―B Part 2024―
◇『組織』アジト・作戦司令室 PM11:40
工作員「発見しました! バンは歌舞伎町方面に移動中です!」
未来「よくやった。1班、2班! 歌舞伎町に向かえ!」
作戦司令室。衛星からの映像を映したモニターを見、未来が通信機に声を吹き込む。
モニターには新宿の地図と、監視対象を示すオレンジの光点が映し出されていた。
未来「これから城嶋 丈二の殺害にとりかかる! やつは優秀なスタンド使いだ、一筋縄ではいかないだろう。
数時間に及ぶ市街地での戦闘が予想されるが、できればそれは避けたい。1班2班は両班とも速やかに対象を始末しろ」
未来「夜明け前までに仕留めるぞ!」
男1「よう、やってんなあ未来」
男2「お邪魔させてもらうよ」
スキンヘッドの大男と、背の高い銀髪の男の二人が未来の元へ近づく。
未来「三上、川崎・・・なんのようだ」
川崎「ネズミの始末を手伝うよう阿部さんに言われてね」
三上「力貸してやるよ、未来」
未来「余計なお世話だ。必要ない」
川崎「決めたのは阿部さんだ。お前じゃ手に負えない」
未来「なに・・・」
三上「んじゃちょっくら行って来るわ。サポート頼むぜ、王子さま」
ぴりぴりとした空気が一帯に張り詰め、数人の工作員が逃げるように部屋をあとにする。
スキンヘッドの三上と銀髪の川崎は用件を一方的に伝えると、部屋を出て新宿へと向かった。
未来「俺じゃ手に負えないだと・・・?」
航平「なんかヤバイ空気だな」
その光景を端で見つめながら、航平が呟く。
すると、比奈乃が航平と忍、二人の袖を引っ張って部屋の隅に動かし、三人にだけ聞こえるように声を小さく話し出した。
比奈乃「ねえ航平、忍」ヒソヒソ
忍「あん?」
比奈乃「わたしたちでなんとか・・・丈二を逃がしてあげられないかな」ヒソヒソ
航平「なに?」
比奈乃「わたしには丈二が裏切ったなんて信じられないよ。なにか事情があるんだと思う。
でもリーダーは聞く耳持たずっぽいし・・・。三上と川崎、あいつらに殺されちゃうよ」ヒソヒソ
忍「それはそうだが・・・」ヒソヒソ
比奈乃「恩があるでしょ? わたしたち全員。丈二にも琢磨にも。二人のために、なんとかしようよっ」
忍「おい! まさか逃がす気かよ!」ヒソヒソ
比奈乃「・・・・・・」
航平「危険だぞ。逃がすって、どうやる?」ヒソヒソ
忍「おい!」ヒソヒソ
比奈乃「・・・川崎と三上を妨害するしか・・・」ヒソヒソ
忍「待て待て、あいつらと闘えってのか? んなことしたら俺らこそヤベェだろ」ヒソヒソ
航平「やるなら、覆面で顔を隠して第三者の介入を装うしかないな。なんせこれは裏切りだ。
同じ『組織』の仲間を攻撃するんだからな。ヒナ、それでもやるか?」
忍「航平! おめえまでなに言ってる!」ヒソヒソ
比奈乃「・・・やろう。わたしの仲間は、このチームだけだから」
忍「おい、正気か!?」
航平「・・・わかった。必要な装備を整えて、俺たちも新宿に向かう。
顔はしっかり隠せよ。見付かったら俺たちもおしまいだ」
比奈乃「・・・」コクリ
忍「マジかよ!」
航平「お前はどうする忍。お前はまだ正気か?」
忍「・・・マジでやる気かよ・・・」
忍「ああ、ちくしょう! やるよ仕方ねえッ!」
比奈乃と航平の顔に安堵の色が浮かび、三人は未来の目につかないようひっそりと司令室を出た。
装備を整えるため武器室へ向かう通路の途中、忍が口を開く。
忍「・・・誰か、ここに残って作戦を監視する必要があるな。俺らがいなくなったこと、リーダーが感づいたらヤバイ」
航平「もしも俺らのしていることに気付いたら・・・」
比奈乃「・・・・・・」
忍「最悪、リーダーともやりあうことになるかもな」
航平「・・・俺が残る。二人は現場に向かってくれ」
比奈乃「・・・大丈夫?」
航平「なんとかするさ・・・」
◇新宿・歌舞伎町 同時刻
丈二を乗せたバンから見える街並みは、歌舞伎町のそれであった。
鮮やかな歓楽街のネオンが、窓ガラスに反射して煌いては後方に過ぎ去っていく。
流れいく光たちを眺めながら、運転席でペダルを踏む須藤に話しかける。
丈二「ここ新宿か?」
須藤「・・・・・・」
丈二「お前のボスは誰だ。なんで俺に会いたい」
須藤「さあな。俺は雇われただけ、そっちの都合はどうでもいい」
丈二「『組織』を潰すのが目的か?」
須藤「俺の雇い主は“一般人”だ。君たちの『組織』やその敵対グループ・・・
スタンド使いたちの覇権争いには関与してない。俺はその人の個人的な依頼で動いてる」
丈二「お前の見返りは俺の命か? お前・・・憶えてるのか、俺と同じように・・・」
聞かれて須藤は押し黙った。
しばらくの沈黙ののち、なにか懐かしむかのような声で、話し始めた。
須藤「こういう表現で正しいかはわからんが・・・“憶えてる”よ。
あの日、確かに俺は、君に敗れて・・・“殺された”」
須藤「遠い昔のようにも感じるし、つい最近の出来事のようにも思う・・・。
だけど、この記憶が本物かどうか、疑ったことは一度もない」
須藤「あの日の闘いは、確実に“事実”だ。俺たちは争い、俺が破滅した。
自分で言ってて釈然としないが・・・それは絶対に揺るがない。間違いない」
丈二「だが・・・おかしいだろ。だとしたらお前・・・死んでる、だろ・・・もう」
須藤「“ここがここでない”感覚・・・君にもあるんじゃないか?」
丈二「・・・・・・」
バンは新宿駅の前で停車し、須藤は「降りろ」とだけ告げ、乗客を降ろした。
須藤「君らの『組織』は恐ろしいな。もう居所がバレてしまった。さっきからつけられてたらしい」
丈二「駅構内で、追っ手を撒くのか」
須藤「その通り。東口の前に乗り換えの車が用意してある。
東口に出るぞ。ついてこい」
無数の人でごった返す新宿駅。二人の男が身を隠すようにその波の中へ呑まれていくのを確認して、
『組織』の工作員たちも続けて同じように、彼らを呑み込んだ人波へ入っていった。
―A Part 2027―
未来「うおおおおおおおおおおおッ!」
W・H『ハアアアアアッ!』バシュッ!
たくましい雄叫びと共に繰り出されたのは、鋼の筋肉を纏った右腕から成る、強烈な右ストレート。
空を切るハンマーのような拳が、得体の知れない禍々しいスタンドに迫る。
???『・・・・・・』ふわっ
未来「!?」
だが、その拳が命中する前に、敵スタンドの体が“黒い霧”に変化した。
敵の体は霧散し、『ウエスタン・ヒーロー』の拳はプレハブの壁に突き刺さった。
未来「霧!?」
丈二「未来、後ろだッ!」
宙に消えたはずの黒い霧が、再び一箇所に集まって固まり、人の形を形成していく。
未来の背後を取ったそのスタンドは、顔に放射状に散り並んだ無数の“眼”を妖しくぎょろつかせ、拳を構えた。
腕の筋肉が、めきめきと音を立てて膨らんでいく。
丈二の声で咄嗟に反応できた未来だったが、謎のスタンドが放ったパンチを避けるには一瞬遅く、
『ウエスタン・ヒーロー』の両腕を交差させて防御するので精一杯だった。
バキィッ!
未来「・・・ぐ・・・!」
凄まじく重い、強烈な拳を受け止めた未来の体が、その衝撃を殺しきれずに吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
その一連の流れを見てようやく冷静な思考を取り戻した丈二が、同じように立ち尽くす航平に、
丈二「外へ出ろ! 未来の車に乗るんだッ!」
と声を張り上げた。
航平「・・・!」ダッ
部屋から飛び出した航平は見ずに、丈二は目を閉じ、意識を自分の前方に集中させはじめた。
丈二「『ハムバグ』を使う! 未来、そいつの動きを止めてくれッ!」
未来「・・・よ、よし・・・!」
げほっげほっ、と口の端から零れた血のしずくを拭い、未来は立ち上がった。
謎のスタンドに『ウエスタン・ヒーロー』が飛び掛り、その胴体をしっかりと抱きとめる。
未来「いまです! キャンディを撃ちこんでッ!」
未来が叫んだそのときだった。謎のスタンドの体に、霧状と化すよりも不可思議な現象が起きた。
丈二「・・・!?」
未来「・・・え!?」
???『・・・キャンディ・・・・・・』
謎のスタンドの右手に、『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』と同じものの“キャンディの袋”が握られていたのだった。
A・M:H『ムヒィッ!』
だが、それは『ハムバグ』の手から奪われたものではなかった。出現した『ハムバグ』も、しっかりと同じものを持っていたからだ。
丈二「なんでコイツ・・・!?」
ビュンッ!
バスッ
丈二「うぐッ」ドサッ
反応するより早く、敵から放たれた飴玉の弾丸が、『ハムバグ』の肩を撃ちぬいた。
倒れこむ丈二。小さな穴の開いた肩を押さえながら、丈二は信じられない光景を見た。
丈二「! あ、ああ・・・」
未来「ハ・・・」
丈二「『ハムバグ』・・・・・・」
『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』のヴィジョンが足の爪先からじわじわと黒い小さな無数の粒に変わっていく。
それは“蟻”だった。『ハムバグ』の体が、“蟻のスタンド”に変わって部屋中に散っていく。
???『・・・・・・消エタ・・・・・・ハムバグ・・・・・・』
未来「『ハムバグ』が・・・・・・」
丈二(“塗り替えられた”・・・・・・)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
丈二(『ハムバグ』の能力で・・・・・・・・・)
『ハムバグ』は、蟻の大群となって完全にその姿を消した。
呆気にとられた丈二を避けるように蟻たちは流れていく。丈二はそれに触れることすらできなかった。
いままで味わったことのない初めての感覚が、丈二を完全に凍結させてしまったのだった。
それを“絶望”と呼ぶのかどうかは、彼にはわからなかった。
未来「丈二ッ!」
丈二「!」ハッ
未来の声に凍て付いた意識が融ける。だが、その瞬間『ウエスタン・ヒーロー』も同じように飴玉を撃ちこまれ、
謎のスタンドから引き剥がされた。
未来「ぐあッ!」バスッ
W・H『ウグオオオオオオオオオ』
じわじわじわじわ・・・
未来「そ、そんな・・・・・・」
『ウエスタン・ヒーロー』。屈強な筋肉の戦士もまた、『ハムバグ』と同じように、数多の蟻と化して消えた。
???『・・・・・・・・・』
未来「・・・・・・」
丈二「・・・み、未来・・・・・・」
部屋から音が消えた。床にへたれこむ二人を見て、彼らにもう脅威を覚えるどころか興味すら失った謎のスタンドが、
無抵抗の丈二から三島 由佳里のケータイ電話を奪った。興味がないのだから、とどめは刺さない。
スタンドは黒い霧状に変化し、その場から消えた。
ケータイとスタンドを奪われた丈二たちは、小屋の外で車のクラクションが鳴るまで、立ち上がることすらできなかった。
プップー!
外で鳴るクラクションに気付き、先に立ち上がったのは未来だった。
飛んでいた集中を取り戻すと、同時に肩の銃創からなる熱い痛みが痛覚を痺れさせた。
「ぐぅ・・・ッ」と呻いて、未来は肩を押さえながら丈二の元へ近寄った。
未来「キャンディは抜けてるな・・・。丈二、立てますか?」
丈二「未来・・・」
未来「行きましょう。外であなたの友達が待ってる」
この感覚はなんだろう。スタンドや、手がかりを失ったことによる喪失感だろうか?
しかし、なにかそれ以上の喪失を感じる。これは、なんだ。
口の中に拡がる、この苦い味は・・・。
丈二「・・・ちくしょう」
これが“敗北”の味か?
丈二「あいつ、なんだったんだ・・・殺しもせずに。クソ・・・虫けらは殺す価値もないってことかよ・・・」
未来「・・・・・」
丈二「負けた・・・クソ、クソッ! ちくしょうッ!」
未来「・・・まだ終わりじゃない。やつより先に、由佳里さんの遺したものを保護しましょう」
丈二「どうやって・・・もうスタンドもない・・・俺たちは・・・」
未来「だけどまだ武器は残ってる。丈二、由佳里さんのケータイを見たんでしょう?
手がかりがあったハズだ。なにか憶えてませんか?」
丈二「・・・・・・番号だ。由佳里は、どこかの番号に何度も電話をかけてた。憶えてる・・・」
未来「わかりました、警視庁で調べてみましょう。さあ、まずは肩の傷を処置しないと・・・・・・」
部屋から出て階段を降り、未来が用意した覆面パトカーに乗り込む。
未来は、航平に「トランクを開けてください。処置キットが入ってる・・・」と告げてトランクを開けさせ、中からキットを取り出した。
航平「だ、大丈夫かよ・・・あんたたち・・・」
未来「痛ッ・・・大丈夫、慣れてますから・・・。外にいた女は?」
航平「どっか行ったよ。ケータイ、取られたんだな・・・」
丈二「・・・・・・」
未来「まだチャンスはある。ここで終わったら、阿部さんにどやされますよ」
丈二「・・・はっ、そうだな・・・」
航平「阿部さん?」
丈二「俺らを鍛えてくれた人だ」
丈二「“阿部のチーム”は、やられっぱなしは絶対に許さねえ。この痛み、100倍にして返してやるぜ・・・!」
―B Part 2024―
◇『組織』アジト・作戦司令室 某時刻
???「未来」
未来「・・・! 阿部さん」
作戦司令室に、『阿部』と呼ばれた顔の濃い長身の、つなぎ姿の男が入室した。
一斉に室内の工作員たちが姿勢を正しくし会釈したことから、阿部がかなり高位の人間であることが見て取れる。
阿部「川崎と三上を送った。すまないな」
未来「・・・あんな奴らの力を借りずとも、俺だけの力で始末できます」
阿部「君の実力は承知だ。だが、俺の『組織』”は裏切り者の存在を絶対に認めない。
目玉をくり抜いて耳を剥いでさらし首にしなければならない」
未来(・・・・・・)
未来(いずれ、“お前の『組織』”ではなくなる・・・)
未来(『組織』・・・この俺の手に・・・)
阿部「ところで未来。城嶋 丈二をチームに誘ったのは、確か君自身だったな」
未来「! ・・・はい」
阿部「“責任”というのは、時に命よりも重い・・・。この騒ぎを招いた“責任”を、君は取るべきだと俺は考えている」
未来「・・・・・・」
阿部「こんなとこで突っ立って、マイク越しに喋りかけるだけじゃ、汚れきったケツは拭えないぞ。
なんで三上と川崎を送り込んだか? その理由を知りたいか」
阿部「これは“競争”だ! お前も行って、凄腕の川崎と三上よりも早く、ヤツを殺せ!
自らの手で城嶋 丈二の首を持ってくるんだ!」
阿部「もしもお前ではなく彼らが城嶋 丈二の生首を持って帰ってきたなら・・・」
未来「・・・・・・」ゴクリ
阿部「そのときはヤツのとお前のとで、二つの生首が並ぶだろう」
未来「!! ・・・・・・承知しました・・・“阿部先生”」
阿部「・・・・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
◇新宿駅・南口 同時刻
停まった一台の黒いバン。その中で、藍川 比奈乃と吉田 忍の二人が、プロレス用のマスクを着用し、
アジトに残した真崎 航平との、通信チェックを行っていた。
航平<よし、回線良好だ。無線機は外すなよ、わかってるな?>
比奈乃「良好良好! わかってるよ、任せて!」
忍「おいヒナ! なんだこのマスクはふざけてんのか! こんなん怪しすぎるだろうが、バカヤロウ!」
比奈乃「なによ。なにしてたって、覆面なんかみんな怪しいでしょうが」
忍「もっと映画の強盗とかで使われるああいうやつをだな・・・こんなんダセエ・・・っておい!」
いつもの難癖は無視して、仕度を済ませた比奈乃がバンから降りた。
続けて忍も降り、銃のセーフティーロックを解除する。
比奈乃「さあ行くよ。丈二を助ける!」
二人は今日はいつもの黒いコートを捨て、さきほど買ったばかりのリクルートスーツを着ていた。
忍「あーあ。就活中の学生には見えねえな」
新品のスーツ姿で、頭には覆面レスラーのマスク。その怪しすぎる見た目の二人は、駅前の人々の注目を一点に浴びながら、
駅構内へと入っていった。
◇新宿駅構内・小田急線改札口前 同時刻
早歩きで構内をぐんぐんと進む丈二と須藤と、ぴったり後をつける四人の追っ手。
「始末するぞ」と須藤が呟き、丈二がそれに頷く。
改札前のトイレへ折れた丈二と須藤は、それぞれ男性、女性用トイレへと入り、待ち伏せを始めた。
追っ手を誘い込み、ここでカタをつけるつもりである。
ババア「きゃあ! ちょっと、こっちは女性用よ!」
須藤「・・・・・・」キョロキョロ
ババア「聞いてるのッ!?」
須藤「黙って隠れてろババア・・・巻き込まれたくなかったらな」
工作員1「ターゲット、トイレに入った」
工作員2「本部、指示を」
通信士<突入しろ。目撃者も全員殺せ>
工作員3「了解した」
男性用トイレに入った丈二が、手洗い場の排水溝に布を詰める。
蛇口から水を流し水を溜めると、そこに赤のペンキ缶から赤ペンキを出し入れ、水に溶かしはじめた。
オッサン「おい、なにしてんだガキ。水遊びしてんじゃねえ」
丈二「あっち行けよオッサン。ここは危ない」ジャプジャプ
オッサン「あァ!? こら、てめえ!」
丈二「!! 来るぞ、伏せろッ!」
工作員「!」バッ
ババババババババババババババババババババババババババッ
マシンガンを構えた二人の工作員が、トイレに入るや否や、引き金を引いてトイレ中に弾丸をばら撒いた。
オッサン「うああああああああああああああ」
丈二「『アークティック・モンキーズ』ッ!」ドバァーン
A・モンキーズ『ムヒィ!』ごろごろ
咄嗟に伏せた二人の頭上で、二人の工作員たちが放つ無数の鉛玉が飛び交う。
マシンガンの弾は白いタイルの壁に穴をあけ、手洗い場の鏡を割り、個室を使い物にならなくする。
引き金を引くのに夢中な彼らの足元に、『アークティック・モンキーズ』がくるりと前転して近づく。
立ち上がった『アークティック・モンキーズ』は小さな拳を一人の右すねに叩き込み、体勢を崩させた。
A・モンキーズ『ムヒィィ!』バキィッ!
工作員1「ぐあああ!」グラァ
バシャーン
よろけた工作員が“赤い水”が溜まった洗面台に顔を突っ込む。
すると『アークティック・モンキーズ』が男の頭へと飛び上がり、そのまま男の体を引き連れて赤い水へ沈んでいった。
ごぽぽぽ・・・
工作員2「!? なにをしたァァ!」
引き金にかける指が緩んだその一瞬に、丈二は残った方の男のみぞおちに飛び膝蹴りを叩き込む。
右ひじで男の持つマシンガンをはたき落とすと、その勢いを利用した強烈な右フックを男の顔面に打ち据えた。
丈二「おら!」ドゴッ
工作員2「ぐふっ」
それから取っ組み合いになった二人は、互いの体を激しく壁や鏡に打ちつけながら、体術の応酬を繰り広げる。
ドガッ! バキッ! ドゴッ!
オッサン「ひいいいいいいいいいいいい」ガクブルガクブル
殴り合いの隙をついて、工作員の男が懐から小型拳銃を引き抜く。
工作員2「死ね!」カチャリ
丈二「くッ」シュッ
ほぼ同時にダガーナイフを引き抜いた丈二が、銀に光る刃を振り上げ、銃を握る男の右手を手首から切り離した。
ブシャアアアアア
工作員2「ひぎゃああああああああああああああああ」
丈二「うおおおおおおおおおおおおッ!!」
丈二は振り上げた右腕に全身全霊の力を込めて、そのまま男の頭部へ向かい、ダガーナイフを振り落とした。
男の頭部は右の眼球を境にして、斜めに切り落とされた。
丈二「ハァ、ハァ・・・」
オッサン「あ、アンタ・・・なにもんだ」
丈二「ハァ、ハァ・・・悪者だよ」
男の死体を蹴ってどかし、血で汚れた顔を拭って、丈二はそう言った。
男子トイレから出ると、女子トイレの前で先に事を終わらせた須藤が立っていた。
須藤「ずいぶんなツラだな。済んだか」
丈二「ああ。汗ひとつかいてないな、お前」
須藤「非スタンド使いにてこずるわけがない。君とは違うんだよ」
丈二「言ってろよ・・・。さっさと行くぞ」
◇新宿駅東口・改札 panKing panQueen前 某時刻
駅構内・東口出口付近。改札を抜けた丈二と須藤は、
『panKing panQueen(パンキング・パンクイーン)』と呼ばれる人気のベーカリーショップの前に来た。
店脇の奥に、地上出口へ続く階段が見える。ここまで来れば、外に待機させてある須藤の乗り換え様の車両はあと一歩である。
人混みの中、掻き分けるように階段へ向かう二人の後方で、突如聞きなれた爆裂音が響いた。
ばばばばばばばばばばッ!
丈二・須藤「「!?」」
それから一拍置いて、地を割るような悲鳴が、複数重なって大きな波となり、その場を呑み込んだ。
きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
丈二と須藤を追ってきた『組織』のスタンド使い、三上と川崎の二人が、改札を挟んだ向こう側で、
マシンガンを乱射しはじめたのだ。
三上「はははははははは」バババババッバババ
川崎「・・・・・・・・・」バババババババババババ
瞬く間にパニックが広がり、構内の数多の人間たちが絶叫しながら逃げ惑う。
我先にと老人や子どもを押しのけ、倒れた人の背中をたくさんの足が踏み鳴らす。
次々に弾丸を浴びて倒れていく人々を目の前にして、彼らにもはや冷静な思考や行動はなかった。
誰もが誰もを盾にし、置き去りにし、飛び交う凶弾に貫かれ、わけのわからぬまま殺される。
そこに、年齢や性別の差などなかった。
“無差別殺人”だった。
須藤「あのクズども・・・・・・」
丈二「一般人もお構いなしか、クソ・・・!」
どけえええええ通してくれええええええええええええええ
うあああああああああ 助けてええええええええええええ
きゃああああああああああああああああああああああああ
ああ、神様・・・神様・・・・・・!!!
三上「城おお嶋ぁぁぁ! はやく出て来いおらぁぁぁぁ」
ふと、須藤は改札の前に佇む二人の少年を見た。兄弟だろうか?
幼い方の男の子は、無数の死体が転がる駅構内で、一人の女性の死体のそばから離れようとしない。
大きいの方(たぶん兄)の少年は泣きながら、弟の手を取って逃げようとしていた。
弟「ママああああ起きてええええ」ボロボロ
兄「いくぞ! ママは死んじゃったんだ!」ボロボロ
弟「いやだあああママあああああああ」ボロボロ
バババババババババババババババババババババババババババ
須藤「おい、まずいぞあの子ども・・・」
丈二「なッ・・・・・・」
三上と川崎の銃口が、幼い兄弟の背中に向いたそのときだった。
突然、横からすっと飛び出した二人組みが、それぞれ少年たちを抱きかかえて放たれた凶弾を回避した。
二人組みはお返しにとサイレンサーの付いた拳銃を三上と川崎に向け、発砲した。
丈二と須藤は、地上へ出るのも忘れて彼らの銃撃戦に見入ってしまっていた。
何故ならその二人は、リクルートスーツにプロレスのマスクという、あまりにヘンテコな格好をしていたからだ。
須藤「!? なンだ?」
比奈乃「丈二!」ビュンビュン!
その内の一人が、丈二の名前を呼んだ。その声には聞き覚えがあった。
丈二「まさか・・・ヒナか?」
比奈乃「この子をお願いッ!」
そう言って、比奈乃ともう一人が抱き上げた少年たちを解放し、丈二の元へやって寄越した。
忍「ガキどもを安全なところへ! 頼んだぜ!」
ビュンビュン!
三上「チッ・・・ンだ、こいつら・・・・・・」
川崎「! 見ろ、城嶋だ!」
三上「!」
ビュン! ビュン!
丈二「忍、お前も・・・・・・! なんで、俺を逃がしてくれるのか?」
忍「ま、タダじゃねえけどなァ~~~」ビュンビュン!
比奈乃「後日きちんと説明してもらうけどねっ」ビュンビュン!
丈二「お前ら・・・・・・」
須藤「・・・・・・・・・」
忍「行けッ!」
丈二「・・・恩に着るッ! この子たちは任せろッ!」
須藤「行くぞッ! 付いてこいッ!」
兄弟「・・・・・・」コクッ
比奈乃と忍に背を向けて、丈二と須藤は幼い兄弟を連れ、地上出口へ続く階段に足をかけた。
三上「おい、城嶋が行っちまうぞ!」
川崎「行かせるかッ!」
二人は撃ちつくしたマシンガンを捨てて走り出し、改札を飛び越える。
忍「こっちのセリフだろてめェ!」
待ち構えていた二人が中空に飛び上がった三上と川崎の体に、ダガーナイフの切っ先を突きつける。
しかしナイフはぶすりと敵の胸を貫くことはなく、まるで巨大な磁石に吸い取られるかのごとく、
二人の手から逃げるように飛び離れて、川崎の掌におさまった。
すると、ダガーナイフは川崎の手の中でどろどろの液状になり、重力を無視して浮かぶ水玉と化した。
比奈乃「くっ、『メタル・ジャスティス』か・・・!」
川崎「藍川に吉田・・・か? 未来のチームの」
三上「お前らなんなんだそのカッコ?」
比奈乃「げッ、バレてるし・・・・・・」
川崎「マスクを取ったらどうだ」
一旦距離を置いて、比奈乃と忍は互いにマスクを脱ぎ捨てた。
忍「ふゥ。まぁ、こっちのがやりやすいわな」
川崎「お前らなんのつもりなんだ。この馴れ合いチームが」
三上「てめえらも『組織』に消されるぞ。わかってんのか?」
比奈乃「目撃者がいなきゃ、私たちの行為はバレない」
忍「つーことだバカヤロウ。おめーらをぶっ殺せばなんの問題もねえ」
川崎「バカか? 駅の監視カメラにはマスクを脱いだお前らの顔がばっちり残ってるだろ。
・・・・・・まあ、今から死ぬんだ。そんな心配別にいらないだろうがな」
三上「握り潰してやるぜ、クソガキども・・・!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
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