ取れたその時。
護送車の後部ドアが開け放たれ、何者かのシルエットが逆光に浮かび上がった。
護送車の後部ドアが開け放たれ、何者かのシルエットが逆光に浮かび上がった。
「!」
「何だ。意気消沈しているかと思えば存外調子が良さそうではないか」
「何だ。意気消沈しているかと思えば存外調子が良さそうではないか」
現れたのは荘厳な漆黒のドレスを身に纏った女。
『モノリス』の幹部を務め上げているハデスの巫女。
『モノリス』の幹部を務め上げているハデスの巫女。
「ゾイ……アンブロシア……!」
貴船 珠代がある意味今この世で最も見たくない顔だった。
(よりにもよってお前が来るか……!となると外の連中は……)
珠代は今回の事件の首謀者であるため、その護送には手練れの巫女達が就けられていたはずであった。中には実力だけなら珠代を上回る者が何人も。
更に一種の結界門として機能していた後部ドアのロックは何重にも掛けられ、それぞれの解錠に必要な鍵はダミーを含めて分担して所持していた。
更に一種の結界門として機能していた後部ドアのロックは何重にも掛けられ、それぞれの解錠に必要な鍵はダミーを含めて分担して所持していた。
だが、こうしてゾイ=アンブロシアは傷一つ負わず、余裕の態度で貴船 珠代の前にいる。
それは即ち、あれだけいた護衛は誰一人余すこと無く全員がこの短時間で無力化されたことを意味していた。
そのような真似がいとも容易く出来てしまう目の前のハデスの巫女の実力に改めて戦慄と畏怖を覚えながらも珠代は口を開く。
そのような真似がいとも容易く出来てしまう目の前のハデスの巫女の実力に改めて戦慄と畏怖を覚えながらも珠代は口を開く。
「こ、これはこれは多忙極める幹部サマがワタシ様の為に直々に来られるとは。一体如何様で?」
「別に貴様の為ではない。組織の為だ」
「別に貴様の為ではない。組織の為だ」
「組織の為」と聞いて珠代は薄くほくそ笑む。
つまり『モノリス』にとって自分はまだ必要な人材だと評価されているということ。
こうして幹部が直接赴いて奪還しに来ること自体が価値を見出され、重要視されている証に他ならないのだから。
遣わされた相手は最悪だが再起の目処は立った。自分はまだ見放されてはいない。
歓喜から思わず口から安堵の言葉が零れ落ちる。
つまり『モノリス』にとって自分はまだ必要な人材だと評価されているということ。
こうして幹部が直接赴いて奪還しに来ること自体が価値を見出され、重要視されている証に他ならないのだから。
遣わされた相手は最悪だが再起の目処は立った。自分はまだ見放されてはいない。
歓喜から思わず口から安堵の言葉が零れ落ちる。
「助かっt
「何を思い違いをしている?」
「何を思い違いをしている?」
が、しかし。
言い終えるよりも早く。
ゾイ=アンブロシアは徐ろに珠代の首を掴み上げて勢い良く壁に叩き付けた。
背中への衝撃と気道が圧迫されて酸素を絶たれたことにより、珠代の顔はみるみる苦悶の色へと染まっていく。
言い終えるよりも早く。
ゾイ=アンブロシアは徐ろに珠代の首を掴み上げて勢い良く壁に叩き付けた。
背中への衝撃と気道が圧迫されて酸素を絶たれたことにより、珠代の顔はみるみる苦悶の色へと染まっていく。
「かっ……ァ、……ハッ!」
「私が訪れた目的は貴様の身柄の確保では無い。──────粛清だ」
「私が訪れた目的は貴様の身柄の確保では無い。──────粛清だ」
「粛清」。
その一言で珠代は酸欠の苦しみすら忘れて背筋を凍らせ、額から冷や汗を一気に噴き出した。
その一言で珠代は酸欠の苦しみすら忘れて背筋を凍らせ、額から冷や汗を一気に噴き出した。
「『助かる』だと?随分とめでたい思考を持っているようだな。まさか貴様、自分が口封じで消されないと欠片でも思い浮かべていなかったのか?」
『モノリス』幹部の女は酷薄に告げる。
その言葉と珠代の喉を掴む掌からは同胞を手に掛けることへの忌避感や情は全く感じられない。
只々、食い込んだ指のように全ての言葉が冷たかった。
その言葉と珠代の喉を掴む掌からは同胞を手に掛けることへの忌避感や情は全く感じられない。
只々、食い込んだ指のように全ての言葉が冷たかった。
「貴様が出来ると宣言したから一任したというのに。目標を達成出来なかった挙句、徒に構成員を減らして組織全体の力を損なわせた。更に此度の件で日ノ本家への警備は強化されることが予想される。再度の襲撃は困難となるだろう。そして、最も重大なミスは国家規模の事件を解決したという成功体験を得たこの国の巫女が団結力を高めてしまったことだ。全て指揮を執った貴様に責がある」
「っ、げ……!は……な………………ぜ……っ…………!」
「っ、げ……!は……な………………ぜ……っ…………!」
手も足も出ない状況で憎たらしい相手によって己の罪状をツラツラと読み上げられるのは珠代にとって当に腸が煮えくり返る気分であった。
長々話しているのはおそらくは苦痛を引き延ばすため。それを含めて益々腹立たしい。
尤も、このままでは憤死するより前に首を折られるか窒息死しかねないが。
一方で、確かに処刑される理由としては十分過ぎると今更ながら理解する。
認めたくはないが全て事実故に反論を挟めない。
というか物理的に発声を封じられているのでどちらにせよ無理だ。
長々話しているのはおそらくは苦痛を引き延ばすため。それを含めて益々腹立たしい。
尤も、このままでは憤死するより前に首を折られるか窒息死しかねないが。
一方で、確かに処刑される理由としては十分過ぎると今更ながら理解する。
認めたくはないが全て事実故に反論を挟めない。
というか物理的に発声を封じられているのでどちらにせよ無理だ。
「貴様には失望した。おい、無能。何か言い遺すことは有るか?」
「が……っ、ゴホッ!エッホ、ぐふっ!」
「が……っ、ゴホッ!エッホ、ぐふっ!」
ゾイは粛清対象から遺言を受け取るべく喉から手を離す。
久方ぶりに地面の感覚と呼吸を取り戻し、珠代は噎せつつも目一杯酸素を肺に取り込む。
だが、命の危機は現在進行系で続いている。
ここで言葉を誤れば比喩抜きで人生が終わるのは確実。
生き延びる為に何を言うべきか。
久方ぶりに地面の感覚と呼吸を取り戻し、珠代は噎せつつも目一杯酸素を肺に取り込む。
だが、命の危機は現在進行系で続いている。
ここで言葉を誤れば比喩抜きで人生が終わるのは確実。
生き延びる為に何を言うべきか。
(どうするどうするどうする!?今すべきこと、命を繋ぐために出来ることはっ!?そんなの決まっている!ワタシ様の利用価値を示すしかない!戦力……は駄目だ。巫女としての力を失っているかもしれないからアテには出来ない!ならば提供するなら情報!嘘をついても直ぐにバレる程度のものはNG。必要なのは真実!そう、真実だ!ワタシ様しか知らない組織にとって有益な情報……。……どれだ?どれだ!?どれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだどれだっ!?──────あ)
焦りすらも振り切って思考を加速させ、記憶を探ったその末に辿り着いたとある地名を絞り出す。
「八丈島……」
東京から南へ約300km沖合に浮かぶ島。
それが貴船 珠代が己の命運を託すに足ると選び抜いたワードであった。
それが貴船 珠代が己の命運を託すに足ると選び抜いたワードであった。
「計画の進行している最中に遭遇した龍教会の重鎮の男から聞いた……!たしか名前は……。そう、簸川 尊之と名乗っていた!そいつの話によれば近いうちに奴らはあの島で『カミガカリ』を巻き込んで何かデカいことをやろうとしている!その際に一時停戦して協力するように取り付けたんだ!う、嘘じゃないっ!連絡先を伝えられた!でも、手段は電話や電子メールじゃないからワタシ様じゃなければ窓口に繋ぐことは出来ない!」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
何やらキナ臭い情報を前にゾイの眼輪筋が僅かに反応した瞬間を珠代は見逃さなかった。
つまり目の前の幹部サマは少なくとも自分の言っていることに関心を抱いている。
戯言と判断して無視するか、遮って即座に命を摘み取らないのが何よりの証拠だ。
突破口を見つけた。
畳み掛けるならば、ここだ。
つまり目の前の幹部サマは少なくとも自分の言っていることに関心を抱いている。
戯言と判断して無視するか、遮って即座に命を摘み取らないのが何よりの証拠だ。
突破口を見つけた。
畳み掛けるならば、ここだ。
「どうする!?奴らが起こそうとしている計画は今回の事件と同じく日本の存亡におそらく関わる。成功は極東における龍教会とドラゴンの台頭を許して間違い無く『モノリス』に少なくない損害を与えるぞ!下手すれば第2のエジプト、ワラキアが誕生するかもな!でも、ワタシ様を生かしておけば奴らを信用させた所で裏切って上手くことを運べば利益を総取り出来る!」
自分の命運が掛かっている極限の緊張感から脳内でアドレナリンが分泌され、未だかつて無い程に弁舌が回る。
生殺与奪の権利はどう足掻いても向こうが握っている。それはもう覆しようは無い。
ならば命を拾うには会話のペースをこちらに傾かせ、一見無茶苦茶な内容であっても勢いで無理矢理にでも納得させてみせる!
生殺与奪の権利はどう足掻いても向こうが握っている。それはもう覆しようは無い。
ならば命を拾うには会話のペースをこちらに傾かせ、一見無茶苦茶な内容であっても勢いで無理矢理にでも納得させてみせる!
「さぁ、よく考えて選べ!ワタシ様を殺して取り返しのつかない事態を見過ごして後悔するか!生かして邪魔者を一網打尽にする千載一遇のチャンスをモノにするか!」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
決死の啖呵を切り終えると車内を再び沈黙が貫く。
出せる手札は全て掲示した。
これでダメならもう本当にどうしようもない。
ゾイは射抜くように冷たい眼差しはそのままに、吐き出された情報を頭の中で吟味し秤にかけていることだろう。
裁定の行方は果たして──────。
出せる手札は全て掲示した。
これでダメならもう本当にどうしようもない。
ゾイは射抜くように冷たい眼差しはそのままに、吐き出された情報を頭の中で吟味し秤にかけていることだろう。
裁定の行方は果たして──────。
「……………………………………………………」
そして、1分にも1時間にも感じられた重苦しい時間が流れ。
「わかった。この場は生かしておいてやろう」
ハデスの巫女は刑の執行の延期を選択した。
「ただし次は無い。これ以上のミスは許されないと知れ」
「……っ!ぐ……」
「並びに自由に行動することを禁止し、暫く私の意向で働いて貰う。これだけの事をしでかしたのだ。異存は無いな?」
「………………………………はい」
「……っ!ぐ……」
「並びに自由に行動することを禁止し、暫く私の意向で働いて貰う。これだけの事をしでかしたのだ。異存は無いな?」
「………………………………はい」
歯を食いしばり過ぎて歪んだ表情で珠代は短い応答を返す。
何とか命を繋げたことは喜ばしいが、この世で最も嫌いな相手に媚びへつらう筆舌に尽くし難い屈辱が精神を炙る。
ブチリと物理的に頭の血管が切れる音が今にも聞こえてきそうですらあった。
何とか命を繋げたことは喜ばしいが、この世で最も嫌いな相手に媚びへつらう筆舌に尽くし難い屈辱が精神を炙る。
ブチリと物理的に頭の血管が切れる音が今にも聞こえてきそうですらあった。
「自らの幸運に感謝するんだな。では、ついて来い。貴様のような無能一人に構っている暇など私には無い。捕らえられた同胞が『奈落』に移送される前に出来るだけ『処断』しなければ。……ここからだと円谷姉妹が近いか」
「処断」とは即ち珠代がされたように「奪還」か「粛清」するのかの裁決を下すことを意味しているのだろう。
有用性を示すことが出来れば生き永らえる。
そうでない者はその場で口封じに消される。
そうでない者はその場で口封じに消される。
自分も一歩間違えれば後者の末路を辿っていたのかもしれなかったと思いを馳せつつ、漸く生きるか死ぬかの重圧から解放された珠代は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
一方で、次の目標を定めた『モノリス』の幹部はこちらを振り返りもせずに踵を返して車外へと歩き出していく。
珠代はその背中をじっとりと眺めながら、憎悪の炎を心の内で激しく燃え上がらせていた。
一方で、次の目標を定めた『モノリス』の幹部はこちらを振り返りもせずに踵を返して車外へと歩き出していく。
珠代はその背中をじっとりと眺めながら、憎悪の炎を心の内で激しく燃え上がらせていた。
(許さん……!絶対に許すものか……!ゾイ=アンブロシア……!いつかお前の寝首を掻いてワタシ様が味わった以上の屈辱に溺れさせながら始末してくれる……!そして──────)
更にもう一人。
復讐対象がいる。
今回の事件において計画を阻み、恥をかかせた天照大神の巫女。
復讐対象がいる。
今回の事件において計画を阻み、恥をかかせた天照大神の巫女。
(照咲 陽菜……。こいつさえいなければ全てが上手くいくはずだった。キ、キキキ……!待っているがいい……!八丈島こそがお前達『カミガカリ』の墓場だ!ワタシ様は死なない!この怨念を晴らすまでワタシ様は永久に不滅だ!)
闇龗神からの反応は未だ返って来ず、巫女として復帰出来るかは不明。
アジトへ帰った後、自分への処遇が変更されてやはり粛清されるかもしれない。
アジトへ帰った後、自分への処遇が変更されてやはり粛清されるかもしれない。
それがどうした。
どのようになろうとも「敵」を尽く全て地獄に叩き落とすまで。
決して止まってなるものか。
どのようになろうとも「敵」を尽く全て地獄に叩き落とすまで。
決して止まってなるものか。
ドス黒く染められた誓いを新たに貴船 珠代は濃さを増した闇の中へと踏み出していく。