DOGDAYSの第1話

フロニャルド南中央 コロナ平原。
雨が降る中、敷かれた野営地に鳥と馬を合わせた様な生き物達と頭に獣の耳が生えた兵士達がいた。


レオンミシェリ「ゴドヴィン、進軍は順調か?」
ゴトウィン「はっ、レオンミシェリ閣下!あいにくの雨ですが、明日の昼には問題なく、全隊が目標の砦に到着しましょう。閣下の仰せ通り、明日の砦攻めに備え、戦士達には食事と休息を十分に取らせております」
レオンミシェリ「ふん」

レオンミシェリと呼ばれた銀髪の女性が掲げた盃に、側女のビオレが飲み物を注いだ。

レオンミシェリ「明日もまた、ビスコッティの犬姫に敗戦の屈辱をくれてやるとしよう」



浮島の上にあるビスコッティ共和国・フィリアンノ城。
その中で、会議が行われていた。

ロラン「やはりガレット獅子団の兵士達は、リオン砦に攻めに来るようですね」
エクレール「ガレットの連中、本気でこの城まで侵攻してくる気でしょうか?」

老臣たち「ガレット騎士団のレオンミシェリ閣下は勇猛な方ではあったが、かような無茶をさせるお方じゃったかのう・・・」
「理由はどうあれ、この数戦はひたすら負け戦じゃ」
「せめてダルキアン卿や天狐様がいてくれたらのう・・・」

ロラン「騎士ブリオッシュやユキカゼにもそれぞれ使命がありますれば」

老臣「ともあれ、この戦をしくじれば最悪の場合は、このフィリアンノ城まで!」

ロラン「それは!」
エクレール「させません!姫様のためにも!ビスコッティの民のためにもこの戦が我々が!」

リコッタ「エクレ。今はその姫様の御前でありますぞ」
エクレール「失礼しました・・・」

その奥に、ビスコッテイの領主であるミルヒオーレが座っていた。

ミルヒオーレ「ありがとう、みんな。我がビスコテッテイの苦しい戦況、よく分かりました。今回は本当に負ける訳にはいかない戦です。ですから、最後の切り札を使おうと思います」
「ビスコテッイ共和国代表、ミルヒオーレ・F・ビスコッティの名において、我が国に勇者を召喚します!」



日本・紀ノ川市。

「和泉」の表札が下げられた民家の前に、
少女、レベッカが来た。

レベッカ「シンク―――、シンク―――起きてるー―――?」
シンク「うん、起きてる!」

民家の中では、金髪の少年、シンクが着替えていた。

レベッカ「だったら早く下りてきて―――!遅れそうなら置いてくわよ―――」

シンク「ちょ待って!すぐ行くから!」

シンクが鞄を抱えて、ベランダに出た。

シンク「おはよう、ベッキー」
レベッカ「おはよう、シンク」

シンク「はっ!」
シンクが鞄を放り投げ、ベランダからベッキーの前に飛び降り、落ちてきた鞄を受け止めた。

シンク「ふう」
レベッカ「はい、お見事」
シンク「はは」


レベッカ「そういえば、明日から春休みだけど、シンクはどこか行くの?」
シンク「うーん、父さんと母さん、相変わらず出張から帰ってこないしなー、僕は里帰りでもしようかなって」
シンクがガードレールの上に乗って歩き出した。

レベッカ「里帰り?イギリスの方?」
シンク「そう、コーンウールの方。向こうは練習できる場所、」
レベッカ「シンクはほんーっと、アスレチックが好きよね」

シンク「ふっ!」
シンクはガードレールの端に付き、次のガードレールに飛び乗った。

シンク「そりゃまー、楽しいからね。今年も7月と9月に大会があるから、がっつり鍛えておかなくちゃだし」
レベッカ「アイアンアスレチック、よね」
シンク「そう。7月が予選で、9月が本戦」
レベッカ「去年は惜しかったもんねー、後一歩で優勝できなくて」
シンク「だよね。ベッキーにも応援してもらったのになー」
レベッカ「ま、2位でも十分凄いと思うけどね」
シンク「でもやっぱ!今年こそは優勝したい!だから春休みはレッツ猛練習!」
レベッカ「はいはい、頑張って」


シンクとレベッカは、通っている紀ノ川インターナショナルスクールに着いた。

シンク「あ、そうだ。忘れてた」
レベッカ「何?」
シンク「春休みの最後の3日間、ベッキーとお父さんとお母さん、ヒマ?」
レベッカ「どうかな?何で?」
シンク「うちの父さん母さん、戻ってくるから一緒に和歌山の別荘に行かないかって?
レベッカ「あ、本当?」
シンク「うん、七海も来るんだって」
レベッカ「いいわねー、素敵」
シンク「丁度お花見の季節だし、お父さんとお母さん忙しそうならベッキーだけでもって」
レベッカ「そ、そう・・・でもやーよ。いつかみたいに私をほっぽって、アスレッチックとか棒術ごっこばっかりとか・・・」
シンク「平気!前日までボロボロになるまで特訓しとくから!」
レベッカ「あんまり無茶苦茶しないようにね・・・」

シンク「それじゃーベッキー、予定確認しといてね」
レベッカ「うん、メールする」

校舎の中に入っていくシンクを、物陰から短剣をくわえた犬が見ていた。


校長「今年1年のこのスクールライフはみな、それぞれに生まれた国が違っても、この日本という国で育つ日々と・・・・」

終業式が行われる中、シンクは廊下に出た。

教師「おう、イズミどうした?早退か?」
シンク「すみません!飛行機の時間がありまして!」
教師「そうか、気をつけてな」
シンク「は―――い!」

シンクが教室に戻り、鞄を取り、窓を開けた。

シンク「日本は、いい国だと思う。特にこの紀ノ川市は平和だし、便利だし。
ただ、体を動かして遊べる場所が少ないのは、少しだけ窮屈で、退屈・・・」

シンクが窓から出た。

シンク「どこか、近場にあればいいんだけどなー、思いっきり暴れられる場所」
「はっ!」


シンクが鞄を放り投げて飛び降りたが、その下にあの短剣をくわえた犬が出てきた。

シンク「え?」

犬が短剣を上に掲げてから、地面に突き立てると、真上にピンク色の光が溢れ、魔法陣が浮かび出た。

シンク「え、え!?」

魔法陣の中央は、渦巻く穴となっていた。

シンク「えええ――――っ!!」

シンクが穴に落ちた。

シンク「うわあああああっ・・・・」



フードを被ったミルヒオーレが浮島に来ていた。
ミルヒオーレ「あ!」

空からシンクが桃色の光に包まれて、落ちていた。

シンク「おおおおおっ!え、えええっっ!」

ミルヒオーレ「あ!」

祭壇に半透明の小さな生き物がいたが、
落ちてくるシンクを見つけ、逃げ出した。
その直後に、ミルヒオーレが祭壇に着いた。

シンクが祭壇に落ち、光が花の様に開いてシンクが出てきた。
シンク「ててて・・・」

ミルヒオーレ「あ・・・・」

シンク(女の子・・・ていうか耳?尻尾!?)

ミルヒオーレ「初めまして。召還に応えて下さった勇者様でいらっしゃいますね」
シンク「勇者・・・?」
ミルヒオーレ「私、勇者様を召喚させていただきました、ここビスコッティ共和国、フィリアンノ領の領主を務めさせていただいてます、ミルヒオーレ・F・ビスコッティと申します」
シンク「あ、はい・・・シンク・イズミと言います」
ミルヒオーレ「勇者シンク様ですよね、存じ上げております」

短剣とシンクの鞄と一緒にあの犬が降りてきて、ミルヒオーレに駆け寄った。
ミルヒオーレ「タツマキ!勇者様の迎え、大義でした!」

シンク「あの!えと!」

ミルヒオーレ「勇者様におかれましては召喚に応えていただき、ここフロニャルドに起しいただきまして、真にありがとうございます。私達の話を聞いていただき、その上でお力を貸していただけることは可能でしょうか?」
シンク「えーと・・・取りあえず話を聞かせてくれたら嬉しいです」
ミルヒオーレ「はい」

そこへ、花火が上がった。

ミルヒオーレ「いけない!もう始まっちゃってる!」
シンク「始まってる?」
ミルヒオーレ「我がビスコッティは今、隣国と戦をしています」


砦にガレットの兵士達が押し寄せ、ビスコッティの兵士達がそれを迎え撃っていた。


ゴトウィン「いやー砦攻めは好調ですな。この分なら、すぐに・・・」


ガレット兵の一人が、レバーを下ろすと砦の門が開いた。


ゴトウィン「開きましたぞ」
レオンミシェリ「よし、砦の門より侵攻する」
ゴトウィン「はっ!」

レオンミシェリとゴトウィンの後ろにガレットの軍勢が控えていた。

レオンミシェリ「行くぞ者ども!今日こそフィリアンノ城に侵攻し、犬姫と騎士共を泣かせてくれよう!」


シンクとミルヒオーレが石段を降り、冒頭の鳥と馬を合わせた様な生き物が待っている所に来た。

シンク「鳥?」
ミルヒオーレ「セルクルをご覧になるの、初めてですか?」
シンク「すみません、地元にはいなくって・・・」

ミルヒオーレがセルクルに乗った。
ミルヒオーレ「私のセルクル、ハーランです。どうぞ、お乗りください」


シンクとミルヒオーレを乗せたハーランと、タツマキが道を走る。
ミルヒオーレ「隣国ガレットと我が国ビスコッティは度々戦を行っているのですが、ここの所はずっと敗戦が続いていて、幾つもの砦と戦場を突破され、今日の戦では私達の城まで落とす勢いです」
「ガレット獅子団領国の領主、百獣王の騎士、レオンミシェリ様と渡り合える騎士も今は我が国にいなく・・・ですから、勇者様に力を貸して頂きたいんです!」
シンク「あの、僕はその・・・戦士とか勇者じゃなくてその辺の中学生なんですけど・・・何か、役に立てることあるのかな?」
ミルヒオーレ「そんな、ご謙遜を!勇者様のお力はよく存じ上げてます」


宙に光の立方体が浮かび、そこに実況の人の顔が映っていた。

フランポワーズ「さあ!本日も絶好調で、熱い戦が進行しております。実況はガレット獅子団領国より私、フランポワーズ・シャルデーが、解説にはバナード将軍と」
バナード「どうも」
フランポワーズ「レオンミシェリ姫のお側役、ビオレさんに来ていただいております」
ビオレ「こんにちは~」
フランポワーズ「さあ!いよいよガレット獅子団戦士達の進軍が始まっております!ここの小砦を僅か二〇分で突破して、獅子団戦士達が挑むのは!ビスコッティ共和国が誇る不落の防護陣、フィリアンノレイク・フィールド!」


泉の上に敷かれたアスレッチクフィールドをガレット兵が進んでいた。


ビスコッティ兵は、ボールの砲台でガレット兵を落としていた。

フランポワーズ「歴戦の獅子団戦士たちも、流石に苦戦していますね」
バナード「ビスコッティ側もここを抜けられると後がありませんからね」

落ちたガレット兵達は、ビスコッティの救護班に救助される。

フランポワーズ「ビスコッティ側の脱落者救助も相変わらず迅速ですね、ビオレさん」
ビオレ「落ちても諦めずに何度でも挑戦して欲しいですね」

フランポワーズ「総大将のレオンミシェリ閣下はまだ出陣されておりませんが、ビスコッティの名のある騎士が出てくれば、すぐさま向かってたたき落とすとのことです」
バナード「うーん、頼もしいですね」


ゴトウィン「第二陣、行けぃ!」

ガレットの第二陣が出撃した。

フィリアンノ城でリコッタと老臣たちが砦の状況を望遠鏡で見ていた。
リコッタ「おわー、こりゃちょっとヤバイでありますよ」
老臣たち「ヤバイかのう・・・」
「マルティノフ卿はどうしておる?」


フランポワーズ「進軍するガレット戦士団、バトルフィールドではビスコッティの若き騎士、エクレール・マルティノフ卿が襲い来る戦士達を迎え撃っております!」

エクレールが二本の短剣で迫るガレット兵を切り倒していく。
斬られたガレット兵は、小さな玉の様な体型の猫となっていく。

大勢のガレット兵がエクレールに向かって行く。

エクレールは身体に青色の光を纏い、その背後に紋章が浮かんだ。

エクレール「えやーーーーっ!」
エクレールは短剣を振るい、光の斬撃を放った。
その一撃は、殆どのガレット兵をなぎ倒したが、
6人のガレット兵が生き残り、エクレールの横を抜けていった。


フランポワーズ「おーっと!突破者が出たっ!やっぱり数が多いか!?」

エクレール「しまった!兄上!」


フィールドの出口で、エクレールの兄のロランとビスコッティの騎士たちが待ち構えていた。

抜けてきたガレット兵が出口に迫り、
ロランは槍を構え、エクレールと同じ様に光と紋章を浮かばせた。

ロラン「へや――――っ!」

ロランが槍を振るい、放たれた斬撃はガレット兵をなぎ倒したが、
生き残った1人が玉の猫と化したガレット兵を踏みつけ、
出口目がけて飛び上がった。

ロラン「てぇ―――いやっ!」
ロランは槍を伸ばし、頭上を越えようとしたガレット兵の顔面を打ち据えた。

ガレット兵「うわっ!」

そのままロランは槍を下ろし、地面に叩きつけられたガレット兵は玉の猫となった。

ロラン「ふう」


フランポワーズ「いやー今のは惜しかったですね」
バナード「最終バトルフィールドに辿り着いた6名にはボーナスポイントが出ますが、
惜しかった1名には更に特別ボーナスを出して上げたいですね」
フランポワーズ「だそうです!前線の戦士さん、ボーナスだそうですよ」
ビオレ「よかったですね」


救護班に搬送されていく、その惜しかった1名だった玉の猫が嬉しそうな声を上げた。

残る5人だった玉の猫も、救護班に付いていった。


シンク「これが、戦・・・?」
ミルヒオーレ「はい、戦場をご覧になる初めてですか?」
シンク「えと、この戦で人が死んだり怪我したりは・・・?」
ミルヒオーレ「とんでもない!戦は大陸全土に敷かれたルールにのっとって、正々堂々と行うものですから。怪我や事故が無いよう、務めるのが戦開催者の義務です。
もちろん国と国の交渉の1手段ではありますから、熱くなってしまうことも時にはありますが・・・だけどフロニャルドの戦は、国民が健康的に運動や競争を楽しむための行事でもあるんです」

ミルヒオーレがシンクの手を取った。

ミルヒオーレ「敗戦が続いて、我々ビスコッティの騎士達はさみしい思いをしています。
何よりお城まで攻められたら、ずっと頑張ってきたみんなはとてもしょんぼりします」
シンク「しょんぼり?」
ミルヒオーレ「しょんぼりです」

シンク(異世界の戦・・・勇者召喚・・・これってまるっきり、ベッキーの好きなファンタジーノベルの世界だよな・・・冷静に考えれば、こんなの間違いなく夢なんだけど・・・)
「えと、姫様・・・」
ミルヒオーレ「はい」
シンク「僕は・・・この国の勇者?」
ミルヒオーレ「はい、私達が見つけて、私が迷うことなくこの方と決めた、この国の勇者様です!」

シンクがミルヒオーレの手を握り返した。

シンク「うん、じゃあ姫様の召喚に応じて、みんなをしょんぼりさせないように、勇者シンク頑張ります!」
ミルヒオーレ「ありがとうございます!」
シンク「こちらこそ」
ミルヒオーレ「では、急いで城に戻りましょう。装備も武器もみんな用意してありますから!」
「タツマキ!ハーラン!」

ミルヒオーレの右手に、紋章が浮かんだ。
ミルヒオーレ「行きますよ、ハーラン!」

ハーランが光に包まれ、翼を広げた。

ミルヒオーレ「では勇者様」
シンク「はい、姫様!」

シンクとミルヒオーレを乗せたハーランが空に飛び上がった。

シンク「うお-――っ、飛んでる!」
ミルヒオーレ「飛びますよー、ハーランは飛ぶの上手なんです!」

シンク(夢でも現実でも、何はさておき!あんな面白そうな場所、遊ばずに帰るのは勿体ない!)



リコッタ「あ!姫様が勇者様を連れて帰ってくるであります!」
老臣たち「「「おおっ!」」」


フランポワーズ「今、大変なニュースが入りました!ミルヒオーレ姫がこの決戦に勇者召喚を使用しました!これは凄い!戦場に勇者が現れるのを目にするのは私がこれが初めてです!」

レオンミシェリ「む?」

フランポワーズ「さあ、ビスコッティの勇者はどんな勇者だ!」


リゼル「フィリアンノ城メイド隊、勇者様の武装と装備の準備は万端ですね?」
メイド隊「「「「「はい!」」」」」
リゼル「よし、勇者様到着後、30秒で着替えを完了させます!」
メイド隊「「「「「了解です!」」」」」


ロラン「勇者殿が!」

エクレール「ホントに!」


ミルヒオーレがリコッタ達の所に戻った。
リコッタ「お帰りなさいであります!勇者様、来てくれたんでありますね」
ミルヒオーレ「はい。私達の素敵な勇者様です」

ミルヒオーレが拡声器を取り、戦場に声を響かせた。
ミルヒオーレ「ビスコッティの皆さん、ガレット獅子団領の皆さん、お待たせしました!
敗戦続きな我らがビスコッティですが、そんな残念展開は、今日を限りにおしまいです!
ビスコッティに勝利と希望をもたらしてくれる、素敵な勇者様が来てくださいましたから」

高台に、ビスコッティの衣服に着替え、棒状の武器、神剣パラディオンを持ったシンクが佇んでいた。

ミルヒオーレ「華麗に、閃烈に、戦場にご登場いただきましょう!」

シンク「ふっ!」
シンクが冒頭の様にパラディオンを放り投げてから高台から飛び降り、
回転しながらパラディオンを受け取り、着地した。

シンク「姫様からのお呼びに預かり、勇者シンク!ただいま見参!!」


EPISODE1 勇者誕生!


(続く)

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最終更新:2021年07月05日 08:37