人外と人間

ガーゴイルと少女 Farewell 非エロ

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Farewell 2-635様

僕は、街を見渡せる小高い丘の上にいます。正確にいうと丘の上にたつ小さな建物の雨樋のガーゴイルです。
いつからいたかはわかりません。僕が僕に気がついてから、もうずっとここにいて、街を見続けてきました。
熱狂的な凱旋パレードも、戦争に燃える街も、豊かなときも、貧しいときも。でも、僕はその全部を覚えています。
最近、新しい友達ができました。
僕のいる窓辺の部屋を借りたアンです。ハトとたまに来るハヤブサ以外では、初めてできた人間の友人です。
彼女は、部屋にいるときはいつも窓辺にすわって、僕に話しかけてきます。うれしいことや、悩みや生活のこと。僕は答えることはできませんが、聞いているだけで満足なのです。おそらく、これは恋というものなのかと思います。
それからしばらくのことです。
アンが悲しそうな顔で、この小さな建物が取り壊されるためこの部屋を出て行かねばならないといいました。それは彼女とのお別れを意味しています。そしてもう一つ重大な事実がありました。つまり、僕も一緒に壊されてしまうことです。
人やハトやハヤブサは、死んだとき、魂はこことは違う世界に行くと言います。でも僕はどうなるんでしょう。僕に魂はあるのでしょうか?
魂があれば幸いです。でもなくても同じだと思うのです。きっと、壊された僕は、単なる石に戻るのでしょう。でもほんの少し残念なのです。
僕が僕に気がついてから、ずっとこの街を見続けてきたのです。僕の存在を、僕が僕であった証を誰かに伝えることは出来ないのでしょうか?
そうこうしているうちに、アンが出て行く前の日になりました。
すっかり荷物の無くなった部屋で、彼女は毛布にくるまって寝ています。
僕は、一度だけ奇蹟を望みました。アンにただ一言だけ、さよならと伝えたかったのです。
体が軽くなったのはそのときでした。前足が雨樋から外れ自由になります。尻と尾と足も外れました。歩くというのは不思議なものです。
自分の意志で移動できるのです。僕は施錠されていない窓を空け、部屋の中に滑り込みました。そして寝ているアンに近づくと、その頬を前足で少しつついてみました。なんと暖かく柔らかい頬なのでしょう。
アンと呼びかけると、彼女は少しだけ目を開けます。
僕はアンに言います。少しの間だけ友達でいてくれてありがとう。話は聞くだけだったけれど、こんなにうれしいことは無かった。僕はあなたに恋をしていたのです。でも、僕はどうやらこの家と一緒に壊されてしまうようです。さようなら。最後に奇蹟が起きて僕は幸せでした。
いとまごいです。願わくば、あなたが、この街がずっと平穏でありますように。
アンが次の朝はっと目を覚ましたとき、僕はすでにいつもの場所にいました。彼女は僕が閉め忘れた窓へ近づき、しばらく僕を見ます。そして窓が閉まり、やがて彼女は出て行きます。
別れの間際、彼女はアプローチから僕を見上げました。
あれが夢でなかったのなら、さようなら。そしてお休みなさい。
僕の思いは、きちんと彼女に届いていたのです。そして、僕の最初で最後の恋は終わりました。ごきげんよう。アン。





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