ゲートキーパーズ21の第1話

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2001年5月、夜の街。 1人の女性が携帯で話しながらトンネルに差し掛かると、不意に携帯が通じなくなる。 「……もしもし?」 天井の照明が明滅し、消える。 目の前に、奇妙な動きで謎の物体が現れる。 「な…… 何!?」 背後には、帽子とサングラスで素顔を隠した、コート姿の男。 「あ…… あ……!?」 さらに前方にも同様の姿の男が10人以上も現れ、一同が無表情に女性に詰め寄る。 「来イ── 我ト来イ── 我ラノ世界ヘ──」 「い…… 嫌ぁぁ──っっ!!」 静かに鈴の音を響かせつつ、夜の闇の中から誰かが現れる。 コートを纏った眼鏡少女。主人公、五十鈴綾音。 綾音「やれやれ、また小物か」 男たちが綾音に矛先を向け、コートをはだけると、体から無数の砲門が現れる。 綾音「ふ──ん…… ま、いっか」 綾音が懐から携帯電話を出し、両手に構える。 男たちの砲門が一斉に火を吹く。 綾音が、携帯を男たちに投げつける。 天井の照明が次々に割れ、ちぎれた男の腕が、先の女性の近くに転がる。 女性「嫌ぁぁ──っっ!!」 腕が光の粒子となって、跡形もなく消えさる。 頭上の高架線を電車が行く。 走行音がやむと、すでに男たちの姿はない。 もうもうとした煙の中、綾音が投げた携帯が地面に突き刺さり、火花を走らせている。 女性「あ、あの…… すいません、あ…… あの……」 綾音「早く帰んな」 女性「は、はい!」 夜の都会の雑踏の中を、綾音が行く。 すれ違う通行人が綾音の肩にぶつかるが、通行人は気に留める様子もなく、通り過ぎる。 #center(){|CENTER:&br()あっちもこっちも、人しかいない。&br()車うるさい。電車、ガッタンゴットン。&br()街中、グレーの箱ばかり。&br()削られた空は青くなんかない。&br()&br()こんな街に生まれて、こんな街に暮らして、&br()人ばっかり。うるさい音ばっかり。&br()時々、息が詰まりそうになる。&br()&br()だから──&br()もっと面白いことしたいと思った。&br()&br()|} #center(){|BGCOLOR(black):COLOR(white):CENTER:&br()&big(){EPISODE : 1 &big(){出会}}&br()&br()|} 都会の片隅のホテル街を、男女が歩いている。 女性はもう1人の主人公、真鶴&ruby(みう){美羽}。 男「次の日曜なんだけどさ」 美羽「あ、でも妹と約束してるんで」 男「何それ?」 美羽「あ~妹、なんかゲームの同人誌やってて、日曜イベントがあるんで手伝いに行くんです~」 男「おいおい、付き合ってんのにそんな、デスマスで話ししなくてもいいじゃん」 美羽「え~? なんですか、それぇ?」 男「だからぁ、さっきまで、あ──んなことしてたのにさぁ」 男が美羽の腕をつかむ。 美羽は愛想笑いと共に腕をふりほどき、走り去る。 男「あ!? ちょ……」 美羽が路地裏に逃げ込む。 男は美羽を追うが、見失ってしまう。 男「おい! どこ行ったんだよ、おい!」 美羽が思念を集中すると、足元に光の輪が広がる。 男「なんだよ、あの女はよぉ…… ったくよぉ、携帯まで切ってんじゃんかよ」 男のはるか頭上を、一筋の光が飛び去って行く。 綾音が頭上を見上げると、夜空を光が飛び去って行き、その光の中に人影が見える。 綾音「……見っけ!」 翌朝。 美羽が級友の伊藤なおこ、渡辺ちなみと共に高校へ登校中。 なおこたち「サッカー部のマネージャー?」「あんた、そんなのやるの?」 美羽「うん、募集してたんで」 ちなみ「誰かお目当ての人でもいるんじゃないの? 美羽「あ~、違うって。なんか、おもしろそうかなって」 なおこ「マネージャーかぁ。ねぇちなみん、私たちもやろっか? ほら、あんたの好きなA組の井原くんもいるしさ」 美羽「3人みんなで入ろうよ。きっと楽しいし」 声「男漁りもできるし、か」 綾音が庭石に腰掛け、ノートパソコンを叩いている。 美羽「……あの、それって、どういう?」 ちなみ「相手にしないほうがいいよ」 美羽「え?」 ちなみ「D組の五十鈴綾音。変わり者でさ、クラスでも浮きまくってるんだって。行こ行こ」 美羽「う、うん……」 綾音「2年B組、真鶴美羽。こんな近くにいたなんてね、本物の『ゲートキーパー』が」 ノートパソコンに下げている鈴が、小気味よく鳴る。 綾音のクラスの授業中。 教師「──今でいうマツムシ、スズムシ、キリギリスやコオロギなど、秋に鳴く虫の総称だということだ。そこのところは十分に注意しろよ。では次の歌。こちらは5・7・7、5・7・7という韻を踏んだものとなっている。元興寺の法師、つまり僧侶が書いたとされるが──」 綾音は授業そっちのけで、携帯をいじっている。 窓の外で囀る小鳥を見て、ふと、頬を緩める。 教師「えー、この歌を…… そうだな。五十鈴! 出席番号3番、五十鈴綾音! この部分だ。現代訳できるか?」 生徒たち「何やってんだか」「いつものことじゃん」 ムッとして綾音が立ち上がり、平然と答える。 綾音「『&ruby(しらたま){白珠}は人に知らえず知らずともよし 知らずとも我し知れらば知らずともよし』── 『白珠』は真珠、才能や努力を示す。よって現代訳は『その秘められた能力は人に知られない、しかし世に知れなくてもかまわない。たとえ知れなくても、自分さえ自分の能力を知っていればいいのだから』── 以上」 教師「そ、その通りだ。よく授業を聞いてるな。座って良し」 平然と綾音が着席し、また携帯を手に取る。 生徒たちが小声で噂する。 「うわ、嫌な感じ」 「勉強しか取り柄ないんだもん、仕方ないっしょ」 「なんかさ、キモイよね」 「オタクなんだってさ、女オタク」 「え、何なの?」 「パソコンとか、そういうのでしょ」 「えぇ、引きこもってんの?」「みたいだよ」 「うわぁ……」 交通事故現場。 ひしゃげた車を、警官たちが囲んでいる。 「橋本警部! まもなく科警研から調査チームが到着します。あ、駄目です! 勝手に……」 「勝手もクソもあるか!? この事故で、8人も死んだんだぞ」 運転手はすでに死んでいるが、その顔は怪物のような奇怪な形に変貌している。 「やはり同じか……」 「えぇっ!?」 「しかし、ここまで原型を保っているのは珍しい」 運転手がいびつに動き出し、そして消え去る。 「こ、これは!?」 「やれやれ…… いつもと同じか。これじゃ話にならんな。肝心の&ruby(ホシ){犯人}が消えちまうんだからな」 綾音の高校の前。 前作の登場人物の1人・[[影山零士>http://neoending.web.fc2.com/anime/kagyou/gatekeep.htm]]に、綾音が逢っている。 影山「見つけたらしいな」 綾音「たぶん」 影山「で、使えそうか?」 綾音「まだ分からないけど」 影山「生粋の能力者は貴重だ。逃がすな。この数年、奴らの動きは活性化している。近い内に大物も出てくるかもしれん。能力者は有効な駒になる」 綾音「私みたいに?」 影山「お前は……」 影山がサングラスを外し、かすかに笑みを見せる。 影山「駒なんかじゃ、ないさ」 綾音「そう?」 影山「あぁ」 綾音「それと、ここ1週間のぶん」 綾音が、袋包みを渡す。 影山は引き換えに、札束を綾音に渡す。 影山「ご苦労。なるほど、結構な数だ。ただ、あまり無理はするなよ」 綾音「了──解……」 影山「これは誰にも知られることのない反攻作戦だ。我々の社会そのものがインベーダーに乗っ取られて、すでに30年…… 奴らはその数を増す一方だ。最早、我々に時間的猶予はない。お前にもこれまで以上に──」 綾音「矛盾してる」 影山「ん?」 綾音「『無理するな』って言うのと」 影山「そ……そうだな」 綾音「じゃ行くよ。駒、捕まえに」 影山「頼む」 夜のゲームセンター。 美羽、ちなみ、なおこの3人がクレーンゲームで盛り上がっている。 「次、これやってみる?」 「あっ、ゲバちゃん!」「すっごい腕時計!」 「駄目。あれ、取りにくいんだって、あのテの」 「あ、私これやってみよ。──あぁっ!? さよなら、私のゲバちゃん……」 「次、あれやってみる?」「踊るヤツ?」「あ、あれ得意~」 「今日は最後まで行けるといいなぁ」「曲は?」「うーん」 ゲームの筐体を覗き込む3人。短いスカートの淵が際どい。 声「意識せずにそうやって男を誘っている、と」 見ると、綾音がゲーム台の前に座っている。 美羽「あ、また……」 なおこ「ちょっと、あんた!」 美羽「な、なおちゃん……」 なおこが綾音に詰め寄る。 なおこ「あんた! 朝から妙に突っかかって、どういうつもり!?」 綾音「……」 なおこ「答えなさいよ!」 綾音「知能、低そう」 なおこ「な……!? あんたぁ!」 美羽「いいよ、なおちゃん。私、気にしてないし」 なおこ「けどぉ!」 綾音「それよりさ…… もっと面白いことあるんだけど、来る?」 なお「行くことないよ、美羽」「うん、ないない」 美羽はなぜか綾音にいわれるがまま、夜の街をついて行く。 綾音「自分の力。何なのか、知りたくない?」 美羽「え……?」 綾音「どう? 真鶴美羽、ちゃん」 いつしか、アーケード街に到着する。 夜も更け、どの店もシャッターが閉まっており、通行人もいない。 美羽「あの、えっと…… 見たん……ですか? 違いますよねぇ~?」 綾音「カエル?」 美羽「え?」 綾音「あんたの能力。カエル? それとも、ウサギ?」 美羽「や、やっぱり~! え、えっと…… 見たのって、どこで? その……」 綾音「その力が何なのか、あんた自身もよく知らない」 美羽「うんうん」 綾音「教えてあげる。実地でね」 どこからか、十数人の無表情な男女が現れる。 体がみるみる歪み、コートに黒帽子にグラサン姿のインベーダーと化す。 綾音「データ通りか」 美羽「え!?」 綾音「濃密なIPWの発生源。昔はこう呼ばれていた── 『怪電波』と」 インベーダーたちの体から、無数の砲門が伸びる。 美羽「え、え~!?」 綾音「どいてな。やるよ」 綾音がコートをはだけると、裏地には無数の携帯電話が縫い付けられている。 両手に1つずつの携帯電話を構え、キーを連打する。 美羽「あ、あの~、電話してる場合じゃ……」 綾音「黙って見てる」 美羽「は、はい! ……とは言ったものの~」 砲門が一斉に火を吹く。 美羽「きゃあぁ~!」 綾音が携帯をかざす。砲撃が炸裂し、爆煙があがる。 美羽が恐る恐る見ると、携帯から光の輪が展開し、砲撃を食い止めている。 美羽「光の…… 輪っか?」 さらに綾音が、別の携帯を投げつける。 地面に突き刺さった携帯から、光の輪が展開。 インベーダーたちはたちまち、炎に包まれる。 インベーダー「ガ…… ガガ……!?」 炎がやむと、インベーダーは1人残らず消滅しており、地面には輝く結晶体が転がっている。 冒頭と同様、綾音は平然と結晶体を拾い集める。 美羽「あれ? あ、あの…… 教えてください。今のアレ、何なんですぅ?」 綾音「『アレ』ってどっち? 『インベーダー』? それとも『&ruby(イミテーション){疑似}ゲート』? 美羽「え?」 綾音「奴らはどこにでもいる。そして── 奴らは、我々のすぐそばに」 美羽「インベー……ダー……? 宇宙人……?」 綾音「それともう一つ。私がさっき使った能力は──」 声「電子回路ト・エネルギー転送ニヨル・疑似ゲート能力── 危険・排除スル── 排除スル──」 地面を突き破り、数十メートルもの巨大な鉄球型のインベーダーが現れる。 美羽「わぁ~!?」 美羽は腰を抜かす。 インベーダー「攻撃ヲ── 開始スル──」 美羽「にに、逃げましょうよ、五十鈴さん!」 綾音「今逃げてどうすんのよ」 美羽「で、でもぉ~!」 綾音「それより、はい」 綾音が美羽に、携帯電話の束を手渡す。 綾音「これ、適当に1個ずつ落としながら逃げ回る」 美羽「えぇ~!?」 綾音「あんたの『跳躍のゲート』で」 美羽「げ、げーとぉ!?」 綾音「言ってごらん。『ゲート・オープン』って」 美羽「そんな急に言われてもぉ~!?」 綾音「急じゃなきゃまずいっしょ?」 美羽「え? きゃぁ~」 インベーダーの鉄球が変形し、不気味な触手が伸び、今にも2人を襲わんとしている。 美羽「五十鈴さん! さっきのバリアーみたいなの…… え!?」 いつの間にか綾音は、遠く離れたところに座り込んでいる。 綾音「じゃ、後はよろしく」 美羽「そそそそそ、そんなぁ!?」 インベーダーの触手が次第に迫る。 本能的に、美羽の力が目覚めてゆく。 美羽「……&bold(){ゲート・オープ──ン!!}」 光の輪が展開し、美羽が地面を蹴り、大きく跳躍する。 綾音はパソコンを打っている。 美羽「五十鈴さぁん!?」 綾音「は──い。早く携帯落とす!」 美羽「そ、そんなぁ!?」 空中の美羽を目がけ、触手が迫る。 美羽「わ、わかりました! 携帯ですよねぇ!? え、えぇ~い!」 携帯の1個を、触手目がけて投げつける。 コン、と空しい音を響かせ、携帯電話は地面に転がるだけ。 美羽「え!? なんでぇ~!?」 綾音「はい、いいのいいの。その調子ね」 インベーダー「抹消セヨ── ゲートノ一族ヲ── 抹消セヨ──」 さらに触手から、砲撃の雨が降り注ぐ。 美羽「きゃぁっ! 携帯、携帯……」 美羽が必死に携帯を投げつけるが、一向に何も起きず、携帯は地面に転がるばかり。 インベーダーの攻撃が続く。 美羽は必死に壁を蹴り、宙を舞い、避け続ける。 美羽「もう、やられちゃう~!」 綾音「文句言わない」 美羽「えぇ~ん!」 綾音「泣くな」 美羽「死ぬぅ~っ!」 綾音「まだ生きてる」 美羽「きゃあ~っ! お母さぁ~ん!」 綾音「今はいない」 美羽「お、お父さぁ~ん!」 綾音「……そんなもん、役に立たない」 ついに美羽が力尽き、鉄球目がけてフラフラと落下してゆく。 インベーダー「目標── 自由落下開始 抹消セヨ── 抹消セヨ──」 無数の触手が美羽に迫り、絶対絶命。 美羽「もう、駄目~~っっ!!」 綾音「全システム構築完了。全デバイス、GPSと連動。アクセス開始。──&bold(){ゲート・オープン}」 綾音がパソコンのキーを叩く。 地面に転がったいくつもの携帯が、一斉に作動。インベーダーを取り巻くように巨大な光の輪が展開する。 美羽「え…… あれは……!?」 インベーダーが強烈な光球に包まれ、みるみる消失してゆく。 美羽「あれも…… 『ゲート』!?」 インベーダーが、無数の光の粒子となって四散する。 地面に降りた美羽が、大きく息をつく。 綾音は平然と、地面に散らばった結晶体を集める。 美羽「五十鈴さぁ~ん! や、やりましたね! 私たちがあの化け物を……」 綾音「あんたは、ただ跳ねてただけ」 美羽「え? ……でもこれ、すごいニュースになりますよね! 『都内の女子高生、お手柄』とか」 綾音「ならないよ」 美羽「え!?」 綾音「そういう仕組みなの。そろそろ行くよ。詳しい説明は、場所を変えて」 美羽「あ…… はい!」 そのとき、攻撃が一閃。 綾音のパソコンが転がり、下げていた鈴がちぎれ飛ぶ。 かろうじて生き残っていたインベーダーが、瓦礫の隙間にいる。 地面に転がった鈴に、綾音の目の色が変わる。 綾音「あいつ……! ブッ飛ばす!!」 傍らの鉄パイプを拾い上げ、綾音が突進。 綾音「うぅおお──っっ!!」 美羽「五十鈴さぁん!?」 綾音&bold(){&big(){「ウルトラぁぁ──っ! 旋風斬りぃぃ──っっ!!」}} 先ほどの携帯とは比較にならない激しいエネルギーを迸らせ、今度こそインベーダーが消滅する。 美羽「五十鈴……さん? 五十鈴さぁん!」 我に返った綾音が、鉄パイプを捨てる。 美羽「大丈夫ですかぁ? 驚きました、五十鈴さん! 携帯なくても、あんなことできるんですねぇ~」 綾音「また、使っちゃったよ……」 パトカーのサイレンの音が近づいてくる。綾音が立ち去る。 美羽「あ、待ってくださいよ~、あの~」 後日。 影山が美羽に、ゲートキーパーズの隊員証を渡す。 影山「おめでとう。君は『イージス・ネットワーク』の一員として認定された。『跳躍のゲートキーパー』として。以後の連絡を待て」 美羽「でも、私そんな…… 今度からサッカー部のマネージャーもするんで、あの……」 綾音「言ったでしょ? 『もっと面白いことしよう』って」 美羽「でも……」 影山が車で走り去る。 美羽「あ~……」 綾音「よろしく頼むよ」 綾音も歩き去る。 美羽「って、五十鈴さぁん!? そんなぁ、もっと詳しく教えてくださいよぉ、五十鈴さぁ~ん!」 #center(){|CENTER:&br()こんな街に生まれて、こんな街に暮らしてる。&br()&br()人ばっかり。うるさい音ばっかり。&br()そこら中に、ささやかな悪意が蔓延ってる。&br()呆れるくらい、くだらない街。&br()&br()だからせめて……&br()面白いことしたいと思ってた──&br()&br()|} #center(){&big(){(続く)}}
2001年5月、夜の街。 1人の女性が携帯で話しながらトンネルに差し掛かると、不意に携帯が通じなくなる。 「……もしもし?」 天井の照明が明滅し、消える。 目の前に、奇妙な動きで謎の物体が現れる。 「な…… 何!?」 背後には、帽子とサングラスで素顔を隠した、コート姿の男。 「あ…… あ……!?」 前方にも同様の姿の男が10人以上も現れ、一同が無表情に女性に詰め寄る。 「来イ── 我ト来イ── 我ラノ世界ヘ──」 「い…… 嫌ぁぁ──っっ!!」 静かに鈴の音を響かせつつ、夜の闇の中から誰かが現れる。 コートを纏った眼鏡少女。 主人公の、五十鈴綾音。 綾音「やれやれ、また小物か」 男たちが綾音に矛先を向け、コートをはだけると、体から無数の砲門が現れる。 綾音「ふ──ん…… ま、いっか」 綾音が懐から携帯電話を出し、両手に構える。 男たちの砲門が一斉に火を吹く。 綾音が、携帯を男たちに投げつける。 天井の照明が次々に割れ、ちぎれた男の腕が、先の女性の近くに転がる。 女性「嫌ぁぁ──っっ!!」 腕が光の粒子となって、跡形もなく消えさる。 頭上の高架線を電車が行く。 走行音がやむと、すでに男たちの姿はない。 もうもうとした煙の中、綾音が投げた携帯が地面に突き刺さり、火花を走らせている。 女性「あ、あの…… すいません、あ…… あの……」 綾音「早く帰んな」 女性「は、はい!」 夜の都会の雑踏の中を、綾音が行く。 すれ違う通行人が綾音の肩にぶつかるが、通行人は気に留める様子もなく、通り過ぎる。 #center(){|CENTER:&br()あっちもこっちも、人しかいない。&br()車うるさい。電車、ガッタンゴットン。&br()街中、グレーの箱ばかり。&br()削られた空は青くなんかない。&br()&br()こんな街に生まれて、こんな街に暮らして、&br()人ばっかり。うるさい音ばっかり。&br()時々、息が詰まりそうになる。&br()&br()だから──&br()もっと面白いことしたいと思った。&br()&br()|} #center(){|BGCOLOR(black):COLOR(white):CENTER:&br()&big(){EPISODE : 1 &big(){出会}}&br()&br()|} 都会の片隅のホテル街を、男女が歩いている。 女性はもう1人の主人公、真鶴&ruby(みう){美羽}。 男「次の日曜なんだけどさ」 美羽「あ、でも妹と約束してるんで」 男「何それ?」 美羽「あ~妹、なんかゲームの同人誌やってて、日曜イベントがあるんで手伝いに行くんです~」 男「おいおい、付き合ってんのにそんな、デスマスで話ししなくてもいいじゃん」 美羽「え~? なんですか、それぇ?」 男「だからぁ、さっきまで、あ──んなことしてたのにさぁ」 男が美羽の腕をつかむ。 美羽は愛想笑いと共に腕をふりほどき、走り去る。 男「あ!? ちょ……」 美羽が路地裏に逃げ込む。 男は美羽を追うが、見失ってしまう。 男「おい! どこ行ったんだよ、おい!」 美羽が思念を集中すると、足元に光の輪が広がる。 男「なんだよ、あの女はよぉ…… ったくよぉ、携帯まで切ってんじゃんかよ」 男のはるか頭上を、一筋の光が飛び去って行く。 綾音が頭上を見上げると、夜空を光が飛び去って行き、その光の中に人影が見える。 綾音「……見っけ!」 翌朝。 美羽が級友の伊藤なおこ、渡辺ちなみと共に高校へ登校中。 なおこたち「サッカー部のマネージャー?」「あんた、そんなのやるの?」 美羽「うん、募集してたんで」 ちなみ「誰かお目当ての人でもいるんじゃないの? 美羽「あ~、違うって。なんか、おもしろそうかなって」 なおこ「マネージャーかぁ。ねぇちなみん、私たちもやろっか? ほら、あんたの好きなA組の井原くんもいるしさ」 美羽「3人みんなで入ろうよ。きっと楽しいし」 声「男漁りもできるし、か」 綾音が庭石に腰掛け、ノートパソコンを叩いている。 美羽「……あの、それって、どういう?」 ちなみ「相手にしないほうがいいよ」 美羽「え?」 ちなみ「D組の五十鈴綾音。変わり者でさ、クラスでも浮きまくってるんだって。行こ行こ」 美羽「う、うん……」 綾音「2年B組、真鶴美羽。こんな近くにいたなんてね、本物の『ゲートキーパー』が」 ノートパソコンに下げている鈴が、小気味よく鳴る。 綾音のクラスの授業中。 教師「──今でいうマツムシ、スズムシ、キリギリスやコオロギなど、秋に鳴く虫の総称だということだ。そこのところは十分に注意しろよ。では次の歌。こちらは5・7・7、5・7・7という韻を踏んだものとなっている。元興寺の法師、つまり僧侶が書いたとされるが──」 綾音は授業そっちのけで、携帯をいじっている。 窓の外で囀る小鳥を見て、ふと、頬を緩める。 教師「えー、この歌を…… そうだな。五十鈴! 出席番号3番、五十鈴綾音! この部分だ。現代訳できるか?」 生徒たち「何やってんだか」「いつものことじゃん」 ムッとして綾音が立ち上がり、平然と答える。 綾音「『&ruby(しらたま){白珠}は人に知らえず知らずともよし 知らずとも我し知れらば知らずともよし』── 『白珠』は真珠、才能や努力を示す。よって現代訳は『その秘められた能力は人に知られない、しかし世に知れなくてもかまわない。たとえ知れなくても、自分さえ自分の能力を知っていればいいのだから』── 以上」 教師「そ、その通りだ。よく授業を聞いてるな。座って良し」 平然と綾音が着席し、また携帯を手に取る。 生徒たちが小声で噂する。 「うわ、嫌な感じ」 「勉強しか取り柄ないんだもん、仕方ないっしょ」 「なんかさ、キモイよね」 「オタクなんだってさ、女オタク」 「え、何なの?」 「パソコンとか、そういうのでしょ」 「えぇ、引きこもってんの?」「みたいだよ」 「うわぁ……」 交通事故現場。 ひしゃげた車を、警官たちが囲んでいる。 「橋本警部! まもなく科警研から調査チームが到着します。あ、駄目です! 勝手に……」 「勝手もクソもあるか!? この事故で、8人も死んだんだぞ」 運転手はすでに死んでいるが、その顔は怪物のような奇怪な形に変貌している。 「やはり同じか……」 「えぇっ!?」 「しかし、ここまで原型を保っているのは珍しい」 運転手がいびつに動き出し、そして消え去る。 「こ、これは!?」 「やれやれ…… いつもと同じか。これじゃ話にならんな。肝心の&ruby(ホシ){犯人}が消えちまうんだからな」 綾音の高校の前。 前作の登場人物の1人・[[影山零士>http://neoending.web.fc2.com/anime/kagyou/gatekeep.htm]]に、綾音が逢っている。 影山「見つけたらしいな」 綾音「たぶん」 影山「で、使えそうか?」 綾音「まだ分からないけど」 影山「生粋の能力者は貴重だ。逃がすな。この数年、奴らの動きは活性化している。近い内に大物も出てくるかもしれん。能力者は有効な駒になる」 綾音「私みたいに?」 影山「お前は……」 影山がサングラスを外し、かすかに笑みを見せる。 影山「駒なんかじゃ、ないさ」 綾音「そう?」 影山「あぁ」 綾音「それと、ここ1週間のぶん」 綾音が、袋包みを渡す。 影山は引き換えに、札束を綾音に渡す。 影山「ご苦労。なるほど、結構な数だ。ただ、あまり無理はするなよ」 綾音「了──解……」 影山「これは誰にも知られることのない反攻作戦だ。我々の社会そのものがインベーダーに乗っ取られて、すでに30年…… 奴らはその数を増す一方だ。最早、我々に時間的猶予はない。お前にもこれまで以上に──」 綾音「矛盾してる」 影山「ん?」 綾音「『無理するな』って言うのと」 影山「そ……そうだな」 綾音「じゃ行くよ。駒、捕まえに」 影山「頼む」 夜のゲームセンター。 美羽、ちなみ、なおこの3人がクレーンゲームで盛り上がっている。 「次、これやってみる?」 「あっ、ゲバちゃん!」「すっごい腕時計!」 「駄目。あれ、取りにくいんだって、あのテの」 「あ、私これやってみよ。──あぁっ!? さよなら、私のゲバちゃん……」 「次、あれやってみる?」「踊る奴?」「あ、あれ得意~」 「今日は最後まで行けるといいなぁ」「曲は?」「うーん」 ゲームの筐体を覗き込む3人。短いスカートの淵が際どい。 声「意識せずにそうやって男を誘っている、と」 見ると、綾音がゲーム台の前に座っている。 美羽「あ、また……」 なおこ「ちょっと、あんた!」 美羽「な、なおちゃん……」 なおこが綾音に詰め寄る。 なおこ「あんた! 朝から妙に突っかかって、どういうつもり!?」 綾音「……」 なおこ「答えなさいよ!」 綾音「知能、低そう」 なおこ「な……!? あんたぁ!」 美羽「いいよ、なおちゃん。私、気にしてないし」 なおこ「けどぉ!」 綾音「それよりさ…… もっと面白いことあるんだけど、来る?」 なお「行くことないよ、美羽」「うん、ないない」 美羽はなぜか綾音にいわれるがまま、夜の街をついて行く。 綾音「自分の力。何なのか、知りたくない?」 美羽「え……?」 綾音「どう? 真鶴美羽、ちゃん」 いつしか、アーケード街に到着する。 夜も更け、どの店もシャッターが閉まっており、通行人もいない。 美羽「あの、えっと…… 見たん……ですか? 違いますよねぇ~?」 綾音「カエル?」 美羽「え?」 綾音「あんたの能力。カエル? それとも、ウサギ?」 美羽「や、やっぱり~! え、えっと…… 見たのって、どこで? その……」 綾音「その力が何なのか、あんた自身もよく知らない」 美羽「うんうん」 綾音「教えてあげる。実地でね」 どこからか、十数人の無表情な男女が現れる。 体がみるみる歪み、コートに黒帽子にグラサン姿のインベーダーと化す。 綾音「データ通りか」 美羽「え!?」 綾音「濃密なIPWの発生源。昔はこう呼ばれていた── 『怪電波』と」 インベーダーたちの体から、無数の砲門が伸びる。 美羽「え、え~!?」 綾音「どいてな。やるよ」 綾音がコートをはだけると、裏地には無数の携帯電話が縫い付けられている。 両手に1つずつの携帯電話を構え、キーを連打する。 美羽「あ、あの~、電話してる場合じゃ……」 綾音「黙って見てる」 美羽「は、はい! ……とは言ったものの~」 砲門が一斉に火を吹く。 美羽「きゃあぁ~!」 綾音が携帯をかざす。 砲撃が炸裂し、爆煙があがる。 美羽が恐る恐る見ると、携帯から光の輪が展開し、砲撃を食い止めている。 美羽「光の…… 輪っか?」 さらに綾音が、別の携帯を投げつける。 地面に突き刺さった携帯から、光の輪が展開。 インベーダーたちはたちまち、炎に包まれる。 インベーダー「ガ…… ガガ……!?」 炎がやむと、インベーダーは1人残らず消滅しており、地面には輝く結晶体が転がっている。 綾音は冒頭と同様、平然と結晶体を拾い集める。 美羽「あれ? あ、あの…… 教えてください。今のアレ、何なんですぅ?」 綾音「『アレ』ってどっち? 『インベーダー』? それとも『&ruby(イミテーション){疑似}ゲート』? 美羽「え?」 綾音「奴らはどこにでもいる。そして── 奴らは、我々のすぐそばに」 美羽「インベー……ダー……? 宇宙人……?」 綾音「それともう一つ。私がさっき使った能力は──」 声「電子回路ト・エネルギー転送ニヨル・疑似ゲート能力── 危険・排除スル── 排除スル──」 地面を突き破り、数十メートルもの巨大な鉄球型のインベーダーが現れる。 美羽「わぁ~!?」 美羽は腰を抜かす。 インベーダー「攻撃ヲ── 開始スル──」 美羽「にに、逃げましょうよ、五十鈴さん!」 綾音「今逃げてどうすんのよ」 美羽「で、でもぉ~!」 綾音「それより、はい」 綾音が美羽に、携帯電話の束を手渡す。 綾音「これ、適当に1個ずつ落としながら逃げ回る」 美羽「えぇ~!?」 綾音「あんたの『跳躍のゲート』で」 美羽「げ、げーとぉ!?」 綾音「言ってごらん。『ゲート・オープン』って」 美羽「そんな急に言われてもぉ~!?」 綾音「急じゃなきゃまずいっしょ?」 美羽「え? きゃぁ~」 インベーダーの鉄球が変形し、不気味な触手が伸び、今にも2人を襲わんとしている。 美羽「五十鈴さん! さっきのバリアーみたいなの…… え!?」 綾音はいつの間にか、遠く離れたところに座り込んでいる。 綾音「じゃ、後はよろしく」 美羽「そそそそそ、そんなぁ!?」 インベーダーの触手が次第に迫る。 本能的に、美羽の力が目覚めてゆく。 美羽「……&bold(){ゲート・オープ──ン!!}」 光の輪が展開し、美羽が地面を蹴り、大きく跳躍する。 綾音はパソコンを打っている。 美羽「五十鈴さぁん!?」 綾音「は──い。早く携帯落とす!」 美羽「そ、そんなぁ!?」 空中の美羽を目がけ、触手が迫る。 美羽「わ、わかりました! 携帯ですよねぇ!? え、えぇ~い!」 携帯の1個を、触手目がけて投げつける。 コン、と空しい音を響かせ、携帯電話は地面に転がるだけ。 美羽「え!? なんでぇ~!?」 綾音「はい、いいのいいの。その調子ね」 インベーダー「抹消セヨ── ゲートノ一族ヲ── 抹消セヨ──」 さらに触手から、砲撃の雨が降り注ぐ。 美羽「きゃぁっ! 携帯、携帯……」 美羽が必死に携帯を投げつけるが、一向に何も起きず、携帯は地面に転がるばかり。 インベーダーの攻撃が続く。 美羽は必死に壁を蹴り、宙を舞い、避け続ける。 美羽「もう、やられちゃう~!」 綾音「文句言わない」 美羽「えぇ~ん!」 綾音「泣くな」 美羽「死ぬぅ~っ!」 綾音「まだ生きてる」 美羽「きゃあ~っ! お母さぁ~ん!」 綾音「今はいない」 美羽「お、お父さぁ~ん!」 綾音「……そんなもん、役に立たない」 美羽が力尽き、鉄球目がけてフラフラと落下してゆく。 インベーダー「目標── 自由落下開始 抹消セヨ── 抹消セヨ──」 無数の触手が美羽に迫り、絶対絶命。 美羽「もう、駄目~~っっ!!」 綾音「全システム構築完了。全デバイス、GPSと連動。アクセス開始。──&bold(){ゲート・オープン}」 綾音がパソコンのキーを叩く。 地面に転がったいくつもの携帯が、一斉に作動する。 インベーダーを取り巻くように、巨大な光の輪が展開する。 美羽「え…… あれは……!?」 インベーダーが強烈な光球に包まれ、みるみる消失してゆく。 美羽「あれも…… 『ゲート』!?」 インベーダーが、無数の光の粒子となって四散する。 地面に降りた美羽が、大きく息をつく。 綾音は平然と、地面に散らばった結晶体を集める。 美羽「五十鈴さぁ~ん! や、やりましたね! 私たちがあの化け物を……」 綾音「あんたは、ただ跳ねてただけ」 美羽「え? ……でもこれ、すごいニュースになりますよね! 『都内の女子高生、お手柄』とか」 綾音「ならないよ」 美羽「え!?」 綾音「そういう仕組みなの。そろそろ行くよ。詳しい説明は、場所を変えて」 美羽「あ…… はい!」 そのとき、攻撃が一閃。 綾音のパソコンが転がり、下げていた鈴がちぎれ飛ぶ。 かろうじて生き残っていたインベーダーが、瓦礫の隙間にいる。 地面に転がった鈴に、綾音の目の色が変わる。 綾音「あいつ……! ブッ飛ばす!!」 綾音が傍らの鉄パイプを拾い上げ、突進する。 綾音「うぅおお──っっ!!」 美羽「五十鈴さぁん!?」 綾音&bold(){&big(){「ウルトラぁぁ──っ! 旋風斬りぃぃ──っっ!!」}} 先ほどの携帯とは比較にならない激しいエネルギーを迸らせ、今度こそインベーダーが消滅する。 美羽「五十鈴……さん? 五十鈴さぁん!」 綾音が我に返って、鉄パイプを捨てる。 美羽「大丈夫ですかぁ? 驚きました、五十鈴さん! 携帯なくても、あんなことできるんですねぇ~」 綾音「また、使っちゃったよ……」 パトカーのサイレンの音が近づいてくる。 綾音が立ち去る。 美羽「あ、待ってくださいよ~、あの~」 後日。 影山が美羽に、ゲートキーパーズの隊員証を渡す。 影山「おめでとう。君は『イージス・ネットワーク』の一員として認定された。『跳躍のゲートキーパー』として。以後の連絡を待て」 美羽「でも、私そんな…… 今度からサッカー部のマネージャーもするんで、あの……」 綾音「言ったでしょ? 『もっと面白いことしよう』って」 美羽「でも……」 影山が車で走り去る。 美羽「あ~……」 綾音「よろしく頼むよ」 綾音も歩き去る。 美羽「って、五十鈴さぁん!? そんなぁ、もっと詳しく教えてくださいよぉ、五十鈴さぁ~ん!」 #center(){|CENTER:&br()こんな街に生まれて、こんな街に暮らしてる。&br()&br()人ばっかり。うるさい音ばっかり。&br()そこら中に、ささやかな悪意が蔓延ってる。&br()呆れるくらい、くだらない街。&br()&br()だからせめて……&br()面白いことしたいと思ってた──&br()&br()|} #center(){&big(){(続く)}}

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