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孤高の魔将の独り言ち



「ガァァァァァァ!!」

「ヒ、ヒイイイイイイイイイ!?」


炎に包まれたレッサーオーガが断末魔を上げながら黒焦げになって崩れ落ちる。
その様を間近で見た奴隷商人の小太りな男が顔を青ざめながら情けない悲鳴を上げた。

「な、なんなんだお前はぁ!?」

「フッ、俺が何者かを知りたいか?」

恐怖で上ずった声で俺に問いかける男に、俺は優美に髪をかき上げる。

「俺は孤高にして至高!美しく壮麗で容姿端麗!強靭無敵で最強無比!頭脳明晰で才色兼備!孤高にして最高!!」

己を嘘偽りなく表現する言葉を威風堂々と叫びながらバッバッバッバとカッコイイポーズを次々に決め、俺は高らかに名乗り上げた。

「この世を支配するに相応しき魔王となる事が確定している男、“魔将グレデェズデ”様だ!!俺の手で死ねる事を地獄で誇るが良い!!」

「ぬわーーーーーーー!!」

とっておきの決めポーズが炸裂した瞬間に放った俺の火炎魔法が、愚かな奴隷商人を骨すら残さず灰に変える。

「す、すげぇ…」
「本当にメチャクチャ強い…」
「ポーズはメチャクチャダサいけど…」
「名乗り口上無駄に長いけど…」

「そこぉ!この俺が救い出してやったというのになんだその言い方はぁ!?最っ高にキマッてただろうがぁ!?」

後ろの方から何やら聞き捨てならない言葉が聞こえたのでズビシッと指さしながら声を張り上げる。
指の先にはいましがた灰にした奴隷商に捕らわれ『商品』となっていた者達が大人と子供で10人ほど入っている鉄の檻。

そしてその鉄格子のなかにいる者は全員が………俺と同じ、魔族だった。

「まったくそれにしても情けない!この俺様のカテゴリに『強い』と『カッコイイ』と『美しい』に加えて『冷酷無比』があったなら
 同じ魔族の面汚しとして貴様らも制裁していたところだったぞ!!代わりに『同胞には慈悲深い』があった事に感謝するんだな!!」

魔族。類稀なる魔力と生命力を誇り、世界を支配するに相応しき最も強大で崇高なる闇の種族。
脆弱なる人間など容易く蹂躙し奴隷にしても良いほどの力があるというのに、こいつらは逆に人間の奴隷になるところだったのだ。嘆かわしい。

……確かに、いまの地上に生きる全ての魔族が正面から人間を滅ぼせるだけの力を持っている訳ではない。

太古の昔、魔族の故郷たる魔界から地上へと侵略戦争を起こした『魔族侵攻』から時は流れに流れ。
幾度もの戦乱の末、癪ながら今現在はこの地上の支配者は人間や亜人どもという事となり、多くの魔族は魔界へ撤退した。
だが同時に地上に取り残されたり身を潜めた魔族も数多く、それらはそのまま各地に散り散りになって生き永らえる事となった。

魔族とは元来、穢れや瘴気といった負の力を糧とする生き物。魔族の本拠地たる魔界と地上では世界に満ちる瘴気の質と量がそもそも圧倒的に違う。
そして生き物とは、環境が変わったところに長くいればいる程、そこに合わせて体質や性質が変わっていくものだ。

即ち、瘴気の薄い地上で永らく生き、それらから生まれた次世代の魔族は、自ずと魔界生まれの純粋な種の魔族よりもその力が弱まっている傾向が高い。

無論この俺様の様に地上で生まれ育ちながらも天才的な素質を持った素晴らしく強くて立派な個体もいるので例外はあるが。

しかし、そうではない力の薄れてしまった魔族が、現代ではそれなりの数がいるのは残念ながら事実である。
弱い魔族は人間や亜人に狙われぬよう隠れ住んだり、生きる為にちんけなコソドロのような生き方を強いられる事も珍しくない。
そういった者達がうっかりヘマをして捕まれば、その場で殺されたりコイツラの様に犯罪奴隷として売り物にまでされる事もある。

偶然荷馬車に詰め込まれるコイツラを見かけた事で、王者に相応しき寛大な心を持つこの俺様が救いの手を差し伸べに来ていまここに至るという訳だ。
乗り込んできた俺に対して愚かにも護衛のつもりか飼い慣らしたレッサーオーガを差し向けた奴隷商の末路はさっき見た通りである。

世の支配者になるべき闇の種族として実に情けない話ではあるが、人間どもが我がもの顔で練り歩くこの世界の陰にはそういった惨めな者達が確かにいるのだ。


―――――――かつての、俺の家族のように。


いまでこそ孤高の魔王候補として覇道を突き進む俺様だが、昔は辺境の小さな隠れ家で魔族の家族と一緒に暮らしていた頃もあったのだ。

父は俺が物心ついて少しの頃に人間の兵士に討たれて死んだ。

母は人間から隠れながら日々食糧や物資を町から盗んで金に換えていた。

妹は魔族ながらに星や花などの美しいものを愛する感性を持っていた。

俺は母の『仕事』によく着いて行っては見て覚えた。
早くも天性の才能を発揮していた俺の腕前はあっという間に母を超え、成長したら一人で色々な所に忍び込んではお宝を頂いた。

妹の旦那は隠れ家を転々と移しながら人目を避けて生きていく中で偶然出会った。

俺達と凡そ似た境遇だったその魔族の男は、軟弱だが同胞を労わる心を持っていた。

優しい妹ともすぐに気が合い、気付いた時にはいつの間にか子供を身籠っていた。

妹は腹をさすりながら『こんな生き方だからこそ、せめて花や果実の様に綺麗で可愛い名前を付けたい』とか言っていたっけ。
結局、俺が森で採ってきてやった木の実を気に入ってその名前を付けようとかしてたが…。

マール…マウル…マルベ…そんな感じの名前だった気がする。何故そんなうろ覚えかって?



産まれてくる前に、俺が家族を見限って去ったからだ。



最初に“ソレ”を見つけたのはいつもの様に盗みをしようと、その町で一番偉そうな奴の家に忍び込んだ夜だった。

その家の住人は、魔族侵攻を含めた大昔の歴史の調査と研究を主な仕事とする学者だった。

その研究に使われた代物の中に何か掘り出し物でもないかと物色していた俺は、とある紋章の描かれた古いボロボロの旗を見つけた。
大きく口を広げ、牙を剥き出しにして咆哮するかのようなの横顔を象ったマーク。

それを見た瞬間に、俺の記憶の中からよく似たものを目にした事があると思い当たる。
死んだ父親が、『俺達の血筋の古い家紋みたいなモンだ』と言って背に刻んだ刺青が、そのマークとそっくりだった。
普段父と仲の良かった母がそれを彫り込む事を異様に嫌悪し、強く反対していた事が印象的で幼いながらによく覚えていた。

一緒にあった研究資料によれば、第三次から第四次魔族侵攻の時期に猛威を振るったとされる強大な魔王配下の軍勢が掲げた軍旗であるらしかった。

無論ただの偶然かもしれないとも思った。だが、不思議とその時の俺の頭は親父の背中が強く強く脳裏に焼き付いて離れなかった。
同時に俺の胸の内に広がったのは、根拠のない…しかし漠然としながらも強く湧き上がる『自分自身のルーツの予感』。

その研究資料を盗み出し、家族の元に帰ってからその内容を何度も何度も読み返した。

その魔王配下の魔族は、恐るべき強さと残忍さを誇る魔王軍の猛将であった事。
その魔王配下の魔族は、狼の毛皮を纏い苛烈さと残虐さから“暴虐の魔狼”と呼ばれていた事。
その魔王配下の魔族は、魔王亡き後も戦乱に臨み、新たなる魔王を目指さんとする魔将であった事。
その魔王配下の魔族は、魔王候補の動乱の中で突如としてその命を絶たれ、遺された子孫は忽然と足取りが消えた事。

一介の人間がどのようにしてここまで詳細に調べたのかはわからんが、そこに書き記された事を読み解く程に俺の中に浮かんだ予感が大きくなっていく。
資料の至る所で書き記された例のマークと、俺の記憶の中にある親父の背に刻まれたマークが、何度思い返してもピタリと符合する。

もし、もしも俺の予感が合っていたなら。

もし俺が、俺の家族が、この大魔族の血筋に列なる魔将の血統であるのなら。


………何故こんな惨めな暮らしで日々を生きなければならない?


人間の目から逃れる様にコソコソとネズミのように物陰に隠れ、
その日生きる飯を食うのにも困窮するような生き方を、人類の大敵たる魔族が何故しなければならない?

魔族とは、そんな弱い生き物なのか?

魔族とは、そんな情けない生き方をするべき存在なのか?


――――――そんな訳が、あるはずがない


胸の中に広がった予感と、それによって内から爆発の如く沸き上がった“己の在り方への怒り”。

その衝動のままに、俺は家族の元から何も言わずに去った。
少なくとも俺は、“あんな生き方”に縋らなければ生きられない者とはもう一緒には暮らせなかった。
それ以外、もう考えられなかったのだ。


そこから俺の『孤高』は始まった。


盗んだ剣で我流の剣術を初めてみた。盗んだ魔導書を読んで魔法を学んでみた。

そしたらどうだ?ほんの僅かな期間の研鑽で俺の剣は、俺の魔法は、驚異的な速度で急成長を遂げていくではないか!
そもそも専門の知識が必須の魔導の術式も独学でスラスラと頭に入り、僅かな練習と試行錯誤だけで上級術まで容易く習得できてしまったのだ。

ただの陳腐なコソ泥の様な生き方にしか注いでこなかった俺の天賦の才は、やっとあるべき使い方に発揮され始めたのだ!

自らの力が着実に高みに達していく事の実感が、更に俺の予感を確信へと近づけていく。
やはり俺に流れる血統は、俺の中に眠る素質はそこらの魔族とは違うのだ。俺は弱く小さな虐げられる者と同じ生涯で終わるものではない。


―――――――俺は、先祖と同じ……魔王へ至れる可能性を秘めた選ばれし者だったのだ。


己の力を試す為に名の知られた冒険者を襲った。苦労もなく一人でパーティを全滅させた。

別の高位魔族に挑戦状を叩きつけた。大勢の配下を刺客として放ってきた。一人でその全てを難なく下した。

その後も挑んでは勝ち続けた。誰の手助けも必要としなかった。俺は俺一人の力で何もかも可能にした。


俺の強さはまさしく一騎当千。手下や仲間を連れて群れる必要すらない。

そう、俺の生き方は―――――『孤高』こそが最も強く、最も美しく、最も正しい在り方だったのだ。

打ち倒した魔族から奪った王者に相応しきカッコイイマントを羽織り、焼き尽くした名のある魔法剣士の携えていた魔剣を腰に差す。
変身魔法の応用で家族と共通していた浅黒い肌を雪の如く美しい純白に染め上げる事で、かつてのみすぼらしい過去の俺とは完全に決別する。

部下も配下も必要ない、至高の強さを誇り俺一人で世界の全てを掌握する。

“孤高の魔王候補”たる『魔将グレデェズデ』様の覇道が遂に幕を開けたのだ


そして俺は絶対の自信を胸に、当時の魔王候補の中でも特に武強と恐れられた“一人の魔将”の元へと意気揚々と挑み…。





―――――――――――――――――完膚なきまでにボコボコにされて完敗した。




手も足も出なかった。

魔法も、剣も、絶対たる俺の自信を裏付けていた俺の力の全てを“彼”は真正面から叩き伏せた。

己のプライドが粉々に打ち砕かれたショックと絶望に俺は包まれ……


………同時に、俺は俺を倒したその魔将に強く魅かれた。


己の在り方を探し、孤高にこそ至高を求めた俺にとって“あの御方”の強さは……

他の追随を許さない圧倒的畏怖と、何者をも恐れぬ威風堂々たる覇気と闇は、強烈なまでに光り輝くように魅かれるモノだった。

俺の至高と定めた真なる孤高を、あの御方は………“魔将ノブナガ”様の在り方そのものが表していたのだ。

真なる孤高とは、配下が『いる』『いない』なんて低俗な事など関係ない。
どれ程の強力な配下を揃えても、どれ程巨大な軍勢を築いても……
結局はノブナガ様一人で全てを成し遂げられると思えてしまえる様な、圧倒的なまでの王者の風格。

あの日、ノブナガ様に敗れた俺はあの方の刀から、覇気から、己の魂が震える程に強くそれを感じ取ったのだ。


……故に、あの御方の軍門に下った現在の俺も、自らの目指す孤高の道が終わった訳ではない。

『魔将に仕える魔将』として働く俺はノブナガ軍配下の中でも特異な立場。

表向きにはノブナガ様との支配関係は明かす事なく、あくまで別個の魔王候補として独自に動く。
ノブナガ様の障害となる冒険者や勇者候補の芽は俺の手で潰し、ノブナガ様に向けられる人間どものヘイトを俺に分散する様に立ち回る。

言うなれば俺はノブナガ様直属の遊撃隊長。それ故に特定の幹部格として数えられる事は無い。
単独で動く俺の『孤高』が、あのお方の『孤高』の地盤を固める重要な役割となるのだ。

…よって、“ナンタラ六道”とかなんとか呼ばれてる向こうの連中なんかは全然羨ましくもなんともない!
だいたいアイツらは本当にノブナガ様に心から忠誠誓ってお仕えしてんのか!?

地獄道とかは飄々として性格悪そうだし、人間道の奴は人の癖にノブナガ様に馴れ馴れしくしてるし、
天道の狐面のオトコオンナは何考えてるかわかんねーし、いつの間にか湧いて出たガキンチョはなんか気味悪いし、
最近入ったとかいう餓鬼道は報酬欲しさで軍に入った癖に自分をノブナガ様の懐刀とかぬかしてるし!
つーかアイツも表向きは勇者候補やってんだから俺みたいに別個で動けよ堂々と幹部名乗ってんじゃねーよアイツ一番キライ!

あんな癖の強いだけの連中に比べたらこの俺の活躍の方が遥かにノブナガ軍に貢献してるもんねー!!


…………でもアイツらが持ってる他化自在天ってノブナガ様から直々に貰えるんだよな…。

………やっぱりちょっと欲しいなー俺も…。


「…なぁ、どうしたんだアイツ」
「さっきからポーズ決めながら明後日の方向見つめてずっと一人でブツブツ言ってる…」
「どうでもいいからさっさと檻から出してくれよ…」

「ウォッホン!!とにかくッ!!」

何時の間にかすっかり過去の追憶に夢中になってしまっていた様だが、俺は改めて檻の中の同胞たちへ向き直る。

「お前たちの日頃の生き方は知らんが、誇り高き魔族として最大の恥辱である『人間の奴隷になる』という末路からこの俺が救ってやったのだ。
 最低限、その恩を返してもらえるだけの働きはしてもらうのが礼儀というものだろう」

「な、なんだよ…アンタの手下にでもなれってのかよ」

「ヴァカめ、俺様は孤高の魔将だぞ?この俺に手下なぞ必要ない。その代わり――――

 いまのその惨めな暮らしよりも、遥かに己の存在を見つめなおせる素晴らしい所を紹介してやろう」


ノブナガ様は真なる孤高。

この御方には仲間も配下も奴隷もいらない。

何も、いらない。


真なる孤高とは即ち…周りにどれだけの者がいようとも、それらを有象無象に成り下がらせ、厳然たる“個”として確立する絶対的なる存在感。

どれ程の強者に囲まれながらも、あの御方は常にただ独り。

独りであるからこそ頂点にのみ君臨し、やがて天の頂にただ一つある真なる支配者の玉座に座る資格がある。

故にこそ、その孤高は眩い程の強烈な輝きを放ち、配下も部下も、その圧倒的な灯火に自然と惹き寄せられるのだ。

孤高であるが故に他が集まり、孤高を頂点とした軍勢が、孤高の目指す頂点を共に征きたいと思わせる。

全てを統べる絶対なる支配者とは………俺が目指し憧れた『魔王』とは、そういう存在なのだろう。

あの御方には奴隷も何もいらないが、あの御方の覇道を支えたいと願う俺達魔軍の人手は多いに越した事は無い。

「さあ!案内の前にもう一度名乗ってやろう!!己を救った大恩人の名をその魂に深々と刻み付けるが良い!!」

いつの日にか、あの御方の孤高の光が天へと届くその瞬間を…あの方の孤高に魅了された一人である俺も見たいのだ。



「我が名は魔将グレデェズデ! “グレデェズデ・ヴォルフ”!!

 偉大なる歴戦の大魔族の血を引きし、孤高にして崇高なる魔王候補也ぃ!!」



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最終更新:2026年05月28日 20:14