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第11話『魂の決着(Leave Before The Lights Come On)』その②

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  ―B Part 2024―  



◇東京織星シンフォニーホール・Cホール 同時刻


シュン!

航平「くッ!!」スパァッ!

忍「ちッ……! こいつッ……!」

柚子季「うふふふ」ニヤァ

同時刻。『東京織星シンフォニーホール』、Cホール内では、航平と忍の二人が、後藤 柚子季なる少女と交戦していた。
パンクファッションに身を包んだ少女は、無邪気な笑みを浮かべながら、二人を翻弄するようにホールを駆けまわる。
驚くべきスピードだった。目で追うのも必死な二人に近づいては、皮膚を切り裂いて再び離れる。
柚子季の指は二人の血で真っ赤だった。

忍「くッそッ! マジ速えぇッ! こいつッ!!」

航平「信じられない脚力だ……!」

昔、世界陸上の短距離走を見に行ったことがあるが、そのときは選手の爆発的な脚力に驚いたものだ。
だが、今はそれを超える驚きを目の前で味わっている。陸上選手並みの脚が、短距離のスピードを維持しながら、
壁を走ってイスを飛んで、宙に舞っているのだ。航平は震えた。

航平「ヒナと同等、もしくはそれ以上のスピードか……!」

忍「はッ! ざけんな、あいつの方が全然速えよ!」

頬の傷から流れる血を拭い、忍が言った。二人の体に、無数の切り傷が刻まれている。
柚子季の脚を活かしたヒットアンドアウェイ戦法は、本人が思っている以上に二人相手には有効だった。
姿を捕えられず、一方的に攻撃を受けるだけであっては、例え一回一回の傷が浅いものだったとしても、いつかは死ぬ。

航平「『ジェイミー・フォックス』!」
JF『ゼラァ!』

切り刻まれたコートを脱ぎ捨て、航平が狐の顔した人型の『ジェイミー・フォックス』を出現させる。
『ジェイミー・フォックス』の右手が忍の頬に触れると、頬の傷が指先から拡がる“金属”に覆われた。

航平「とりあえず、傷をこれで塞ごう。失血死なんてシャレにならん」

忍「ああ、だな……」

すると、二人のいるステージ裏に、柚子季が二階席から飛び降り、右手で忍の顔をなぞろうとした。
忍はそれをぎりぎりで躱し、中空の柚子季に向かって、『ナイン・インチ・ネイルズ』の拳を突き出す。
中空ならば、避ける術はないはず。だが、柚子季は腰から長い“ワイヤー”を出して、それの先端を二階席部分のフェンスに引っかけた。

NIN『キシャァァ!』スカッ
忍「くそッ! ワイヤー!?」

柚子季「あはぁ♪」ヒュッ

巻き取られたワイヤーに引っ張られて、柚子季が空中を滑る。空ぶった『ナイン・インチ・ネイルズ』の拳を見下ろして、
二階席に取りついた柚子季が怪しげな笑みを浮かべて、再び闇の中へと姿を消した。
 
 
 




忍「厄介なモン持ちやがって、クソヤロウ!」ダッ

航平「待てッ! 追うのは危険だ!」

駆けだす忍を航平の右腕が引き止める。

航平「あいつ、刃物持ってなかった。つまり“体が刃物になる”類の能力で攻撃してるってことだ。
   うかつに近づくな、切り刻まれるぞ」

忍「ちッ……」

航平「とりあえず、冷静になって考えるんだ。どうすればヤツに……」

柚子季「作戦会議??」

人を小馬鹿にしたような甘い声がして、忍と航平は振り返り一瞬で構えを取った。
いつの間にか二階から降りてきた柚子季が、ステージの上に立ってにやにやと笑っていた。
柚子季は、人差し指と中指でハサミを作りながら、言った。

柚子季「ヘンな髪型。切ってあげようか? チョキチョキ」

航平「……余計なお世話だ」

柚子季「そっちのイカツイお兄さんはいかがですかぁ? チョキチョキ」

忍「結構だよバカヤロウ。お前、B型だろ?」

柚子季「そうだよ? なんでわかったの?」

忍「イカレてっからな」

航平「『ジェイミー・フォックス』!!」
JF『ゼラァァァ!』バシュッ!

動きが止まったチャンスは逃さない。『ジェイミー・フォックス』をステージに上へ繰り出した航平は、
柚子季の隣に立つ、クマのぬいぐるみのようなスタンドを見た。継ぎ接ぎだらけの、壊れた人形を連想させる姿だった。

航平「それがお前のスタンドか……!」

柚子季「『ジグ・ジグ・スパトニック』! やっちゃえ!」
SSS『ソレッ!』

ガシィッ

『ジェイミー・フォックス』の拳を受け止めたぬいぐるみが、そのままその腕をぎりりとねじ上げた。

航平「ぐうッ! なんて怪力・・・!」ギリリッ

柚子季「♪チョキチョキチョキ・・・・・・」

柚子季「♪愛を刻むメロディさ~……っと!」ビュンッ!
 
 
 




口ずさんで、柚子季が腰に巻いたワイヤーを航平に向かって発射した。
そのワイヤーは先端が大きく開き、航平の手首に噛みついた。

航平「!!」

柚子季「もーらいっ」

噛みついたワイヤーの先端が、バチン!と突然閉じて航平の手首を切り飛ばした。
血液が噴水のようにあふれ出し、ステージ裏を赤く染めていく。

航平「ああああああ」ブシャアアアア

柚子季「アハハハハ♪」

忍「てんめッ……!」バッ
NIN『キシャアアアアア!!』

『ナイン・インチ・ネイルズ』を突撃させた忍だったが、『ジグ・ジグ・スパトニック』が
『ジェイミー・フォックス』を投げてよこし、『ナイン・インチ・ネイルズ』と衝突させた。
ダメージフィードバックで、航平と忍の二人が後方に投げ飛ばされた。

SSS『グフフ・・・』
柚子季「つよーい♪ さすが『ジグ・ジグ』! 頼りになるねー!」

切り離された右手首を拾って、航平は切り口と手首を“金属”でコーティングし、接着させた。
しかしこれは血液の流出をふせぐための一時的な処置にすぎず、神経がつながっていないため右手は動かせなかった。

航平「くッ・・・・・・! いッてぇ……! くそッ・・・・・・!」

忍「航平! 大丈夫かよ!?」

航平「平気だ。くそッ、あのワイヤー・・・・・・!」

応急処置を済ませた鉄色の手首を押さえて、航平はつぶやいた。

航平「あのワイヤー・・・・・・突然先端が開いた。まるでハサミみたいに・・・・・・
   俺の手首を挟んで、切り落とした」

忍「ハサミだと?」

航平「あいつの能力・・・・・・おそらくハサミだ。
   “触れたものをハサミにする”・・・・・・」

忍「ちッ・・・・・・どうする?」

航平「まずはあいつを捕えなければ・・・・・・動きを封じないと」

忍「……考えがある。あいつの注意を引いてくれ」

航平「……わかった」

そう言って、忍はさっとその場を離れ、闇の中に姿を隠した。
一人残された航平が、ふうと息を吐き、柚子季が潜んでいるであろう闇を睨んだ。
 
 
 



  ―A Part 2027―  



『クライング・ライトニング』の出現で、吹き飛ばされそうなほど強い風が地上に吹き荒れる。
小悪魔の姿をしたスタンドは、巨大な舟の船首から飛び降りて、小さな羽をばたつかせ、最初に美咲紀に突進した。

CL『キャハーーッ! マズハオメエダ!』ビューーン!

美咲紀「くっ」ドッ

べろーーーーん

あああああああ……

『クライング・ライトニング』の突進を受け止めた美咲紀の背中から、すり抜けたスタンドとともに
“魂”が引きはがされ、舟の中へ吸い込まれていく。

ミシェル「連れていかれた……」

彩「次は私よ!」

茫然とその光景を見つめるしかないミシェルをよそに、彩が叫ぶ。
『クライング・ライトニング』はケケケ、と楽しそうに笑い、彩に向かっていった。

べろーーん

彩の魂が舟に吸収され、続けて柚子季の魂も引きはがされ、連れて行かれる。
魂の抜けた肉体がばたばたと倒れ、あっという間に三つの死体ができあがった。

航平「死んだ……」

ミシェル「こんなにあっさり……死ぬなんて」

天斗「死んだんじゃないよ。まだあいつらは生きてる。“来世”のために、“現世”を捨てただけだよ」

天斗が呟いた。ミシェルは、『クライング・ライトニング』の傍まで歩みより、言った。

ミシェル「そこの彼を……ジョージの魂も、連れて行きたいの。できるよね?」

CL『死ンデマダ時間ガ経ッテナイナラ、“三途の川”デ拾ッテイケルゼ!』

ミシェル「“三途の川”……」

天斗「死んだ魂は、“三途の川”を渡って浄化され、天に召される。
   すべての記憶や、罪を洗い流されて……」

CL『オレノ舟ハ、ソレヲ無視シテ進ムコトガデキル! マダ丈二トヤラガ“川”ヲ渡ッテル途中ナラ……』

ミシェル「お願いね。じゃあ私も行くわ」

CL『イインダナ? 天斗』

天斗「いいわけない。でも……」

天斗「“来世”でまた、逢えるから」

それを聞いて、ミシェルがにこりと笑った。
『クライング・ライトニング』がミシェルに触れ、魂を引きはがし、舟に乗せた。
 
 
 




CL『ジャア、四人ト途中でアト一人! アノ世マデ出発進行ダ! マタナ!』

ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ

航平「すげえ音……!」

小悪魔の合図で、巨大な舟が大気を震わす轟音を響かせながら、天に向かって出航した。
割れた空の隙間に船体は呑み込まれ、やがて地上から見えなくなった。

雨が、止んだ。

四つの死体が転がる朝の中庭に、遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。
盗難車を追い、こっちに向かってきているらしい。
立ち尽くす航平は、崩れ落ちて泣き出した、天斗の肩をそっと抱き寄せた。

天斗「僕が殺したんだ……また、誰もいない……」ポロポロッ

航平「俺がいる」

そう言って頭を撫で、航平は天斗の真っ赤になった瞳を見据えた。

航平「君と同じ歳くらいの、妹がいるんだ。いま病気して病院にいるんだけどさ。
   一緒に暮らさないか。三人で、これから」

天斗「えっ……」ポロポロ

航平「さっきさ、丈二から渡された手紙があって、それを車の中で読んでた。
   あいつはため込んでたお金を全部君のために、俺に託したんだ」

天斗「丈二さん……どうして……」

航平「決まってるだろ」

航平「家族だからだ」

立ち上がって、航平は手を差し出した。

航平「帰ろう。俺たちの家に」

天斗「……うん」

天斗はその手を取って、涙を拭った。

中庭に、虹がかかっていた。
パトカーのサイレンが大きくなっていく。二人は車に急いで乗り込み、悪夢の屋敷をあとにした。




◇三途の川

ズズズズズズズズズ……

ぼんやりとした淡い光に包まれた世界。城嶋 丈二は、川を渡っていた。
見渡すと、周囲に同じような人間が幾人も見える。
だが彼らが誰なのか、ここはどこなのか、そもそも自分はなぜこんなところにいるのか、歩みを進めるたびにわからなくなっていった。

丈二「……」ジャプジャプ

どんどん川が深くなっていく。腰までずっぷりと冷たい水に浸かり、丈二は無心で歩き続けた。
そのとき、微かにどこかで、誰かの声が聞こえた。
 
 
 




……ジ

丈二「……?」

……ジョージ!

丈二「!」

振り返ると、ボートサイズの舟が、自分の後ろに迫っていた。
舟は丈二を追い抜き、川を渡る。
白く細い手が、舟の上で丈二に向かって差し出された。
どこか懐かしい感じのする顔の、外国人の女性だった。

ミシェル「ジョージ。一緒に行こう?」

誰だかはわからなかったが、彼女の声は、なぜだか心が安らいだ。
この人を知っている気がした。

気が付くと、丈二は差し出された彼女の手を取り、舟の上に乗っていた。
舟には、ほかにも三人の女性がいた。彼女たちも、なんだか知った顔な気がした。

舟は、小悪魔のような生き物の舵取りで、川をぐんぐんと下って行った。
淡い光は強くなり、じんじんと頭の中に強い音が響く。
ずきずきと頭の中が軋み、眩い光が世界を包み、そして――






2027年。思い出せばいまでも信じられないほど、奇妙な数日間のあった年だった。
あの日々は忘れない。
大切なもののために、命を散らした彼らの顔を、決して忘れたりはしない。

たくさんの痛みを飲み込んで、ぼくらは大人になった。
大人になると世の中はより一層厳しくて、ときどき泣きたくなる夜もある。
それでも、あの日々に比べたら、毎日は全然楽だ。そして、薄っぺらい。

こんな世の中、って思うこともある。でも、それでも、人生は続く。
例え死んでも、“人生”は、“生命”は、永遠に終わることはない。
 
 
 



  ―B Part 2024―  



なぁ、覚えてるか? 忍。
昔、俺たちが全然金持ってなかったころさ。月に一度だけ、近所の中華料理屋に行ったよな。

一杯450円のチャーハンをさ、+100円で大盛りにして、二人で分け合って食ったよな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――

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――――――――――


航平(忍は隠れたな。一瞬でも、俺に気を引ければ……)

忍が闇の中に姿をまぎれさせたのを確認して、航平はステージの上へあがり、
同じく闇の中でチャンスをうかがう柚子季に対し、語りかける。

航平「後藤 柚子季といったな! 君のことを俺なりに推測してみたんだ。間違ってたら言ってくれ」

航平「君は幼いころ……いや、つい数年前まで、DV(家庭内暴力)に曝されて生きてきた……」

ホール内に響き渡る声だが、反応は静かだった。闇は静謐を崩さず、しんと沈黙を保ちながらひろがっている。

航平「多分、君は母親から日常的に折檻を受けてきた。それも命に関わるほどハードなやつだ。
   幾度となく君は死ぬ寸前まで追い込まれた。父親や兄弟はいない……母との二人暮らし」

ほんのわずかにだが、闇がぴくりと動いた気がした。

航平「誰も助けてくれない過酷な環境の中で、君は病んだ。
   普通の人は“他人を傷つける”という行為は、基本的に苦手だ。だから“慣れて”いくしかない」

航平「だが君は違う。異質な環境の中で、君の中に異常な残忍性が育った。“怪物”がな。
   他人を傷つけることに関して、君は最初から全開で才能を発揮できるようになった……違うか?」

音を殺した、歩みが近寄る気配を感じた。航平は、闇の中からすっと姿を現した柚子季の顔を見た。
無邪気な笑みは消えていて、ただ凍りついた無表情だけが、彼女の顔に張り付いていた。

ススス……

柚子季「……言いたいことはそれで終わり?」

航平(やっべえ)ドックンドックン

柚子季「おしゃべりにも飽きたし、そろそろ終わりにしようか」

航平(くっそ、心臓の鼓動ハンパねえ 膝が笑ってやがる)ガクガク

まるで幻影のように、実体がないかのように、現実感のない歩みで距離を詰める柚子季。
張り裂けそうな心臓、滲む脂汗に、航平は必死にこらえた。
気が付くと、彼女の顔はすぐ鼻先に迫っていた。

ドックン ドックン
 
 
 




柚子季「あンときの精神科医も同じだ……アタシのこと、わかった風なクチをきいて……」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

航平(怖えェ、くッそ、くッそ……! 忍……!)

柚子季「ムカつくんだよね」

航平(忍!)

柚子季「殺してやるよ」

ぼそりとそう呟いた柚子季の、生暖かい息が航平の鼻腔をくすぐったそのときだった。

忍「頼んでねーよ、アホ」

身を潜めていた忍が二人の傍にすっと現れ、右フックを柚子季に向かって繰り出した。

ビチャァア!

柚子季「!?」

咄嗟に左腕でガードした柚子季の神経に、通常の打撃とは異なる感触が伝わった。
硬い肉を纏った骨の、みしみしと軋むような重みはそのフックにはなく、ビチャッとした生柔らかい肉の感覚が左腕をしびれさせた。
忍の腕の肉が、“ゼリーのように”柔いものに変質していたのだった。

柚子季「なんだ、これ……!」

忍がにやりと口角を歪めた。すると、ゼリー状の筋肉が、平常な腕の筋肉の硬度を取り戻した。
すると、どうなったか。

忍「くっついたッ!」
NIN『キシャァァーーーッ!!』

ガチーーーン!

柚子季「なッ……」

柚子季の左腕と、忍の右腕の筋肉が混ざり合い、固まる。二つの腕が一つとなった。
『ナイン・インチ・ネイルズ』で半液状にした筋肉を、相手の筋肉に溶け合わせるようにぶつけたのだった。

柚子季「結合……!」

忍「いくぞオラァァァァァ!!!」

航平「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

左腕の自由を失い、ガードを失った無防備な少女の体。
出現した『ナイン・インチ・ネイルズ』と『ジェイミー・フォックス』が、それぞれ拳を構えた。

柚子季(しまッ――)
 
 
 




NIN『キシャァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』

JF『ゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼララゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラ
  ゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼララゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラァァァッッ!!!!』

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ

『ナイン・インチ・ネイルズ』の左の拳、『ジェイミー・フォックス』の両の拳が、柚子季の体にマシンガンのように叩き込まれた。
華奢な少女の肉と骨が、めしめしと悲鳴をあげる。その感覚が忍と航平に伝わる。

柚子季はかろうじて『ジグ・ジグ・スパトニック』を盾にしてはいるようだが、片腕だけで防御は不可能である。
スタンドを通して伝わる破壊的な拳の乱打に、彼女の意識は飛んだ。

ドサァッ

柚子季「……」ピクピク

ただし――

忍「ハァハァ……!」

航平「死んだか……!?」

柚子季「……くッ……」

――ほんの一瞬であるが。

柚子季「くッ……ぐッ、ぐぐ……」グググ

航平「なッ!? こいつ、まだ……!」

忍「冗談だろ!」

柚子季「ぐぎぎ……」グググ

壊れた人形のように、奇怪な動きでおもむろに立ち上がった少女の体は、骨が砕けて肉が裂け、
なんとも不健康な形をしていた。左足がねじ曲がり、柚子季はそれをひきずりながら、なにかぼそぼそと呟いた。
乱れた髪を垂らして、俯き気味の彼女の顔は見えなかった。
その姿は、とてつもなく不気味だった。忍と航平は背中が凍りついたように、その場から動けなくなった。
 
 
 




柚子季「ぐッ、ぐぎぎ……いっ、いでえ゛ッ、い゛でえ……」ボタボタ

彼女の顔から、血と唾液が零れてステージを汚した。

忍(やべえ……)

航平(こ、こいつ……)

柚子季「あ゛はぁぁあ」ニタァァ

大きく口を開けて、柚子季がにたりと嗤った。腫れあがり、醜く変容したその顔に、歪んだ笑顔が浮かぶ。
血液と唾液を口からだらだらと溢しながら、少女は地面を蹴って翔んだ。
忍の左腕に激痛が走る。結合していた二人の腕を、柚子季はその一瞬で切り離していた。

忍「ッ!」ブシャァァ

どうやら先ほどの拳のラッシュは、彼女の中の“なにか”を、うっかり壊してしまったらしい。
それが原因で、彼女の中から、醜くおぞましい“怪物”が姿を現してしまった。
狂気に狂気を纏ったような、純然たる悪意の結晶。

頭上から迫る“怪物”の姿を見上げ、忍は自分の軽率な行いにひたすら後悔していた。

忍(やんなきゃよかったんだ、こんなこと…こんなやつ、相手にするべきじゃなかったんだ……)

柚子季「あ゛ぞぼぉぉぉぉぉぉおおおおおオオ゛」ゴォォォォッ!

忍(バカだ、俺―――)

その瞬間。

忍(……あれ?)

忍(走馬灯って、流れないのか?)

忍(……いや、違う)

ドンッ!

力強く、優しい衝撃が、忍の体を揺さぶった。
次の瞬間に知覚したのは、突き飛ばされた自分の体と、自分を突き飛ばした手のひらの温もりと――

航平「……」

忍(航平……)

ズバァァァァァァァァッ!!

自分を庇い、『ジグ・ジグ・スパトニック』の右腕に胸を貫かれた航平から、はじけ飛ぶ鮮血の噴水だった。
 
 
 




航平「……がふっ」

ドバァァ

忍「お前……」

航平「……」ニヤッ

ごほっと血を吐き出して、航平は忍の顔を一瞥し、弱くほほ笑んだ。



なあ、忍。

俺はさ………



忍「な……ンで……!」

忍「なにしてんだよッ! てめェ! ッざッけんなよ! おい!!」

右腕が引き抜かれ、胸に大きな風穴を開けた航平が、地面に倒れた。
駆け寄り、その体を受け止めた忍は、航平の虚ろな瞳を見つめながら、必死に怒鳴った。

忍「くそッ! くッそ!! 俺を助けたつもりかよ! ああ!?
  なにかっこつけてんだよバカヤロウッ!! てめェの助けなんかいるかよ!!」

航平「……」ドクドク

忍「くッそ! くッそ! 穴が……血が止まんねえッ! くッそォォッ!」ボロボロ

忍の両目から流れ出た涙が、航平の頬を濡らした。



俺はさ……

お前に憧れてたんだよ。

いつもさ、俺がチャーハン6割食ってたよな。
お前は、いつも俺に譲ってくれてた。
なんだってそうだった。お前は誰よりも優しいイイやつだった。
 
 
 




忍「……お前ひとりだけ、こんな目には合わせねえ! 俺だって血を流してやる!」

そう言って立ち上がり、忍は右腕の傷をナイフで深くえぐった。
ぎりぎりと肉を裂き、溢れる大量の血液。『ナイン・インチ・ネイルズ』がそれに触れ、全てをゼリー状に変化させる。

柚子季「ぐぎぎ……あ゛ぞぼっ、あ゛ぞぼっ」

忍「ああ、遊んでやるよチクショウ……! こんな殺し方、したくなかったがな……!」グスッ

涙を拭って、忍は自分の右腕から絞り出した“血液のゼリー”を、宙にふわふわと浮かばせた。
航平は、じっとCホールの天井を見上げていた。



今は金もあって、一皿何万円もするディナーを食えるし、ロマネコンティだって飲めるさ。
でもさ、全然違うんだよ。

お前と分け合って食ってたあの450円のチャーハンの方がさ、全然美味かったんだ。

なぁ、忍――



柚子季「『ジグ・ジグ・ズバドニッグ』グググググググググウグググ」
SSS『グギギギギギギギギギギギ』

忍「『ナイン・インチ・ネイルズ』ゥゥゥーーーーッ!」
NIN『キシャアアアアアアアアアアアアア!!!』

ゴォォォォォォォォォッ!!



死ぬなよ……
 
 
 




安らかに瞳を閉じた航平の隣で、忍の『ナイン・インチ・ネイルズ』と、
柚子季の『ジグ・ジグ・スパトニック』両者の拳が、いままさに衝突するところだった。
しかし。

ガクッ

忍「くッ」フラァ

“血液のゼリー”で大量の血液を体から失った忍が、貧血を起こして膝をついた。
幸か不幸か、『ジグ・ジグ・スパトニック』の拳は体勢を崩したことによってぎりぎり外れ、
しかしながら『ナイン・インチ・ネイルズ』の攻撃も浅く、柚子季の首元に小さな傷を作った程度で終わった。

柚子季「ぐぎぎ……」ブシュッ

柚子季が、『ジグ・ジグ・スパトニック』で追撃をかけようとしたそのときだった。
柚子季の首にできた小さな傷を入口にして、宙に浮かんでいた“血液のゼリー”が、彼女の体内に吸い込まれるように侵入した。

柚子季「!? な゛にを゛じだっ! じだっ!」

首の傷を押さえ、柚子季が叫ぶ。忍はふらつく体を必死に起こし、吐き捨てるように言った。

忍「うるせえバカ。お前は死ぬんだよ、苦しみながらな……」

柚子季「!? グッ、ぐぐぐ……」

忍「訊いたよな? “お前B型か”って。俺と遊ぶってんなら、生温いことなんかしねえんだ」

柚子季の『ジグ・ジグ・スパトニック』が自動的に解除され、柚子季がもがきながら床に倒れた。
その顔は激しい苦痛に歪んでいた。喘ぎにならない喘ぎを必死に搾り出しながら、地面をのた打ち回る柚子季の姿を見下ろしながら、
忍は航平の冷たくなった体を、ふらつく体で背負いあげる。

忍「くッ」フラァ

柚子季「あ゛っ、あああああああ゛あああああっ!! があああああああ! がばあああァァァアアッ!!」ジタバタジタバタ

忍「いま病院に運ぶからな、航平。大丈夫だ。全部俺に任せとけ」

航平を背負い、ステージを降り、おぼつかない足取りで出口に向かって歩きだす忍。
彼は、背後で吐瀉物を撒き散らしながらもがき苦しむ柚子季には、一瞥すらくれてやらなかった。

柚子季「ががっがガガガががっ! あががばばっ! がばぁ!」ジタバタジタバタ

忍「うるせぇなぁ……バカヤロウ。静かにもがけよ、静かに……」
 
 
 




忍の血液型は“A型”である。対して、柚子季は“B型”。
忍の血液を“血液のゼリー”として静脈に注入された柚子季の体に起こっているのは、“溶血”とよばれる反応である。

血液を“100%そのまま直接注入”する“全血輸血”。
通常は行われないこの輸血を、禁断とされる“異なる血液同士で”行うとどうなるのか?

拒絶反応が起こり、注入された方の“赤血球”が破壊される。
これが“溶血”。
破壊された血が全身を巡り、まるでウイルスのように内臓器類を攻撃、ことごとく破壊していく。
さらに“溶血”により破壊された“赤血球”から、カリウムが流れ出し、“高カリウム血症”と呼ばれる病も発症……すなわち。

柚子季「がっ、がぼっ。がぼっ……」

忍「こんなむごいやり方、したくなかったんだ……でもな」

忍「てめェが悪いんだぜ、俺のダチを、こんなにしたんだからな」

ほぼ確実に、輸血された者はもがき苦しんだのち、息絶えるのである。



やがて、背後から物音がしなくなった。
静かになった敵を振り返ることはせず、忍は、出口に向かって懸命に歩いた。

忍「はぁ、はぁ……心配すんな、お前が……」

航平「……」

忍「お前が、死んじまうことなんかねーんだ。だから大丈夫だ、航平」グスッ

涙が滲んで、忍は両目を拭った。
出口のドア手前まで歩いて、忍はついに崩れ落ちた。
ぼやけていく思考と視界。悔しさと悲しみが口の中いっぱいに広がったとき、ドアが開いて誰かが二人に近づいた。

忍(だ、れだ……)

青年だった。髪の毛をゴムでとめた、同年代くらいの青年。
彼は、スタンドを出現させ、その右手で航平の体に触れた。

―待ってろ、今“うやむや”にすっから

そう言った青年の表情は、柔らかかった。
それが、忍が意識を失う直前に見た、最後の光景だった。




<<東京織星シンフォニーホール・Cホール 忍・航平vs柚子季 決着!>>

○『ナイン・インチ・ネイルズ』吉田忍
 『ジェイミー・フォックス』真崎航平……勝利。航平は瀕死の重体。

×『ジグ・ジグ・スパトニック』後藤柚子季……敗北。全血輸血による“溶血反応”により、死亡。
 
 
 




◇都内某所 街道 同時刻

リムジンの車内。窓の外を流れる煌びやかなネオンの光を『組織』幹部の一人の男が眺めている。
先ほどの“地下闘技場”での火事から、必死こいて逃げてきた途中である。
何十万もするスーツが焦げ臭かった。
やがて車内に設置されたテレビ電話が、映像を受信した。『組織』の工作員であった。

幹部「私だ。今は車内にいる」

工作員<ご無事でなによりです。衛星で神宮寺 美咲紀なる人物と、倉井 未来の居場所をキャッチしました>

幹部「!! どこだ!?」

工作員<渋谷区の“東京織星シンフォニーホール”。コンサートホールです。
    二人が内部に入って行ったのを確認しました。彼ら以外にも、ほか数名の存在が確認されています>

幹部「コンサートホール……」

この男は、阿部亡き今、『組織』幹部連の中で最も発言力のある人物であった。
『組織』の全権を手放す結果に終わったあの“賭け”も、この男が意欲を見せなければそもそも勝負は起きなかった。
彼は考える。責任者を失い、全てを失いかけている『組織』。今、自分はなにを決断するべきなのか。
これはギャンブルである。この非常事態、彼がなにに賭けるか次第で、決まる。

幹部「……!」

負けを取り返せるか、完全に『組織』を失うか――。

幹部(阿部を失った今、警察に手を回すのは得策ではない。幸い、まだやつらは気づいていない
   だが、『組織』の人間をほいほいと表の舞台で使いたくはない。新宿での一件もある)

幹部(残るは“自衛隊”か。一応、倉井 未来は世間では新宿での惨事を引き起こした“テロリスト”で通っている
   国家の危機とすれば発動も可能だ。いま残った我々で最も強く呼び掛けられるのはここ……)

幹部(しかし、自衛隊を動かすには“閣議”を通さねばならん。神宮寺 美咲紀が何の目的でホールにいるのかはわからんが……
   そんなに長くはいないだろう。自衛隊は動かすのに数時間かかる……)

工作員との交信は一旦保留にして、男はほかの幹部たちと連絡を取った。

「ご無事で!」

「どうしますか。これはチャンスです」

「ご決断を!」

モニターの中で、同じく生き延びた数名の同士らが熱い視線を男に注ぐ。
男は、おもむろに口を開いた。

幹部「……時間がない。ウチの人間だけで、なんとかしよう」

幹部「“オペレーション・ジェノサイド”を、発動する」

ざわっ、とモニターの中の男たちがどよめいた。
“オペレーション・ジェノサイド”。その不吉な響きに、顔を強張らせて。

幹部「“殲滅”だ。暗殺部を全員使って、神宮寺 美咲紀、倉井 未来、その他ホール内の人間を一人残らず――」

幹部「殺せ」
 
 
 




◇東京織星シンフォニーホール・控室 同時刻

未来「……ここは……?」

ソファーに寝かされていた未来が、目を覚ました。
起き上がり、あたりを見回す。どこかの控室のようだった。
テーブルの上に、“your...”と刻印された金色の箱が置かれている。

琢磨「起きたか」

痛む後頭部をさすっていると、桐本 琢磨が入室し、未来に声をかけた。

未来「琢磨……どういうことだ、俺になにをした」

琢磨「俺もあいつらの考えはよくわからんさ」

未来「そうだ、賭けは……賭けはどうなった!?」

琢磨「さあな。勝負は打ち切りだ」

未来「なんてことを……お前、なにしたかわかってるのか!?」

立ち上がり、声を荒げる未来。彼の瞳には、焦燥が滲んでいる。

未来「やつらがほっとくと思うか! 俺たちを殺しに来る!
   『組織』を手に入れるチャンスだったのに……クソッ!」

琢磨「なんで『組織』が欲しい。あんなもの手に入れてどうなる」

悔しそうに拳を握りしめる未来。そんな彼に、琢磨が問う。
未来は、深い息を吐き出しながら、呟くように応えた。

未来「……大きな力がなければ、何一つ守れやしない。自分の命すら」

未来「この世界は、この箱庭では。限りある命と資源をみんながみんな奪い合っている。
   力がなければ、奪られるだけだ。奪われたくなければ、奪う側にまわるしかないんだ」

琢磨「本当に大切なものだけ、守れればいいじゃないか」

未来「わかった風なクチをきく……。本当に大切なものとはなんだ?
   どうやって選ぶ? くれてやるものなんか、あるものか!」

琢磨「求め合うだけじゃ飢えるだけ……わかってるだろ、未来」

そう言って、琢磨がテーブルに近づき、金色の箱を手に取った。
『エヴリシング・カムズ・アンド・ゴーズ』の箱である。
それを未来に差し出して、琢磨は言った。

琢磨「大切なものは、自分で決めるんだ。それ以外は、全て捨ててもいいと思えるような――」

琢磨「本当に価値のあるものを」
 
 
 




パカッ

未来は、蓋を開いた中に、小さな自分のマスコットが入っているのをみた。
眼帯のない、両目を開いた自分だった。
金色の輝きがなんだか暖かいものに思えて、未来はその人形を、無意識に手に取った。

未来「……!」

スゥゥーー

人形が、腕を滑って体の中に入り込む。ほのかな熱が未来の体を満たした。
フィルムのように鮮明な、遠い記憶のように曖昧な映像が、脳裏に写る。
スライドショーのごとく、次々と切り替わる光景。

カズと、丈二と、三人で歩いた砂浜。那由多と、丈二と、三人で見上げたねずみ色の寒空。
給水所での作戦。爆発。
由佳里の顔。綺麗に治った火傷。

未来「こ……れは……」

「探し出しましょう丈二。由佳里さんの魂と、君の魂を救うために。僕も全力を尽くします」

どこかで言った自分の言葉。自分の声が、頭の中に響く。
じわじわと優しく、暖かく、記憶が脳内を満たしていく。

「来世で…また会おう……」

血まみれで横たわる、自分の姿が見えた。右目がずきずきと軋むように痛んだ。

未来「うっ……」ガクッ

映像が途切れ、未来ががくりと膝を落とした。
微かな熱を持ったモノが一つ、未来の顔からぽたりと床に落ちた。

未来「……うっ、うう……」ポロポロッ

とめどなくあふれ出す様々な感情が、涙となって頬を伝う。
嗚咽が漏れるのも、それを琢磨に聞かれるのも、考える余裕はなかった。
ただ、そのとき崩れ落ちたなにかが、未来の心を覆っていたなにかが、剥がれおちたその衝撃が。
彼を壊した。

未来「お、おれは……」ポロポロッ

心を引っ掻いた、怒りと野心の瓦礫。その中に、ずっと長く埋もれていたもの……
本当に大切な、“自分”の姿を、未来は見つけられたのだった。

琢磨は、崩れ落ちた未来を置いて、部屋を後にした。
まだ自分には、何が起きているのか理解しかねているところがある。
今なぜあの屈強で冷徹な倉井 未来が、あの箱の中身を手にして突然泣き崩れたのかも、自分の知るところではない。
しかし。

琢磨「……」ツー

しかしながら目尻から筋を引く涙の理由は、頭でなく心で理解していた。
琢磨は、それ以上考えることはしなかった。野暮だと思った。
涙の跡を拭いて、琢磨はBホールへと足を進めた。
 
 
 




この世の全ては「淘汰」によって保たれている。


そう考えると、篩にかけられ零れ落ちる弱者と、篩にかける強者のバランスが、人の世はなんとも絶妙だ。
歓喜に震える者、悲しみに暮れる者、実に絶妙に、黄金の比率で世の中に散らばっている。
その生存競争のし烈さは、自然界のものに劣っていないように見える。

しかしながら、にしては人間はいささか、モノを知らなさすぎると感じた。

集団からはじき出され、孤立する個と、それを攻撃する群。
社会からはじき出され、貧困という枠組みの中に押し込まれる者たち。
肌や瞳の色を侮蔑され、唾棄され、傲慢な権力者に蹂躙される命。

これらは全て彼らのすぐそばで起きている現実であるのに、子どもは目隠しをされながら
大人は見て見ぬフリをしながら、薄っぺらい道徳や偽善というレールの上をよちよちと歩いている。
それがどうしようもなく、滑稽だった。

神宮寺 美咲紀には、他の人間の命などまったく関心がなかった。
死のうが生きていようが、彼女には関係ない。
だから例え世界が滅び行こうとも、彼女は人類を救おうとも変えようとも思わない。

なぜか?

それは彼女が、人類とは異なる種の生き物であるからである。
いや、そもそも生き物という表現が正しいともわからない。
一つ言えること。彼女は幼げな少女の顔をして、中身は人間を超越している。

アリがいなくなってしまうからと、アリジゴクを絶滅させようと動く人間はいない。
関係ないからである。アリが食われようが、死滅しようが、人間という種にはまったく関係がない。
それと同じだ。美咲紀にとっては、人間が勝手に死に絶えようが、知ったこっちゃない。

だから彼女は、自分のために、自分の幸福のためだけに、世界を弄ぶ。
決して人類を見下してるからでも、酷く嫌悪しているからでもない。
ただ彼女にとって人間は――


美咲紀「『ザ・ファイナルレクイエム』……!」

FR『………』ゴゴゴゴ


――実にどうでもいい存在なのだ。


丈二「『アークティック・モンキーズ』!」

A・モンキーズ『ムヒーーーーッ!』


――牙を剥く者以外は。







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