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第七章『血道の世界』その⑥

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orisuta

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ブオンッ!


ラクリマ・クリスティーが五代の体を貫いた腕を振ると、五代の体はラクリマ・クリスティーの腕から抜け、

九堂たちのほうへ投げられた。


床に転がった五代に九堂とアッコが駆け寄った。

アッコ「ゴダイ、ゴダイ!!」


五代「…………」

まだかすかに、五代の意識は残っていた。

しかし、腹部から大量の血を流しており、今や五代の命は風前の灯であることは明らかだった。


九堂「ちくしょう、やっぱり陸さんにも来てもらうべきだったんだ!」

アッコ「ウウン……スペア・リプレイでも……これは治せナイ……。」


五代「………ど……う…。」

そのとき、五代の腕がかすかに持ち上がった。

九堂「五代……五代!!」

五代「………手を…………出……」

九堂「……手?」


五代の言うとおりに九堂が手を差し出すと、五代は残るわずかな力を振り絞ってワン・トゥ・ワンを発現させ、九堂の手をつかんだ。

九堂「!?」


九堂の手はワン・トゥ・ワンの手に、弱弱しく、それでいて精一杯に握られた。


五代「いま………ワン・トゥ・ワン……で、てめえの…『精神力』……を…2倍に……した……。」

九堂「!」


五代「勝て……よ、く………ど…う…………。」

アッコ「ゴダイ、ゴダイ!死んじゃダメ!」


五代「………………勝て……よ………ば………く………」



ドサッ




ワン・トゥ・ワンが消えた。

五代の体は力を失い、九堂の手をつかんでいた手が床に落ちた。


血液は完全に流れを止め、心臓も動かなくなった。

瞳孔の開いた目は、ぼんやりと宙を眺めていた。




九堂「バカか、五代………。」


五代の頬に、雫が落ちた。

九堂「数がわからない、あいまいなものは2倍にできないって、おまえ言ってたじゃねえか……。」

アッコ「…………」


九堂「それ以前に、おまえが死んじまったら、ワン・トゥ・ワンの能力だって、意味なくなっちゃうじゃねえかよぉぉぉぉおおおお!!!」



 - 五代衛  死亡 - 







九堂はしばらくうつむいた後、目を手の甲でぬぐって、立ち上がった。

五代の体をフロアの隅に移動させたアッコが九堂のもとへ近づくと、九堂は振り返ってアッコの肩をつかんだ。



九堂「温子。」

アッコ「…………」

九堂「俺たちは、五代のために、あいつに絶対に勝たなければならない。」

アッコ「……ウン。」

九堂「そのために、俺たちは全力を尽くさなくてはならない、わかるな?」

アッコ「デモ……勝つ見込ミはあるの?」

九堂「……五代のおかげで、『ヒントをつかむことができた』。ヤツの、『弱点』……かもしれないことだ。」

アッコ「………」

九堂「そのために……作戦がある。俺のいうとおりに動いてくれ。」

アッコ「ワカッタ。……聞かせて。」


九堂「……………………。…………、……………………………。」

アッコ「………………………………………………………」


九堂「……………できるか?」

アッコ「…………デキルか、じゃない、やらなきゃイケナイんだよね。」

九堂「……そうだ。」


キル「別れの挨拶は終わったか?」


遠くからキルが九堂たちに呼びかけた。

五代を看取ってから今まで、キルは九堂たちが動くのをじっと待っていた。


九堂「………ああ、もう大丈夫だ。」

キル「はじめから、わかっていたことだ。………五代の能力では、決して私に勝つことはできない。」

九堂「……………」

キル「だが……九堂秀吉。もしかしたらおまえなら……と、思っている。0.001%くらいの確率で、なんとかやってくれるんじゃないかってな。」

九堂「だから……さっきは俺たちを攻撃しなかったというのか?」

キル「そうだ、私は、『私を殺してくれるスタンド使い』を探している。

   存分に策を練り、準備するがいい。それで、私に勝てるのならな。」


九堂「その望み、かなえてやる。ただし……おまえのためじゃない、五代のためにだ!!」



ダダダダダダダダダダダ!!!


猛スピードで、キル・シプチルの懐に迫っていった。

しかしそれは九堂ではなく、林原温子だった。


アッコ「『ファイン・カラーデイ』!!」



大きく振り上げられたアッコの剣……その刀身は、青白い炎に包まれていた。







―――ディザスターの首領、ディエゴ・ディエス。




彼の素性は謎に包まれていた。



仮面の下の素顔も、見たことがある者は誰一人いない。

構成員はおろか、幹部の誰も、キル・シプチルでさえも……。

彼がどのようにして生まれ、スタンドを身につけ、いかにして闇の道へと進むことになったのかも誰も知らない。


チャウシェスクの落とし子であったとも、ホロコーストの生き残りであったとも言われている。

あるいは、凶悪な吸血鬼の血を受け継いだ者だとも……。


ただひとつはっきりしていることは、『目的』だった。

『無法、無政府、無秩序』の世界をつくりだすこと。

なぜそうしなければいけないのか、それもディエスの口から語られたことはない。

その『野望』だけが、ディエスについて唯一ディザスターの者たちの知っていることだった。


逆に言えば、その野望だけがディザスターを突き動かしていた。

造反するものは誰であれ力でねじ伏せていき、ディザスターは世界の裏に広く根をはる巨大な組織へと成長した。

『野望』はいまだ達成されていないが、構成員の誰もがそれは時間の問題だと信じて疑わない。


ディエスがディザスターのボスの座についてから今まで、

ディエスの思い通りにいかなかったことは……ただの一度もないのだから。







―――別荘地帯。


スタンドを出して身構える模と零を前に、ディエスはスタンドも出さず両手をぶらりと下げていた。

仮面の下から、血で染まったような赤黒い色をした眼が零のほうを見ていた。


ディエス「ずいぶん久しぶりじゃないか、零……。元気にしていたか?」

零「…………」

ディエス「いや、それは無用な心配か。なあ、『アンデッド』………?」

零「その名前は嫌いよ。今までどこに潜んでいたのディエゴ・ディエス。」

ディエス「俺ははじめからここにいたよ。おまえたちの戦いを、ずっと見下ろし眺めていた。」

零「移転先へも行かず、ずっと高みの見物?」

ディエス「俺は組織の長だぞ?長は部下が準備を整えてからゆっくり行くのでも遅くはない。」

零(私がシーチゥと戦っているときも、ずっと見ていたというわけか……)

零「その行動をあとで後悔することになるわ……ディエスっ!!」


零はディエスに向かって駆け出し、スタンドの拳を振り下ろした。

零「『アンティーク・レッド』ッ!!」


しかし、アンティーク・レッドの拳がディエスに触れる前に……


ガシッ!!


ミレニアム・チョークにより、拳は止められてしまった。

ディエス「大振りの、眠っちまいそうなスローなパンチだ。……このスピードで、俺の下についていた時に数多くの実績を上げていたとは考えにくいな。」

ギリッ……


ミレミアム・チョークは掴んだアンティーク・レッドの拳を強く握り締め始めた。


ミシ……ミシッ……

零「ぐ…………」

ディエス「このスピードの遅さを補っていたのが、おまえの能力……なんだろう?『不死身』の……」

零「………!」


模「うりゃあああああああああっっ!!」

ブオンッ!


セクター9がディエスの真横から攻撃を仕掛けた。

パンチはかわされてしまったが、その間に零はミレニアム・チョークの手から解放された。

零「……ッ、離れて、模!!」

ディエス「はァッ!!」


バオンッ!!

模「くっ!」バッ!


模は後退してパンチをかわしたが、その音と風圧でミレニアム・チョークのパワーがセクター9のパワーをはるかに凌ぐものであることを理解した。

模「大丈夫ですか、零さん!」

零「心配ないといったはず……私のことは気にしなくていい。」

模「でも……」

零「私が明らかな致命傷を負ったとしても、私にとってはかすり傷にも満たない……。私の頭が吹き飛ばされようが、心を乱してはいけないわ。」


ディエス「ハアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

零の攻撃をガードしたディエスが、今度は自ら零に向かっていった。

ディエス「『ミレニアム・チョーク』!!」

下から振り上げられた拳は零の腹めがけて放たれていた。


アンティーク・レッドのもつスピードではガードは間に合わない!


ドウッ!

ミレニアム・チョークの拳が零の腹部にヒットした……が、そこで拳は止められた。

渾身のパワーが込められた一撃であったにもかかわらず……。


ディエス「これは……。」

零「私は、あなたに一度『殺された』……。林の中で、あなたに不意打ちを喰らったときに。」


ドドドドドドドドドドドド……


零「『アンティーク・レッド』……あなたの攻撃が私を死に至らしめることは不可能になった……!」







ディエス「だが、ダメージがないというわけではあるまい?」

零「く……ブン殴れ、『アンティーク・レッド』……!」

ディエス「させんッ!おまえより速く追撃を加える!『ミレニアム・チョーク』!!」

グオオオッ!


ディエスはもう片方の手を振りかぶった。


グイイッ

ディエス「…………ッッ!?」

……が、その拳を突き出すことができなかった。何かが腕に巻きつき、動きを封じていたのだ。

ディエス「『いばら』……だと!?」

                               ハーミット・パープル
模「サウンド・ドライブ・セクター9、第四の世界……『いばらの世界』!」

ディエス「杖谷……ッ!」

模「今だ、零さん!」

零「あああああああああああああああッッ!!」
アンティーク・レッド「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


アンティーク・レッドの拳は腕のあがったディエスのわき腹に命中した。



零「………??」

ディエス「ク……ククク………」


だが、アンティーク・レッドの拳はディエスの体を突き抜けもしなかった。

ディエスの衣服に拳が止められていた。


零「硬い……鉄のように……!」

ディエス「そのとおりだ零……鉄なんだよ。」

零「!?」


ガシッ!

ミレニアム・チョークは零の首を掴み上げた。

零「ぐ……く……!」

ディエス「私の衣服、マントには『血』が染みこんでいる……。『血に浸っている』といったほうが正しいか。

     そして……血液中の『鉄分』を集めたのだ。」

零「けつ……えき……?」

ディエス「そうだ、俺の『ミレニアム・チョーク』の能力は『血液の成分を操作すること』……。」







グググ……!

零の首を絞めるミレニアム・チョークの手の力がさらに強くなった。

零(ムダだ……私は、こんなことでは死なない……!)

模「零さん!!」ダダッ


模は零のアンティーク・レッドの拳がディエスに当たったとき、すでにディエスの腕に巻きつかせていたいばらを解いてしまっていた。

今、そのことを後悔してはいたが、ここで零を助けないわけにはいかなかった。

零に何と言われようが、身動きが取れず、苦しんでいる零を放っておくことはできない。


ディエス「来るか、杖谷……!今度は、俺の片腕は空いてるぞ?射程距離内に入ったとき、フッ飛ぶのはおまえのほうだッ!!」

零「……ダ………メ……」

                                ワン・トゥ・ワン
模「そうはいかない……!セクター9第三の世界、『倍返しの世界』………!!」


しばらく前に五代から教わった『倍返しの世界』……はじめは少し程度の倍率しかかけられなかったが、

前日に試したとき、腕は1.4倍ほどに伸ばすことができた。

ミレニアム・チョークのリーチの外から攻撃することができる………はずだった。


模「……………!!」


しかし、模の身に予想だにしない出来事が起こった。

セクター9がディエスに向けて拳を突き出すとき………腕は伸びるはずが、何もおきなかった。

それだけでない。『第三の世界』を発動したときに、心にぽっかりと穴が開いたような……『何もない』感覚が、模を襲った。

そして、その後湧き上がったいやな予感が模の心を覆い尽くす前に……


グオオオ!!

ミレニアム・チョークの拳が眼前に迫っていた!

模「せ、セクター9!ガードしろ!!」

バギィィッ!!


ガードが甘く、ミレニアム・チョークの攻撃で模の体は飛ばされた。

片腕で零を掴みあげていて体重を乗せた攻撃ができなかったため、ダメージがそれほど大きくないのが幸いだった。


しかし、そんなことよりも……零が苦しんでいることよりも、

模は今、自分の身に起きた違和感に関わる不安が胸中に広がっていた。

そして、一瞬のうちに考えた。自分の身に今何が起こったのかを……。

模(『倍返しの世界』が、発動しなくなった……何故?

  学習した能力が使えなくなるのは、敵のスタンド能力の影響でないならば、可能性はひとつしか……)



模「…………ッッ!」





そして気づいた。何かが起こったのは『自分』ではなかったのだ。



模<セクター9の能力は『他人の世界に入門する』こと……僕が他人のスタンド能力を使う為には、

  『オリジナル』のスタンドが存在していなければならない。つまり、入門したスタンドが消滅……本体が、死んじゃったら、

  そのスタンド能力を僕が使う事はできなくなってしまうんだ。>



模「まさか……五代くんが……!違う、そんなはずはない!!そんなはずが……!!」


しかし、セクター9の、そのルールは絶対だった。

第三の世界『倍返しの世界』……仲間と繋いだ絆の証が失われたことが、

皮肉にも五代の死が確かなことであることを告げていた。



模「五代……くんが………」

模は脚の力が抜け、膝をついた。


急に突きつけられた絶望……すぐに立ち上がり零を助けなければいけないこの時に、

それが模の心を掻き乱して、行動できなくなったのは仕方のないことだった。


ディエス「さあ……最期の時だぞ零……?」

ギリギリギリ……

零「う…………」

零(こんなことで……死ぬはずがない……首の骨折、頸部圧迫による脳酸欠……いずれにせよ、『再生する』見込みが残る……!)

ディエス「……目は死んでないな、零。首を絞めることでは死なない……とでも言いたいのか?」

零「そ……うよ………私……を………殺し……きる……に…は……足りない……」

ディエス「一つ勘違いをしているな零……お前を殺すのは……俺のスタンドの能力によってだッ!!『ミレニアム・チョーク』!!」


ズギュン!

零「…………!?」

ディエスはミレニアム・チョークの片腕で零を吊り上げたまま、能力を発動させた。


ディエス「実感として何が起きたかはわからないだろう……だが、ミレニアム・チョークはお前の体を蝕んでいる。」

零は目を動かして自分の腕を見た。


零(これは………!!)


ミレニアム・チョークに首を絞められ続け、目が眩みながらも零が見たのは、まるで別人のようになった自分の腕だった。

ハリよく肉のついていた自分の腕が枯れ枝のように細くなり、肌は荒れ、しわが刻まれて色もくすみ、まるで『老人』のようになっていたのだ。







ディエス「人が死ぬのは大概……体の一部分が欠損し、それを補いきれずに、生命活動を維持する循環ができなくなってしまうことが原因だ。

     他の部位が生きていても、たったひとつが破壊されてしまうだけで生命は穴の開いたバケツのようにそこから漏れ出してしまう。

     だが……おまえは違う。おまえのアンティーク・レッドは、ほぼすべてが壊されてしまっても、たったひとつが生きていれば

     すべてを修復することができる……。驚異的な速度の修復……それがお前の能力なのだろう?」

零「…………!」

ディエス「だがたったひとつ……お前を殺す方法があり、俺はそれを持っている!

     いまおまえの中に流れる血液には……酸素も、養分も含まれていないんだ。」

零「がっ……!」

ディエス「わかるか?『体の細胞を弱らせている』んだよ……死なない程度にな。

     だが、全細胞が死ななくとも、生命を維持することはできなくなる……。

     全身に血液を送る心臓の筋肉が弱まり、循環が止まるんだ。」

零「ディエゴ………ディエス……!」

目を見開いてディエスの仮面の顔を見る零の顔は、すでに老人のそれに変貌していた。

100余歳程に見紛うほどに、面影は残っていなかった。

ディエス「『老衰』だよ、零……!おめでとう、これまで幾万回も死の痛みを経験したおまえが、最期には苦しまずに死ぬのだ。」

零の両腕、両脚がぶらりと垂れ下がった。解放されたとしても、もう立ち上がる力は残っていないだろう。

そして、その力を取り戻すことはできない。破壊されたのではなく、弱められただけなのだから。

ディエス「零、おまえはたしかに俺を倒しうる能力を持っていた……だが、俺にとっておまえは、『すでに乗り越えた試練』なんだよ……!」

零(『すでに乗り越えた』……試練?)


???「その手を放せェーーーーーーーーーーっ!!!」

ディエスの背後より叫び声がした。

声の主は遠くからディエスに駆け寄り、ディエスが振り向く前に攻撃を仕掛けた。


紅葉「『ブラック・スペーーーーーード』!!!」

ガヅッッ!

ディエス「む………ッ!」

現れたのは、アジト内で棟耶との戦いに勝ち、アジトを出た紅葉だった。

紅葉がディエスの背後から放ったパンチはディエスの体を飛ばして、零は解放された。


しかし脚に力の入らぬ零はその場で崩れ落ち、紅葉はとっさに抱きかかえた。

紅葉「零さん、大丈夫ですか?それに、模はどうしたんですか、ボーっとして……」

零は紅葉の耳元でぼそぼそと話した。


零「模くんは……大丈夫。紅葉ちゃん、ディエスに近づいてはいけない……。奴の能力は『触れた者の血液の成分を操作する』こと……。」

紅葉「……離れて戦うんだね。大丈夫、私は強くなったから……!」

零「でも、ディエスはおそらくそれだけでない、さらに………。」

紅葉「え………?」

零「……………、………、……………………。」

紅葉「そんな、ことが……?」


零が紅葉に伝えたことは、零がディエスと対面したときから感じた違和感と、さきほどのディエスの言葉からくることだった。


零「私は……もう、だめです……あとは、あなたたちがディエスを………。」

紅葉「な、なんで!?どうしてよ、零さん!アンティーク・レッドは!?再生は!!?」

零「………………」


零には言葉を返す気力さえないほど弱っていた。

ディエス「……『老化』したことで再生する力も弱まっている。零はこれから死に向かい体の細胞が次々と破壊されるが、

     アンティーク・レッドで再生したところで破壊されるスピードに追いつくことはない。」

ブラック・スペードに吹っ飛ばされたディエスは何事もなかったかのように立ち上がり、零に歩み寄ってきた。

アンティーク・レッドのパンチを受け止めた血の鉄の鎧が、パンチのダメージを軽減させたのだ。







ディエス「『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』とはおまえのためにあるような言葉だな。

     死なず、体が朽ち果てるのを待つだけ………。」


紅葉「あんたがディザスターのボス……ディエゴ・ディエスなんだな……!

   これ以上、あんたの思い通りにはさせない!『ブラック・スペード』!!」

ドガン!

ブラック・スペードは地面に拳を突き立て、目に見えぬ『衝撃の塊』を空中に取り出した。


ディエス「棟耶を倒し、成長したのか……?だが紅葉、俺にとっておまえは『試練』ですらないッ!!」


倒れこみ、うつろな目をした零の前で、ディエスと紅葉の戦いが始まった。

それをぼんやりと眺めながら、零は思った。


零(今言ったディエスの言葉……「棟耶を倒し、成長したのか……?」これはきっと予想じゃない、確信していることなんだ、ディエスが……。

  そしてまた出た言葉、『試練』………。)

<ディエス「零、おまえはたしかに俺を倒しうる能力を持っていた……だが、俺にとっておまえは、『すでに乗り越えた試練』なんだよ……!」>

零(私がこの杜王町にいることさえ今日まで知らなかったはずのディエスが、私に勝つ方法を用意していたような口振り、

  そして私がディザスターに在籍していたときにも明かさなかった能力を詳しく知っていることから導き出されること、それは……。)



紅葉はディエスから一定の距離を保っていた。

「血液を操作する」という能力と、零の変貌ぶりから紅葉が想像したのは「吸血鬼」だった。

おそらく、自分がディエスのスタンドに触れられれば、自分も零と同じようになってしまう……。

紅葉が距離をおいたのはそれを危惧していたからでもあったが、紅葉にとっての利点もあった。


紅葉(棟耶との戦いで見出した私の力……『衝撃の塊』を、隙をみてヤツにブチこんでやる!)


紅葉はディエスが行動するのを待った。

どう動こうが、衝撃の塊をディエスに触れさせれば、ノーガードで殴ったのと同じダメージを与えることができる。


ディエス「くく…く………」


だが、ディエスは笑った。


ディエス「『衝撃の塊』を、俺にぶつけるつもりなんだな、紅葉……!」

紅葉「……え?」







ビチャッ!!

紅葉「ッ!!」


突如、何かヌメヌメした液体が紅葉の目に入った。

その鉄くさい臭いから、紅葉はそれがディエスのマントに滴る血液だとわかった。     





ゴシゴシ

紅葉「クソ………ッ!!」



紅葉が目を拭って再び目を開くと、すぐ目の前にまでディエスが近づいていた。




ディエス「死ね、紅葉……!!」

ディエスはミレニアム・チョークの拳を振りかぶった。



紅葉(マズイ、衝撃の塊を解除して、攻撃に備えなければ……!)





紅葉はとっさにミレニアム・チョークのパンチの衝撃を吸収するべく衝撃の塊を解除した。



ディエス「フフ……」


ガシッ!

しかしディエスはパンチを繰り出さず、もう一方の手で紅葉の首を掴んだ。

紅葉「しまっ……た……!」

ディエス「解除しなければよかったな紅葉、さあ、おまえも我が能力により永遠の眠りについてもらおうかぁッ!!」


紅葉(なぜ……ディエスは『衝撃の塊』の能力を知っているんだ……?

   これは、ディザスターのアジトの中で、閉め切られた講堂の中で初めて使った能力なのに……!)


ズギュン!!

ミレニアム・チョークの能力が発動し、紅葉の目の前がどんどん暗くなっていった。

紅葉(やは……り……零さんの……言った通り……なのか………)



零「でも、ディエスはおそらくそれだけでない、さらに………『未来予知』のような能力も持っている……。」

紅葉「え………?」



夜露で湿った草と土の上に横たわる零の命は、もはや風前の灯であった。

零(『未来予知』……!!ディエスにそのような能力がなければ、今日初めて知ったような私の能力なんか看破出来るはずがない。

  そして、今紅葉ちゃんが捕まったのも……『未来予知』に関係のないことではないはず……。)


零はもはや何も見ることができなくなったその目をゆっくりと閉じた。



   紅葉ちゃん……いや、彼女だけじゃない。

   みんなにあやまらなきゃいけないことがある。

   たったひとつ、言っていなかった私の想い……。


   私はね、本当は『死ぬために戦っていた』の……。


   私がディエスと戦ったのは、きっとディエスが私を死なせてくれるスタンド使いだったから。

   私はこれまで幾度となく死に、幾度となく生き返った。

   仲間は先に死んでゆき、同じ痛みを負っても私は死ねなかった。

   もうずっと、ディザスターにいたころから疲れていた。

   ディザスターの中にいるうちは、ディエスは私を死なせてくれなかった。

   だから私はディザスターを出て、ここで反旗を翻した。



   でも、杜王町を守りたいという気持ちももう一方であった。

   ディザスターから離れた後の、心が荒みきった私を癒してくれたのはこの町だった。

   だけどいつか、スタンド使いの多いこの町にディザスターがくることはわかっていた。

   この町を、壊されたくなかった。

   そしていつしか……『死にたい』という気持ちより、『この町を守りたい』という気持ちが強くなっていった。

   きっと私の呪われた能力は、私の命は、この町を守るためにあったのだろうと思い始めた。

   皮肉なものね、死にたいと思ってやってきたこの町で、

   この数ヶ月間、私は一番『生きている』という実感をもつ日々をすごした……!


   そして、ここまでやってきたんだ。

   『ディエスを倒すために』……私は喜んで命を彼の下に差し出そう。

   ディエスはまだ隠していることがある。

   それでもきっと、勝てる。

   でもそれは……紅葉ちゃんだけじゃダメ……。


ディエスのミレニアム・チョークに掴まれた紅葉、横たわる零より少し遠くに、地面にへたりこむ模の姿があった。


零(ディエスを倒すことができるのは……私以外には、あなたしかいない。だから……立ち上がって……!!)



ドドドドドドドドドドドドドドド………







模「……………」

五代の死を知った模は、これまでの五代の言葉を思い出していた。


<いまさら俺を『信頼』してくれとは言わない。……だが、頼む。力を貸してくれ。>

<てめえ……まさか、自分が殺されるはずがないと思ってるんじゃねえだろうな。

   やらなきゃ、テメエがやられるんだよ。生半可な気持ちで戦うんじゃねえ!!>



模(「生半可な気持ちで戦うな」……そうだ、衛藤との戦いで、五代くんは僕を殴ってそう言った。)


<俺たちは勝たなきゃいけない、絶対にな……>
   
模(勝たなきゃいけない……絶対に……。)



ギリ……ギリ……

ミレニアム・チョークの手に吊り上げられた紅葉は身動きをとる事ができなかった。

ディエスは紅葉を、首を締め上げることで殺すつもりはなかった。

絶望を、苦痛の時間を長めるために、ディエスが紅葉に用意した死は、ミレニアム・チョークの能力によるものだった。


ディエス「紅葉……おまえは、零のように手間をかけて老いて死なせるようなことはしない。

     ただし、ふつうに絞め殺すのもつまらない……。『悲劇のヒロイン』にでもなってもらおう。」

紅葉「な……に……!」

ディエス「血液中の『白血球』の数をふやし、白血病と同じ症状を起こさせる……!」

ズギュン!

紅葉「ぐはっ………!」

ディエス「さすれば、おまえのヒーローが助けてくれるかもしれないぞ……?」

紅葉(ば………模……!)

ディエス「これでおまえも……死を待つだけだ……」


模「ディエスーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

ブオンッ!


ディエスの背後から、セクター9を発現させた模が飛びかかった!

ガシッ!


ディエスはミレニアム・チョークにセクター9の拳を掴ませた。

ディエス「ふん、杖谷……思ったより立ち直るのが遅かったじゃないか。だが、このときを待っていた!

     『ミレニアム・チョーク』、血液中の栄養を失わせ、杖谷を弱体化させるッッ!!」


ズギュン!

ディエスが使った能力は、かつてディエス自身が模の家を襲撃し、模に対して使用したのと同じものだった。

掴まれた部分から血の気が引いていき、眩暈を引き起こして、体には力が入らなくなる。

そして、その後の攻撃に対し完全なる無防備となってしまう………。

模は掴まれたミレニアム・チョークの手から体が地面に崩れ落ちるものだとディエスは予想していた。


だがこの時、ディエスには誤算があった。

それはまさに模の家を襲撃したとき、一度能力を模に対して使っていたこと、

そして……今、ついさっきに五代が死んだことだ。


模「セクター9……ッ!」

ディエス「何……!」

セクター9「ウリャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」


バギャッ!

ディエス「ぐふぁッッ!!」

セクター9がディエスの頬を殴りぬけ、ディエスの体は吹っ飛び、倒れた。







ディエス「ぐ……お………!」

ディエス(バカな……ミレニアム・チョークの能力が、効かなかったのか?)


倒れるディエスを尻目に、模は解放された紅葉のもとへ向かった。

模「大丈夫、紅葉!?」

紅葉「大丈夫………とは、いえない。あいつに、あいつのスタンドに何かされたみたいで、体に力が……。」

模「……『白血病』、とか言ってたね。……大丈夫だよ、紅葉……。」


模は紅葉の体に手をかざした。そして同時に、セクター9の手もかざされた。

模「………………」

模は目を閉じ、かざした手に集中した。


ズズズズズズズズズズズズ……

模「……どう?」

紅葉「………なんか、ちょっとラクになった気がする。何したの?」

模「紅葉は、休んでて。アイツは、僕が倒す。」

紅葉「そうだ、零さんは?模、零さんも助けなきゃ………!」

模「…………もう、手遅れだ……!」

紅葉「ッッ!」


紅葉は少し遠くに横たわる零を見た。


まったく、動く気配がなかった。

アンティーク・レッドの姿が現れないのが、零がもはや再起不能となった証拠であった。



模は、すでに立ち上がっていたディエスのほうに体を向けた。

模「五代くんの……零さんの死を……決してムダにはしない……!」

ディエス「杖谷………おまえは俺の能力が効かなかったのではなかった。

     『俺の能力を手に入れ』、それで抵抗していたんだな……!」

                                           ミレニアム・チョーク
模「ああ、そのとおりさ。サウンド・ドライブ・セクター9、第三の世界……『血液の世界』。

  血液の成分を操作するおまえの能力に入門した……!」







紅葉(私の体がラクになったのは……『血液の世界』の力で、ミレニアム・チョークにかけられた能力に干渉したから……?


   模はディエスの能力を手に入れた……でも、おそらくそれだけじゃ勝てない……!)


紅葉「『未来予知』……私の『衝撃の塊』の能力を知っていたディエスには、それに近いものが確かにある……。」


紅葉は、そのことを模に伝えられなかった。

知ったところでどう対処すればいいのか、紅葉は策を持っていなかったし、模を混乱させてしまうかもしれない。

それに、もしほんとうに未来予知の能力を持っているのなら、今の模の攻撃もディエスは避けられたはず。

紅葉は、それに希望を託したかった。


ディエス(五代が死んで、席が空いたというわけか……。だがこれで、これで……!)


ディエスは口元を歪ませ、不適な笑みを浮かべた。

その笑みの本意を模が知ることはなかった。



ディエス(これで、俺の『負けはなくなった』……!)
 
 
 
 
【別荘地帯】

 × 桐生零(死亡)  -  ディエゴ・ディエス ○ 






【スタンド名】
ミレニアム・チョーク(millennium choke-千年の窒息-)
【本体】
ディエゴ・ディエス(スペイン語の⑩、「ディエス」より)『ディザスター』のボス。

【タイプ】
近距離パワー型

【特徴】
フルフェイスメットのような頭、体は紅と黒の網目

【能力】
本体、または殴った相手の血液の成分を操作する。
主な使い方としては、血液中に主に含まれる赤血球、白血球、血小板の比率を変える。
本体に対しては、赤血球の比率を一時的にあげて体内の酸素の巡りを強化させたり、血小板を増やして傷口の止血を早めたりする。
殴った相手に対してはこれの逆をするほかに白血球の比率を上げて白血病の症状を起こさせたりする。
また本体への輸血にも有用であり、他者の血液の血液型を自分のそれに変えたり、血液の血漿中の抗体を自分のそれと同じものにし、全血輸血を可能にする。

破壊力-A
スピード-A
射程距離-E

持続力-E
精密動作性-?
成長性-?





to be continued...



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