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人外アパート ヤンマとアカネ 掌編 虫の甲斐性

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虫の甲斐性 859 ◆93FwBoL6s.様

 戦いの余韻が残る体を、ベンチに預けた。
 爪に付いた砂と土を払ってから、手近な自動販売機で買ってきた樹液ベースのドリンクを開け、喉に流し込んだ。胃の中に冷たく甘い液体が満ちていくと、少し温度の上がった体液も冷めていき、全身の高揚感も落ち着いた。
 昼下がりの太陽の下、公園のベンチに座るヤンマは、背もたれと座面の間から出した長い腹部を揺らしていた。縄張り争いのために昆虫人間と戦うことは日常の一端だが、勝ち負けは半々なので、勝てると当然気分が良い。ヤンマは飛行能力に長けているが、反面ウェイトがない。だから、体格が大きく重量のある甲虫相手では不利だ。今回ヤンマに絡んできたチョウ人間のように身の軽い相手ならば、ヤンマ程度の腕力でも簡単に吹っ飛ばせる。大分痛め付けたので、当分この近辺には姿を現さないだろう。この調子で、縄張り争いを勝ち続けられれば良いが。

「おう、鬼の字じゃねぇか」

 野太い声を掛けられ、ヤンマが複眼を上げると、三メートル近い巨体の人型のヘラクレスオオカブトが立っていた。

「ヘルさんじゃないっすか。どうしたんすか、こんな昼間に」

 ヤンマが腰を上げて体をずらすと、ヘラクレスオオカブトは左隣に座り、巨体に見合った重量で座面を軋ませた。

「俺は夜の生き物だが、たまにゃ日差しを浴びねぇとおかしくなっちまうからな」

 ヘラクレスオオカブトは中左足に抱えていたセカンドバックを開け、昆虫人間用のタバコを出して火を付けた。

「鬼の字、お前もやるか?」
「いや、遠慮しとくっす。俺は嫌いじゃないんすけど、匂いが残ってるとあいつがうるさいんで」

 ヤンマが差し出されたタバコの箱を押し返すと、ヘラクレスオオカブトはツノを揺すって笑った。

「相変わらずだなぁ、お前は」

 豪快な笑い声を放つヘラクレスオオカブトを見つつ、ヤンマは顎を噛み合わせた。半笑い、といったところだった。この街に住む昆虫人間ならば、彼のことを知らない者はいない。通称ヘルと呼ばれているが、本名は解らない。本虫が名乗らないし、それ以前に誰も知らないからだ。唯一解っていることは、日本生まれではないことだ。鬼の字、という通称は、ヤンマの名字の鬼塚から来ている。決して、ヤンマが鬼神の如き強さを持っているからではない。
 ヘルは強い。ヤンマでは足元にも及ばない。見た目通りの腕力もさることながら、巨体に似合わぬ敏捷性が武器だ。この街に来たばかりの頃、絡まれたので挑んでみたが三秒で負けた。だが、妙に気に入られて可愛がられている。ヘルは人間主体のヤクザと連んでいるらしいので、行く行くはそちらに引き込まれるのでは、と冷や冷やしている。だが、その点を除けば実に気の良い男で、顔を合わせるたびにヤンマのどうでもいい話を腰を据えて聞いてくれる。

「だが、女ってのはいいもんだよなぁ。特に人間はな」

 人間のタバコよりも渋みの少ない煙を顎の隙間から漏らしながら、ヘルは背もたれに寄り掛かって板を鋭く鳴かせた。

「あったけぇし、柔らけぇし、花みたいな良い匂いがする。鳴き声だって、獣よりも可愛気があって虫よりも艶がある。俺も昔は人間の女を囲っていたが、あいつはもう堅気の女だからな。だが、今でもたまに思い出しちまうよ」
「一度人間に慣れちまうと、虫のメスには欲情出来なくなりますよね」
「違いねぇや。俺が言うのもなんだが、虫ってのはどうにも硬くて面白味がねぇんだよなぁ」

 タバコを顎の隙間から外してベンチ脇の灰皿に押し付けたヘルは、黒光りする複眼でヤンマを見やった。

「そんで、鬼の字。仕事は見つかったのか?」
「一応は。でも、今の仕事は繋ぎっすよ。見ての通り、昼間は時間があるんで、ちゃんと探すつもりっす」
「そうかぁ。次は長続きするといいなぁ」

 頷いたヘルは、二本目のタバコを顎に挟んで火を灯した。

「お前は幸せだよ、鬼の字。最初から堅気で生きているんだからよ」
「堅気ってほど堅気じゃないっすよ。今だって、虫とやり合ってきたばっかりなんすから」
「それでも、俺に比べりゃ随分マシだ」

 ヘルは顔を逸らし、尖ったツノで晴れ渡った空を示した。

「俺は虫だ。武器であり盾だ。そこから先に行こうとしても、なかなかどうして上手く行かねぇもんでなぁ」
「そう、っすね」

 心当たりがないわけではなく、ヤンマは言葉を濁した。人に合わせて出来上がった社会では、虫は弾かれてしまう。ヤンマが就職後三ヶ月でクビになったことなど、日陰の世界で生きるヘルの身の上に比べれば大したことはない。彼から聞き出したこともなければ聞かされたこともないが、ヘルの言葉の端々や立ち振る舞いからは苦労が窺えた。

「んで」

 ヘルは顎を引き、上左足の爪でヤンマを指した。

「で、って?」
「だからよ、お前は女がいるんだろ?」
「そりゃ、いますけど」
「そいつとどうなりてぇんだよ、鬼の字は。結婚する気だったら、さっさとやっちまった方が身のためだぜ」

 ヘルに迫られ、ヤンマは腰を引いたが長い腹部がベンチに引っ掛かってしまった。

「考えてないことはない…んすけど、今のままじゃいくらなんでも切り出せないっすよ…」
「女ってぇのは可愛いが面倒な生き物でよ、態度で示そうが金や物を与えようが満足しねぇんだよ。だから、その気
だったら言っちまえ。じゃねぇと、不安になったとかなんとか言われて浮気されて、捨てられるかもしれねぇぜ?」
「あかっ、いや、あいつに限ってそんなこたぁ!」

 腰を上げたヤンマがヘルに掴み掛かりそうになると、ヘルはぐいっとヤンマの頭を押さえた。

「俺の経験を侮るんじゃねぇぞ、鬼の字。女ってのは信用ならねぇ、だがそこが面白い」
「でも…言うのはなぁ…」

 頭を押さえられたヤンマが項垂れると、ヘルはヤンマの羽を痛めない部分を選んで背を叩いてきた。

「言うだけなら金も掛からねぇし、手間も掛からねぇじゃねぇか。ちったぁ恥ずかしいけどな」
「その恥ずかしいのが問題なんすよ」
「とにかく頑張れや、鬼の字。その女がそんなに大事なら、首輪でも指輪でも付けとけ」

 あばよ、とヘルはセカンドバッグを抱えて立ち上がり、公園を後にした。取り残されたヤンマは、足元を見つめた。茜に限って、ヘルの言うようなことがあるわけがない。あってたまるか。あったら泣ける。死ねる。生きていられない。けれど、そこまで思っているのに、結婚しようと言う勇気が湧かない。結婚したいとは思うが、言葉に出来ないのだ。考えてみれば、好きだと言ってやったことも少ない。爪の本数で足りる回数だ。そう思うと、ますます不安に駆られる。

「首輪…」

 途端に、裸に首輪一つの愛玩動物の如き茜が脳裏に浮かんでしまい、慌てて払拭して独り言を言い直した。

「指輪、なぁ」

 今まで茜にプレゼントしたものには、まだなかったはずだ。去年の誕生日に贈ってやったのは、ぬいぐるみだった。元々、茜は趣味が子供っぽい。というより、成長していない。背格好も標準よりも小さめで、嗜好も幼い頃と変わらない。だから、ヤンマの方もつい幼い頃の感覚になってしまい、茜へのプレゼントも態度も幼馴染みが相手のそれである。
 これではいけない。焦燥感と危機感を抱いたヤンマは立ち上がろうとしたが、長い腹部が背もたれに引っ掛かった。つんのめりながらベンチから離れたヤンマは、空き缶をゴミ箱に投げ込んでから、指輪を探すべく街中に飛び出した。
 茜に好きだと言おう。そして、結婚を申し込もう。


 テーブルには、小さな箱が鎮座していた。
 風呂場からは茜の鼻歌が漏れ聞こえ、心なしか居間の空気も湿って生温い。ヤンマは、ひたすら箱を睨んでいた。エメラルドグリーンの複眼に映るのは、赤いビロード張りの小箱だった。恐る恐る爪先を伸ばし、蓋を開けてみる。光沢を帯びた白い布が張られた内部には、店で見た時と変わらぬ姿のピンクの宝石が填った指輪が収まっていた。だが、五秒と直視出来ずに箱を閉めた。意味もなく息が荒くなってしまい、腹部を膨らませながら、その箱を掴んだ。

「何やってんだ、俺…」

 指輪の入った小箱を押し入れの奥に隠し、ふすまを閉めてから、ヤンマは頭を抱えた。

「もっと何やってんだー!」

 隠してどうする。見せなければ意味がない。プレゼントしなければ意味がない。だが、恥ずかしくて見せられない。指輪を買った時も逃げ出したいほど恥ずかしかったが、今の方が十倍恥ずかしい。体液が沸騰して脳が煮えそうだ。

「何騒いでんの?」

 脱衣所と廊下を隔てるドアが開き、バスタオルを被った茜が顔を出した。

「なっ、なんでもねぇよ!」

 ヤンマが上擦った声を上げると、茜は濡れた髪を拭いながら訝しげな目を向けた。

「ふーん」

 茜は顔を引っ込めて、脱衣所のドアを閉めた。しばらくドライヤーの轟音が続いた後、茜は居間に戻ってきた。喉を潤すために水を一杯飲み干してから、茜はヤンマに向いた。ヤンマは居たたまれなくなって、触角を揺らした。平静を装うために胡座を掻いて座ったが、ちっとも落ち着かない。それどころか、恥ずかしすぎて気が狂いそうになる。
 好きだと言うだけなら、と思うが、胸郭が震えない。汗が出ないはずなのに、嫌な汗が出ているような錯覚に陥る。俺ってこんなに根性なかったっけ、とヤンマが凄まじい自責の念に駆られていると、茜が胡座の上に腰を下ろした。

「ヤンマ」

 茜はヤンマの胸に寄り掛かると、上目に睨んできた。

「賭け事は絶対にしちゃダメだからね?」
「そんなもん、してねぇよ。そもそも注ぎ込む金がねぇだろうが」
「だったらいいんだけど」
「俺を信用しろよな」

 ヤンマは中両足で茜の腹部を抱き締め、背を曲げた。

「してるってばぁ」

 茜がくすぐったげに身を捩ると、ヤンマは石鹸の匂いが零れる襟足に触角を寄せ、顎を開いて細長い舌を伸ばした。汗の代わりに水気が残る首筋にぬるりと這わせると、茜は喉の奥で小さく声を漏らし、ヤンマの上右足に腕を絡めた。

「…したいの?」

 恥じらいと期待の混じった目で見つめられ、情欲に駆られたヤンマは先程までの葛藤を押し込めた。

「されたいんだったら、ちゃんと言え」
「意地悪」

 茜がむくれると、ヤンマは中両足で茜のパジャマと肌着を捲り、控えめな乳房を柔らかく握り締めた。

「んっ」
「風呂に入る前の方が良かったかもしれねぇな」
「そっちの方が嫌だよぉ…」

 茜が頬を染めて俯いたので、ヤンマは中両足の爪の腹でまだ尖っていない先端を押し潰した。

「俺は好きだけどな。茜の味がする」
「私はそれが嫌なの! ヤンマの変態!」
「ひっでぇな」

 ヤンマは少し笑いながら、刺激を受けて充血した茜の乳首を爪の腹で挟んでやった。

「あうんっ!」
「さあて、今日のは何だ」

 ヤンマは茜の腰を浮かせると、上両足でパジャマのズボンを引き下ろして脱がせ、その下着を見下ろした。可愛らしいピンクのハート柄でワンポイントのリボンが付いていて、高校二年生が身に付けるものにしては幼い。

「なんだよ、またこんなガキ臭いの買ったのか」
「いいじゃないの、好きなんだから!」

 茜はパジャマの裾を下げて隠そうとするが、ヤンマは上両足で茜の腕を押さえ、腰を上げて腹部を前に出した。

「まあ、いきなりスケスケの紐パンなんか履かれても困るしな」

 腹部の先端を持ち上げたヤンマは、太い針に似た生殖器官を外骨格の中から出すと、茜の足の間に差し入れた。茜は足を閉じようとしたが、ヤンマの生殖器官の先端が下着に届いた。陰部を探るように、クロッチを撫でていった。そして、生殖器官の先端が肉芽に引っ掛かった。茜が喉の奥で喘ぎを殺すと、ヤンマは茜の顎を掴んで顔を寄せた。

「んで、どうされたい?」
「すぐに入れちゃ、やだ…」
「そりゃどうしてだ」
「すぐに終わっちゃったら、なんだか勿体ない気がして」
「言うじゃねぇか」

 ヤンマは顎の中に舌を収めると、上両足で茜の両足を広げ、生殖器官の先端で硬くなり始めたクリトリスを押さえた。茜は鼻に掛かった声を漏らし、ヤンマに縋る。指よりも爪よりも太く硬い先端で押し、潰してやると、茜の声が増した。だが、下着は外さない。直接触れれば刺激も高まるのだろうが、どこまで焦らしてやれるかという気分になっていた。熱く柔らかな膣内に生殖器官を押し込みたい衝動に駆られながらも、ヤンマは茜の乳首ではなく乳房全体をこね回した。

「う、あ、はぁ、ふぁあっ」

 茜は目を潤ませ、悩ましく息を荒げる。自分自身の潤いで下着が濡れた感触に、ひどい羞恥心に駆られてしまった。乳房だけを弄ばれると、尖った乳首に触れられないのがもどかしい。けれど、それを口にするのは耐えられなかった。いつものことながら、息を荒げているのは茜だけだ。ヤンマは表情が窺えない上に、欲情しているかどうか解らない。彼の生殖器官は外骨格なのでどんな時でも硬く、力強い。言葉に滲み出ている時もあるが、そうではない時の方が多い。だから、自分だけ欲情しているようで情けない。茜は乾いた喉に唾を飲み下してから、ヤンマの生殖器官を両手で包んだ。

「ん…」

 長い腹部を持ち上げた茜は、ヤンマの生殖器官に舌を這わせた。唾液を塗り付けるように、何度も何度も舐める。

「がっつくなよ、ちゃんと入れてやるから」

 ヤンマがにやけると、茜は振り向いて言い返した。

「だって、私だけ気持ち良くなってるみたいで悪いんだもん」
「いつものことじゃねぇか。それに、俺が気持ち良くねぇなんて言ったことはねぇぞ?」
「でもさぁ」

 茜が不満げにむくれたので、ヤンマは彼女の腰を持ち上げて四つん這いにさせた。

「だったら、こうすりゃ文句ないだろ」
「んあっ!」

 下着の足回りから冷たい異物を差し込まれ、茜は目を丸めた。

「すっかり出来上がってんじゃねぇか」

 下着の中に滑り込ませた舌先で膣内を探ったヤンマが笑うと、茜は恥じらって目を伏せた。

「だって…」
「茜、少し太ったか? 尻回りの肉が前に比べて厚いんだが」
「こんな時にそんなこと言わないでよ! 確かにそうだけど!」

 茜が二つの意味で赤面すると、ヤンマは成長途中の臀部を覆う薄布をずらし、顎を開いて浅く噛んだ。

「この肉が胸に付けばいいんだがなぁ」
「ちょっ、ヤンマ、どこ噛んでんのー!」

 茜が慌てると、ヤンマは白い太股にも顎を寄せ、ほとんど力を入れずに噛んだ。

「この前、肩に噛み跡付けたら文句言ったじゃねぇか」
「だって、体育で着替える時に見えちゃうんだもん! あ、足だって、スカートじゃ隠れないよ!」
「他の奴に見せなきゃいいだけだろ。スカートの中なんて、そうそう見えるもんじゃねぇ」
「そうだけど、でもぉ!」

 茜は困り果てるが、ヤンマは唾液の糸を引きながら顎を太股から放した。

「茜は俺の縄張りだ」
「もお…」

 茜は頬を張っていたが、ヤンマの生殖器官を掴んで引き寄せ、歯を立てた。だが、ヤンマは特に反応しなかった。外骨格越しに伝わる感触には気付いたようだが、それ以上はない。それが少し不満だったので、顎に力を入れた。だが、歯応えが強すぎて逆に茜の歯が痛んだ。茜が己の力の無さに苛立っていると、陰部に深く舌が滑り込んできた。

「ああぁっ!?」
「別に痛くはないが、俺のを噛むんじゃねぇよ。心が痛む」
「ヤンマが悪いんだから、先に噛んできたのはヤンマの方じゃない!」
「俺はいいんだ。虫だからな」
「何それ、意味解らないぃいいっ!」

 茜は言い返そうとしたが、後半は上擦ってしまった。触手のように暴れ回る舌が、茜の弱い部分を的確に責めてくる。こうなっては、もう何も出来ない。手足から力が抜けてしまい、ヤンマが与えてくる荒っぽい性感が背筋を駆け上った。

「あ、あぁ、それ、ダメぇ、そこダメだってばぁあ」
「ダメだからやるんだろうが」
「や、それじゃ、やだぁああ」

 ヤンマの長い腹部にへたりこんだ茜が首を左右に振ると、ヤンマは舌を止め、ぬるりと引き抜いた。

「どう、嫌なんだ?」
「うー…」

 茜は視線を彷徨わせたが、腰を捩った。

「ヤンマのが、いい」
「具体的には?」
「なんで今日はそんなに意地悪なの? もお、ヤンマなんて」

 茜はむくれながら突っ伏したが、消え入りそうな小声で漏らした。

「…大好き」

 大嫌い、と言おうとした。けれど、どうしても言えなかった。茜はそんな自分を不甲斐なく思いながら、身を起こした。ヤンマも起き上がったが、いきなり抱き締めてきた。今し方までの態度とは異なる態度に、茜は戸惑ってしまった。

「や、ヤンマ?」
「あーもう、俺の方が我慢出来ねぇ!」

 ヤンマは茜を放すと、肌着ごと茜のパジャマを脱がしてしまうと、畳の上に押し倒した。 

「入れる! イカせる! 出来れば泣かせる!」
「え、何、なんで?」

 茜がきょとんとすると、ヤンマは彼女の下着をずり下ろし、腹部を曲げて生殖器官を伸ばして濡れた陰部に挿入した。途端に茜の体が跳ね、喉が反らされた。ヤンマは茜の滑らかな背に爪を立てないように気を遣いながら、抱き寄せた。生殖器官を包み込む肉の壁は、焼けそうなほど熱い。生殖器官を前後させると、茜の発する喘ぎが次第に高くなった。

「ヤンマぁ、もうっ、わたしぃっ!」

 一際高い声を放ち、茜はヤンマにきつく抱き付いたが、だらりと手足を投げ出して胸を上下させた。

「イッちゃったぁ…」
「茜」

 弛緩した茜を見つめ、ヤンマは自然に迫り上がってきた言葉を口にした。

「好きだ」

 茜は潤んだ目を見開いたが、細め、柔らかく頬を緩めた。

「うん。私も大好き」

 言えた。やっと好きだと言えた。この上ない達成感に包まれたヤンマは、ぎちぎちと顎を鳴らしながら茜を抱き締めた。達したことで脱力している茜はヤンマにしなだれかかり、外骨格に頬を擦り寄せてきて、それがまた非常に可愛かった。そのせいで妙なスイッチが入ってしまい、ヤンマは茜を膝の上に載せたまま再度挿入し、射精しそうになるほど責めた。そして、宣言通りに茜を泣かせるほど責め立ててしまい、事が終わった頃には茜は疲れ果てて気絶するように寝入った。
 我ながら、頑張りすぎてしまった。


 そして、こっぴどく怒られた。
 隣室のベランダの手すりに腰掛けたヤンマは、ぎりぎりと顎を鈍く軋ませていた。ため息を吐けないから、その代わりだ。壁の薄い安普請故に事の次第をある程度把握している祐介は、ベランダの手すりに寄り掛かり、呆れつつも笑っていた。当の茜は、祐介の恋人であるリビングメイルのアビゲイルと連れ立って買い物に出掛けたので、今は男二人が残っている。ひどく落ち込んでいるヤンマにベランダから呼び出されたので、試験勉強を一時中断し、気分転換を兼ねて話を聞いたのだ。

「そりゃお前が悪い」

 ヤンマが話し終えると、祐介はきっぱりと言い切った。

「こんなつもりじゃなかったんだがなぁ…」

 ヤンマは爪の間で赤いビロードの小箱を弄びながら、触角を下げた。

「結局こいつも渡せず終いだし、肝心なことは言えないし、茜には当分は禁欲だって言われるし、マジでどうしようもねぇな」
「茜ちゃんの機嫌が直ったら渡せばいいじゃないか」
「ああ、気合い溜めて頑張ってみらぁ。んで、お前の方はどうなんだよ?」
「どう、って」
「アビーだよ。祐介はアビーと一緒になるつもりなのか?」

 自分の苦しみを少しでも分け与えてやろうとヤンマが言うと、祐介は語気を弱めた。

「そりゃ…先のことを考えていないわけじゃないが」
「じゃあ、さっさと指輪でも何でも渡して実家に連れて行け!」
「それがなぁ…」

 祐介は眉を下げ、唇の端を歪めた。

「うちの親に電話してアビーのことをちょっと説明したら、速攻で反対されちまってさぁ。親父なんか、家にも連れてくるなって」
「なんでだよ?」
「アビーがリビングメイルだからだろ。死人っぽくないけど、一応死人だからな。それが気持ち悪いんだとさ」
「そんな偏見、アビーに会って料理でも喰わせれば一発で吹っ飛んじまう」
「俺もそう言ったんだけど、聞いちゃくれなかったよ」

 前途多難だ、と嘆いた祐介に、ヤンマは彼の肩を叩いた。

「頑張ろうぜ、祐介」
「言われなくたって」

 一人と一匹は顔を見合わせると、力なく笑い合った。こればかりは、自分自身の力で解決しなければならないことだ。祐介の場合は他者の助力が受けられるかもしれないが、ヤンマは違う。自分で言い、渡さなければ何の意味もない。だが、結婚を申し込むどころか茜を怒らせてしまった。情けなさ過ぎて、今日だけは縄張りを守る気にもならなかった。普段は下らないことでも強気に出るくせに、肝心な時がダメだ。自責に次ぐ自責で沈んだヤンマは、小箱を握り締めた。
 次こそは、甲斐性を見せなければ。





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