23・58・20
とある男がPCで、『INIFINITY GAME』というゲームの画面を見ていた。
男「これ作ってもう15年か・・・長い趣味になったな・・・」
23・59・50
男(0時になったらサーバーの契約も切れて、ゲーム会場も丸ごと消し飛ぶだよな・・・)
「まさか、最後の瞬間をお前と過ごすことはな・・・」
「じゃあな、魔王九内伯斗。それとおやすみ・・・・」
00・00・00
その時刻になった瞬間、男は森の中で目覚めた。
男(・・・なんだこれ)
「・・・つかここどこだ?夢・・・だよな?」
(しっかし、やけにリアルだな・・・)
身を起こした男は、自分の靴を見た。
男「ん?こんな靴・・・持ってたか?」
(・・・なんか、嫌な予感が)
男は近くにあった泉を覗き込んだ。
男「・・・なっ」
「なんで、魔王 九内伯斗が・・・」
泉に映る男の姿は、九内伯斗のものだった。
男「ふっ、ふざけんなよ・・・!なんでおれがこいつに!」
(まっ待て・・・落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。この状況から察するに、最近のアニメとか漫画とかでよく見た異世界転移ってやつじゃないのか・・・?)
(せめてHDDの整理してからにしてくれよ・・・!そしてなぜこの見た目・・・ってかせめてイケメンにしてくれよ)
(とにかく情報だ。この世界は、この森は何だ?せめてヒントでもないのか・・・?)
(・・・クソっ、こうなったらアレを叫ぶか・・・!かつてのネトゲ仲間から聞いた、あの魔法の言葉・・・!)
「すっ、ステータス!!」
何も出なかった。
男「出ないのかよ!!」
(・・・待てよ?魔王だったらもしかして・・・)
「ADMMINISTARTOR」(管理者権限)
その言葉により、ウィンドウが出現した。
男(ビンゴ!)
「よ~しよし!いい子でちゅね~パスワード入力っと・・・あれ?」
ウィンドウには「規定条件を満たしていません」のメッセージが出ていた。
男「規定条件を満たしていない・・・?」
(何が規定条件だ・・何がしたいんだこいつは・・・)
男が煙草を吸おうとした所に、左目が髪で隠れた子供が駆け込んできた。
男(子供・・・!?)
「あ—そのなんだ・・・君は言葉が通じるか?」
子供「逃げてくださいッ!」
空からは、翼を生やした怪物が飛んできた。
男(えッ!?ええええええぇぇぇぇえぇぇぇぇ!?つか、マジなにコレ!?)
(いやいや、落ち着け。流石に夢オチだろこんなの・・・)
男が煙草を吸って、現実逃避、もとい一息ついた。
男「なんというべきか・・・後ろの可愛くない怪物は君のペットかな?なら大人しくするよう躾けて欲しいんだが」
子供「早く逃げて下さい!!これは悪魔です!」
男(悪魔!悪魔ときたか・・・)
悪魔「矮小な人間よ———」
「血肉を捧げよ」
男「怖ッ!」
(ってやっぱ夢じゃないのか!?)
(本気で)
(ヤバい)
悪魔が手を振り下ろし、男は飛び退いた。
男「いっ・・・つ!」
(—こいつ・・・!)
男「—お前・・」
「なんのつもりだ?」
(—ちょッ)
自動反撃発動
男(体が、勝手に———)
男が自分の意志とは裏腹に、腰に下げてあった短剣を抜き、悪魔に投げつけた。
短剣は悪魔に刺さり、悪魔は大爆発した。
子供は腰を抜かし、男も茫然としていた。
男が子供の方を向くと、子供は慄いた。
子供・男「「・・・・・・・・」」
男「ま、まぁその・・・なんだ。正当防衛というやつだな、私は悪くない・・・」
子供「ひいいい、まっ魔王様!食べないでください!」
男「は?」
子供「ぼっ、僕は美味しくありませんからっ!」
男「ふざけんなよ!人をなんだと思ってやがる!」
子供「ひゃああああ!」
男「・・・オホンっ、わっ、私は九内という。怪しい者ではないぞ?とりあえず君の名前を聞かせてもらえんかね?」
取り合えず、九内の名を名乗った男に、子供も名乗った。
アク「ぼ、僕は・・・アクといいます・・・」
九内「ブホッ」
九内が噴き出した。
アク「どうかしましたか?」
九内「いや・・・と、とても良い名だな・・・」
(魔王とアクって・・・)
「ところでアク、日本という国は知っているかね?」
アク「す、すみません・・・聞いた事がないです」
九内「だろうな・・・」
(はぁ・・・どうしたもんだか)
(青春真っ盛りの高校生ならまだしも、こんなオッサン呼んで何がしたいのか・・・)
アク「?」
九内(—待てよ・・・?呼ばれたのは俺じゃなくてこの体の方じゃないのか・・・・?ってことは!!俺は巻き込まれただけじゃないか!!)
アク「?、?」
九内(さっさと帰る手段を見つけないと!!でもどうすれば・・・)
アク「ま、魔王様?」
九内「だから私は魔王では・・・あぁ、もういい・・・それよりさっきの雑魚はこの辺りに
まだ出たりするのか?」
アク「と、とんでもない!あんなのは他にいたら国が滅びますよ!」
九内(えっ・・・アレってそんなにヤバイ奴なの?マジで・・・)
(・・・元の世界に戻る手がかりがあるかもしれないな・・・)
「アク、あいつの巣穴や寝床を知らないか?」
アク「悪魔は確か・・・森の奥にある願いの祠に封印されたと聞いてます!!」
九内「願いね・・・すまんがそこに案内してもらえるか?」
アク「あっ、す、すみません。案内したいのはやまやまなのですが、僕、足が・・・・」
アクの足首には包帯代わりの布が巻かれていた。
九内「・・・・仕方ない・・・」
「おぶってやるから背中に乗れ」
アク「そっ、そんな!?とっ、とんでもない!まっまっ、魔王様の背中に僕の身を乗せるなんて」
九内「すまんが時間が惜しくてな。二度は言わん、早くしろ」
アク「・・・・ッ、ぼ、僕は村の厄介者なんです。だからいつも村のゴミや糞尿を集めて捨てる仕事をしたりして、自分なりに皆の役に立とうと頑張っていたんです」
「でもいつも、汚い臭いって言われて――それでとうとう」
「悪魔への生贄に出されちゃいました・・・あははは・・・村の人がいうんです。僕に触ると穢れるって。だから・・・」
九内がアクを引き寄せ、背負った。
アク「!!ちょ、ちょっと!待ってください、僕に触れると・・・」
九内「そんなことで人間が穢れたりするもんか」
「いいか?人間の体なんざ洗えばいつでも新品になるんだよ。それよりその祠の場所って・・・」
アク「・・・・ぐすっ」
九内(ちょなんかマジ泣きしてるしっ!というか傍からみたら完全に誘拐犯だよな!!?)
アク「ありがとうございます・・・・魔王様・・・」
九内「・・・・・・、・・・・お前ちょっとくっつきすぎじゃないか?」
アク「そっ、そんなことないです!」
九内とアクは祠に着いた。
九内「願いの祠とか言ってたな?それはあれか?賽銭でも投げるような場所なのか?」
アク「詳しいことは知りませんが、祠の力を借りて悪魔王を封印したとか、あと願い事を叶えてくれるとかって・・・」
九内(――おいおい、この匂いって・・・)
「アク、ここで待ってろ」
アク「はっはい!」
九内が祠の中を進んでいくと、やがて魔術師と思われる複数の男達の死体を見つけた。
九内(黒魔術の儀式かっつーの)
?「―なるほど確かに魔王である」
どこからか声が聞こえてきて、九内が飛び退いた。
声を発したのは、奥にあった魔物のミイラだった。
魔物「幾多の願いを叶えてきたが、恐らくはこれが最後になるであろう・・・」
九内「・・・ちょっ、ちょっと待て。お前・・・何か知っているのか?もしかしなくても、俺を呼んだのは・・・お前なのか?」
魔物「―我ではなくそこの者達と言うべきか。魔王を降臨させよ、とな・・・」
九内(こいつらが・・・?)
「さっきの化け物もこいつらが呼んだのか?」
魔物「あれはとうに自力で復活した。奴のおかげで我の力は尽きかけている・・・」
九内「ならその前に俺を元の世界へ戻してくれ!」
魔物「それは出来ない」
九内「っ、なんで出来ないんだよ!ここの連中みたいに死体を捧げろとか言い出すんじゃないだろうな!」
魔物「そこな死体は悪魔王グレオールがやったものよ。それに、願いに反する願いは叶えられない・・・とはいえ、お主が最後の来訪者であろう」
「これを与える」
九内の右手の中指に、髑髏の上半分を模した形の指輪が付けられた。
九内「!!」
「なっ、お前ふざけんなよ!こんな指輪つけて歩くとか罰ゲームだろ!」
魔物「お主の願いが叶うことを祈る」
九内「この邪神野郎ッ!」
魔物「――我とて元は白き身であった・・・長きにわたる人間たちの邪悪な願いが、この身を変えた・・・」
魔物のミイラが崩れ落ちていった。
九内「・・・はぁ、こんな指輪だけもらっても・・・どーしろってんだよ・・・」
九内が祠から出できた。
アク「!!どうでしたか?何かお願いしたんですか?」
九内「・・・・・・・」
アク「やっぱり世界征服でしょうか?ハッ、それとも酒池肉林とか・・・・?」
九内がアクの首を固めた。
アク「?」
「痛い痛い!やめてください魔王様!」
アク「うう・・・痛い・・・ひどい・・・」
九内(フウ・・・どうしたもんだか・・・とりあえず情報が集まりやすいところに移動するか・・・)
「アク、ここから都会までどのくらいかかりそうだ」
アク「神都までですか?・・・すみません、ずっと離れた場所にあるとだけしか知らなくて・・・」
九内「そうか・・・」
(なるほど、神都か・・・)
アク「・・・・・」
「・・・・まっ、魔王様!!僕も・・・一緒についていっちゃダメですか・・・・?」
九内(この世界の住人が隣にいれば心強いか・・・)
「ふむ、まぁいいだろう」
アク「!!、ありがとうございます!」
九内「そうと決まれば・・・ほら、行くぞアク」
九内におぶる様に促さされたアクは、今度は笑った。
アク「・・・魔王様、どこまでいくんですか?」
九内「そうだな・・・とりあえず、「神都」とやらに行くぞ!」
(続く)
最終更新:2019年09月06日 23:37