長太とみを 903 ◆AN26.8FkH6様
わたしの世界は狭い。
家を出れば、家の裏口の小さな井戸と井戸を共用している隣家、そしてその先の数軒がよりあつまった村のなかほどと、庄屋さんのところまで。
裏口の少し先には小さな川があって、その先は山。わたしは、川があることを知っているけど、そこまで行ったことがない。危ないから近づいては駄目だと、父さんに固く言いつけられていた。
その父さんも三年前に死んだ。
今は、父さんが残してくれたこの小さな家と、わたしに子守を頼んでくれる数軒を往復して暮らしている。
日中は小さな子供を預かってあやし、夕刻、皆が畑から戻ってくると子供たちを家に帰し、家に帰って分けてもらった夕飯をいただく。火はつかわない。やはり、危ないからお前は使ってはいけないと父さんに言いつけられているから。
今日は、ふかした芋を隣家から分けてもらった。
すこし風が入るので、なるべく風がこないところ、部屋の隅によって芋をいただいていたら、戸口から軽い物音がした。
誰かが戸口を叩く音だ。
家を出れば、家の裏口の小さな井戸と井戸を共用している隣家、そしてその先の数軒がよりあつまった村のなかほどと、庄屋さんのところまで。
裏口の少し先には小さな川があって、その先は山。わたしは、川があることを知っているけど、そこまで行ったことがない。危ないから近づいては駄目だと、父さんに固く言いつけられていた。
その父さんも三年前に死んだ。
今は、父さんが残してくれたこの小さな家と、わたしに子守を頼んでくれる数軒を往復して暮らしている。
日中は小さな子供を預かってあやし、夕刻、皆が畑から戻ってくると子供たちを家に帰し、家に帰って分けてもらった夕飯をいただく。火はつかわない。やはり、危ないからお前は使ってはいけないと父さんに言いつけられているから。
今日は、ふかした芋を隣家から分けてもらった。
すこし風が入るので、なるべく風がこないところ、部屋の隅によって芋をいただいていたら、戸口から軽い物音がした。
誰かが戸口を叩く音だ。
「みを、居るか?」
「いるよ」
「いるよ」
わたしが答えると、戸口がそろりと開いて、寒い風と共に誰かがぬっと入ってきた。
獣くささと汗と血の匂いがした。
その匂いを嗅ぐと、わたしはうれしくなってしまい、顔がゆるんでしまう。
長太だ。
獣くささと汗と血の匂いがした。
その匂いを嗅ぐと、わたしはうれしくなってしまい、顔がゆるんでしまう。
長太だ。
「また芋なんか食ってるのか。少し待て、兎捕ってきてやったから」
「本当?うれしい」
「その前に火つけさせてくんな。こう暗くちゃ何も見えね」
「本当?うれしい」
「その前に火つけさせてくんな。こう暗くちゃ何も見えね」
軽く石の打ち合わさる音がして、少し周りが明るくなった。
うちに灯りはない。油も灯り台も、彼がいつの間にか持ち込んでいたものだ。
長太は、わたしの幼馴染だ。昔からわたしを気にかけてくれ、あれやこれやと世話を焼いてくれていた。父さんが死んでからは、夕刻になるとよく顔を出してくれる。
父さんがいたころは、父さんに遠慮していたのか、よくこっそりと肉だの木の実だのを夜のうちに届けてくれていたりもした。
ごそごそと囲炉裏に鍋をかけ、火を入れ、捕ってきた兎をさばいているのか生臭い匂いが鼻先にひろがるのを嗅ぎながら、わたしはぼんやりと待っていた。
長太が何かしている時にわたしが手伝おうとすると、邪魔だから手伝うなと怒られるのだ。
何をするのだって長太の方が手際がいい。
うちに灯りはない。油も灯り台も、彼がいつの間にか持ち込んでいたものだ。
長太は、わたしの幼馴染だ。昔からわたしを気にかけてくれ、あれやこれやと世話を焼いてくれていた。父さんが死んでからは、夕刻になるとよく顔を出してくれる。
父さんがいたころは、父さんに遠慮していたのか、よくこっそりと肉だの木の実だのを夜のうちに届けてくれていたりもした。
ごそごそと囲炉裏に鍋をかけ、火を入れ、捕ってきた兎をさばいているのか生臭い匂いが鼻先にひろがるのを嗅ぎながら、わたしはぼんやりと待っていた。
長太が何かしている時にわたしが手伝おうとすると、邪魔だから手伝うなと怒られるのだ。
何をするのだって長太の方が手際がいい。
「長太、ふかし芋食べる?」
「おう、一口もらうか」
「おう、一口もらうか」
差し出した芋を、大きな手が小さく千切っていった。
一口で食べてしまったらしく、食べる音もしなかった。長太は大男なのだ。昔は私と同じぐらい小さかったくせに。
一口で食べてしまったらしく、食べる音もしなかった。長太は大男なのだ。昔は私と同じぐらい小さかったくせに。
「もっといっぱい取ればいいのに」
「ばか、女の食いもんを全部取っていくようじゃ男じゃねえ。男は、女に飯を食わせてなんぼなんだ」
「ばか、女の食いもんを全部取っていくようじゃ男じゃねえ。男は、女に飯を食わせてなんぼなんだ」
パチパチと火のはぜる音を聞きながら長太と話すのはうれしい。
「なんでェ、何にやついてるんだ」
「へへ」
「へへ」
照れくさくなって笑うと、長太に手をひっぱられた。
「ほら、そろそろ兎が煮えるぞ、こっちこい」
火の近くに座らされて、長太と手をつないだまま温まる。暖かい。
わたしも火をつかえたらよかったんだけど。
できたぞと手にあたたかな椀と木べらを握らされて、すくってみると小さくなった兎の肉が、口の中に広がった。兎は、小さいころに生きているのを触ったことがある。ふわふわした毛が気持ちよかったけど、撫でたらぶるぶるしていた。死んだ兎は毛を剥がされておいしく食べられてしまう。
長太が隣でガツガツと食べ始める。
わたしも火をつかえたらよかったんだけど。
できたぞと手にあたたかな椀と木べらを握らされて、すくってみると小さくなった兎の肉が、口の中に広がった。兎は、小さいころに生きているのを触ったことがある。ふわふわした毛が気持ちよかったけど、撫でたらぶるぶるしていた。死んだ兎は毛を剥がされておいしく食べられてしまう。
長太が隣でガツガツと食べ始める。
「長太、おいしいよ」
「おう」
「おう」
ぶっきらぼうな返事がやっぱりうれしかった。
最近長太は、三日とあけずに来てくれて、こうして色々と作ってくれる。
父さんと同じ猟師なのだ。山で獣を捕ったりしているらしい。
彼の作ってくれるご飯もおいしいのだけど、わたしは長太と一緒に過ごせるのが一番うれしい。
食事が終わると、囲炉裏に火は入れたまま、鍋と椀を片付けられる。
寒いので長太の背中にくっついていると、「ねこみてぇだな、おめえ」と言われた。
最近長太は、三日とあけずに来てくれて、こうして色々と作ってくれる。
父さんと同じ猟師なのだ。山で獣を捕ったりしているらしい。
彼の作ってくれるご飯もおいしいのだけど、わたしは長太と一緒に過ごせるのが一番うれしい。
食事が終わると、囲炉裏に火は入れたまま、鍋と椀を片付けられる。
寒いので長太の背中にくっついていると、「ねこみてぇだな、おめえ」と言われた。
「ねこってなに?」
「ねこってのは…あー、兎みてえな、ちっこくてふわっこいいきもんだ。寒い時は人にくっついてきやがる。あとにゃあにゃあ鳴いて鼠や鳥を捕ったりもすんな」
「へえ!うちの近くにはいない?」
「村の反対側の笹吉の家で飼い始めたらしいぜ。隣村からもらってきたんだと。
ねこ、ほしいのか?」
「わかんない」
「今度見つけたら、つれてきてやるよ。自分で食い扶持は稼いでくるらしいからみをでも飼えんじゃねえか」
「うん」
「ねこってのは…あー、兎みてえな、ちっこくてふわっこいいきもんだ。寒い時は人にくっついてきやがる。あとにゃあにゃあ鳴いて鼠や鳥を捕ったりもすんな」
「へえ!うちの近くにはいない?」
「村の反対側の笹吉の家で飼い始めたらしいぜ。隣村からもらってきたんだと。
ねこ、ほしいのか?」
「わかんない」
「今度見つけたら、つれてきてやるよ。自分で食い扶持は稼いでくるらしいからみをでも飼えんじゃねえか」
「うん」
本当は、ねこじゃなくて長太がいればいいなって言葉は言わないでおいた。
大きい手がわたしのほっぺを撫でて、髪を撫でて、わたしはその手にほっぺをつけて暖かさと大きさを楽しんだ。
なにしろ、彼の手はかなり大きい。わたしの顔をひとつかみで掴めちゃう。
毛も生えてるし、ゴワゴワしてて、そのくせとても器用だ。
髪を撫でてくれてた手がするすると着物のあわせから、潜り込んできた。
ふにふにとお乳を触って、さきっちょをちょこっとつままれる。
大きい手がわたしのほっぺを撫でて、髪を撫でて、わたしはその手にほっぺをつけて暖かさと大きさを楽しんだ。
なにしろ、彼の手はかなり大きい。わたしの顔をひとつかみで掴めちゃう。
毛も生えてるし、ゴワゴワしてて、そのくせとても器用だ。
髪を撫でてくれてた手がするすると着物のあわせから、潜り込んできた。
ふにふにとお乳を触って、さきっちょをちょこっとつままれる。
「ん…」
「ちっとも大きくなんねえなあ、お前の乳は。栄養が足りなかったかな。毎日揉んでたらでかくなるって聞いたんだけどガセか」
「そ、そんなに小さい?」
「でかくはない」
「ちっとも大きくなんねえなあ、お前の乳は。栄養が足りなかったかな。毎日揉んでたらでかくなるって聞いたんだけどガセか」
「そ、そんなに小さい?」
「でかくはない」
きっぱり言われるとちょっと悲しい。
「毎日長太が揉んでくれたら大きくなる?」
「毎日おれに揉ませてくれんのか?」
「うん」
「そいつはいいな」
「毎日おれに揉ませてくれんのか?」
「うん」
「そいつはいいな」
背中から抱っこされて、長太はあいかわらずお乳をふにふにと揉みながら楽しそうに笑った。
背中が温かい。長太の手も暖かい。
長太が着ている毛皮とか、ガサガサの荒い布の着物とかを通して、長太の体温がわたしに伝わる。
もう片方の手が足の間にきて、ふとももを撫でながらおまたの中に入ってきた。
くちゅっと音がした。
背中が温かい。長太の手も暖かい。
長太が着ている毛皮とか、ガサガサの荒い布の着物とかを通して、長太の体温がわたしに伝わる。
もう片方の手が足の間にきて、ふとももを撫でながらおまたの中に入ってきた。
くちゅっと音がした。
「…ぁっ」
「とろとろだな、みをの中」
「ちょ、長太がさわるからだよお…」
「とろとろだな、みをの中」
「ちょ、長太がさわるからだよお…」
太い指が何本もはいってきて、ぐるりとかき回された。にちゃっにちゃっと音がして、足の間がものすごく濡れてきているのがわかった。
「んん……っあ…っ、気持ち、いいよお……」
「最初は痛い痛いって泣いてた泣き虫が、慣れてきたもんだ」
「だってぇ……」
「お前わかってるか?今、おれの指、四本くわえ込んでんだぞ?」
「そ、そんなに入ったら、広がっちゃう、よ…っやっ」
「気持ち良さそうに下の口開けて、蜜垂らして何言ってんだ」
「やっかきまわしちゃ…っんあ…っ」
「最初は痛い痛いって泣いてた泣き虫が、慣れてきたもんだ」
「だってぇ……」
「お前わかってるか?今、おれの指、四本くわえ込んでんだぞ?」
「そ、そんなに入ったら、広がっちゃう、よ…っやっ」
「気持ち良さそうに下の口開けて、蜜垂らして何言ってんだ」
「やっかきまわしちゃ…っんあ…っ」
ぐうっと奥まで広げられて、おなかの中まで見られちゃいそうな気がして、恥ずかしくなって足を閉じようとしたら、指を抜かれてしまった。
腰を持ち上げられて、長太の膝の上に、長太と向かい合わせになるみたいに置かれた。
足の間に、熱いものが当たっていた。
腰を持ち上げられて、長太の膝の上に、長太と向かい合わせになるみたいに置かれた。
足の間に、熱いものが当たっていた。
「みを、腰落としてみな」
「や………っ」
「ほら、いいから」
「や………っ」
「ほら、いいから」
長太がわたしの腰を下にむりやり落とそうとひっぱってきて、足の間の熱い塊が入り込んできた。
「ひあっおなかっおなかの奥まで入っちゃ…っ」
「もっと奥まで欲しいだろ?」
「やだっやだやだやだぁ……っ」
「もっと奥まで欲しいだろ?」
「やだっやだやだやだぁ……っ」
大きな、長太の手ぐらいあるんじゃないかって大きなそれが串刺しにするようにわたしのおなかの奥まで入ってしまって、どこかわからないけど奥まで当たってきて、下から突き上げてきた振動にひいって声が出て、おなかがぱんぱんで、気持ちよすぎて苦しかった。
「あう…ッ長太のでいっぱいに…っあっああッ」
おなかを触ったら、長太のものでボコっと中から形がわかってしまうんじゃないかと思うぐらい長太のものが突き上げてきて、その度に長太の固い毛の生えた胸にしがみ付いてしまって、爪を立ててやったけど長太は全然どこ吹く風という感じでわたしのほっぺを舐めたり、口吸いしてきたりした。ぐちゅぐちゅといやらしい音が下から聞こえて、「みをに俺が食われてるみたいだな」と言われて背筋がぞくぞくとした。
わたしは長太に食べられているんだと思ってたけど、わたしが長太を食べてるんだ。
ゴッゴッゴッとおなかの奥のさらに奥まで当たって、わたしを抱きしめた長太が、ぐうっとさらに奥まで、わたしを串刺しにしてしまうぐらいの勢いで突き上げてきた。
わたしは長太に食べられているんだと思ってたけど、わたしが長太を食べてるんだ。
ゴッゴッゴッとおなかの奥のさらに奥まで当たって、わたしを抱きしめた長太が、ぐうっとさらに奥まで、わたしを串刺しにしてしまうぐらいの勢いで突き上げてきた。
「ひあああああっ!!いやっああああっ!!奥っ!奥まで来てるっ!!」
「みを…ッ出すぞ!みをん中にタップリ出すからな!!」
「長太っ、長太ぁ……ッ!!」
「みを…ッ出すぞ!みをん中にタップリ出すからな!!」
「長太っ、長太ぁ……ッ!!」
痛いほど抱きしめられて、おなかの中に熱く激しい波が広がって、その波を奥底まで叩きつけられて、わたしも長太にしがみついて絶叫した。
「なあみを、おれんちこないか」
「え?」
「その、通うのも面倒だし、一緒に住めばいいんじゃねえかって…」
「長太の……家?」
「おう、山ン中だがこれでもなかなかキレイにしてんだ」
「行く!!」
「来るか」
「どこだって行くよ!」
「おれの……その、なんだ、嫁になるんだぞ」
「長太のお嫁さんになるよ!」
「お前は知らないだろうが、おれは不細工で醜い男だ」
「長太は良い男だよ」
「顔だって見たことないくせに」
「手があったかくて、体が大きくて、いろんなところに毛が生えてて、料理が上手くて、わたしに優しい良い男だよ」
「……」
「え?」
「その、通うのも面倒だし、一緒に住めばいいんじゃねえかって…」
「長太の……家?」
「おう、山ン中だがこれでもなかなかキレイにしてんだ」
「行く!!」
「来るか」
「どこだって行くよ!」
「おれの……その、なんだ、嫁になるんだぞ」
「長太のお嫁さんになるよ!」
「お前は知らないだろうが、おれは不細工で醜い男だ」
「長太は良い男だよ」
「顔だって見たことないくせに」
「手があったかくて、体が大きくて、いろんなところに毛が生えてて、料理が上手くて、わたしに優しい良い男だよ」
「……」
黙ってしまった長太に体をこすり付けて、その大きな手を握って、ごわごわした毛むくじゃらの足に足を絡ませて、わたしは長太からはがされまいと力いっぱい抱きついた。
「長太が大好きだよ、だから、お嫁さんにしてよ、長太。わたし、色々できるようにがんばるから。いいお嫁さんになるから。ねえ、お願い」
「………ったく、お前には適わねえ」
「………ったく、お前には適わねえ」
嘆息と共に、長太はわたしを抱きしめてくれた。
足の間から、ふとももを伝ってゆっくりと子種が流れてくるのを感じて、わたしは目を閉じた。
足の間から、ふとももを伝ってゆっくりと子種が流れてくるのを感じて、わたしは目を閉じた。
それから長太は、うちにこなくなった。
何日もたった。
いつもこまめにやってくる長太は全く顔を見せず、嫁取りの準備に忙しいにしてもこれだけ顔を見せないのはけしからんとわたしは怒っていたが、十日たち、それ以上たち、さすがに心配になってきた。
まさか、山の中で怪我をしてたらどうしよう。
病気かなにかで、苦しんでいたらどうしよう。
村の人に聞いてみたのだが、何故だか皆一様に「長太なんて猟師はこの村にいない」と言うのだ。
幼馴染の何人かに確かめてもみたが、長太と一緒に遊んできた彼等は「そんな子なんか知らないよ」と言う。
何がなんだかわからない。
いつもこまめにやってくる長太は全く顔を見せず、嫁取りの準備に忙しいにしてもこれだけ顔を見せないのはけしからんとわたしは怒っていたが、十日たち、それ以上たち、さすがに心配になってきた。
まさか、山の中で怪我をしてたらどうしよう。
病気かなにかで、苦しんでいたらどうしよう。
村の人に聞いてみたのだが、何故だか皆一様に「長太なんて猟師はこの村にいない」と言うのだ。
幼馴染の何人かに確かめてもみたが、長太と一緒に遊んできた彼等は「そんな子なんか知らないよ」と言う。
何がなんだかわからない。
夜、部屋の隅で父さんの残してくれた毛皮にくるまっていると、泣きそうになった。
長太とのことが思い出されて、目から勝手にひとつ、こぼれ落ちた。
一度こぼれると、涙はあとからあとからこぼれてきて、止まらなくなった。
長太とのことが思い出されて、目から勝手にひとつ、こぼれ落ちた。
一度こぼれると、涙はあとからあとからこぼれてきて、止まらなくなった。
「長太…長太ぁ……会いたいよ、長太……」
めそめそと泣いていたら、戸口を叩く音がした。こんな遅い時間にくるのは、長太以外考えられない。
「長太?!」
毛皮から飛び起きる。転びそうになりながらはだしで土間に下り、戸口に走った。
立て付けの悪い戸をギシギシと軋ませながら開けると、「お前がみをか」と、知らない声がかかった。
村の誰でもない、聞いたことのない、知らない声だ。
立て付けの悪い戸をギシギシと軋ませながら開けると、「お前がみをか」と、知らない声がかかった。
村の誰でもない、聞いたことのない、知らない声だ。
「だ、誰……?」
思わずあとずさると、その知らない人は「入るぞ」と勝手に入ってきた。
他に、何人も入ってきたみたいだった。
他に、何人も入ってきたみたいだった。
「……なるほど、魅入られただけのことだけはあるな。なかなか美しい娘だ」
「誰ですか!は、入らないでください!」
「誰ですか!は、入らないでください!」
怖い。こぶしを握って、その人に叫ぶと、足元に何かドサっと重い音がした。
「それを開けてみろ」
「え?」
「お前の足元の木箱だ」
「え?」
「お前の足元の木箱だ」
言われて、足元に置かれたのが箱だとわかった。しゃがみ、手探りで足元の土間の土を撫でると、大きそうな箱があった。それは横長で、何か長い物が入ってるみたいだ。
継ぎ目を撫でて、その箱を開ける。
箱の中に手をのばしたら、指先にゴワゴワしたものが触れた。そして、冷たいもの。
継ぎ目を撫でて、その箱を開ける。
箱の中に手をのばしたら、指先にゴワゴワしたものが触れた。そして、冷たいもの。
「ひ……ッ!」
思わず、声が漏れた。
恐る恐る、もう一度触ってみる。
冷たい、毛の生えた、大きな、腕。
腕だけ。
腕は、途中で切れていて、その断面は何か固くなっていて、この大きな手のひらや、剛毛の生えた太い腕は、わたしが知っている誰かの腕に、よく似ていた。
恐る恐る、もう一度触ってみる。
冷たい、毛の生えた、大きな、腕。
腕だけ。
腕は、途中で切れていて、その断面は何か固くなっていて、この大きな手のひらや、剛毛の生えた太い腕は、わたしが知っている誰かの腕に、よく似ていた。
体が、勝手に震えだした。
「我々は、都から鬼討伐にきた鬼狩りの者だ。この村に、鬼に誑かされた盲(めしい)の娘がいると聞いてやってきたが……鬼は仕留めた、安心するがいい」
「いや…」
「何だ?」
「いやあああああああああ!!!!なんで!!なんでこんなひどい事!!!」
「いや…」
「何だ?」
「いやあああああああああ!!!!なんで!!なんでこんなひどい事!!!」
箱の蓋を掴んで、その人に投げたつもりだったけど、蓋は重くて投げられず、箱から少しずれて落ちただけだった。
「長太は!何も悪いことなんかしてない!!長太は優しくて良い男だ!!!」
「おい娘が錯乱したぞ、取り押さえろ!!」
「娘さん、落ち着くんだ!あんたが慕っていた男は、鬼だったんだぞ!!」
「おい娘が錯乱したぞ、取り押さえろ!!」
「娘さん、落ち着くんだ!あんたが慕っていた男は、鬼だったんだぞ!!」
誰かに右腕を掴まれて、その人を蹴飛ばしたけど固くて、逆に足が痛かった。
「離して!離してよ!!長太!!長太ぁあ!!」
わたしは全力で暴れたけど、その人の腕が痛いほど強く掴んできて、どうしても振りほどけなくて、情けなくて涙が出てきた。
「鬼でも何でもいいのに…返してよ……長太返してよお…ずっと一緒に居たのに……」
「どうしますか、この娘?」
「ふむ、鬼の気が抜けないとみえる。都につれていくか?盲とはいえ、美しい娘だ。都ならば色々と幸せにも暮らせよう」
「いやだ……長太ぁ……」
「どうしますか、この娘?」
「ふむ、鬼の気が抜けないとみえる。都につれていくか?盲とはいえ、美しい娘だ。都ならば色々と幸せにも暮らせよう」
「いやだ……長太ぁ……」
この人たちが憎かった。長太は悪いことなんかしてない。ただ、わたしに優しくしてくれただけだ。
わたしのせいで、長太は退治されたのだろうか。こんな、腕を切られるなんてひどい仕打ちを受けたのだろうか。
わたしのせいで、長太は退治されたのだろうか。こんな、腕を切られるなんてひどい仕打ちを受けたのだろうか。
長太は私に、おれの顔を知らないくせにと言ってたけど、わたしは長太を知っている。
声を知ってるし、匂いを知ってるし、手触りを知ってるし、体中ごわごわの毛だらけなのも知ってるし、優しく触ってくる大きな手を知ってるし、わたしにくちづける唇を知っている。
子供のころからずっとそばにいてくれたのを知ってるし、夜明け前にこっそり家を出て行くのを知っている。
たまに、わたしに触れようとして、一度手が止まるのだって知っている。
長太を、知っている。
声を知ってるし、匂いを知ってるし、手触りを知ってるし、体中ごわごわの毛だらけなのも知ってるし、優しく触ってくる大きな手を知ってるし、わたしにくちづける唇を知っている。
子供のころからずっとそばにいてくれたのを知ってるし、夜明け前にこっそり家を出て行くのを知っている。
たまに、わたしに触れようとして、一度手が止まるのだって知っている。
長太を、知っている。
あとからあとから涙が出てきて、もう、声にならなくて、感情がぐちゃぐちゃになって、目もくらむほどの憎しみと、怒りと、悲しさで頭が張り裂けそうだった。
このままわたしごと弾けてしまえばいいと思った。
このままわたしごと弾けてしまえばいいと思った。
「そんなに泣かれたら、男冥利につきるってもんだな」
わたしの右腕を掴んでいた人が、ぼそりと耳元でおどけたように呟いた。
その人は、いきなりわたしを片腕で抱き寄せた。
その人は、いきなりわたしを片腕で抱き寄せた。
「キャッ!」
「おいお前!何をする!!」
「おいお前!何をする!!」
むくりと、その人の体が膨らんだみたいだった。
「その腕はやるよ、おれは嫁をもらう」
「き、貴様…ッまさか生きてたのか!!」
「き、貴様…ッまさか生きてたのか!!」
ゴオっと風が吹いた。すごい風。
何人もの悲鳴が上がった。
何人もの悲鳴が上がった。
「みを、しっかり掴まっとけ!腕が一本じゃ、間違って落としちまうかもしれねえ!」
「うん!!」
「うん!!」
わたしはしっかりと、両腕をその人、長太の首に回してしがみついた。
目も開けていられないほどのものすごい風が、吹き荒れていた。
音が轟々と鳴る中で、風にもっていかれないように、長太の耳元でわたしは叫んだ。
目も開けていられないほどのものすごい風が、吹き荒れていた。
音が轟々と鳴る中で、風にもっていかれないように、長太の耳元でわたしは叫んだ。
「もうわたし、長太のお嫁さんだからね!!長太が嫌だって言っても駄目だからね!長太が鬼でもなんでも許さないんだからね!!」
「ははっ」
「ははっ」
みをにはかなわねえやと風の中、長太が笑ったような気がした。
昔、あるところに盲(めしい)の娘がいたそうな。
たいそう美しい娘で、その娘に焦がれて求婚する男がおった。
娘と男は恋仲になるも、実は男、たいそう醜い黒鬼だった。
黒鬼の噂を聞きつけた都の侍に追われ、鬼は腕を落とされて逃げ去り、そこで侍、娘に鬼の腕を持たせ、愛しい男は鬼であったと告げたそうだ。
それを知った娘はたいそう悲しむが、侍の家来に化けていた鬼、たちまち正体を現して娘を取り返し、大風を起こして侍を吹き飛ばし、風に乗ってどこぞへ去ったそうな。
たいそう美しい娘で、その娘に焦がれて求婚する男がおった。
娘と男は恋仲になるも、実は男、たいそう醜い黒鬼だった。
黒鬼の噂を聞きつけた都の侍に追われ、鬼は腕を落とされて逃げ去り、そこで侍、娘に鬼の腕を持たせ、愛しい男は鬼であったと告げたそうだ。
それを知った娘はたいそう悲しむが、侍の家来に化けていた鬼、たちまち正体を現して娘を取り返し、大風を起こして侍を吹き飛ばし、風に乗ってどこぞへ去ったそうな。
どっとはらい。