―A Part 2027―
◇警視庁・本庁舎 エントランスホール PM3:03
航平「・・・・・・」
警視庁本庁舎。広々としたエントランスホールで、航平はソファに腰掛けながら腕時計をちらちらと気にしていた。
丈二の恋人、三島 由佳里のケータイ電話に残されていた、謎の電話番号。
三島 由佳里は生前、その番号に幾度となく電話をかけている。彼女の死と、彼女を死に追いやった連中を結ぶ接点はその番号だ。
航平と未来の二人は、丈二をマユの住んでいた廃工場に残し、警視庁のシステムを使って番号を調べるために、
ここ本庁舎に来ていたのだった。
未来「航平くん! お待たせしました」
航平「番号はわかったんですか?」
未来「ええ。警察官やってて初めて良かったと思いましたよ。早く丈二のもとへ戻りましょう」
航平「・・・・・・」
丈二を置いてきたのは、世間的に見れば彼の立場が“逃亡中の殺人犯”だからだ。
警察敷地内につれてくるのは、腹をすかせたライオンの檻に生肉を放り込むのと同義である。
無論、丈二は実際には三島 由佳里の殺害には関与していないので無実ではあるが、今は逮捕されるわけにはいかない。
一刻も早く“テント”なるものを見つけて保護しなければ、三島 由佳里の最期の願いが潰えてしまう。
本庁舎から出た二人は、覆面パトカーに乗り込んだ。キーを差し込んだ未来の隣で、航平がぼそりと呟く。
航平「・・・・・・死んだんだ」ボソリ
未来「え?」
航平「藍川ってコンビニ店員の娘や・・・マユって名前の女の子が・・・
俺の目の前で死んだ。関係ない人たちだ」
未来「・・・・・・」
航平「あの連中は当然許せない。許されるべきじゃない。だけど・・・・・・」
航平「城嶋 丈二。あいつにも・・・責任があると思う。彼女たちが死んだのは・・・」
未来「丈二のせいだと?」
航平「関係ない人を巻き込んでる。俺もそうだ。あいつは、丈二は。みんなの人生を脅かしてる」
未来「・・・・・・」
航平「由佳里さんのことは残念だ。でもそれは、決して免罪符にはならないはずだ」
航平「あいつも・・・裁かれるべきなんだよ。だから・・・」
未来「・・・・・・・・・」
航平「“テント”を見つけて、全部が終わったら・・・・・・
アンタの手で、丈二を逮捕してやってくれないか」
未来「・・・・・・・・・」
◇都内某所・廃工場 PM3:31
丈二「“児童養護施設”?」
二人に合流した丈二は、未来が持ってきた調査結果の意外さに、信じがたいといった顔をした。
未来「都内にある民間の児童養護施設『虹の園(にじのえん)』という場所です。
由佳里さんのケータイにあった番号は、ここのものでした」
航平「でも、なんでそんなとこに電話を?」
未来「丈二。由佳里さんの仕事は社会福祉士ですか?」
丈二「いや・・・由佳里は普通の・・・・・・」
航平「・・・?」
未来「・・・“記者”だ。週刊誌の記事を書いてた・・・って聞いてる」
航平「“記者”・・・」
未来「実は、『虹の園』についてもちょっと調べてみたんですが、
一時期ここの施設、ワイドショーでも取り上げられてたことがあるみたいなんです」
丈二「え?」
未来「数年前ですが、ここの施設“裁判沙汰”を起こしてました。
数名の職員が訴訟を受けたみたいですね」
航平「訴訟?」
未来「卒園した青年が告発したそうです。
ここの園は、“子どもを監禁している”・・・と」
丈二「監禁・・・・・・」
未来「結局訴えは取り下げられたらしく、真相はうやむやですが・・・・・・。
由佳里さんが記者ってことは、この事件を追っていたとは考えられませんか?」
丈二「・・・・・・」
未来「今から行ってみますか? 30分でつく距離だ」
丈二「ああ。行ってみよう」
◇児童養護施設『虹の園』 PM4:10
『虹の園』へやってきた三人は、車を施設の裏の駐車場に停めた。『虹の園』は、例えるなら幼稚園のような場所だった。
建物は一階建ての平屋で、四つの棟が中央の庭を囲むようにつながっている。
丈二たちは西の棟の玄関へまわり、インターホンを押そうと指を伸ばした。
航平が、丈二の肩に手を置いていった。
航平「きみは逃亡中の身だ。車で待機していたほうがよくないか?」
丈二「わかってる・・・でもどうしても調べたいんだ、この手で」
航平「・・・わかった」
ジリリリリ
インターホンが鳴り響き、しばらくすると、建物から一人の女性職員が、二人の子どもと手を繋ぎながら現れた。
恰幅のいい中年女性と、小学校低学年と思われる二人の少女。
職員の女性は三人の顔をそれぞれ順に見やると、肉厚の唇を開き落ち着いた口調で話し始めました。
職員「はい。どのようなご用件でしょうか」
丈二「あ、あの・・・・・・」
職員「?」
女児1「お兄ちゃんたちだぁれ?」
女児2「新しい先生?」
丈二「あ、いや・・・・・・」
丈二(未来、こういうときなんて言えばいいんだ)ボソッ
未来「・・・・・・少しお話を伺いたいのですが、お時間よろしいですか?」
職員「どのような?」
未来「以前騒がれていたここの噂について、です」
職員「・・・・・・お帰りください。お話することはなにもありません」
未来「今更なにをしようというわけではありません。単なる興味でして・・・・・・」
職員「お帰りください」
未来(ダメか・・・・・・)
航平「・・・・・・あ、あの!」
職員「?」
航平「あの、俺いま大学で福祉を学んでて・・・将来、児童福祉司になろうと思ってんです」
丈二「あ・・・俺もです」
航平「お話聞こうってのも、なんつうかついでって感じで・・・
もしよかったら、その話は別にいいんで施設の見学とか、させてもらえませんか?」
職員「・・・・・・学生証は?」
航平「あ、いまないンすけど・・・・・・学籍番号と所属言いますね。メモとかあります?」
職員「・・・・・・・・・」ジロリ
丈二「・・・・・・」ゴクリ
職員「・・・いいわ。中へどうぞ。くれぐれも子どもたちには変な話をしないように。いいですね」
未来「はい。わかりました。失礼しました」
スタスタスタスタスタ
未来(ナイスです、航平くん)ボソッ
丈二(とんだウソつきだぜ)ボソッ
航平(・・・・・・)
◇児童養護施設『虹の園』園内 PM4:40
職員の女性に連れられ、園内を見て回る三人。
だが特に、変なところは見付からない。子どもたちものびのびと遊んでいるし、とても監禁事件があった場所には思えなかった。
三人は四つの棟に囲まれた敷地中央に位置する園庭で、シーソーに腰掛けて元気に遊ぶ子供たちを眺めていた。
丈二「なんか気になるところあったか?」
未来「いいえ。監禁できるような場所もないですし・・・・・・」
こどもたち「ねーねーお兄ちゃん達、一緒にサッカーしようよ!」
丈二「航平、やってくれば?」
航平「なんでおれ・・・まあいいけど」
こどもたち「お兄ちゃん変な髪! サッカーつよい?」
航平「変って・・・・・・ああ、強いよ」
こどもたち「こっちチームねー!」
わーわーわーわー
子ども達に囲まれながら、航平が庭の中央へと引っ張られて行く。
この施設はかなり敷地面積が広く、園庭も学校の校庭並みとはいかないが、それなりの広大さをもっていた。
連れて行かれる航平の姿を眺めながら、丈二がぼそりと呟いた。
丈二「かわいいねぇ・・・子どもはさ」
未来「・・・あれ、丈二。タバコはどうしたんです?」
丈二「あん?」
未来「いつもそういう目でなにかをボーッと眺めてるときは、いつも口にタバコくわえてるでしょう。
まあ単純に子どものいる場所だし、ってことですよね」
丈二「あー俺さ。タバコやめたんだよね・・・まあついさっき決めたことなんだけど。もう捨てちまった」
未来「えぇ? なんでです?」
丈二「・・・・・・」
未来「?」
丈二「・・・・・・由佳里はさ。あいつは、いつも言ってたんだよ。タバコなんかやめろって」
丈二「あいつはもういないから、なにを今更って感じだよな。
でもさ、あいつが望んでたこと、これからちょっとずつしてこっかな、って思ってさ」
丈二「“テント”を探してるのもそのためだ。あいつが俺に頼んだから、最期に望んだから。
だから俺は、なにがあってもどんなことをしても、“テント”を探し出して、護る。たとえそれがどんなものであっても」
未来「・・・・・・」
丈二「あいつが望んだことをこれから一つずつ、こなしていって・・・・・
あいつが望んだ人間に、一歩ずつでも近づいていければ・・・・・」
丈二「俺はいつか、自分を許してやれると思うんだ」
未来「・・・由佳里さんの死は君の責任じゃない。自分を責めないでください」
丈二「・・・・・・」
未来「探し出しましょう丈二。由佳里さんの魂と、君の魂を救うために。僕も全力を尽くします」
丈二「・・・・・・ああ」
ふと園庭の隅を見やった丈二は、あることに気が付いた。
丈二「?」
未来「どうしました?」
丈二「いや、あそこの“砂場”さ・・・
“誰も遊んでない”んだよな。こんなにいっぱい子どもたちいるのに」
未来「・・・確かに。遊ばれた形跡もないようにキレイなままですね」
職員「学生さん」
丈二「・・・あ。どうも」
職員「そろそろ子ども達は晩御飯の準備をする時間なのです。
この辺でそろそろ・・・・・・」
未来「ああ、はい。わかりました帰ります」
丈二「あの。最後に質問いいですか?」
職員「?」
丈二「ここ最近・・・誰か俺らみたいに、ここの話を聞きたがった人から、コンタクトありました?」
職員「・・・・・・」
丈二「・・・・・・」
職員「いえ。あなたたちぐらいよ、そんな物好きは」
丈二(・・・・・・やっぱりだ)
丈二(この女、ウソを付いてるッ! なにか隠してるんだ、“この場所”にッ!)
―B Part 2024―
◇『組織』アジト・地下駐車場 同時刻
航平「・・・ぅっ、くッ・・・・・・」ずるずる
真崎 航平は、駐車場の地面を這っていた。顔は醜く腫れ上がり、鼻や口の周りは赤黒い血で濡れている。
衣服の下の肉体には凄まじい殴打のあとが刻まれており、あらゆる箇所の骨が数本砕けている。
あまりに、一方的な暴力だった。自分も同じスタンド使い。互角とまではいかなくとも、妨害くらいはできるはず。
それは甘い考えだった。
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
航平「・・・・・・・!」ゾクッ
体に刻み込まれた拳のラッシュの記憶が、フラッシュバックする。
あそこまで、強烈なものなのか。あそこまで、手が出せないものなのか。あそこまで、実力差は開いているものなのか。
あそこまで・・・・・・
航平「・・・・・・」ガクガクブルブル
冷酷な顔を、人はできるものなのか。
航平(や、ヤバすぎる・・・・・・)ゴホッ
航平(丈二・・・・・・みんな・・・・・・すまん・・・・・・)
航平(逃げてくれ・・・殺されるぞ・・・・・・!)
◇新宿駅・東口出口 同時刻
駅員「えー、ただいま! 駅構内で通り魔事件が発生した模様です!
確認が取れるまでは、みなさん駅には入らないでください!!」
駅から出ると、辺りは騒音の嵐だった。なんだか頭を思いっきり殴られたように感じて、丈二はふらついた。
救急車、警察車両のけたたましく鳴り響くサイレン。駅員の拡声器。野次馬どもの怒号。
新宿駅には溢れんばかりの人だまり。泣いたり、怒鳴ったり、叫んだり。
それぞれの暴力的な音が連鎖して、巨大な波を生み出している。それは、混乱を伴って平穏な日常を呑み込んでいく。
どーなってんだよォォ!!
中に入れてェェ! こどもがまだ中に・・・・・・
帰りたいよ・・・帰りたいよ・・・
おい、こっちに救急隊まだかよォ! 死んじまうだろォ!!
なにしてんの、はやく犯人捕まえてきてよ!!
ふざけんなバカヤロー!!
丈二「クソ・・・マジかよ・・・どうなってんだよ・・・・・・チクショウッ」
須藤「なんて事態だ・・・・・・」
救急隊「大丈夫ですか!? お怪我は!?」タタタ
須藤「俺たちは大丈夫だ! この子たちを頼む!」
丈二「これ、全部・・・俺たちが招いたことなのか・・・・・・?」
須藤「考えるな・・・とりあえず、移動するぞ。直に交通規制がかかる。はやく動かないと・・・」
そのときだった。
ゴオオオオ
丈二「・・・え?」
辺りが急に真っ暗になった。
なにかが、街のネオンや月明かりを遮っている。
この、空を裂く音は?
ゴオオオオオオオオオオオッ!
須藤「城ォォォォ嶋ァァァァァァァァッ!!」
丈二「・・・・・・」
頭上を見上げると、そこにはあったのは紺色の新宿の空でなく、鉄の塊に塗られた赤色と白色だった。
救急車が、丈二の頭上から落ちてきていたのだった。
ドスゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
一般人「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ」
丈二と須藤はなんとか寸前で回避したが、周りの人間はダメだった。
救急隊員、警察官、野次馬、そして・・・比奈乃と忍が救った幼い兄弟。
彼らはまとめて空から降る巨大な質量に押し潰され、赤い液体へと変質した。
丈二「・・・・・・う、」
丈二「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
須藤「!! 城嶋、逃げろッ!」
ドゴォォォォ!
一瞬早く察知した須藤の言葉で、丈二は沸騰した脳みそを素早く冷却し、続けて天より来る攻撃にそなえられた。
それは拳だった。鉄のように硬く重い、ミサイルのようなパンチ。咄嗟に『アークティック・モンキーズ』を出現させ、
その両腕で拳を受け止めた丈二は、飛来した敵の顔を見て、絶句した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
未来「・・・・・・・・・」
W・ヒーロー『・・・・・・・・・』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
丈二「み、未来・・・・・・!」
W・ヒーロー『・・・・・・・・』
未来のスタンド、『ウエスタン・ヒーロー』が受け止められた方でない腕をゆっくりと振り上げる。
やがて、腕の筋肉が風船のように膨張し、掌が拳と変わる。
須藤「『ワンステップ・フォワード』ッ!」ドバァァァン!
O・F『・・・・・・』
須藤「どけぇッ! 城嶋ッ!!!」
ドンッ!
須藤のタックルが丈二を突き飛ばす。『ウエスタン・ヒーロー』のパンチを、代わりに受けたのは須藤だった。
ドバァァァァァァ!
須藤(あ、れ・・・・・・)
パンチを受けたのは右肩だった。須藤は薄れいく意識の中で、“肩ごと胴体から引き千切られた、右腕”をぼんやり眺めていた。
大量の血が桜吹雪のように舞い、吹き飛んだ右腕が、まるでダンスのように・・・・・・
ドサァァァッ!
丈二「す、須藤・・・・・・」
丈二「おいッ! 須藤! 須藤ッ!」
丈二(パ、パンチ一発で・・・右腕が吹き飛んだ・・・だと・・・!?)
須藤「じ、城嶋・・・・・・」ドクドクドク
須藤「俺の腕・・・どこ・・・行った・・・? これじゃあ、ツイスター・・・できね・・・ぇな・・・・・・」ガフッ
丈二「やめろッ! 死ぬな! 須藤ッ!」
須藤「城・・・・・・嶋・・・。会いに・・・行け・・・・・・。全てを・・・・・・思い・・・・・出して・・・・・
そして・・・・・・・・・取り戻すンだ・・・・・・」
丈二「誰だ! 誰のことだ!?」
須藤「ミ・・・・・・」
須藤「ミ・・・・・シェル・・・・・・ブランチ・・・・・・・」
丈二「!!」
それが彼の最後の言葉だった。須藤の体が急激に冷たくなっていく。
人が物に変わる瞬間の感覚を味わいながら、丈二は須藤の最後の言葉を反芻していた。
丈二「ミシェル・・・!?」
未来「・・・・・・城嶋、丈二・・・・・・!」ザッ
丈二「!」
丈二「・・・・・・・・・倉井 未来・・・・・・」
未来「来い丈二。お前の腕を見せてみろ・・・・・・」クイッ
丈二「クソ・・・・・・やるしかないのか・・・・・・!」
周りの喧騒は一層に勢いを増す。血と炎と絶望で彩られた新宿。
月明かりと、ネオンと、サイレンの赤い光を浴びて、丈二と未来、二人の男は対峙していた。
―A Part 2027―
◇児童養護施設『虹の園』 AM4:41
まだ空が暗い夜明け前。丈二と航平、未来の三人は、『虹の園』へ再び訪れていた。
しかし、敷地内に入るのに今回はインターホンは使わない。招き入れてもらうつもりなどない。
忍び込む。
外から棟の中を覗き、中に赤いポスターを発見した丈二は、棟の外壁に赤ペンキを塗り始めた。
赤ペンキから入り、ポスターから中に出るつもりである。
ペタペタ
航平「不法侵入に器物破損か。立派な犯罪者だぜ」
丈二「黙れ」
航平「こうまでしてここになにもなかったらどうする!?」
丈二「絶対にある。手を汚すのが嫌なら車ん中にいろ」
航平「なんで断言できる・・・・・・」
丈二「塗ったぞ。順番に入ろう」
『アークティック・モンキーズ』のエスコートで、一人ずつ“赤の中”へ入っていく。
丈二「『ハムバグ』は失ったが・・・なぜか『アークティック・モンキーズ』は残った」
未来「不幸中の幸いですね・・・」
壁のポスターから出た三人はそれから真っ直ぐに、園長室へ向かった。
ガチャガチャ
未来「閉まってますね」
丈二「壊すか」
未来「!! しっ、待って!」
そのとき、未来は園内中央の園庭の砂場に、誰かいることに気が付いた。
未来「・・・・・・きみ、何してるの?」
その子は、『虹の園』で最初に出会った女児の一人だった。ゆっくりと近づいた未来が声をかけると、女児は振り返り、
手に付いた砂を払って言った。
女児「お兄さん。この下にね、“男の子”が住んでるんだよ」
丈二「はぁ、男の子? 住んでる?」
女児「うん。先生は近づいちゃダメだ、っていうの。その話はしちゃダメだって。
でもみんな知ってる。だからわたし、いつも会いに来るの。でも開かないから会えないの
航平「待って。住んでるって・・・この下? 砂場の下?」
女児「そうだよ。お兄さん、開けて」
砂を払い、地面に触れてみる。そこは普通のコンクリートだった。
取っ手らしきものは見付からない。
未来「この下に・・・男の子だって? でも、どうやって入るっていうんだ、ただの地面だ」
女児「ほんとにいるもん!」
丈二「・・・・・・監禁」
航平「!」
丈二「入れもしないが、出れもしない・・・。閉じ込めてるんだ、この下に・・・!」
未来「! 待って、丈二! 早まらないでッ!」
丈二「『アークティック・モンキーズ』ッ!」
A・モンキーズ『ムヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!』ドバァァァン!
飛び出した小猿のスタンドが、小さな体格からは想像もできないほど大きなパワーで、
拳を懸命にコンクリートへ打ちつける。あたりに大きな音が響き渡り、未来と航平はあわてて丈二に取り付いた。
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!
A・モンキーズ『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ』
未来「丈二! まずいですよ!」
航平「みんなが起きるぞ!」
やがて地面に亀裂が入り、ついにコンクリートは砕け散った。
そしてその破片が――――穴の底に、落下した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
未来「ま、まさか・・・・・・」
航平「ち、地下室が・・・・・・・・・」
丈二「おいッ! 誰かいるのか! 返事しろッ!」
穴を覗きこむ四人。コンクリートの下は、小さな個室だった。
部屋の隅に、男の子がいる。眠っていた男の子は頭上から呼びかけに目を覚まし、立ち上がって丈二たちを見上げた。
まぶしそうに、目を手で覆った。
女児「あー! “テント”くん! 見っけ!」
女児が男児を指差して、そう言った。
瞬間、三人の体に、雷に打たれたような衝撃が走った。
丈二「・・・・・・なんて?」
女児「“テント”くんだよ! 『雨宮 天斗(あまみや てんと)』くん!
昔からここに住んでるんだよ!」
航平「て、天斗・・・・・・・・・」
未来「そんな・・・ことって・・・」
丈二「“テント”・・・この子の名前か・・・雨宮 天斗・・・・・・・・・!」
天斗「・・・・・・・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
―B Part 2024―
◇都内某所・とあるアパート 某時刻
4畳のリビング。その狭い部屋は散らかっていて、足の踏み場がない。
中央に置かれたこたつに包まって、テレビをボーッと眺めている一人の青年。
大学生になって一人暮らしを始めてから、ずぼらな性格が災いして自堕落極まった怠惰な日常を送るその青年は、
歌番組の放送を見ながら、ぼそりと呟いた。
<次のステージは、現在来日中のミシェル・ブランチさんです>
青年「はぁ・・・・・・」
<なんと今回はMテスでしか見られない、一夜限りのスペシャル・ステージ! 最後までお楽しみください!>
青年「可愛いなぁ・・・ミシェル・ブランチ」
<♪~ Everything comes and goes ~♪ I'm always the last to know ~♪>
画面の向こうで、ギター片手に熱唱するのは人気シンガー『ミシェル・ブランチ』。
日本でツアー中ということらしく、現在来日中でテレビにも引っ張りだこの彼女が、この青年は大のお気に入りなのだ。
<ありがとうございました。ミシェル・ブランチさんでした~>
青年「アルバム聴いて寝るか・・・・・・」
突然、テレビが緊急ニュース速報に切り替わった。
新宿での銃の乱射事件のニュースだが、切り替わるとほぼ同時に、青年はテレビの電源を落としてしまっていた。
そのとき、青年の部屋のチャイムが鳴った。
ピンポーン
青年「誰だ?」
ガチャリ
青年「どなた?」
女性「oh! あなたが『福野 一樹(ふくの かずき)』?」
カズ「そうですけど・・・ん、外人さん?」
『福野 一樹』の部屋の外にいたのは、やたら日本語が堪能な外国人女性だった。
目深に帽子を被り、サングラスで顔を隠している。
女性はにっこり微笑むと、サングラスを外してその美しい瞳を煌かせた。
ミシェル「私、『ミシェル・ブランチ』って言うの。よろしくね~。
さて、カズ。あなたに会わせたい人がいるから、ついてきてくれるかしら?」
カズ「・・・・・・ミシェル・ブランチ?」
カズ「・・・・・・・・・」
ミシェル「一緒にきて~怪しいものじゃないから! プリーズ!
あなたをずっと探してたのよ!」
カズ「・・・・・・・・」
カズ「え、えええええええええ」
カズ「うえええええええええええええええッ! み、ミシェル・ブランチィィィィッ!!!!??」
福野 一樹の近所迷惑極まる絶叫が、ボロアパート全体をがたがたと揺らした。
ミシェルはそれでもにこやかな表情を崩さず、ひたすら彼に同行を求めていた。
◆キャラクター紹介 その4
『組織』~阿部とその他
阿部(マーラ・ザ・ビッグボス)
―A Part 2027―
死亡済み。(2024年に平田に殺害されている)
―B Part 2024―
『組織』の創設者であり、現時点での最高責任者。
川崎 祐介(メタル・ジャスティス)
―A Part 2027―
死亡済み。(2024年に那由多に殺害されている)
―B Part 2024―
『組織』暗殺チームの一人。冷酷な性格。
三上 猛(キングス・オブ・レオン)
―A Part 2027―
廃人。
―B Part 2024―
『組織』暗殺チームの一人。戦闘狂。
敵対組織のスタンド使い
須藤(ワンステップフォワード)
―A Part 2027―
死亡済み。(2024年に丈二に殺害されている)
―B Part 2024―
敵対組織のスタンド使い。丈二へのリベンジを狙い、丈二の記憶を取り戻すため一時的に丈二に協力。
ミシェル・ブランチの指示で丈二をミシェルに会わせようとしていた。
未来の『ウエスタン・ヒーロー』の攻撃を受け、死亡。
ミシェル・ブランチの指示で丈二をミシェルに会わせようとしていた。
未来の『ウエスタン・ヒーロー』の攻撃を受け、死亡。
※ ―A Part 2027― (2027年。前作のその後の世界)
※ ―B Part 2024― (2024年。前作と異なる世界)
※ ―B Part 2024― (2024年。前作と異なる世界)
第5話 夜明け前(Breaking And Entering)おわり
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