小学生の市川ヒロシが、友達の番野、キザ夫たちと共に野球を楽しんでいる。
ヒロシの打ったボールが、大きく飛んでゆく。
ヒロシ「やったぜ!」
そのボールが、周囲から「お化け屋敷」と呼ばれる古びた洋館に飛び込む。
一同「あ~っ!」「お化け屋敷に!?」
番野「おい、お前の責任だぞ! ボール取って来いよ」
ヒロシ「そ、そんなぁ!? お化け屋敷なんか、行きたくないよ」
キザ夫「黙らっしゃぁい! あのボール、僕ちゃんのボールだぞぉ! 取りに行かないなら、弁償しろぉ~!」
ヒロシ「わ、わかったよ。取りに行けばいいんだろう、取りに行けば」
キザ夫「行け、早く!」
仕方なくヒロシが、恐る恐るその屋敷へ。庭木が皆、枯れている。
ヒロシ「な、なんだ? このうちの木はみんな、枯れ木だぞ」
屋根の上の避雷針に、一つだけ、雲が浮いている。
ヒロシ「あれ? あんなところに雲が浮いてる。あんな低いところに1つだけ。なんか気味悪いなぁ…… でもボール見つけなきゃいけないし」
窓にボールが飛び込んだらしく、窓ガラスが割れている。
ヒロシ「あ 弱っちゃったな、うちの中に入っちゃったのかな」
玄関のドアに手を掛ける。
ヒロシ「開いてる…… ボ、ボールはどこに行ったんだろう」
屋敷の中は、誰の姿も見えない。中に入り、ボールを捜して、あちこちの部屋を訪ねる。
ヒロシ「子供部屋のようだな」
別の部屋。ベッドに写真立てがあり、満月の写真が飾られている。
ヒロシ「なんか、獣のような臭いがするぞ。……な、なんだ、この堅い毛は!?」
次第に足が震えだす。別のドアを開くと、薄暗い中に地下への階段がずっと続いている。
ヒロシ「ひぃぃ~……」
別の部屋には、壁から鎖が下がり、不気味な薬品の瓶。ヒロシが丸ごと入りそうな大きな靴。
ヒロシ「な、なんだ、この部屋は!? こ、こんな大きな靴、いったい誰が履くんだ!?」
足の下から音が響く。
ヒロシ「あれ? ち、地下室からだ」
先ほどの地下への階段を、恐る恐る下る。突き当りの扉を開く。
ヒロシ「ひゃあぁぁ~っ!!」
ベッドの上に棺桶があり、棺桶がひとりでにガタガタ動く。
声「ぼ、坊ちゃん…… 勘弁ざます」
ヒロシ「ぎゃあぁっ!! いやだあぁぁ──っっ!!」
階段を駆け上ると、1階の広間にボールが転がっている。
ヒロシ「あ、あった……」
それを取ろうとすると、背後からスルスルと長い腕が伸び、ボールを奪う。
振り向くと、帽子をかぶった奇妙な少年、主人公・怪物太郎こと怪物くんがそこにいる。
ヒロシ「き、君は誰だ!? ボール返して」
怪物くん「それはないだろう? 人の家の窓ガラスを割っておいて」
ヒロシ「ごめんよ。ガラス代はアルバイトしてでも何とかするから、ボール返して」
怪物くん「……」
ヒロシ「ん?」
怪物くん「お前って、なかなか正直な人間のようだな。よし、気に入った。ボールを返してやろう」
ヒロシ「えっ、本当!?」
怪物くん「あぁ、本当。ほら!」
ボールを持つ怪物くんの手が、ヒロシ目がけ、スルスルと長く伸びる。
ヒロシ「わぁ~っ!?」
驚きつつも、ヒロシはボールを受け取る。
ヒロシ「あ、ありがとう……」
怪物くん「ガラス代もいらないぞ」
ヒロシ「えっ、でも……」
怪物くん「心配するな。俺はこの家の主人だ」
ヒロシ「えぇ~っ!? プッ! ヒャハハハ! 君みたいなチビが主人だなんて」
怪物くん「ムキ~っ! チビだとぉ!?」
今度は怪物くんの脚が長く伸び、頭が天井につくほどになる。
ヒロシ「ひゃあぁぁ~っ!」
怪物くん「どうだ、これでもチビだと言うのか!?」
ヒロシ「わ、わかったよ……」
ヒロシは目を回して、倒れてしまう。
怪物くん「あれ? おい! おい、しっかりしろ!」
ヒロシ「はぁ、驚いた…… でも、君がここの主人だなんて信じられない」
怪物くん「何だとぉ!? おぉい、オオカミ男!」
オオカミ男と聞いてヒロシが驚くが、現れたオオカミ男は獣人などではなく、ただの中年男風。
オオカミ男「何でがんすか、坊ちゃん?」
怪物くん「おい、オオカミ男。俺がここの主人だってこと、この子に言ってやれ」
オオカミ男「なぁんだ、そんなことでがんすか。坊ちゃんは確かに、このお屋敷の主人でがんすよ」
怪物くん「なっ、本当だろ?」
ヒロシ「うん、わかったよ。……ギャアァ~っ!! も、もうダメだぁ──っ!!」
ヒロシが逃げ出す。オオカミ男の後ろに、見上げるような巨漢のフランケンが現れていた。
怪物くん「フランケンのバカ! どうして顔を出したんだ!? あの子が怖がって逃げ出したじゃないか!」
フランケン「フンガァ」
床にボールが転がっている。
怪物くん「あっ、なんだ、忘れてっちゃったのか」
その夜、ヒロシが姉の歌子と共に住むアパート。ヒロシは海外の怪物を綴った本を読んでいる。
ヒロシ「フランケンシュタインは、ドラキュラ、オオカミ男と並ぶ、世界の3大怪物である、か」
歌子が本を取り上げる。
ヒロシ「あら?」
歌子「こんなの読んでないで、さっさとお風呂に行って来なさい!」
先の怪物くんの屋敷。
怪物くん「お~い! ドラキュラ、オオカミ男、フランケン!」
お供のオオカミ男、フランケン、そして地下室の棺桶から飛び出したドラキュラが集合する。
フランケン「フンガ!」
ドラキュラ「ざます!」
ヒロシ「がんす!」
怪物くん「おい、みんな。俺は昼間のあの子が気に入った。あの子と友だちになることに決めたぞ」
オオカミ男「坊ちゃん、それはヤバイでがんす」
ドラキュラ「そうざます、相手は人間ざますよ。いつ裏切るかわからないざます」
フランケン「フンガ」
怪物くん「うるさ──い!! あの子は友だちを裏切るような奴じゃない! 正直ないい奴だ」
一同「でも、しかし……」
怪物くん「うるさ──い!! 友だちになると言ったら、なるんだぁ!」
ヒロシが銭湯の帰り道、屋敷の前を通りかかる。
ヒロシ「あの子、どうしてるかなぁ……」
塀の上に、怪物くんが顔を出す。
怪物くん「やぁ」
ヒロシ「わぁ!?」
怪物くん「ほら、ボール返すぞ」
怪物くんの放ったボールを、ヒロシが受け止める。
怪物くん「どうだ、俺と友達にならないか? 俺は怪物太郎。お前、何ていう名前だ?」
ヒロシ「う、うん。ぼ、僕はヒロシ」
怪物くん「そうか、ヒロシか。で、どこに住んでんだ?」
ヒロシ「こ、この裏のアラマ荘っていうアパートに」
怪物くん「なぁんだ、この裏か。その家に遊びに行ってもいいか?」
ヒロシ「い、いいけども……」
怪物くん「よし。それじゃ、握手だ」
怪物くんの手がスルスルと伸びる。ヒロシが震えつつ、その手を握り返す。
ヒロシ「よ、よろしく……」
怪物くん「フフッ、よろしく」
オオカミ男、ドラキュラ、フランケンが顔を出す。オオカミ男は満月の光で獣人と化している。
オオカミ男「良かったでがんすね」
ドラキュラ「良かったざます」
フランケン「フンガ、フンガ」
ヒロシ「ギャア~っ!?」
怪物くん「ヒロシ。こいつがフランケンだ。それからこいつがオオカミ男……」
ドラキュラ「ぼ、坊ちゃん」
怪物くん「あっ!?」
ヒロシは目を回し、気絶して倒れている。
ドラキュラ「気絶してるざます……」
怪物くん「なんだ、よく気絶する奴だなぁ。よし、アラマ荘とかへ運んでやろう」
ヒロシのアパート。歌子が夕食もとらずに、ヒロシの帰りを待っている。
歌子「ヒロシったら、どこで道草食ってるのかしら?」
歌子が廊下に出てみると、ヒロシが気絶したまま、壁にもたれかかっている。
歌子「あら!? あらま、ヒロシちゃん!? どうしたの、こんなところで寝て。ヒロシちゃんてば!」
ヒロシ「う、うぅん……」
怪物くんの手がスルスルと伸びて、忘れ物のボールを、部屋の中にそっと届ける。
怪物くん「フフッ、ヒロシか。こりゃ、明日から面白くなりそうだぞ!」
最終更新:2016年10月24日 20:00