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第七章『血道の世界』その⑨

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orisuta

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―――杜王町駅前。

朝から晩まで絶えることなく人が行き交うこの場所でも、日付が変わる頃には人もほとんどいなくなっていた。

いるのは酔っ払いのサラリーマンや、げらげら笑いながら歩く若者たち、ベンチに横になるホームレスくらいなものだった。


商店街からその駅へ向かう一人の男がいた。

銀次郎「S市行きは……0時04分発か。十分間に合うな。」


鎌倉銀次郎。

彼もディザスターの件に関わった杜王町のスタンド使いではあるが、彼は戦うことはせずに杜王町から離れる選択をした。

それはディザスターのスタンド使いに対する恐怖心や、前日に会った紅葉の進言もあっての選択だった。

ディザスターが、反発する模や紅葉、零たち7人を殲滅すれば、ディザスターは本格的に杜王町内のスタンド使いを排除し始めるのは間違いないことだった。

彼が逃げられるチャンスは今日までしかなかったのだ。


銀次郎「悪いな紅葉……俺はお前らのような勇気はない。自分の命が一番大切なんだよ…………。」

とは言っても、彼自身にとってもかなり悩んだことだった。

紅葉に杜王町を出るように言われた前日から今日のこの時間まで離れなかったのは、ぎりぎりまで悩みぬいてのことだった。

銀次郎「……………。」

だが、彼を責めることは誰にもできない。誰だって、自分の命は惜しいものだ。



銀次郎「…………ナンだ、騒がしいな。」

銀次郎が駅に近づくと、若者達のグループが何者かを取り囲んでいるのを見つけた。



DQN1「ネェじいちゃぁ~ん、ボクタチお金なくて困ってるンですよ~。小遣いくれません?」

DQN2「お~い、聞こえてんのかァ?早く財布出せッつってんだよォ。」

若者達の中心にいる、くたくたの帽子をかぶったおじいさんは、若者達を見上げてポケーッとした顔を見せていた。

おじいさん「………ハァ?『歯が臭いンだぜ』?」

DQN3「じじいッ、ぶん殴るぞッ!」


と、若者が拳を振りかぶった瞬間、若者の体は後方に引き寄せられた。

ギュン!


DQN3「……え?」

銀次郎「ジイさんにたかろうなんて……不良の風上にも置けないヤツらだな。」

背後から銀次郎のスタンド『レッド・サイクロン』の能力によって若者の服の襟を『掴み』、持ち上げていた。

DQN3「アンだてめッ!放しやがれ!」


銀次郎「うるッせえ!!」



ブオン!

銀次郎は若者の体を噴水のほうへ放り投げた。


バシャーン!

銀次郎「さあ、オメェらもブン投げられてえか?」

DQN1「な、なんだコイツ!」

DQN2「かっ、かないっこねえ!逃げろ!」



若者達は走り去り、噴水につっこんだ若者もどこかへ逃げていった。







銀次郎「ッチ、ハイエナどもが……。」

おじいさん「……ホッホ。」

銀次郎「おい、じいさん大丈夫かよ。」

おじいさん「なんじゃ、君も小遣いが欲しいのか?」

銀次郎「なにボケたこと言ってんだよ。こんな時間に出歩いちゃ、襲われない方がおかしいぜじいさん。」

おじいさん「むぅ、だがわしはこのへんの道もわからんしのぅ……。」

銀次郎「え………じいさん、よその人間か?」

おじいさん「わしは、弟子の晴れ舞台を観にここまで来たんじゃが……。」

銀次郎「弟子……?」


銀次郎(……アレ、よくみりゃこのじいさん……外人か?日本語はうまいけど……。)

おじいさん「『杖谷模』……という子じゃ。」

銀次郎「な、模だって!?」


深夜、杜王町にやってきたおじいさんの正体は、ジョセフ・ジョースターだった。

ジョセフ「お、君は模くんのお友達だったのか。偶然じゃのオ。」

銀次郎(い、いったいどういうことなんだ!?)

ジョセフ「君が模くんのお友達なら話は早い。案内してくれんか?」

銀次郎「イ、イヤ、今は街中を歩くのは(俺が)スゲーあぶないし、よしたほうがいいぜ!」

ジョセフ「なんじゃ、スタンドを持っておきながら危ないとな?」

銀次郎「(さ、さらにスタンド使いなのかよ……。)いや、今ディザスターって連中が暴れてんだ。町を離れたほうがいい、とりあえず電車に………。」


ガタンゴトン……ガタンゴトン……

銀次郎の背後から、S市へ向かう最終列車が発進する音が聞こえた。

若者達の相手をして時間を食ってしまっていたようだ。


ジョセフ「………行ってしまったの。」

銀次郎「~~~~~~~ッ、とりあえず街中はキケンだ。俺がついてやるから、ここにいようぜじいさん。」

ジョセフ「それじゃあワシはなんのためにここに来たんじゃ。」

銀次郎「じゃあじいさん、俺に話を聞かせてくれ。なんでいったい、模がじいさんの弟子になったんだ?」

ジョセフ「むぅ………まあ仕方ない。話してやるか。………模は、波紋の修行をしたいとワシに言ってきたんじゃ。」

銀次郎「『波紋』………。」


ジョセフは銀次郎に病院で模と出会った時のことから話し始めた。







木々の生い茂る別荘地帯は、初夏だというのに虫の声が一切聞こえてこなかった。

まるでそこにいる怪物を恐れ、息を潜めているかのように。



模「………………」

模も、相対する怪物の脅威を改めて感じ取っていた。


ディエスのスタンド……『ミレニアム・チョーク』の能力を奪い、ディエスに勝利するための大きな足がかりを得たはずなのに、

ディエスに焦る様子はまったく見られなかった。


ディエス「フフ……杖谷、何を驚いている?俺がおまえに能力を奪われても平然としていることが、そんなにおかしいことか?」

模「知っていたというのか?……僕のスタンド能力を。」

ディエス「さあて、それはどうだろうな。」


ディエス(杖谷の能力は盗聴によりすでに知っていた。『学習する能力』……『4つという制限』……そして、それがすべて『埋まっていた』こともな。)

ディエス「俺の部下が五代か紅葉……いずれかを殺せばおまえのセクター9の『学習する能力』、それを使えるようになることくらい想定の内だ。

     なにも、不思議なことではない。」


模「だけど事実、僕はおまえの能力を奪った!それでも、おまえが負けることはないというのかッ、ディエス!!」ダダダッ


ブオオッ!

ディエス「ああ、そのとおりだ。『ミレニアム・チョーク』ッ!!」

バシン!

模「!!」


模が突き出したセクター9の拳をミレニアム・チョークは片手で弾いた。

ディエス「その理由は3つ……まず1つめは、『圧倒的なパワーの差』。おまえのセクター9の純粋なパワーは俺のミレニアム・チョークよりはるかに劣る。

     攻撃を受けてみればよくわかる。零のアンティーク・レッドよりも、紅葉のブラック・スペードよりもパワーがない!」

グオオオオオオ!!


ミレニアム・チョークの砲撃を思わせるような直突きが模に迫る。

模「くッ!!」


バシィィッ!

セクター9の両腕でガードさせても、ガードは弾かれて両腕は開き、ビリビリとしびれてしまう。


ディエス「ハァッ!!」

グオオオオッ!!

模のガードが弾かれたガラ空きのボディにさらに追撃を加える。

           ブラック・スペード
模「せ、セクター9『衝撃の世界』!」

ミレニアム・チョークの拳は模の胸に触れたまま止められた。

だが、この能力による防御もディエスは当然想定している。


ディエス「そう……そうやって防御するだろうな。だが、次はどうする?」

模「くそ………!」

ディエス「いかに汎用性に富んだ能力を持っていたとしても、純粋なパワーを持っていなければ勝負に勝つことはできない!」

グオオオオオ!!


ディエス「あっけない幕引きだったな杖谷!死ねいッ!!」







………

だが、ミレニアム・チョークの拳は模の腹に触れただけで、ピタリと止まった。

模(す、寸止め……?)

ディエスのしたことに混乱する模だったが、それは……ディエスも同じだった。

ディエス「…………? なんだ……何が、起こったんだ……?」


???「うるぁーーーーーーーーーーーッッ!!!」

ディエス「むッッ!!?」

模の背後から、ディエスに向かって飛びかかる男が現れた。


九堂「『アウェーキング・キーパー』ぁぁあああああ!!!」

ガシィッ!

九堂のアウェーキング・キーパーが振り下ろしたパンチは、すんでのところでガードされてしまった。



グググ……ググ……

九堂「ボサッとしてんじゃねえ、模!」

模「く、九堂くん!」


九堂「ちっとの間、コイツは俺にまかせろ!おまえは紅葉を治してやれ、なんか……ヤバそうなんだ。」

模「え……?」

模が紅葉のほうをみると、横たわった紅葉はまったく動かず、肌の色も悪くなっているのが遠くからでもわかった。

模が治したと思っていた紅葉は、模の『血液の世界』の効力が薄かったためか、再びミレニアム・チョークの能力の影響が出始めていた。



九堂「コイツの……ディエスの能力を奪ったんだろ!?五代が……死んじまったから、奪えたはずだ!」

模「…………うん。」

九堂「しょげるなよ、アイツに……五代に殴られるぞ。アイツははじめから死ぬつもりで戦っていたんだ。」

模「え?」

九堂「アイツは俺をキル・シプチルに勝たせるために……それだけじゃない、おまえに勝利の活路を与えるために、命を燃やしたんだ!

   きっとおまえに、ディエスの能力を奪わせるために……!」

模「………!」

九堂「だから、五代のために俺たちは絶対に勝たなきゃいけねえし、紅葉だって死なせちゃいけない。」


ディエス「ハァアアアアアアア!九堂ォォオオオッ!!」

九堂「行け、模!俺だって……もう仲間に死んで欲しくはない!」

模「……うん、わかった!」

模は九堂とディエスから離れ、紅葉のもとへ向かった。


ディエス「九堂……キルを、殺したんだな……だが、だからといって俺に歯向かえるとは思うなッ!」

九堂「へ……よく知ってんじゃねえか。だが、歯向かえなくともな……ちょっと時間稼ぎするくらい俺にだってできる!」

ディエス「ほお、それは何秒だ?10秒か……それとも5秒か……?」

九堂「ほざいてろッッ!」

ドォン!







模「紅葉ぁッ!」

紅葉「…………」


模が先ほど紅葉を助けたときから、顔色はさらに悪くなっていた。

模「息は……ある。やっぱり、さっきのじゃかける時間が足りなかったのか……。」

ディエスが紅葉にかけたミレニアム・チョークの能力は、『白血病』だった。

模が応急処置をしたときは、『血液の世界』を使って、多くなりすぎた白血球の比率を少しだけ元に戻した。

完全に元に戻せなかったのは、習得したての『血液の世界』では力が弱く、時間をかけなければならなかったからだ。


模「九堂くんがディエスをひきつけている間、時間はある。でもできるだけ急がないと……セクター9、『血液の世界』!」

セクター9と模は、手を紅葉の体にかざした。


セクター9は徐々に紅葉の血液の構成比率を元に戻していった。


紅葉「…………」

徐々に、紅葉の肌の色が赤みを増し、こころなしか表情も和らいでいった。


紅葉「…………ッ。」

模「く、紅葉!」


紅葉「ば……模………。」


模「よ、よかった……もう大丈夫だよ紅葉。」

紅葉「ごめんね……。」


模「ううん、悪いのは僕だ。僕がもうちょっと立ち直るのが早かったら……紅葉はこんなことには……」

紅葉「違うよ……。」

模「え?」






紅葉「ずっと……模にあやまりたいことがあった……。」


模「……何のこと?」

紅葉「私が……あなたを、この戦いに巻き込んだこと……。」


模「………」

紅葉「春に、模と出会った時……模のスタンドを見出そうとしなければ……こんな、危険な目にあわずにすんだのに……。」

模「違う……違うよ、紅葉。」

紅葉「………気ィ使わなくたっていいよ模……。」


模「僕は、紅葉に出会って本当によかったと思ってる。」


紅葉「え………」

模「僕は紅葉と出会わなかったら、とても大切なものを手に入れられなかったかもしれない。」

紅葉「大切な……もの?」

模「それは、スタンドと出会わせてくれたことだけじゃない。この戦いの中で……何度も危険な目にもあったし、色んなことがあった……でも、だからこそ……!」


模は紅葉の手をとり、両手でぎゅっと握った。


模「僕は、僕が僕である証を……手に入れることができたんだ。それは……紅葉のおかげなんだ。」

紅葉「…………」





模「ありがとう、紅葉。」

紅葉「ねえ、何よ……大切なものって……!」


模は紅葉の手を放し、立ち上がった。

模「……もう、ディエスの能力は打ち消した。……紅葉、見ててくれよ。成長した僕の姿を……!」

紅葉「ば……模ッ!」


模は振り返り、ディエスのもとへ走り出していった。







銀次郎とジョセフは噴水の前のベンチに座り、話し続けていた。

銀次郎「『波紋』……よく知ってるぜ。なんせ二度もこの身で受けたからな。」

ジョセフ「ホホ、模くんに波紋を使わせるとは、お主もよっぽどじゃのう。」

銀次郎「ああ……もう懲りたよ。んで、その波紋の修行を模がじいさんに願い出たのか?」

ジョセフ「ん………ま、そうじゃのう。」

銀次郎「でもよ、模のヤツ、波紋を使いこなせてたように見えたが、なにも改めて修行する必要なんかなかったんじゃねえか?」

ジョセフ「いいや……彼は確かに修行する必要があった。」

銀次郎「は?」

ジョセフ「彼の波紋は……ワシに修行を願い出たときの彼の波紋は、ワシら波紋使いの扱う波紋とは似て非なるものであった。」

銀次郎「え……波紋のことは詳しく知らねーけど、模の波紋が何か問題あったのか?」

ジョセフ「そう……彼の波紋がワシらの波紋と異なる点……それは、模くんが波紋を『セクター9』によって習得したことじゃった。」

銀次郎「……それが、なにか違うのか?」

ジョセフ「つまり、模くんは真に波紋法を体得していたわけじゃない。彼の波紋は、セクター9による『マネごと』だったんじゃ。」

銀次郎「……………」

ジョセフ「だが、それを知っても……彼はあきらめなかった。」







バギィィッ!ゴガッ!

ディエス「フフ、九堂秀吉……おまえのスタンドの基礎能力はセクター9を上回るが……それでも動きが鈍いぞ!」

九堂(くっそ……キルと戦ったときの、『アウェーキング・キーパー・ザ・ワールド』を使った疲労が効いてるみてえだ……。)

ディエス「はぁッ!!」

グオン!!


九堂「くそッ!」

ガシッ!!

ミレニアム・チョークの頭を狙った右フックをアウェーキング・キーパーはガードしたものの、

足の踏ん張りが利かず九堂の体は吹っ飛ばされてしまった。


ザザザザザザザ!!

九堂「いでででででででッッ!」


九堂は素早く身を起こしディエスのほうを向くが、ディエスはすでに九堂のほうへ迫っていた。

九堂「くっ…………!」


九堂(なんなんだコイツ……組織のボスっていうからドンと構えているようなヤツかと思ったが……なんつーか、好戦的すぎる……!

   キルのような、能力を生かすためにじっくりと攻撃の機会を待つタイプじゃねえ、コッチに考える隙も与えないほどガツガツきやがる!

   戦争ゲームで例えれば、短機関銃だけ持って敵軍の陣地に突撃してひとりで殲滅するような……。

   こんな戦い方で……これまで生きてきたっていうのか!?)


ゴオオオオオオオ!!

九堂(ヤツのスタンドの攻撃が来る……!『アウェーキング・キーパー』の能力で止めることはできるが、

   その後ヤツにつかまれることは避けられねえ……。くそっ………!)







模「セクター9ッッ!!」


ギギッ

ディエス「…………!」


ディエスの腕はセクター9「いばらの世界」……いばらによって背後から引き止められ、ディエスの攻撃を防いだ。

模「離れて、九堂くん!ディエスにつかまったらやられてしまうんだ!」

九堂「すまねえ………模!」

模「九堂くんは……紅葉を守っていて。僕が、こいつを倒す。」

九堂はディエスと模のもとから離れ、紅葉のいるところへ行った。



ググググ……

模はディエスの腕に巻いたいばらを引き続け、ディエスも腕を引いて抵抗し続けていた。

ディエス「…………百有余年。」

模「……?」

ディエス「『百有余年生きてきた』間で、この杜王町での作戦ほど、手こずった作戦はなかった。」

模「………!!」

ディエス「なんだ、俺が百年以上生きてきたことに驚いているのか? 俺の能力をもってすれば、若さを保ち、寿命を延ばすことなど造作もないことだ。」

模(そんなバカな……ジョセフさんよりも、僕のひいじいちゃんよりも永く生きているっていうのか……?)


ディエス「まあ聞け。俺はこれまで生きてきた人生で……十何歳かで闇の世界へ入ってからは様々な裏の組織を渡り歩いていった。

     それはすべて俺自身のため……俺の成長のために数々の『試練』を乗り越えていった。

     そしてディザスターを乗っ取り、世界的規模の組織にするために活動していった中で、この杜王町での作戦ほど、

     部下のスタンド使いを数多く倒された作戦はなかった。キルでさえ倒されたのだからな。」


模「………で、何が言いたいんだ。」

ディエス「俺はこの試練を……ディザスターを飛躍させるための最大の試練だと受け取った。

     部下を多く失った痛手は大きいが、俺がおまえたちを皆すべて殺し杜王町の征服を遂げたなら、

     もはやディザスターを止められる者は現れないだろう。」

模「…………!」

ディエス「俺はおまえたちに敬意を表し、感謝申し上げる。」

バオッ!!


ディエスはマントを翻し、マントに染み付いた血液を飛ばした。

模「ッ!」

ビチッ!


模は顔面に飛んできた血液をとっさに腕で防ぎ、目に入るのを防いだ。

だが……その瞬間にディエスは模の懐まで近づいていた。

ディエス「おまえが俺を倒せない理由の2つめ……それは、『経験の差』だ。」

ブオン!

ミレニアム・チョークの腕が模の喉下めがけ振り上げられた。

ガシッ!


それをかろうじてセクター9の腕でガードしたが、ミレニアム・チョークのパワーは凄まじく、腕には激痛が走った。

ディエス「ハアッ!!」

ガッ!

ゴガッ!

ディエスは間をおかずに追撃を放つ。

それをすべてセクター9はガードするが、その度にガードしたところに激しい痛みを感じる。







ディエス「おまえが、俺に勝てるとでも思っていたのかッ!」

ドガッ!

ディエス「何一つ不足のない、豊かな家に生まれ、何不自由なく育ったおまえが、これまでつらいことの一つもなかったただのガキが、この俺に!」

ゲシッ!

ディエス「ハァアアアアアアアアアアッ!!!」

ディエスはミレニアム・チョークの拳を模に向け振り下ろした。


ガシッ!

それを、セクター9は手首を掴んで受け止めた。

模「つらいこと……か。つらいことなら、あったよ。」

模はセクター9にミレニアム・チョークの腕をつかませたままディエスの顔を見上げ、話しつづけた。

模「僕の……僕の家系は、代々、波紋を受け継いできたんだ。自分を、家族を守るための技術としてね。

  僕の、ひいじいちゃんが使えたんだ。で、なりゆきで僕がひいじいちゃんの波紋を受け継ぐことになった。」

ディエス「おまえの身の上話など、聴くつもりはないッ!!」

ブオンッ!

ディエスはミレニアム・チョークのもう一方の拳を模に向け放った。


ガシッ!

模「ディエス、おまえの話も聴いたんだ。ちょっとくらい、聴いててくれよ。」


セクター9はまたもミレニアム・チョークの拳を受け止めた。


両手でミレニアム・チョークの両腕を掴み、動きを封じていた。


模は、続けた。



模「すぐに、習得することはできなかった。その修行は、とてもつらかったよ。何度となく繰り返しても、使える感じがまったくしなくて……。

  やっと、使えるようになったときはうれしかったなあ……。ま、それも実はスタンド能力によって身につけていたんだけど。

  でも、ほんとうにつらかったのは、波紋を習得した後だった。」


グググ……ググ……

ディエスとて、模の話に聴き入っているわけではなかった。

ディエス(何故だ……パワーでは俺のスタンドのほうが圧倒的に上回っているはず……なのになぜ、コイツのスタンドの手を振り払えない……!?)


模「波紋を習得してからというもの……家族の目が冷たくなったんだ。じいちゃん、父さんは波紋を習得できなかったから……。

  冷たくなったというより、避けるようになったんだ、僕を……。

  おかしいよね、家族を守るための波紋が、家族を離れ離れにさせているなんて……。」


ディエス「何がいいたいんだ、杖谷……?」

模「それでも、僕は波紋の修行をやめなかった。きっと、僕の波紋も役に立つ日が来ると信じていたから……。

  ひいじいちゃんが死んでからも、杜王町にきてからも、僕は波紋を使いたくないと思ったことは一度もない。

  波紋は、僕が努力して手に入れた力だから……。『何もない』ばかりの僕の世界で、たったひとつ持っている大事なものだから……!」


ディエス「クハハ……だが、その波紋さえ……スタンドの能力によって手に入れたものじゃないか。

     自身で何も持たないスタンドの、『マネする』能力によって……!」


模「ああ、笑っちゃうよね。紅葉と出会って、僕のスタンドのことを、第一の世界『波紋の世界』のことを知ったとき、僕だってガッカリしたさ。」


ディエス「結局おまえは……何も持たぬただのガキ、だったんだな。」

模「それでも……それでも僕は………」







ディエス「もういいッッ!」

ガヅン!

そのとき、ディエスは模に頭突きを食らわせ、セクター9の手の力が緩んでしまった。

模「……ッ!」

ガシッ!


そして、ミレニアム・チョークはセクター9の手を右手と左手と、それぞれ組み合うようにして掴んだ。

ディエス「杖谷……おまえが俺を倒せぬ理由の3つめ……それは、セクター9の能力にある。

     おまえのスタンド能力の弱点……『入門したての『世界』はオリジナルと同等の力を引き出せない』。」

模「……!」

ディエス「私の能力で……押し切ってやるッ!『ミレニアム・チョーク』!模の生気を奪えッッ!」


ズギュン!

ミレニアム・チョークの手に掴まれた部分から、血の気が失われていった。血に通う栄養が失われ、体温も奪われていた。

             ミレニアム・チョーク
模「く……セクター9、『血液の世界』……!」

ディエスから学んだ第三の世界『血液の世界』により、ディエスの能力に抵抗した。

だが、生気を奪うスピードは、オリジナルのミレニアム・チョークのほうが勝っていた。


ディエス「ムダだ、杖谷。こうしている以上、おまえが動けなくなるのは時間の問題だ……!」


だが、模は下を向かなかった。

ディエスの顔を見上げ、にぃっと笑った。


模「は……話をつづけようか、ディエス。たしかに……おまえのいうとおり、僕の波紋は、セクター9で身につけた『マネごと』だった。

  それでも……それでも、僕は……!」

ディエス(何故だ杖谷……ここまできて、何故未だに絶望していないんだ!?)


模「僕は、あきらめなかった。」



ドウッ!!


ディエス「グウッ!!?」

突如、ミレニアム・チョークの手がセクター9の手からはなれ、ディエスの体が後方へ飛ばされた。


ドガッ!

ディエスはそのまま、地面に仰向けに叩きつけられた。


ディエス(な……んだ……?なにが……おこ……った?)







その光景に、遠くから見守っていた九堂と紅葉も驚いていた。

九堂「何だ……おい、紅葉。いったい何が起こったんだよ!?」

紅葉「…………!」

九堂「なんか、気づいたのか?紅葉、教えてくれよ!」

紅葉「私も……確かなことはいえないけど………可能性として、ひとつ思い当たることがある……。」



ディエス(今のは……胸に強い衝撃を放たれた……いや、体の内から振動を与えられたような感覚は……これはまさか……!)


紅葉「『波紋』………。」

九堂「は、波紋だって?……なんだ模のヤロウ、『波紋の世界』……使えたんじゃねえかよ。」

紅葉「でも今の……何かヘンだ。たとえ、波紋だったとしても……。」







ジョセフ「彼はあきらめなかった。それまで持っていた波紋が、サルマネの波紋だとしても。

     自分に才能がなくとも、必要とされたい……ってな。」

銀次郎「…………」

ジョセフ「だがな、わしはこうも考えたんじゃ。波紋という技術、だれしもが簡単にマネできるものではない。

     たとえそれが、スタンド能力によるものであってもな……。」

銀次郎「え?……じゃあ、つまり……」

ジョセフ「ああ、彼は……」







九堂「ヘン?何がだよ。」

紅葉「だって、今たぶん模は……『血液の世界』を使ってディエスの能力に抵抗していた。だから、『波紋の世界』は……」



ディエス(……なにかはわからないが、もはや悠長に戦っている場合ではない!多少こちらが身を削ることになろうが……)


ディエス「確実に、潰すッッ!!」

グオオオオオオオオオオオオ!!!


拳を大きく振りかぶり、模に向かって突進した。

防御のことを一切考えず、パワーで押し切る……。

最悪、模の攻撃を喰らうことになろうが……。



紅葉「ば、模!!」

ディエス「死ね、杖谷ッ!!」


ブゥオオオッ!!!

ミレニアム・チョークが、セクター9に放ったパンチは空を切った。まるで幻を殴ったかのように。

模はディエスが迫る直前で、セクター9を……スタンドを消したのだ。

セクター9の攻撃を喰らうつもりでいたディエスの覚悟はかえって逆効果となったのだ。


とはいえ、模はスタンドを消した……ディエスがすぐに体勢を立て直し、再び拳を振り下ろせば、模に防御のしようがなかった。

だが、その前に……





模「……『波紋疾走』。」



ディエス「…………!!」


ドウッ!

模の拳が、ディエスの腹を突いた。


ディエス「ぐ……はぁっっ!!」

そして、直後にディエスを襲ったのは、全身の水分を波打たせられたような感覚……体に電流が走っているようだった。


ドッ!

ディエスは全身に響く激痛に耐えかね、膝をついた。







九堂「あれは……波紋だ、間違いなく波紋だ!やっぱり、『波紋の世界』は使えなくなったわけじゃないんだ!」

紅葉「違う……!」

九堂「は?」

紅葉「今……模は、スタンドを出していなかった……。あれは……あれは……!」


紅葉は、体の震えを止めることができなかった。

模の悩み……それを、模と出会ったときから知っていたから。

あふれる涙が零れ、紅葉の頬をつたった。


紅葉「あれは、セクター9じゃあない、模の……『模自身の』波紋だ!!」





ジョセフ「彼は……才能がないなんてわけはなかった。彼は有していたのだ、波紋を扱う資格を……!」





模「フー……」


右手を前に構え、静かに息を整えた。

別荘地帯を吹き抜ける風は……いつしか、模を中心に渦巻いていた。







ディエス「ぐ……く、おおおおおお!!」ブオン!!

ディエスは目の前の模に向けミレニアム・チョークの腕を振り回した。

模「ッ!」バッ!

模はスタンドを消していたためガードはできなかったが、バックステップでミレニアム・チョークの攻撃をかわした。

ディエス「く………効いた………。」

模「…………」

ディエス「そのような武器を……隠していたとはな。おそらくは、仲間にも隠していたのだろう。最後の……ここぞという場面まで。」

ディエスの言葉に対し、模は沈黙を続けた。

ディエスの言うとおり、模は杜王町に戻ってから波紋を習得したことを誰にも告げなかった。

それは、ジョセフと相談してのことだった。

スタンド使いのエキスパートと戦うにあたって、スタンド以外のところで武器を持っていることは大きなアドバンテージを得るからだ。


ディエス「いいや……隠していたというより、表には出さなかったというだけか。考えてみれば杖谷……お前は今日ずっと戦い続け、杜王町中を走り続けた。

     それにもかかわらず今になってもその動きに疲れは見られない。波紋の呼吸法が、身体能力の強化をしたのだな。」

模「波紋を知っていたのか?」

ディエス「言ったろう、おれが裏の世界で何十年生きてきたと思う……?」

模「だが……実際に戦うのは初めてだ。杖谷模……『ただのガキ』だといったことを訂正する。

  おまえは、俺の成長のための『試練』となる存在だったッ!!」ダッ!


ディエスは模に向かい一直線に駆け出した。





模の曾祖父「いいか模、波紋の基本は『呼吸』だ。波紋呼吸法は肉体にエネルギーをもたらすのだ。」

幼き模「エネルギー……?どういうこと?」

模の曾祖父「簡単に言えばスーパーマンのようになれるってことだよ。」





――ひいじいちゃんは今の僕を見て、喜んでくれているかな――


バゴォォン!!

ミレニアム・チョークの振り下ろした拳がアスファルトを砕く。

模は側方に飛び、スキのできたディエスにすぐさまセクター9の拳を叩き込む。

ディエス「遅いッ!」

しかし、スピードもミレニアム・チョークのほうが勝っていた。

セクター9の拳を掴み、動きを封じた。


模「そっちはおとりだ……『波紋疾走』ッ!!」

模の拳がディエスの体に触れ、波紋を流し込む。


バヂバヂバヂバヂバヂ



ディエス「ぐゥッ……!!」

体中に電流が流れたように痛みが広がる。


ディエス「クソッ………」ドガッ

ディエスは模に前蹴りを放った。

だが、蹴ったというより足で模の体を押しのけたようなもので、模にダメージはない。

ディエス「ハアッ………ハアッ………。」

模から離れたディエスはさらに距離をとる。


ディエス(パワー、スピードはミレニアム・チョークが上回っている……だが、向こうはセクター9だけでなく杖谷自身の攻撃も警戒しなくてはならない。

     近づいたら波紋を流されてしまう……。)





模の母「『波紋』さえ……学ばなかったら、あなたは傷つかずにすんだのにね……。」

     あの時……私がムリにでもやめさせればよかった。普通の人にはない力なんて、持たないほうが良いんだよね……。」





――母さんの言う通りなのかもしれない。でも、僕は波紋を捨てたくはなかった――



ドガッ!!

ディエス「!?」

ディエスが考えてる間に模はディエスに近づかず、その場で地面に拳を突きたてた。

ディエス(………? 地面に波紋を流したか?だが、俺との距離はずいぶんある。波紋の威力は弱まるはずだが……。)

模「『サウンド・ドライブ・セクター9』………。」

ディエス「………!! しまった!」

バシッ!!

ディエスの足元が爆ぜ、波紋の衝撃がディエスの体を襲う!

ディエス「がぁぁああああああッッ!!」バヂバヂバヂバヂ


ディエスの体が硬直している間に模はディエスに駆け寄った。

模「『衝撃の世界』……波紋の衝撃を溜め、足元に移動させた!」


紅葉「近距離だけじゃない……」

九堂「ミドルレンジでも、ディエスを圧倒している……! いける、いけるぞ模!!」


模「あああああああああああああああああああああッッ!!!!!」


紅葉「いけッ、模!!」


ダダダダダダダダダダダダダダ!!

模「波紋キーーーーーーーック!!」


ドグァ――――――――ン!!

ディエス「ぐばぁーーーーーッッ!!」


模の波紋キックは無防備のディエスの体にクリーンヒットし、ディエスをフッ飛ばした。

ディエスの体は茂みの中に突っ込み、姿が見えなくなった。







九堂「よし……やった………!!」

紅葉「おかしい……。」

九堂「え?」

紅葉「ディエゴ・ディエス……これまで5度、模の波紋をくらった。1度目、5度目はただフッ飛ばしただけだからノーカンだとしても、

   ディエスは3度、波紋を全身に浴びている。なのに………なぜ立っていられるの?

   体の大きな銀次郎でさえ2度……その2度とも一撃で気絶していたというのに……。」

九堂「そりゃあ……鍛え方が違うからじゃねえか?」

紅葉「そうだとしても、3度くらって立ち上がれるとは考えられない……。」


ガザザッ

茂みの中からディエスが立ち上がり、模へ歩み寄り始めた。


九堂「……マジかよ。」


模「………ッ。」

ディエスの足取りは重く、ダメージが見られるがいまだ戦意は消えていなかった。

ディエス「勝利の女神は……俺に微笑んだ。」

模「…………」

ディエス「血の滴る俺の服とマントが……『アース』の効果をもたらした。服とマントの血液にまで波紋が伝わり、俺自身への波紋のダメージが軽減された。

     4度……イや5度か? もう波紋をくらっても、ダメージはあれど俺は意識を保つことはできる……。」

模「くそっ………ハァっ!」ビュッ!

ディエス「フン……」スカッ

模「うらあッ!」ビュン!


模はディエスに向けてパンチを放つが、すべてをかわされてしまう。

ディエス「無駄だ、無駄無駄。『経験の差』……忘れたのか?不意を突かれなければおまえの攻撃など当たらない。」

模「セクター9ッッ!」

ブオンッ!

ディエス「おまえが俺に勝てない理由……」

ガシッ!

ディエスはミレニアム・チョークにセクター9の腕をつかませた。

模「っ!!」

ディエス「さきほども言っただろう。『基礎能力の差』……お前のスタンドの攻撃を止めるのは簡単なことだ。」



ガシッ!!

ミレニアム・チョークはセクター9のもう一方の腕も掴んだ。

模「何をする気だ……?」

ググググ……

ディエス「先ほどと同じことよ……。ミレニアム・チョークの能力でお前を殺す……!」

模「な……!」

ディエス「再び波紋を放てばいい。気絶しないことさえわかれば、俺はお前の攻撃に耐え、能力で押し切ることができる……!」

模「…………!!」


ディエス「『ミレニアム・チョーク』!!」

ギュン!!







模「ぐぅッ!」

ミレニアム・チョークの攻撃により、模は再び両腕から体力を奪われていく。

セクター9『血液の世界』で抵抗しても、オリジナルのミレニアム・チョークには抵抗しきれない。

模「……………」

ディエス「あと一歩、だったな杖谷……。もう少しで俺を殺しきれたものを……!」


模「あと一歩か………。」

ディエス「そもそもお前の隠していた切り札……波紋の一撃で俺を倒しきれなかったことこそがお前の敗因だ。さあ、やれるものなら切りかえしてみろ!」

模「…………切り札……」

ディエス「なに?」

模「僕の切り札は……確かに波紋だった。だが………おまえは勘違いしている。」

ディエス「…………」

模「僕は、まだ全力の一撃を放ってはいない……。」

ディエス「ハッタリだ。ならばなにも言わず全力で打てばいい。それでも俺は立っていられるだろうが………」

ディエスはふと模の腕を見た。

ディエス「ん…………?」

ディエスが能力を使い始めてしばらく経っていたが、模の腕の色は赤みがかったまま変わっていなかった。

先ほど能力を使っていたときは、攻撃を受けるまでは蒼白になっていたはずなのに。

ディエス「なんだと………。」


ドドドドドドドドドド……





――僕は、波紋を捨てたくなかった。何もない、マネだらけの僕の世界で唯一持っていたもの、僕だけが持つことができた――




模「これが……全力の一撃だ……!」





――波紋の、世界――



ドウッ!!



ディエス「ぐ………ッ!!」

模の拳が、ディエスの胸を突いた。



ディエス「が……は………ッ!」

今度は、ディエスの体に電気のようなしびれる痛みは走らなかった。

拳が胸に突きたてられた瞬間、体のすべてが硬直させられた。

模の放った本気の一撃は、体の真に向け一直線に、一転集中に波紋を放った。


ディエスの体がぐらりと揺れる。

模「波紋の一撃を心臓に向けて放った。波紋の衝撃を受けたおまえの心臓は……停止した。」


ドサッ

ディエスは地面に前のめりになって倒れた。

血液を操作するディエスの能力……その血流を生み出す心臓が止められたことにより、

ディエスは……ミレニアム・チョークを発動させることはできなくなった。


模「これで僕は………変われたかな、紅葉。」


紅葉「………………!!」

九堂「よっしゃあーーーーーーーーーーッッ!!」







倒れたディエスはピクリとも動くことができないでいた。

………その傍らに、ミレニアム・チョークは佇んでいた。


ディエス(………し……ぬ………………死ぬ………『死ぬ』のか………? 俺は…………?)


パキッ

だらりと腕を下げて直立するミレニアム・チョーク……その頭部のヘルメットの一部に、ひびが入った。


ディエス(………『死ぬ』……まだ……生きてはいる……が……もうすぐ…………『死ぬ』……)


パキッパキッ


ディエス(ならば…………お前の勝ちには……まだ早いぞ、杖谷…………!)


パキパキパキ……


ドドドドドドドドドドドドドドドド……



九堂「やったぜ、模!」

九堂は喜びのあまり跳びあがり、模に駆け寄ろうとした。

紅葉「待って、九堂!!」

紅葉は九堂の前に手を出して制した。

九堂「なんだよ紅葉、水差すなよ……アッ、そうか……そうだよな…喜びを分かち合うのは、お前ら2人が先かァ、いいねえこのゥ。」

模「……紅葉?」

紅葉「忘れていた………ディエスには、もう一つ能力があることを……」

九堂「え?」





キル「ひとつ、いいことを教えてやろう………ボスの能力……『血液成分を操作する』……きっとボスの能力は、『これだけではない』のだ……。」





九堂「そういや、キルもそんなこと言ってたな……。で、でもディエスはあの様子だし、もう心配もないんじゃ……。」

紅葉「それもそうなんだけど……もう一つ能力があるのは、おそらく間違いない。」

模「な、何を言っているの紅葉?」





ディエス「『衝撃の塊』を、俺にぶつけるつもりなんだな、紅葉……!」

紅葉「……え?」

紅葉(なぜ……ディエスは『衝撃の塊』の能力を知っているんだ……?

   これは、ディザスターのアジトの中で、閉め切られた講堂の中で初めて使った能力なのに……!)





紅葉「『未来予知』……。」

九堂「みらいよち………?」

紅葉「私の思い過ごしなら、それに越したことはない。事実、模はディエスに勝った……でも見て。」


紅葉は倒れたディエスのほうを見た。

ディエスは動かない。

だが………ミレニアム・チョークはいまだ消えずにいたのだ。


紅葉「ディエスはまだ……意識がある。」


ドドドドドドドドドドドドドドド……







九堂「な、なんかイヤな予感だけは感じるぜ……どうする?」

模「決まってる、セクター9!」

模はミレニアム・チョークに駆け寄り、拳を引いてパンチを放った。

模「うああああああああああああああああッッ!!」


バギィッ!

セクター9の拳は……防がれることなく、佇んだままのミレニアム・チョークの頭に命中した。


パキッ!


セクター9が拳を離すと、ミレニアム・チョークの頭部のヘルメットが砕け、破片がこぼれて地面に落ちた。

模「!!」

九堂「今度こそやったか……?」


パキッバキッ!

砕けた部分からひびは広がっていき、ヘルメットがどんどん砕けていく。

紅葉「いいや……なんだこれは?」


ボドッ、ボドッボドッ……


崩れ落ちたのはヘルメットだけではない。全身の装甲がひび割れ、砕けて崩れていった。


ミレニアム・チョークの装甲が落ちていくにつれて、内側の気色悪いほどに真っ白な肌があらわになっていった。

九堂「模、なんだコイツ……何が起こっているんだ?」

模「……わからない。」

ほとんどの装甲が剥がれ落ち、ミレニアム・チョークはまるで生まれ変わったかのように姿が変わってしまった。

ぬらりとした真っ白な肌と、体中に刻まれた生傷。

そして特徴的だったのは……

紅葉「腕のあれは何……?」

両腕の手首につけられた……いや、手首そのものが地球儀のような丸い球になっていた。

そのスタンドが変身を終えた後、か細く声が聞こえた。


ディエス「ワールズ・エンド………」


九堂「………!」

模「ディエスッッ!!」

ディエスは腕で体を支えてゆっくりと身を起こし、模たちを見上げて言った。

ディエス「『ワールズ・エンド・ガールフレンド』……俺が『死の恐怖』に襲われた時に発動する、ミレニアム・チョークが成長したスタンドだ……。」


ドドドドドドドドドドドドドドドド……






【スタンド名】
ワールズ・エンド・ガールフレンド
【本体】
ディエゴ・ディエス

【タイプ】
近距離パワー型

【特徴】
両腕に大きな地球儀がついた人型。能力発動時は二つの地球儀が勢い良く回転する。

【能力】
ディエゴ・ディエスが『死の恐怖』を感じた時に発動する『ミレニアム・チョーク』が成長したスタンド能力。
「この世界」を消滅させ、「平行世界」に移動する能力。
例えば敵を「殴った」とき、結果が気に入らなければその世界を壊し「殴らなかった」世界に移動してやり直す。
世界間を移動できるのは今いる世界が消滅したときのみである。
「世界」の消滅はその世界に住む全ての絶滅を意味する。
消滅の際「平行世界」に移動できるのは本体と、本体の許可を得た者のみ。

無数に点在する多次元的平行世界の中でこのスタンドと本体は唯一無二、常に一人だけである。

しかし本体と共に移動した他の人間は、移動先の平行世界にも同一人物が存在する。
その者たちは移動後5時間以内に「向こうの世界の自分」を見つけ出し、殺さなければならない。
できなければ「向こうの世界の自分」と「今いる自分」、お互いの存在が抹殺される。

破壊力-A
スピード-B
射程距離-E

持続力-C
精密動作性-B
成長性-D






はじまりは……俺の世界のはじまりは……百年ほど前だったか。


―――俺は、英雄だった。


第一次世界大戦時、俺は某国軍の一兵卒でありながら大戦果をあげ、祖国の躍進に大きく貢献した。

単身で敵地に乗り込み、一人で敵の小隊、拠点をいくつも潰した。

ミレニアム・チョークを持っていた俺にとって、粗末な銃を持った程度の兵では相手にもならなかった。

軍で一番の戦果をあげた俺は国民の誰もが知る英雄だった。

俺自身、英雄と呼ばれることよりも、自分が国の役に立てたことに素直に喜びを感じていた。


だが終戦後、俺は国民の誰もが知る反逆者となってしまった。

俺の自宅の机の引き出しから、国家への謀反、そして革命を企てるという内容の文書が発見されたらしい。

発見したのはもう一人の英雄の大将軍閣下……その直属の部下だった。




―――石の壁に囲まれた薄暗い部屋。

部屋の中央のイスに俺が座り、まわりには幾人かの軍人が立っていた。


*「………これからおまえの体に電流を流す。おまえが死に至るまでスイッチが切られることはない。」

死刑執行時の決まり文句を淡々と話す男に俺は尋ねた。

*「これは何かの間違いだ!俺は……革命など企てていない!」

*「今更何を言っても無駄だ。証拠も出ているというのに」

*「そうだ……大将軍!大将軍様なら俺がそんなことを考えていないと分かってくださるはずだ!」

*「………プッ、ククク……」

*「何を笑っている!」

*「いやー面白すぎるぜ英雄さんヨォ。」

*「何………」

*「おまえを捕らえるよう指示したのは大将軍サマだぜ!?」


まわりにいた軍人も話し出した。

*「安心しろ、お前の戦果はすべて将軍様の功績となる。これから将軍様を中心とした巨大な国づくりが始まるんだ!」

*「英雄は一人いれば十分なんだよ!」

*「そんなッ……俺は、俺は……!」

*「スイッチを入れろッ!!」


*「うあああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」





ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……







*「………ハッ!」

俺が目を覚ましたのは雨の降りしきる森の中。

まわりには石の壁も、電気椅子もない。

軍人の姿も見られたが、先ほど俺を笑ったものとは顔が違っていた。

そして、俺自身も囚人服ではなく軍服を着ていた。

*「これは……あの戦争か?」

俺が立っていたのは、俺が大戦果を挙げた先の戦争、終わったはずの戦場だったのだ……。


俺はスタンドを発現させ、姿を確認した。

*「……いつものミレニアム・チョークか。」


……俺は見たのだ。

愛する祖国に「はめ」られて、絶望の中で電流を浴びている間……

見たことのないスタンドが、俺の側に立っているのを。

白い肌に無数の生傷。

鮮やかな青い地球儀がかえって不気味だった。


そのとき、背後から声が聞こえた。


*「おいお前、進軍命令が出てんだぞ、早く行けよ。」

俺は振り返り、その男の顔を見た。

*「…………!!」

*「何ぼさっとしてんだよ。」

*「あんた……死んだはずじゃなかったのか? 俺の前を走って、銃で頭撃たれて……」

*「な、何言ってんだ冗談じゃない!」

*「………………。」


俺は理解した。

死の間際……俺のスタンドは成長したのだ。

過去に戻り、やり直す能力。

やり直す前の記憶をすべて受け継いだまま、過去の自分へ還る能力……。



俺は進軍方向から離れ、森の中へ入っていった。

*「お、おい!どこ行くんだよ!! 命令無視は懲罰モンだぞ!」

英雄と呼ばれる俺だったら、勇猛に敵軍へ向かって行っただろう。

だが……俺は軍のため、国のために生きるのをやめた。

*「おーい! 戻って来い!! おーい!!」


俺は茂みをかき分け、戦場を去っていった。

俺は……仕えることをやめた。真の正義のために、俺の世界を作ることを目指し、歩き出した。

ミレニアム・チョーク……そして、ワールズ・エンド・ガールフレンドと共に。


銃声と共に、さっきの男の断末魔が聞こえた。







それからというもの、俺が俺以外のスタンド使いと出会い、戦ううちに危機は何度も訪れた。





キル「フフ………ディエゴ・ディエス……あなたが私の能力を知っていたとしても、あなたに勝ち目はなかった。

   あなたが築き上げてきたディザスターは、私が頂くことにいたします。」

ディエス「……………」

キル「これで…………とどめだッ!!」





そして、杜王町にきてからも……





ディエス「くそ…………零ッ! きさま…………!!」


ドガァン!

ディエス「ぐっ、背後から………!?」

紅葉「ブラック・スペード、『衝撃の塊』……!」

ディエス「一之瀬……紅葉ァァァァァ!!!」

零「ディエゴ・ディエス……あなたも私を呪いから解放するほどの力はなかった……

  だが、あなたの野望もここまでだ、『アンティーク・レッド』!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオ!!!





そう、俺は『キル・シプチル』、『零』によって命の危機に迫られていたのだ。

我がミレニアム・チョークのみでは勝てぬ相手……だが、『死の恐怖』を感じたとき、

ミレニアム・チョークはワールズ・エンド・ガールフレンドに成長し、俺は過去へと戻り死を回避した。

そしてヤツらに勝つための研究をし、再び死の恐怖を感じさせられるのを回避した。


そう……ヤツらにとっては俺とは初めて戦ったつもりでも、俺にとっては二度目、三度目の相手だった。

スタンドの最も計り知れぬ能力……それが「成長性」だ。

俺が成長性を警戒するのは、成長するということの恐ろしさを身をもって……自らのスタンドでもって知っているからだ。

ワールズ・エンド・ガールフレンドがある限り、俺が負けることは決して無い。


だが……ワールズ・エンド・ガールフレンドが繰り返す運命の輪……それは必ずしも同じ運命を辿るとは限らない。

ワールズ・エンド・ガールフレンドが発動するたびに成長する俺が、以前とは違う行動をとり、それが運命を異なったほうへ導くことがあるのだ。

そして、この杜王町の作戦において俺は一度、ワールズ・エンド・ガールフレンドの能力を使った。

零……ヤツが俺を殺しうるスタンド使いであったからだ。

そして、再び杜王町の作戦が始まる前のときに戻った。


それから……運命は徐々に変わっていった。

俺が『一度目とは違う口調でキルを先遣部隊に任命し』、『そのわずかな口調の違いがキルの心理を一度目のときとは微妙に変え』、

それが『キルが杜王町で調達したスタンド使いの人選に影響し』、『それと戦った紅葉の体調、心理への影響も変わり』、紅葉の行動が大きく変わったのだ。

その結果、一度目の……零に殺されかけたときの連中のメンバーに新たなる人間が加わったのだ………。







―――杜王町、別荘地帯。

地面に這いつくばっていたディエスが見上げる先には3人の人間が立っていた。

一之瀬紅葉、九堂秀吉………そして、『杖谷模』。


ディエス(そう………俺にとっての『一度目の杜王町侵攻』の際、杖谷模はそこにいなかった。

     わずかな運命のズレが、この『二度目の杜王町侵攻』の際に『杖谷模』という新しい人物をこの戦いに招き入れたのだ。

     俺は零とも戦ったし、キルが九堂によって倒されたことも、紅葉が棟耶との戦いで新しい力を見出したことも、『一度目』のときに知ったのだ。

     知らないことは……経験していなかったことは……この、杖谷模のことだけだったのだ!)



かつてディエスがキルと戦ったときにキルの行動をすべて読んでいたことも、

零がディザスターにいた頃にも誰にも明かさなかった能力を知っていたことも、

棟耶との戦いで初めて覚醒した紅葉の能力を、見てもいないはずのディエスが知っていたことも……

すべてはワールズ・エンド・ガールフレンドの能力によるものだった。

何も知らなかったのは模に関わることだけ。

だからディエスは模の家を襲撃して模と戦い能力を探ろうとし、

そして今の模との戦いにおいては、零や紅葉と戦ったときに見られた『未来予知のような能力』を使っている様子が見られなかったのだ。


それでも、模がディエスにとって難なく倒せるほどの相手であったなら、ワールズ・エンド・ガールフレンドを発動させるまでには至らなかっただろう。

だが、模はディエスに勝つために真に波紋を習得し、ミレニアム・チョークの能力を奪い、

そして今ディエスの心臓を波紋の攻撃によって止めて、ディエスを死に至らしめる前まで追い詰めたのだ。


故に、ディエゴ・ディエスはこのとき、この杜王町において二度目のワールズ・エンド・ガールフレンドを発動させた………。







模「『ワールズ・エンド・ガールフレンド』……!」

九堂「成長した……スタンドだとッ!?」


ディエス「そう……! 窮地に追い込まれたとき発動する……俺の『ワールズ・エンド・ガールフレンド』はこの世のすべてをリセットし、

     新しい世界において私の運命を変えるために、過去からやり直すためのスタンドだ……!」

紅葉「すべてを……『リセット』?」

ディエス「俺の死しか待たない世界など知ったことではないが……『ワールズ・エンド・ガールフレンド』が発動し、俺がこの世から消えた後、

     この世界は『消滅』する……! そこまでが、ワールズ・エンド・ガールフレンドの能力なのだッ!」


九堂「んなっ……そんな能力アリなのかよ!」

紅葉「どこまで本当かなんて……そんなことは関係ない! 叩け模、九堂!」

九堂「く………『アウェーキング・キーパー』!!」


バゴォッ!!

ディエスの脳天めがけて放たれた一撃は、頭をすり抜けて地面のアスファルトを砕いた。

紅葉「な……!」

九堂「こ、これはキルのスタンド能力と同じ……!?」

ディエス「クク……違う、違うよ九堂………。キルの能力では……キルは体をすり抜けさせながらも、体はそこにあった。だが、俺は違う。」


ドドドドドドドドドドドドドドドド……


ディエス「すでに………俺の肉体はここにない。」

模「………!」

ディエス「俺の肉体はすでにこの世界を離れ、新しい世界へ移りつつある……。

     ここに残っているのは残り香としての幻影と、俺の意識のみに過ぎない。」


紅葉「な、なんだって………!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………


模たちのいる場所の遠くから風のうなる音とも、地響きとも取れる音が響いてくる。

*「ギーッ、ギーッ!!」

耳をつんざく無数の金切り声が上がり、どこかしこからネズミの群れが現れ、地面がもそもそと動くように四方八方に走り回っていた。

九堂「うわわっ、なんだこいつら!!」


模「ディエス……まさか………!」

ディエス「すでに『ワールズ・エンド・ガールフレンド』の能力は発動している………!!」



ビーッビーッビーッ!!ビーッビーッビーッ!!

突如、不快なブザー音が鳴り響いた。

紅葉は音を発したケータイを取り出し、液晶画面を見た。

紅葉「……………!!」

九堂「な、なんだよ紅葉!」

紅葉「き………」




紅葉「緊急地震速報……。」







ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

紅葉「きゃあっ!」

模「じ、地震………!」


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………


別荘地帯の木々が大きく揺れ、枝が折れる。

ペンションの窓が割れ、壁に大きなヒビが入る。

その揺れは屋外にいても立っていることができないほどに大きく、模たちは地に手を置いて周囲を見回していた。


模「ディエスを……止めないと……」


模は何とか立ち上がるが、揺れに足をとられて再び転んでしまう。

九堂「ムリだって模! 立つことだってできねえんだから!」

模「………………」


ディエス「何をしようとムダだッ! この世界を終わらせ、俺は過去をやり直す!
     
     杖谷模……次こそは俺の手で必ず殺してやるッッ!!」


紅葉「やめろ……やめろおぉぉぉぉおおお!!」


ディエスの姿が足元から徐々に消えていく。

肉体だけでなく、意識さえもディエスは新しい世界へ移ろうとしていた。

九堂「うおおおおおおォォォオオオオオオオ!!!」


九堂は倒れる危険もいとわずにディエスに突進した。

しかし………


ディエス「さらばだ………!!」

九堂「く………!」


九堂がディエスのところに行き着く前に、ディエスの体は完全にこの世界から消え去った。




ズズズズズズズズズズズズズ……


……その後も地震はおさまらず、この地のものを壊し続けていた。

九堂「ちくしょう……ちくしょおおおおお!!」

紅葉「……………」

紅葉は地に這ったまま周囲を見回し、何かを探していた。


九堂「紅葉……逃げるぞ! ここは海に近い。崖だから津波の心配は無いだろうけど、崩れるかもしれない!!」

紅葉「………く。」

九堂「おい、何やってんだ紅葉!」


紅葉「……………『いない』。」

九堂「ああ、ディエスは……消えちまった、逃げられちまったんだ!!」

紅葉「違う!」

九堂「あァ!?」


紅葉「『模』が…………いない!!」

九堂「……………!!」


九堂は改めて周囲を見回した。

別荘地帯のあたり一帯には、九堂と紅葉、死んだ零のほかには誰もいなかった。


ディエゴ・ディエスの姿が消えたと同時に……模の姿も消えていた。




第七章 -血道の世界- END




to be continued...



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