常夜灯のような、奇妙に赤みがかった月光の下で2人の人影が対峙していた。2人の周りには残骸がある。黄色と黒と、錆びた茶色。無数の遮断機を乱雑に解体した痕跡が積み上がっていた。
それに混ざって、点々と百合のように、白いテーブルの残骸もあった。テーブルから散って、銀のカトラリーやグラスが赤いビロード地の上に散乱している。
雰囲気からまるで違う、異なる写真を混ぜたような光景である。しかし混ざっているのは各々が持つ世界そのもの。
二種の領域、『黄昏逢魔・踏切死合』と『玩火自焚・殺人王府』の混合である。屋根のない、空の色は夜。
それに混ざって、点々と百合のように、白いテーブルの残骸もあった。テーブルから散って、銀のカトラリーやグラスが赤いビロード地の上に散乱している。
雰囲気からまるで違う、異なる写真を混ぜたような光景である。しかし混ざっているのは各々が持つ世界そのもの。
二種の領域、『黄昏逢魔・踏切死合』と『玩火自焚・殺人王府』の混合である。屋根のない、空の色は夜。
一歌は姿勢を低め、両手で遮断桿を握り締めていた。2mに達する、黄色の杖である。魂を直接殴打する領域の武器は何であれ破壊的な威力を秘めている。
対する李は糸のように目を細め、薄い笑みを浮かべていた。獲物を狙う蛇のようだった。
対する李は糸のように目を細め、薄い笑みを浮かべていた。獲物を狙う蛇のようだった。
「さて、そろそろ飽きてきたな。どうする? 日本人。他の手品がないなら終わりにしよう」
「ちっ……」
「ちっ……」
一歌の服装は土に汚れ、肩で息をしていた。頭から酒を浴び、ナイフが肩と腿に刺さっている。一方の李には全く汚れがない。ここまでの戦いで一切の傷を負っていないのだ。
一歌の踏み込みはいつになく浅い。ゆえに攻撃は届かず、全て捌かれていた。
一歌の踏み込みはいつになく浅い。ゆえに攻撃は届かず、全て捌かれていた。
(何ビビってんだあたしらしくもねぇ……!)
苛立ち混じりの自嘲。しかし顔を伝う汗は眼前の男への最大限の警戒を意味していた。
武器を握る両手の、左手にはほとんど力が入っていない。感覚もない。骨から伝わる激痛だけが、確かな危険信号として一歌の脳に伝わってくる。
芯を捉えた打撃ではなかった。踏み込みの浅さが幸いして、カウンターは拳がかすっただけで済んだ。しかし、それだけで一歌の左腕は破壊された。骨が皮膚を突き破って露出しているのか、服の下から血が滲んで滴っている。
武器を握る両手の、左手にはほとんど力が入っていない。感覚もない。骨から伝わる激痛だけが、確かな危険信号として一歌の脳に伝わってくる。
芯を捉えた打撃ではなかった。踏み込みの浅さが幸いして、カウンターは拳がかすっただけで済んだ。しかし、それだけで一歌の左腕は破壊された。骨が皮膚を突き破って露出しているのか、服の下から血が滲んで滴っている。
「痛いか? 痛いだろうな。左橈骨が3つに割れ、尺骨と上腕骨にヒビ。関節は剥離、周辺組織はズタズタ。手首は皮一枚で繋がってるだけだ」
抑揚のない声で語りながら、男は近づいてくる。
「楽にしてやろうか。それとも、なってみるか、英雄に」
凶運。
李飛虎に遭遇することはすなわち密林で虎に遭遇することと等しい。
「死」以外のあらゆる選択肢を剥奪する捕食者。
滅殺の冷気を帯びる破壊拳が、空気すら歪めるほどの存在感を放っていた。
李飛虎に遭遇することはすなわち密林で虎に遭遇することと等しい。
「死」以外のあらゆる選択肢を剥奪する捕食者。
滅殺の冷気を帯びる破壊拳が、空気すら歪めるほどの存在感を放っていた。
「っ!」
「はあ」
「はあ」
一歌の反応の方が遅い。しかし領域の生成は思考の速度。
李の踏み込む一歩の先に線路が生まれた。鉄で出来た軌条は李の踏み込みでひしゃげたが、地面から突き抜けるように伸びた遮断機が警報を鳴らし始める。
李の踏み込む一歩の先に線路が生まれた。鉄で出来た軌条は李の踏み込みでひしゃげたが、地面から突き抜けるように伸びた遮断機が警報を鳴らし始める。
「お前の致命攻撃は出が遅すぎる」
「どうかな! 閉じろ!」
「どうかな! 閉じろ!」
降りる遮断機はしかし、遮断桿を斜めに振り下ろし、前後から李を挟んで固定した。
「!」
「そのまま轢いて……」
「ふんっ」
「そのまま轢いて……」
「ふんっ」
両拳を振るうだけで、李はあっさりと固定を破壊した。地面から生えた遮断機まで衝撃が伝播し、解体される。
一歌は苦々しく歯噛みしながら、スニーカーの側面に車輪を生成した。
外輪船のパドルじみた車輪を高速回転させ、一歌は急激に加速した。
一瞬で李の背後に回ると、遮断桿を振りかぶる。しなる棹に沿うように車輪を作り出すと、その先端で車輪が歪み、風車のように開いた。回転する丸鋸の様相である。
うなりをあげて、断頭の軌道で叩きつける。
一歌は苦々しく歯噛みしながら、スニーカーの側面に車輪を生成した。
外輪船のパドルじみた車輪を高速回転させ、一歌は急激に加速した。
一瞬で李の背後に回ると、遮断桿を振りかぶる。しなる棹に沿うように車輪を作り出すと、その先端で車輪が歪み、風車のように開いた。回転する丸鋸の様相である。
うなりをあげて、断頭の軌道で叩きつける。
「しゃあっ!」
李はまだ振り返ってもいない。砕かれた遮断機の破片が地面に落ちるよりもなお速い。
だが『殺人王』の名は、揶揄でも軽口でもない。厚く塗り上げられた事実に基づく絶対的畏怖が李飛虎である。
だが『殺人王』の名は、揶揄でも軽口でもない。厚く塗り上げられた事実に基づく絶対的畏怖が李飛虎である。
「遅い」
身を翻し一瞬で一歌の懐に入ると同時、拳を抜き放っている。射出と形容すべき速度で鉄拳が一歌の顔面を捉えた。
拳は振り抜かれた。
バチッ、という乾いた音がした。
拳は振り抜かれた。
バチッ、という乾いた音がした。
血と皮と肉と、骨がはじけた。
一歌の顔は潰れた柘榴のように赤く咲いて、首が真後ろにへし折れてだらりと垂れ下がった。悪趣味なフードのようだった。
一歌の顔は潰れた柘榴のように赤く咲いて、首が真後ろにへし折れてだらりと垂れ下がった。悪趣味なフードのようだった。
「1点追加、だな」
糸の切れた人形のように、一歌の躯が崩れ落ちた。その懐から小さな鈴がこぼれた。
こぼれた鈴が、落ちてから鳴った。
消えていく一歌の領域とすげ変わるように、無機質で乾いた処刑場が展開されていく。空は真昼の青になった。
こぼれた鈴が、落ちてから鳴った。
消えていく一歌の領域とすげ変わるように、無機質で乾いた処刑場が展開されていく。空は真昼の青になった。
「……おいおい、マジか。何のための鈴だよバカが……」
「誰だお前?」
「誰だお前?」
現れたのは、黒いコートの男だった。鈴によって呼び出された、藍島銀一である。藍島は一歌の死体を見て困惑したが、目の前の李を見て何があったかおおよそ理解すると、興醒めしたような表情を浮かべた。
「ったく何してくれてんだ人の育ててる奴に……しょうがねえな。仇は討ってやるかあ、師匠として」
「お前は強そうだな」
「お前は強そうだな」
獰猛に口角を引き上げ、李は嗤った。
「李飛虎。所持ポイント1271。死因は『撲殺』だ」
「藍島銀一。所持ポイント4790。死因は『斬首』」
「藍島銀一。所持ポイント4790。死因は『斬首』」
音もなく領域が歪む。李の領域が強制的に書き換えられ、レストランの影は消えていく。
しかし李の周囲だけは強固に、絨毯もテーブルも残った。常人の五歩に匹敵する、李の拳の間合いである。
しかし李の周囲だけは強固に、絨毯もテーブルも残った。常人の五歩に匹敵する、李の拳の間合いである。
藍島の腰には刀があった。添えた左手で鯉口を切る。右手は、とん、と軽く柄に触れた。
領域が軋む。
構えてすらいない飛虎に、藍島が先に仕掛けた。見かけの距離が意味を為さない神域の領域操作。空間を縮めたような速度で二者の間合いは零となる。
柄の握りに力が籠る。人間の目には閃光に等しい速度で振るわれる白銀の残光を、李は目の端で確かに捉えていた。
構えてすらいない飛虎に、藍島が先に仕掛けた。見かけの距離が意味を為さない神域の領域操作。空間を縮めたような速度で二者の間合いは零となる。
柄の握りに力が籠る。人間の目には閃光に等しい速度で振るわれる白銀の残光を、李は目の端で確かに捉えていた。
「……刀か、日本人」
それを避けない。刃渡り1mの刃は飛虎の首筋に入り込み、そして止まった。表皮の下の筋肉が、刃の侵入を拒んだ。
「!」
「虎に刃物が効くか」
「へえ! マジか! 受けやがる。しかも『斬首』の致命攻撃を首で! ビビるぜ」
「はっ、受けたんじゃない、流したんだよ。俺の魂の強さもあるけどな。それに……お前の刀の存在性は、俺の『陣地』で中和している」
「虎に刃物が効くか」
「へえ! マジか! 受けやがる。しかも『斬首』の致命攻撃を首で! ビビるぜ」
「はっ、受けたんじゃない、流したんだよ。俺の魂の強さもあるけどな。それに……お前の刀の存在性は、俺の『陣地』で中和している」
声は下から流れ来る。李の姿勢は同時に沈み、既に上段の蹴りを繰り出している。背側から回して威力を乗せる、致死の凶技。
軸足は一歩踏み込んでいる。拳の間合い。
藍島もまた瞬時に刀を引き戻していた。李ですら、いつ刀が動いたのか認識できない。
その動作の過程を捉えることができない。物理的に奇妙とすら感じる異常な速度で、回避不可能な位置とタイミングで打ち込まれるはずの蹴りに迎撃の刃を合わせている。
がんっ、という、とても生身と刃が打ち合ったとは思われない音が響いた。李の足が刀を折ることはなく、そして、刀もまた飛虎の足を切り落とすことはなかった。表皮に食いこんで止まっている。
軸足は一歩踏み込んでいる。拳の間合い。
藍島もまた瞬時に刀を引き戻していた。李ですら、いつ刀が動いたのか認識できない。
その動作の過程を捉えることができない。物理的に奇妙とすら感じる異常な速度で、回避不可能な位置とタイミングで打ち込まれるはずの蹴りに迎撃の刃を合わせている。
がんっ、という、とても生身と刃が打ち合ったとは思われない音が響いた。李の足が刀を折ることはなく、そして、刀もまた飛虎の足を切り落とすことはなかった。表皮に食いこんで止まっている。
「くくく、くっくっく」
「はははは、ふはっ、はははははは!」
「はははは、ふはっ、はははははは!」
肩を震わせ、2人は万力のような力を込めたまま哄笑した。
お互いにしかわからない、狂気的な渇き。お互いがそれを満たしうる強者であると、触れた点から伝わってくる。
お互いにしかわからない、狂気的な渇き。お互いがそれを満たしうる強者であると、触れた点から伝わってくる。
「アイツの代わりくらいはしてもらうぜ、カンフー野郎!」
「なってみるか? 英雄に。殺人王を殺す者に。なあサムライ……藍島、銀一!」
「なってみるか? 英雄に。殺人王を殺す者に。なあサムライ……藍島、銀一!」
李の背筋を起点に全身が旋風のように縦に回る。風破脚と呼ばれる他流の技に、李独自の改良を加えてある。右手と肘のひねりを加速に用い、視認も不可能な速度で地面を三度、押すように軸手と軸足を交換する。
その威力は、李が振るえば鉄の棒を切断する破壊力となる。
その威力は、李が振るえば鉄の棒を切断する破壊力となる。
呼吸を合わせるように、藍島の剣が振り下ろしで飛虎の足を迎撃した。深く、鋭く入った剣が今度は李の肉を切断する。脛を削った刃は骨で止まった。
「ちっ」
「うまいことこっちの力だけ逃がしやがる。筋肉の操作か……大陸の奴は面白ぇな」
「うまいことこっちの力だけ逃がしやがる。筋肉の操作か……大陸の奴は面白ぇな」
李は刃を外し、そのまま踏みしめる。震脚。正面に向き直りながら前に出た拳をそのまま放つ。空手の正拳とは違う、最速の縦拳。捌かれると同時に引き戻し、歩法の幻惑を交えた踏み込みで正中線を狙う。横殴る雨のような嵐の連拳である。
「ギアを」
藍島の肩から肘までが溶け出すように残像の中に紛れ、肘から先が消えた。表音不可能の怪音が無数の閃光と共に弾ける。
出血がある。風圧に霧へと掻き消えるごく僅かな血の雫は、その主を知らない。両者の間で渦巻く白兵格闘の嵐は脊髄を走る電光とほぼ速度を同じくした。
衝撃が地を裂き、風となり、テーブルを吹き飛ばしていく。
出血がある。風圧に霧へと掻き消えるごく僅かな血の雫は、その主を知らない。両者の間で渦巻く白兵格闘の嵐は脊髄を走る電光とほぼ速度を同じくした。
衝撃が地を裂き、風となり、テーブルを吹き飛ばしていく。
「……上げるぜ」
李の瞳が見開かれ、左右で別の点を見ている。正確には点ではなく、視界の全てを同時に視認していた。踏みしめる足から膝、膝から腰、腰から肩へ、そして拳へ。地を蹴るような力の連鎖は淀みなく、一撃一撃が一歌を死に至らしめたそのままの威力を持っている。
「本当に硬ぇな。面倒だが……本気でやるか」
藍島が呟くと同時に、李の掌底が藍島の肘で叩き落とされた。
「!」
「お前に、領域の深奥を見せてやる」
「いいね。こっからがメインディッシュか」
「お前に、領域の深奥を見せてやる」
「いいね。こっからがメインディッシュか」
崩された姿勢から拳を跳ね上げると、藍島は後方に飛び退きながら鞘に刀を納めた。投降ではない。発せられるプレッシャーはむしろ増していく。
李は右手を挙げる。
李は右手を挙げる。
「来い! 蘇!」
「……あら」
「……あら」
李の背後、テーブルの上に座っていた女が意外そうな声を上げて絨毯の上に降りた。
藍島すら気づかなかった。陽炎の向こうに立っているような女である。しかしこれは、むしろ李のあまりの存在感の強さゆえである部分が大きい。
藍島すら気づかなかった。陽炎の向こうに立っているような女である。しかしこれは、むしろ李のあまりの存在感の強さゆえである部分が大きい。
「いいの? 李」
「ああ。『炎』を頼む」
「ああ。『炎』を頼む」
李は挙げた右手をゆっくりと降ろし、藍島へと向けるように構える。蘇は答えず、指を鳴らした。
瞬間、領域の中を炎が満たした。蘇の領域が李の領域と混じり合い、揺らめく紅蓮が高天を衝くように踊った。
瞬間、領域の中を炎が満たした。蘇の領域が李の領域と混じり合い、揺らめく紅蓮が高天を衝くように踊った。
「はい、どうぞ。思う存分遊んでいらっしゃい。この世界が焼け落ちるまで」
「おいおい、2対1かよ。ずりーぞ」
「そうか? そうかもな。だが悪い、これが『本気』だ」
「…………くっくっく」
「おいおい、2対1かよ。ずりーぞ」
「そうか? そうかもな。だが悪い、これが『本気』だ」
「…………くっくっく」
藍島の乾いた笑いと同時、領域の景色が斑に歪んだ。
「まあ、どうでもいいけどな。領域呼応『天 』」
がぎゅん、というような音を錯覚した。3人の立つ地面が無限に収束し、青空が引き伸ばされる。レンズの視野を超広角に広げたように、破綻した球状の弧を描いて青空が全周を囲む。地面を失ってなお、3人が落下することはなかった。
しかしそれは立っているというより、落下する先を失ったような感覚に近い。3人の足は何も踏みしめていない。
しかしそれは立っているというより、落下する先を失ったような感覚に近い。3人の足は何も踏みしめていない。
「……これは、陣地が……剥がされた?」
「面白い。行くぞ! 藍島ァーッ!」
「面白い。行くぞ! 藍島ァーッ!」
地面を失ったのは一瞬のこと。李が震脚を踏めばそこから赤い絨毯と、その下の滑らかな石床が現れる。湖面に波紋を立てるように領域が生まれ、確かな足場を蹴って李は飛んだ。
李の拳と足に火炎が灯る。蘇の致命攻撃である炎そのものである。しかし、李は『陣地』の中で、自らの存在を強固に保つ。あらゆる魂を焼却する蘇の炎は、李と蘇2人の領域操作によって李を害することはない。
彗星のような光を放ちながら、槍のような鋭さの蹴り足が矢の速度で藍島に向いた。
李の拳と足に火炎が灯る。蘇の致命攻撃である炎そのものである。しかし、李は『陣地』の中で、自らの存在を強固に保つ。あらゆる魂を焼却する蘇の炎は、李と蘇2人の領域操作によって李を害することはない。
彗星のような光を放ちながら、槍のような鋭さの蹴り足が矢の速度で藍島に向いた。
「領域覿面『禍 』」
「!」
(この男、まだ何か……)
「!」
(この男、まだ何か……)
李の足が着弾する方が速い。まともに喰らえば半身が抉れ飛ぶ威力。李の拳足は、人体を濡れ紙のように引き裂くことができる。
藍島の左手が動いた。李の蹴りが藍島の脳を砕く致命的交差の刹那、五指が李の足首を掴んで完全に止めた。
真剣白刃取り。それよりも速い李の飛び蹴り、飛空閃脚を片手で。
李の表情が驚愕で染まった。藍島の左腕が燃え上がり瞬時に表皮を焼く。
しかし次の瞬間、領域の中が漆黒に染まる。青空は夜の深淵に剥ぎ取られ、無数の星々が輝き始めた。
藍島を焼いていた蘇の炎は領域の濃度に塗り潰されて消えた。
藍島の左手が動いた。李の蹴りが藍島の脳を砕く致命的交差の刹那、五指が李の足首を掴んで完全に止めた。
真剣白刃取り。それよりも速い李の飛び蹴り、飛空閃脚を片手で。
李の表情が驚愕で染まった。藍島の左腕が燃え上がり瞬時に表皮を焼く。
しかし次の瞬間、領域の中が漆黒に染まる。青空は夜の深淵に剥ぎ取られ、無数の星々が輝き始めた。
藍島を焼いていた蘇の炎は領域の濃度に塗り潰されて消えた。
「七星臨界『蒼蝶 』」
無限の暗黒が深みを増す。光の何もかもを飲み込むほどに暗い。逆に、輝きを増した星々の烈光は眩暈を纏い、弾け飛ぶニューロンのように星と星を繋いでいた。
点滅する極彩色の宇宙がどこまでも、収束しながら広がっていく。
並の幽霊ならば存在すら許されない強度の領域が李の魂を軋ませる。
点滅する極彩色の宇宙がどこまでも、収束しながら広がっていく。
並の幽霊ならば存在すら許されない強度の領域が李の魂を軋ませる。
「っ……ぐ! これは……この、圧力……ッ! ははッ! 深海にいるみたいだな……!」
「……ッ! 李……!」
「……ッ! 李……!」
背後で蘇の肺が潰れた。真空の宇宙空間にいるような絶大な力が霊体を圧殺する、異常領域の最中である。
顔を歪め、口の端から血が零れる。
顔を歪め、口の端から血が零れる。
「…………蘇。……それじゃあ、決着と行くか」
『殺人王府』の領域濃度が拳に集中する。身を捻って足の拘束を振り払いながら、弓を引き絞るように右手を深く振りかぶっている。
蘇が手を伸ばす。その延長上で、巨大な炎が爆ぜるように李の右拳を彩った。
蘇が手を伸ばす。その延長上で、巨大な炎が爆ぜるように李の右拳を彩った。
呼応するように、『蒼蝶』の領域が藍島の納刀した鞘の中へ収束していく。後には無機質で真っ白な虚空だけが残った。何も存在しない、空白の領域。
白い虚空で2つの光が煌めいた。
隕石のような李の拳を迎え撃つように、藍島は鞘口を開いた。凝縮された星々が溢れ出す。
隕石のような李の拳を迎え撃つように、藍島は鞘口を開いた。凝縮された星々が溢れ出す。
音もなく、刃が振るわれた。
扇の軌道を描く一閃。世界の端まで届き、刃の軌跡とその延長上を蒼と黒で塗り潰す。
領域斬りの斬撃波は眼前の2人を逆袈裟に切断して消し飛ばした。
扇の軌道を描く一閃。世界の端まで届き、刃の軌跡とその延長上を蒼と黒で塗り潰す。
領域斬りの斬撃波は眼前の2人を逆袈裟に切断して消し飛ばした。
星の残光が夜明けのように霞み、残った李の上半身が、炎に包まれて消えていく。
「ハハハハッ……これは…………これが、お前か……! 素晴らしい……だが…………まだ……まだだ、俺の…………遊びは……」
驚愕と喜悦。李はそれ以上言葉を紡ぐことなく、瞬く間に灰となって燃え尽きた。
空っぽの白い領域の中、残ったのは、藍島だけだった。
空っぽの白い領域の中、残ったのは、藍島だけだった。
「………………ちっ、どいつもこいつも……」
少女が死んだ。
災厄の凶星がふたつ、塵となって燃え尽きた。
剣士だけが残った。
災厄の凶星がふたつ、塵となって燃え尽きた。
剣士だけが残った。