ゲートキーパーズ21の最終回

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ゲートキーパーズ21の最終回 - (2017/05/28 (日) 07:16:59) の1つ前との変更点

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インベーダー幹部・幽霊少女の召喚した漆黒の巨人が、お台場に出現した。 無数の人々がインベーダーに変貌して群がり、次々に巨人の体の中へと吸い込まれ、巨人は身長数十メートルにまで巨大化を続ける。 「ヨウヤク── 行ケル──」「欲望ノ── ママニ──」 「自分ノ── 思イ通リノ── ママニ──」 「法律ヤ── 慣習ヤ── 道徳ニ束縛サレナイ──」 「今コソ── 我ラノ世界ヘ──」 ゲートキーパーズの影山、&ruby(さとか){里香}、雪乃が、彼方からその様子を見ている。 雪乃「また…… 大きくなった」 影山「こんなものじゃない。奴はまだまだ、膨れ上がる。この世に蔓延る、すべてのクソ虫どもを飲み込みながら」 里香「じゃあ私たちは結局、何のために戦うのかね?」 影山「あきらめろ。人の時代の終わりは、とうの昔に始まっていたのさ。本当の豊かさとは何かを考えようともせず、目先の欲望だけを求め始めた、あのときから……」 巨人の頭上に、幽霊少女が佇む。 幽霊少女「さぁ、急がなきゃ。急いでみんなを集めなきゃ! 私の大事な大事なお友達が望んだ世界。一刻も早く…… 目を覚ます前に」 影山邸。敵の凶弾に倒れた綾音を、&ruby(みう){美羽}が見舞う。 美羽「五十鈴さん…… 私…… やっぱりダメでした。名誉挽回するって、みんなが楽しく過ごせるようにがんばろうって言ってたのに。ダメですよね、私……」 ベッドで眠り続ける綾音からは、返事はない。 生命維持装置の音だけが、静かに響いている。 美羽「私、小さいときはよく、空を飛ぶ夢を見たんです。でも自由にじゃなくて、地面スレスレで。電線に引っかかっちゃったり、地に足ついちゃったり。けど、今は…… 逃げてる夢。ぼんやり誰かに追われてて、でも今川焼き買って食べたり、友達と逢ったりしてて、どこかに隠れるけど必ず見つかる、だけど、絶っ対捕まらない夢……」 美羽が、空の彼方を見上げる。 美羽「私、本当はね、高く高く、空を飛ぶ夢、見たかった…… ずーっと高く飛んで、大好きなお月様まで行って、月の地面に頬ずりする夢…… でも、やっぱりダメですよね。ゲートの力を持ってても、五十鈴さんが言ったように、カエルかウサギみたいにピョンピョン跳ねてるだけ。けど……」 決意の表情で、美羽が立ち上がる。 美羽「行ってきます、五十鈴さん!」 無数のインベーダーたちに、影山たちが立ち向かう。 影山のゲートが自身の腕に食い込み、血が吹き出す。 影山「ぐはぁぁっ!? 使い……過ぎたか……!」 里香「&bold(){ゲ──ト・フルオ──プン!!} てめぇら人間が、なんで私たち人間を襲うっていうんだよぉぉ──っっ!!」 影山「やめろ! お前もゲートに食われるぞ!」 里香「かまやしねぇ! 前みたいに負けて泣くくらいなら、戦って死んだほうがぁ!!」 里香が猛然と、インベーダーの大群の中へ飛び込んで行く。 影山「ゲートは…… 希望なんかじゃない。だが…… 頼んだぞ!」 巨人の頭上の幽霊少女のもとに、雪乃が現れる。 幽霊少女「あら? 使ったのね。瞬間移動の能力」 雪乃「……」 幽霊少女「私みたいに、何もかもなくしたいの? すべてを消し去る、この私の『消失のゲート』で」 幽霊少女の手にする水晶玉の中に、頭蓋骨がある。 幽霊少女「綺麗でしょう、この骨の形? 私の骨。私が体を持っていた頃の骨」 雪乃「とこよめに── すむべきものを── つるぎたち── ながこころから── おそやこのきみ」 幽霊少女「フン!」 2人が同時に、ゲートを展開する。 雪乃の放った氷柱が幽霊少女に突き刺さるが、その体をすり抜けてしまう。 幽霊少女「フフ……」 雪乃が幽霊少女に吹き飛ばされ、数十メートル下へと落下してゆく。 美羽「雪乃ちゃん!」 跳躍のゲートで宙を舞った美羽が、雪乃を受け止め、着地。 美羽「雪乃ちゃん! お願い、しっかりして! ……はっ!?」 雪乃の服はボロボロになり、雪乃を受け止めた美羽の手には、血がベットリと滲んでいる。 雪乃「ごめん…… 作ったもらった、服……」 美羽「うぅん。いいんだよ、そんなの。また作ってあげるから」 雪乃「ありがとう…… 世の中を…… 憂しと優しと思えども…… 飛び立ちかねつ…… 鳥にし…… あら……ねば……」 美羽「雪乃……ちゃん?」 雪乃が静かに目を閉じ、光に包まれ、消滅する。 美羽の腕には、雪乃が着ていた制服だけが残る。 美羽がボロボロの制服を抱きしめる。 その隙間から、雪乃の飼っていたオコジョのヒサメが顔を出し、無邪気な声を上げる。 美羽が懐から2つの結晶体を取り出し、じっと見つめる。 インベーダーに変貌した親友・なおこ、ちなみの2人の成れの果て。 美羽「ちなみん、なおちゃん……」 里香「あいつ……!」 美羽「言いましたよね、五十鈴さん? もっと面白いことしよう、って。でも、戦いなんて全然面白くなくて、ただ悲しいだけなのに…… もしかして、五十鈴さんの言ってた面白いことって、もしかして…… 私、行きます! もっと面白いことを…… みんなのために、戦いを終わらせに! &bold(){ゲ──ト・オ──プ──ン!!}」 美羽がゲート能力で一気に空高く跳躍し、巨人の頭上を目ざす。 美羽「高く! 高く!! お月様まで届くくらい!!」 次第に巨人の頭上が迫り、その彼方には、空に浮かぶ月が見える。 美羽「……あっ!?」 あと一歩で跳躍力が届かず、美羽が失速。真っ逆さまに落下していく。 地面に激突、もうもうと砂煙が上る。 がっくりと膝を突く美羽に、インベーダーたちが群がってくる。 美羽「ごめんなさい、五十鈴さん…… 私……」 影山と里香もインベーダーたちの猛攻の前に、ついに倒れる。 影山「気にするな……」 里香「何をだ?」 影山「手遅れだったんだよ。何もかも、な…… 虚無と無関心が支配するこの国にあって、俺たちの力はあまりに小さすぎたのさ……」 里香「けど…… それでも、私は…… 負けたくは、なかったんだ……!」 幽霊少女「さぁ、そろそろ行かなくちゃ。終わりの時を始めなきゃ。邪魔な人間たちを、み──んな一つにまとめちゃう。だから…… 行かなくちゃ。みんなが一つになるのを待っている、あの街へ」 美羽を目がけ、インベーダーたちの攻撃が放たれる── その寸前、真っ赤な火柱が上り、インベーダーたちが燃え尽きる。 もうもうと立ち昇る爆炎の中から、携帯電話が飛び出して地面に突き刺さる。 美羽「あ……? これ、って……!?」 鈴の音が、静かに響く。 里香「おい…… 聞こえるか?」 影山「あぁ…… 聞こえるとも……」 美羽が呆然と立ち上がる。 聞き覚えのある鈴の音が、だんだんと近づいて来る。 霧の立ち込める中から静かに足音を響かせ、綾音が姿を現す。 美羽「い…… 五十鈴さぁ──ん!!」 綾音のもとに駆け寄る美羽が、ふと、慌てて足を止める。 美羽「あ、あ……」 綾音「どうしたのさ?」 美羽「私のせいで、雪乃ちゃんが…… みんなも、ボロボロで…… 私がてんでダメなせいで……」 綾音「……」 美羽「みんな、私が……」 綾音「あんたの夢」 美羽「え?」 瓦礫の中に倒れているスクーターを、綾音が起こす。 綾音「叶えてあげる」 美羽「えっ?」 綾音「行くよ。名誉挽回しに。それと…… もっと、面白いことしに」 美羽「……は、はいっ!」 2人がスクーターに乗る。 綾音「それじゃ、行くよ」 美羽「はい! &bold(){ゲ──ト!!}」 綾音「&bold(){オ──プン!!}」 2人のゲート能力でスクーターが宙に浮き、一気に突進する。 綾音「このままじゃダメだ。カエルやウサギじゃない、鳥みたいにどこまでも高く、速く!」 美羽「はい!」 インベーダーたちが群がり、攻撃が降り注ぐ。 綾音「目を逸らすな。このまま一気に上昇する!」 美羽「わ、わかりました!」 攻撃の雨をかいくぐりつつ、2人のスクーターが高層ビルの壁面を駆け上る。 綾音 (そう…… あんたとなら、きっとできる。なりたくてもなれなかった、鳥のように……!) 数え切れないほどのインベーダーの大群が立ちふさがる、 美羽「五十鈴さん!?」 綾音「問題ない」 里香の放ったゲートセイバーが宙を舞い、インベーダーたちを斬り裂く。 里香「フン、とっとと行けよ! この私の勝ち&ruby(いくさ){戦}に、華を添えにね!」 影山「この腕の5本や10本、いくらでもくれてやる! だから、ゲートよ! 今一度この俺に、力をぉぉ!!」 影山の放つゲート能力が、インベーダーたちを一掃する。 影山「行け、ゲートキーパーズ!!」 綾音たちのスクーターが、影山たちの空けた突破口を抜け、上空へと飛び上がる。 やがて、目の前に巨人の頭部が見えてくる。 美羽「見えました!」 巨人の巨大な掌が迫り、綾音たちを捕えようとする。 綾音「チッ……」 美羽「五十鈴さん、捕まっててください! &bold(){ゲ──ト・オ──プ──ンッッ!!}」 巨人の指と指、わずかな隙間を抜けてスクーターが跳躍、巨人の頭上に飛び上がる。 綾音「くっ……!」 美羽「どうしたんですか!?」 綾音「もう限界だ」 美羽「え!?」 スクーターが空中分解。 綾音はどうにか巨人の頭上に舞い降りるが、美羽はまともに叩きつけられる。 綾音「美羽!? おい、美羽、しっかりしろ!」 美羽「ん…… 私……」 綾音「いい、喋るな」 美羽「できたよね…… お月様には、届かなかったけど…… 私…… 名誉挽回、できたよね……」 美羽がそのまま、気を失う。 綾音が微笑む。 幽霊少女「あらあら、上がメチャメチャだわ。フフッ、でもまぁ、いっか。どうせ最後は、こうなるはずだったんですもの」 綾音が立ち上がり、幽霊少女を睨みつける。 幽霊少女「そんな怖い顔しないで。見て」 周囲には破壊しつくされ、静まり返った光景が広がっている。 幽霊少女「誰もいない、静かな静かな世界。車や電車の走らない、うるさくて汚らしくて、好き勝手ばっかりやってる、嫌な人間たちの姿はどこにもない── それに、ほら!」 無数のインベーダーたちが宙を舞っている。 幽霊少女「あなたの好きな、賢くて美しくて、自由に空を飛ぶ鳥の姿だけ」 綾音「……」 幽霊少女「フフッ。私ね、ずっとずっと捜してたの。私と同じ女の子を。ろくにマナーすら守らない、汚らしい人間が大っ嫌いな女の子。何も期待せず、何も求めず、自分だけで生きている女の子。鳥のように生きたいのに生きられない、そんな自分を嫌っている女の子。変わりたいのに変われない、今の自分が大っ嫌いな女の子。そんなゲートキーパーの女の子を。私とあなたは同じ。違うけれど、同じもの。ね? 一緒に私たちだけの世界を作りましょう」 綾音「そう…… そうだね。私とあんたは、確かによく似ているのかもしれない」 幽霊少女「アハハハ! やっぱり!」 綾音「だから…… だから、あんたとは友達になれない」 幽霊少女「そんな、どうして? ねぇ、どうしてなの?」 綾音が携帯電話を構える。 幽霊少女「あら? でも無理よ。私は幽霊少女。決して殺せないわ。だってもう、死んでるんですもの」 静かな睨み合いの末、綾音の投げた携帯電話が空を切る。 炎熱のゲートが作動。 火柱が立ち昇り、幽霊少女が炎に包まれる。 幽霊少女「フフフ! フフフ! 無駄だって言ったでしょう!? あなたに私は殺せない。世界中の人間をインベーダーにすれば、そう! あなたは結局、私と友達になるしかないのよ! アハハハハハ!!」 綾音「自分を嫌いな人間が……」 炎がやむ。 綾音はすでに、幽霊少女の目の前に迫っている。 綾音「自分と同じ人間を友達に欲しがっちゃ、いけないよ…… 真空……ミサイル」 水晶玉が砕け、中の頭蓋骨が真っ二つに割れる。 幽霊少女「嫌ああぁぁ──っっ!!」 巨人の体のあちこちに、亀裂が走り始める。 粉々になった頭蓋骨。幽霊少女が狂ったように、その破片をかき集める。 幽霊少女「わ、私の、私の、骨…… 私が生きていた証……」 幽霊少女の体が次第にぼやけ、手のひらから骨の破片がこぼれ落ちる。 幽霊少女「あ、あ……!? そんな……!? 私が、私に触れられない…… すべてが終わるまで、あなたには眠っていてもらおうと思ったのに…… なんで!? なんでなの!?」 綾音「クソ親父が、さ」 幽霊少女「え……?」 綾音「『起きろ』って、うるさかったから」 幽霊少女「そう、そうだったの…… あなたも、私じゃなかった……」 巨人の足が、腕が、粒子となって次々に消滅してゆく。 幽霊少女「あなたには、大事な人がいる。死んでいる人の中にも、生きている人の中にも。私は、ずっと一人ぼっち…… 雪乃も私のことを、わかってくれなかった。あなたを見つけて、やっと1人じゃなくなると思ったのに…… 私の間違いだわ。あなたは、私の友達なんかじゃなかった!」 綾音「……」 幽霊少女「それなら、私の最後の力! この、黒いマイナスゲートで!!」 幽霊少女がゲートを展開する。 ゲートの光が、黒く染まる。 綾音「クッ!」 幽霊少女「永遠にあなたを苦しめてあげる。フフフ、アハハハハ! ア──ッハッハッハ!!」 綾音「美羽!」 綾音たちのいる巨人の頭部が、次々に崩壊してゆく。 綾音がとっさに、美羽をかばう。 里香「まさか、あれは!?」 影山「そうだ…… 黒いゲート。すなわち、憎悪によって反転した、マイナス……ゲー……ト…… う、うぅっ……」 里香「あ!? お、おい! しっかりしろよ! お、おい! おいってば!」 巨人の頭上に浮かび上がったゲートが、際限なく広がり、巨大な光球となってすべてを飲み込んでいく── お台場の街角。 廃墟と化したはずの街は、元通りの姿となっている。 盾神高校で綾音を尋問していた橋本刑事が、怒号を飛ばしている。 橋本「俺が知りたいのは、真実だけだ! 適当な容疑をでっち上げて、お前を拘束することだって──」 そう怒鳴りつけている相手は綾音ではなく、インベーダーに変貌したはずの、なおことちなみの2人。 なおこ「で、おじさん、誰なんですか!?」 橋本「へ!? あ…… ここは?」 ちなみ「『ここは』って、うちの学校に決まって…… あ? あ!? ここってば…… もしかして、お台場!?」 なおこ「だよねぇ……」 ちなみ「え!? なんでぇ、どうして!?」 彼方から、美羽が駆けて来る。 美羽「なおちゃ──ん! ちなみ──ん!」 美羽が勢い余って転倒。目を涙ぐませながら起き上がる。 なおこ「ちょっと美羽、あんた何やってんの!?」 美羽「なおちゃ~ん!」 なおこ「子供じゃないんだから、転んだくらいで泣くんじゃないの!」 ちなみ「ねぇ美羽、あんたもどうしてお台場にいるの?」 美羽「ちなみん、なおちゃん……!」 美羽が涙をあふれさせながら、2人に抱きつく。 なおこ「どうしたのよ!?」 ちなみ「何、泣いてんのよ!?」 美羽たちの様子を微笑ましく見守っていた綾音が、その場を立ち去る。 道端に里香が佇んでいる。 里香「すべてを消し去る『消失のゲート』の逆位相、言うなれば『再生のゲート』って奴か? あいつは、わかっててやったのかね? それとも、そんな単純なことすら忘れちまうくらい、どす黒い憎しみに取り付かれていたのか…… ま、一見ご都合主義的な展開ではあるけど、実際これでインベーダーが全滅したわけじゃない」 気づくと、すでに綾音の姿はない。 里香「……って、またかぁ~っ!?」 青信号の横断歩道を、綾音が歩き出そうとする。 信号無視の自動車が猛スピードで、目の前を横切って行く。 綾音「そう。結局、何もかも元のまま……か」 声「それでも、いいじゃないか」 綾音「え!?」 その声に振り向くと、亡き父・[[浮矢 瞬>ゲートキーパーズの第1話]]の姿……? 浮矢「よくやったな、綾音」 綾音「え……」 目を凝らすと、それは浮矢ではなく、影山の姿。 影山「ん? どうした?」 綾音「あ…… うぅん。夢で見たクソ親父のセリフ、思い出しただけ」 影山「……で、何て?」 綾音「もう少し、素直になれよ、って……」 道端を、オコジョのヒサメが走る。 建物の陰に駆け込んだヒサメを、雪乃と思しき和装の腕が抱き上げ、ヒサメが無邪気に鳴く。 「この街で面白いことがしたい」と ずっと、ずっと思い続けてきた。 でも結局、面白いことって何だったのか 自分でもよくわからない。 ただ…… なんとなくわかったことがある。 それは…… 2001年11月。 街角に座り込んでノートパソコンを叩く綾音のもとに、美羽が駆けて来る。 美羽「はぁ、はぁ、五十鈴さぁ──ん! す、すみません、遅れちゃって……」 綾音「……」 美羽「あ、あの……」 綾音「IPWの発生源は3箇所。急がないと、今日中に済ませられないから」 綾音がパソコンをしまい、歩き出す。 美羽「五十鈴さぁん! あ、あの…… ほら! パン屋さんでバイトしてたときのこと、覚えてますぅ? あのときに言われたこと、ずっとずっと気になってたんですけどぉ、私たち、あの…… その…… えーっと…… わ、私たち、友達ですよねぇ!?」 その言葉に、綾音が足を止める。 風が柔らかに、彼女の髪を撫でる。 綾音が眼鏡を外し、気持ち良さそうに大きく息を吸い、微笑む。 美羽「あの…… 五十鈴さん?」 綾音「ほら、さっさと行くよ」 綾音は美羽をちらりと振り返り、再び歩き出す。 美羽「あぁ、待ってくださいよぉ! わ、わぁ!?」 美羽が勢い余って、またもや転倒する。 美羽「ま、待ってください、五十鈴さぁん! ところで眼鏡、どうしたんですかぁ? ねぇ、五十鈴さぁ~ん!」 #center(){|CENTER:&br()それは……&br()&br()きっと面白いことは、&br()1人っきりじゃできないんだろうな、&br()ってことだ……&br()&br()|} #center(){|CENTER:&big(){&br()FINAL EPISODE&br()&br()&big(){羽 音}&br()HANE OTO&br()&br()}|}
インベーダー幹部・幽霊少女の召喚した漆黒の巨人が、お台場に出現した。 無数の人々がインベーダーに変貌して群がり、次々に巨人の体の中へと吸い込まれ、巨人は身長数十メートルにまで巨大化を続ける。 「ヨウヤク── 行ケル──」「欲望ノ── ママニ──」 「自分ノ── 思イ通リノ── ママニ──」 「法律ヤ── 慣習ヤ── 道徳ニ束縛サレナイ──」 「今コソ── 我ラノ世界ヘ──」 ゲートキーパーズの影山、&ruby(さとか){里香}、雪乃が、彼方からその様子を見ている。 雪乃「また…… 大きくなった」 影山「こんなものじゃない。奴はまだまだ、膨れ上がる。この世に蔓延る、すべてのクソ虫どもを飲み込みながら」 里香「じゃあ私たちは結局、何のために戦うのかね?」 影山「あきらめろ。人の時代の終わりは、とうの昔に始まっていたのさ。本当の豊かさとは何かを考えようともせず、目先の欲望だけを求め始めた、あのときから……」 巨人の頭上に、幽霊少女が佇む。 幽霊少女「さぁ、急がなきゃ。急いでみんなを集めなきゃ! 私の大事な大事なお友達が望んだ世界。一刻も早く…… 目を覚ます前に」 影山邸。 敵の凶弾に倒れた綾音を、&ruby(みう){美羽}が見舞う。 美羽「五十鈴さん…… 私…… やっぱり駄目でした。名誉挽回するって、みんなが楽しく過ごせるようにがんばろうって言ってたのに。駄目ですよね、私……」 ベッドで眠り続ける綾音からは、返事はない。 生命維持装置の音だけが、静かに響いている。 美羽「私、小さいときはよく、空を飛ぶ夢を見たんです。でも自由にじゃなくて、地面スレスレで。電線に引っかかっちゃったり、地に足ついちゃったり。けど、今は…… 逃げてる夢。ぼんやり誰かに追われてて、でも今川焼き買って食べたり、友達と逢ったりしてて、どこかに隠れるけど必ず見つかる、だけど、絶っ対捕まらない夢……」 美羽が、空の彼方を見上げる。 美羽「私、本当はね、高く高く、空を飛ぶ夢、見たかった…… ずーっと高く飛んで、大好きなお月様まで行って、月の地面に頬ずりする夢…… でも、やっぱり駄目ですよね。ゲートの力を持ってても、五十鈴さんが言ったように、カエルかウサギみたいにピョンピョン跳ねてるだけ。けど……」 美羽が決意の表情で、立ち上がる。 美羽「行ってきます、五十鈴さん!」 影山たちが、無数のインベーダーたちに立ち向かう。 影山のゲートが自身の腕に食い込み、血が吹き出す。 影山「ぐはぁぁっ!? 使い……過ぎたか……!」 里香「&bold(){ゲ──ト・フルオ──プン!!} てめぇら人間が、なんで私たち人間を襲うっていうんだよぉぉ──っっ!!」 影山「やめろ! お前もゲートに食われるぞ!」 里香「かまやしねぇ! 前みたいに負けて泣くくらいなら、戦って死んだほうがぁ!!」 里香が猛然と、インベーダーの大群の中へ飛び込んで行く。 影山「ゲートは…… 希望なんかじゃない。だが…… 頼んだぞ!」 巨人の頭上の幽霊少女のもとに、雪乃が現れる。 幽霊少女「あら? 使ったのね。瞬間移動の能力」 雪乃「……」 幽霊少女「私みたいに、何もかもなくしたいの? すべてを消し去る、この私の『消失のゲート』で」 幽霊少女の手にする水晶玉の中に、頭蓋骨がある。 幽霊少女「綺麗でしょう、この骨の形? 私の骨。私が体を持っていた頃の骨」 雪乃「とこよめに── すむべきものを── つるぎたち── ながこころから── おそやこのきみ」 幽霊少女「フン!」 2人が同時に、ゲートを展開する。 雪乃の放った氷柱が幽霊少女に突き刺さるが、その体をすり抜けてしまう。 幽霊少女「フフ……」 雪乃が幽霊少女に吹き飛ばされ、数十メートル下へと落下してゆく。 美羽「雪乃ちゃん!」 美羽が、跳躍のゲートで宙を舞い、雪乃を受け止めて着地する。 美羽「雪乃ちゃん! お願い、しっかりして! ……はっ!?」 雪乃の服はボロボロになり、雪乃を受け止めた美羽の手には、血がベットリと滲んでいる。 雪乃「ごめん…… 作ったもらった、服……」 美羽「うぅん。いいんだよ、そんなの。また作ってあげるから」 雪乃「ありがとう…… 世の中を…… 憂しと優しと思えども…… 飛び立ちかねつ…… 鳥にし…… あら……ねば……」 美羽「雪乃……ちゃん?」 雪乃が静かに目を閉じ、光に包まれ、消滅する。 美羽の腕には、雪乃が着ていた制服だけが残る。 美羽がボロボロの制服を抱きしめる。 その隙間から、雪乃の飼っていたオコジョのヒサメが顔を出し、無邪気な声を上げる。 美羽が懐から2つの結晶体を取り出し、じっと見つめる。 インベーダーに変貌した親友・なおこ、ちなみの2人の成れの果て。 美羽「ちなみん、なおちゃん……」 里香「あいつ……!」 美羽「言いましたよね、五十鈴さん? もっと面白いことしよう、って。でも、戦いなんて全然面白くなくて、ただ悲しいだけなのに…… もしかして、五十鈴さんの言ってた面白いことって、もしかして…… 私、行きます! もっと面白いことを…… みんなのために、戦いを終わらせに! &bold(){ゲ──ト・オ──プ──ン!!}」 美羽がゲート能力で一気に空高く跳躍し、巨人の頭上を目ざす。 美羽「高く! 高く!! お月様まで届くくらい!!」 次第に巨人の頭上が迫り、その彼方には、空に浮かぶ月が見える。 美羽「……あっ!?」 あと一歩で跳躍力が届かず、美羽が失速。 真っ逆さまに落下していく。 地面に激突、もうもうと砂煙が上る。 がっくりと膝を突く美羽に、インベーダーたちが群がってくる。 美羽「ごめんなさい、五十鈴さん…… 私……」 影山と里香もインベーダーたちの猛攻の前に、ついに倒れる。 影山「気にするな……」 里香「何をだ?」 影山「手遅れだったんだよ。何もかも、な…… 虚無と無関心が支配するこの国にあって、俺たちの力はあまりに小さすぎたのさ……」 里香「けど…… それでも、私は…… 負けたくは、なかったんだ……!」 幽霊少女「さぁ、そろそろ行かなくちゃ。終わりの時を始めなきゃ。邪魔な人間たちを、み──んな一つにまとめちゃう。だから…… 行かなくちゃ。みんなが一つになるのを待っている、あの街へ」 美羽を目がけ、インベーダーたちの攻撃が放たれる── その寸前、真っ赤な火柱が上り、インベーダーたちが燃え尽きる。 立ち昇る爆炎の中から、携帯電話が飛び出して、地面に突き刺さる。 美羽「あ……? これ、って……!?」 鈴の音が、静かに響く。 里香「おい…… 聞こえるか?」 影山「あぁ…… 聞こえるとも……」 美羽が呆然と立ち上がる。 聞き覚えのある鈴の音が、だんだんと近づいて来る。 霧の立ち込める中から、静かに足音を響かせ、綾音が姿を現す。 美羽「い…… 五十鈴さぁ──ん!!」 美羽が綾音のもとに駆け寄りつつ、慌てて足を止める。 美羽「あ、あ……」 綾音「どうしたのさ?」 美羽「私のせいで、雪乃ちゃんが…… みんなも、ボロボロで…… 私がてんで駄目なせいで……」 綾音「……」 美羽「みんな、私が……」 綾音「あんたの夢」 美羽「え?」 綾音が、瓦礫の中に倒れているスクーターを起こす。 綾音「叶えてあげる」 美羽「えっ?」 綾音「行くよ。名誉挽回しに。それと…… もっと、面白いことしに」 美羽「……は、はいっ!」 2人がスクーターに乗る。 綾音「それじゃ、行くよ」 美羽「はい! &bold(){ゲ──ト!!}」 綾音「&bold(){オ──プン!!}」 2人のゲート能力でスクーターが宙に浮き、一気に突進する。 綾音「このままじゃ駄目だ。カエルやウサギじゃない、鳥みたいにどこまでも高く、速く!」 美羽「はい!」 インベーダーたちが群がり、攻撃が降り注ぐ。 綾音「目を逸らすな。このまま一気に上昇する!」 美羽「わ、わかりました!」 2人のスクーターが、攻撃の雨をかいくぐりつつ、高層ビルの壁面を駆け上る。 綾音 (そう…… あんたとなら、きっとできる。なりたくてもなれなかった、鳥のように……!) 数え切れないほどのインベーダーの大群が立ちふさがる、 美羽「五十鈴さん!?」 綾音「問題ない」 里香の放ったゲートセイバーが宙を舞い、インベーダーたちを斬り裂く。 里香「フン、とっとと行けよ! この私の勝ち&ruby(いくさ){戦}に、華を添えにね!」 影山「この腕の5本や10本、いくらでもくれてやる! だから、ゲートよ! 今一度この俺に、力をぉぉ!!」 影山の放つゲート能力が、インベーダーたちを一掃する。 影山「行け、ゲートキーパーズ!!」 綾音たちのスクーターが、影山たちの空けた突破口を抜け、上空へと飛び上がる。 やがて、目の前に巨人の頭部が見えてくる。 美羽「見えました!」 巨人の巨大な掌が迫り、綾音たちを捕えようとする。 綾音「チッ……」 美羽「五十鈴さん、捕まっててください! &bold(){ゲ──ト・オ──プ──ンッッ!!}」 巨人の指と指、わずかな隙間を抜けてスクーターが跳躍、巨人の頭上に飛び上がる。 綾音「くっ……!」 美羽「どうしたんですか!?」 綾音「もう限界だ」 美羽「え!?」 スクーターが空中分解。 綾音はどうにか巨人の頭上に舞い降りるが、美羽はまともに叩きつけられる。 綾音「美羽!? おい、美羽、しっかりしろ!」 美羽「ん…… 私……」 綾音「いい、喋るな」 美羽「できたよね…… お月様には、届かなかったけど…… 私…… 名誉挽回、できたよね……」 美羽がそのまま、気を失う。 綾音が微笑む。 幽霊少女「あらあら、上がメチャメチャだわ。フフッ、でもまぁ、いっか。どうせ最後は、こうなるはずだったんですもの」 綾音が立ち上がり、幽霊少女を睨みつける。 幽霊少女「そんな怖い顔しないで。見て」 周囲には破壊しつくされ、静まり返った光景が広がっている。 幽霊少女「誰もいない、静かな静かな世界。車や電車の走らない、うるさくて汚らしくて、好き勝手ばっかりやってる、嫌な人間たちの姿はどこにもない── それに、ほら!」 無数のインベーダーたちが宙を舞っている。 幽霊少女「あなたの好きな、賢くて美しくて、自由に空を飛ぶ鳥の姿だけ」 綾音「……」 幽霊少女「フフッ。私ね、ずっとずっと捜してたの。私と同じ女の子を。ろくにマナーすら守らない、汚らしい人間が大っ嫌いな女の子。何も期待せず、何も求めず、自分だけで生きている女の子。鳥のように生きたいのに生きられない、そんな自分を嫌っている女の子。変わりたいのに変われない、今の自分が大っ嫌いな女の子。そんなゲートキーパーの女の子を。私とあなたは同じ。違うけれど、同じもの。ね? 一緒に私たちだけの世界を作りましょう」 綾音「そう…… そうだね。私とあんたは、確かによく似ているのかもしれない」 幽霊少女「アハハハ! やっぱり!」 綾音「だから…… だから、あんたとは友達になれない」 幽霊少女「そんな、どうして? ねぇ、どうしてなの?」 綾音が携帯電話を構える。 幽霊少女「あら? でも無理よ。私は幽霊少女。決して殺せないわ。だってもう、死んでるんですもの」 静かな睨み合いの末、綾音の投げた携帯電話が空を切る。 炎熱のゲートが作動する。 火柱が立ち昇り、幽霊少女が炎に包まれる。 幽霊少女「フフフ! フフフ! 無駄だって言ったでしょう!? あなたに私は殺せない。世界中の人間をインベーダーにすれば、そう! あなたは結局、私と友達になるしかないのよ! アハハハハハ!!」 綾音「自分を嫌いな人間が……」 炎がやむ。 綾音はすでに、幽霊少女の目の前に迫っている。 綾音「自分と同じ人間を友達に欲しがっちゃ、いけないよ…… 真空……ミサイル」 水晶玉が砕け、中の頭蓋骨が真っ二つに割れる。 幽霊少女「嫌ああぁぁ──っっ!!」 巨人の体のあちこちに、亀裂が走り始める。 粉々になった頭蓋骨。幽霊少女が狂ったように、その破片をかき集める。 幽霊少女「わ、私の、私の、骨…… 私が生きていた証……」 幽霊少女の体が次第にぼやけ、手のひらから骨の破片がこぼれ落ちる。 幽霊少女「あ、あ……!? そんな……!? 私が、私に触れられない…… すべてが終わるまで、あなたには眠っていてもらおうと思ったのに…… なんで!? なんでなの!?」 綾音「クソ親父が、さ」 幽霊少女「え……?」 綾音「『起きろ』って、うるさかったから」 幽霊少女「そう、そうだったの…… あなたも、私じゃなかった……」 巨人の足が、腕が、粒子となって次々に消滅してゆく。 幽霊少女「あなたには、大事な人がいる。死んでいる人の中にも、生きている人の中にも。私は、ずっと一人ぼっち…… 雪乃も私のことを、わかってくれなかった。あなたを見つけて、やっと1人じゃなくなると思ったのに…… 私の間違いだわ。あなたは、私の友達なんかじゃなかった!」 綾音「……」 幽霊少女「それなら、私の最後の力! この、黒いマイナスゲートで!!」 幽霊少女がゲートを展開する。 ゲートの光が、黒く染まる。 綾音「クッ!」 幽霊少女「永遠にあなたを苦しめてあげる。フフフ、アハハハハ! ア──ッハッハッハ!!」 綾音「美羽!」 綾音たちのいる巨人の頭部が、次々に崩壊してゆく。 綾音がとっさに、美羽をかばう。 里香「まさか、あれは!?」 影山「そうだ…… 黒いゲート。すなわち、憎悪によって反転した、マイナス……ゲー……ト…… う、うぅっ……」 里香「あ!? お、おい! しっかりしろよ! お、おい! おいってば!」 巨人の頭上に浮かび上がったゲートが、際限なく広がり、巨大な光球となってすべてを飲み込んでいく── お台場の街角。 廃墟と化したはずの街は、元通りの姿となっている。 盾神高校で綾音を尋問していた橋本刑事が、怒号を飛ばしている。 橋本「俺が知りたいのは、真実だけだ! 適当な容疑をでっち上げて、お前を拘束することだって──」 そう怒鳴りつけている相手は綾音ではなく、インベーダーに変貌したはずの、なおことちなみの2人。 なおこ「で、おじさん、誰なんですか!?」 橋本「へ!? あ…… ここは?」 ちなみ「『ここは』って、うちの学校に決まって…… あ? あ!? ここってば…… もしかして、お台場!?」 なおこ「だよねぇ……」 ちなみ「え!? なんでぇ、どうして!?」 美羽が、彼方から駆けて来る。 美羽「なおちゃ──ん! ちなみ──ん!」 美羽が勢い余って転倒する。 目を涙ぐませながら、起き上がる。 なおこ「ちょっと美羽、あんた何やってんの!?」 美羽「なおちゃ~ん!」 なおこ「子供じゃないんだから、転んだくらいで泣くんじゃないの!」 ちなみ「ねぇ美羽、あんたもどうしてお台場にいるの?」 美羽「ちなみん、なおちゃん……!」 美羽が涙をあふれさせながら、2人に抱きつく。 なおこ「どうしたのよ!?」 ちなみ「何、泣いてんのよ!?」 美羽たちの様子を微笑ましく見守っていた綾音が、その場を立ち去る。 道端に里香が佇んでいる。 里香「すべてを消し去る『消失のゲート』の逆位相、言うなれば『再生のゲート』って奴か? あいつは、わかっててやったのかね? それとも、そんな単純なことすら忘れちまうくらい、どす黒い憎しみに取り付かれていたのか…… ま、一見ご都合主義的な展開ではあるけど、実際これでインベーダーが全滅したわけじゃない」 気づくと、すでに綾音の姿はない。 里香「……って、またかぁ~っ!?」 青信号の横断歩道を、綾音が歩き出そうとする。 信号無視の自動車が猛スピードで、目の前を横切って行く。 綾音「そう。結局、何もかも元のまま……か」 声「それでも、いいじゃないか」 綾音「え!?」 その声に振り向くと、亡き父・[[浮矢 瞬>ゲートキーパーズの第1話]]の姿……? 浮矢「よくやったな、綾音」 綾音「え……」 目を凝らすと、それは浮矢ではなく、影山の姿。 影山「ん? どうした?」 綾音「あ…… うぅん。夢で見たクソ親父のセリフ、思い出しただけ」 影山「……で、何て?」 綾音「もう少し、素直になれよ、って……」 道端を、オコジョのヒサメが走る。 建物の陰に駆け込んだヒサメを、雪乃と思しき和装の腕が抱き上げ、ヒサメが無邪気に鳴く。 「この街で面白いことがしたい」と ずっと、ずっと思い続けてきた。 でも結局、面白いことって何だったのか 自分でもよくわからない。 ただ…… なんとなくわかったことがある。 それは…… 2001年11月。 街角に座り込んでノートパソコンを叩く綾音のもとに、美羽が駆けて来る。 美羽「はぁ、はぁ、五十鈴さぁ──ん! す、すみません、遅れちゃって……」 綾音「……」 美羽「あ、あの……」 綾音「IPWの発生源は3箇所。急がないと、今日中に済ませられないから」 綾音がパソコンをしまい、歩き出す。 美羽「五十鈴さぁん! あ、あの…… ほら! パン屋さんでバイトしてたときのこと、覚えてますぅ? あのときに言われたこと、ずっとずっと気になってたんですけどぉ、私たち、あの…… その…… えーっと…… わ、私たち、友達ですよねぇ!?」 その言葉に、綾音が足を止める。 風が柔らかに、彼女の髪を撫でる。 綾音が眼鏡を外し、気持ち良さそうに大きく息を吸い、微笑む。 美羽「あの…… 五十鈴さん?」 綾音「ほら、さっさと行くよ」 綾音は美羽をちらりと振り返り、再び歩き出す。 美羽「あぁ、待ってくださいよぉ! わ、わぁ!?」 美羽が勢い余って、またもや転倒する。 美羽「ま、待ってください、五十鈴さぁん! ところで眼鏡、どうしたんですかぁ? ねぇ、五十鈴さぁ~ん!」 #center(){|CENTER:&br()それは……&br()&br()きっと面白いことは、&br()1人っきりじゃできないんだろうな、&br()ってことだ……&br()&br()|} #center(){|CENTER:&big(){&br()FINAL EPISODE&br()&br()&big(){羽 音}&br()HANE OTO&br()&br()}|}

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