蒼き流星SPTレイズナーの第1話

火星。
1機のシャトルが着陸態勢に入る。

「こちらUSA宇宙軍火星基地所属、コスモファイヤー129。シャトル104応答願います」
「こちらシャトル104。どうぞ」
「着陸予定位置、及び搭乗者の国籍・人数…」

1996年10月3日。火星の国連基地に向かっていた私たちを最初に出迎えたのは、アメリカ軍のスクランブルでした。そして…

「こちらUSSR。シャトル104、暗唱コードANで応答願います」
「こちらUSS104」

2大大国の軍事競争は、月から、更には火星にまで広がり、両国の軍事基地が、宇宙にまで緊張を作りだしているのです。
地球での現実が、そのまま火星にまで及んでいるのを目の当たりにし、これから降り立つ私は、何だかとっても不安な気持ちです…
私の名は、アンナ・ステファニー。14歳。




あかい(ほし)にて



シャトル104が国連火星観測基地に着陸。

オペレーターたち「OK、スイッチオフ!」
 「スイッチオフ!」
 「ふぅ…時間通りだ」

シャトルから乗員が降り、輸送車に乗り移る。

「着いたぜ~!火星だ火星だ~!!」
「しかし何もねぇ所だな」
「見て火山よ!」
「え?どこどこ?」
「ほら!」
「あれはコノハリ火山。14,600m」
「わーったわーった。お前は物知りだよ」
「ほんとに空が赤いのね」
「そりゃそうよ火星だもん」

輸送車が移動用通路を伸ばして基地の入口に繋ぎ、マニピュレーター・スーツがロックボルトを締める。

「装填完了。エアーを入れろ」
「エアー注入。気圧調整に入ります」

入口のハッチが開き、乗員は到着と同時に拍手で迎えられる。

「やったなジュノ!」
「とうとう来たぜ」
「盛大なお出迎えだな」
「感激だ」
「思ったより快適そうね」

引率者のエリザベス・クレブリーを先頭に、デビッド・ラザフォードとその親友ジュノ、アーサー・カミングスJr.、ロアン・デミトリッヒ、シモーヌ・ルフランらが基地に入る。
そして最後にアンナが出てくる。
立ち止まって周囲を見ていたら係員に誘導され、急いで移動。

エリザベス「整列!コズミック・カルチャー・クラブの第1陣、16名全員到着しました。」
「よく来てくれた。基地副隊長のリブレだ」

握手を交わす。

エリザベス「エリザベスです。国連宇宙局より、第1陣の引率者として参りました」
リブレ「ご苦労」
エリザベス「参加者のリストです」
デビッド「あのユニフォームを着るのが俺の夢だ」
ジュノ「体験学校に入れたからって、なれるもんじゃないぜ」
デビッド「分かってるよ!」
リブレ「アーサー君っていうのは?」
エリザベス「アーサー!」
アーサー「はい!」
リブレ「ここは軍隊ではない。敬礼はいい」
アーサー「は、はい…」
リブレ「君が最年長のようだね」
アーサー「17です。性格には地球時間にして、17歳と5か月…と、3日です」
リブレ「大したもんだ」
アーサー「恐縮です」
リブレ「アンナ…アンナ・ステファニーは?」
アンナ「…私です」
リブレ「一番年下でもみんなに負けないように。ここでの心構えなどは隊長から後で話があるだろう。ビル。君からあげてくれ」

ビルの手にはバラの花が。

ビル「私たちの心ばかりの贈り物だ。君たちの代表に受け取ってもらいたい」

羨ましそうなアーサーに目を遣るロアン。

アーサー「?」

ビル「分からないことがあったら、何でも聞きに来たまえ」

アンナにバラを差し出しす。

アンナ「あ、ありがとうございます」

盛大な拍手。

アンナ「あの…お花、ここで作ってるんですか?」
ビル「生きていくのに必要なのは、食べるものだけではないだろ?このバラはここで初めて咲かせたものだ」
リブレ「我々もそして人類の宇宙開発も、今はその小さなバラの花と同じだ。やがて大輪の花を咲かせ、この荒れた土地は見渡す限りの花園になるだろう」
ビル「君たちへのプレゼントには一番ふさわしいと思ってね」

そして一行は基地内を見て回り、居住区に移動。

アンナ「2年前、国連の宇宙局がコズミック・カルチャー・クラブ…つまり、火星体験学校を作ると聞いて、私は1も2もなく応募し、そして幸運にも採用されました。それから半年間、火星で生活するための基礎訓練を受けました。そして今私は、やったぁ!という気分です」

部屋に着いたアンナとシモーヌ。

シモーヌ「ねえ、ちょっと見せて」

アンナが差し出したバラを受け取り、香りをかぐ。

シモーヌ「ん~、この世で一番ゴージャスな香りがするわ」
アンナ「え?」
シモーヌ「きっと1千万ドルくらいはかかってるはずよ。ここは火星だもん」
アンナ「よかったら1本どうぞ」
シモーヌ「まあ、嬉しい。ありがと」

アンナの頬にキスして頭にバラを飾り、シモーヌは部屋を出る。
バラを外して見つめるアンナ。

一方、アーサーとロアンの個室。

アーサー「ロアン、君と同室するのは初めてだけど、きれい好きかい?」
ロアン「普通だと思いますよ」
アーサー「僕はテーブルクロスがしわになっていても気になるんだ。最初に言っておいた方がいいと思ってね」
ロアン「…他には?」
アーサー「後の事には寛大だ」
ロアン「助かります」

デビッドとジュノの個室。

デビッド「ぃやっほぅ!ジュノ、俺たちよっぽど縁があるんだな。また同じ部屋だぜ」
ジュノ「訓練所で飽き飽きしたんじゃないのか?」
デビッド「んなこたぁない。最初見た時からお前はいい奴だと思った。俺の直感は当たるんだ」
ジュノ「じゃあ占ってくれ。俺とお前、将来どっちが先にここのスタッフに入れるか」
デビッド「俺だな。お前よりは運が良さそうだ」
ジュノ「こいつ!」

折り畳み式ベッドを閉じる。

デビッド「!? よせ!冗談だよ!いてっ!」

落ちたデビッドに組み付くジュノ。

教室。

「私がここの隊長のジョブ・グレンだ。本当によく来てくれた。改めて言うまでもなく、これからの宇宙時代を担うのは、諸君ら若い世代である。ここへ来るまでの所で見た事と思うが、軍事目的が優先されている現実は、甚だ残念であると言わざるを得ない。あってはならない事である。我々は、彼らと違う価値観がある事を示し続けなければならない。我々も努力するが、君たちにも期待したい。来たるべき時代に対応できるものの見方、考え方を、半年というわずかな期間だが実際に宇宙に住む事で一つでも二つでも何かを学んでいってもらいたい。我々がコズミック・カルチャー・クラブを設立した動機は、ただその一点にある」

警報が鳴り、スタッフがインターホンを取る。

スタッフ「はい…え?…分かった。伝える」
グレン「この火星に降り立つまでに、人類は数千年、いや数万年という歳月を必要としてきた訳だが…」

スタッフがグレンに駆け寄る。

グレン「…何?」

~管制室~

オペレーターたち「まだ確認できんのか?」
 「確認できません」
 「第4中継衛星がキャッチしました」
 「よし。映像をこっちへ回せ」

管制室から来たスタッフが手紙をグレンに渡す。

デビッド「?」
グレン「そのままでいてくれ。すぐ戻る」

突然の事態に驚く生徒たち。

エリザベス「静かに。静かにしなさい。指示があるまで席を離れないように」

グレンはリブレらスタッフと共に管制室に駆けつけた。

オペレーター「隊長!見て下さい!」
グレン「ん?何だこれは?」
オペレーター「第2中継衛星がキャッチしている映像です」
グレン「近いな…良く分からん。拡大しろ」
オペレーター「はっ!」

映像が拡大される。

グレン「…ん?」
オペレーター「破壊されました…」
グレン「…」

~教室~

デビッド「何があったんだよ!?」
エリザベス「席へ。席へ戻りなさい」
ジュノ「ソ連とアメリカが、ぶつかったんじゃないのか!?」
アーサー「ま、まさか…」
ロアン「十分考えられますね」

シモーヌに目を遣るアンナ。

シモーヌ「大丈夫。大丈夫よ」
エリザベス「静かに!根拠のない憶測はやめなさい!」

~管制室~
オペレーターたち「ダメです。呼びかけに応じてきません!」
 「そっちは!?」
 「ダメです。ソ連軍基地にも米軍基地にも繋がりません」
グレン「コールを続けろ」
オペレーター「はっ」
グレン「復撃してもコンタクトを取れ!」
オペレーターたち「はい!」
 「応答して下さい!こちら国連火星観測基地、応答して下さい!」
 「飛行物体から熱反応!レーザーの発射かも知れません!!」
リブレ「隊長!」
グレン「…」

警報が鳴り響く。

アンナ「…!」
デビッド「何だ!?」
ジュノ「!?」
スタッフ「子供たちを、急いで避難させて下さい!」
エリザベス「何があったんです?」
スタッフ「急いで!」

真っ先に抜け出すデビッドとジュノ。

エリザベス「デビッド!ジュノ!戻りなさい!!」

ロアンも駆け出す。

エリザベス「あ…あなたたち!!」
アーサー「ぼ、僕呼んできます!」

アーサーまで行ってしまった。

エリザベス「戻りなさい!!」

廊下。デビッドたちをアーサーが追う。

アーサー「戻りなさい君たち!」

その時、基地が攻撃を受け吹っ飛ぶ4人。
窓ガラスに叩きつけられるデビッド。
激しい閃光に目を覆う4人。

アーサー「!?」

地表が攻撃を受け、爆発。
その上空を、レーザー攻撃を受けながら飛んでいたのは、青い人型機動兵器だった。
SPT-LZ-00Xレイズナー…異星人・グラドスが開発した超強化機能服”スーパー・パワード・トレーサー”、通称SPTの最新鋭機。

「ハァ…ハァ…」

コクピット内で呼吸を荒げるパイロット。
レーザード・ガンを構え、発射。
攻撃をかわすグラドス軍汎用SPT、SPT-BV-15Cブレイバーの編隊。
その戦いを窓から見ているデビッドたちの下に、やがてシモーヌとアンナも駆けつける。

シモーヌ「何…何なのあれ…」

アンナ「それを見た時、言いようのない予感に私の胸は張り裂けそうでした…」

一同は戦いを見続けていた。

一同「…」
エリザベス「何をしてるの!?」

振り返るデビッドたち。

エリザベス「スペース・スーツに着替えなさい。急いで!」
デビッド「何ですかあれは!」
エリザベス「いいから言うことを聞きなさい。さあ早く!」

避難する一同。

エリザベス「…!」

彼女もその後を追う。

~管制室~

オペレーター「こちら国連火星観測基地、応答して下さい!」
グレン「新しいタイプのマニピュレーター・スーツか!?」
リブレ「こんな大きいのは見たこともない。第一武装しています。どちらのかは分かりませんが…」
グレン「まだ繋がらんのか!?」
オペレーター「つ、繋がりませんまだ…どっちにも」
グレン「ここは純粋な観測基地だぞ!問題にしてやる…!」

攻撃のショックを受ける。

リブレ「新兵器の実戦訓練だったとしたら、一体どっちの国の…」
グレン「詮索は後だ!全員に避難の準備をさせろ。状況によっては脱出だ」
リブレ「わ、分かりました」

シモーヌとアンナが個室でスペース・スーツに着替えていた。

シモーヌ「アンナ、急いで!」

着替え終わったアンナ。
しかし何かを忘れていた事に気づき、戻ってテーブルの上のバラを取り、出ていく。

デビッド「あれは絶対宇宙戦闘用だぜ!」
ジュノ「どえらい秘密兵器だぞ!来た早々えらい体験だ!」

エレベーターのドアが閉まる。
しかし乗り遅れたアーサーが…

アーサー「ま、待ってくれ~!!」

再度ドアが開き、アーサーが駆け込む。
未だ続いているレイズナーとブレイバーの戦い。
ブレイバーの砲火で温室が吹っ飛ぶ。

スタッフたち「脱出準備だ!急げ!急げ!!」
 「第3ブロックのシャッターを開けろ!」」
エリザベス「あなたたち、ヘルメットを着けなさい」
アーサー「は、はい!」
エリザベス「みんな、落ち着いてよく聞いて。私の指示通りに動くのよ。勝手な行動を取ってはダメよ!いいわね!?」

不安そうなアンナ。

ブレイバーの隊長機が着地し、他のパイロットにサインを送る。
肉迫し、ターゲットを定めるレイズナー。

「ハァ…ハァ……!?」

上からの攻撃のアラームメッセージに気づき身構えるが、狙ったのは機体ではなく施設だった。
更なる攻撃により、アンテナやレーダーが次々破壊されていく。

オペレーター「メインレーダーが破壊されました!!」
グレン「!?」
オペレーター「2番・3番レーダーも使用不能です!」
グレン「何て事だ…!」
オペレーター「6番レーダー、破壊されました!」

その時、管制室の正面にブレイバーが接近。

グレン「基地の責任者ジョブ・グレンだ!君たちの国籍・所属は!? 応答したまえ!! 我々のテリトリーで、軍事行動を起こせばどうなるか分かっているはずだ!! これ以上の理不尽は断じて許さん!! すぐに退去したまえ!!」

しかしその言葉は全く届かず、レーザード・ガンを正面に構える。

グレン「!?」

ガンが発射され、直撃を受ける管制室。
窓ガラスが飛び散り、その場にいた者たちは外へ放り出されてしまう。

一同「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

~避難所~

「きゃぁぁぁぁっ!!」
「何だ!? どうしたんだ!? どっかやられたんじゃないのか!?」
エリザベス「静かに!静かに!!」

インターホンで管制室に連絡するエリザベス。

エリザベス「もしもし、管制室!管制室!応答して下さい!!」

その時、外の攻撃が避難所にまで及んだ。
アンナの持っていたバラが散ってしまう。


天井が破壊され、上空が露わになっていた。
何人かが崩れた天井の下敷きになってしまっていた。

シモーヌ「きゃぁぁぁぁっ!! 嫌…嫌っ…嫌ぁぁぁっ!! 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
アンナ「…」
ロアン「…!!」

立ち上がって周囲を見渡すエリザベス。

エリザベス「ひ、酷い…」
シモーヌ「きゃぁぁぁぁっ!!」
エリザベス「地下室へ!みんな!地下室へ避難しなさい!!」

アーサーとロアンが立ち上がり避難しようとする。

エリザベス「アーサー!シモーヌたちを連れて行って!」
アーサー「さあ立って!」
シモーヌ「ぁあっ!! 嫌…嫌っ…嫌ぁぁぁっ!!」

アーサーはシモーヌの肩に手をかけたが、錯乱が収まらない彼女に払いのけられてしまう。

アーサー「シモーヌ!落ち着くんだ!」

肩を掴んで立たせて連れていく。

ロアン「アンナ!早く!」
アーサー「さあしっかりして!」
デビッド「ジュノ!! ジュノォォォォ!!!」

ジュノは攻撃による事故に巻き込まれてしまっていた。

エリザベス「デビッド!地下へ避難しなさい」
デビッド「ジュノ…」
エリザベス「デビッドしっかりして!! 避難するのよ、分かった!?」

振り返るロアン。
遅れて非難するデビッドとエリザベス。

デビッド「どぅわぁぁぁぁ!!」

攻撃の爆風で吹き飛ぶ二人。
そしてシャッターが閉まる。

デビッド「ジュノ!!」

爆風に煽られる。

エリザベス「早く!地下室へ!」

立ち止まるロアン。
その上空を駆け抜ける戦闘機。

ロアン「…ソ連軍だ!」

ブレイバーの攻撃で1機が撃墜。
レイズナーとブレイバーの撃ち合いも、お互い空しく宙を切った。
ソ連機のミサイルをかわし、ブレイバーがもう1機撃墜した隙を突いて、レイズナーの射撃が同機の右腕に当たる。
更なる攻撃を加えるレイズナー。しかしブレイバーの隊長機が撤退命令を出す。
後退するブレイバーの攻撃で、最後のソ連機が撃墜されてしまう。

アーサー「やられた…ソ連機が…するとあれはアメリカ軍の…」
ロアン「だったら、狙われていた奴はどこの奴です?」
アーサー「?」

地下室に入るアーサーとロアン。

アーサー「もう大丈夫だ!奴ら行っちまったよ」
シモーヌ「…他の人は?」

首を横に振るエリザベス。

エリザベス「生徒はここにいるだけ…」
アーサー「…」

沈黙の後…

デビッド「誰か説明してくれよ…一体何がどうなってるんだ…誰か説明してくれよぉぉ!!!」
エリザベス「…分からない…どうしてこんな事になったのか…」

壁に拳を叩きつけるデビッド。

デビッド「たった50cmだ…50cmの差で、ジュノは死んじまった…そうだよ、俺は運が良いよ…だからどうだってんだ!!! …喜んでた…俺よりあいつの方が…あいつの方が…!」

ジュノを想いながら涙する。

アンナ「?」

足音に気づく。

ロアン「も…戻ってきた!」

外で生き残ったスタッフが、避難所に接近するレイズナーに抵抗を試みていた。

ロアン「!」
アーサー「!…ああ…!」

レイズナーが立ち止まる。

スタッフ「中だ!中へ入れ!」

攻撃を止めさせ、後退する。
地下室の扉が開き、ロアンとアーサー、そしてスタッフが入ってくる。

スタッフ「…君たちだけか?」
エリザベス「他のスタッフの方は…?」
スタッフ「…奥へ…奥に固まっていなさい」

スタッフ一人が扉の前に残り、他の人々は奥へ。
シャッターを開けると同時にスタッフたちが銃を構える。
何者かの足音が響く。

スタッフ「!?」

銃を構えながら後退。
やがて扉のロックが解除され、開いたと同時に出てきたのは、白いスペース・スーツを着た人間だった。

スタッフ「止まれ!止まれ!!」

近づいてくるその者に対し足元めがけて銃を発砲する。

スタッフ「動くな!!」
「撃つな!」

彼が口を聞く。男のようだ。

「撃つな…!」

男がヘルメットを外す。その下の素顔は地球人とほとんど変わらない外見の若者だった。

スタッフ「どこの所属だ…名前は!?」
「グラドスから来た…僕の名はエイジ。地球は狙われている!」
スタッフ「え?」
アンナ「この時は、目の前にいる若者の言っている事が誰にも分かりませんでした。でも、それは本当だったのです…」


<続く>

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最終更新:2020年08月06日 13:33