ドギュ――――――――z_____________ン
この世のどこでもないところ。
スタンドが造りだした異空間。
背景は様々な色が入り混じる抽象画のような風景で、すべてが高速で通り過ぎてゆく。
上も下もない、混沌の世界。
『ワールズ・エンド・ガールフレンド』を発動させたディエスは世界と世界のはざまをとんでいた。
ディエス「やはり……成長する力とは、おそろしいものだ。『杖谷模』……侮れん奴だった。」
ディエス「だがしかし、『ワールズ・エンド・ガールフレンド』の能力は無敵。
………『命』を『運ぶ』と書いて『運命』とは誰が言った言葉だったか。自らの『運命』さえ司るこの能力がある限り、俺に敗北は無い。
ククク、いい『試練』だった。だが……俺は『成長』する。波紋にも負けぬ力をつけて、俺は再び杜王町に戻ってくるッ!」
ディエス「ディザスターは滅びぬッ! 俺の野望……『無秩序』の世界を形成するまで……俺は成長し続けるのだ!!
ハァーッハハハハハハ!!!!」
ディエスは混沌の中を行き続けていた。今までいた世界から離れ、杜王町に行く前の新しい世界へと向かっている。
しかし、その世界へはいまだ辿りついていなかった。
ディエス「………ム、おかしいぞ。あまりにも時間がかかりすぎる。以前『ワールズ・エンド・ガールフレンド』を発動させた時は世界と世界の移動は数秒だったが……。
もうすでに1分は経過している。」
ディエスが違和感を抱き始めると、その違和感はすぐに大きく広がり、確信に変わっていた。
その違和感の方向、それまでいた終わらせたはずの世界があった方向………ディエスは後ろを向いた。
そこには、杖谷模がいた。
ドドドドドドドドド………
ディエス「なッ……!『杖谷模』!!なぜおまえがこの世界の狭間にッ!!!
俺が前の世界から連れてきた者はいない、『俺だけ』のはずだ!!」
ディエスは模が『ワールズ・エンド・ガールフレンド』の世界にいる可能性を探し、考えた。
ディエス(セクター9の習得できる4つの『世界』……だが、その4つの席はすべて埋まっていたはずだ。
『ミレニアム・チョーク』、『ハーミット・パープル』………『ブラック・スペード』、あとは………『波紋』……。)
ディエス「何故だ! どうやっておまえはここへ来たというんだッ!!」
ディエスの前に佇む模はゆっくりと話しだした。
模「………僕が波紋を習得するにあたって、ひとつ障害があった。
それまで僕が波紋を使おうとすると、僕の意志に関わらず、かならずスタンドが発動したことだ。
……つまり、僕自身が波紋を使おうと思ってもできなかったんだ。スタンドを介さずにはね……。」
ディエス「何を話している! 波紋は関係がないはずだ!」
模「いいや、関係はあるんだ。
……僕は自分自身で波紋を使うため、〝セクター9第一の世界『波紋の世界』を忘れる〟必要があった。」
ディエス「何……!」
模「しかし、セクター9は『学習する』スタンド。覚えたものを消しゴムで消すように忘れることはできなかった。11歳のときから使い続けているんだからなおさらだ。
『波紋』を使える人間は一人ではないから、その技術が消えることもない。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
未だ混沌の世界は終わらなかった。杖谷模は、この混沌の世界が『終わらない』ことを知っていた。
模は続けた。
模「しかし……杜王町にはひとり……『波紋の世界』を使えなくすることができる人間がいた。」
ディエス(……虹村億泰は物理的に消す能力……岸辺露伴は杜王町にいないはず……)
模「『大柳賢』……僕より少し年上の、スタンド使いだ。能力は……ジャンケンに負けた人間の『スタンド能力を奪う』。」
ディエス「な、何ィ~~~~~!!!!」
模「ジョースターさんの知り合いだったんだ。『杜王町を守るため』だと話したら、すぐに協力してくれた。
……そして、セクター9の『波紋の世界』を奪ってもらった。」
ディエス「では……まさか、今この混沌の世界が終わらないのは……」
模「そう、『空いた席』を使ったんだ。
ワールズ・エンド・ガールフレンド
サウンド・ドライブ・セクター9『第一の世界』『世界の終わりの世界』。
……おまえの『ワールズ・エンド・ガールフレンド』の能力に干渉し、世界の消滅を食い止めた。」
ドドドドドドドドドド……
終章 -世界の終わりの世界-
ディエス「馬鹿を言うなッ!」
模「…………」
ディエス「杖谷……おまえが杜王町に戻る前にセクター9の世界をひとつ空けていたのだとしたら、おまえはここまでこれなかったはずだ!」
ミレニアム・チョーク
模「……『血液の世界』か。」
ディエス「そう……おまえが俺の『ミレニアム・チョーク』の能力を得たとき、席はすべて埋まったはず。
こんな土壇場で新たな世界が習得できるようになったなど、虫が良すぎる!」
模「ああ……セクター9に新たなる席ができたわけではない。」
ディエス「さらにおまえは『ワールズ・エンド・ガールフレンド』の能力があることを知る由は無かった。
あらかじめ『2つ』は席を空けておかなければ、ここへ来ることなどできないはずだ!!」
模「忘れたか? ディエス。」
ディエス「何………。」
ミレニアム・チョーク
模「僕がおまえの能力を得た『血液の世界』……それは『波紋の世界』を忘れたことで空いた席ではないということを……。」
ドドドドドドドドドド……
ディエス「『ワン・トゥ・ワン』………『五代衛』か……!」
模「はじめ僕は波紋を習得するためと、お前の『ミレニアム・チョーク』の能力を得るために『波紋の世界』の席を空けた。
……それだけでは僕はここへ来ることはできなかった。」
ディエス「………………ッ!!」
模「僕がここへ来ることができたのは………五代くんのおかげなんだ。」
これは、模と五代の二人のそれぞれの思惑が同じ目的に重なってしまった『不運』だった。
模は波紋を習得するために、ディエスからスタンド能力を奪うために『波紋の世界』を大柳賢というスタンド使いに奪わせた。
模が「波紋は使えないんだ」と仲間に言ってディエスとの戦いまで波紋を使わなかったのは、
セクター9を発現させること無く波紋を使うことで、敵にも味方にも『波紋の世界』の席を空けた可能性に気づかれてしまうことを恐れたからだ。
模はディエスの『ミレニアム・チョーク』を奪うために、万全を期して仲間にも波紋のことは隠していたのだ。
ディエスを倒すには『ミレニアム・チョーク』の能力が必要だったから……。
だが、それと同じことを五代も考えていたのだ。
模は、杜王町に帰ってきた。
だが模は真に波紋を習得したことを隠していたため、決戦を前に模のセクター9の席はすべて埋まってしまっていると五代は思っていたのだ。
模はきっとディエゴ・ディエスと戦うことになるだろう。『ミレニアム・チョーク』の能力を奪うことなしに勝つのは難しい……。
そして五代は決意したのだ。『自らの命を投げ出し、セクター9の世界に空席を作る』ことを……。
五代が死を決意したのはそれだけが理由ではない。九堂やアッコがキルに勝つためのヒントを与えるために戦ったことも含まれる。
五代にとってそれは悲しい選択ではなかった。仲間のために、模の勝利のために命を燃やすことが彼の生の価値となったのだから。
これによって、模と五代……二人の狙いは『不運にも』重なってしまい、セクター9の世界に『ふたつの空席』が生まれてしまった。
だが……この『不運』が、ディエスの『成長したスタンド能力』という不測の事態に対応できる状況を生み出したのだ!
模「ごめんね………五代くん。
そして、ありがとう………。」
―――これは、偶然なのだろうか?
模「僕は五代くんのため、仲間のため、杜王町のため……そして、僕自身のためにコイツを倒す!!」
ディエス「――――――――――ッッ!!」
いいや、これは二人の意志が導いた必然……………『運命』だったのだ。
模「『サウンド・ドライブ・セクター9』ッッ!!」
セクター9「ウリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
ババババババババババババババババババババババッ!!
セクター9はディエスに向け高速のラッシュを放った!
ディエス「く……『ワールズ・エンド・ガールフレンド』、迎え討て!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
セクター9「オオオオオオリャアアアアアアアアアアアアア!!!!」
W・E・G「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
双方のラッシュはパワー、スピードともに拮抗していた。
ディエス(何故だ……杖谷のスタンドは俺のスタンドよりもパワーは劣っていたはずなのに……)
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ディエス(まさか……ここにきてスタンドが『成長』していたというのか……ッ!?
波紋を習得し、自身が成長しただけでなく……精神的にも……スタンドのポテンシャルにも影響していたというのかッ!?)
模「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
ディエス「やはり『成長性』は……侮れぬものだ。」
ガシッ!
セクター9の拳がワールズ・エンド・ガールフレンドの手に止められ、封じられてしまった。
模「……………ッ!」
ディエス「だが封じ込めてしまえば……時がたつのを待てば、いずれ新しい世界へ行き着く。
すぐに到着しなかったのは、おまえの能力によりそのスピードが抑えられたからだ。
『入門してすぐの世界では、オリジナルと同等の能力を引き出せない』……。そうだろう、杖谷?」
模「………………」
ディエス「………何か言ったか?」
模「おまえは……さっき、こう言ったな。『運命を司る能力』だと……」
ディエス「ああ、そうだッ!『ワールズ・エンド・ガールフレンド』は……すべての運命を覆す! 神をも凌駕した……」
模「それは違う。」
ディエス「何………?」
模「僕に言わせれば……おまえはただ『運命から逃げていた』だけだ。」
ディエス「なんだと……!」
模「おまえは危機に瀕したら、その運命に立ち向かうことはせずに逃げていただけなんだ。
自らの手で切り開こうとはせずに……危機を回避していただけだ。」
ディエス「……………!」
模「人は……人ってのは、運命に立ち向かっていくからこそ……『成長』するんだ!!」
ガシッ!
ディエス「!!」
セクター9は拳を開き、ワールズ・エンド・ガールフレンドの手と組み合った。
ディエス「な、何を……!」
模「そのまま放さないでよ、セクター9。」
模は息を深く吐いて呼吸を整えた。
ドドドドドドドドドドド……
ディエス「……! ま、まずい! ワールズ・エンド・ガールフレンド、手を放……」
オーバードライブ
模「『波紋疾走』ッ!!」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!
模は波紋パンチのラッシュをディエスの体に叩き込んだ。
セクター9はワールズ・エンド・ガールフレンドの手をしっかりと掴み、サンドバックのようにディエスの体を離さないように支えた。
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!
ディエス「ぐぶぐおぉおおおぉおぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオ!!!!!!!!」
模「うりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!
ディエス「ごの……グゾガギがああああがガガグアガウグアアアアアアアアアアア!!!!」
バギィィッ!
最後の渾身の一撃を放った直後、ワールズ・エンド・ガールフレンドからセクター9の手が放された。
混沌の世界の渦のほうへディエスの体はゆっくりと向かっていった。
ディエス「ぐが……ば、ばく……杖谷……ッ………模…………!!」
ディエス「俺を……倒して……すべてが終わったと……思うな…………!!
俺が死すとも……ディザスターは死なぬ……! ディザスターある限り……ディザスターの信念が生き続ける限り……
俺の心は……永遠に生き続けるんだ!! ハァーッハッハッハッハッハッハ!!」
高笑いと共にディエスの体は混沌の渦の中へ消えていった。
模「…………………」
ワールズ・エンド・ガールフレンドの世界が消えていく。
背景の交じり合った色はどんどん暗くなっていき、世界は狭くなっていった。
混沌の向こう側に、模の姿はどんどん遠く、小さくなっていった。
黒い闇に包まれ……………ワールズ・エンド・ガールフレンドの世界は消滅した。
【名前】
杖谷模
【身長】
166.4cm
【血液型】
A
【好きな食べ物】
チキンのトマトスープ煮込み
【嫌いな食べ物】
アボカド
【趣味】
サッカー観戦(やるのはヘタ)
【好きなマンガ】
『からくりサーカス』『烈火の炎』
【スタンド名】
サウンド・ドライブ・セクター9
【タイプ】
近距離型
【特徴】
顔に時計、両手の拳に★のついた人型。
【能力】
相手と同じ「世界」に「入門」する能力。
第一の世界:
「世界の終わりの世界(ワールズ・エンド・ガールフレンド)」
自発的にはまったく使えないが、オリジナルの能力に対して抵抗し、世界の消滅を食い止めることができる。
自発的にはまったく使えないが、オリジナルの能力に対して抵抗し、世界の消滅を食い止めることができる。
第二の世界:
「衝撃の世界(ブラック・スペード)」
衝撃を操作する能力。『衝撃の塊』以外はオリジナルと同等に扱うことができるようになった。
衝撃を操作する能力。『衝撃の塊』以外はオリジナルと同等に扱うことができるようになった。
第三の世界:
「血液の世界(ミレニアム・チョーク)」
血液成分を操作する能力。成分の操作に制限は無いが、オリジナルよりも時間がかかり、自身の身体能力の強化も期待できない。
血液成分を操作する能力。成分の操作に制限は無いが、オリジナルよりも時間がかかり、自身の身体能力の強化も期待できない。
第四の世界:
「いばらの世界(ハーミット・パープル)」
いばらを発現させ、操る能力。いばらの扱いはオリジナルと同等だが、念写はできない。
いばらを発現させ、操る能力。いばらの扱いはオリジナルと同等だが、念写はできない。
破壊力-A(成長)
スピード-B
射程距離-E
持続力-A
精密動作性-B
成長性-A
―――杜王町、別荘地帯近くの海岸。
ディエスと模が消えてから数時間後……
あれほど大きく、長く続いた地震はすでに収まり、津波も来なかった。
あたりには風も吹かず、海は穏やかだった。
九堂「なんだかわからねえが……模がなんかやってくれたってことなのかな……。」
紅葉「きっと、そうなんだろうね…………。」
九堂「…………………紅葉。」
紅葉「………………。」
紅葉はただ黙って、ぼんやりと海を見つめていた。
*「………一之瀬紅葉。」
別荘地帯へ行く道のほうから男の声が聞こえた。
紅葉「………棟耶。」
棟耶「どうやら……終わったようだな。」
海岸に現れた棟耶輝彦は、紅葉と九堂に近づいてきた。
九堂「な……テメーは棟耶!」
紅葉「大丈夫、九堂。戦うつもりで来たんじゃないよ。」
棟耶「何が起きたのかはよくわからないが……確かなことは、ボスはここにいなくて、おまえたちがここにいるということだ。」
九堂「…………」
棟耶「ボスが死んだとは思えないが……指揮官がいなくなった以上、杜王町侵攻の作戦を続けるわけにはいかない。
どうやらキルも倒されてしまったようだし、ヴァンの行方も分からない。残った幹部の一人として……ボスの失踪を本部に伝えなければならない。
ボスの座が空いたとなれば、混乱は必至だろう。そうなれば、杜王町どころじゃなくなる。」
紅葉「……………棟耶。」
棟耶「……おまえたちは勝利したんだよ。私たちにな………。敗者は潔く引き下がるとしよう。」
紅葉「…………あんたも、大変だね。」
棟耶「フン……。杜王町はまかせたぞ、紅葉………。」
棟耶は背を向けて再び別荘地帯のほうへと歩き出した。
紅葉「棟耶!」
棟耶「……………」
紅葉「また会いましょう! 今度は……杜王町の住人として!」
棟耶は背を向けたまま黙って軽く手を振り、去っていった。
九堂「なあ……紅葉。」
紅葉「………何よ。」
九堂「棟耶は、俺たちが『勝利した』………って言ってたけどよ、なんか素直に喜べないよな……。」
紅葉「………………。」
九堂「模は、大丈夫かな……。」
紅葉「模は絶対に帰ってくるよ。」
九堂「……え?」
紅葉「帰ってくると信じ続けていれば……必ず。
前も、そうだったから……。」
九堂「…………そうだな。」
紅葉「………………。」
九堂「模が帰ってきたら、どうする?」
紅葉「もっと、いろんなところへ連れて行く。模が……私たちが守った街を、案内してやるんだ………。」
海の遠く向こうから陽が昇りはじめた。
強く差し込むオレンジ色の光が杜王町の街を照らしていく。
真夜中の地震によって目を覚ましていた杜王町の住民たちは皆、その美しい朝日を眺めていた。
住民たちは知らない。
この夜、地震よりももっと恐ろしいことが起きようとしていたことを。
そして、それを防ぐために戦った少年達がいたことを。
この美しい朝日は……彼らによってもたらされたことを。
だがそれを知らずとも、住民たちはこの夜明けの光を忘れることは決して無いだろう……。
――――――――――――――――――――
―――――――――
――――
……2週間後、ぶどうヶ丘高校屋上。
紅葉「……………」
夏服に身を包んだ紅葉が、屋上のフェンスに寄りかかって空を見上げていた。
そのそばで、九堂と銀次郎が床に座っていた。
模は、まだ帰っていなかった。
九堂「2週間……か。あの時よりずいぶん時間が短く感じるよ。」
紅葉「そうね………。」
九堂「棟耶の言ってたことは本当だろうな?またすぐにディザスターの連中が襲ってくるとか……ねえよな?」
紅葉「そんなことより九堂………」
紅葉「会ってきたんでしょ? ………陸さんに。」
九堂「……ああ。 会ったっていうか、グーゼンだったけどな。」
―――杜王町、霊園そばのコンビニ。
九堂は駐車場に停めてあるトラックに寄りかかりタバコを吸う陸の姿を見つけた。
九堂「……………あ!」
陸「…………おー、九堂か。」
九堂「無事……だったんすね。」
陸「………まぁな。」
九堂「その………スンマセン! 俺が、温子を………。」
陸「おめぇのせいじゃねえよ。アッコは望んでああしたんだろ。」
九堂「でも……俺がムリをさせたようなもんだし……。」
陸「それに………アッコは死んでねえよ。」
九堂「え!?」
陸「まぁ、まだ目は覚まさないけどな……。」
陸「……あの時、カメユーマーケットで……最後におれに話しかけていたのはアッコじゃない、おれの姉……空姉ちゃんだった。
こーいうこと言うキャラじゃねーけどよ、……きっとアッコの体の中には二人の人格がいたんだ。
『スペア・リプレイ』でアッコが生まれてから造りあげられたアッコの人格と……眠っていた空姉ちゃんの人格。
あの大火事で死んだはずの空姉ちゃんの人格はアッコの中で生き続けて……ひそかにおれを見守り続けてくれたんだ。」
九堂「……………」
陸「そして……あのカメユーマーケットで、空姉ちゃんは死んだんだ。杜王町を守るために、ひいてはおれを守るために戦って……。
でも……アッコは死んでいない。アッコが生まれてからずっと一緒に生き続けてきた、空姉ちゃんとは別のアッコの人格もおれは……大好きだった。
アッコは………まだ、おれに別れを告げていない。勝手にいなくなるなんて……そんなはずはない。旅行に行く約束だってしたのに……。」
九堂「陸さん……。」
陸「九堂、おれは旅に出る。眠ったままのアッコを目覚めさせる方法を見つけるために。
狂っちまったわけじゃない。わかるんだ、アッコはまだ生きてるってな。」
九堂「え?」
陸はタバコを捨ててトラックの運転席に乗り込み、窓を開けた。
陸「わかるんだよ……『スペア・リプレイ』でな。
アッコの体を調べたら、生体機能は死んでいなかった。ほんとうに眠っているだけなのさ。」
九堂「……………!」
陸「じゃあな、九堂。帰ってきたら、模も連れて遊びに来いよ!」
陸はトラックのエンジンをかけ、コンビニの駐車場を出て行った。
向かった先は杜王町内のほうではなく、九堂が行ったことのない道路……
陸は杜王町を去っていった。
紅葉「………そっか。」
九堂「ん……まあ、良かったよ。アッコは死んじゃいねーそうだ。一緒に卒業するのはムリだろうがな。」
紅葉「卒業……………ね。」
紅葉「…………あ、そういや銀次郎。あんたあの日何してたのよ?」
銀次郎「ん゛……ああ、いや、模のシショーとかいうじいさんに会ってな。」
九堂「シショー?」
紅葉「師匠……って、波紋の!?」
九堂「な、何ッ!?」
銀次郎「え……何、驚いてんだよ。」
銀次郎は深夜に杜王町駅でジョセフと会ったことを紅葉と九堂に話した。
九堂「なるほど……模が杜王町から離れていたとき、そのじいさんのとこで波紋の修行をしていたんだな。」
銀次郎「なんだ、てっきり知ってるもんだと思ってたぜ。」
紅葉「波紋の修行をするために離れたわけじゃないはずだけど……そのおじいさんが模を救ってくれたんだ……。」
銀次郎「……でも、じいさんは模と面識は無かったそうだ。」
九堂「え?」
紅葉「ちょ、ちょっと待ってよ。お互い面識が無かったというのに、病院で模はそのおじいさんと出会い、波紋の修行をすることになったというの?」
九堂「波紋使いって全世界に数人しかいないんだろ……グーゼンにしちゃできすぎだぜ。」
銀次郎「そのじーさん、こう言ってたんだ……。」
紅葉「何て……?」
銀次郎「『この出会いは……彼が、模自身が導いた出会いだった』って…………。」
ドドドドドドドドドドドドドドド………
―――時はさかのぼり、数週間前。
S市総合病院正面入り口から、ジョセフ・ジョースターはぶつぶつ呟きながら外へ出てきた。
ジョセフ「なんじゃ仗助のヤツ。せっかく来たのに入院なんぞしおって……。」
ジョセフは前庭のベンチに腰を下ろした。
これはまさに、杖谷模が『鈴美さんのいた小道』で選択をつきつけられ、瀕死の母とともに杜王町を離れる選択をしようとしていた日だった。
ジョセフ「どうしたもんかノォ……朋子に会いに行くわけにもいかんし、ワシはなにをしに来たんじゃ………。」
庭を見渡すと、車椅子をひいて散歩する老夫婦や、広場でサッカーをする子どもたちの姿があった。
ジョセフ「それにしても喉が渇いた……ん?」
ジョセフはベンチに近づいてくる男がいるのに気がついた。
*「ジョセフ・ジョースターさんですね?」
ジョセフ「……オオ、そうじゃが……。」
*「もうすぐ、病院から一人の少年が出てきます。その少年はひどく落ち込み、思い悩んでいます。
どうか話を聴いて力になってやってください。」
ジョセフ「なんじゃ藪から棒に。だいたいワシがその子が誰か分からんことには話の聴きようがないじゃろ。」
*「いいえ、見ればきっと分かりますよ。」
ジョセフ「なんかアヤしい奴じゃのオ。」
*「………………」
すると男は手に持っていた紙コップをジョセフに差し出した。
*「これ、差し上げます。喉が渇いていたようですけど……。」
ジョセフ「お、気が利くの。」
ジョセフは男の持つコップに手を伸ばした。
ジョセフ「…………!!」
ジョセフはそのコップを見て驚いた。
男は水の入ったコップを……逆さにして持っていた。
しかし、水は一滴もこぼれていなかったのだ。
ジョセフ「は、『波紋』………!?」
男はコップの口を上に向けて、ジョセフに手渡した。
*「では、彼のことお願いしますね。」
そういうと男は病院の門に向かって歩き出した。
ジョセフ「待ってくれ! 君は……何者だ?」
*「僕は……ただのかけだしの波紋使いです。名前は……」
男は振り返り、ジョセフに微笑みかけた。
学ランの胸元からチェック柄のカーディガンがのぞき、風で前髪がかすかに揺れていた。
模「杖谷模、といいます。」
模は再び振り返って病院をあとにした。
ジョセフは立ち止まったまま、離れていく模の背中を見つめていた。
過去へとさかのぼる『ワールズ・エンド・ガールフレンド』の世界の中で模はディエスを倒し、
ワールズ・エンド・ガールフレンドの世界は消滅した。
模が降り立った場所はこのS市総合病院で、自分がかつてジョセフと出会った日であると知ったとき、
模はこの戦いの自分の最後の役割を悟った。
ジョセフ「これはおそらく『君のために』、『君が』引き寄せた導きだろう、弱き波紋使いよ。」
模は以前、病院でジョセフに言われた言葉を思い出し、フフッと笑った。
まさかほんとうに、自分で引き合わせた出会いだったなんて、ここに降り立つまでは思いもしなかったからだ。
――運命は待っていれば訪れるものではない。運命は自分の手で導かなければ……道は開けない――
模「さあて……戦いが終わるまで、どこにいこうかな……。」
どこへともなく走っていく模の影が道路に長くのびている。
昼過ぎまで雨を降らせていた雲はすっかり晴れて、空は夕焼けに染まっていた。
模はその空を見上げ、はじめてセクター9と出会った日に学校の屋上で見た夕焼けを思い出した。
今の空は、あの日見た夕焼けの空よりも少し、明るい気がした。
セクター9の世界 THE END
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