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第11話『魂の決着(Leave Before The Lights Come On)』その③

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  ―B Part 2024―  



◇東京織星シンフォニーホール・Bホール 同時刻

タッ!

丈二「ふぅッ」シュッ

美咲紀「ッ!」スパァ

同時刻。Bホールステージ上で、丈二と美咲紀の最後の駆け引きが幕を挙げた。
『アークティック・モンキーズ』の拳で『ザ・ファイナルレクイエム』の動きを止めてから、
握りしめたダガーナイフで本体である美咲紀を狙う。
駆け出し、シュッと突き出したナイフの切っ先が、美咲紀の右頬を掠めた。

美咲紀「はッ!」ドゴッ

丈二「くッ」ベキッ

突き出された丈二の右腕を、美咲紀が裏拳で殴り抜く。
丈二は美咲紀が繰り出したローキックを脚でガードすると、そのまま彼女のバランスを奪い、
ぐるんと足場を奪って宙に投げ出した。
体勢を崩した無防備な彼女の首を狙い、持ち替えたナイフの刃を振り払う。

美咲紀「ちッ」シュバッ!

美咲紀はそれを長い脚をしならせて蹴り払い、丈二のあごにめがけて、拳を振り上げた。

丈二「ぐあ」ベロン

ぎりぎりで身を反らし、美咲紀のアッパーを回避した丈二であったが、彼女の拳が微かに肌に触れた。
皮膚はベロンとめくれあがり、その下から血が噴きだす。
華奢な少女の筋肉量では、どう考えても理屈に合わない破壊力を持つ拳である。

丈二(信じられん……なんて膂力を秘めてる)バッ

バック転で距離を取り、ナイフを構えなおす丈二。

丈二(こいつの体術は本物だ……。まったく隙が見えない……)ドバァ

由佳里「じょ、丈二ッ!!」

常人の目では追えない一瞬の応酬。いつの間にかアゴを負傷している丈二を見て、由佳里が悲鳴に近い叫びをあげる。
ステージの下へ下がらせた由佳里とミシェル。不安げに事を見守る二人に、丈二がステージの上から声をかける。

丈二「大丈夫だ! 少しかすっただけだ!」

姿勢を整え、地に足を付けた美咲紀もまた、相手の底知れぬ力に頭をもたげていた。

美咲紀(正確に、少しのぶれもなく……こいつは私の急所だけを狙い続けている)

美咲紀(何の感情の混じり気もない、純然たる“殺意”。こいつの殺意は本物だ。
    私を“殺すこと”……それのみを考えた戦闘スタイル)
 
 
 




頬の傷から流れる血を拭い、美咲紀が嗤った。

美咲紀「ふふふふ……ずいぶん頑張るのね丈二。彼女の前でかっこつけてるのかしら?」

丈二「かっこなんかつかねーだろ。弱いものイジメしてるだけだぜ?」

美咲紀「笑える。足りない脳みそ必死に絞って考えた渾身のユーモアね。余裕のなさが伝わってきて面白いわ」

丈二「今の内にいっぱい笑っとけよ。すぐに笑えなくなるんだからな……死ぬから」

軽口をたたきながら、二人は理解していた。この勝負は、気を抜いた瞬間が終わりであると。
終わりにできるほどの実力を、お互い持ち合わせていると。
おそらく、決着は思うよりも早くつくだろう。それぞれが、勝負を楽しむことなく、
それぞれの命を狡猾に、奪う機会を狙っている。これは喧嘩や手合せなどといった、青臭いものでは断じてない。

美咲紀(こいつは『ハムバグ』を復活させた……キャンディを持っている)

丈二(スタンドバトルなら……“キャンディをぶつけた瞬間”に勝負は決まる)

美咲紀(“一瞬の隙”。それを生んでしまった者が……)

丈二(“死ぬ”)

“殺し合い”である。

美咲紀「『ザ・ファイナルレクイエム』」

FR『……』ズズズ……

ミシェル「!?」

『ザ・ファイナルレクイエム』が、空間に“ひずみ”を入れ、それを両手で押し広げていく。
宙にできた奇妙な“穴”。そこに腕を突っ込むと、中から一本の日本刀を取り出した。
鞘から怪しげに輝く刀身を引き抜き、美咲紀が呟いた。

美咲紀「妖刀――『神楽重(かぐらえ)』」スゥゥー

由佳里「妖……刀……?」

美咲紀「人の血を吸う生きた刀よ。さあ丈二――」タッ

『神楽重』を構え、美咲紀が床を蹴って跳んだ。

美咲紀「あなたの血を寄越しなさい……」

丈二「くッそッ!」ガッ

キィィィン

ダガーナイフと『神楽重』の刃が重なり、じりじりとした力の掛け合いがはじまる。
金属がこすれる音を響かせながら、丈二は、ナイフの刃すら叩き折られると思わせるほどの、美咲紀の膂力に絶句した。

ググググ……
 
 
 




美咲紀「……」ニヤリ

丈二(ふ、普通じゃない……こいつ……折られる!)

丈二(“受け止める”しかないッ!)

A・モンキーズ『ムヒィィー!』バシュッ!

FR『ヴォオオオ!』ドシュッ!

『アークティック・モンキーズ』の拳を、『ザ・ファイナルレクイエム』の拳が打ち据え、相殺する。
『神楽重』の刃を受け止めていたナイフの刃が砕け、生き血を啜る怪しげな銀の牙が、丈二の胴体に突き刺さった。
しかし。

美咲紀「!?」

丈二「ふぅッ、ふぅッ」ズズズ…

刃は、丈二の体に“沈み込むように”消えていた。丈二は先ほどの負傷で出した血液で、
『アークティック・モンキーズ』に自分の体に赤いラインを引かせていたのだった。
刀が切り込まれるポイントと角度を予想し、それを受け止めるように細い赤の線を引く。
それによって、“赤”に刃が“入り込んでしまい”、丈二の体は無傷でいられるのであった。
少しでもラインから刀がはみ出せば胴体をざっくりと切り落とされる、危険な賭けである。

美咲紀(バカな……! こんなこと、考えるやつがいるのか……!?
    少しでもずれれば即死の策を、自分の身に張るやつが……!)

丈二「おい、どうした? もう笑みが消えてるぞ」ズズ…

美咲紀「!!」

丈二「笑えよ」
A・モンキーズ『オラァァ!!』ドゴォォ!

美咲紀「ぶぐッ」ベキベキ

刀の自由を奪われた美咲紀の、“一瞬の隙”を突き、『アークティック・モンキーズ』が右の拳を繰り出した。
パンチは美咲紀の頬を打ち抜き、肉と骨をめきめきと押し潰しながら、その華奢な少女の体を吹っ飛ばした。

ドサァッ

ぐるんと宙を舞い、床に叩きつけられた美咲紀が、鼻からぼたぼたと血を溢した。
床に手をついて、体を起こす彼女の頭の中は、“屈辱”で一杯だった。

美咲紀「く……くそ……ガキ……」ボタボタ

丈二「せっかく妖刀まで出してもらったのに悪いが、こんなものは使わないでいただきたい」

そう言って、丈二は自分の体から『神楽重』を引き抜くと、それを観客席の方へ投げた。

丈二「めちゃくちゃ爽快だよ、この眺め。お前が這いつくばる姿はさ。いやー実に気分が良いね」

鼻血を拭う美咲紀を見下ろしながら、丈二が冷たい瞳で笑った。
 
 
 




ミシェル「やった! 一撃ッ!」

ステージの下から二人を見上げるミシェルが、そう声に出したときだった。
ステージの上で、美咲紀がおもむろに立ち上がり、血の混じったツバをステージに吐き捨てた。

美咲紀「……残念ね」ペッ

丈二「…あ?」

美咲紀「三島 由佳里とせっかく再会できたのに、また離れ離れになるのね……
    愛は残酷ね。永遠に続く愛なんて、運命なんて存在しないのね」

そう言うと、『ザ・ファイナルレクイエム』に変化が起きた。
一体であるはずのヴィジョンが、二体、三体と次々に数を増やしていき、ホールのいたるところに現れ始めたのだった。

FR『……』ドドドド

丈二「これは……あん時の……!」

ミシェル「分身……!?」

十体ほどに分裂した『ザ・ファイナルレクイエム』が、ホールの薄い暗闇にその姿を紛らわせた。
背筋に寒いものが走る。この分身能力に、“前世”では歯が立たず、殺された。

美咲紀「バラバラに引き裂いてあげるわ。文字通りね……」

丈二「やめろッ! 由佳里に手を出すな!」

FR『ヴォォォ……』

美咲紀「もう遅い……」

闇より一斉に奇襲をかける十体の『ザ・ファイナルレクイエム』。そのうちの数体が、由佳里とミシェルめがけて飛び掛かった。
由佳里の手を引き、ホールの入口まで走るミシェル。

由佳里「きゃあああああ」

ミシェル「シット! こいつら……!」

FR『……』ドドド

丈二「ミシェル! 『エヴリシング・カムズ・アンド・ゴーズ』で応戦しろッ!」

ミシェル「無理だッて! 私のスタンド、殴り合いとか無理!」

美咲紀「よそ見してる余裕があるの?」
FR『ヴォォォ!』バシュッ

丈二「ぐあ……ッ!」ブチィッ

繰り出された『ザ・ファイナルレクイエム』の右手が、丈二の肩の肉を掴み、ちぎり取った。
血が弾け飛び、『ザ・ファイナルレクイエム』の強烈な握力を持つ右手が、丈二の肩の肉を握りつぶす。

丈二(あんな手で、由佳里に触れられたら……)

FR『……』ゴゴゴ

丈二(引き裂かれる――!)
 
 
 




ミシェル「くッ!」

由佳里「ああ……!」

FR『……』ジリジリ

入口の前に立ちふさがり、二人を取り囲む『ザ・ファイナルレクイエム』。
じりじりと歩み寄り、強烈な暴力を秘めた右手を、二人に向かって突き出した。

由佳里「いやあああああああああああああ」

ドシュッッ!!

スタンドの攻撃が、身体を貫く音。観客のいないBホール内に響き渡るその音に、その場にいる全員の時間が止まったようになった。
時間をいち早く取り戻したのは、美咲紀だった。

美咲紀「……」ニヤリ

彼女はにやりと笑い、茫然とする丈二に近づいていく。だが、彼女は気づいた。

ブシャアア

美咲紀「……?」ドクドク

自分の脇腹が、ダメージフィードバックでえぐれていることに。
攻撃を受けたのが――

由佳里「あ、あ……」

ミシェル「み……」

丈二「未来……!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

未来「『ウエスタン・ヒーロー』……!」
W・ヒーロー『ハァァァァ!』

FR『ヴォォオオオオオオ!!』

自分のスタンドだということに。
 
 
 




未来「ミシェル、由佳里さん。下がっててくれ」

ミシェル「ミライ……!」

未来「丈二! 二人は俺が守るッ! 君はそいつに集中しろッ!」

二人を自分の背に隠して、未来が叫んだ。
ステージの上で、丈二がじわりと涙を浮かべて、彼の声に応えた。

丈二(未来……お前も、記憶が……ありがとう、ミシェル……)

丈二「任せたぞォォッ!」
A・モンキーズ『ムヒィィィーーー!!』

一方で、えぐれた脇腹を押さえながら、美咲紀が未来に問いかける。

美咲紀「どういうこと……? なにをしてるの、倉井 未来……!」ドクドク

未来「もうアンタの仲間じゃないってことだ。俺は『組織』なんていらない」

未来「俺は! 阿部のチームの倉井 未来だ!」

美咲紀「ふ……ざけるなよ、このガキ……!」

恨み言のように呟いて、美咲紀が『ザ・ファイナルレクイエム』に合図する。
出現していた十体全ての『ザ・ファイナルレクイエム』が、一斉に未来めがけて突撃する。

FR『ヴォォォォォオオオオ!!』ドドド

未来「『ウエスタン・ヒーロー:鉄のベルト』!!」
W・ヒーロー『ハァァァァ!!』

ベルトを巻き、鉄の硬度を得た拳の、うねるようなラッシュが『ザ・ファイナルレクイエム』の体を打ち抜く。
しかし、拳が命中すると同時に分身たちが姿を消し、オリジナル一体のみが姿を残した。
オリジナルに拳がめり込んだと同時に、オリジナルの体が“霧”と化し、宙に溶けた。

バァァァァァ……

未来「!」

丈二「“霧になる能力”だ! 分身能力を解いたんだ、逃げろ未来ッ!」

霧と化し、姿を消したスタンドが、右腕のみを未来の背後で形成していく。
未来は気づいていない。由佳里とミシェルが発見し、声を上げたときだった。

ガシィィッ!

美咲紀「!!?」

未来「!!」

丈二「!!」
 
 
 




突然現れたもう一人、髪をゴムでまとめた青年が、そこにいた。
彼はスタンドを出現させ、そのスタンドが、『ザ・ファイナルレクイエム』の右腕を掴んでいた。
丈二は、彼の姿に見覚えがあった。確信があった。間違えようがなかった。
あのアホ面は、あの、どこか頼りになるようなバカ面は――

カズ「『ノー・リーズン』……こいつの能力を“うやむや”にしろ」
N・R『……』ズズズ

かつてのチームメイト、福野 一樹その人だった。

丈二「カズ……!」

“うやむや”にされ、霧状化の能力を解かれた『ザ・ファイナルレクイエム』が、その姿を場に現した。
美咲紀は悔しそうに舌打ちし、スタンドを解くと、再び自身の傍らに出現させ、丈二と相対した。
未来とカズの二人が、ステージへと歩みを近づけていく。

カズ「よぉ丈二! 久しぶりだな!」

そう言って笑う彼の傍らに立つのは、スタンド『ノー・リーズン』。
目が縫い付けられた、怒ったような表情が特徴的な人型スタンドである。
“事象をうやむやにする”能力……この反則級の能力には、何度も助けられたっけな。

美咲紀「アホ面揃えてぞろぞろと……これもお前の計画なの? ミシェル・ブランチ」

ミシェル「……まあね」

美咲紀「うっとおしい奴らね……どうせ全員死ぬのに」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

そう言って、美咲紀は次の能力を発動させた。
カラフルな飴玉が周囲に散らばり、宙にふわふわと浮かび上がる。
丈二の良く知る、『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』の能力だった。

FR『ヴォォオオオオ』
美咲紀「『ザ・ファイナルレクイエム――アークティック・モンキーズ:ハムバグ』」

未来「これは、ハムバグキャンディかッ!」

カズ「触れちゃヤバそーってのはわかったけどよォ!」

色とりどりの無数のキャンディが、きらきらと煌めきながらステージを取り囲むように浮かぶ。
キャンディに触れれば、即スタンドを塗り替えられる。
それがわかっているから、未来と丈二はその場を動かなかった。
この量のキャンディを一斉に発射されたら、全員無事というわけにはいかないだろう。
そう考えながら、丈二が美咲紀に笑いかけた。

丈二「はっ、情けねえやつだ。もう『ハムバグ』に頼っちまうのかよ」

美咲紀「……あ?」
 
 
 




丈二「俺の能力だろ、そりゃ。どや顔で使ってんじゃねえぞ」

美咲紀「……黙りなさい」

丈二「バケモノが、女の子のフリをするな。獣は獣らしく、理性取っ払って大暴れしてみろよ」

美咲紀「……ダマレ……」

丈二「もうわかっちまったんだ。お前は一生、俺には勝てない。だから、いいさ! 撃ってみろよ、キャンディを!」

美咲紀「ダマレ……!」

丈二「人のマネごとをするだけのお前を、お前の能力を! 俺が真正面からぶっ潰してやる……!」

FR『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

バァァーーーーーーーーーーーーーン!!

『ザ・ファイナルレクイエム』の咆哮がホールを割るように響いた。
宙に浮遊する“ハムバグキャンディ”が、360度、全方位に向け一斉掃射される。
弾丸と化した飴玉の雨が、ホールにいる全員に喰らい付こうと、飛び交う。
しかしながら丈二は、スタンドを出してガードすることも、その場から動いて避けようともしなかった。

丈二「……」

まるで、絶対に自分には命中しないと、知っているかのように。

那由多「『リトル・ミス・サンシャイン』!」
L・M・S『ドラァァァーーーーーーッ!!』ゴォォォッ!

美咲紀「!!」

割って入るように響く、聞きなれた少女の、凛とした力強い声。
それと同時に発生した強い“熱の波”が、ステージ上の空間に流れ込んだ。
飴玉が丈二に到達する前に、熱せられた熱い空気が、飴玉をどろどろに溶かして、無力化させた。

どろどろどろどろ

丈二「……那由多」

那由多「丈二。久しぶり」

舞台裏から姿を現した女性は、虹村 那由多。彼女も以前のチームメイトであり、丈二にとっては初めて仲間になった人物であった。
彼女のスタンドは『リトル・ミス・サンシャイン』。ストリップダンサーのような恰好の女性型で、
両手に“太陽電池”を備える、“熱を生み出し、操る能力”を持つパワータイプのスタンドだ。

琢磨「丈二。那由多には手を出すなよ。俺の彼女だからな」
S・F・U『………』

ゾンビ『グルルルル……』

キャンディから未来とカズを守ったのは、琢磨の『シックス・フィート・アンダー』で生み出されたゾンビたち。
ゾンビたちが盾になり、凶弾を一身に引き受けたのだった。

丈二「琢磨も……お前ら……」
 
 
 




以前の阿部のチーム5人が、この場に揃った。
見知った顔が勢ぞろいしたその状況は懐かしいのとなんだか可笑しいのと、様々な感慨が混ざり合って複雑だった。
ただ一つ、言えるのは――

丈二「紹介するぜ、神宮寺 美咲紀」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

那由多「……もう彼女じゃないっての」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

未来「懐かしい顔が揃ったもんだな」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

カズ「ははは、確かに」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

琢磨「頼む、考え直そう、那由多」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

美咲紀「……くぅ…うううう」

丈二「これが俺の、“魂の伴侶(ソウルメイト)”だ」


これほど素晴らしい瞬間は、今まで味わったことがなかった。


美咲紀「お前ら、ごときが……私に……!」

バスッ

美咲紀の肩を撃ちぬいた、一発。『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』のキャンディが、
美咲紀の右肩に、小さな風穴を一つ、開けていた。
一瞬遅れてなにが起きたのかを察知した美咲紀の顔から、血の気がじわじわと引いていく。

丈二「『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』」 
A・M:H『ムヒィ……』
 
 
 




――イヤダ


丈二「死は人生の一部。生と死は一体だ。それはわかってる」

丈二「でも俺は、そんな哲学を受け入れられるほど達観も、自分の命を軽んじてもいない」


――イヤダ


丈二「人は、死にたくないから必死に生きるんだ。死を恐れるから、今ある生を大切にできる」

丈二「そしてお前も、死を楽しんでいるような顔をして、実際は怯えている。仮初めの死で自分をごまかしている
   死ぬことを恐れ、ただ逃げているだけにすぎない……」


――逝キタクナイ


丈二「なにが“死は究極の幸福”だ、笑わせるな」


――忘レタクナイ


丈二「“来世”なんかない! お前がいくのは――」


――忘レラレタクナイ


丈二「“地獄”だ」
 
 
 




A・M:H『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ』

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ


――消エタク、ナイ……


ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ

A・M:H『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
     オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!!』



命を叩き潰す、魂のラッシュ。
肉も骨も体液も、そしてささやかな幸福も。全て潰えた“それ”には、もう名前は必要なかった。
ただの物体に成り下がっていたからである。魂なき、抜け殻。
誰の記憶にも残らない、ただの“肉”。たったそれだけ――。













◇東京織星シンフォニーホール・Bホール 某時刻

カズ「……なんだって?」

未来「だから言ったろ。もうじきここは襲撃される。
   “オペレーション・ジェノサイド”が発令されたんだ」

素っ頓狂な声で聞き直したカズに待っていたのは、あまりにも残酷すぎる返事だった。
“オペレーション・ジェノサイド”。『組織』に属していたものなら、誰もがその響きに慄き震える。
『組織』が全身全霊を込めて目標ポイントを“浄化”する、最強最悪の大殺戮である。

未来「『組織』の回線を傍受したのが20分前……おそらくだが、もう手遅れだ。
   手順通りことが進んでいれば、もう奴らはホールの外にいる」

琢磨「取り囲まれているのか、『東京織星シンフォニーホール』……」

由佳里「そ、そんな! どうにかならないんですか!?」
 
 
 




丈二「無理だ由佳里。こうなったら、もうどうにもならない」

神宮寺 美咲紀にありったけの拳を、己の全てを叩きこみ、力が抜けて隅でしゃがみこんでいた丈二が、あきらめるように言った。
彼は心底疲弊していた。喋るのも辛そうに、ぐったりとうなだれている。
無理もない、と思う。たった今の今まで、少しの油断も許されない、ぎりぎりの綱渡りを強いられていたのだから。
相手を下し、見事渡り切った直後であるのだから。

ミシェル「……」

那由多「私たちだけなら、なんとか突破できるかもだけど……」

そう言ってステージの上を見やった那由多の視線の先には、気を失った三人の男女の姿があった。
Aホールでの戦闘を終えた、藍川 比奈乃。Cホールから拾ってきたのは吉田 忍と真崎 航平である。
全力を使い果たし、ぐったりと死んだように気を失う彼らを連れて行くとなると、まず交戦は不可能だ。

琢磨「ヒナと、忍に航平……こいつらを引きずりながら外には出れない」

カズ「……くそっ」

ミシェル「ここで……お終いなの? 私たち」

丈二「……」

由佳里「丈二……」

重苦しい沈黙が、全員を包み込む。誰もが俯き気味に、あきらめと悔しさを顔をにじませる。
そのときだった。

未来「……みんな。聞いてほしいんだ」

未来が突然、立ち上がって口を開いた。

未来「今から俺は、このホールに電気をつける
   明かりが点く前に、ここから外へ出てほしいんだ。正面入口から」

琢磨「……なに?」

カズ「バカか? 正面入口なんて、出たら即死だ!」

未来「大丈夫だ。俺を信じてくれ」

そう言った未来の顔は、冗談のつもりでもやけになったわけでもなく、あくまで真剣だった。
なにか考えがある。そういう顔をしていた。
 
 
 




丈二「何をする気だ、未来」

未来「……君に恩を返す」

丈二「恩なんかない。死ぬつもりならよせ」

未来「死ぬつもりはないさ。正しいことをする。
   君と由佳里さんが幸せになれるように、最後の手伝いをしたいんだ」

丈二「お前の助けなんか必要ない! だから――」

丈二の精一杯の優しさに、思わず笑みがこぼれた。
やはりこの男は揺らがない。いつだって、こういうやつだった。
どれだけ君に救われたのか、わからないけど――

未来「誰かに必要とされなくても、俺たちは真面目に地道に生きていけばいい」

未来「自分が自分を好きでいられれば、それでいいと思うんだ」

今度は俺が、君を救う。

未来「みんな、外へ出ろ」

そう言って、未来は電源を付けにホールをあとにした。
残された全員が、正面入口にむかい、歩きはじめた。



◇東京織星シンフォニーホール・正面入口 同時刻

工作員「!! おい、あれは……」

その瞬間、武装して待機していた暗殺部の工作員らは、思わず自分の目を疑った。
正面入り口から、城嶋 丈二ら数名が、堂々と外へ出てきたのである。
とても、正気の沙汰とは思えない行為であった。
現場の指揮をとる暗殺部隊の隊長が、無線で幹部の男に連絡する。

隊長「こちら坂本。ホールの中から、ターゲットが姿を現しました」

幹部<なんだと? 倉井 未来の姿は確認できるか?>

隊長「いえ。ですが未来のチームの城嶋 丈二、桐本 琢磨の姿が確認できます。
   それから……ん? あれ、担がれてるの……藍川に、吉田に、真崎か? 全員いるのか?」

そのとき、突然ホールの中の照明が復活し、あたりを明るくした。
 
 
 




隊長「照明が……どうなって……」

幹部<!!! し、しまった……>

隊長「え!? なんですか!?」

幹部<中止だ! 今すぐ作戦を中止し、撤退しろ! 急げ!>



丈二「…なんで、撃ってこない……?」

由佳里「……」

那由多「どうなってるの……?」

あまりにも静かなホール入り口前。丈二たちは、ここへ近づくサイレンの音を聞いた。
それと同時に、闇の中で身を潜めていた『組織』の工作員たちが、一斉に撤退を始めた。

ウーウーウー

サイレンの赤い光を撒き散らしながら、ホールを取り囲むように停車したのは、
普通のパトカーでなく“特型警備車”とよばれる車両だった。
丈二は理解した。これらと入れ替わりに撤退した『組織』の工作員たちは、こいつらを恐れたのだ。

バッ!

ザザザッ!

SAT「………」

凶悪事件や重大テロ案件の対処を任務とした、日本の特殊警察部隊・SATである。

那由多(そうか……)

琢磨(SATの前では、俺たちに手出しできない……)

丈二(だから、こいつらを呼んだのか……未来)

未来「俺だ! 武器は持ってない! 人質は解放するッ!」

大声を張り上げ、未来が両手を挙げて無抵抗を示しながら、ホールから現れた。
テロリストとしてその身を追われていた彼が、SATを呼び、出頭する。
そうすることで、その場では『組織』の暗殺部も手を出すことができない。

未来は、勝ち取ったのだ。

未来「……」

自分の人生と引き換えに、仲間の命を。

機動隊員たちに囲まれて、未来は逮捕された。
丈二たちはあくまで人質を装って、車両に乗せられる彼の姿を、ただ見届けるしかなかった。
 
 
 




お元気ですか。

藍川 比奈乃です。

あの嵐のような夜から、一年が経ちました。
私は気を失っていてよく覚えていないのですが、あの夜、未来リーダーが逮捕されました。

丈二や琢磨が言うには、彼は身を挺して、私たちの命を救ってくれたそうです。
法の庭に引きずり出されたら、100%死刑を言い渡される身であるのに、自ら警察を呼んで。
まさに自分の命と引き換えに、私たちを助けてくれました。
現在は都内の刑務所に収監されているそうです。

阿部先生を失った『組織』は、新しい責任者を置いて今もまだ活動を続けています。
指揮系統はほぼ回復して、現在も新しい責任者の指示のもと、多くのスタンド使い達が任務に出向いています。

私たちは『組織』を抜け、現在はそれぞれ地方でひっそりと暮らしています。
都会に毒された私たちは、田舎ののどかさでデトックスです。静かな暮らしが心地よいです。
私は今は北に住んでいます。冬は本当に凍えるようで辛いけど、これから慣れて行こうと思います。

丈二と由佳里さんの話は、それから聞きませんが、きっとうまくやっているのでしょう。
今どこで何をしているのかは知らないけど、彼らも静かに暮らしていてくれたらいいな、と思います。

私から伝えたいことはこれくらいです。
とにかく、きちんと前を向いて一歩ずつ、しっかりとした暮らしをしていきたいです。
今までは、私はいつか闇の中で血を流して死んで、それで終わる人生なんだと思っていました。

でも、人生はやりなおせます。
間違えた道は、いつでも引き返すことができるのです。

確かに、世の中は私たちよりもずっと利口な人間が作っています。
ずる賢いやつが得するように、できてると思うかもしれません。
でも、だからこそ。私は正攻法で世の中を生きてみたい。
例えどんなに辛く厳しい生き方でも、豊かな暮らしは望めなくても、自分が自分を好きでいられれば、それで十分。

正しい生き方を選ぶのはいつだって難しいけど、すごく価値のあることだと私は思います。
 
 
 




◇都内・徐所大学 PM10:00


柏「……ん?」

その日、大学教授の柏 龍太郎は自分の研究室に、ケータイを忘れて行った。
気が付き、取りに戻った午前十時。ドアノブのカギを開けようとして、彼は異変に気付いた。

ガチャッ

カギが開いていたのだ。部屋を出るとき、確かに鍵をかけたはずだった。
不審に思った柏が部屋に入ると、自分の机に誰かが座っていた。
電気をつけていないため、暗くて顔はわからなかった。

柏「……誰だ。ここでなにをしてる」

???「あんたを待ってたんだ」

柏「生徒か? 不法侵入だぞ」

若い青年の声がした。柏が部屋の電気を付けようとスイッチに触れる。
ちかちかと点滅を繰り返し、部屋に明かりが灯った。
机の上を見ると、すでに青年は姿を消していた。
薄気味悪く思い、机の上のケータイに手を伸ばしたときだった。

ガシィッ!

柏「……!」グググッ

???「あんたに恨みはない……が、指令なんだ。許してくれ」

柏「くッ……くッ……」

背後から首を絞められ、柏は薄れ行く意識の中、必死に抵抗を試みる。
が、まったくもって無駄だった。なぜなら青年は、柏に“触れていなかった”。

???「すまない……」

柏に見えないなにかの力が、柏の首を絞めていたのだった。
やがて気道を潰された柏が、ぐったりと静かになって床に倒れた。
眼球にぽつぽつと点状出血が見られる。
冷たくなった柏を見て、こんな風に死にたくはないな、と『真崎 航平』はしみじみ感じた。

航平「……」

航平「……運ばなきゃ」
 
 
 




◇都内某所 とある研究施設 某時刻

真っ白などこかの医療室。最先端の医療器具やら実験装置やらがずらりと並ぶその広い部屋に、
網膜認証を済ませ、一人の男が入ってきた。
男はホットドッグをかじりながら、部屋の隅でパソコンを打つ職員に、声を掛ける。

男「ど? そいつは。なんとかなりそ?」

職員「まだ死んでから時間が浅いので大丈夫だとは思います」

男「よかった。真崎のやつに頼んで正解だったよ。
  さすが元『組織』。手際がいいね」

職員「しかし誰なんですか、この死体。なぜ平田さんは、この男を選んだのですか?」

平田と呼ばれた男が、ホットドッグを齧りながら答えた。

平田「いやさ、こいつくらいなんだよ。その……実力があるのがさ」

職員「実力?」

平田「ゴキブリみたいな連中がいるんだけどさ、そいつらを駆除してほしいわけ」

平田「この柏 龍太郎先生にね」

そう言って平田は医療室中央のベッドに寝かせられた、死体袋を開いた。
中で冷たく眠る柏の頬に触れて、平田はくくく、と不気味に笑った。




【オリスタ】アークティック・モンキーズSS 2 -ソウルメイト-【SS】 おわり


使用させていただいたスタンド


No.113
【スタンド名】 アークティック・モンキーズ
【本体】 城嶋 丈二
【能力】 赤い色のものに出入りできる

No.678
【スタンド名】 アークティック・モンキーズ:ハムバグ
【本体】 城嶋 丈二
【能力】 「キャンディ」に触れた者に「スタンド」を贈与する

No.177
【スタンド名】 ウエスタン・ヒーロー
【本体】 倉井 未来
【能力】 殴った物質をヒーローベルトに変え、巻いた者はその物質が持っていた性質を取得する

No.81
【スタンド名】 シックス・フィート・アンダー
【本体】 桐本 琢磨
【能力】 死体に6つ穴をあけるとその死体をゾンビにすることができる

No.2336
【スタンド名】 ダーケスト・ブルー
【本体】 藍川 比奈乃(ヒナ)
【能力】 掌から青い電撃を発する

No.1340
【スタンド名】 ナイン・インチ・ネイルズ
【本体】 吉田 忍
【能力】 殴ったものをドロドロにする

No.2552
【スタンド名】 ジェイミー・フォックス
【本体】 真崎 航平
【能力】 殴った物体を金属でコーティングする

No.2322
【スタンド名】 デッドバイ・サンライズ
【本体】 宮原 彩
【能力】 触った物や人に『時限爆弾』をとりつける

No.1123
【スタンド名】 ジグ・ジグ・スパトニック
【本体】 後藤 柚子季
【能力】 触れたものをハサミにする

No.315
【スタンド名】 ザ・ファイナルレクイエム
【本体】 神宮寺 美咲紀
【能力】 触った事のある『スタンド能力』をそのまま自分が使うことが出来る。

No.4290
【スタンド名】 エヴリシング・カムズ・アンド・ゴーズ
【本体】 ミシェル・ブランチ
【能力】 「失われたもの」を取り戻す

No.181
【スタンド名】 リトル・ミス・サンシャイン
【本体】 虹村 那由多
【能力】 手で触れたものを太陽熱で焼き尽くす

No.238
【スタンド名】 ノー・リーズン
【本体】 福野 一樹
【能力】 触った物体・事象の理由をうやむやにしてその物体・事象を弱めたりなかったことにできる

No.230
【スタンド名】 クライング・ライトニング
【本体】 雨宮 天斗
【能力】 精神体の本体に触れられた者の魂が黄泉へと消えていく




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