「森」を取り巻く事象





letvate lyaae tär a lav ruket ya rukitev žeeiv ï maar a maar.(虹の色が国により違うように、誰が見るかによって森は姿を変えます。)

tret ar an bistasia ï magwettalär äav an aazet bistasia ï magwettalär(ある潜森士の前で無害な物が、他の潜森士の前で無害である)
lyaaev a tuv a lyav.(保証なんてできません。)

tret for an maa let a aev.(全ては、視点次第の世界なのです。)

――名も知れぬ潜森士の言葉。




森の事象


「霧と潮汐」


「森」の中には、生物に有害な影響を及ぼす「霧」が満ちている。
これを打ち払う手段は現生人族においては極めて限定的であり、
「森」に元より存在していた「骨」と、一部の特異な品を除き現状においては存在しない。

「霧」は海におけるそれと同じような「潮流」を持ち、
その濃度が濃ければ濃いほど「冷たい」とされ、薄まるほどに「温かい」と表される。
これ自体の流れ、応ずる現象などもあり、それらの発生を読むことを生業とする人々も存在する。

体内に蓄積するため、「森」の近くに住むだけでも少なからず影響が出ることがあり、
「森」外と比べても明確に生まれる子供への異常、なんらかの不可逆変化などの発生率が高い。


霧の増減は潮の満ち引きに見立てて表現され、
その濃度のことを「潮汐」と呼び、その度合を「潮汐値」と言う。

潮汐値が大きくなるほど、その近辺の環境は不安定になり、
時の流れを始め、見えるもの触れるもの感じられるものの全てが混濁する、
物理的な法則でさえ揺らいだ状態に陥るため、潮汐変化の激しいポイントは可能な限り避けられている。


「潜森病」


前述の「霧」の影響によって発生する、慢性と急性を問わない体調の変化。
初めて「森」に潜った際に体験する程度の軽いものは、「森酔い」と呼ばれ区別される。

気分の悪さや吐き気、頭痛や筋肉痛などの軽い症状から、
あるしきい値を超えると急激かつ劇的な変化が発生し、
肉体の永久的な奇形化、獣のような特徴の発現、骨格の変形、全身の痛み、健忘症、自我喪失などの重篤な症状を起こす。

治療する手段は現時点では存在しないとされているが、
一部の漂着物にその効果が見出だせないかと研究している人々も居る。

重度の直前にある者は一日中「森」の方を見つめ続ける症状が起こり、これを「森呆け」と呼ぶ。
これは「森」の中に入ると解消され、健常な者と変わらない受け答えも取り戻す。


「時化」と「凪」


「森」には時折、「時化」と呼ばれる嵐のような、あるいは大荒れの海の様相に似た天候不順が発生することがある。
そしてそれらの中心には多くの場合、「凪」もしくは「凪場」と呼ばれるポイントが存在する。


凪は時化の中心を指すが、と同時に同音同字で「凪」と呼ばれる、人の理を超える絶大な力を有した獣を指すこともある。
この凪は凪場の主としてその中心に棲まうが、人が接触しない限り害を及ぼすことはない。

しかし、目視しただけで命を奪われたり、近くを横切るだけで全身に裂傷をもたらす、
周辺の時間流の異変や急激な気候の激化、動植物の凶暴化や衰弱、耳を聾し出血さえ起こすほどの無音の発生など、
理外の超常を引き起こす、生ける災害である場合がほとんど。

どんな潜森士でもこれに遭遇することは避け、仮に出会ったとしても決して手を出さず、
その強大で気まぐれな存在の興味を引かぬようただ通り過ぎることを祈るしかない。

また、凪場はそれぞれの獣ごとに特有で、周辺の地形、環境とはまったく異なる空間になっていることが多く、
同様に時化とはまったく対照的に内部は異様な静けさにあるという。


彼らを人の言語で縛ることはできず、固有の名を与えることはできない。
どのような形で記録に残そうとも、それらは忘れられ、一両日もしない内に認識ごと消え去ってしまう。

ゆえに彼らは、それの持つ特徴から引用した普通名詞の組み合わせや、代名詞などで表現される。
※「長足」や「蝉の腹」など。


時折、凪場を伴わず、凪が単体で森内を彷徨していることもあるが、詳細は不明。


「海嘯」


「森」内において時折発生する生命体へ生じる転移現象。海震とも言う。
人族を含む生物のことごとくをランダムな地点へ吹き飛ばし、規模によっては森内の配置すらも変えてしまう。

「骨」に守られた集落や町すらも揺るがす「大海嘯」は、
周期の早いものでは十数年~遅くとも数百年おきに度々発生し、森辺の歴史にその恐怖を深く刻み込んでいる。

予兆として天候以上や時化の発生、動植物の動態異常や、
体感的なものでは「森」の空気の変化、骨鳴り、草木の萎縮、「森」中からの異音、
地面の軟化などなど、さまざまな前兆が起こる。

軽中度の海嘯は間隔も短く頻繁に起こり、
森図や浮標などの手入れを徹底しなければ、人は即座に深部への道筋を失うだろう。


その正体は「森」の身じろぎとも、癇癪などとも言われている。


「歪み」


「森」はその特有な法則と発生する現象によるものか、時を同じくして進入していた者同士でも、
体験していた事柄などが異なり、時間軸や存在物までも同期していないような事象が発生する。

これは「森の歪み」とされ、同じ位置に居たはずの者同士が異なる座標に迷い込んでいたり、
同じ場所のはずが別の存在との遭遇を経験したり、そのタイミングでは発生していなかった天候を経験するなど、
前後関係が混沌と化すことがままある。

「歪み」は上記の海嘯と繋がりを深くするため、
そのままこの「歪み」を海嘯、大海嘯を「大歪み」と表することもある。


森の構造


「浅瀬」


「森」の中でも、「骨」が存在していたり、「森」の木々が植わっていない、
人が安定して生活できている地域のことを「浅瀬」と呼ぶ。

なんらかの事故や災害によって「骨」が消滅した場合、「浅瀬」が沈むこともある。
また、これらの地域をまとめて「森辺」とも呼ぶ。


「外郭」


「森」の、「内郭」以外のすべて。これには「浅瀬」も含まれている。

膨大な広さを持ち、海の下にまで根を伸ばし、大陸間を隔てて存在することもある。
未だにその全容を把握できた者はおらず、上空を通過しようとすると後述の「幽霊」により撃墜されてしまうため、
その実態がどこまで広がっているかは今もって定かではない。

比較的人の手が入っていて、危険性は後述の「内郭」よりは低いとされているが、
当然例外もあるため、注意が必要なのは全域に渡って同じ。


「内郭」


「森」の内側。歪な形状の壁に覆われていて、
新米潜森士はこれを乗り越えることで初めて一人前と呼ばれていた時代もあったが、
直接乗り越えることは現在では推奨されておらず、各地に設置されたゴンドラ、
あるいは長い年月を掛けて掘削されたトンネルなどを利用して越えることが多い。

「真名」は「内郭」の深奥に存在するとされていて、多くの潜森士がこの先に進み、二度と戻ることはなかった。
それでもなお今も潜森士たちは外壁を越え、新たな発見と恵みを森辺にもたらし続けている。

「外郭」に比べても危険な獣、原理不明な現象に満ちており、
それに付随して神秘性、有用性の高い漂着物やランドマークなどが数多く発見されている。


その他


「生木(いきぎ)」


「森」に植わる木々の内、「生木」と呼ばれるものは伐採することが非常に難しい。
なぜなら一度切断しても、仮に根から引き抜こうとも、その翌日には同じ位置に同一の木が再度現れるからである。

加えてこれらの木は何らかの加工の途上、特に薪などとして使おうとすると大量の「霧」を噴き出し危険で、
材木としての利用も行えないために厄介な邪魔者として誰からも忌み嫌われている。

「骨」の周辺にある木々は「骨」の力の影響にあるのか伐採が可能で生え替わることもないが、
その効果の下にない多くの「生木」は、どのような手段でも処理できない。「錨」の効果を用いても同様。

これらの特殊な木は生物のように脈を打ち、
赤い体液と生物のような生暖かさを有するため、判別は容易。

この木々の影響で、進入ルートを開拓する難しさが大いに上がっている。


「幽霊」


「森」は通常通り進入した場合は特に何も起こらないが、
上空から入って行こうとした場合に限り、特異な現象が発生する。

それが「幽霊」で、彼らは空からの進入物に対する「森」の守護者であり、巨大な防衛機構でもある。
ロケットなどの推進物を用いて「森」に侵入するものがあれば、即座に彼らは身を起こし、
その巨体をぶつけることで撃墜する。これは対象物が(光などは不明だが)どのような速度であれ変わらない。

彼らの容貌は「透けた巨大な生物の体の一部」に見えると観察され、
大きな動物の角のようであったり、あるいは猿の手じみたもの、水棲生物の顔面の断片であったりと、
可視光線の通る透けた異様な姿をしているが、それらの正体は今も知れず、日々無機質に、
異国の調査船や、実験的に投じられた推進ロケットなどを破壊しては「森」に落としている。

これらは普段不可視の状態のようで、同様に「森」の内部からその存在を確認できず、
当然ながら物理的な接触は行えていないため、「幽霊」と呼ばれている。


「座礁」



漂着物とはまた異なる形で、極稀に「骨」効果範囲の際(きわ)に何かが流れ着くことがある。


それはほとんどの場合が生物の骸で、生きている状態で見つかったことは歴史上ない。
大抵の場合は森辺におけるどんな記録にも載っていないものばかりで、
また誰も目撃したことのない、一種一体分ずつ発見される奇怪で奇妙な生物ばかりである。

異様に鼻の長い、水棲生物に酷似した溶けかけの死骸であったり、
巨大で手足と首の長い、「森」には珍しい色彩を持つ生物、
あるいは無数に折り重なった、一抱えほどの大きさを持つ鳥と獣の間のような生物など……。


これらの生物が流されてくる頻度は非常に少なく、
すべて凶兆の徴とされていて、必ずと言っていいほどその前後に「森」で大きな災害が生じる。

一方で、「座礁」のおかげで危険な「海嘯」や「時化」などの発生を予め知ることができるとも言われていて、
不吉なその存在感とは裏腹に吉兆の報せであると言う者も居る。


「座礁」は誰も手を付けなければ一両日もしないうちに霞のように消え去ってしまうことが多く、
発見されないまま失われていくものも少なくないのだろうと考えられている。


「恵み子」


森辺の民に時折生まれる、特殊な力を有する人々の総称。

「目が見えないが、視覚以外の超感覚で外界を認識する」、
「全ての感覚から、通常の人には読み取れない匂いを知覚する」、
「極端なまでの膂力を持つが、その力を抑制できない」、

……など、様々かつ特異な能力を有する。

元より受け入れられていた歌姫と違い、
かつては「忌み子」と呼ばれ排斥されていたが、高名なある潜森士の精力的な活動により、
その認識は次第に「森から与えられた恵みである」というものに変化していった。

今では多くの恵み子たちがその潜森士の下に集まり、
自身の能力を「森」の開拓へ活かさんと研鑽している。
最終更新:2024年06月30日 23:17