……アッコは、外で遊ぶことと同じくらい、本を読むのが好きだった。
でも、アッコは難しい言葉が並ぶような本は読むことができなかった。
だからアッコがもっぱら読んでいたのは、絵本や童話集だった。
陸の家の本棚にある本の中で特に好きだったのは、宮沢賢治の「よだかの星」だった。
主人公の「よだか」は名前こそ「夜鷹」であるものの、たかの仲間ではない。かわせみや、蜂すずめの仲間だった。
よだかは実に醜い鳥で、とてもとても、たかのようなりりしさや強さを持ってはいなかった。
ではなぜ、名前に「たか」などと入っているのかというと、
よだかのはねがむやみに強く、風をきって空を翔ける様子がまるでたかに似ていたということ、
そしてそのするどい鳴き声が、やはりたかに似ているからだという。
しかし、よだかはとてもとても弱い鳥だった。
たかのようだけれども、たかじゃない。
アッコは、よだかに自分の姿を重ね合わせていた。
―――人間のかたちをした、機械。
―――カメユーマーケット5階。
今は廃業となってはいるが、このカメユーマーケットの最上階の5階はかつてイベントなどの催し物が行われることが多いため、
天井の高さが5m程度と他の階と比べてやや高く造られていた。
天井から等間隔に吊り下げられた電灯のうち、2つだけがフロア内を照らしていた。
その電灯の間を……一筋の光が通り過ぎていった。
アッコ「やあああああああああああああッッ!!」
空中に高く跳び上がり、剣のスタンド『ファイン・カラーデイ』を背中の後ろまで振りかぶっていた。
アッコの体が天井近くまで達した直後、青白い炎に包まれたように輝くその剣を、アッコは真下のキル・シプチルに向けて振り下ろした。
キルのスタンド、『ラクリマ・クリスティー』がいかにパワーのあるスタンドだとしても、
光輝くアッコの剣を受け止めることは不可能だった。
斬れないものなど、存在しないのだ。
まっすぐ上を見据えて、キルはアッコの攻撃を待っていた。
アッコ「はあッ!!」
ズドン!!
キルの脳天から足元まで、叩き斬った。
キル「ふふふ、はははは……」
アッコ「え……?」
しかし、キルは真っ二つになるどころか、傷一つ負わずにピンピンしていた。
キルのスタンドの、「すべてから解放される能力」……わかりやすく言えば、物体が体を「すり抜ける」能力が、
「何でも斬れる」アッコの光り輝く剣の能力を上回ったといえる。
九堂「温子、離れろ!」
アッコ「………ックソ。」
アッコはピョンと跳んでキルから離れた。
アッコがキルに攻撃を仕掛けている間、九堂は動かずに立ったままだった。
九堂「……やっぱ温子の剣は効かねぇか。あわよくばと思ったんだが。」
アッコ「ありえナイよ……『ファイン・カラーデイ』で斬れないなんテ……。」
九堂「うん、キルへの攻撃はムリにやらなくていい。」
アッコ「ネエほんとニ勝てるの?『あの作戦』で。」
九堂「どのみち、他に考えられる策がねェんだ。それより、どうだ体の調子は?」
アッコ「ああ……ウン。まだ、いけるよ。」
九堂「よし……おまえにかかってるんだ、頼むぜ。」
アッコ「……オーケー。」
ダッ!
アッコは猛スピードで遠くの壁に向かって駆け出して行った。
壁が近づいても、アッコはスピードを落さずに……
アッコ「よっ!」ピョン
壁の前でアッコは高くジャンプし、三角跳びをするように壁を蹴り、また天井高くまで跳びあがった。
常人ならぬ動きを可能にしているのは、アッコの機械の体だった。
リミッターをはずすことで、人間の活動の限界を超えてアッコは走ったり跳んだりすることができる。
ただし、オーバーヒートしてしまうため、長い時間つかうことのできない機能だった。
キル「…………ッ。」
ぎりぎり目で追えるほどの速さに、キルは翻弄されていた。
九堂(さっきの五代との戦いを観ていて、わかったことがある。それは、キルの作戦が『受け』一辺倒であること……!)
九堂は、キルと五代との戦いの中で、キルの攻撃は『すり抜ける』能力を使ったあとのみにしか行われていなかったことを見極めていた。
五代の攻撃をすり抜けさせ、隙ができたときにしかキルは攻撃していなかった。
つまり、キルは自分から攻撃を仕掛けるということがほとんどないということだ。
九堂(きっと……『すり抜ける』能力を使っている間は、自分の攻撃も相手の体を『すり抜けて』しまうんだ。
体の一部分だけ……例えば、頭だけをすり抜けさせて、拳は普通の状態で攻撃するということはできないんだろう。
これは間違いなく、キルにとって知られたくない弱点なんだ。)
それは、かつてキルがディエスと戦ったときに、ディエスにも見極められた弱点だった。
九堂(だから、キルは俺がアッコに作戦を伝えているときも、さっきのアッコとの会話のときも、『相討ち』のリスクを避けて攻撃しなかったんだ。
たしかにおまえは能力を使い続ける限り負けることはない。だから、身を危険にさらすリスクを避けても問題はない……そう思ってるんだろうがな。)
九堂「だからこそ、俺たちはお前を倒す『準備』を着々と進めることができる……。お望みどおり一泡吹かせてやろうじゃねえか……!!」
―――「よだかの星」でよだかは、たかの名がついているにも関わらずみすぼらしい姿なので、鳥たちからはいつも蔑まれていた。
だが、アッコは自分の体が機械でできているからといって、クラスメート達にいじめられていたということはなかった。
アッコがよだかに自分を重ね合わせていた理由は……物語のラストシーンにあった。
ギシッ
アッコ「ッ!」
アッコが床に足を強く踏み込んだとき、脚の中から軋む音が聞こえた。
アッコの脚はすでに高い熱を発しており、限界が迫っていた。
九堂に大丈夫と言ったのはウソだった。
だがそれでもアッコはキルの周りを走り、跳びつづけた。
光り輝くその剣を携え、何度も天井近くまで跳びあがり、キルの注意を引き続けた。
物語の終盤、よだかは夜空に瞬く星に辿りつくため、命を削り、必死で天へと飛んでいくのだ。
毛を逆立て、キシキシキシキシッとまるでたかのように鳴くよだかの声に、それまでよだかを蔑んでいた鳥たちがぶるぶる震える。
空へと高く高くのぼっていたよだかはいつしか、飛んでいるのか、落ちているのか、上を向いているのか逆さになっているのかもわからなくなる。
それが、よだかの最期。最期だというのによだかはくちばしを曲げ、嗤っていたのだ。
そして、よだかは自分の体が燐の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見た。
カシオペア座が、天の川のひかりがすぐそばにあった。
そしてよだかの星はいつまでもいつまでも燃え続けた……。
『ファイン・カラーデイ』の放つ光は、よだかの光と同じだとアッコは思っていた。
そしてアッコは、いつかよだかのように……命を燃やして、剣を輝かせて、戦うときが来るのだと思っていた。
アッコ「やああああああああああああッッッ!!!」
その時が……今なんだろう。たとえ脚が動かなくなろうが、壊れようが、
『ファイン・カラーデイ』が輝き続ける間、アッコは命を燃やし続ける。
ズバッ!
高く跳びあがり、アッコの剣は天井を斬りつけた。
刀身が深く刺さっても、剣が止められることはない。
そのまま剣は振り下ろされて、天井に長い創をつくった。
そしてアッコの体は4、5メートル下の床に落ちていったが……
アッコ「………キルっ!?」
キル「ノミみたいにピョンピョン跳ね回って……いいかげんに目障りだッッ!!」
アッコの落下地点にキルが移動し、ラクリマ・クリスティーの拳をひいていた。
アッコ「攻撃スルの……?なら、これはチャンスかも…………」
ギシッ
アッコ「!?」
剣を振り下ろそうと思ったアッコの腕が動かなくなった。
……不運にもここで限界が訪れたのだ。
オーバーヒートさせ続けた体は動かなくなり、そのまま落ちていった。
九堂「…………温子!?」
キル「『ラクリマ・クリスティー』ーーーーーーッッ!!」
バギィィッ!!
アッコ「………っ!」
ラクリマ・クリスティーの腕が、アッコの体を貫き、真っ二つに裂いた。
アッコの胸から下の裂け目から、彼女の体を構成する無数の様々な部品が、散らばって落ちた。
分かれたアッコの上半身と下半身が、キルのそばにガチャンと音を立てて落ちた。
九堂「あああっ、ちくしょう!!ちくしょう!!!」
アッコの無残な姿に、九堂は叫んだ。
アッコ「九堂……ゴメン……ちょっと………ムリ、しちゃったヨ……。」
機械の体のアッコは、腹から下がなくなっても活動の停止はしていなかった。
だが、ずっと動き続けていられるかどうか……保証はなかった。
アッコ「デモ……でも、『準備』ハ、整った……。」
キル「何………?」
ドドドドドドドドドドドド………
九堂「ああッ、絶対に!絶対に、成功させてやるッ!!『アウェーキング・キーパー』、繋ぎとめた『天井』、すべて解除だあッッ!」
アウェーキング・キーパー「ウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
バゴン!
キル「て、天井が……………!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
キル「すべて、ひび割れて、落ちてくるだとォーーーーーーッ!?」
カメユーマーケット5階フロアの天井が、幾多もの亀裂がいっせいに現れ、崩れ始めていた!
その亀裂はすべて、アッコがつくりだしたものだった。
アッコが自らの体のリミッターをはずし、フロア内を跳びまわっていたのはキルを翻弄するためだけでなく、
天井を『ファイン・カラーデイ』で斬りまくり、崩れさせるためだった。
そして、まったく動かなかった九堂は、『繋ぐ能力』である『アウェーキング・キーパー』の能力により
天井の大きな破片同士を繋ぎとめ、このタイミングまで崩落を防いでいたのだ。
ガラガラガラガラガラガラ!!
キル「このままでは、天井の破片が降りかかってくる……『ラクリマ・クリスティー』、すり抜けるッッ!!」
ラクリマ・クリスティーが現れ、破片が落ちてくる前に能力が発動した。
九堂の立てた作戦……それは、アッコが天井を斬りまくることも、アウェーキング・キーパーの能力を解除して崩落させることも、ただの前準備に過ぎなかった。
九堂の狙いは……キルが確実に『すり抜け』の能力を発動させる、この一瞬だったのだ。
九堂「『アウェーキング・キィーーーーーパァーーーーーーーーー』ッッ!!!!」
ドォ―――――――z_________ン!!!
広い天井が崩れて、大きな音が響いていたフロアが、一瞬で静寂に包まれた。
だが、それよりも驚くべき光景がキルの前に広がっていた。
キル(こ、これは………天井の破片がすべて……空中で止まっている?)
そしてその直後、それよりもさらに驚くべきことが、自身の体に起こっていた。
キル(バ……バカな……!!)
九堂「どんな気分だ……『拘束』から解き放たれているはずの自分が……『拘束』されているのは?」
キル(み、『身動きがとれない』……だと!?)
キルは、ラクリマ・クリスティーを発現させたまま、両手を上にあげたまま、ピタリと動きが止まっていた。
すべての拘束から解放される能力……その能力の、発動中であったはずなのにもかかわらず!
ドドドドドドドドド………
まるで写真のような光景の中で、九堂だけが話し始めた。
九堂「キル・シプチル……おまえの能力について、五代から話を聞いたときも、そしてさっき五代と戦っているのを観ているときにも……ずっと腑に落ちない点があったんだ。
それは、おまえの『すり抜ける』能力のことだ。いかなる攻撃もすり抜け、何でも斬れるはずの温子の光り輝く剣ですら効かないお前の能力……。
だがこの世にはな……『ありえないなんてことはありえない』んだ。それは、スタンドなんつー非現実的な現象を認めたとしても、だ。」
キル「…………!」
すべての動きが止められたキルは、口をうごかすことすらできない。
九堂「おまえは……能力を発動している間、どんなものでも体をすり抜けてしまう。でも、それは虚像じゃないんだ。能力を解除してもおまえの姿はブレたりしないしな。
おまえは確実に『そこにいる』はずなんだ。なぜなら、本当にそこに『いない』のなら、光があたらずに、俺たちの目からは見えなくなるからだ。
だけど、おまえの姿は見えてる。光がお前の体を反射して、俺たちの目に届いている。」
キル(まさか、九堂……おまえは……!!)
九堂「『量子力学のトンネル効果』……。」
キル「………!!」
九堂「物理の本で読んだことがある。『人間がコンクリートの壁をすり抜ける可能性』……ッてやつだ。
無数の原子と分子で構成されている人間が、同じく無数の原子と分子で構成されているコンクリートの壁をすり抜けることは、天文学的な確率で可能である……って話。
おまえの能力……説明できるのはそれしかねえ。おまえの『ラクリマ・クリスティー』、その能力は、このバカげた話を実現できる、
天文学的な確率を無視して実行することができる能力なんだッ!!」
キル(まさか、おまえが……私の能力の正体を見破るなんて……!
だが、なぜ……私は身動きがとれないんだ!?九堂の『繋ぎとめる』能力……それは、生物に対しては一瞬だけのはずだ。
運動エネルギーを一瞬のうちにゼロにする……それだけのはずなのに………。)
キル「…………!!」
キルが考え抜いた後、たどり着いたのはボスが幹部達に言った言葉だった。
ディエス「スタンドの最も予期できぬ部分、それが『成長性』……。窮地に立ち、成長したスタンドは我々でも計り知れない能力を発現する可能性がある。」
キル(まさか、九堂は……!!)
九堂「おまえの能力の正体を突き止めたなら……俺がとるべき行動は決まっている……。
俺の『繋ぎとめる』能力を発動『し続け』、てめーを、てめーの何兆にも、何京にも、何垓にも渡る原子と分子のすべてを『繋ぎとめて』やるだけだ……!!」
キルが今できることは、九堂の話を聞くことだけだった………まるで『時が止まった』かのような光景の中で。
九堂「なんかカッコよく名前つけてーな……模の「○○の世界」……アレ借りるか。」
ドドドドドドドドドドドドドド………
九堂「『アウェーキング・キーパー・ザ・ワールド』……俺が能力を『連続して』発動し続けている間、範囲内のすべてのものは停止する……!!
ま、俺も体力使うからあんまり動けねーけど。」
【スタンド名】
ラクリマ・クリスティー
【本体】
キル・シプチル(弓と矢の男)(朝鮮語の⑰「シプチル」より。)
【タイプ】
近距離型、チート系
【特徴】
凹凸の無いスリムな機械人型 無駄な装飾が全く無く翼が生えている
メイド・イン・ヘブンみたいな顔 白い
メイド・イン・ヘブンみたいな顔 白い
【能力】
この世の全ての「拘束」から解放される能力
所謂全ての「法則」や「ルール」を無視することが出来る能力
たとえば重力にも拘束されず空中を自由に動き回れる
壁などの障害物も無視してすり抜けて歩ける
所謂全ての「法則」や「ルール」を無視することが出来る能力
たとえば重力にも拘束されず空中を自由に動き回れる
壁などの障害物も無視してすり抜けて歩ける
相手スタンドの「拘束」「妨害」「時間停止」等の能力すら無視して行動できる
『すり抜け』の正体は、『量子力学のトンネル効果』を
体を構成する原子と分子を意図的に操作することによって引き起こすものであった。
破壊力-A
スピード-A
()
()
射程距離-D
(能力射程-本体のみ)
(能力射程-本体のみ)
持続力-E
精密動作性-A
成長性-完成
九堂の能力、『アウェーキング・キーパー・ザ・ワールド』によって生まれたこの硬直時間は、いまだそれほど時間は経っていなかった。
キル(く………能力を解除することすらできない。上から落ちてくるガレキをすり抜けるのに備えて、
わずかに移動した原子がそのまま停止されてしまっている……!半ば『強制的に』、能力を発動し続けさせられている!)
そしてこの状況が長引けば長引くほど、キルにとって不利になっていくのだった。
九堂「何故……俺がこんなことしているか、わかるか?」
キル「…………」
九堂「おまえの弱点……『能力を発動している間は自分も攻撃できない』……そのほかにも、もうひとつ弱点がある。」
キル「!」
九堂「それは、時間………おまえのその能力、長い時間使い続けることはできないはずだ。
さっきの五代との戦いのとき、おまえは何度か能力をつかわずに、ガードで五代の攻撃を止めたことがあった。
はじめはおまえ自身が攻撃を仕掛けようとしたタイミングだったかと思ってたけどよー。
この俺の成長した能力を使い続けるとわかるぜ……。『すり抜ける』なんて大掛かりな能力、相当体力を使うんだろ?」
キル「……………!!」
ここまでの九堂の推理は、すべて的を得ていた。
そしてたしかに……キルは窮地に立たされていたのだった。
キル(五代……五代が、ひとりで戦った五代が、命を賭して私を倒すヒントを仲間に見つけさせようとしていたのか……ッ!
五代が私を倒すのは不可能……これは間違いがなかった。だが、私は、リスクを負ってでも五代を速やかに倒さねばならなかったのだ……!!)
九堂「つまりよ……ここからは俺とてめーの根くらべなんだ。
俺の能力が解かれる前に、てめーの体力の限界が来て「落ち」たら俺の勝ち。
俺の能力が解かれるのが先だったら……まず天井のガレキは崩れ落ちるだろうよ。この量と大きさだしな。
それをてめーが『すり抜け』ちまえば、俺が今のをもう一度やる体力はない。てめーの勝ちだ。」
ドドドドドドドドドドド………
キル(過ぎたことを悔いたところで仕方ない。ここが正念場だ………!)
九堂「白黒ハッキリさせよーじゃねえかッ!おまえが上か、『俺たち』が上か!!」
とはいえ、九堂もキルも、すでに体力の限界が近づいていた。
九堂はこのキルとの戦いが、今日の最初の戦いだった。
だが、アッコが天井を斬り裂いている間もアウェーキング・キーパーの能力を発動し続けていて、
まだ息が整っていない状態で九堂はこの勝負に出ていた。
さらに、一度も試していなかった新能力……キルが落ちるまで、続けられる確信はなかった。
片やキルも、かなり苦しめられていた。
九堂の指摘どおり、『ラクリマ・クリスティー』の能力にはかなりの体力を必要とし、
常に使いつづけているということはできなかった。実際、五代との戦いでも負けはしなかったものの、かなり体力を削られていた。
だがそれよりも、これまで看破されることがなかった自分の能力を見破られ、こうして対処されているという事実がキルに大きなショックを与えていたのだ。
パラ……パラ……
九堂から一番遠いフロアの隅で、小さな破片が落ちる音が聞こえた。
端のほうで能力が解除され始めている証拠だった。
だが、キルはそれに気づく余裕もなかった。
キル(くそ、眩暈がする……吐き気もするぐらいだ……視界が…ぼやけ……落ち………る……!)
そしてチカチカ瞬いていたキルの視界が、どんどん暗くなっていった………
ズズズズズズズ………
…………だが。
九堂「…………ッ!」
ガラガラガラガラガラガラガラガラ!!
突如、停められていた天井のガレキが大きな音を立てて崩れ落ち始めた!
キルの意識が途切れる前に……『アウェーキング・キーパー・ザ・ワールド』は解除されてしまった。
ドドドドドドドドドドドドドドド!!!
フロアじゅうに轟音が鳴り響き、九堂とキルの姿はガレキと砂埃の中に消えた。
しばらくして音は止んだが、砂埃はいまだ高く舞い上がっていた。
その砂埃の中で……人影が一つ、ガレキの中から少しずつ上ってきた。
キル「…………危なかった。」
キルはガレキを『すり抜け』、腰から上をガレキの中から現した。
キル(五代との戦いのあと………九堂があの能力を発動するまで、私が『ラクリマ・クリスティー』の能力をあまり使わずにいれたことが大きかった。
もし林原温子が、もっと私に攻撃していたなら……私に能力を多く使わせていたなら……私はガレキの下敷きになっていたかもしれん。だが……)
キルはガレキのなかからゆっくりと、体を宙に浮かせて出ていた。
九堂の体力が尽き、能力が解除されてもすぐにガレキが落ちてきたので、キルも能力を解除して小休止する暇はなかった。
今も眩暈と吐き気がするほど体力を消耗していたが、九堂の精神力に押し勝ったということが、わずかなエネルギーとなっていた。
キル「く………。」
とはいえ、一刻も早く能力を解除し、大きく息を吐きたかった。
キルは足のつま先までガレキから出て、着地点を確認すると………
キル「『ラクリマ・クリスティー』、解除だ………。」
トッ
キル「フーーーーーー………」
安心したかのように、キルは息を長く吐いた。
ドズッ
キル「…………グッ!?」
だが、キルの息が、止まった。
キルの喉の奥から、何かがこみ上げてきた。
キル「ぐばァッ……!!」
キルが吐いたのは、大量の血。
赤黒い血が喉の奥からどんどんこみ上げてきてキルの気管をふさいだ。
その次にキルが気づいたのは、胸の奥からの痛み。
しばらく気がつくことができなかったのは、キルにとって痛みというものが長らく無縁であったからかもしれない。
キル「な゛………なぎ…が………!」
キルはゆっくりと首を傾け、胸元を見下ろした。
キルの胸から、青白い光の帯が、まっすぐ突き出ていた。
それは、キルの背中から突かれたもの。
それはキルの足元の、ガレキの下から伸びていた。
『ファイン・カラーデイ』の、光り輝く剣だった。
ガレキの下から、か細く声が聞こえた。
アッコ「コレが………コレガ、ゴダイの受けた痛ミだ………!」
その直後、『ファイン・カラーデイ』は消えて、キルの胸と背中から血が吹き出た。
そしてそのまま……キルは、仰向けにガレキの上に倒れた。
ガラガラ……
ガレキの下から、アウェーキング・キーパーがガレキを押しのけて九堂が這い上がった。
九堂「俺が根負けしてもよかったんだ……ギリギリまで能力を使い続けさせさえすれば、おまえはガレキの上に降り立ったとき、かならず能力を解除する……!
そうすりゃアッコがおまえにトドメを刺すことができる……!!」
ドドドドドドドドドドドド………
あたりにたちこめていた砂埃が晴れた。
九堂は倒れたキルに歩み寄った。
キル「…………」
九堂「……これが、お前の望みどおりの結末なのか、キル・シプチル。」
キル「…これが……死………という……ものなのか……なんだか、すがすがしい……気分だ………。」
九堂「……………」
キル「私は………死ぬために、戦っていた………私が、幹部にのぼりつめた……のは……この能力…の、おかげ……だった。
………だがな……私は望んでこの能力を得たわけではない………。このような……『呪われた』能力……死ねない……能力など……欲しくは…なかった……。」
九堂「俺は悔しくて仕方ないよ。五代はおまえに殺された……その敵討ちのつもりが、おまえの願いをかなえちまったなんてよ……。」
キル「そう……だろうな……。だが、私はおまえに感謝しているよ……。出会えたことに……死なせてくれることに……。」
九堂「…………チッ。」
キル「これから……おまえは……仲間のところへ行き……ボス…ディエゴ・ディエスと戦うことになるのだろう……。
だが……『勝つことはできない』……だろう。」
九堂「何だって?」
キル「ひとつ、いいことを教えてやろう………ボスの能力……『血液成分を操作する』……きっとボスの能力は、『これだけではない』のだ……。」
九堂「……!ウソつけよ!『スタンドは一人につき一つの能力』だろ、そんなことが……!」
キル「だが……これは事実だ。おまえの町にかつていた『吉良吉影』……彼だって、『爆弾』という共通点はあれこそ、3つの能力を持っていた……。」
九堂「…………その吉良ってやつのことは知らねーけど……ディエスがもうひとつの能力を持ってるって根拠はなんだよ!?」
キル「ディ……エ…スは……わた………し…………の……………こ…………………う……ど………………」
九堂「お、おい!」
キル「………………」
キルの目の光が失われ、とめどなく流れていた血も止まっていた。
すべての血を吐き出し、生から解放された姿が、そこにあった。
九堂「…………クソッ、倒せたってのに、ちっとも嬉しくねえ。」
九堂はキルの死体のそばのガレキを掻き分け、アッコの体を捜した。
ガラガラッ、ガラガラ
九堂「おい、温子!勝ったぞ!俺たちが勝った………」
九堂がアッコの体を、ラクリマ・クリスティーの攻撃によりちぎれた上半身を見つけたとき、アッコは目を閉じてまったく動かなかった。
九堂「お、おい!温子!!」
九堂が温子の上半身を抱え上げた。
両腕は力なくぶらさがり、首もだらりと下がっていた。
???「アッコ!!」
九堂「!!」
九堂の背後からアッコを呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、エスカレーターの前に武田陸が立っていた。
陸「アッコ、おい、アッコぉぉ!!」
アッコのもとに陸がかけよった。
九堂がアッコの体をガレキの上におろすと、
すぐに陸がアッコの体を抱きかかえた。
陸「ごめん……ごめんな……」
九堂「……俺が、俺が温子に無理させたから……」
陸「違う、無理させたのは……おれだ。もう、限界が近いとわかっていたのに……!」
九堂「え………?」
陸の肩に乗っていたスペア4が九堂に説明した。
スペア4「コノ戦イダケガ原因ジェネエ……モトモトアッコハ、ムリヤリ作ッタヨウナ人間ナンダ。
ズット、整備シ続ケテ来タンダ、ソレクライワカル。モウ、イツ壊レテモオカシクハナカッタ。ムシロ良ク……戦エタモンダ。
キット……アッコ自身ニモワカッテタハズナンダガ……。」
九堂「………」
アッコ「…………う……。」
陸「!!」
アッコの目元がかすかに動いた。
アッコ「……り…りく………」
アッコは薄く目を開けて、陸の名前を呼んだ。
アッコ「よかった、陸……無事だったんだね………。」
陸「………え?」
九堂「ああ、良かった……目をさましたじゃねえか温子。」
陸「………………」
アッコ「お母さんやお父さん……工場の人たちは大丈夫かな……?逃げられたのかな……?」
九堂「………何?」
陸「…………アッコ?」
アッコ「とても、熱くて苦しかったろうね、陸。でも……無事でよかった……。」
九堂(何を……言ってるんだ温子は?)
その声は確かにアッコのものだったが……
話しているのはまるで別人のようだった。
アッコ「ごめんね……お姉ちゃん、ダメかもしれない……体中が痛くて、脚もうごかなくて……。」
陸(これは………もしかして、あの火事のときの……?)
陸は、かつて自宅と工場が全焼した火事のときのことを思い出した。
陸が姉の体………武田空の体をかかえて、燃えさかる家屋から飛び出したあの夜のことを。
陸「おねえちゃん………『空おねえちゃん』!!」
陸はアッコの……空の手を握り、姉の名を叫んだ。
アッコ「ごめんね……ごめんね……みんなで旅行に行こうって、いってたのにね……陸………。」
陸「ねえ……そんなこといわないでよ、お姉ちゃん!」
アッコ「心配……しないで陸。」
陸「うう……おねえ…ちゃん………。」
アッコ「もし、お姉ちゃんが死んじゃっても……私は、ずっと、陸の側にいるから……。」
陸「…………!」
アッコ「どんな形でも……必ずあなたのそばで、あなたを守っているから……。」
トサッ
アッコの、握られた手の力が失われ、床に落ちた。
陸「お姉ちゃん……お姉ちゃん!!」
ズズズズズズズズズ………
大きく穴の開いた天井から、パラパラと小さな破片が零れ落ちていた。
しばらくしてフロアは静かになり……アッコは再び、動かなくなった。
九堂は立ち上がり、陸とアッコを背にエスカレーターのほうへと向かっていった。
九堂「……行かなきゃな。模を、紅葉を……手助けするんだ。」
陸を置いて、九堂はカメユーマーケットを去っていった。
キル・シプチルを倒すことはできたが……
喜ぶには、犠牲があまりにも多すぎた。
陸「……………アッコ……。」
【カメユーマーケット5階】
○ 九堂秀吉、林原温子 - キル・シプチル ×
【名前】
九堂秀吉
【身長】
174.1cm
【血液型】
O
【好きな食べ物】
カルボナーラ、ラザニア
【嫌いな食べ物】
特になし
【趣味】
TVゲーム 特撮モノ
【好きなマンガ】
キングダム、ブラックジャック
【スタンド名】
アウェーキング・キーパー
【タイプ】
近距離型
【特徴】
戦隊モノのレッドみたいな感じの人型
【能力】
『繋げる』能力。
本来繋がらないような物同士も繋げることができるが、固定ではなく繋げるなので、引っ張れば引き離せる。
空間に物を繋げて『クラフト・ワーク』紛いのこともできる。
本来繋がらないような物同士も繋げることができるが、固定ではなく繋げるなので、引っ張れば引き離せる。
空間に物を繋げて『クラフト・ワーク』紛いのこともできる。
破壊力-A
スピード-B
射程距離-D
持続力-B
精密動作性-C
成長性-D
to be continued...
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