• atwiki
  • 人外と人間
  • 人外アパート ロボ×女性 魔剣と正義の味方とその愛妻 和姦

人外と人間

人外アパート ロボ×女性 魔剣と正義の味方とその愛妻 和姦

最終更新:

monsters

- view
管理者のみ編集可

魔剣と正義の味方とその愛妻 859 ◆93FwBoL6s.様

 アパートもえぎの、203号室。
 割り当てられた部屋を見上げ、アパートの全貌を二度三度と確かめてから、織部綾子は荷物を掛けた肩を下ろした。
目の前にあるアパートは木造二階建てで、鉄製の階段は当の昔に塗装が剥げていて赤茶けた錆が所々浮いていた。
壁も屋根も色褪せていて、風雨に曝された年月の長さを物語っている。周囲の家屋は新しいので、尚更古さが目立つ。
少なく見積もっても、築三十年は超えていそうである。昨日まで暮らしていたマンションとは、天と地ほどの差があった。
今すぐにでも3LDKのマンションに戻りたかったが、既に荷物は運び込まれているし、住所も移し替えられた後なのだ。
それに、この引っ越しは地球防衛軍から命じられた任務の一部なのだ。綾子が渋面を作ると、傍らの夫が励ました。

「気を落とすな、綾子!」

 がっしと綾子の肩を掴んできた手は分厚く、純白の装甲に包まれていた。

「遅れてきた新婚生活だと思えば良いではないか!」
「…そう?」

 綾子は渋面を保ちつつ、彼に向いた。綾子の背後で笑みを見せているのは、地球防衛軍に所属する金属生命体だった。
その名もブライトウィングと言い、防衛部隊の主戦力であり、正義の金属生命体達を統率している優れたリーダーでもある。
敵対する悪の金属生命体デスロニアンを追って五年前に地球を訪れた際に戦闘機のデータを得たので、翼や機首がある。
本来の姿は全長十五メートルの巨大ロボットなのだが、金属細胞を自由自在に伸縮出来るので今は綾子と同等の体格だ。
大きさを変えたところで、彼の戦闘能力は劣らない。敵の作戦で巨大化出来なくなった時も、人間大の大きさで敵を圧倒した。
白銀の顔は間違いなく美形で、翼やブースターの付いた背を支える腰も細く、足もすらりと長く、外装は強度に反して端正だ。
そして、つい半年前に地球の危機を救ったヒーローであり、誰からも慕われる正義の味方だが、名実共に綾子の夫である。
 本来、機械生命体と人間は結婚出来ないのだが、ブライトウィングがヒーローの立場を利用して国連を揺さぶったからだ。
惚れられたからと言ってそこまでされるのは、と綾子は思ったが、綾子にも好都合なことが多いと知ってからは受け入れた。
ブライトウィングの士気に関わるから、と政府上層から命じられた綾子は、オペレーターから防衛部隊特別顧問に就任した。
といっても、やることはオペレーター時代とほとんど変わらず、防衛部隊の後方支援で忙しく働いている。はずだったのだが。

「なぁんでこうなるかなぁー…」

 綾子はアパートもえぎのを見上げ、首を捻った。

「このアパートで、多次元宇宙を超越する物質と、次元超越を行った際に発生する反物質素粒子の発生が確認されたのだ。危険も多かろう、私が直々に調査することに疑問はない」
「だからって、なんで私も一緒に引っ越すわけ? こんなボロアパートに」
「都合の良いことに、このアパートには人間と人ならざる者が多く同居している。だから、私達もそのような行動を取ればなんら疑われることはなかろう。それに、私一人で住んだところで寂しいではないか」
「それが本音?」
「うむ」

 恥ずかしげもなく肯定したブライトウィングに、綾子は目を逸らした。

「単身赴任だと思えばいいじゃない。私のマンションから大して遠くないし、あんたなら一瞬で飛んでこれるはずだし」
「そういう問題ではない。私が任務を終えて帰還する部屋に、綾子がいてくれないと」
「はいはい解った、その辺は後でじっくり聞くとして、今はさっさと部屋に行こう。でないと報告書も上げられない」

 綾子はブライトウィングを引っ張り、アパートの階段に向かった。ブライトウィングは不満げだったが、綾子に続いて歩いた。
平日の昼下がりという半端な時間帯であるため、住人達はそれぞれの日常を送っているらしく、アパートは静かなものだった。
件の多次元宇宙超越物質が存在する202号室のドアを注視した後、綾子は今日から自宅となった203号室の前に立った。
ブライトウィングも綾子の背後に立ったが、背中から生えた立派な翼が雨樋に引っ掛かってしまったらしく、腰を曲げていた。
自分はともかく、彼は適応するのは難しそうだ。そう思いつつ、綾子は地球防衛軍長官から渡された鍵を錆びたノブに差した。
 世界平和のために、住人達とは上手くやらなければ。


 その日の夜、綾子とブライトウィングは挨拶回りに出た。
 もちろん、相手はアパートもえぎのの住人達だ。無難なタオルの詰め合わせを夫に抱えさせ、綾子は各階の部屋を回った。
最初に向かったのは、隣室であり調査対象である202号室である。綾子がチャイムを鳴らすと、すぐに返事が返ってきた。
ドアを開けたのは、銀色の女性型全身鎧だった。そして、靴箱の傍の傘立てには、無造作に魔剣が刺さっていた。

「はぁい」
「夜分遅くに失礼します。今日、引っ越してきました、203号室の織部綾子と申します」
「綾子の夫であり、地球防衛軍防衛部隊隊長のブライトウィングだ」

 綾子が礼をすると、ブライトウィングは敬礼してからタオルの詰め合わせの箱を渡した。

「まあ、ありがとうございます!」

 銀色の女性型全身鎧は丁重に箱を受け取ってから、居間に声を掛けた。

「祐介さん、新しいお隣さんが御挨拶にいらしたわよ」
「今行くよ。どうも初めまして、鎧坂祐介です」

 銀色の女性型全身鎧に呼ばれて現れた青年が名乗った後、銀色の女性型全身鎧も名乗った。

「アビゲイルと申します」
「今後ともよろしくお願いいたします」

 綾子が再度頭を下げてから目を上げると、祐介はひどく真剣な顔でブライトウィングを注視していた。

「凄い、本物だ…」
「私は存じ上げないけど、祐介さんはブライトウィングさんのことを知っているの?」

 アビゲイルが首を傾げると、祐介は頷いた。

「だって地球防衛軍だぞ、ブライトウィング隊長だぞ! 知らないわけがない!」
「それは嬉しいな」

 ブライトウィングがにこやかに返すと、祐介は少年のような表情を浮かべた。

「これからも頑張って下さい!」
「その言葉が、私の正義を支える力となる。君こそ、麗しき鋼の彼女を大事にしたまえ」
「はいっ!」

 祐介は興奮した様子で、力一杯頷いた。アビゲイルは祐介の反応が理解出来ないらしく、ブライトウィングを眺めていた。
国家も民族も超越した史上最強の防衛組織、地球防衛軍は、日頃からその活躍をオープンにしているので認知度が高い。
ニュースでも頻繁に情報が流され、メタロニアンの戦士達の姿も惜しげもなく曝され、彼らも休日には市街地に降りている。
デスロニアンによる地球規模の危機を阻止するだけでなく、あらゆる緊急事態に対処して地球に住む人間達を守ってきた。
おかげで、今や地球防衛軍は平和の象徴である。そして、見栄えのするロボット型異星人の戦士達の評判も上々だった。
隊長であるブライトウィングは、ヒーローに心酔する子供達だけでなくロボットアニメ世代の大人からも熱烈に好かれている。
だから、祐介のような反応が当たり前であり、表情は見えないがきょとんとしているであろうアビゲイルの反応の方が珍しい。
だが、驚くことでもない。地球防衛軍の諜報部隊による事前調査で、アビゲイルの正体とその素性も全て掴めているからだ。
中世時代に死んだ男装の王女の魂が魔剣の力で癒着した全身鎧で、数ヶ月前の事件で一度記憶が消え、再度目覚めた。
人格こそ出来上がっているが、記憶喪失の影響で現代社会に関する情報を習得しきっていないので別段不自然ではない。

「では、また会おう」

 ブライトウィングは気障ったらしく言い残してから、201号室に向かった。綾子は二人にまた礼をしてから、夫に続いた。
202号室のドアは閉められたが、祐介の舞い上がった声が聞こえてくる。正義の戦士に会えたのが余程嬉しかったのだろう。
 201号室のドアのチャイムを鳴らすと、今度はトンボの昆虫人間が現れた。彼は綾子とブライトウィングを見、触角を立てた。
部屋の主、鬼塚ヤンマである。彼は挨拶もそこそこに居間に駆け戻ると、部屋着姿の少女を引き摺って玄関に戻ってきた。

「ほれ見ろ茜、凄ぇぞ本物だ! メタロニアンだ!」
「おおー」

 ヤンマのテンションの高さとは裏腹に、少女、秋野茜の反応は薄かった。綾子は先程と同じ挨拶をし、夫に箱を渡させた。
茜は丁重に箱を受け取ってから、すっげーマジすっげー、と言い続けるヤンマの首を掴んで強引に頭を下げさせ、礼をした。

「こちらこそ、よろしくお願いします」
「写メっていいっすか! うーわーすっげぇー、やっぱ超カッケー!」

 興奮冷めやらぬヤンマが顎を全開にしたので、茜はヤンマの上右足を引っ張った。

「失礼でしょーが! ていうか何やってんの、ヤンマらしくもない! そういうのはしーちゃんの役割でしょ!」
「だって地球防衛軍だぜ地球防衛軍、アースディフェンスフォース、略称EDF! 俺達を守る正義の味方じゃんか!」

 ヤンマは茜に引き留められるどころか、逆に茜をひょいっと持ち上げてエメラルドグリーンの複眼を迫らせた。

「お前も見ただろ、二年前のデスロニアンとのオイルでオイルを洗う最終決戦! 全世界同時衛星中継でよ!」
「そりゃ見たけど、私にはただの戦争にしか見えなかったもん」
「戦争なんかじゃねぇよ、侵略者に立ち向かうヒーローだ! 同族でありながら反発し合うデスロニアンとの戦いだ!」
「やっぱり戦争じゃない」
「地球どころか、俺らみてぇなのを全部背負って戦ってくれたんだぞ! 感謝しろ、でもって燃えて燃え滾れー!」

 ヤンマは茜に詰め寄るが、茜はブライトウィングを横目に見てから、ヤンマを押しやった。

「守ってくれることには感謝してるし、地球を救ってくれたのは本当に凄いことだと思うけど、私にはそうは見られないよ」
「なんでだよ」

 茜の反応の鈍さに若干苛立ったヤンマが顎を軋ませると、茜はヤンマの足を振り解いて玄関に降りた。

「見た目と戦い方が格好良いからって、それだけで済ましちゃうのは悪いじゃない。見た目はロボットだけど異星人さんだし、色んな苦労もあるだろうし、軽々しくはしゃいじゃうわけにはいかないよ。ブライトウィングさんは隊長だけど、ほら、上と下の板挟みの中間管理職じゃない? それに、ここに引っ越してきたってことは、地球防衛軍の財政事情も不況の煽りを受けて…」

 もっともらしく語り出した茜に、ヤンマは慌てた。

「お前の方が失礼だ!」
「ま…まあ…楽な仕事ではないな」

 ブライトウィングが答えに詰まると、綾子は取り繕った。

「た、確かに不況の影響もちょっとはないわけじゃないけど、地球はちゃんと守っていますから安心して下さいね」
「では、今後ともよろしく頼む。行くぞ、綾子!」

 ブライトウィングは二人に敬礼してから、綾子を連れて階段に向かった。綾子は愛想笑いを保ちつつ、二人に一礼した。
201号室から離れても、ヤンマと茜の言い合いは続いていた。こちらは茜が答える分、ヤンマがヒートアップしていった。
地球防衛軍がいかに凄いかを叫ぶヤンマと、その熱の入りようにどんどん冷めていく茜は、話が噛み合わなくなっていった。
後でケンカにならなきゃいいけど、と綾子は若干不安になりながら、一階で唯一部屋が埋まっている103号室に向かった。
103号室のチャイムを鳴らすと、ブラウスとタイトスカート姿の女性が現れた。仕事上がりらしく、化粧も落としていなかった。
103号室の住人、稲田ほづみだ。きつい印象を与える顔立ちだが美人で、身長も高く、綾子よりも均整の取れた体付きだ。

「ああ、道理で上が騒がしいわけだ。お二人は新しく引っ越してこられた方ですよね?」
「ええ、そうです。お騒がせしてしまい、すみません」

 綾子は平謝りしつつ、夫と自分の自己紹介と挨拶をしてからタオルの詰め合わせの箱をほづみに渡した。

「いえいえ。ここ、見ての通り壁が薄いですから、騒がしいのには慣れっこですから気にしちゃいません」

 ほづみは朗らかな笑顔を浮かべてから、綾子とブライトウィングを見比べた。

「ご夫婦ですか?」
「ええ。結婚したのはしばらく前ですけど」
「羨ましいですね。私にも丁度良さそうなのが一匹いるんですけど、いかんせん歳が離れすぎていて」

 苦笑を交えたほづみに、ブライトウィングは綾子の肩を引き寄せた。

「それを言えば、私と綾子の年齢など地球歴に換算しても五百万年も離れているのだ。それに比べれば些細なものさ」
「それを聞いて安心しました。でも、あいつが高校出るまでは我慢した方がいいですね。世間的にも」


 それでは失礼します、とほづみは頭を下げてから、ドアを閉めた。綾子も頭を下げ返し、ブライトウィングは敬礼を返していた。
三つの部屋の中で、最もまともな対応だった。事前調査の情報では、稲田ほづみは気が強くてヒステリックな性格だとあった。
調査資料と実際の印象に差があるのは珍しくないし、ほづみの性格は水沢シオカラという少年とのやり取りで算出したものだ。
ヤンマと同じくトンボの昆虫人間であるシオカラと接している時のほづみは、生き生きしているが感情の高ぶりが激しかった。
どうやら、ほづみはシオカラにだけは弱いらしく、他の人間や人外が相手では感情的にならなくてもシオカラには負けてしまう。
考えるに、好きな相手には意地を張りがちな性分なのだろう。厄介ではあるが、それがほづみという女性の魅力に違いない。
 挨拶と引っ越しの品を配り終えて203号室に戻った綾子は、居間に入り、データ整理のために支給されたパソコンに向かった。
ブライトウィングもまた、多次元宇宙超越物質、識別名称ストームブリンガーに関する実地調査データの集計を行い始めた。
彼の場合は脳そのものがコンピューターなので思考するだけで良いが、綾子はそうもいかず、黙々とキーボードを叩き続けた。
 引っ越し初日の夜は、互いに仕事に追われるだけだった。


 アパートもえぎのに引っ越してから、一週間が経過した。
 その間、異変は起きなかった。木製の古い壁越しに魔剣ストームブリンガーが存在していても、多次元宇宙は崩壊しなかった。
それどころか、魔剣ストームブリンガーによって命を繋ぎ止めているリビングメイル、アビゲイルからやたらと優しくされてしまった。
アビゲイルは事ある事にお裾分けをしてきて、おかげで料理の腕が今一つな綾子の食卓が華やかになり、食生活も安定した。
ゴミの日や近所のスーパーの品揃えや商店街の特売日なども教えてくれ、引っ越したばかりの街で綾子が困ることもなかった。
だが、決して出過ぎることはなく、隣人としての程良い距離を保っていた。そんなことが続くと、綾子はアビゲイルに心を許していた。
調査対象に深入りするべきではない、と思っていても、ここまで親切にされてしまうと気を許してしまいたくなるのが人情である。
 一週間目の夜。ブライトウィングは緊急出動したまま、帰ってこなかった。綾子も出動しようとしたが、長官から止められた。
だが、今日の任務は危険だ。デスロニアンの残党が現れ、地球の衛星軌道上に直径三十キロメートルもの小惑星を出現させた。
ブライトウィングの部下で、ワープ空間を自在に操る能力を持つエスケープの働きによって小惑星の地球への落下は回避された。
しかし、危機は去らず、小惑星ごとワープさせた先ではデスロニアンNO.2の実力を持つデスポートに襲い掛かられ、苦戦した。
デスポートは二年前の戦いで倒したはずだったが、ワープ空間に逃れ、満身創痍の体を癒やして復讐の機会を待ち侘びていた。
今までの戦いでも、卑怯な手を使うデスポートによって何度も苦戦した。負けるわけがない、と思っても、今度ばかりは、とも思う。
地球防衛軍の司令室に直結しているので、居間のパソコンにオンラインで情報が届いているが、戦況は悪化する一方だった。
なんとかしてやりたいが、綾子には何も出来ない。オペレートすら出来ないので、綾子はパソコンの画面と睨み合うしかなかった。
モニターにずらずらと並ぶ情報の羅列を見ていると恐怖と不安しか湧いてこないので、六畳間の寝室に入って、布団を被った。

「ブリィ…」

 夫の愛称を呟いた綾子は、枕に顔を埋めた。ここに引っ越してきてからは任務ばかりで、ブライトウィングと触れ合わなかった。
ブライトウィングにはこの任務の他に通常訓練や今回のような緊急出動もあるので、元から一緒にいられる時間は少なかった。
だから、夫婦らしいことはあまり出来ずにいる。二人の休暇を寄せ集めてやっと行けた新婚旅行でさえも、襲撃で頓挫してしまった。
デスポートにやられはしないかと思うと涙が出てきたが、枕に吸い込ませて我慢した。戦士の妻が泣いているわけにはいかない。
辛いのはブライトウィングであり、その仲間達だ。綾子は涙を拭って深呼吸し、目を閉じたが、気持ちは弱っていくばかりだった。

「んー…」

 綾子は身を捩り、眠気に意識を集中させようとした。だが、不安で神経が高ぶってしまったため、眠気はさっぱり起きなかった。
その上、変に頭が冴えて落ち着きがなくなってしまい、綾子は何度も寝返りを打ったが三十分以上過ぎても寝付けなかった。

「ちょっとは構ってよ、ブリィ」

 ナツメ球の光が広がる天井を見上げ、綾子はまた泣きそうになった。互いの忙しさは知っているから、なかなか甘えられない。
増して、ブライトウィングの任務は地球を守ることだ。彼やその部下達が戦わなければ、地球など呆気なく滅ぼされてしまうだろう。
けれど、寂しいものは寂しい。綾子は切なさを紛らわすように深く息を吐いたが、胸の重苦しさは抜けるどころか痛みすら生じた。
ブライトウィングから最初に好意を示された時には、自分に好意を寄せてくれる異性に対して感じる程度の好意しか感じなかった。
それからトントン拍子に結婚してからもあまり変わらず、オペレーターと異星人の戦士との間にある隔たりを埋めきれずにいた。
もう少し若ければ思い切って甘えたり弱音も吐けたのだろうが、綾子は今年で三十一歳になるので、大人としての立場があった。
それに、戦いで疲れているブライトウィングに余計な負担も掛けたくないと思ってしまい、甘える言葉をついつい飲み込んでいた。
 今ほど、それを後悔したことはない。綾子はたった一人で無人の惑星に取り残されたかのような寂しさに襲われ、両腕を抱いた。
今頃、ブライトウィングはどうしているだろうか。綾子は体を横たえて背を丸めたが、夫を思うあまりに体の奥底がじくりと疼いた。

「そんなこと、考えてる場合じゃないでしょ」

 と、自戒してみるが、まるで効果はない。綾子は少々後ろめたさを感じたが、気晴らしにと素直に体の欲求に従うことにした。
腕を抱いていた手を解いて、パジャマのズボンに差し込んで股の間に入れた。近頃では、自分でもあまり触っていなかった。
夫には内緒で新調した下着の上から、二つに割れた柔らかな肉の膨らみをなぞる。ほんの少しの刺激なのに、胸が高鳴った。
薄いレース地と浅い茂みに隠れた肉芽を探り、中指で潰した。指先でこね回していると、疼きが増して熱を持つようになった。
それを続けていると、その下の割れ目から潤いが滲んだ。綾子は呼吸を荒くしながら、その潤いを広げるように指を動かした。
生暖かい愛液をねっとりと肉芽に絡み付かせ、陰部に指をそっと入れる。夫のものや指よりも細いが、少しだけなら満たされた。

「んっ…くぅっ!」

 小さな絶頂を迎えた後、綾子はちゅぽんと指を抜いた。正直物足りないが、肝心の夫が帰ってこないのであれば仕方ない。

「ブリィが悪いんだから」

 余韻に浸りながら綾子が呟くと、襖越しに答えがあった。

「それはすまなかった」
「ひえっ!?」

 本気で驚いた綾子が飛び起きると、居間に繋がる襖が開き、人間大の大きさに変化したブライトウィングが立っていた。

「い…いつ、帰ってきたの?」
「三十分前に戦闘は無事終了し、デスポート及びデスロニアンの残党は逃亡した。だから、エスケープの能力を使って地球防衛軍基地に帰還し、最低限の点検と機体洗浄を終えて帰還したのだ。何か、不都合だったか?」

 暗い寝室では一際目立つサファイアブルーの目を細め、ブライトウィングは綾子の前に片膝を付けた。

「う、ううん。お帰りなさい」
「ただいま戻った、綾子」

 穏やかな笑みで答えるブライトウィングに、綾子は寂しさが緩んで顔を綻ばせた。

「いつもご苦労様」
「綾子や皆を守るためなのだ、あれしきの戦いなど苦ではない」

 ブライトウィングは綾子の右手を取ろうとしたが、綾子は慌ててその手を下げた。自分の体液が付いているからだ。

「どうした?」

 ブライトウィングに訝られ、綾子は取り繕った。

「なんでもないの、なんでも。今日の戦闘の報告書はこれから仕上げるんでしょ? 私、手伝うから」

 一度、手を洗わなければ。綾子が立ち上がろうとすると、ブライトウィングはその腕を掴んで鮮やかに引き倒した。

「やっ」

 思い掛けないことに綾子が戸惑うと、綾子の上に覆い被さったブライトウィングは綾子の両腕を冷たい両手で押さえてきた。

「隠すことはない。寂しがらせてすまなかったな、綾子」
「い、いつからいたの? ていうか、やっぱり知っていたの?」

 綾子は赤面しながらブライトウィングから目を逸らすと、ブライトウィングは白銀色の整った顔を近寄せてきた。

「私のセンサーを舐めてもらっては困るな」
「じゃあ、知っていても言わないでよ。もっと恥ずかしくなるから」
「なぜだ? 私と君は生涯の伴侶ではないか、隠し立てするような事柄が今更あるものか」
「夫婦だって、プライベートぐらいあるでしょ。だから、もう放っておいてよ。そっとしておいてよ」
「無理を言うな」

 ブライトウィングは綾子の右手を取ると、湿り気の残る中指に金属製だが柔らかな舌を這わせた。

「ひ、ぁ…」

 恥ずかしさと嬉しさが混在した綾子が悲鳴に似た声を漏らすと、ブライトウィングは綾子の左腕を解放して右手も離した。

「私とて、寂しかったのだ。同じ空間で寝起きを共にしながらも、多次元宇宙超越物質に関する情報収集にばかり時間を割いた。挙げ句に、今日の緊急出動だ。事後処理もせず、報告書も上げずに切り上げることなど、以前の私では考えられないことだった。戦いの最中ですらも、綾子のことばかりが思考回路を駆け巡った。いや、それは今に始まったことではないか。綾子に心を奪われた時から、私の士気を支えるのは他でもない綾子なのだから」

 ブライトウィングは高揚を抑えた口調で囁きながら、綾子のパジャマのズボンに手を掛け、ショーツごと一息に脱がした。

「それって、正義の味方として物凄くダメじゃない?」

 素肌を曝された綾子が恥じらいながら呟くと、ブライトウィングは綾子の素足の前に屈み、左足を軽く持ち上げた。

「金属細胞の肉体と電子回路の頭脳とプログラム言語による意識を持っていても、私は所詮男に過ぎないのだ」
「うぁ…」

 素肌の左足に金属の唇が添えられ、綾子は息を飲んだ。ブライトウィングは左足の親指を含み、唾液の出ない舌を動かした。
それだけで背筋がぞくぞくするほど感じてしまい、潤いの残る体の中心に新たな疼きが起きたが、羞恥心が勝って顔を覆った。
ブライトウィングは足の甲にも唇を当て、次にくるぶし、アキレス腱、と続き、脹ら脛に及び、太股の内側に至り、そしてついに。
だが、肝心な陰部には触れてくれなかった。内心で落胆した綾子が指の間から夫を見やると、ブライトウィングは顔を起こした。

「綾子の口で私を潤してくれ。私も綾子を潤そう、だから上になってくれ」
「うん、解った」

 綾子が腰を浮かせると、ブライトウィングは両翼とブースターを動かして背面部の凹凸を減らしてから、仰向けに横たわった。
ブライトウィングの上に跨った綾子は、夫の顔の上に尻を突き出して俯せになった。これで、どれだけ濡れたか知られてしまう。
いつ触れられるかどきどきしながら、綾子は目の前にあるブライトウィングの股間にキスしてやると、その部分の装甲が開いた。
そこから現れたのは、外見と同じく純白で太い円筒の部品だった。人間の生殖器のように反り返りがない分、口に入れやすい。
小さな穴が空いて丸みを帯びた先端を唇で包み、そのままぬるりと口中に導く。金属ではあるが、顔の部分のような弾力がある。
生命体と言えど分泌液のないメタロニアンは、どれほど刺激しても全く濡れないので、綾子は自分の唾液をたっぷり擦り付けた。
滴り落ちた唾液が股間近辺の装甲を濡らし、シーツにも数滴が吸い込まれた。早く陰部に触れてほしくて、綾子は懸命に奉仕した。
それでも、ブライトウィングは触れてこない。ようやく触れてきたと思ったら、丸い尻を掴んで綾子の陰部を横に広げるだけだった。

「それ、嫌だって言ったじゃない」

 唇と顎をべっとりと濡らしながら綾子がむくれると、ブライトウィングは妻の肉付きの良い尻の下で笑った。

「私と綾子が繋がり合えるかどうか、確かめているだけだ。君達も、私と部下達の合体に不備がないように点検するではないか」
「それとこれとは違うと思うんだけど」
「何も違わないさ」

 ブライトウィングは引き締まった口角を少し上げ、横に押し広げた陰部に吸い付いた。

「ふあっ!」

 下唇で肉芽を押さえられ、冷たい舌をねじ込まれ、綾子は仰け反りそうになった。待ち望んでいた刺激が嬉しいが、強すぎる。
ブライトウィングは綾子の太股を掴み、足を閉ざさせようとしない。綾子は引きつった声を殺すため、夫の疑似男性器を頬張った。
そうでもしないと、夜中なのに叫んでしまいそうだった。全力疾走を終えた後のように息を荒げながら、綾子は純白の棒を握った。
意図していない唾液が口の端から零れ落ち、夫の股間だけでなく両足の駆動を行うシリンダーを濡らし、透明な染みが広がった。
執拗に責められた綾子は膝から力が抜け、腰を上げていることが出来なくなり、夫の顔に尻を押し付けると開き直ることにした。
機械そのものだが人間的に整った顔立ちを尻で挟み、腰を捻るようにして夫から与えられる刺激に自分の力による刺激も加えた。
綾子の体温が移ったブライトウィングの顔に擦り付けると、ぐちゅぐちゅと粘ついた異音が溢れ、太股の内側を一筋伝い落ちた。

「やっと素直になってくれたか」

 ブライトウィングは綾子の尻を浮かせて離すと、白濁気味の愛液に濡れた顔を手の甲で拭った。

「だって…あんまり焦らすからぁ…」

 自分から迫ってしまった恥ずかしさで綾子は顔を伏せると、ブライトウィングは綾子を抱え、膝の上に座らせた。

「ならば、繋がろう」

 くちゅ、と生温く濡れた白い先端が赤らんだ陰部を広げ、時間を掛けて押し込まれた。綾子はその手間さえも惜しいほどだった。
自分から体重を掛けようとするが、ブライトウィングの両手に腰を掴まれているので奥まで飲み込めず、もどかしい思いをした。
人間の体重など、メタロニアンの腕力には軽すぎるほどだ。不満と焦りで綾子が夫を睨むと、ブライトウィングは綾子を撫でた。

「それほど私が欲しかったのか?」
「…うん」

 躊躇いつつ、綾子は小声で肯定した。乱れた髪を撫で付けるブライトウィングの手付きは優しく、愛情に満ちていた。

「ならば、今度からは私の綾子専用合体ジョイントを分離させて待機させておこう。無論、感覚は無線通信で直結させておく」
「えっ、ちょっと、それは…」
「冗談だ。そこまで求められているのであれば、応えてやりたくなるものではないか」
「べ、別にそこまでしたいってわけじゃないし、今日のアレは、ブリィが心配で寝付くに寝付けなかったからで…うん…」
「不安がらせてすまなかった。だが、私を信じてくれ。それこそが、私に揺らがぬ信念を与えてくれる力となる」
「こういう半端な状態で言うセリフ?」

 綾子が半分ほどしか入っていない純白の逸物を見下ろすと、ブライトウィングは綾子の腰を力強く引き寄せた。

「んあぁうっ!?」

 ずん、と胎内に重みが訪れ、綾子は充足感で熱い吐息を漏らした。

「はぁあっ…入ってきたぁ…」
「拭いた方が良いか?」

 ブライトウィングが顔を拭おうとすると、綾子は両手でブライトウィングの顔を挟んで身を乗り出した。


「平気。だって、自分のだし」

 腰をゆっくりと回しながら、綾子はブライトウィングの唇に噛み付いた。夢中でキスをしていると、パジャマのボタンが外された。
ブライトウィングは綾子の上半身も脱がし、裸にすると、硬い腕で抱き寄せた。薄く汗の浮いた肌と滑らかで硬質な肌が重なる。

「ブリィ、ブリィ、ブリィ!」

 熱に浮かされたように夫の名を繰り返し、綾子はブライトウィングの上で腰を上下させた。

「ああ、寂しかったぁっ…! そう、これ、これなのぉっ!」
「綾子っ!」

 ブライトウィングは綾子を押し倒し、一際強く貫いた。

「ブリィイイイッ!」

 体の芯を貫通したかのような快感に胸を反らし、重たい乳房を震わせた綾子は、ブライトウィングの腕に爪を立てた。

「もっと、もっとお願いぃっ、でないと足りないのおっ!」
「これが私の愛だ、全て受け止めてくれ!」

 ブライトウィングは綾子の腰を掴んで引き寄せ、更に深く押し込んだ。擦り合わせていくにつれ、純白の棒が熱を帯びていった。
それはブライトウィング自身の熱でもあり、綾子の体温でもあった。ブライトウィングに抱き締められながら、激しく揺さぶられる。
声を抑えることも忘れ、任務すら忘れ、綾子は夫を貪った。メタロニアンにも皮膚感覚はあるので、その肌に何度もキスを降らせた。
ブライトウィングもまた、誇り高き戦士の顔付きではなくなっていた。惚れた女を一心に貪る、どこにでもいる男でしかなくなった。
熱を帯びた冷却水をたっぷり注がれ、気が遠くなるほどの絶頂を終えても、綾子はブライトウィングの疑似男性器を離さなかった。
 地球を守る正義の味方への、精一杯の独占欲だった。



 腰のだるさと頭の重さで、綾子は目を覚ました。
 目尻には涙の跡が残り、口の端には涎の跡があり、股間にはまだ重みがある。綾子は布団の下に手を伸ばし、触れてみた。
後ろから貫かれたまま眠ったため、強張りを失わない夫のものが綾子の陰部をきつく広げていて、乾いた体液が絡み付いていた。
身を捩ると、精液代わりの冷却水が滲み出した。これを抜いてしまえば、激しいセックスの余韻が消えてしまいそうな気がした。
だが、起き上がらなければ一日が始められない。綾子は腰を浮かせて引き抜こうとすると、背後から伸びた手が腰を押し下げた。

「ふぁっ…」

 電流に似た快感が陰部から背筋に駆け抜け、綾子は寝起きの気怠い体に似付かわしくない吐息を零した。

「んはぁ…。もう、意地悪しないでよぉ…」
「私を銜え込んで離そうとしなかったのは、綾子の方ではないか」

 綾子の腰を押さえ込んでいるブライトウィングは、綾子の頭上から穏やかに声を掛けた。

「ブリィだって、自分から抜こうとしなかったじゃない」

 綾子は腰をくねらせ、更なる快感を求めた。

「仕方あるまい」

 その要求に優しく応えてやりながら、ブライトウィングは笑った。

「愛しているよ、綾子」
「…うん。私も愛してる」

 顔を火照らせた綾子が呟くと、ブライトウィングは綾子の腰を引き寄せた。望んでいたものに、綾子は掠れた嬌声を上げた。
それから二人は、ひとしきり愛を交わした後、ようやく体を離した。気付いた頃には朝は過ぎ、時計の針は昼前を差していた。
そんな状態では仕事になるわけがないので、その日はデータ収集はパソコンに接続している各種センサーに任せることにした。
ブライトウィングも報告書の提出とメンテナンスを受ける予定が入っていたのだが、翌日に投げて、丸一日綾子と愛し合った。
デスロニアンとの戦闘が起きないことを祈りながら、綾子はブライトウィングに思い切り甘え、ブライトウィングもまた同様だった。
いつ、また平和を脅かす戦いが起きるか解らないのだ。だから、綾子も、ブライトウィングも、思う存分互いを満たし合った。
 正義の戦士の信念を揺らがせないために。





名前:
コメント:

すべてのコメントを見る
ウィキ募集バナー