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第09話『それぞれの試練(Everything Comes And Goes Pt.1)』その①

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orisuta

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  ―B Part 2024―  



◇都内某水族館 AM2:00


バチィッ!

鋭い雷鳴と同時に瞬いた閃光が、あたりを一瞬白く照らした。
真っ暗な館内の床に、水槽の暗い青の光が浮かび上がる。

男「う、うあああ!!」バババババ!

突如瞬いた閃光に驚いた男が、半狂乱のまま脇に抱えたサブマシンガンの引き金を引き、周囲の暗闇に弾丸をばらまいた。
闇雲に放たれたでたらめな弾丸は、姿を見せない“敵”ではなく、水槽のガラスに食い込んだ。
ぴきぴきと音を立てて、亀裂の入った水槽が中からの圧に耐えられなくなり、決壊する。
砕けたガラスが欠片となって飛び散ると同時に、大量の水が激流となってフロアに流れ込んだ。

ザバーッ

男「く…く……ど、どこだ……」

男「!!」

そのとき、男の足元を濡らした水槽の水が、突然ゼリーのような物質に変容した。
液体のそれではない粘度と強度に足を取られた男に、闇からすっと現れた“敵”が言った。

忍「“水槽を割る”、か……。そりゃ失敗だったな」スッ……

男「な、なんだこれ! 足が動かんッ!!」

忍「『ナイン・インチ・ネイルズ』……足元の水をどろどろの物質に変えさせてもらったぜ」
NIN『キシャーッ!』

男「クソッ!」バッ

男が忍に、サブマシンガンの銃口を向ける。しかし引き金を引く前に、男の指の骨が砕けた。

男「ぐああああああああああ」ベキベキベキ

非スタンド使いの男には、自分の右手の人差し指、中指、薬指の三本は突然ひとりでに折れたように見えていた。
しかし実際は異なる。一瞬で男のそばまで近づいた『ナイン・インチ・ネイルズ』が、強大な握力で彼の指をつまようじのように折ったのだった。

忍「残念だったな。お前みたいな雑魚は本来は仕事じゃねえが……今は点数稼ぎしねえとなんねー」

男「ククク……バカどもがいい気になるなよ……! 
  てめえら『組織』なん…ぎゃああああああああああああああああああああ」バチバチバチバチバチ!!

男が言い終える前に、男の足元から這い上がった“藍色の電撃”が、波打つように男の全身を走り、その身を焼き焦がした。
服や髪が焼け落ち、体中を炙られたその体が、大きな炭と化してその場に崩れるように倒れた。

忍「バカはてめえだろ。足元が水に浸かってる時点で、もう詰んでんだよ」

比奈乃「こげくさっ」
DB『……』バチバチッ

床を満たしていた半液状の水に放電を終えた『ダーケスト・ブルー』を侍らせて、比奈乃が右手で鼻をつまみながら言った。
彼女の切断された両腕は、綺麗に復活していた。

忍「腕は大丈夫そうだな」

比奈乃「忍もね。調子はバッチリだね」

二人は互いの顔を見合わせ、にんまりと笑った。
 
 
 




一か月前

◇都内某所 とある屋敷 深夜未明

新宿駅での戦闘で、忍とヒナが負傷したその晩。
騒がしい都心をあとにし、閑静な郊外の高級住宅地へ車を走らせた航平は、一軒の大きなお屋敷にいた。
門を抜け、使用人に案内され裏庭へと案内される。
裏庭で、バーベキューコンロでソーセージを焼きながら一人の男が航平を待っていた。
男は油でテカテカとしたソーセージをトングで転がしながら、航平の方を振り向いて言った。

男「こんばんは。どうぞそこにかけて。ホットドッグいる?」

航平「いや……」

男「そう? おいしいのに」

テーブルにつくことを促して、男は紙皿に焼いたソーセージを乗せ、航平の眼の前にそれを置いた。    
切れ目の入った縦長のパンにソーセージを挟み、刻んだオニオンを乗せ、ケチャップとマスタードをたっぷりとかける。    

男「夜中ってのはどうもお腹が空く。太るのはわかってるんだけどね」

男はホットドッグにかぶりつき、口元の汚れを拭った。

平田「僕は『平田 進(ひらた すすむ)』だ。よろしく」

航平「真崎 航平です。あなたが『ランドロード』?」

平田「そう呼ぶ人もいるね。君は『組織』の人だろう? こんな夜中になんのようかな」

『組織』の資料室で得た『ランドロード』の情報は、この屋敷の住所だけだった。
『ランドロード』とはどんな人物か、どんな方法を使い仲間を助けてもらえるのか、想像もつかなかったが、
直接相対してみて、航平はあることを知った。

航平(この男……“スタンド使い”じゃないな……)
JF『……』ズーーーン

平田「……」モグモグ

航平(『ジェイミー・フォックス』を出現させたが……まったく見えていない)

『ジェイミー・フォックス』の発動を解いて、航平は次のように切り出した。

航平「死にかけている仲間がいます。なんとかして、彼らを助けてやってほしいのです。
   あなたに頼めば、どんな願いも叶うと聞きました」

平田「誰から聞いたの?」モグモグ

航平「同じ『組織』の人間からです」

グラスにコーラを注いで、平田は噛み砕いたホットドックを胃に流し込んだ。
 
 
 




ふぅ、と一息ついてから、平田はポケットからメモ用紙とペンを取り出し、なにかをさらさらと書き始めた。

平田「“彼ら”ってことは複数だね。仲間は何人いるの?」

航平「二人です。一人は両腕が金属に……」

平田「あー症状は言わなくていいよ。僕にはね」

そう言うと平田は書き終えたメモを航平に手渡した。

平田「まず一つ。願いを叶えるというのは本当だ。だけど僕がなにかするわけじゃない。
   僕は“紹介”するだけだ。仲介屋だね、いわば」

平田「そこに書いてある番号に電話して、話してみてくれ。僕から聞いたと言えば協力してくれるはずだ。
   ただし……100%君のご要望通りにいくとは限らないけどね」

航平は、手渡されたメモを見た。ケータイの電話番号が記されていた。

航平「この人は……?」

平田「スタンド使いだ。僕の知る中で、最も君の依頼内容に沿う実力を持ってる。
   彼女の手に負えない場合は、もう僕にはどうしようもないんだけども」

航平「ありがとうございます。僕は、あなたに何をすれば……」

平田「僕と連絡先を交換してくれるかい?」

航平「それだけですか?」

平田「それだけだよ」

平田はケータイ電話をテーブルの上に置き、空になったグラスに再びコーラを注いだ。
メモをしまって、航平も同じようにケータイをテーブルに出す。

平田「『ランドロード』というのはね、“家主”という意味なんだ。
   僕と知り合いたちとのコネを、“家主”と“借家人”の関係に例えて言った呼び名だ」

平田「たとえばここが大きなマンションだとして……君たちは“借家人”だ。
   家賃を払えばここに住むことができる。特典は周りの住人に助けてもらえることだな。
   ちょうど今みたいに、困ったときにね」

平田「家賃は“僕との信頼関係”に…とでもしておこうか。僕がいつか困ったときに、僕の頼みを聞いてくれればいい」

つまり、『ランドロード』とは大きなコミュニティの管理者であり、条件とはそのコミュニティへの参加。
おそらくほとんどが“スタンド使い”たちで構成されているのだろう。
“願いが叶う”というのは、数多くのスタンド使いたちとのコネを作ることで、その人たちの能力の恩恵に与れる――ということなのだ。

航平(無数の歯車で動くグループ……俺もその一部になれということか。歯車に)

平田「どうする?」

航平「……問題はありません。交換しましょう」

平田「よかった。じゃあ、末永くよろしくね。真崎くん……」

そういって、二人は互いの連絡先を交換した。
にやりと歪んだ平田の口元が不気味で、航平はひっそりと肌を粟立たせた。
 
 
 




◇『組織』アジト 地下駐車場 某時刻

平田の屋敷をあとにしてから二時間後。夜明けの日差しが届かぬ『組織』アジトの地下駐車場に、一台の軽自動車が止まった。
クリーム色の丸みを帯びた可愛らしい車体から、一人の女性が降りてきた。
先ほど平田からもらった番号の持ち主だった。
レディースハットを被ったその“少女”は、遠目から見ても明らかに“一般人”とわかった。

少女「あ……おはようございます」

航平「ああ、ええと……君、だよね? 平田さんからの紹介の……」

少女「そうですけど……」

航平「スタンド使い……なんだよね?」

少女「一応……」

航平「そうか、ならいいんだ。朝早くに申し訳ない。僕は真崎 航平だ」

杏「『立花 杏(たちばな あんず)』です。けが人は?」

航平「このビルの中だ。一人は両腕に金属が浸食していて、一人は骨やら内臓やらがとにかくめちゃめちゃだ」

杏「わかりました。たぶんなんとかなります。行きましょう」

そう言って、手ぶらの少女はビルの扉を開けた。
明らかに修羅場の経験がない、ごくごく普通のどこにでもいるような少女。
しかし航平には、彼女の背中がとても頼りに感じられた。


◇『組織』アジト 廊下 某時刻

杏「いいんですか?」

航平「なにが?」

杏「明らかに普通のお仕事じゃないですよね、このビルで行われているのは。
  そんなとこに、あたしみたいな一般人を入れて……」

航平「ああ……」

杏「まさか、用が済んだら口封じに……」

航平「殺したりしない。君は平田さんの知り合いだ。少し記憶はいじらせてもらうけど」

杏「よかった……」

航平「どうやって平田さんと知り合ったの?」

杏「パパの会社が倒産して、お金に困ったときに助けてもらいました」

航平「へえ」

杏「あの人は、人の使い方がとてもうまいです。その人が持つ能力を、
  最大限に引き出せる場所で最大限に引き出して使う……」

杏「真崎さんはどんな能力を持ってますか?」

航平「俺? 俺は……」

ふと、航平の頭に一つの疑問が浮かんだ。たとえば杏は、人の傷を癒す能力を持っているのだろう。
平田の指示で、ケガに苦しむ“借家人”のもとへ派遣され、その能力を使う。それが平田との契約だ。

航平(俺は……何をやらされるんだ?)
 
 
 




◇『組織』アジト 医務室 某時刻

医務室に入ると、奥のベッドに両腕を失った比奈乃が寝かされていた。
航平と杏が近づくと、比奈乃がむくっと体を起こした。

比奈乃「航平」

航平「大丈夫か、ヒナ」

比奈乃「腕はないけど、大丈夫だよ。他は特にケガもないし……」

航平「よかった。忍は?」

比奈乃「まだ手術してるんじゃないかな……」

そう言って、比奈乃はどんよりと表情を曇らせた。

航平「大丈夫だ、この子が治してくれる」

比奈乃「どなた?」

杏「立花 杏です。平田さんの紹介で来ました」

比奈乃「平田って?」

航平「……まあ、知り合いだな。杏ちゃん、なにか必要なものは?」

杏「切り離した両腕はとってありますか?」

比奈乃「うん。たぶんどっか冷蔵庫に入ってると思う」

杏「ならそれを。手術中のお仲間もここに連れてきてください」

航平「手術中だが……」

杏「中断してください。さあ早く!」

航平「冗談だろ、死ぬぞ!」

杏「死にません! でもちんたらしてたら危ない!
  二人同時に治します。助けたいなら四の五の言わずに動いて!」

航平「……!」

自信に満ちた物言いに圧され、航平はつばを飲み込んだ。
事情を呑み込めず頭上に?を浮かべる比奈乃を横目に、航平は手術室へと向かった。

比奈乃「行っちゃった」

杏「『ワンダリング・リペア』!」

ドバァァーン!

WR『『『『『『『オッシャーーー!!』』』』』』』

杏の周囲に、七体の小人のスタンドが出現する。
『ワンダリング・リペア』と呼ばれた七体のそれは、各自各々の工具(らしきもの)を持ち、それぞれ帽子の色が異なっていた。
七色の帽子が横一列に並び、杏の指示を仰ぐ。

比奈乃「やーっ、なにこれー! かわいいーっ!!」

目を輝かせ黄色い声を上げる比奈乃。一匹を掴もうとするが腕がないことを思い出して、へこむ。

杏「青と藍と紫はこの女の子の両腕をくっつけなさい! 金属は1gも残さず全部取り除くように!
  赤と橙と黄はもう一人の方! 緑はみんなのサポート! わかったわね!?」
 
 
 




WR『『『『『『アイアイサーーーーー!!』』』』』』』

航平「連れてきたぞ!」

ガラガラとキャスターを走らせて、航平がベッドに横たわる血まみれの忍を連れてきた。
手術の真っ最中で連れてきた状態であり、体中ぱっくりと開けた状態でなんとも生々しい。
はぁはぁと息苦しそうに喘ぐ忍に、赤・橙・黄色の帽子を被った『ワンダリング・リペア』三体が取りついた。

WR黄『ウゲェ! コリャアヒデエ!』

航平「君のスタンドか!?」

杏「はい。こっちの方の両腕は?」

航平「ある。これだ」

航平が差し出した比奈乃の両腕を緑帽子のスタンドが受けとり、青・藍・紫帽子のチームに渡す。

WR青『コッチモナカナカダナ! ヤリガイガアル!』

杏「よし、じゃあみんな始めて! リペア開始ッ!」

パン、と杏が両手を叩くと、小人たちの作業が始まった。

航平「医者どもを振り切ってそいつを連れてきたんだ。死にかけだ。絶対治すと誓ってくれ」

杏「大丈夫です。お昼までには治りますよ、誓います。もう一個お願いしてもいいですか?」

航平「なんだ? なんでも言ってくれ」

杏「不二家の『ミルキー』をいっぱい買ってきてくれますか? この子たち大好物なんです」

航平「わかった! 街中の『ミルキー』を集めてくるよ!」

比奈乃「『ミルキー』好きなんだ~。かわい~ね~」

WR紫『ウゴクンジャネーヨ! ジットシテナ、ジョウチャン!』

わいわいがやがやと、小人たちの大手術が始まった。
『ミルキー』を口いっぱいに頬張り、愛くるしく作業する七色の小人たちと、けらけら楽しそうに笑う比奈乃。
なんとも異様な光景の手術であったが、驚くべきスピードで迅速かつ丁寧に、そして完璧に、二人の肉体の修復は進んでいった。
 
 
 




手術開始から五時間後。お昼どきに手術は完了した。

WR『『『『『『オワリマシターーーー!!!』』』』』』』

杏「ご苦労様。みんなよくがんばったね」

比奈乃「くっついた……」

綺麗に復活した両腕を眺め、比奈乃が感嘆の声を漏らした。
腕を浸食した液体金属は完全に除去され、使い慣れたわが身が戻ってきた。

航平「ヒナ……」

ぐっ、ぐっ、と両手を握りしめ、体に伝わる感触を確かめる比奈乃。
腕を左右に伸ばし、上下に伸ばし、前後に伸ばし、問題なく完璧に動く両腕を味わったあと、
比奈乃は胸をぎゅっと強く握り、涙を流した。

比奈乃「治った……治ったよ……。腕があるよ……!」グスン

航平「よかった……よかったな……。ヒナ……」グスン

杏「忍さんの方は、まだしばらく安静にしておいてください。
  今日一日寝ていれば明日には元気になりますよ」

航平「ありがとうっ!」ガバッ

杏「!!!」

勢いよく抱きしめられ、杏が頬を赤くする。

航平「君のおかげだ……! 言葉じゃとても伝えきれない、本当にありがとう……!」

杏「あ、はあぁ……い、いいんですよ……」

比奈乃「私からも、本当にどうもありがとう。キミのしてくれたことは忘れないよ」

杏「あはは……じゃ、じゃああたし、そろそろ……」

航平「そうだね、外まで送るよ。付いてきて」

航平と杏の二人が退室し、どたばた騒がしかった医務室に、平穏が舞い戻った。
二人残された部屋の中で、ベッドに眠る忍を、比奈乃が撫でながらささやく。

比奈乃「よかったね、忍……私たち、また助かったよ……」

比奈乃「あとは、このチームがどうなるか……だね。丈二も、未来リーダーも……」
 
 
 




一か月後

◇都内某所 とある洋館 AM11:29

琢磨「……」

新宿でのテロ事件から一か月。琢磨は、あの日新宿で姿を消した丈二を、あれ以来ずっと探し求めてきた。
地道な作業の末ついに導き出した場所が、都内某所のこの大きな館である。
この場所に入っていった丈二の姿が、最後に目撃された彼の情報だ。
館の外に停めた車の中で、双眼鏡を覗きこみながら、中の様子をうかがう。

琢磨(館の所有者も調べたが……特に不審な点は見当たらない。
   だが…それが“逆に怪しい”。臭うんだよ、この館から……トラブルの臭いがな……)

琢磨(丈二、いるなら……出てきてくれ……)

コンコン、と窓を叩く音が聞こえた。横を見ると、比奈乃が手を振った。
ドアのロックを解除し、彼女を助手席に座らせる。

比奈乃「丈二はいた?」

琢磨「いや……。とりあえずこのまま異変がなければ、夜に忍び込んでみようと思ってる」

比奈乃「ふうん……。でも、本当にいるのかな…丈二」

琢磨「丈二は見てないが、ほかの女三人の姿はこの数日で見かけた。
   あいつがいるとするなら、彼女らをはべらせてここで暮らしてるってことだ」

比奈乃「サイテーのチャラ男だね。逃亡に協力しなきゃよかった」

琢磨「とんだ女たらしだよ。ところでヒナ、君はなにしに来たんだ? なにかようか?」

比奈乃「報告があってさ。チームのこと」

琢磨「なんだ?」

比奈乃「ここじゃちょっと……。車出してくれる?
    さっきからさ、この車狙われてるよ。その館の女の子に」

琢磨「!?」

比奈乃「気づいてなかったの? 向こうの殺気がビンビン伝わってくるんだけど」

琢磨「スタンド使いか?」

比奈乃「たぶんね。その三人、全員そうだと思う。かなりの使い手だよ」

双眼鏡をしまい、琢磨はごくりとつばを飲み込んだ。

琢磨(まったく気が付かなかった……。ヒナの研ぎ澄まされた感性がなければ、俺は……)

比奈乃「特に一人……相当ヤバイのがいるよ。たぶん、私と琢磨の二人で挑んでも……
    いや、チーム全員で挑んでも勝てないと思う。怖いよここ、早く行こっ」

開いた窓を閉めて、琢磨は車を発進させ、館をあとにした。
 
 
 




琢磨「それで、話って?」

比奈乃「最近さぁ、琢磨なんかへこんでるでしょ。だから良い知らせ持ってきたの」

琢磨「へこんでる…か?」

比奈乃「彼女と別れたからでしょ」

彼女というワードに反応し、どくりと心臓の不自然に鼓動する。
もう一か月たつのに、まだ立ち直れないでいた。

琢磨「そ、そんなこと……」

比奈乃「あはっ、動揺してる。なんで別れたの? フラれた?」

琢磨「……新宿のテロのとき、俺は帰れなくなった彼女に、『組織』のヘリをよこしたんだ。
   家に帰ると、彼女があのヘリはなんなのかと詰め寄ってきた。俺は『組織』のことを話そうとした。そうしたら気が付いた」

比奈乃「住む世界が違うって?」

琢磨「彼女は普通の女子大生だ。俺は普通の殺し屋。一緒にいるのはよくない、お互いにとって」

比奈乃「わかんないじゃん。彼女だって昔は人とか殺してるかもよ?」

琢磨「那由多はそんなことしない!」

比奈乃「女の子はなにしてるかわかんないよ? みんな秘密の一つや二つ持ってるよ」

琢磨「君にもあるのか? 昔は“正常な”女の子でした……とか? コンビニでバイトとかしちゃってさ」

比奈乃「(カチン)おお~言うねぇ。琢磨の秘密当ててあげるよ。中高、友達いなかったでしょ。トイレに籠ってお弁当食べてたでしょ??」

琢磨「(カチン)なにを……! ってか、話って結局なんだよ?」

比奈乃「そうだった……私たちのチーム、解散しなくて済みそうだよ」

琢磨「そうか! それはいいニュースだ」

比奈乃「それでね、未来リーダーがいなくなっちゃったでしょ? だから、新しいリーダーが必要なんだって。
    忍も航平も私も、琢磨がいいと思ってるんだけど……どう?」

琢磨「え?」

キキーッ! と急ブレーキを踏み、アスファルトをタイヤが滑る。
どんと前方に頭を叩きつけれた比奈乃が、いてーと呟きながら額をさすった。

比奈乃「急に停めんな!」

琢磨「ご、ごめん……。いやでも、俺がリーダーって……」

比奈乃「十分に資質はあると思うよ? まぁぶっちゃけ私たちがやりたくないから、押し付けてるだけなんだけどね」

琢磨「なんでぶっちゃけるかなぁ」

比奈乃「どう?」

琢磨「……やるよ。ありがとう、光栄だ」

比奈乃「へへへ」

赤くなったおでこをさすって、比奈乃がにっこりと笑った。







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