人外と人間
人外アパート ヤンマとアカネ 番外編「鬼と山神」 和姦
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人外アパートの番外編でヤンマと茜が主役ですが、河童と村娘とも繋がっています。
昆虫人間×少女の和姦ですが、茜がちょっとだけ清美にいじられます。
鬼と山神 859 ◆93FwBoL6s.様
濃い青空、そそり立つ入道雲、けたたましいセミの声。
縁側に座ってスイカを囓り、甘い果汁ごと種も啜り込む。瑞々しい青臭さを触角と舌の双方で感じ取りながら、鬼塚ヤンマは隣に座る秋野茜の様子を複眼で捉えていた。子供の頃から変わらず、茜はスイカを食べるのが下手だ。種なんて飲み込んでしまえばいいのに、いちいち取り出すものだから手がべたべたになっている。顎から伝った汁気が首筋にまで垂れているし、ハーフパンツを履いた太股にも赤い雫がいくつも落ちている。
縁側に座ってスイカを囓り、甘い果汁ごと種も啜り込む。瑞々しい青臭さを触角と舌の双方で感じ取りながら、鬼塚ヤンマは隣に座る秋野茜の様子を複眼で捉えていた。子供の頃から変わらず、茜はスイカを食べるのが下手だ。種なんて飲み込んでしまえばいいのに、いちいち取り出すものだから手がべたべたになっている。顎から伝った汁気が首筋にまで垂れているし、ハーフパンツを履いた太股にも赤い雫がいくつも落ちている。
「おい」
ヤンマはスイカが載っていた盆から濡れ布巾を取り、茜の顎から首筋に掛けてぐいぐいと拭いた。
「何すんの、もう」
茜は乱暴に拭かれた肌を手の甲で擦り、むくれた。ヤンマは残った皮も食べてから、自分の爪を拭いた。
「見るに見かねたんだよ。いつになったらスイカを喰うのが上手くなるんだ、お前は」
「いいじゃん、別に。ヤンマには関係ないじゃん」
「ガキ臭ぇんだよ」
「そのガキ臭いところが好きなくせに」
「馬鹿言ってんじゃねぇ」
「いいじゃん、別に。ヤンマには関係ないじゃん」
「ガキ臭ぇんだよ」
「そのガキ臭いところが好きなくせに」
「馬鹿言ってんじゃねぇ」
ヤンマは茜の頭を小突くと、茜はにやけながらスイカの残りを頬張った。そうは言うものの、反論出来ないのが悔しい。
「ここ、なーんにも変わらないねぇ」
裸足の足をぶらぶらさせながら、茜は実家の庭先から見える風景を一望した。
「何百年も同じだったんだ、これから先も同じなんだろうよ」
ヤンマは下両足を組んで胡座を掻き、透き通った四枚の羽を下げた。実が膨れてきた稲穂が揺れる田んぼと、ナスやキュウリがたわわに生る畑、爽やかな風が吹き下りてくる深緑の山。肺に入れる空気は澄み渡り、嗅覚をなぞる臭気も田舎のものだ。ちょっと車を走らせて街中に入ればそれなりに栄えているが、ヤンマと茜が生まれ育ったのは郊外の集落だ。見知った顔ばかりで構成された狭い世界だが、居心地は悪くない。都会に比べれば、明らかに時間の流れが遅かった。
二人揃ってお盆休みに帰省することにもすっかり慣れた。酒の席で鬼塚家と秋野家の親から結婚を急かされるのも、茜が高校を出るまでだと半笑いで言い返すのも、茜が親の気の早さに呆れるのも、双方の親戚から夫婦扱いされるのも。
二人揃ってお盆休みに帰省することにもすっかり慣れた。酒の席で鬼塚家と秋野家の親から結婚を急かされるのも、茜が高校を出るまでだと半笑いで言い返すのも、茜が親の気の早さに呆れるのも、双方の親戚から夫婦扱いされるのも。
「明日は神社のお祭りだっけ」
スイカを食べ終えた茜が皮を渡してきたので、ヤンマはそれを躊躇いもなく喰った。
「毎年のことだから、もうなんとも思わねぇけどな。大した祭りでもねぇし」
「神隠しに遭わないように気を付けなきゃね」
「つっても、あれは三十年近く前の話だろ? 茜の母さんの同級生の女子が祭りの途中で行方不明になったのは」
「でも、それっきり見つかってないんだもん。きっと、神様に気に入られちゃったんだね」
「この辺の川じゃなくて、山の沢に泳ぎに行ってたらしいしなぁ。だから、あっち側に引っ張られちまったんだな」
「神隠しに遭わないように気を付けなきゃね」
「つっても、あれは三十年近く前の話だろ? 茜の母さんの同級生の女子が祭りの途中で行方不明になったのは」
「でも、それっきり見つかってないんだもん。きっと、神様に気に入られちゃったんだね」
「この辺の川じゃなくて、山の沢に泳ぎに行ってたらしいしなぁ。だから、あっち側に引っ張られちまったんだな」
例年通りの会話を交わし、ヤンマは二切れ目のスイカを囓った。神隠しに遭った娘の話は、この集落ではリアリティのある怪談だ。数年前、市町村合併によって大きな市に吸収される前は、この集落を含めた一帯は小さな村だった。その頃、一人の女子中学生が祭りの夜に突然姿を消した。その名は河野清美といい、活発で明るい性格で誰からも好かれていた。泳ぎも上手く、神隠しに遭う直前には水泳大会で好成績を残すほどだった。だが、彼女は何の前触れもなく姿を消した。その後、十年に一度と言われる記録的豪雨が降ったために捜索を始めるのが遅れたせいか、何度捜索を行っても遺骨すら見つからなかった。だから、毎年のように大人は子供に言い聞かせる。夏の山に入るな、山神に隠されてしまう、と。
「隠されちゃったらどうする?」
茜は口元の汚れを拭ってから、ヤンマに寄り掛かってきた。
「俺は鬼だぞ。引き摺り出せるに決まってんだろ」
ヤンマは茜を押し返さず、姿勢を保った。茜は笑い、ヤンマの冷たい外骨格に頬を寄せた。
「ただのでっかいトンボのくせに。でも、その時はよろしくね」
「言われるまでもねぇ」
「言われるまでもねぇ」
ヤンマはぎちりと顎を擦り合わせ、茜を抱き寄せた。鬼塚一族が鬼として扱われていたのは、人外の存在が人間社会に馴染みきっていなかった時代のことだ。ただの巨大なトンボだと知られてからは敬われも恐れもしなくなったが、そうなる前は本物の鬼だった。遠い昔、正体を突き止められなかったもの、人智の及ばないもの、天変地異は名を与えられて妖怪となっていたという。だから、ただの巨大なトンボだと知らしめられる前は、鬼塚一族も人間から見ればあちら側の住人だった。
もしも、そのままだったらどうなっていただろう。茜を始めとした集落の人間から恐れられたら、ヤンマは鬼と呼ばれるに相応しい男になっていたのだろうか。茜もヤンマを恐れたりするのだろうか。前者はともかく、後者は有り得ないだろう。茜は幼い頃からヤンマにべったりで、ヤゴだった頃も成虫になってからも一度も恐れたことはない。だから、ヤンマが本物の鬼と化していたとしても、茜は同じことをしていたに違いない。そして、行き着く先も変わらないはずだ。
ヤンマはヤンマで、茜は茜なのだから。
もしも、そのままだったらどうなっていただろう。茜を始めとした集落の人間から恐れられたら、ヤンマは鬼と呼ばれるに相応しい男になっていたのだろうか。茜もヤンマを恐れたりするのだろうか。前者はともかく、後者は有り得ないだろう。茜は幼い頃からヤンマにべったりで、ヤゴだった頃も成虫になってからも一度も恐れたことはない。だから、ヤンマが本物の鬼と化していたとしても、茜は同じことをしていたに違いない。そして、行き着く先も変わらないはずだ。
ヤンマはヤンマで、茜は茜なのだから。
祭り囃子に巫女の舞、縁日、御輿。
何もかもが例年通りで、目新しいものはない。出店も見慣れた顔触れで、テキ屋が地元の子供達と親しげに会話する様もいつものことだ。山神に奉納するために舞う巫女は、醜女の面を被り、祭事用の豪奢な扇子を広げている。神楽を演奏する神官達は神楽鈴を鳴らし、おごそかな雰囲気を醸し出している。篝火と提灯の明かりが本殿を朱色に染め上げ、非日常を見事に生み出していた。本殿を見下ろす御神木がざわりと葉を揺らし、夜気混じりの風が熱っぽい祭りの空気を乱した。
奉納の舞が終わり、見物客達が去っていくと、境内の人混みは少し落ち着いた。ヤンマは短い触角を動かして空気の流れを感じ取りつつ、左上足を掴んで片足立ちしている茜を見下ろした。
何もかもが例年通りで、目新しいものはない。出店も見慣れた顔触れで、テキ屋が地元の子供達と親しげに会話する様もいつものことだ。山神に奉納するために舞う巫女は、醜女の面を被り、祭事用の豪奢な扇子を広げている。神楽を演奏する神官達は神楽鈴を鳴らし、おごそかな雰囲気を醸し出している。篝火と提灯の明かりが本殿を朱色に染め上げ、非日常を見事に生み出していた。本殿を見下ろす御神木がざわりと葉を揺らし、夜気混じりの風が熱っぽい祭りの空気を乱した。
奉納の舞が終わり、見物客達が去っていくと、境内の人混みは少し落ち着いた。ヤンマは短い触角を動かして空気の流れを感じ取りつつ、左上足を掴んで片足立ちしている茜を見下ろした。
「一旦帰るか? そんなんじゃ、歩くに歩けねぇだろ」
「うー……」
「うー……」
浴衣姿の茜は、千切れた鼻緒を持って片方の下駄をぶら下げていた。
「でも、まだ来たばっかりだし。出店だってほとんど見てないもん。そんなのつまんない」
「だからって、俺に捕まって片足ケンケンしてるつもりか? サンダルでもスニーカーでもいいから、履き替えてこいよ」
「浴衣にサンダルって格好悪いじゃん。そっちの方がやだよ」
「俺の方が嫌だ。お前の体重を片方に受けっぱなしだと、筋がイカレちまいそうだ」
「あー、ひっどーい。そんなに重くないって言って、いつも抱えて飛ぶのはどこの誰?」
「あれとこれとじゃ具合が違うんだよ。とにかく帰るぞ、すっ転んで泣かれると後が面倒だ」
「だからって、俺に捕まって片足ケンケンしてるつもりか? サンダルでもスニーカーでもいいから、履き替えてこいよ」
「浴衣にサンダルって格好悪いじゃん。そっちの方がやだよ」
「俺の方が嫌だ。お前の体重を片方に受けっぱなしだと、筋がイカレちまいそうだ」
「あー、ひっどーい。そんなに重くないって言って、いつも抱えて飛ぶのはどこの誰?」
「あれとこれとじゃ具合が違うんだよ。とにかく帰るぞ、すっ転んで泣かれると後が面倒だ」
ヤンマは茜を引っ張り、歩き出した。茜は不満げだったが、ヤンマの肩を借りて石段を下り始めた。最初、茜は片足だけで跳ねて下りようとしたが、バランスが悪すぎるので観念して裸足で石段を踏んだ。行き交う人々に足を踏まれないように、ヤンマは茜を庇いながら狭い石段を下っていった。茜の足元が気になっていたので下を向いていると、複眼の両脇を過ぎる人影が不意に失せた。本殿で打ち鳴らされている太鼓の音も縁日のざわめきも遠ざかったかのように聞こえなくなり、心なしか空気も冷え込んだ。石段の両脇の杉林から響き渡っていたセミの声も沈黙し、木々の隙間から見える空の色も暗くなっている。日没が過ぎたばかりだというのに、星も見えないほど濃い闇に支配されていた。
「……あれ?」
茜も異変に気付いて足を止め、ヤンマは触角を曲げた。
「とにかく下りるぞ」
早くこの場を去らなければ、拙いことになる。根拠はなかったが、外骨格の裏側にざらついた違和感が貼り付いている。茜の足取りが遅すぎるので横抱きにし、軽く羽ばたきながら石段を駆け下りていくが、いつまでたっても石段が終わらない。子供の頃に茜と一緒に段数を数えた時には五十五段だったのを思い出したので頭の中で数えるが、百や二百を超えても終わらない。石段の先に地上は見えず、振り返っても縁日どころか鳥居も見えない。
「ヤンマ」
不安げに縋ってきた茜に、ヤンマはぎちっと顎を噛み合わせた。
「心配するな、大したことはねぇ」
空まで出れば、どうにかなるはずだ。そう思い、ヤンマが羽を震わせて飛び上がろうとするが、空気がいやに粘ついて羽で叩いても手応えがなかった。びいいいいん、と羽音だけが空しく響き、下両足の黒い爪は石段を噛んだままだった。
「鬼だ」
「鬼だ」
不意に頭上から声が掛かり、ヤンマは茜を強く抱いて身構えた。複眼が動くものを捉えたので視点の中心を据えると、杉の木の枝に人影が腰掛けていた。白い半袖ブラウスに紺色のプリーツスカート、白いハイソックスにローファーを履いた中学生らしき少女だった。その顔は、行方不明者として張り出されている色褪せた写真と同じだった。
「鬼か」
また別の声が聞こえたので複眼を向けると、反対側の杉の木の根本から、音もなく異形が姿を現した。皿の載った頭に鋭いクチバシ、甲羅、水掻きの張った指、ぬるりと湿った緑色の肌。成人男性ほどの体格の河童だった。それを見た途端、ヤンマは羽の震えが止まった。近付いてはならない、見てはならない、と生き物の本能が喚き、関節という関節が固まって身動き出来なくなった。逃げなければならない。しかし、どこに逃げればいいのか。
「鬼の子とその伴侶よ」
ぺちょり、と水気を含んだ足音を立て、河童はヤンマに歩み寄った。
「おぬしらは、山神に見初められてしもうた。相も変わらず、困った御方よの」
「退屈だから、山まで連れてこいって言われちゃった。全く、人使いが荒いんだから。あれ、神様使いかな?」
「どちらでも良かろう」
「退屈だから、山まで連れてこいって言われちゃった。全く、人使いが荒いんだから。あれ、神様使いかな?」
「どちらでも良かろう」
河童が少女を見やると、少女は身軽に枝から飛び降り、ヤンマと茜の進行方向を塞ぐように立った。
「てなわけだから、ちょっとだけ付き合って? やることやったら、ちゃーんと現世に返してあげるから」
「あんた、まさか、河野清美……?」
「あんた、まさか、河野清美……?」
ヤンマが後退ると、少女は明るく笑った。
「うん、そうだよ。私ね、タキの奥さんになったの。あ、それとね、山に入ってからは名前を呼び合っちゃダメだよ。山神様に名前を教えちゃうと、本当に帰れなくなっちゃうからね」
「や、やる、って何を?」
「や、やる、って何を?」
茜が怖々と清美に尋ねると、清美はちょっと言いづらそうに頬を掻いた。
「えーと、C……かな?」
ヤンマは辛うじて意味が解ったが、茜にはさっぱりだったらしくきょとんと目を丸めていた。大昔の隠語でセックスだが、なぜ、そんなものを神様が求めているだろう。確かにそういったものが御神体になっている神社も多いが、この集落の神社は山岳信仰の色合いが強く、御神体も山そのものだ。だから、不可解でならず、ヤンマはぎちぎちと顎を軋ませてしまった。タキと呼ばれた河童は心底呆れているらしく、頭の皿から水を零さずに頭を横に振っている。清美も気まずいのか、茜を覗き込んでは励ましていた。事態の不可解さと相手の要求が理解出来ないのか、茜は困りすぎて半泣きになってヤンマに縋り付いてきた。ヤンマも似たような心境だったが、うっかり逆らって山神に祟られたくはない。どうせ、家族のいない間に事を致すつもりでいたのだから、それが少し早まったと思えばいいだけだ。
ギャラリーがいなければ、もっと良かったのだが。
ギャラリーがいなければ、もっと良かったのだが。
清美とタキに先導されて昇ると、間もなく石段が途切れた。
あれほど長く伸びていたはずの石段がほんの数段で終わったが、鳥居もくぐらず、境内に出なかった。その代わりに二人を待ち受けていたものは、小さな石碑が入り口に据えられた洞窟だった。いつのまにか小雨が降り出していて、ヤンマは窒息しかねないので慌てて洞窟に入った。茜は鼻緒が切れた下駄ともう一方の下駄も脱いで手に提げ、ヤンマに続いて洞窟に入り、恐る恐る中を見回した。外が狭いわりに中は意外に広く、清美の寝床なのか、柔らかな青草を重ねた上に木綿の布地が被せてあった。だが、空気がやたらに重たく、ヤンマは雨水で気門が詰まったのかと疑うほどだった。辛うじて吸い込めても、雨上がりの匂いを煮詰めたような青臭さと泥臭さばかりで苦しくなった。茜も息を詰め、ヤンマにぴったりと体を寄せていた。
あれほど長く伸びていたはずの石段がほんの数段で終わったが、鳥居もくぐらず、境内に出なかった。その代わりに二人を待ち受けていたものは、小さな石碑が入り口に据えられた洞窟だった。いつのまにか小雨が降り出していて、ヤンマは窒息しかねないので慌てて洞窟に入った。茜は鼻緒が切れた下駄ともう一方の下駄も脱いで手に提げ、ヤンマに続いて洞窟に入り、恐る恐る中を見回した。外が狭いわりに中は意外に広く、清美の寝床なのか、柔らかな青草を重ねた上に木綿の布地が被せてあった。だが、空気がやたらに重たく、ヤンマは雨水で気門が詰まったのかと疑うほどだった。辛うじて吸い込めても、雨上がりの匂いを煮詰めたような青臭さと泥臭さばかりで苦しくなった。茜も息を詰め、ヤンマにぴったりと体を寄せていた。
「山神さまぁー、お連れしましたよーう」
清美が軽い足取りで洞窟の奥に向かうと、タキは二人に甲羅を向けて胡座を掻いた。
「儂は何も見ぬ、聞かぬ。今宵の祭りは、山神に捧ぐものであるからな」
「ほんに鬼の子じゃのう」
「ほんに鬼の子じゃのう」
清美の背後、一際重たく凝った闇から、草色の浴衣に白い面を被った女、山神が歩み出してきた。
「おぬしは鬼塚の子よの。あれはほんに跳ねっ返りでのう、妾の手に負えぬ輩であった。おぬしは、その血を連ねておるわ」
「……俺の名字、知ってんじゃねぇか」
「……俺の名字、知ってんじゃねぇか」
ヤンマが顔をしかめるようなつもりで顎を開くと、清美が苦笑いした。
「下の名前まで知られなきゃ大丈夫だから」
「じゃ、じゃあ、本当にヤ、鬼だったの?」
「じゃ、じゃあ、本当にヤ、鬼だったの?」
茜はヤンマの名を言いかけて飲み込むと、山神は茜の目前に面を被った顔を突き出した。
「鬼でなければ鬼と呼ばれぬ。娘、おぬしは百姓の子か。小綺麗にしておっても、血に染みた泥の匂いは隠せぬわ」
「そんなんはどうでもいいっすから、なんで俺らを連れてこさせたんすか」
「そんなんはどうでもいいっすから、なんで俺らを連れてこさせたんすか」
ヤンマは茜を背に隠して山神から遠ざけると、山神はす、と身を引いた。
「清滝之水神の嫁に伝えさせたじゃろうに、忘れてしもうたんかえ。妾は暇で暇で仕方のうてのう」
「だから、今、神社でお祭りをやっているんじゃないんですか?」
「だから、今、神社でお祭りをやっているんじゃないんですか?」
茜が言うと、山神は袖で口元を押さえた。
「あんなもの、何百年と見せられては飽きもする。故に、妾はもっと心躍るものが見とうてのう」
「無茶振りにも程がないっすか」
「無茶だろうと粗茶だろうと、神の願いを叶えるのが現世の者共の役割じゃろうに」
「で、でも、やることやったらちゃーんと代償ってのがあるんすよね? ギブアンドテイクで」
「常世から現世に五体満足で戻してやろうと言うておろうに、何が不満なのかえ。それ以外に望むものがあるならば、御魂でも寄越してくれぬかのう。さすれば、叶えてやらぬでもないが」
「……すんません」
「無茶振りにも程がないっすか」
「無茶だろうと粗茶だろうと、神の願いを叶えるのが現世の者共の役割じゃろうに」
「で、でも、やることやったらちゃーんと代償ってのがあるんすよね? ギブアンドテイクで」
「常世から現世に五体満足で戻してやろうと言うておろうに、何が不満なのかえ。それ以外に望むものがあるならば、御魂でも寄越してくれぬかのう。さすれば、叶えてやらぬでもないが」
「……すんません」
相手が悪すぎた。ヤンマが素直に引き下がると、山神は洞窟の奥に戻り、腰を下ろした。
「さあ、妾を楽しませておくれ。鬼の子よ」
そう言われても、すぐに出来るものでもないのだが。清美に促され、ヤンマと茜は草の上に布を敷いた寝床に座らされた。心地良い夏草の匂いが立ち上り、並みの布団よりも柔らかく、寝心地は悪くないので、何をしたとしても大丈夫そうだった。茜はヤンマの前に正座したが、目元に涙を溜めていた。気持ちは痛いほど解るので、ヤンマは茜を抱き寄せて慰めた。二人きりなら慣れたものだから、恥じらいはあっても躊躇いはない。だが、この場には山神がいるし、清美もタキも傍にいる。誰も彼も初対面だが、かといってそう簡単に吹っ切れられない。ヤンマの胸部に頬を押し付けている茜は、恥じらいではなく怯えが顔に出ていた。安心させてやりたいが、ヤンマも不安と畏怖で上手い言葉が出てこなかった。
「ちょっとごめんね」
清美は茜の背後に腰掛けると、後ろから茜に腕を回した。
「山神様、手伝ってあげてもいいですか?」
「良きかな」
「良きかな」
膝を崩して頬杖を付いている山神が頷くと、清美は固まっている茜を優しく抱いた。
「鬼さんもごめんね。服の上だけにしておくから、あんまり妬かないでね?」
大丈夫だから、と清美は茜の耳元で囁いてから、腕を緩めて茜の控えめな胸を掴んだ。
「うひゃっ」
茜が身を跳ねると、清美は浴衣の布越しに乳房を揉みほぐすように手を動かした。
「うわ、可愛いなぁ」
自分でもヤンマでもない手に体を探られるのが恥ずかしく、茜は発熱したかのように赤面した。浴衣の袂が広げられると、襦袢の上からさすってきた。清美はほとんど力を入れずに撫でるだけに止めていたが、緊張と恐怖で気が立っていた茜には充分だった。女でなければ解らない力加減で丸みをなぞられ、刺激に応じて尖った乳首の先端を軽く押され、おまけにヤンマが真正面から見ている。茜はくらくらするほど頭に血が上り、前のめりになってヤンマの胸に顔を埋めた。
「やだぁ、恥ずかしい……」
「安心しろ、見ている方も恥ずかしい」
「安心しろ、見ている方も恥ずかしい」
ヤンマは茜の顔を上げさせ、ぐばりと顎を開いて舌を伸ばした。喘ぎを殺すために唇を引き締めていた茜は、冷たい舌先で唇を舐められると、唇を少しだけ開いた。その間にすかさず滑り込ませ、絡めると、雨水よりも重い水音が反響した。
「こっちはどうかな?」
清美は茜の緩みかけた膝を割らせて裾を開き、クロッチの上から人差し指を這わせた。
「んぁっ」
薄い羽で掠められたような、弱く繊細な愛撫だった。それを何度も繰り返されると、茜は吐息が弾んできた。
「う、ふぁっ、あっ」
「ほらほら、見てるだけでいいの?」
「ほらほら、見てるだけでいいの?」
清美は茜の襦袢も広げて肌を曝させると、茜は居たたまれなさそうに顔を背けた。罪悪感と背徳感が入り混じる横顔に、ヤンマは妙な感情がざわめいた。自分だけのものだと思っていた茜が、河童の嫁だという少女の手で感じさせられている。状況が状況だし、女同士なので、嫉妬するのはおかしいと思ったが、腹の底がむず痒い。そして、泣きそうになっている茜が無性に可愛らしく、自分以外の愛撫を受ける様は初々しささえある。
「ほぅら」
清美の手が、これ見よがしに茜の浴衣の裾に覆われた太股を撫で下ろす。茜のショーツのクロッチはうっすらと湿り、あの匂いが零れ出している。ヤンマは茜の腰に回した長い腹部を巻いてぐいっと引き寄せると、清美は呆気なく手を離してくれた。ヤンマの元に戻ってきた茜は気まずそうに身を縮めたが、汗ばんだ首筋に舌を這わせると上々の反応が返ってきた。
「あうぅんっ」
「俺じゃなくても楽しめるみたいだな?」
「俺じゃなくても楽しめるみたいだな?」
ヤンマがにやけながら毒突くと、茜はふるふると首を横に振った。
「そうじゃないよぉ、見てるからだよ」
「俺が見せられてたんだよ」
「違うよぉ……」
「俺が見せられてたんだよ」
「違うよぉ……」
茜はヤンマの逞しい腰に腕を巻き付け、硬い外骨格に口付けを落とした。
「お前は俺が好きなんじゃなくて、ただ、いじられるのが好きなだけなんじゃねぇの?」
「んひっ!」
「んひっ!」
裾の下から入り込ませた腹部の先端で陰部を小突くと、茜は悲鳴に似た声を上げた。
「違う、違うよぉっ」
「さあて、どうだかな」
ヤンマは顎を広げて威嚇とも笑みとも取れる表情を見せると、茜は眉を下げた。
「さあて、どうだかな」
ヤンマは顎を広げて威嚇とも笑みとも取れる表情を見せると、茜は眉を下げた。
「怒ってるの?」
「怒っちゃいねぇ。どうにも面白くねぇだけだ」
「相手は女の子だよ、それに仕方ないことだって、ぁん!」
「怒っちゃいねぇ。どうにも面白くねぇだけだ」
「相手は女の子だよ、それに仕方ないことだって、ぁん!」
言い返してきた茜の陰部に、ヤンマは腹部の先端から飛び出させた生殖器を抉り込ませた。
「女だろうが何だろうが、自分の女をいいようにされて嬉しい男がいるかよ」
上両足ではだけていた浴衣の袂を完全に押し広げ、ブラジャーをずり上げると、日焼けしていない白い乳房が零れた。茜は唇を歪め、ぎゅっと目を閉じた。ヤンマはこれ以上の成長が望めなさそうなものを噛み千切るかのように顎を開き、硬く充血した先端を舌で舐め上げた。同時に、ショーツを破らんばかりに生殖器も突き立てる。
「うぁああっ!」
「なんか面倒臭ぇな」
「なんか面倒臭ぇな」
ヤンマは中右足で茜のショーツを下げると、茜は片足を上げて引き抜いた。
「うん……」
「見せるってんなら、こうした方がいいじゃねぇの?」
「見せるってんなら、こうした方がいいじゃねぇの?」
ヤンマは茜の体を背中から抱えて持ち上げ、山神に向けて両足を広げさせた。途端に、茜は羞恥で硬直した。
「やっ、やだぁっ! これ、恥ずかしいなんてもんじゃないよ! 末代までの恥レベルだよぉ!」
「神様に連れ去られてこんなことをさせられている時点で恥だろうが」
「そりゃ、そうだけど」
「神様に連れ去られてこんなことをさせられている時点で恥だろうが」
「そりゃ、そうだけど」
茜は首筋を甘噛みしてきたヤンマを横目に、山神を窺った。洞窟の中には明かりはほとんどないが、不思議と山神の姿はくっきりと浮かび上がって見えた。山神自身が発光しているのかもしれない。だから、きっと、茜の濡れた陰部もよく見える。幼子が小便をさせられるかのような格好にさせられたせいか、陰部に溜まっていた愛液がてろりと落ちた。何も収まっていないのが物足りなくて、無意識に入り口の筋肉がひくつく。顔を覆ってしまいたくなったが、両手首はヤンマの爪によって押さえられた。洞窟の冷えて湿っぽい空気が火照った肌に優しい。
「ほれ、早うせぬか」
山神は冷ややかな面の奥で、かすかに目を細めた。
「あぁ、あっ、ぅああっ!」
濡れてはいたが解されていない陰部に硬い生殖器を押し込まれ、茜はびくんと痙攣した。
「ひぃんっ!」
ぐいっと生殖器が上がり、膀胱を裏側から押される。
「あ……?」
だが、続きはなかった。茜が訝ると、ヤンマは茜の耳朶をべろりと舐めた。
「俺ばっかりがやってもつまんねぇだろ。好きに動いてみろよ」
「うっかり出しちゃっても、知らないからね?」
「うっかり出しちゃっても、知らないからね?」
茜は腰を落とし、ヤンマの生殖器を根本まで飲み込んだ。
「あ、はぁっ……んっ」
満足げに熱い吐息を零した茜は、練るように腰を回し始めた。分泌された愛液もこね回されているのか、肉と水気が交わる音が重なる。見られて焦らされて煽られたせいか、足元に滴る雫が普段より多く感じる。次第に腰が浮くようになり、擦り合わせる速度も速まっていく。足を広げていては辛かろうとヤンマが膝の上に座らせると、茜は一層激しく動いた。
「ね、ねぇっ」
「ああ?」
「ああ?」
ヤンマが聞き返すと、茜は夢中になるあまりに唇の端から涎を落としていた。
「こんなんでっ、いいのかなぁ? だって、これぇ、私達だけが気持ちいいのにぃっ!」
「それは神様の勝手だろう、よ!」
「くぁあんっ!」
「それは神様の勝手だろう、よ!」
「くぁあんっ!」
ヤンマが強く奥を突くと、茜は仰け反った。
「少なくとも、俺は楽しい」
「うん、うんっ」
「うん、うんっ」
茜は何度も頷き、腰を止めようとしなかった。背中に胸郭が接しているヤンマの声と外骨格の軋みしか聞こえず、視界もぼやけて山神の姿もよく見えない。けれど、見られている。視線がありとあらゆる部分に刺さり、素肌で草に触れたかのようにちくちくする。鮮明なのは、痺れるほど熱した陰部から駆け巡る情感ぐらいだった。汗と愛液でとっておきの浴衣が汚れても気にならないほど、ヤンマに貫かれていたかった。山神の言う通り、鬼というなら確かに鬼なのだろう。
人間と違って、絶対に萎れないのだから。
人間と違って、絶対に萎れないのだから。
気が付くと、揃って御神木の傍にいた。
悪い夢でも見ていたかのように頭が重たく、疲労が全身に蓄積している。ヤンマに寄り掛かる茜も同じらしく、寝苦しげに眉根を寄せていた。山と神社を隔てる石垣に腰掛けているので、本殿の屋根越しに祭りの明かりと喧噪が届いていた。途中までは覚えているのだが、展開が変だった。茜の下駄の鼻緒が切れていたから、履き物を変えるために一旦帰ろうと石段を下りた。だが、石段を下りても下りても終わりが訪れず、何かおかしいと思っていたら、神隠しに遭った河野清美と清滝之水神という名の河童が現れ、洞窟に連れ込まれ、山神と思しき者の前で。
悪い夢でも見ていたかのように頭が重たく、疲労が全身に蓄積している。ヤンマに寄り掛かる茜も同じらしく、寝苦しげに眉根を寄せていた。山と神社を隔てる石垣に腰掛けているので、本殿の屋根越しに祭りの明かりと喧噪が届いていた。途中までは覚えているのだが、展開が変だった。茜の下駄の鼻緒が切れていたから、履き物を変えるために一旦帰ろうと石段を下りた。だが、石段を下りても下りても終わりが訪れず、何かおかしいと思っていたら、神隠しに遭った河野清美と清滝之水神という名の河童が現れ、洞窟に連れ込まれ、山神と思しき者の前で。
「……ひっでぇ夢」
そんなに溜まってたのかよ俺は、と自嘲しながらヤンマは茜を支えようとすると、茜は急に目を開けた。
「ひゃああああっ!」
唐突に悲鳴を上げた茜は石垣から転げ落ちるように駆け出し、顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「何これ何あれ何なの何なの何なのー、恥だよ恥すぎるよ恥ずかしいなんてもんじゃないよ有り得ないよぉー……」
浴衣の襟から覗く茜の首筋は赤らんでいて、耳元まで血が上っていた。
「おい、大丈夫か」
ヤンマが恐る恐る声を掛けると、茜は涙目で振り向いた。
「へ、変な夢、見ちゃった。石段が終わらなくて、いきなり真夜中になって、女の子と河童に洞窟に連れ込まれて、そしたら」
「俺もだ。ていうか、あれは夢だよな? 夢じゃなきゃいけないよな? 山神の前で一発ヤらされるなんてのは」
「夢だと思いたい、けどぉ」
「へ、変な夢、見ちゃった。石段が終わらなくて、いきなり真夜中になって、女の子と河童に洞窟に連れ込まれて、そしたら」
「俺もだ。ていうか、あれは夢だよな? 夢じゃなきゃいけないよな? 山神の前で一発ヤらされるなんてのは」
「夢だと思いたい、けどぉ」
茜は立ち上がったが、ふらりとよろけて小さな祠に縋った。足に力が入らないのか、少し乱れた裾の下で茜の膝は細かく震えていた。ヤンマが見るに見かねて茜を支えると、茜はヤンマの胸に額を当てて俯いた。
「凄く、気持ち良かった」
「右に同じ」
「右に同じ」
ヤンマは茜の乱れぶりを思い起こしただけで、腹部の先端から生殖器が出そうになった。
「すぐに正夢にしてやらぁ」
ヤンマは身を屈め、茜と舌を交えるキスをした。夢の余韻なのか、少し触れ合っただけで茜は早々に息を弾ませた。膝も折れそうになり、甘ったるい声で名前も呼んできた。これで我慢出来る方がおかしいよな、とヤンマは茜を横抱きにして羽を震わせて浮き上がると、茜のつま先から鼻緒が切れた下駄が転げ落ちた。一度降下してその下駄を拾ってから、再度浮上して夜の闇に紛れるように飛んだ。今日はどちらも祭りの用事で家人が出払っているので、遠慮することはない。
樹齢千年近い御神木の上を過ぎて境内を通り越し、鳥居を通り過ぎる瞬間、複眼の端に草色の浴衣と白い面が掠めた。見えていたのは一瞬にも満たないはずなのに、ヤンマの脳裏には面の奥で笑みを浮かべる目が鮮明に焼き付いていた。とりあえず山神は満足してくれたらしい、とヤンマはほっとしたが、今更ながら怖くなった。山神の所在を確認することすら恐ろしくなり、ヤンマは力一杯羽ばたいて実家を目指した。
神様に関わるのは、二度とごめんだ。
樹齢千年近い御神木の上を過ぎて境内を通り越し、鳥居を通り過ぎる瞬間、複眼の端に草色の浴衣と白い面が掠めた。見えていたのは一瞬にも満たないはずなのに、ヤンマの脳裏には面の奥で笑みを浮かべる目が鮮明に焼き付いていた。とりあえず山神は満足してくれたらしい、とヤンマはほっとしたが、今更ながら怖くなった。山神の所在を確認することすら恐ろしくなり、ヤンマは力一杯羽ばたいて実家を目指した。
神様に関わるのは、二度とごめんだ。