模が目を開けると、そこは幼稚園の教室だった。
模は大きな机の一角に座っており、まわりを見渡すと小さな子どもたちと女の先生がいた。
目の前にはクレヨンと一枚の画用紙が置かれている。
女の先生「はい、それではみんなの好きなものを描いてみましょう!」
先生がそういうと、周りの子どもたちはそれぞれの想い想いの絵を描き始めた。
花や動物……友達を描く子もいたし、戦隊ヒーローを描く子どももいた。
模はクレヨンをもったまま、何も描きだせないでいた。
女の先生「どうしたの?模くん。なんでも、好きなものを描いていいんだよ?」
模「せんせい……なにも、描きたいものが『ない』んです。」
模がそういうと、先生は少し困った顔をした。
しかたがないので模は隣の子の描いていたライオンの絵をマネして描き始めた。
*「模、マネしてんじゃねえよ!!」
模「!!」
模が顔をあげると、そこは幼稚園ではなく、小学校の教室だった。
模は教壇に立っており、席に座る子どもたちがじっとこっちを見てきている。その中でひとりだけ席から立ち上がり、模を睨んでいた。
模が黒板をふり返ると、そこには「作文 しょうらいの夢」と書かれていた。
*「先生、コイツの作文、オレが書いたヤツとほとんど同じだぜ!オレのをこっそり見て、マネしたんだ!」
模は自分が持っていた作文の原稿を見た。冒頭には「ぼくはサッカー選手になりたいです。」と書かれていた。
*「サッカー選手になりたいだなんて絶対ウソだぜ!!だって模サッカー超ヘタクソだもん!!」
黒板の端に立っていた教師が困った顔で模を見ていた。
先生「……模くん、本当か?」
模(だって、しょうがないじゃないか。将来の夢なんて『ない』んだもの……。)
模「…うっ……うう………」グズッ
先生「……もういい模、席に戻りなさい。」
先生に促され模は自分の席に戻り座った。模は周りからの視線が全身に突き刺さるような感覚だった。模はうつむいて涙をこらえた。
*「杖谷くん……杖谷くん?」
正面から男の低い声が聞こえ、模はハッとして顔をあげた。すると今度は模の目の前にはスーツを着た中年の男が座っていた。
模は部屋の中央でパイプ椅子に座っていて、どうやら面接試験を受けている最中のようだった。
面接官「……続けてもよろしいかな?」
模「は……はい、申し訳ありません。」
面接官「えー……杖谷くん、あなたの長所はどんなところにありますかな?」
模「えーと……僕の長所は……」
面接官「……あなたのスタンド能力は、衝撃を少し操作したり、物を少しだけ伸ばしたり増やすことができるそうですが、これはあなたの能力ですか?」
模「……いいえ、それは僕の友達の能力です。」
面接官「それでは、あなたの能力は?」
模「そうですね……『波紋』……波紋をつかうことができます。」
面接官「『波紋』?」
模「……はい。」
『波紋』という言葉を聞くと、面接官の様子が変わった。
面接官?「………ウソつくんじゃあないよ模。波紋だって、ひいおじいちゃんのマネをしただけだろう?」
ゴオオオオオオオ……!!
景色は突然、闇に包まれた。模が見ることのできるのは真っ黒な背景と目の前の男だけだった。
そう、これは前も夢で見たときとまったく同じ。模もこれが夢なんだとわかった。
しかし、それでも目を覚ますことができなかった。
模の目の前のそれはすでに面接官の姿ではなく、色がドロドロと混ざり合った人型の何かだった。
人型の何かは模に語りだした。
???「気づいていたろ、模。お前が『何も無い』人間だってことをよ。夢や目標……そして、『スタンド能力』さえも。」
模「………」
???「自分のないおまえは常に誰かのマネをして生きてきた。だれかと同じことをしていれば咎められることは無いし、楽だもんなあ?」
模「やめろ………」
???「スタンドだってそうだ。お前の『セクター9』……その能力は簡単に言えば『マネる』能力だ。マネること以外にはなにもない。」
模「やめろ……やめろよッ!おまえは誰だ、ここはいったい何なんだよ!」
人型の何かはグニャグニャと形を変えていった。
姿を変えたそれは模が一番よく知る人物……模自身だった。
???「俺は、おまえさ。そしてここはお前の精神の世界……お前の姿かたち以外には『何もない世界』だ。」
模「『何も……ない』?」
???「そうさ、お前の精神の、スタンド能力を表した世界だ。」
模「うあああっ、うああああああああ……」
???「もういいかげんにあきらめようぜ『僕』よ。何も無いお前が紅葉や五代……意志や目的を持った連中と一緒にいられるはずがないんだよ!!」
模「うわああああああああああああああああああっっ!!!!!」
バッ!!
模「はあ……はあ……はあ……」
模が目を覚ますと、そこは病院だった。
病院の待合スペースにあるソファーで模は横になっていた。
模「…………そうだ、僕は杜王町からここの病院に来たんだった。」
S市の大病院に搬送された模の母は、一命はとりとめたが意識は失ったままだった。
模は救急車でこっそり波紋の生命エネルギーを送ろうとしたが、思いとどまった。
<模の母「『波紋』さえ……学ばなかったら、あなたは傷つかずにすんだのにね……。」
普通の人にはない力なんて、持たないほうが良いんだよね……。」>
模は自分の手をじっと見つめた。
模(……僕の波紋は、人を傷つけるものでしかないのかな。でも、波紋がなかったら……)
模は窓の外を見た。空は夕日が射し、紅みがかっていた。
模は、遠くの街で戦っているであろう彼の友達のことを思い出していた。
第五章 -道標の世界-
――時は前後して、模が救急車に乗って杜王町を離れた後――
模の家にはたくさんの警官が頻繁に出入りしていた。
模の母が救急車で運ばれてからは事態に進展は無く、次第に野次馬たちは模の家から散っていった。
家の前の道で、紅葉は救急車が走り去った方向をじっと見ていた。
紅葉「模、私は信じてる。あんたはこのまま逃げだしたりなんかしない。……しかし…………」
紅葉は模の家のほうを向いた。外から中の様子はわからなかったが、かすかな血の匂いを紅葉は感じ取った。
紅葉「偶然に事故が起こったわけじゃあない。何があったの模……。」
紅葉は少し前に零が言っていたことを思い出す。
<零「ディザスターの侵略はその国の反抗分子となりうる『スタンド使い』を殲滅することから始まる。」>
紅葉(もしかして、模のところにも『ディザスター』が……?)
紅葉「………ッ、とにかく戻ってこのことを伝えないと……!」
紅葉が小道の屋敷に戻ろうとふりかえると、紅葉の目の前には見慣れぬ外人の男が立っていた。
レイヴン「『ロスト・ハイウェイ』!!」
ロスト・ハイウェイ「キ―――――――ッ!!!」
紅葉「!!」
バシャッ!
紅葉は突然、まばゆい光に照らされた。
同時刻、小道の屋敷。
屋敷の中のロビーで五代、九堂、アッコと零はソファーに座り、模を追って出て行った紅葉の帰りを待っていた。
九堂「紅葉っていったっけか、あの女。まだ戻ってこねえのかよ。
あのガキ……模が、そんなに大事なヤツなのかよ?」
五代「あいつ自身は弱い人間だがな……」
九堂「だが……なんだよ?」
五代「…………いや、なんでもねえ。しかし、確かに遅いな。」
アッコ「捜しにいコウ。モシカシたら、バクもクレハも、襲われてるかもしれナイ。」
五代「……そうだな。」
五代と九堂とアッコはソファから腰をあげた。
零「気をつけてね。『ディザスター』にいつ襲われるかわからない。」
五代「ああ。帰ってきたら教えてくれ。……俺達の敵のことを。」
三人は屋敷の門をあけて外へ出て行った。
零が窓のほうを見ると、さっきまで降っていた雨は止み、室内の床には長く日の光がさしていた。
突然の閃光に驚き目を瞑った紅葉は、ゆっくりと目を開けた。
するとさっきまで目の前に立っていた外人の男の姿は無く、さらにまわりにも人の姿は見られなかった。
紅葉「???」
警官が出入りしていた模の家の前にさえ、人一人いなかった。
紅葉「あんなに人がいたのに、誰もいないじゃない。……何か変だな。」
ざわつく野次馬たちも、荒い声で部下に指示を出していた警察官もおらず、あたりは静寂に包まれていた。
パトカーは停まっていても、サイレンの音は聞こえなかった。
ジャリッ
???「紅葉……!」
紅葉「誰ッ!」バッ
アスファルトを靴底でこすらせる音と、自分を呼ぶ声が後方からはっきりと聞こえ、紅葉はふりかえった。
そこにいたのは、紅葉のよく知る人物だった。
紅葉「銀次郎ッ!」
銀次郎「てめェも『移』されちまったのか……。」
紅葉「『写』された?何を言っているのよ。」
銀次郎「ここは、あの男のスタンド能力の世界だ。あいつのスタンドの持つカメラに写されちまうと、
その写真に写った人間は『写真の世界』に閉じ込められる。」
紅葉「まさか、あの外人?……チッ。で、あいつはどこにいるのよ?」
銀次郎「……ヤツは、この写真の世界にはいねえ。しかも、写真に写らない場所には見えない壁ができたように進むこともできないんだ。」
紅葉「…………『ブラック・スペード』!!」
ブラック・スペード「ドラァッ!」ガシィン!
紅葉はブラック・スペードを発動させ、民家の塀を殴ってみた。
紅葉「スタンドは出せるみたいね。しかし、塀にはヒビ一つ入っていない……。銀次郎、元の世界へはどうやったら戻れるの?」
銀次郎「どうやら、写真が破れたり燃え尽きたりして破損すれば出られるようだが……中からはどうすることもできねえ。ただし……」
銀次郎が紅葉のもとへ歩み寄る。
紅葉「?」
銀次郎「『レッド・サイクロン』!!」
レッド・サイクロン「BUHOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
レッド・サイクロンが紅葉めがけ拳を振り下ろした!
紅葉「んなッ……!」バッ
ドゴォン!
紅葉は攻撃を逃れ、レッド・サイクロンの拳は地面を揺らした。
紅葉「何すんだ、銀次郎ッ!」
銀次郎「あの男は言った……。ここに送り込んでくる人間を倒せば、俺は出してくれると……。
悪いな、紅葉。俺だって、助かりたいんだよ……!」
ドドドドドドドドドドドド………
三人は模の家へ向かって、商店街の中を走っていた。
九堂「紅葉が模を追ってったからって今も模の家にいるとは限んねーしなあ?」
模の家で何が起こったか知らない三人は周囲を見回しながら走っていた。
アッコは、走りながら朝に出くわしたスタンド使いのことを思い出していた。
アッコ「クドウ、ゴダイ。捜しなガラでイイから聞いてテね。ミンナが屋敷に集まる前、アタシとバクは『ディザスター』のスタンド使いニ出くわシタ。」
九堂が歯をギリッときしませる。
九堂「……そーいうことはあらかじめ言っとくもんだぜアッコ。」
アッコ「テメエはアッコって呼ブんじゃないよ。アタシをそう呼ンデいいのは、リクねえちゃんとバクだけダ。」
九堂「……わかったからそのスタンド使いのこと教えろよ。」
アッコ「能力はまだよくわからないケド……『カメラ』をつかウことだけはワカっている。ソレと、本体ハ外国人だヨ。」
九堂「『カメラ』を使うスタンドで、外国人……。」
五代「……ちょーどあのおもちゃ屋の前にいるような奴か。」
九堂「なっ……!」
五代の指差した方向には、おもちゃ屋のショーウィンドウを眺めている、カメラを首から下げた外国人の男が立っていた。
九堂「おいおい、紅葉たちより先にこっちに出くわしちまうなんてよ……。」
五代「先手必勝だ……。」ダッ!
五代が外国人の男に向かって走り出した。それに九堂も続いた。
外国人の男「ハホウ……コレガ『超像可動』……ソービューテホー………ん?ナ、ナンデスカ……!?」
五代「『ワン・トゥ・ワン』!」
アッコ「チガう、ゴダイ!!カメラを持っているのは『スタンド』なんダ!そいつジャない!!」
五代「何ィ……もうスタンドを止められねェぞ!」
ワン・トゥ・ワン「オラアアアアアッ!!!」
ブオンッ!
しかし、外国人の男の顔面をとらえたかに見えたワン・トゥ・ワンの拳は、眼前でピタリと止まっていた。
九堂「『アウェーキング・キーパー』……ワン・トゥ・ワンの拳とソイツの鼻先を『繋げ』て運動エネルギーをゼロにした。
あぶなかった……あんまり目立つようなことはしたくねえぜ、五代。」
突然迫ってきた五代のほうに体を向けていた外国人の男は、尻もちをついた。
外国人の男「イ……イキナリナンデスカ、アナタ。ニホンハ安全ナ国ジャナカッターンデスカ……。」
五代「やれやれ……すまなかったな。人違いだ。」
外国人の男「カンベンしてクダサイヨ……『イキナリ殴リカカッテクルナンテ』……」
アッコ「……『殴りかかって?』」
九堂「!五代、離れろ!そいつは『スタンドが見えている』!そいつが『スタンド使い』だ!」
五代「なんだと……」
外国人の男・レイヴン「オオット……口がすべっちまった。だがもう遅い、『ロスト・ハイウェイ』!!」
ロスト・ハイウェイ「キキィ――――――ッ!!」バシャッ!
おもちゃ屋のショーウィンドウの中に潜んでいたロスト・ハイウェイが五代に向けてシャッターを切った。
あたりがフラッシュの閃光に包まれ……………九堂とアッコが気付いた時にはすでに五代の姿は無かった。
九堂「なっ……五代!!」
レイヴンはカバンからお気に入りの帽子を取り出して頭にかぶせた。
レイヴン「マヌケ野郎どもめェ……これで紅葉につづいて五代も始末した。あとは九堂、てめェだけだ。
………おっと、その嬢ちゃんは俺のカメラを叩き割りやがったヤローだな?てめェも始末するッ!」
九堂「てっ、てめええェェェ!!!!」
アッコ「待テ、クドウ!アイツの前に姿ヲ出すナ、隠れるンダ!」
九堂「ンなことしてられっか!敵は目前なんだ!!」ダッ!
アッコ「クドウ!………バカ!!」
九堂がレイヴンに向かって走った時、すでにロスト・ハイウェイはカメラを構えていた。
レイヴン「よーし、よし。『ロスト・ハイウェイ』、準備はいいな?はい、九堂!カメラに目線をむけろおお!!!」
ロスト・ハイウェイ「キィ―――――――――ッ!!!」
九堂「『アウェーキング・キー………!!」
ゴッ!!
九堂がレイヴンに向けスタンド攻撃を仕掛けようとした時、九堂のわき腹に何かがぶつかってきた。
自分のわき腹を見ると、大きな『剣』の面があてられていた。
アッコ「両足固定、腰部回転ブースト解除!フッ飛べクドウ!『ファイン・カラーデイ』!!」
九堂「なァッ!?」
アッコは自身のエネルギーをフル稼働させて、野球のバットスイングの要領で九堂の体をフッ飛ばした。
九堂「な……なんじゃこりゃああああ!!!」
アッコ「……冷静にナって、クドウ。もう戦えるノハ、『アンタしかイナイ』。」
バシュッ!!!
九堂の視線の遠くでカメラのフラッシュが焚かれ、アッコの姿も消えてしまった。
九堂「クッ…………『アウェーキング・キーパー』!!」
ビタッ!!
九堂は自身の体を空中に『繋げ』させて勢いを殺し、地面に降り立った。
九堂「………紅葉も始末したって言ってたな。」
遠くにまだレイヴンの姿は見えていた。
九堂「俺が……やるしかないか。」
九堂はレイヴンに見つかる前に建物の影に姿を隠した。
商店街の空は赤みはじめていた。
S市の総合病院。
模は正面入り口から病院の外へ出た。
模「……落ち込んでても、おなかはすくんだなあ。」グー
<『波紋』さえ……学ばなかったら、あなたは傷つかずにすんだのにね……。>
模「……ひいじいちゃんは、どうしてこの波紋を守り継ごうとしたのかな……。」
模が病院前の食堂に行こうとすると、病院の庭のベンチに子どもたちが集まってるのを見つけた。
*「うあっ、スゲー!!」
*「ぜんぜんこぼれないじゃん!」
子どもたちを驚かせているのは、子どもたちの中心にいた老人だった。
老人「ホッホッホ……」
*「どうやってるんだあ……?」
老人が子どもたちに披露しているのは手品だと模は思ったが………。
模「アレは………!」
老人は手に水の入ったコップを持っていた。しかし、コップの口は『下を向いていた』。
にもかかわらず、水はコップの中から落ちなかった。
コップの中の水は『波打ち』、コップに引きとめられているようだった。
老人「コップにも水にも、種も仕掛けもないぞ。」
気づくと模は子ども達の後ろに近づき、子どもたちと一緒にコップを眺めていた。
老人「!…………ホレ、お兄ちゃん。」ポイッ
模「!!」ガシッ
バシャッ
模「………あ。」
模がコップを受け取ると、中の水は重力に従って零れ、模の学ランをぬらした。
子ども達「あはははははは!!」
老人「まだまだ修行がたりんのォー。」
老人が子どもたちに見せていた『手品』……それは模が幼少のころ、曾祖父が見せてくれたものと同じだった。
模「あなたは、『波紋』が………」
老人「君が、『杖谷模』なのじゃな。」
模「!!」
*「ねえじいちゃん、もっかいやってよォー!」
老人「ホッホ……すまんのう。ワシはこのお兄ちゃんを待っていたんじゃ。手品はまた今度な。」
模「あなたはいったい……何者なんですか?」
模を待っていたというこの老人と、模は面識がなかった。
模が老人の顔をよく見ると、肌は少し白く瞳は栗色だった。……どうやら外国人らしかった。そして……『波紋が使える』。
老人「ま、ちょっと話でもしようじゃないか。」
老人は模にベンチに座るよう促した。
老人「わしはただの手品が得意な老いぼれじゃよ。今日はこの病院に入院している息子を見舞いに来てたんじゃ。」
模「はあ………」
老人「息子は警察官なんじゃが……仕事でケガして全治2カ月だと。バカな息子じゃ、『自分のケガは治せない』なんて。
警察官になんかならんで医者でもやってたほうが良かったんじゃ!」
模「何を言ってるのかわかりませんけど……あなたに聞きたいんです、どうして僕のことが……」
老人「人は、常に『運命の糸』に導かれて生きていると言っても過言ではない……。」
模「……!」
老人「呼吸でわかるよ、『波紋使い』かどうかは。そして、『波紋使い』同士が出会ったことは偶然じゃあない。
これはなにかの導きによるものだ、そうだろう模くん?」
模「…………」
老人「そしてこれはおそらく『君のために』、『君が』引き寄せた導きだろう、弱き波紋使いよ。」
模「僕のために……?」
老人「話してみなさい、君に何があったか……。」
銀次郎「悪いな、紅葉。俺だって、助かりたいんだよ……!」
写真の世界の中で、紅葉は銀次郎と対峙していた。
紅葉は、銀次郎はもう自分たちに手出しはしないだろうと思っていたので驚いていた。
紅葉「銀次郎……アンタまだ連中の下で動いていたの!?」
銀次郎「はあっ……はあっ……」
紅葉「………銀次郎?」
銀次郎「いやだ……いやなんだ……もう、この世界にはいたくない……!」
紅葉「何を言ってるの?」
銀次郎「この世界に居続けると……ヤツの『拷問』が始まるんだ……。」
紅葉が銀次郎の体をよく見ると、火傷のあとも目立ちボロボロだった。
銀次郎「紅葉……これだけは誓って言える。俺はもうヤツらと関わりを切ってる。この傷はその報いなんだ。
だけど……もう、耐えられねえ。お前と戦わなきゃ、俺はここから出られないんだ。」
紅葉は銀次郎が怯えていることに気付いた。戦うことじゃあない、その『拷問』とやらに。
紅葉「…………」
銀次郎「だから……だから、やるしかねえんだよ紅葉ああああああああああ!!!!!」
レッド・サイクロン「BUHHHOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
銀次郎はスタンドを繰り出して紅葉に殴りかかりにいく。
紅葉もスタンドを出した…………が。
ボゴオォン!!
紅葉「ぐ……ふっ………!」
銀次郎「!?」
ドジャアァァッ
銀次郎「なぜだ紅葉ァ!なぜ、かかってこない!?ガードしない?」
ブラック・スペードはレッド・サイクロンの攻撃をモロにくらった。
紅葉「……ッ、くっ……!」
紅葉はヨロヨロと立ちあがる。
銀次郎は紅葉の『何もしない』行動に驚き、攻撃を続けることができなかった。
銀次郎「どうした、紅葉……」
紅葉「いいよ、銀次郎……私を倒しな。」
銀次郎「!?」
紅葉「私がこの写真の世界から外に出る方法なんかないんだろ?でも、あんたにはある。
それなら私を倒して出てちょうだい。」
銀次郎「紅葉てめェっ、なんのつもり……!」
銀次郎は紅葉の目を見た。それはまっすぐで凛とした、意志をもった瞳だった。
紅葉は冗談を言っているわけじゃないことが分かった。
紅葉「だけど銀次郎……あんたが外に出られたら、私の代わりにこの街を守ってほしい。
私はここで始末されるかもしれない。……でも、あんたが私の意志を持って行ってくれるなら、受け入れられる。」
銀次郎「くっ……紅葉ァ……!」
紅葉「…………」
銀次郎「なんでだよ……何でお前はそこまでして戦えるんだ!?……わっかんねェよ!!」
紅葉「……はやく、やれよ。早くしないと気がかわっちゃうかもしれない。」
銀次郎「くっ…………!!」
紅葉「早く!やれ!!」
銀次郎「ううううううおおおおおああああああああああああああ!!!!!」
レッド・サイクロン「BUHHHHHHHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
ドゴォン!!!
商店街は夕焼けの光に包まれていた。
アッコのおかげでレイヴンから身を隠すことのできた九堂はビルに隠れたまま対策を練っていた。
九堂(クソ……マジにやっかいな能力だぜ……。とりあえず今んとこわかっているのは『カメラに写された人間は消える』ってとこだ……。
瞬間移動するのか、写真に閉じ込められちまうのか、……はたまたこの世から『消される』のか。)
九堂「一番最後だけはゴメンだが……。」
レイヴン「クッソ、どこ行きやがった!!」ダダダ
ビルの角の向こうからレイヴンの声が聞こえた。
九堂「おおっと、ヤベエ。飛ばされた方向は見えてたんだった。」ダッ!
九堂はビルの間の路地を走り抜けていった。
しかし、あたりを見回しながら走っていたレイヴンに見つかってしまう。
レイヴン「まちやがれえ!『ロスト・ハイウェイ』、カメラ準備しとけよ!!」
九堂「……チッ!」ダダダ
九堂は路地を走り続けていた。
九堂(しかし、あいつを振り切って行方が分からなくなるのもマズイ。あいつの『カメラ』に写されたら一発で終わりだ。待ち伏せでもされたら……。
とりあえず、つかず離れずの距離をおかねーと……。)
レイヴン「どこまでいくつもりだああ~?九堂!」
九堂(あいつのスタンド……見たところ、おそらくパワーとスピードはそれほどない。だが、あの能力のせいで近づくこともできない。)
レイヴンに追われていた九堂は路地をぬけだした。その先には、杜王町の住人なら誰でも知る大きな建物があった。
九堂(『カメユーマーケット』……ここでヤツを待ち伏せ、奇襲をかけるッ!)
九堂がカメユーマーケットの正面入り口に入ると同時にレイヴンは路地から抜けだした。
レイヴン「チッ……逃げんじゃねえ!!」
老人「逃げてもいいんじゃよ。」
模「え?」
病院の前庭のベンチに模と老人は座っていた。
老人「模くん……これまでの君の話だと、君は巨大な敵に立ち向かう決心をした仲間たちの前で、戦うことから逃げ出したんじゃな。」
模「………はい。」
老人「だがな……それはあたりまえなんじゃ。よく聞きなさい、模くん。
危うきには近寄りたくない、危険に身をおきたくない、それはあたりまえのことなんじゃ。」
模「…………」
老人「わしだって、これまでに何度も『逃げだした』ことはある。吸血鬼に襲われた時、究極生物が誕生した時……。
しかしな、逃げだしたらそこでおわり……というわけじゃないんじゃ。」
模「……おわりじゃない?」
レイヴンがカメユーマーケットの中に入ると、九堂はすでに二階へのエスカレーターを駆け上がっているところだった。
レイヴンも九堂を追ってエスカレーターに向かう。
レイヴン「ッチ、じゃまだてめえら!!」ドンッ!
店内の雑踏の中をレイヴンは走り抜けていった。
2階の婦人服売り場に着いた九堂は、洋服の入れられたワゴンをけり上げた。ワゴンの中の衣服は宙に舞った。
九堂「『アウェーキング・キーパー』!!」
ピタッ!
宙に舞った衣服はアウェーキング・キーパーの能力で空中に『繋』がれた。
レイヴン「チィィ!徹底的に視界を遮るつもりかよ!」
レイヴンが宙に繋がれた衣服をかき分けているうちに九堂は反対側のエスカレーターに向かっていった。
(カメユーマーケットのエスカレーターは『のぼる』『おりる』エスカレーターが同箇所に設置されており、上階に上がるには反対側のエスカレーターにいく必要があった。)
九堂「ガキのころからめんどくせー造りだと思ってたが……距離をかせぐには都合がいいぜ。」
『距離をかせぐ。』確かにその通りなのだが、九堂の行動は矛盾していた。そして、そのことがレイヴンの頭の中でずっとひっかかっていた。
レイヴン(なぜだ……?なぜヤツは上の階に上がっていく……?最上階まで上りつめたら袋小路なのはヤツだってわかってるはずだ……!)
九堂は自らカメユーマーケットに入り、自らエスカレーターを駆け上がっていたが、それらのすべてはレイヴンに有利に働いていた。
さらに、『のぼる』『おりる』エスカレーターが平行に設置されている構造上、もし九堂が最上階で今度は『降り』ようとすれば、
『のぼって』くるレイヴンと向かい合うこととなり、レイヴンにとっては絶好の撮影チャンスとなるのだ。
レイヴン(そんな……そんなバカなことにヤツが気づかないはずがないよな!?何か……何か策を持っているに違いない!)
レイヴン「…………ッ。」ピタッ
あからさまに自分で自分の首を絞める行動をとる九堂の真意をはかり取れないレイヴンは一度、足を止めた。
だが、再び追い出した。
レイヴン(とにかく………今は追うほかねェっ!)
レイヴンは九堂が上って行った3階の紳士服売り場へ向かった。
レイヴンが3階に着いた時、九堂はすでに反対側の『のぼる』エスカレーターに向かっていった。
レイヴン(迷わず向かった!やはり、ただ逃げてるだけじゃねえ!何か策を持ってる………!)
レイヴンが九堂を追おうと反対側のエスカレーターに向かう途中、レイヴンはある物を見つけた。
レイヴン「…………そうか、わかったぜ……!」
九堂は3階、4階と上りつめ、最上階の5階に辿りついた。
カメユーマーケットに屋上は無く、反対側に『のぼる』エスカレーターも取り付けられていなかった。
5階はかつてあったテナントが撤退しており、もぬけのカラだった。
あるのは雑におかれた段ボールが数個、『おりる』エスカレーター、そして……『エレベーター』。
エレベーターの前に立った九堂は、エレベーターのスイッチを押し、エスカレーターのほうを向いた。
レイヴンは九堂を見失ったのか、レイヴンの上がる気配はしてこなかった。
『チン!』
エレベーターが到着し、扉が開く。誰もいないエレベーターの中を見て九堂はニッと笑い、乗り込んだ……。
レイヴン「はあ……はあ……はあ……」
レイヴンは膝に手を当てて、息を切らしていた。
レイヴン(読めたぜ……てめえの策。俺を最上階まで誘っておいて、自身は別の手段で最下階まで降りるんだ。
そうすりゃ、てめえは一階の『どこでも』待ち伏せることができる。俺のスタンドは近距離の戦闘には向かねえ、たしかに奇襲は有効だろうよ……。)
レイヴン「だが……墓穴を掘ったな九堂!『ロスト・ハイウェイ』、カメラ用意しとけ!!」
エスカレーターを上ってきたレイヴンはいま、『エレベーター』の前にいた。……『4階』のエレベーターの扉の前に。
扉の向こうでエレベーターが動いている。5階から『おりてくる』エレベーターが。
『チン!』
エレベーターが4階で止まり、扉が開いた。中には九堂がただ一人乗っていた。
レイヴン「バーカめぇ!『ロスト・ハイウェイ』!!」
ロスト・ハイウェイ「キキィ――――――――――ッ!!」
エレベーターの中にいた九堂は、驚いた様子は微塵もなかった。
九堂「バカはてめえさ、一緒に引きずり込まれな!!」
レイヴン「!!」
レイヴンは、エレベーターの中にある物に気付いた。
エレベーターの壁につけられた大きな『鏡』は、レイヴンとロスト・ハイウェイの姿を写していた。
レイヴン「やめろ、『ロスト・ハイウ――――――」
バシュッ!!
カメラのフラッシュがたかれ、九堂とレイヴンの姿は現実世界から消えた。
異様なほどに静寂な世界の中に、九堂とレイヴンはいた。
レイヴン「バ……バカなッ!!」
レイヴンは自身も写真の世界に不意に『移』された事態に驚き、尻もちをついていた。
九堂「日本のデパートのエレベーターにはよォー、絶対壁に鏡が取り付けられてんだよな。なんでだと思う?」
レイヴン(ヤベェっ、近距離スタンドの射程範囲内……離れなくては!)
九堂「身だしなみを整えるため?車いすの人が入りやすくするため?……違うな。」
レイヴン(攻撃が……くるッ!パワーの弱いロスト・ハイウェイではガードしきれない!!)
九堂「きっとテメーを出し抜くためなんだろうよッ!!『アウェーキング・キーパー』!!!!」
アウェーキング・キーパー「シャァアアアアアアアアアッ!!!」
レイヴン「うあああああああああああっっ!!」
ボゴォン!!
アウェーキング・キーパーの一撃でレイヴンの体はフッ飛ばされ、商品の積まれたワゴンに突っ込んだ。
九堂「ッチ、意識はまだあるか。さぁー、五代と温子……紅葉も解放してもらおうか。」
ダメージはあるものの、レイヴンは立ちあがった。
レイヴン「九堂、なぜ……俺の能力が『消しさる』能力でないと気づいた?」
九堂「……てめェは躊躇しなかったんだよ。スタンドが誤って自分を写すこともあるだろうに、
五代を撮った時、スタンドはショーウインドウからてめェの体ごしに写真を撮った。てめェも写っちまう可能性だってあんのによ。」
レイヴン「……ハッ、……根拠のねえ理由だ……。」
九堂「……俺たちは命がけなんだ。安全な策ばっかり選んでられねェのよ。」
レイヴン「……ふん、だが『残念だったな』。」
スゥ…
九堂「!!」
レイヴンの体が足元から消えていっていた。
レイヴン「気絶させるほどのパンチを喰らわせてりゃあ能力が解除されたかもしれねーのによ……。
ここは『俺の世界』なんだぜ!?出るも入るも俺の自由なのさ!!」
九堂「な……何ィ!?待て、『アウェーキング・キーパー』!!」
レイヴン「あと一歩………だったな。」スゥッ
ブオンッ!
アウェーキング・キーパーのパンチが空を切った。
九堂は、写真の世界に取り残されてしまった。
九堂「んな馬鹿な……ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!!!」
九堂の叫びは、静寂なデパートの中で虚しく響いた。
スタッ!
カメユーマーケット4階のエレベーター前にレイヴンは降り立った。
レイヴン「フハハッ……あーっはっはっはっはっはっは!!!!!!
最後はチョット危なかったが……これで九堂も始末した!!大手柄だぜッ!!!」
カサッ
レイヴンは床に落ちた写真を取り、またポケットから3枚の写真を取り出した。
それぞれの写真には、五代、アッコ、九堂、そして……紅葉と銀次郎が捕らわれていた。
レイヴン「へっへっへ……あとは写真を燻すなり、凍らせるなりして『拷問』してじっくり殺すだけだ……!
九堂……俺を追い詰めたてめェはじっくりいじめてやるぜェ…………と、その前にやることがあったな。」
レイヴンは紅葉と銀次郎のいる写真を持った。
銀次郎「はぁ……はぁ……」
紅葉と銀次郎のいる写真の世界。
息を切らしながら立つ銀次郎の前には……紅葉が地面に倒れていた。
スタッ
銀次郎「!」
銀次郎がふりかえると、写真の世界にレイヴンが降り立っていた。
レイヴン「フフフ……約束どおり紅葉を倒したみたいだな……。」
銀次郎「……ああ、これで、俺は見逃してくれるんだよな?」
レイヴン「約束は守るぜ。てめェをこの世界から出してやる。」
レイヴンは銀次郎の腕を掴んだ。
レイヴン「俺が体に触れていれば、その人間は一緒に出ることができる。」
銀次郎「……悪いな、紅葉。」
レイヴン「じゃ、行くぜ……。」
ズズズズ……
レイヴンの体が空(くう)に消えていく……。
レイヴン(ククク……てめェはこの写真から出た後、すぐに別の写真に写してやるがな……。この写真の世界からは出してやるんだ、ウソはついてねェ……。)
銀次郎「だが……出るのは俺だけじゃねえさ。」
レイヴン「あ゛……?」
レイヴンの体はすでに8割が現実世界に戻っていた。その時……
銀次郎「『レッド・サイクロン』、紅葉の体を掴めェ!!!」
レッド・サイクロン「BUHHHHHOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
ズギュン!!
レッド・サイクロンは紅葉を引き寄せて、銀次郎は紅葉の体を抱きかかえた。
レイヴン「な……銀次郎、てめェなんのつもり……!!」
紅葉「バカだね……銀次郎。だけど、少し見なおしたよ……。」
レイヴン「かっ、解除が間にあわねえ!このままでは―――」
十数分前
ドゴォン!!
銀次郎「はぁ……はぁ……」
レッド・サイクロンの拳は紅葉の目前で方向を変え、地面を殴っていた。
紅葉「………銀次郎?」
レッド・サイクロン「BUHHHHOOOOOOOOOOOO!!!!」
ドゴン!ドゴン!
レッド・サイクロンは地面を殴り続けていた。
銀次郎「畜生……ちくしょおおお!!!!」
銀次郎「紅葉……てめえは、そこまでして戦う覚悟を決めていたってのに、男の俺は……自分が助かることばかり考えて……ッ!」
紅葉「……いいんだよ、人間、怖いものには近づきたくないのが当然さ。」
銀次郎「………」
紅葉「戦いの覚悟を決めたところで……こうなっちゃあ仕方ないんだ。あんただけでも助からなきゃ……」
銀次郎「ふざけんなよ!!」
紅葉「!」
銀次郎「確かに俺はもう戦いたくねえさ、こんなスタンドなんか捨てて、平穏な生活に戻りてえよ!!
でもな……戦う覚悟をした人間の邪魔をして、そんな人間を殺して、俺はこれからどんな顔して生きていきゃあいいんだよ!!」
紅葉「……」
銀次郎「ひとつだけ……策を思いついた。おまえを出す方法がな……。失敗するかもしれねえ、だが、自分だけが助かるよりはマシさ……。」
スタッ!
写真の世界からレイヴン、銀次郎……そして、紅葉が降り立った。
レイヴン「畜生、紅葉に死んだふりさせてただけだってのかよ!!ゆるさねェ!!」
紅葉「許そうがどうしようが銀次郎には関係ない……。銀次郎、手を出さなくていいよ。私がやる。」
レイヴン「銀次郎……てめェも、俺たちに狙われることになるぜ!!」
紅葉「それも、関係ないね……。報告できないように私がボコボコにするからよォーーーー!!!」
レイヴン「!しまった、射程距離内―――」
紅葉「『ブラック・スペード』!!!」
ブラック・スペード「ドララララララララララララララララララ!!!!!」
ドドドドドドドドドドド!!!
レイヴン「ぐはァ――――――ッ!!!!!」
レイヴン「…………ハッ!まだ……生きてる?」
五代「そうか、まだ生きてるな。それでこそ殴りがいがあるってもんだ。」
レイヴン「!!」
レイヴンのまわりには五代、アッコ、九堂が立っていた。
レイヴン「しまった!気絶して能力が解除されて……」
アッコ「コっからが本当ノ制裁だ!『ファイン・カラーデイ』!!」
五代「『ワン・トゥ・ワン』!」
九堂「おかわりだっ、『アウェーキング・キーパー』!!」
レイヴン「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ドゴドガドゴドゴバキグシャドカドゴグシャバゴドゴドガバキバキドガドグォゴガドカドゴバキドゴ!!!!!!
レイヴン「ブッしぇ―――――ッ!!」
九堂「てめえの敗因は、自分の能力に驕ったことだ。」
紅葉「そして……私たちの精神の強さを甘く見たこと……!」
バァ―――――――――――――――――ン!!
杜王町の商店街。日はほとんど沈みかけ、空は深い青と淡いオレンジのコントラストを描いていた。
アッコ「サ、もどロウ、屋敷に。」
九堂「あ、そういや紅葉を探しに出たんだっけか。」
五代「……で、模はどうしたんだ?」
紅葉「…………」
S市総合病院の前庭。日は沈みかけ、空気は冷たくなりはじめていた。
老人「ワシが逃げ出すときはな、いつも……そのあとどうするか考えてたんじゃ。あとを追う敵にどう対処しようか、どんな策があるか……。
ワシは、たまたま生き残ることができたがな。そうやって、『逃げだした』あとに挽回すれば、誰もわしが逃げ出したことなんて忘れてしまうんじゃよ。ホッホッホ……。」
老人「いいか、模くん。君はたしかに仲間たちを裏切ったかもしれない。しかしな、まだ終わっちゃおらんよ。君が望むなら、いくらでも取り戻せる。」
模「…………」
模は唇をキュッとかみしめ、老人の話をじっと聞いていた。
老人「君は……どうしたいんじゃ?」
模は下を向いたまま、ゆっくり話しだす。
模「僕は……戻りたい。僕の波紋を必要としてくれる人がいるのなら……僕はその人たちの力になりたい。」
老人「フム……」
模「でも、今のままじゃまだ戻れない。母さんは波紋のせいで僕が不幸になったと言っていた。でも……違う。
ただ、僕が弱かっただけなんだ。僕は、強くならなきゃいけない。僕の家族も守れるほどに。」
模は立ち上がり、老人のほうを向いた。
模「おじいさん、これは『運命の導き』……なんですよね。……お願いです、僕に波紋を教えてください。もっと、強くなるために!」
老人「ホッホ……」
老人は笑ってゆっくりとベンチから腰を上げた。
老人「ワシがワシ以外の波紋使いと出会うのはもう何十年ぶり……たしかに『運命の導き』以外にないじゃろうな。」
そう言うと老人はポケットから携帯電話を取りだした。
老人「………おお、ホリィか?……ああ、今から帰るからな。……なに、ヤボ用じゃ。面白い子を一人連れて帰るからのォ。おいしい晩御飯作っておいてくれや。
…………ああ、わかった。じゃあの。」
老人「じゃあ行くかの、模くん。」
模「……ハイッ、ありがとうございます!」
東から……杜王町のある海の方角から強い風が吹いた。
風は老人の帽子を吹き飛ばした。
模「あっ、おじいさん!帽子が……」
老人「オオ、すまんが取ってきてくれや。」
模は飛ばされた帽子を追っていき、老人はその後ろ姿をじっと見つめた。
老人(ジョースター家のわしがここまで長生きしたのは……ワシにまだ、後代に伝えるべきことが残っていたからなのかのォ……。)
老人は大きな病棟を見上げた。
老人(仗助……あの街に住む者たちには、たしかに受け継がれているようじゃよ。)
模「取って来ましたよ!……寒くなってきましたから、早く暖かいところに行きましょう!」
老人「おお、そうじゃな……。」
老人(おまえやおまえの仲間たちが宿した、『黄金の精神』が……。)
to be continued...
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