最新版(コミックボンボン版)悪魔くんの最終回

※『最新版悪魔くん』とは、テレビアニメ版『悪魔くん』の放送当時、『コミックボンボン』にて連載された、アナザーストーリーと呼ぶべき作品です。『最新版悪魔くん』は雑誌掲載当時の題名で、現在では『悪魔くん(コミックボンボン版)』という名義が一般に使われているため、今回はその両方を記載しました。



最後の決戦の巻



四界征服を企む大魔王・(とう)(がく)大帝は、その野望を悪魔くんと十二使徒によってことごとく阻止され、いよいよ最後の大攻勢に打って出ようとしていた。
そうとは知らない悪魔くんたちは、見えない学校・校長のファウスト博士の下で授業中。
だが、メフィスト二世だけは上の空だった。

ファウスト「‥‥であるからして」
悪魔くん「どうしたんだ? メフィスト二世 ため息なんかついて」
メフィスト二世「なっ‥‥ なんでもねえよ‥‥」
ファウスト「こらっ そこの二人 なにおしゃべりしとる!」
悪魔くん「ふは すみません」

メフィスト二世は相変わらず元気がない。
彼は行方不明の母親のことを考えていたのだった。
その時、見えない学校の非常サイレンが鳴った。

ファウスト「なにごとじゃ~~っ」
ユルグ「博士 魔眼スクリーンをみてください」

見えない学校の屋根の魔眼が人間界の様子を映し出している。
巨大な黒雲が日本中を覆いつくしていた。

ファウスト「うむっ これはいかん 出動じゃ!」

見えない学校が出撃する。


黒雲の中から閃光が走ると、卵のような物体が地上に落下し、悪魔くんの住む町に不吉虫、ゴーレム、ズー、ツタンガーメンといった魔物が次々と現れた。

悪魔くん「あっ あいつら以前にたおした魔物じゃないか」
ファウスト「東嶽大帝め 決戦をいどんできたな!」

ビルよりも巨大な魔物たちが暴れまわり、町を次々と壊していく。
大慌てで避難する人々の中には、悪魔くんの家族や友人の姿もあった。

メフィスト二世「あっ パパさんにママさん エッちゃんまで‥‥」

駆け付けた見えない学校が魔物の群れに体当たりを食らわせ、後退させる。

悪魔くん「それっ ぼくらの六芒星の力を見えない学校におくるんだーっ」
十二使徒「おーっ」

メフィスト二世を始めとする十二使徒が悪魔くんを取り囲み、六芒星の位置につく。
悪魔くんがソロモンの笛を奏で始める。
六芒星のパワーは、ソロモンの笛の音色に乗って見えない学校にたっぷり注がれた。
魔物たちの攻撃を受け続ける中、見えない学校の魔眼がカッと見開かれ、そこから放たれた光線が魔物の群れを一撃で消滅させた。
安堵する一同。

悪魔くん「見えない学校は また パワーアップしましたね」
サシペレレ「あっ あれは?」
悪魔くん「魔物たちの破片が合体して アメーバ状になったぞ!」

アメーバが空高く飛び去る。

サシペレレ「あっ にげていきやがる」
妖虎「お おうのじゃ! あれをおっていけば 東嶽大帝のねじろがわかる」
悪魔くん「ええっ ほんとう!?」

悪魔くんが、焼け出された家族や友達を魔眼スクリーンで一瞥し、決意を固める。

悪魔くん「よ~し みんな いこう!」


アメーバを追う見えない学校は長野県・奥軽井沢に来た。
奥軽井沢で暮らす、かつて悪魔くんとともに戦った日本魔法「魔天道」の正統伝承者・ミコを狙ってアメーバが襲い掛かる。
瀕死のアメーバは、ミコの持つ魔天道エネルギーを吸い取って体力を回復しようとしているのだ。

メフィスト「ミコちゃん おそいのう‥‥」

「きゃ──っ」ミコの悲鳴が響く。

メフィスト「ややっ あれはミコちゃんのひめい!」

間一髪でメフィストがミコを助け出し、そのままミコを抱えて見えない学校に合流する。

メフィスト「あたたた 腰にひびくわい」
悪魔くん「ミコさん ひさしぶり」
メフィスト「まさに 危機一髪だったのう」
ミコ「どうもありがとう メフィストおじさま」
メフィスト二世「おやじ!」
ファウスト「メフィストよ いよいよ 決戦の時が来たようじゃ!」
メフィスト「うむ」
ミコ「わたしも戦うわ ご先祖さまと メフィストおじさまの奥さま・魔女サマリンさんが 日本にうんだ魔天道をまもるためにも!」
悪魔くん「ミコちゃん!」
ミコ「同士よ」

悪魔くんと十二使徒とミコががっちりと円陣を組む。
そして見えない学校は、日本海を越え、広大な中国大陸の奥地へと向かった。
すでに辺りは夜になっている。
一同は食事を終え、しっかり者のミコや鳥乙女までが熟睡していた。
悪魔くんが慌てて飛び起きる。

悪魔くん「しまった~っ みうしなったぞ~~っ」
こうもり猫「こりゃあ あきらめるしかないでやんすね」
ミコ「まって! あきらめるにははやいわ」
鳥乙女「どうしたの?」
ミコ「感じるの‥‥ これは まさか! 魔天道のエネルギー“魔天力”!?」
メフィスト二世「おいおい 魔天道はおめえしか‥‥」
ミコ「だまって!」


中国大陸の奥地にそびえる東嶽大帝の魔城。
大勢の黒悪魔たちが大帝の下に集っている。
大帝が戻ってきたアメーバを飲み込んだ。

東嶽大帝「これでよし あとは こいつをつかって‥‥」

大帝の足元に、メフィスト二世の母・魔女サマリンが縛られている。

サマリン「あなた‥‥ ぼうや‥‥ きちゃあだめよ」
東嶽大帝「なけ! わめけ! おまえの感情がたかぶれば そのぶん魔天力が強くなるのだ~~っ」

悔し涙を流すサマリン。

東嶽大帝「こいつを例の罠につれていけ」

大帝に仕える小悪魔・ガハハ三人組がサマリンを引きずっていく。

東嶽大帝「これでじゃまな連中をみな殺しにできるぞ~~っ 世界のすべてをわしのもとにひとつにできるのだ」

見えない学校が魔城の上空に到着。

ミコ「ここよ! ここに魔天力を発するものがあるわ」
悪魔くん「みんな かくごはいいな!?」
十二使徒「おーっ」

着陸した見えない学校の前にサマリンが突き出される。

悪魔くん「ああっ あれは!?」
メフィスト「おお サマリン わが妻よ」
メフィスト二世「お おかあちゃ~~ん」

思わず飛び出すメフィスト父子と悪魔くん。
そこに大帝が巨大な姿を現した。

悪魔くん「東嶽大帝だな~~っ」

大帝が再びアメーバを吐き出す。
アメーバが見えない学校を包み込んだ。

悪魔くん「サマリンさん いま たすけますよ~~」

サマリンに駆け寄る悪魔くん。すかさず大帝がその行く手を阻む。

悪魔くん「東嶽大帝 どけ~~っ」
東嶽大帝「だれにむかって口をきいとるんだ ここをとおりたければ わしと一対一で勝負してみろ!」

大帝が悪魔くんを踏みつけようとする。必死にかわす悪魔くん。

悪魔くん「東嶽大帝 きいてくれっ」

悪魔くんがソロモンの笛を奏で、自分の思いをその音色に乗せて大帝に伝えていく。
息をのむ十二使徒たち。

悪魔くん(ぼくの夢は 世界を 争いのない平和な楽園にすること 人間も 悪魔も 仲よくしなきゃいけないんだ! ぼくの夢よ とどけ きみの心に‥‥)

大帝が笑みを浮かべる。

悪魔くん「わかってくれたんだね 東嶽大帝」
東嶽大帝「うむ あくしゅだ 悪魔くん」
悪魔くん「いいとも」

しかし、大帝は差し出した手を握って悪魔くんを思い切り殴った。

東嶽大帝「ばかものーっ」

さらにソロモンの笛を踏み壊してしまう。

ファウスト「ああっ ソロモンの笛が~~っ」

黒悪魔たちに袋叩きにされる悪魔くん。

東嶽大帝「あまったれるな 小僧! 人間と悪魔が仲よくするだと 意味がわかっているのか? のぞむところだ 仲よくしてやろうではないか」

大帝が傷ついた悪魔くんをつまみ上げ、食べようとする。

東嶽大帝「一万年に一人の救世主(メシア)か? さぞかしうまかろうて‥‥」

絶体絶命の危機に、ファウスト博士が飛び出す。

ファウスト「わしの命とひきかえに よみがえれ 一万年まえに君臨した‥‥ 初代 悪魔くんの霊魂よ!」

鬼気迫る表情で召喚の呪文を唱えるファウスト博士。
天空の雲が渦を巻き、見えない学校の屋根にある()(のち)(だま)が、激しく光を放つ。

ファウスト「エロイムエッサイム われは求めうったえたり くちはてし大気の精霊よ 万人の父の名のもとにおこなう わが要求にこたえよ!」

生命玉が粉々に砕け、見えない学校を包んでいたアメーバも吹き飛び消滅。
同時に大帝とファウスト博士もばったりと倒れこむ。
悪魔くんと十二使徒がファウスト博士に駆け寄る。
そして──生命玉のあった場所に堂々と立ち、全員を見下ろす一人の少年の姿があった。
額に第三の目があるのを除いて、その顔立ちは悪魔くんにそっくりだが、表情は威厳に満ち溢れている。
瀕死の大帝に近づく謎の少年。一方、再会を果たしたメフィスト父子とサマリンもしっかりと抱き合う。

悪魔くん「おおっ 博士 不死身のはずのあなたが‥‥」
鳥乙女「博士は 自分の命とひきかえに‥‥」

鳥乙女と幽子が泣いている。
他の使徒たちも、悲しみと悔しさを隠しきれない。

ヨナルデ「生命玉が 初代悪魔くんだったとは‥‥」
ファウスト「埋れ木真吾よ わたしの夢はきみの夢 そして 人類すべての夢でもある‥‥」

息も絶え絶えのファウスト博士が、悪魔くんに語り掛ける。

ファウスト「現世は夢となり夢は現世となる 人類の幸福のために 初代悪魔くんの教えをよくきくのじゃよ‥‥」

ついにファウスト博士が息を引き取った。
悪魔くんも十二使徒も、全員が声を上げて泣き出す。

初代悪魔くん「みなさん!」

初代悪魔くんが凛とした声でみんなをいさめ、倒れた東嶽大帝の姿を見せる。
横たわる大帝は、禍々しい悪鬼から神々しい魔神のような姿に変わっている。

悪魔くん「あっ これが東嶽大帝の正体!?」
初代悪魔くん「この魔神は ぼくが 一万年前に世界を治めていたときの召使い ムラーゴといいます」
十二使徒「ええ~~っ」
初代悪魔くん「みなさん‥‥ ムラーゴをゆるしてやってください」

深々と頭を下げる初代悪魔くん。

初代悪魔くん「ムラーゴは 一万年前 まだ地球上の人々や大陸が 一つであった時代を 再建したかっただけなんです」
「でも いまの世界は 多くの国々と人種にわかれています」
「一万年前と いまとの 時間のへだたりと 正義の価値観のちがいがわからずに行動したムラーゴは 昔は神でも‥‥ 現代では“悪”にはたらいてしまったのです」
悪魔くん「なぜ いまになってムラーゴがうごきだしたのです?」
初代悪魔くん「人間のみにくい欲が天と地に充満し やがて 埋れ木真吾くん きみがうまれ 二代目悪魔くんの時代がやってきたからです」
「しかし わたしの時代とことなる価値観の夢をえがいたきみは ムラーゴにとって敵なのです」
「時代と その価値観‥‥ それを知ることによって 真の救世主(メシア)は‥‥」
「はじめて 人のうえに立てるのです!」

初代悪魔くんが、ソロモンの笛を繋いでいた12の珠「ソロモン玉」を天空に浮かべる。

鳥乙女「あっ ソロモン玉が空へ!?」

ソロモン玉は円を作り、その中に六芒星を浮かび上がらせた。

悪魔くん「天空魔法陣だ!」
初代悪魔くん「ムラーゴよ おまえの役目はおわったのだ」
ムラーゴ「はい ご主人さま」

初代と二代目、二人の悪魔くんが固く握手を交わす。

初代悪魔くん「二代目悪魔くん これからがきみの ほんとうの戦いだ」
「この時代をになうための夢をかなえるのは 何者にも屈しない勇気と知恵だ!」

初代悪魔くんが光となって天に昇っていく。

悪魔くん「あっ 初代救世主(メシア)よ‥‥」
こうもり猫「ムラーゴがくずれていくぞっ」

そしてムラーゴも土くれとなって崩れ去り、一陣の風がそれを塵に帰す──。


それから数日後。

ミコ「さて あたしもいかなくちゃ」

ミコはファウスト博士を奥軽井沢に埋葬し、スーツケースいっぱいの荷物を持っていずこかへ向かった。


やがて春、四月。
悪魔くんは六年生に進級し、平凡な小学生としての生活を再開。

悪魔くん(しかし 人間界の授業は たいくつだなあ)
貧太「どうしたんだ 悪魔くん」
悪魔くん「ん? なんでもないよ」

悪魔くん(一万年に一人がなせる夢 それは正義の味方になる夢か それとも 正義をつくる夢か すべては ぼくのきめること)


放課後、悪魔くんが最初に悪魔を呼び出すのに使っていた魔法陣の洞窟で、ミコとメフィストが悪魔くんを待っていた。

悪魔くん「きょうはごきげんだね メフィスト」
メフィスト「そうとも サマリンがもどって元気百倍 腰のいたみもふっとんだわい」
ミコ「これからは奥さんのためにも いっぱいはたらかないとね おじさま!」
悪魔くん「それじゃあさっそく 契約をすませることにしよう ミコさん 例のものを‥‥」

ミコが古い横笛を悪魔くんに手渡す。

メフィスト「おっと 古式ソロモンの笛か‥‥」
悪魔くん「ぼくの夢 かならずかなえてくれたまえ」

悪魔くんが羊皮紙の契約書を差し出す。

メフィスト「そのまえに わしの好物のチョコレートをくれんかね」
悪魔くん「うむ 契約にはないがいいだろう」

悪魔くん、メフィスト、ミコが岩に腰かけて一緒にチョコレートを食べ始める。

悪魔くん「そういえば 二世たちはどうした?」
メフィスト「魔界で勉強中さ 子どもはそれでいい」

そして、悪魔くんとメフィストの間で正式に契約が受理された。
二人が固く握手を交わす。

悪魔くん「さあ これからが本番だね」
メフィスト「うむ!」



エロイムエッサイム
われは求めうったえたり
悪魔くんの夢 それは
きみの夢でもあるのだ‥‥




おわり

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最終更新:2022年02月19日 18:52