#center(){|かつて──&br()全ての魔族を封じ込めた箱がありました。&br()&br()それは"パンドラの箱"と呼ばれていました。&br()&br()長い年月によりその箱に綻びが生まれ、&br()そこから魔族達が世に溢れ出しました…。&br()&br()&br()そして人々は…&br()&big(){“千億の絶望"に苦しめられました…。}&br()&br()しかし―――&br()&br()&big(){勇者と、その仲間が現れて、&br()世界を闇から救ったのです。}| #center(){|&big(){&big(){&bold(){第 1 楽 章&br()序曲 スフォルツェンド}}}|} #center(){|&big(){だけど―――}&br()&br()世界を覆った闇はまだ……&br()完全に消えてなかったのです……|}} 幼い少年が、巨大な怪物に追いかけられている。 「うわああ…… うわああ あっ… たっ! たあすけてェエ」 怪物の爪が少年を捕え、牙が少年に噛みかかろうとしたそのとき── 強烈な魔法の攻撃が炸裂する。 怪物はバラバラに吹っ飛び、肉片と骨の残骸と化す。 救い主が少年に微笑みかける。 [[前作>ハーメルンのバイオリン弾きの第1話(テレビアニメ版)]]でも登場した魔法使い、クラーリィ・ネッド。 ボクを… 救ってくれたのは… スフォルツェンド魔法兵団といいました… あれから… 10年… 「そうだっ…! トンネルを抜けると いよいよ…」 蒸気機関車が、魔法大国スフォルツェンド公国へと近づいてゆく。 主人公の少年・シェルが、デッキの窓から顔を出す。 シェル「うわぁぁっ 大きいなぁ… さすが魔法大国──&bold(){&big(){スフォルツェンドだぁぁ──}} 先の大戦で魔族を倒して以来…… 人間界の中心となって 世界の治安を守っているだけあるッ ここから…… ボクの…運命が── 変わるんだッッ」 首から提げている裁縫箱が、かすかに動く。 シェルが裁縫箱に語りかける。 シェル「なんだい? まだ眠いのかい? ごめんね 何度もデッキに出てきてるから… でもさっ! ついに来たんだよ スフォルツェンドに… いよいよだよ ピロロ… ボクらの挑戦が始まるんだ ね ピロロ 寝ボケてないで… 出てきたらっ? ボクなんか踊り出したい気分だよ フフフ…」 声「&bold(){うるせェんだよォッ!}」 客室を見ると、いかつい大男が、女性客の連れている赤ん坊を取り上げ、怒鳴り散らしている。 大男「&bold(){オレは赤ん坊の泣き声が大嫌ェなんだよォ! 泣くんじゃねェ コラぁぁ!}」 母親「やめてください やめてェェ」 シェル「なっ」 母親「ぼうやっ」 シェル「ちょっとお…… やめてあげてください かわいそうじゃないですか…」 赤ん坊「&bold(){オギャアア}」 シェル「それじゃあ よけいに赤ちゃん泣いちゃいますよ!」 大男「なっ」 すかさずシェルが赤ん坊を奪い返し、あやす。 シェル「ボクがおもしろい魔法 見せてあげるよ! ボク シェルっていうんだっ!! ヨロシクね…!」 母親「マホーって あなた… “魔法使い”なの?」 シェル「いえ… 違いますけど… 今は… 何もできないけど… いつか… 必ず… &bold(){&big(){立派な大魔法使いになるんだ}} &bold(){そのために スフォルツェンドに来たんだ!}」 再び、首から提げた裁縫箱に語りかける。 シェル「ほらっ 出ておいでよっ ピロロ… みんなにアイサツ! ねェ… 赤ちゃんを喜ばせて! どうしたの? ほらっ! 早く出といでよ! 気まぐれさんだから しょーがないなー ほらっ! ピロロ!」 大男「&bold(){&big(){フザケんな──っ!!}}」 たまりかねた大男がシェルに殴りかかり、赤ん坊が泣きわめく。 赤ん坊「オギャァ」 母親「キャアァ」 大男「&bold(){黙ってりゃあっ! なめやがってぇよ! ガキがあああ この“ハンマーボルト”のブルトン様にタテつきやがってよおお!! チビめ}」 ブルトンと名乗るその大男がイラついた様子で、シェルを殴り続ける。 ブルトン「おまけに… 魔法使いになるだとぉぉ ハハハ 笑っちまうぜェェ!! おいおい 魔法がどんなモノが知ってんのかよ!? そりゃああスゲェェ特殊能力よぉぉ! 全長10メートルもある巨人族すらブッ飛ばしちまうって話だからなぁ──っ! そんなすげェェことできんのはぁ 10万人に1人っていうしなぁ!」 シェルがブルトンに締め上げられ、窓の外に突き出される。 ブルトン「&bold(){凡人にゃあできねェェ!} おめぇにそれができんのかよぉぉ! &bold(){しかも大魔法使いだとぉ? ハハハ}」 乗客たち「そ… 外に…」「落ちる…ゾォォ!!」「ひっ ひどいっ」 ブルトン「&bold(){その… 自慢の…マホーとかでよぉぉ この危機を…なんとかしてみろよぉぉ!}」 シェル「…… &bold(){ボクは… 絶対…} &bold(){&big(){大魔法使いに なるんだああっっ!!}}」 ブルトン「けっ!!」 ♪ ♪ 乗客たち「んっ? 何かしら?」「これは?」「曲…か?」「なんとも楽しそうな…」「愉快な気持ちになる…」「踊りたくなるような…」「曲じゃのぅ…」 ブルトン「な… なんでェ… いったい?」 その音楽に合せるように、シェルの裁縫箱から小さな妖精が飛び出す。 乗客たち「&bold(){えっ?}」「何っ!?」「&bold(){妖精!?}」「妖精…だぞっ!!」「妖精が…っ」 妖精のピロロ。 2枚の翅で宙を舞いつつ、裁縫のハサミをダンスパートナーに見立て、音楽に合せて踊り出す。 乗客たち「布切りバサミと踊ってるっ!! 曲に…合わせて…」「すごい… この妖精が奏でてるのかしら…?」 シェル (違う… この曲は… &ruby(ピロロ){妖精}の能力じゃない これはバイオリンの曲… いったい誰が……?) 赤ん坊「プッ きゃっ きゃっ キャキャ…」 母親「ぼっ ぼうや…!」 赤ん坊が笑いだす。 さらにピロロは、ブルトンにも手を伸ばす。 ブルトン「お? うぉっ なんだっ……?」 シェル「!?」 バイオリンの音色とピロロのダンスに導かれ、ブルトンまでが踊りだす。 ブルトン「ぐっ… 体が ゆーこと…… きかねェッッ…! 勝手に… 踊って… ちきしょ──っ!!」 乗客たち「&bold(){ワハハハッ}」 ブルトン「&bold(){笑うんじゃねェ──っ!}」 バイオリンの演奏の主が姿を現す。 もう1人の主人公の少年、グレート。 シェル「&bold(){こっ… この人が…?}」 ブルトン「くっ &bold(){てっ てめえかっ! ちきしょ── こんな目にっっ}」 グレート「謝んな… これだけ迷惑かけてんだ…」 ブルトン「&bold(){なっ ザケんな…}」 乗客「うわっ」 ブルトン「&bold(){オレぁ腕っぷしが自慢で通った… “ハンマーボルト”のブルトン様よぉぉ── 誰が謝るかぁ──っ}」 シェル「!!」 ブルトンが殴りかかるが、グレートは臆せずにバイオリンを構える。 グレート「&bold(){ベートーヴェン作曲… 《エリーゼのために…》!!}」 再びバイオリンの音色が流れ始める。 乗客たち「おおっ」「なんだ」「この曲はぁぁ」「なんて… 美しい曲なんだッ」「優雅で甘美で切ない旋律」「まるで きれいなお花畑を恥じらうように歩く乙女のようだ──っ!」」 グレート「これは… ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1810年 秘かに愛したテレーゼ・マルファッティのために贈ったピアノ詩曲 ベートーヴェンからテレーゼへ… 純粋で清らかで可憐で儚くも美しいその姿を想い── &bold(){&big(){心を込めて&ruby(つく){作曲}った愛情溢れる少女の曲なのだぁあ──っ!}}」 バイオリンを奏でるグレートの背後に、音色とともに、ベートヴェンとテレーゼの美しい情景が浮かび上がる。 シェル「(すごい… ベートーヴェンの純愛が見えるみたいだ… 穢れた心が洗われていく…… まるで… まるで…) ──! &bold(){ハッ……}?」 見ると、その音色を浴びたブルトンもまた、恥らう乙女のような顔つきに変貌している。 しかし体格はゴツイ大男のまま、顔だけが乙女で非常に不気味。 ブルトン「ああ… ごめんなさい…… 私がいけなかったの… ああっ 私… 今まで何…やってたんだろ… ごめんなさい みんな… ごめんなさい… でも… 私の心は今…… 雪が解けた春のように… 温かいの こんな優しい気持ち… ブルトン初めて…」 乗客たち「ひいいっ 腕っぷしが自慢の“ハンマーボルト”のブルトンがああ──っ 恥じらう乙女にィィ──っ!!」 ブルトン「あら かわいい赤ちゃん フフフ」 赤ん坊「&bold(){オギャア──っ!}」 母親「ひぃぃ やめてくださいィっ!」 乗客たち「ギャ──っ 逃げろぉぉ」「気持ち悪ィィ──!」 シェル「&bold(){地獄絵図だな…} (でも すごいっ… あんな凶暴な人を ここまで変えるなんてッ &bold(){これは 魔法…?})」 グレート「おまえも… スフォルツェンド魔法学校に入るのか?」 シェル「えっ?」 #center(){&big(){(続く)}}