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第五章『道標の世界』その②

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orisuta

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杜王町商店街の南西、オーソンの近くにある公園のベンチに紅葉たちはいた。

屋敷に戻らなかったのは、紅葉たちのスタンドのラッシュを受けて気絶したレイヴンも五代が背負って連れてきていたからだ。

レイヴンを連れてきたのは、敵である『ディザスター』の情報を得るためだが、屋敷に連れて行くわけには行かなかった。

小道の屋敷は杜王町の住民でさえごく少数しか存在を知らない場所であり、これからの紅葉たちの本拠地となるであろう場所なのだ。

そこへ、いくらスタンドを再起不能にしたからといっても敵を連れて行くことは出来なかった。

しかし、紅葉にはレイヴンをたたき起こして情報を得るより先に仲間に伝えたい事があった。




アッコ「バ、バクが襲撃サレた……!?」

紅葉「事実だけを言えば、模の家に誰かが来て、模のお母さんが襲われた。

   ……でも、おそらくは『ディザスター』が模を狙っての事なんだと思う。」

五代「で……模は?」

紅葉「模は無事だったみたいだけど……お母さんを乗せた救急車に一緒に乗ってった。

   ぶどうヶ丘病院の方には行かなかったから、たぶん近くてもS市の総合病院に行ったんじゃないかな……。」



アッコ「そんナ……バク……」

五代「…………」

たじろぐアッコと、顔を背け暗い表情をする五代をよそに九堂が話し出した。

九堂「一緒に乗ってったって事はよォ……模はリタイアしたってことなのか?
 
   まぁ、あんまり戦いには向いてないような性格だし、仕方ねえんじゃねえか。」

紅葉「…………ッ!」キッ

紅葉は九堂の模を卑下する物言いが気に障り、九堂を睨みつけた。

九堂にとっては、模とは数回顔を見合わせただけで直接話をした事も無いので、そう思うのは当然の事だった。

九堂「な……なんだよ……。」

紅葉「違うッ!模は……私達を残して逃げるようなヤツじゃない!!」

紅葉が平手で九堂を殴りかかろうとしたとき、その手を五代が止めた。

五代「…………やめろ。」

紅葉「……ッ!」

紅葉は五代の手を振り払った。


五代「九堂の言うとおりだ。模は……戦いに向いている性格じゃあない。」

紅葉は口を噛み締め、五代を見上げて睨みつけた。握り締めたこぶしがかすかにふるえている。

五代「だが……紅葉、お前の言う事もわかる。あいつは、仲間との絆をもっとも大事にするヤツだ。

   あいつはたぶん、死の恐怖と仲間への信頼とが『ないまぜ』になっているんだろう。」



アッコ「…………バクは…」

五代「あいつが……『強い男』なら、きっと戻ってくるだろう。」

紅葉「…………」


九堂「……ケッ、なんだよおめえら。あいつが恐怖を乗り越えられるんなら、はじめから逃げねえっつーの!」

紅葉「…………」ムカムカ

再び一触即発のムードになったのを察したアッコが2人の間に割って入った。

アッコ「ハイ、このオハナシはオワリー!それヨリ、『ディザスター』の刺客から情報ヲ……」

と、アッコが隣のベンチで横になっていたはずのレイヴンのほうを見ると……

アッコ「!!アイツがいなイ!!」

ベンチの上にレイヴンの姿は無かった。







九堂「な……なにぃ!?逃げやがったのか?」

4人はあたりを見回した。どこにもレイヴンの姿は見られなかった。

殺しはしなかったが、相当のダメージは与えていたので簡単には逃げられないはずだった。



???「その男は私がつれてっちゃいましたあー。」

アッコ「ダレ!?」

4人が声のしたほうを向くと、滑り台のてっぺんに20代くらいの女が座っていた。

体育すわりで、ひざの上にひじを乗せて両手で頬杖をついていた。

C・R「私は『しーあーる』。アルファベットで『C・R』ね。まぁ偽名だけど。

   ご存知『ディザスター』の指令で、レイヴン……あの男の回収に来たワケ。」

紅葉「『ディザスター』……ってことは、あんたも敵なんだろ?」

C・R「あーそうだけど、戦おうとしてもムダだよ?私は今ならすぐに君たちから隠れられるし、そもそも戦う気も無いし。私の任務は回収だけだから!

   そんな任務外の戦いなんて報酬無けりゃやらないって!(人数も多すぎるし!)」

九堂「……なんだかおちゃらけたヤツだなぁ。」

C・R「ってなワケで自己紹介したところで私は帰るから。ま、近々会うことになるだろーからよろしくねー。」

五代「待ちやがれ!あの男をこのまま連れてかれるわけにはいかねえ!」ダッ!

滑り台にむかって五代が走り出したが、同時に滑り台の上の空間がゆがみ、スタンドらしき手がC・Rのほうへ伸びているのが見えた。

C・R「だからムダだってぇー。無駄無駄……。」ガシッ

そういってC・Rがスタンドの手につかまると、そのスタンドはC・Rを引き上げて、異空間の中に隠れてしまった。



五代「………畜生。」

4人はC・Rの消えた空を見上げていた。

アッコ「…………仕方ナイ。戻ろう、屋敷ニ。」







C・R「おい起きろよ、レイヴン。」ゲシゲシ

C・Rは横たわるレイヴンを足で蹴り、起こそうとした。

レイヴン「ング……いてえ、全身を打撲してんだ……って、うわあっ!なんだここ!!……ハッ、誰だてめえ!!」

レイヴンが目を覚ますと、そこは周りを岩壁に囲まれた洞窟だった。そして、傍らには自分の知らぬ女が立っていた。

C・R「あー、まぁ落ち着いてよ。私は『ディザスター』のC・R。あんたの後に日本にきたからあんたが知らないのも当然ね。

   ま、私もあんたのことは顔と名前しか知らないけど。」

レイヴン「……『ディザスター』だって?……ってーことは、味方か。……すまねえ、助けてもらっちまったみたいだな。」

C・R「んー……つーか私は……」

レイヴン「それにしてもなんだここは?こんな洞窟なんて杜王町どころか日本にだってそんなないだろ?」

C・R「ここは私のスタンドが作り出した空間。……まー岩の洞窟にしたのはただの演出だけど。」

レイヴン「演出?……よくわからねーが、出口はどこだ?おれはもう帰るぜ。ヤツらと戦うのなんてもうゴメンだからな。」

C・R「出口は……この洞窟のずーっと先だよ。ま、出る為には私に『勝たなきゃいけない』けど。」

レイヴン「…………は?」

C・R「私は、指令であんたを『回収』しにきたの。……私の任務は、『廃品回収』。」

レイヴン「…………!!」

レイヴンがふと足元を見ると、レイヴンは2メートル四方のワクで囲まれた石畳の上に立っており、そこには「スタート」と書かれていた。

C・R「奴らに負けちゃったアンタを『排除』しろってさ。……でもアンタピンピンしてるし、チャンスをあげるよ。」

レイヴン「おい……まさかこの空間って……」

C・R「わたしと『すごろく』しようよ。……ま、『闇に降り立った天才』『雀聖と呼ばれた女』の私の賽テクに敵うとは思えないけど。」

レイヴン「…………ッッ!!」

レイヴンは戦慄した。『すごろく』といった時、C・Rの目の色が変わったのをレイヴンはしかとみていた。見てしまった。

C・R「さあ私の『エキストラ』、ゲームをはじめましょう。」

そして悟った。この女に決して勝つ事は出来ないだろうと……。






【スタンド名】
エキストラ
【本体】
C・R(中国語の⑫シーアールから)

【タイプ】
遠隔操作型/中立

【特徴】
双六のボードのように、円(マス)と線(道)が全身に描かれた人型。

【能力】
本体と本体が指定した数人を、別空間の「ボード」上に閉じ込める。
「ボード」上では自分自身をコマとした双六を行い、最後まであがれなかった者は本物のコマとなって本体のコレクションにされてしまう。
コマにされた者は、本体が負けるか再起不能になる日が来るまで永遠にそのままである。
双六において、マスに書いてあることが実際にそのプレイヤーの身に起こる。例えば「骨折したので一回休み」だったら、このスタンド(無敵)が実際に骨を折りに来る。
しかしそれらイベントによって死ぬことはなく、自分のターンがくると元の状態に戻っている。
なお、勝負に使うサイコロはごく普通のものを使用するため、イカサマを仕込もうと思えばいくらでも可能。

破壊力-なし
スピード-なし
射程距離-なし

持続力-A
精密動作性-なし
成長性-なし






オーソンとドラッグのキサラの間にある幻の道……『鈴美さんのいた小道』は、街灯の電気が点かないため夜は真っ暗だった。

しかし……人気のないその道の一角にある屋敷には、明かりが灯っていた。

その屋敷のロビーに、紅葉、五代、アッコ、九堂、零の5人が会していた。



零「……そうですか、模くんが……。」

模の身のまわりで起きた事を紅葉が知る限りで零に伝えると、零は目を瞑りうつむいた。

紅葉「その……零さんは街中のネットワークにハッキングできるんですよね?模がどこへ行ったか……突きとめることはできないんですか?」

零「……不可能ね。私が網羅しているのはこの杜王町の中くらい。それに……」

五代「今やるべきことは模の行方を探ることじゃない。そうだろう?」

紅葉「…………ッ。」

零「そうね、五代くん。紅葉ちゃん……気持ちはわかるけど、こらえて頂戴。」

五代「……まずは、教えてくれ。敵の事を。……俺達は今日すでに2人のディザスターの人間に出会ったんだ。」

九堂「そうだ、まずは敵のことを知んねーと。……衛藤にしても、今日のヤツにしても、なかなか強いヤツらだったぜ。いったいどんな組織なんだよ?」

零「…………」ギシッ

零は無言のままソファから立ち上がった。


零「……『ディザスター』は、全世界の裏社会に広く深く根を張る巨大な犯罪組織よ。……中東や南米の半分の国はすでにディザスターの手に落ちている。

  『無法』『無政府』『無秩序』の世界の形成を目指していて、そしてその構成員はほとんどが表の社会からつま弾きされた者たち……。

  彼らの個々の怨念は強く大きなひとつの塊となり、組織の原動力となっている。」

紅葉「『無秩序』……?」

零「『ディザスター』の指導者の名前は『ディエゴ・ディエス』。彼もまた社会から淘汰された人間よ。

  ……もっとも、彼の顔を知るものはディザスターの中でもごく少数なんだけれど。

  しかし、玉座に構えるのではなく、侵略の際には自ら指揮をとり、戦いを導いている。そのカリスマ性が組織の結束力も強めている……。」



九堂「戦いを指揮しておきながら顔を知るものがいないって……?」

零「……ディエスと戦ったものは一人残らず『死』んでいるから。指示は幹部を通して行っているんでしょう。

  五代くん……あなたを襲ったという『弓と矢の男』も、幹部の1人にすぎないでしょう。」

五代「…………」

九堂「なんつーか……とんでもなくデッカイ組織だってわかったけどよー……

   零サン、あんた詳しすぎねーか?話を聞いてるとよ、『ディザスター』のことそんなに知ってる人間ってのも

   簡単に生かしておいてるようには思えねーんだけど。あんたこそ、何者?」

アッコ「クドウ……!」

零「いいの、温子。……これも話さなきゃいけないことだから。」

そう言って零は4人に背を向けて、上着をまくった。

零の背中を見た紅葉、五代、九堂は驚き、目を見開いた。

零の背中には、背中の1/4を覆うほどの、大きな刺青が彫られていた。

逆三角形のなかに、これも逆の星型が描かれている。

零「これは……ディザスターの紋章。……構成員は皆、証としてこの刺青を彫られている。」

五代「じゃあ、テメーは………」







零「私は、以前ディザスターに在籍していた。かつて私は『無政府』『無秩序』の世界に憧れ、そこに身をおいていた。

  ……しかし、あるとき私はディエスの邪悪に触れ、そんなものはまがい物だと悟った。

  そして私はディザスターから離れ、この杜王町に身を隠して暮らすようになった。」

紅葉「今は、ディザスターとは関係のない人間だと言いたいの?」

零「……疑うのは当然の事です。しかし、私は今はただ、この町を守りたいだけなんです。組織から離れた私を、優しく包み込んでくれたこの町を。」

紅葉「……今ディザスターにこの国の、この町が狙われているのは、アンタがいるからなんじゃないの?」

零「それは違います。……組織にとっては、私は『死んだ事になっている』からです。

  私は組織から抜けてすぐ、組織の刺客によって粛清されました。」

九堂「何言ってんだよ!?じゃあ今ここにいるお前は、名前のとおりユーレイだっていうのか?」

五代「いいや……『スタンド能力』なんだろう。考えられるのは。」

九堂「スタンド……能力?」

零「その通りです。…………私は、組織の人間にも隠していた自身の能力で『死んだ事になった』のです。」

紅葉「……その能力って?」

紅葉がそういうと、零はアッコのほうに視線をうつした。

この後の展開を察していたアッコは、小さく首を振りながら震えていた。

アッコ「だめダよ……イヤだよ……」ブルブル

零「……私の能力を見せれば、信じていただけますか?」

紅葉「それはわからないけど、今のままでは到底信じられない。

   もしかしたらアンタは、まだディザスターの一員で、私達をダマしているのかもしれない。」


零「とりあえず、私の能力は見ていただきましょう。…………温子。」

アッコ「……イヤッ!!」

アッコは零の呼びかけに強く抗った。アッコは、これから零が何をするつもりなのか、自分に何をさせるつもりなのかを言葉にされなくても悟っていた。

零「お願いよ温子。……『自分では出来ないのだから』。あなたがやるしかないの。分かってるでしょ?」

アッコ「ウウ…………」

零「温子……!!」

アッコ「ああアアアああアあ!!『ファイン・カラーデイ』!!」

アッコはスタンドの剣を発現させ、零のほうへ向っていった。

紅葉「温子、何をするつもり……!」

アッコは零の前に立ち、剣を振りかぶった。零は表情もかえず、じっと待っていた。

五代「オイ、やめ……!」

ズバシュッ!!!

アッコは『ファイン・カラーデイ』で零を斬りつけた。剣先だけでなく、肩から、腹部にかけて大きな創をつくった。

ブシュウウウウウウウウ!!!!

九堂「うわああああああああああっ!!」

零の体の創から真っ赤な血が噴出し、カーペットを朱に染めていく。

零はひざから崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。

アッコ「ウウッ……ウウ………」

アッコは、この後何が起こるか知ってはいたが、恐怖と罪悪感でえずいていた。


紅葉「……ッ、なんてこと……!死んだの……?」

朱の海に横たわる零の傍らに、スタンドらしきビジョンが現れた。

血のように真っ赤な鎧を纏った、サソリのようなスタンド。



零のスタンド能力は、『殺される事で発動する能力』だった。

スタンドが発現すると、カーペットを汚した零の血は霧のように舞い上がり、零の身体に吸い込まれていった。

アッコが浴びた返り血も体からはがれ、零のまわりに散った血はすべて零の身体に吸収された。

零「……『アンティーク・レッド』。」

九堂「うわぁあああっ!!」

アッコの剣に斬られて死んだはずの零は、むくっと起き上がり、その場に立ち上がった。

不思議な事に、アッコが斬りつけた創は消えていた。

零「これが私のスタンド能力。簡単に言えば『殺されても死なない』能力。私はこの能力でディザスターにおいては死んだ事になった。」

五代「……ッ。たしかに……これなら可能かもしれない……。」

九堂「うわわわ……痛くねえのかよ……。」

零「ううん、痛い。とっても痛い……。でも、傷の痛さよりももっと怖い事が、この町で起ころうとしている。」







紅葉「『ディザスター』の侵略……。」

零「私は、ディザスターを壊滅させようなんて大それたことをするつもりはない。ただ、この杜王町を守りたいだけ。

  私はこの呪われた能力のせいで死ぬ事は出来ない。……でも、それだけじゃこの町は守れない。」

紅葉は零の目を見て気がついた。……彼女の目は、かつてどこかで見たことのある、強い目をしていた。

彼女はこの町を守りたい……それは本心からの事だ。

零「この町を守る為には、あなたたちの力が必要です。どうか、ともに戦ってください。」

零はアッコのほうを見た。アッコはまだ震えていた。

零「温子も、よろしくね。……あなたの大切な人を守る為にも……。」

アッコ「…………ウン。」



九堂「…………ケッ。」

九堂が、4人から背を向け、壁に向って立ち尽くした。

九堂「……どうせこの外に出たらいつ襲われるかわかんねーんだ。

   戦う事は怖くないが……戦うならまとまってたほうがいーだろうよ。」

紅葉「そーね。私は零さんを信じる事にするけど、まあ他にいい策もないしね。」

五代「俺は『弓と矢の男』を倒したいだけだ。……利害は一致するんだろ。ここにいてやるよ。」

3人の言葉を聞いて、零は安堵した表情に変わった。

零「この屋敷なら、ディザスターの人間に見つかる事はまずありません。

  まずは数日間ここで待機して、ネットワークから得られる情報を集められるだけ集めてみましょう。」

アッコ「…………ミンナのおヘヤも用意してアルからね!ボロいケド、ゴーカだヨ!」

アッコも元の元気を取り戻した。

しかし、アッコの胸中には、ここに欠けている人のことが、ひっかかっていた。

そしてそれは、紅葉や五代も同様だった。

個室は、ひとつだけ空いていた。







同刻、オーソンの近くの公園。

その中央で、ディザスターの刺客のレイヴンを連れ去ったC・Rが立っていた。

C・R「ぜーんぜん張り合い無かったナァ。まあ期待してなかったけど。とりあえずお仕事終了っ!」

ポーン

C・Rは手に持っていた小さな陶器の人形を空に投げた。



C・R「ここで会った4人……誰かヒリつくような勝負が出来るヤツがいればいいなあ。」

そう言ってC・Rは公園を立ち去った。


公園のアスファルトの地面の上で陶器の人形は粉々に割れていた。

その人形は帽子をかぶり、首からカメラを提げていた。






【スタンド名】
アンティーク・レッド
【本体】
桐生零(キリウ レイ)

【タイプ】
近距離型

【特徴】
赤い鎧を纏ったサソリのような人型。

【能力】
殺されることで発動。本体を殺したものに『殺されない』状態に成長して蘇生する能力。
銃弾で撃ち抜かれれば、銃撃されても死ななくなり、ビルから転落すれば、転落した高度以下の場所から落ちても死ななくなり、
病気で死ねば、その病原菌やウイルスには一生侵されない身体になる。
当然スタンドの場合も同様で、本体を一度殺したスタンドの攻撃も能力も一切通用しなくなる。
『自殺』や『老衰』は適応されない。

破壊力-A
スピード-D
射程距離-E

持続力-A
精密動作性-D
成長性-E






4人が屋敷に集まってから、3日が経った。

零を含めた5人は、その間ずっと小道から外へは出なかった。

3日前、4人はディザスターの刺客(C・R)に捕捉されており、あせって戦いに出れば、現状では不利な立場に立たされる場合が予想されるからだ。

実際、レイヴンとの戦いでは銀次郎の造反が無ければ負けていたのだ。



5人は屋敷にかくまって、情報を得ることと対策を練ることに集中していた。

といっても、ネットワークのハッキングができるのは零だけで、敵の素性もよく知らぬ4人は、対策の練りようが無かった。

しかし、彼らには時間が必要なのもたしかだった。


紅葉、五代、九堂の3人は談話室のソファに座っていた。

紅葉「……やっと、休息って感じね。私はナナとの戦いの傷もまだ癒えてないってのに……。」

五代「俺だって誰かとケンカしたときの疲れが残ってんだよ……」ジロリ

九堂「…………イヤ、あんときダメージ大きかったのは俺のほうだろ」

紅葉「『常に誰かに狙われている』ってときの緊張がどれだけストレスになったか……いまになるとよく分かるなぁ……。」

五代「気は抜くんじゃねえぞ。状況は好転しているわけじゃない。」

紅葉「わかってるわよ。」

九堂「…………」

紅葉「それにしても……」

紅葉は窓の方に首を向け、ひとことつぶやいた。

紅葉「…………帰ってこないなあ。」

紅葉が見た窓の外は青空が広がり、小さな雲が数個、泳いでいた。







某所。日本庭園の庭のある古い家。

家屋の縁側には老人が座っており、庭の方を見つめている。

庭には大きな池があり、その真ん中に浮かぶ岩の前に立つ少年がいた。

模「……フゥー……」

グオンッ!

模の背中から『セクター9』が発現した。

模「ハァッ!!!」

模が拳を振り下ろすと同時にセクター9の腕も振り下ろされ、セクター9の拳は岩の上にいたカエルをとらえた。

メメタァ!

ドグァァアアン!!!

セクター9の『波紋の世界』による波紋の一撃はカエルに傷一つ作らずに岩のみを破壊した。

カエル「ケロロッ」ピヨーン

模「はぁ……はぁ……はぁ……」

老人「フーム……」

老人が縁側から腰を上げて模に近づく。

老人「…………『ダメ』じゃのお、やっぱり。」

模「…………」

老人「模くん……君の波紋はワシの持つ波紋と違うのはわかるじゃろ?個人の微妙な違いというより、根本的な違いじゃ。」

模「…………はい。」

老人「これをどうにかしない限り、これ以上の発展は望めんよ。」

模「……どうすればいいでしょうか。僕は……強くならなきゃいけないんです。」

老人「フーム…………」

老人は手であごひげをいじりながら思考をめぐらす。

いや、老人のなかではすでに方法は浮かんでいるのだが、それを提案するかどうか考えていた。

模「……どんなことでも、やる覚悟はあります。」

老人「…………」

模「僕は、もう逃げないって決めたんですから……!」

老人「……あるといえば、ある。」

模「!!」

老人「だが……もしかしたら君は二度と波紋を使えなくなるかもしれん。……いや、使えなくなる確率のほうが高いかな。」

模「使えなくなる……?」

老人「だが、今のままでは頭打ちじゃ。ワシの思いつく限りではこの方法しかない。……それでもやるか?」

模「…………」

老人「ま、ダメならダメで君のスタンド能力を発展させるほうでも強くなれるじゃろ……」

模「いいえ、ダメなんです。……僕が弱かったのは、波紋が弱かったからなんです。」

老人「…………」

模「家族を守れるほど強くなかったから、かえって家族を傷つけてしまったんです。僕は、波紋を鍛えなくちゃならない。」


模「それに……僕にとって、波紋はひいじいちゃんの形見でもあるんです!」

老人「ひいじいちゃん……ノォ。」

模「やります!使えなくなるかもしれない、じゃないんです!もっと強くなりたいんです!」

老人「…………そうか。」


模「…………」

老人「……なら、行くぞ。」

模「え?」

老人「この方法をするには、まずワシの知人に会う必要がある。出かけるぞ。」

模「…………」







屋敷に紅葉たちが集まってから1週間後。

杜王町は、いつもと変わらぬのどかで平和な雰囲気に包まれていた。

端からみればこの街に世界的な犯罪集団が紛れ込んでいるとは到底考えられないだろう。

屋敷の窓から外の様子を見て紅葉はそう思った。

屋敷から遠くのオーソンの前の道には通行人がちらほらといる。

向こうからは屋敷の存在はわからないが、敵の脅威から身を隠している自分達をよそに

悠々と外を歩く人たちが少しうらやましく思えた。

アッコ「みんナー」

談話室のドアを開いてアッコが入ってきた。

九堂「どうした?」

九堂と五代はテーブルに向かい合い将棋を指していた。

アッコ「レイさんガ話がアルって。」



アッコは談話室にいた3人を連れて、零のいる部屋に入った。

紅葉「うわっ、すご……」

その部屋はその古い洋風の屋敷の雰囲気とは真逆だった。

壁一面にモニターが設置されており、杜王町の各所が映し出されている。

五代「スタジオみてーだな。」

九堂「これ全部警察のネットワークにハッキングして繋いだ映像か……これはこれで正義に反しねえかな……。」

零「えーと……いいかしら?」

紅葉「あ、ごめんなさい。……話っていうのは?」

九堂「敵の居場所をつきとめたのか?」

零「いいえ……それも大事な事なんだけど、今は違うの。」

零はモニターのほうを向き、そのうちの一つを指差す。

零「これ……オーソンの前の道にあるカメラの映像なんだけど、ここ数日前までこの町の住人でない人間がここをよく通ってたの。」

五代「何?」

零「おそらくは『ディザスター』の構成員ね。一般人に扮していたけど……徹底しているわ。スタンドも一度も出さなかった。」

九堂「つまり……どういうことさ?」

零「あなたたちが1週間前にC・R……と言ったわね。ディザスターの刺客に捕捉された時、あなたたちはこの近くの公園にいたから、

  この近所が拠点であると考えたんでしょう。だから、数日間この近辺を張ってた。」

九堂「おいおい……もうバレてんじゃねーかよ!」

九堂がそういうと零はニコッと笑って九堂のほうを向いた。

零「安心して、『数日前まで張っていた』と言ったでしょう?この小道は簡単には見つけられない。あなた達も外には出なかったから
 
  ディザスターもここを張るのをやめたんでしょう。」

九堂「あー……なんだ、そういうことか。」

紅葉「……そのことがなにか?」

零「……あなた達を呼んだのは、ディザスターと戦う前にやって欲しい事があるから。」

五代「……それは?」

零は体を4人のほうに向きなおした。表情はやわらかだが、真剣な目だった。

そしてその後発せられた言葉は4人にとって全く予想外のものだった。



零「一度……家へ帰って欲しいの。そして、家族と会ってきて。」

紅葉「…………!!」



零「あなた達は私とともに戦ってくれると言った。でも、命を危険にさらす事だってある。

  その前にあなた達の家族の顔を見てきて欲しいの。そしてそれは、あなた達が守るべき人たちでもあるのだから。

  もちろん、これから戦うなんて事は言わなくていい。ただ、会ってきて。」

九堂「…………」

アッコ「行ってキテよ、ミンナ。『ディザスター』の警戒が解かレタ今しか無イからさ。」

零「温子、あなたも行ってくるんです。」

アッコ「………エエ!?」

零「あなたはこれまで私に一番よく協力してくれた。感謝してるわ……でも、あなたの家族には、隠したままなんでしょう?」

アッコ「デモ……」

零「いってきなさい。」

零は語尾を強めてアッコにそう言った。





小道の屋敷の前に4人は立っていた。

九堂「…………思ってもみなかったなあ、こんなこと。」

紅葉「あんな真剣な目していわれちゃ断れないわよ。」

アッコ「…………」

五代「…………行くんなら行くぞ。警戒がとかれたとはいえ、外へ出るんだ。4人でまとまっていった方がいいだろう。」

4人は小道を出口に向って歩いていった。







<定禅寺二丁目 紅葉の家>

家の門の前で五代とアッコ、九堂は紅葉が出てくるのを待っていた。

民家の門前で人が立ち往生しているのはいささか目立つのだが、敵のことを考えたら仕方なかった。

五代「………長いな。」

九堂「仕方ねえだろ、アイツだって一応女子だぜ?」


アッコ「ソウイウ問題カナー。」

バタン!!






九堂「!!」ビクッ

紅葉が家から出てきて、ドアを強く閉めた。

紅葉「…………おまたせ」ヒリヒリ

五代「……大丈夫か?」


紅葉「なにが。」



紅葉の頬には平手で殴られた跡が赤くくっきりと残っていた。

九堂「ギャッハッハ!!紅葉がモミジつくって出てきたぜ!!」

紅葉「…………しばらく帰らなかったからってだけで殴る事無いのに……。」

九堂「殴られて、説教されたのか?」

紅葉「そーだよ。」

九堂「ギャッハッハッハ!!!!」

アッコ「クレハ……目赤くナイ?」

紅葉「なっ、泣いてなんかないし!!」

九堂「ギャァーッハッハッハッハ!!!!!」



ドゴン!!

九堂「……………」







<定禅寺二丁目 九堂の家>

ガチャ

アッコ「アレ、クドウ早かったネ。」

九堂「あー、まあ俺はしょっちゅう外泊とかしてるからな。

   今更さびしいとかそういうのはねーよ。」

アッコ「アッサリしてるネ、いいの?」

九堂「……まー、死ぬつもりなんかねえからな。改めて話す事もねえよ。」







<武田モータース>

スペア2「リクー、モウ疲レタヨォー。」

陸「うるせえッ!シャキシャキ手動かしやがれっ!!」

武田陸とスペア・リプレイ達は作業場で車の整備をしていた。

スペア3「勘弁シテクレヨォー、ソモソモコレハスペア4ノ仕事ダロォー?」

陸「仕方ねえだろ、アイツがあんな調子なんだからよ!!」

スペア1「アアー、アッコォー、早ク帰ッテ来テヨォー」

陸「ったく……山篭りとか言っていなくなったことはあったけど1週間も帰ってこないなんて無かったぞ!?

  警察には捜索願いか遺失物届けかどっちだせばいいかわかんねーし……。」

作業場の片隅にあるテーブルの上で、いつもはアッコのメンテナンスをしていたスペア4がふて寝していた。

スペア4「俺ノ嫁……帰ッテコナイ……。」

スペア5「うええーーーヤル気出シテヨォー!!……アレ?」

スペア5がふと作業場の外を見ると、制服をきた女の子がそこに立っていた。

アッコ「……タ、タダイマ……。」

スペア5「アアー、アッコダァー!!」


スペア4「何ィ、アッ……アッコォォー!!」

スペア4は飛び起きてアッコのほうへ向った。しかし、それより先に陸がアッコのもとへ向っていった。

陸「バカヤロー!どこ行ってたんだよ今まで!!」

アッコ「……ゴメンナサイ、リク姉ちゃん……」

陸「心配……してたんだぞ!!」ギュッ

陸は涙声になりながら話し、アッコを抱き寄せる。

アッコ「……ウン、ごめんなざい……。」

陸「これからどっか行く時はかならず言えよ?な!?」



アッコ「ワカった……じゃあ……」

アッコは陸の腕から離れた。

スペア1「エエー、モウ行ッチャウノォー!!」

アッコ「……ゴメンね、スペア・リプレイ。」

そういってアッコは陸たちに背を向けた。そのまま歩み始めようとしたが、



陸「アッコ、お前何か隠してる事はないのか!?」


アッコ「…………!」

アッコは零に協力している事を陸に話していなかった。そして、『ディザスター』という脅威がいることと、

それに立ち向かおうとしている事も。


アッコ「…………」フルフル

アッコは背を向けたまま黙って首を横にふった。

陸「何かあったら言うんだぞ!!おれはおまえの家族なんだからな!!」

アッコは振り向かず走り去っていった。




陸「ったく…………」

スペア4「ヨク言ウゼ、リク。」

スペア4が陸の肩の上に乗っていた。

スペア4「オ前ダッテ、アッコニ隠シテル事アルクセニヨ。」

陸「…………」

スペア4「アッコハ、家族ナンダロウ?」

陸「……言えねえよ。言ってしまったら、おれとアッコは家族じゃなくなっちまう。」

スペア4「…………ダロウナア。」







<定禅寺四丁目 五代の家>

紅葉「……このアパート?」

五代「ああ、俺は身寄りがいねえからな。ここで……四宮と暮らしてた。」

紅葉「…………」

五代「ま、今は俺1人だから顔みるも何も無いがな。仏壇に手を合わせてくるだけだ。」

紅葉「…………私も行っていい?」

五代「は?」

紅葉「四宮だって生きていれば私達の味方なんでしょ?……一緒に手を合わせてもいいじゃない。」

九堂「あ、じゃあ俺もいいか?」

五代「何でだよ……。見張りが温子ひとりになっちまうぜ」

アッコ「ベツに大丈夫だヨ、周囲に異変がアレば、レイさんがスグに無線デ知らセテくれるシ。」

九堂「じゃ、決まりだな。」

五代「……なんで俺んちにかぎって……。」



ガチャ

五代「……別におもしろいもんなんかねーぞ。」

紅葉「キレイにしてんのね。」

???「あ、おかえりー。」

五代「!!??」

居間の方から女性の声がした。

五代だけでなく紅葉と九堂も驚く。

紅葉「ナッ、だっ、誰!?」

九堂「マジかよ五代、部屋に女住まわせてるなんてよ!!」

五代「ち、違う!!」

???「フフ……私だよ、わ・た・し!」

居間から女が姿を現した。

紅葉「し、C・R!?」

C・R「あ、名前覚えててくれたんだ。うれしー。」

五代「なんでテメエがここにいるんだ……?」

C・R「だーってえ、1週間前に会ってから君達どっかに隠れちゃったでしょ?

   仕方ないから張り込みしてたのに全然かからないからさあ、もう思い切って君んちで待ち伏せしてたワケ。」

五代「『ワン・トゥ・ワン』!!」

五代は問答無用でC・Rに対し攻撃を繰り出した。



五代「!?」

……そのつもりだったが、『ワン・トゥ・ワン』は現れなかった。

C・R「さすがは五代ね。常に合理的な行動をする。……でも、ザンネン。あなた達はすでに『エキストラ』の影響下にある。」

紅葉「………何?」

C・Rがそういうと、周囲の景色がぐにゃりと変わっていった。

九堂「な……なんだこれ!これもスタンド能力だっていうのかよ!!」

しばらくすると変化は止まり、紅葉たちは欧風の宮殿らしき建物の中にいた。

足元を見ると、カーペットの上に金糸で編みこまれた2メートル四方のマスに囲われており、

「スタート」とかかれていた。

紅葉「………なによこれ。」

C・R「私のスタンド『エキストラ』は、私を含めた参加者達で『すごろく』ゲームをする能力。

   この世界ではスタンドのみならずいかなるものでも他人に暴力をふるうことはできない。

   運命はすべて……『サイコロ』が握っている。」

五代「『すごろく』だぁ……?」

C・R「私が今回『ディザスター』から受けた指令は、『君達を始末する』事。

   さあ、わたしの『エキストラ』、ゲームを始めましょう。

   ただしこのゲームはたった一人だけが生き残れる……闇のゲーム!!」

紅葉たちが周囲を見渡しても出口らしきものは見られなかった。

唯一ある果てなくつづく廊下には、足元と同じようなマスがいくつも伸びていた……。







紅葉「ふざけてんの?」

紅葉の言葉にC・Rは反応も示さず話し続けた。

C・R「エキストラの影響下にある君達が解放されるには、私との『すごろく勝負』に勝たなくてはならない。それ以外には無いわ。」

九堂「俺たち誰か一人でも先に『ゴール』すればいいわけか?」

C・R「YES、そのとおり。」

九堂「じゃー、3対1でこっちが有利なわけだな。なんとかなるんじゃねえの?」

五代(……そう簡単にいくとは思えねえが。)

C・R「まず、ルール説明をするわね。ま、いたってベーシックなものだから改めていう必要も無いと思うけど。

   1コのサイコロを振って出た目だけ進んで、36マス先にあるゴールに一番早く到着したプレイヤーの勝ち。

   当然、ゴールにはぴったりつかなきゃダメよ。

   ゴールまでの道のりには無地マスのほかにも『○マスすすむ/もどる』マスや『一回休み』マスなんかもあるわ。そして……」

C・Rは廊下の奥のほうに視線を移した。進行方向の5マス目には「?」と描かれたマスがあった。

C・R「もう一つ、あの『?』マスもあるわ。『?』マスは、何が起こるか私にもわからない。」

紅葉「『私にもわからない』……?」

C・R「あーそうそう、言い忘れたけど私のスタンド『エキストラ』は、私の意志で『すごろくの世界』に引きずり込む事は出来るけど、

   ゲーム中は『ゲームマスター』として、完全なる中立のスタンドになる。」



紅葉「ふうん……つまり、この世界においてはあんたも私達と同じプレイヤーのひとりに過ぎないってこと?」

C・R「YES、そういうことだね。それとさっきも言ったけどゲーム中の禁則事項は……」

紅葉「それなら、もうしゃべらなくてもいいよッ!」ヒュン!!

紅葉はC・Rに向って殴りかかった。


ガシッ!

紅葉「!!」

しかし紅葉の拳は何者かに掴まれて止められてしまった。

???「『他プレイヤーヘノ暴力行為』……『禁則事項』ニ該当……。」ギリギリ

紅葉「何コイツ………痛い、痛いッ!」

C・R「まだ賽は投げられてない。大目に見てあげて。」

???「ダメダ、『ルール』ハ絶対ダ。」

C・R「……仕方ないわねぇ。」

C・Rはポケットから何かを取り出し紅葉の前に差し出した。

五代「……!」

九堂「け……『拳銃』ッ!?」

C・Rは紅葉の額に狙いを定めて引き金を引いた。

バァン!!!

九堂「紅葉ッ!!!」







紅葉「…………!」

撃たれた銃弾は紅葉の眼前でスタンドらしき者が指で挟み、止めていた。

紅葉「な………こいつ…!」

C・R「これで、おあいこでしょ?『エキストラ』。」

???「…………」

『エキストラ』と呼ばれたスタンドは紅葉の手を放し、挟んでいた銃弾を床に落とした。

紅葉「こいつ……ッッ、スタンドなの?」

C・R「そう、この子が私のスタンド『エキストラ』。すごろくの『ゲームマスター』よ。」

紅葉(手首がちぎれるかと思った……なんて力……!)

C・R「せっかちねえ、紅葉ちゃん。『すごろく』中は、『他プレイヤーへの暴力行為』『試合放棄』『ゲーム進行の妨害』は

   『禁則事項』として『ゲームマスター』により敗北とみなされる。人形になりたくなかったらおとなしくしなさいな。」

紅葉「…………チッ。」

五代(相当なパワーと、銃弾をつかめるほどのスピード……ルールに逆らったところでこのスタンドに生身で抵抗はできない……か。)

五代「やるしかねえようだな……『すごろく』。」

C・R「OK.じゃあ、はじめましょうか。」







中世の宮殿のような壁に囲まれた細長い空間の一端、カーペットに金糸で編みこまれた2m四方のマスに

紅葉、五代、九堂そしてC・Rが向かい合って立っていた。

プレイヤー達の目指す先は長い廊下の一番端。

スタートからゴールまでの道のりは36マス。

サイコロに運命を委ねられたレースが始まった。

C・R「まずは順番を決めなくちゃね。サイコロの目が大きいプレイヤーからということでいいわね?」

すると、C・Rの前に『エキストラ』が現れた。エキストラは両手でクロスのかけられたプレートをもち、

そのプレートの上には6面サイコロが1個置かれていた。

C・Rはサイコロを手に取り無造作に転がした。

C・R「3か。一番最初とはいかないみたいね。さぁ五代、振りなさい。」

五代「…………」

五代はプレートにおかれたサイコロを手に取った。

五代(サイコロは長さ約3cm……思ってたより大きいな。プラスチック製だが、それなりに重みはある……。)

コロコロ……

五代「6だ。」

続いて九堂と紅葉もサイコロを振った。

九堂「1かよっ!」

紅葉「4ね。」

エキストラ「ソレデハ、『五代』→『紅葉』→『C・R』→『九堂』ノ順番二決定ッ!ゲームヲスタートスルッ!!」


【五代:1投目】

 
五代は進行方向に伸びるマスを見渡した。

五代(進行方向の6マス先まではライトに照らされて何のマスかはわかるが……その先は全く見えないな。

   6マスから先はあえてみせていないってことか……。)


【進行方向のマスの内容】
(左の数字はスタートを0、ゴールを36としたマスの番号に該当している。無記入は無地マス)


00 【紅葉】【C・R】【九堂】
01                
02  
03 一回休み
04  
05 ?マス
06  


エキストラ「サイコロハ『プレート』ノ上デ転ガシテクダサイ。モシ『プレート』カラサイコロガ落チテシマッタ場合、

      強制的ニ『一回休ミ』トナリ、マタ意図的ニプレート外ニ投ゲタ場合ハ『試合放棄』トシテ失格トナリマス。

      マタ、ゲームノ進行ヲ遅延サセルコトモ……」

コロコロ……

五代「ようは紳士的にプレーすればいいんだろ。サイコロの目は……『4』だ。」

エキストラ「GOOD!」

【紅葉:1投目】


紅葉「い……『1』ッ!?」


【C・R:1投目】


C・R「フフフ……出目は『6』ね。紅葉を大きく引き離したわ!」


【九堂:1投目】


九堂「生憎だが、俺も『6』だ!順番は最後だが、こりゃケガの功名ってヤツか?」
 
 


【五代:2投目】


04 【五代】
05 ?マス
06 【C・R】【九堂】
07 3マスもどる
08                
09 6マスすすむ
10  


五代「…………」

エキストラ「サア五代、アナタノ手番デス。」

五代(おかしい……あまりにも『普通』すぎる。ほんとうにただの『すごろく』勝負なのか?)

コロコロ……

五代「!」

エキストラ「サイコロハ、『3!』ダガ進行先ノマスノ指示ニヨリ、五代ハ『3マスモドル』!!」

五代「足踏みか……。」


【紅葉:2投目】


01 【紅葉】
02                
03 一回休み
04 【五代】
05 ?マス
06 【C・R】【九堂】
07 3マスもどる


紅葉「ああもう……さっきのことといい、サイコロの目といい、イライラする……。」

コロコロ……

紅葉「『6』!よしッ!!」

C・R「何が『よしッ』よ紅葉ちゃん……マスをよく見なさいよ。」

エキストラ「サイコロハ、『6!』ダガ進行先ノマスノ指示ニヨリ、紅葉ハ『3マスモドル』!!」

紅葉「くぅ~~~~~~~~~~~~ッッ!!!」イライラ


【C・R:2投目】


06 【C・R】【九堂】
07 3マスもどる
08                
09 6マスすすむ
10  
11  
12 ?マス


C・R「…………」

C・Rは手のひらにのせたサイコロをプレートの上に転がした。

C・R「サイコロの目は『3』!」

九堂「えっ、『3』!?」

エキストラ「進行先ノマスノ指示ニヨリ、C・Rハ『6マスススム』!」

C・R「うふふ……たった二回しか投げてないのにもうこんなに進んじゃった。もう九堂の姿も見えなくなっちゃったねえ……。」

五代「…………」


【九堂:2投目】


九堂「せめて俺だけでもなんとか追いつかねーと……むむむむ。」

九堂はサイコロを手のひらに握り締めて念を送った。

九堂「らあっ!」コロコロ……

九堂「……に、『2』かよ……。」






【五代:3投目】


04 【五代】【紅葉】
05 ?マス
06                
07 3マスもどる
08 【九堂】
09 6マスすすむ
10  


五代の手番になり、五代の目の前にプレートを持ったエキストラが現れる。

五代「……エキストラ、質問がある。」

エキストラ「ゲームニ関スル質問ハ遅延行為ニ当タリマセン。ドウゾ、質問シテクダサイ。」

五代「このすごろく……毎回マップの構成は同じなのか?」

エキストラ「NO、ソレデハC・Rニ有利トナッテシマイ、不公平デス。マップハ毎回変ワリマス。」

五代「エキストラ……おまえはC・Rに優位に立たせるように手心を加える事はないのか?」

エキストラ「NO、私ハ完全ナル中立。モシソウデナイナラバ、銃弾ヲトメルコトハシナイデショウ。」

五代「なるほどな……エキストラ、コレが最後の質問だ。……『イカサマ』は認められているのか?」

エキストラ「……………」

五代の質問にエキストラは少しの間沈黙し、再び話し始めた。

エキストラ「ソノ発言、ゲームニ対スル侮辱トモ取レマスガ……オコタエシマショウ。

      当然、『NO』デス。イカサマガ発覚シタ場合、即失格トナリマス。」

紅葉「私も質問があるんだけど。」

五代と同じマスに立ち、エキストラの話を聞いていた紅葉が問いかけた。

紅葉「例えば、サイコロを6の面を上にしてプレートの上につまんで持ち、そのまま落として『6』が出るのを狙う……ってのはアリかしら?

   これはイカサマじゃないわよね?」

エキストラ「NO、ソレハ『イカサマ』ニ当タリマス。『6』ヲ出ソウト手心ヲ加エルコトガ明ラカデアルカラデス。」

紅葉「…………じゃあなんにせよサイコロは転がさなきゃいけないのね。転がしさえすればその手段はなんでもいいの?」

エキストラ「YES、手デモ足デモ何デモ、サイコロヲプレート上ニ『転ガシ』サエスレバイイノデス。」

紅葉「ふうん…………」

五代はプレートの上のサイコロを手に取った。手のひらを上に向けたまま、プレートの上に差し出した。

五代(イカサマが発覚すれば、失格……。)

コロコロ……


エキストラ「GREAT!サイコロノ目ハ『6』!」

九堂「よっしゃ、C・Rに近づけたな!」

五代「…………フン。」






【3投目:紅葉】


04 【紅葉】
05 ?マス
06                
07 3マスもどる
08 【九堂】
09 6マスすすむ
10 【五代】


6マスより先が闇に包まれているため、紅葉からは遠くにいるC・Rの姿は見えず、見えるのは九堂と五代だけだった。

紅葉「九堂、五代!私達があいつに勝つために、私はここで『賭け』に出ようと思う!」

九堂「賭け?」

紅葉「『ブラック・スペード』!!」

五代「……!」

紅葉が叫ぶと、紅葉のそばにブラック・スペードが姿を現した。

九堂「スタンド……出せるのかよ!?」

エキストラ「…………」

ブラック・スペードはプレートの上のサイコロを手に取った。

紅葉「『自分の番』の時には出せるみたいね……。そして、ブラック・スペードがサイコロを持ってもエキストラが何も言わない以上、

   『スタンドがサイコロを投げても失格にはならない』みたい。」

五代「そうか、紅葉……おまえの質問の本意は『手でも足でも何でも、サイコロを転がしさえすればいい』との言質をとることにあったわけだ。」

紅葉「ま、そーいうこと。」

紅葉(本当は上からサイコロをポトリと落として『ブラック・スペード』に衝撃を吸収させて

   確実にサイコロの目を操作しようと思ってたことからの率直な質問なんだけど。それはイカサマになっちゃうらしいね……。)

紅葉「でも、それがダメなら……!」

ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ……

ブラック・スペードがサイコロを強く握り締めた。

九堂「おいおい、俺でもサイコロに念を送ってもダメだったんだぜ……」

五代「いや、違う。スタンドの『精密な動作』に期待しているんだ。」

九堂「あ……そうか!!」

コロコロ……

ブラック・スペードはゆっくりとサイコロを転がした。

サイコロは、赤い点を上にしてピタリと止まった……。

紅葉「また……『1』!!」

九堂「何ィィっ!スタンド使ってもダメなのかよ!」

五代「いや、それよりも紅葉の踏むマスは……」



紅葉「……『?マス』。」

エキストラ「『?マス』、詳細オープン!内容は…………『右脚を骨折し一回休み』!」

紅葉「な………!」

エキストラ「指令執行ッッ!」

バキィイッ!!

紅葉「うああぁアアーーーーーーーッ!!」

エキストラは即座に紅葉の右脚を蹴り、?マスの指示通りに足の骨を折った。

紅葉は痛みでバランスを崩し、?マスの上に倒れこんだ。

九堂「紅葉、大丈夫か!!」

ドン!

九堂は紅葉の元に駆け寄ろうとしたが、マスを覆うように出来た透明な壁に身体を跳ね返された。

エキストラ「ゲーム中ハイカナル場合ニオイテモ、サイコロヲ振ルコト以外デ『マス』ヲ移動スルコトハデキナイッ!!

      ソレニ、安心シナサイ。次ノ自分ノ手番ガ来レバ、骨折ハ自然ニ回復スル。ソレガコノスゴロクノルールダ。」

九堂「つってもよォ……」

紅葉は倒れこんだまま呼吸を乱していた。

紅葉「……いいから……さっさと、続けなさい。次は……『C・R』の手番でしょう?」

九堂「…………クソッ!」

五代(スタンドがサイコロを投げても失格ではない。それはわかったが……何故だ紅葉。

   自分のスタンドの精密動作性は自分が一番知っているはずだ。サイコロの目を狙って出す事ができないのはわかっていただろうに、

   なぜ、あえてスタンドに投げさせた?…………!)






【C・R:3投目】


15 【C・R】
16 3マスもどる
17                
18 ?マス
19  
20  
21 一回休み


4人の中で大きくリードしているC・Rは後ろを振り返っても五代の姿しか見えなかった。

C・R(ここからじゃ後ろを見ても6マス分まで……五代の姿しか見えないけど、

   五代から見れば前後12マスに紅葉、九堂、わたしの姿を確認できる……。五代の様子を見る限り紅葉ちゃんに何か起こったようね。

   ?マスを踏んで……負傷したってところかしら?それにしても……)

C・R「テメェら、このままバカ正直に真面目にすごろくする気じゃあないだろうな……。それじゃあツマラないよ……。」

C・Rは五代の見えないところで表情をゆがませた。

C・R(まあ、それならそれで圧倒的な差をつけて勝つまで……。)

C・Rはプレートの上にあるサイコロに手を伸ばした。その時、

五代「紅葉、てめえ………!」

五代が言いかけたところで五代は言葉を止めて、C・Rのほうを振り返った。

C・R(な、何……?)

C・Rには声が聞こえない6マス以上向こうから、紅葉は五代に向けて言った。

紅葉「黙っててよ、五代。私がブラック・スペードにサイコロを投げさせたのは、精密動作性に期待したからじゃあないんだから。」

五代(ああ、そうか紅葉。おまえのいう『賭け』とは……。)



C・Rには紅葉の声は聞こえなかったが、プレートを持つエキストラの方を振り返り、急に不安になった。

エキストラ「ドウシタ、C・R。早クサイコロヲ振ラナイト、遅延行為トミナスゾ。」


C・R(……エキストラはサイコロを振るプレイヤーの前にのみ現れていて、複数のエキストラがいるわけじゃあない。)

エキストラの持っているプレートの上には、赤い点のついた面を上にしてサイコロが置かれている。

C・R(したがってプレイヤーは同じサイコロを使いまわしてプレイしている。私の前は紅葉……。)

エキストラ『秒読ミダ。10……9……8……』

C・R(そして、紅葉のスタンド能力は……!)

エキストラ『…5……4……3……』

C・R「く、くそッ!!」

C・Rはプレートの上のサイコロを手に取った。

そして同時に五代が叫んだ。

五代「紅葉、今だ!!」

C・Rはサイコロを持ったものの、すぐに投げられなかった。

C・R(~~~~~~畜生ッ!!)

そして、C・Rの視界の外で紅葉はつぶやいた。



紅葉「『ブラック・スペード』、衝撃を解放しろ。」



ドガァアァアアアアン!!!!


C・R「キャアアアアアアアッ!!!!」

C・Rの持っていたサイコロは破裂し、C・Rの左手はその衝撃をまともに受けた。

紅葉「ブラック・スペードの力をサイコロを握り締める事で溜めておき、今開放させた。……五代、あんたが察してくれてよかった。」

五代「紅葉、てめえの言う『賭け』とはサイコロを通じて攻撃する事だったわけだ……。」







C・R「くっ……クク…あはははっ…紅葉ちゃん、よくもやってくれたねぇ!だけどサイコロに衝撃を溜めて解放し破裂させた……

   それがどういうことかわかっているの?」

C・Rは左手を血まみれにしながらも、ケタケタと笑っていた。C・Rのそばに落ちていたサイコロは衝撃の解放により粉々に砕け散っていた。

C・Rのその不穏な雰囲気を感じ取った五代は紅葉のほうを振り返った。

紅葉の目の前にはエキストラが現れていた。

紅葉「……?」

エキストラ「『一之瀬紅葉』……スゴロクヲ進メルタメノ道具デアル『サイコロ』ヲ破損サセル『妨害行為』……

       サラニ『他プレイヤーヘ危害ヲ加エタ』トシテ『失格』トスルッ!!」

九堂「な、なんだと!?」

するとエキストラはみるみるうちに体が膨らんでいき、8メートルほどの高さにまで巨大化した。

エキストラは床に伏せた紅葉の身体をその大きな手でつかんだ。

エキストラ「『敗北者ハ人形ニ』……処罰ヲ執行スルッ!」

紅葉「うぁああああああああああああッ!!!!!」

バァ――――――――――――ン!!

エキストラは紅葉の身体を両手で挟み、両手を揉みだした。

紅葉「あっ……かあっ…………う……」



両手の動きが止まった時には、紅葉の声は聞こえてこなかった。

エキストラは元の大きさにまで縮まり、握っていた両手を離した。

エキストラ「執行……完了。」

エキストラの手の上にはソフビ人形になった紅葉の姿があった。


【一之瀬紅葉:失格】







九堂「……畜生ッ!!」

C・R「フフ……自業自得じゃない。紅葉はゲームが終わるまでエキストラに預かってもらうわ。」

五代「……九堂、さっさと頭を切り替えろ。C・Rが投げたら次はおまえの番だ。」

九堂「五代ッ!てめえ……紅葉がやられちまったんだぞ!」

五代「憤ったところで紅葉が助かるわけじゃあない。助けるには俺達が勝つしかないんだ。冷静になれ。

   それに……紅葉のおかげでさらに色々な事がわかった。」

九堂「……なんだって?」

五代「まず一つ、どんな方法でも……スタンドを使ってサイコロを投げても失格にならないという事。

   二つめに、いかなる場合においても他プレイヤーに危害を加えることは出来ないという事。

   そして三つめ………C・Rはイカサマをしているという事。」

九堂「な、イカサマだと!?反則じゃねえか!!」

C・R「…………」

五代の声は聞こえていたC・Rだったが、その言葉を聞いても憮然とした態度は変えなかった。



五代「九堂、おまえからC・Rは見えなかっただろうが、様子を見るにC・Rはおそらく紅葉がサイコロに仕掛けた『トラップ』に気づいていたはずだ。

   しかし、C・Rはサイコロを持ってすぐに投げる事が出来なかった。すぐに投げれば紅葉の攻撃を回避できたかもしれないのにだ。」

九堂「それは……C・Rがサイコロを持ってすぐ破裂したからじゃないのか?」

五代「いいや、紅葉からC・Rの姿は見えないから、俺がトラップに気づき、合図を出してもすぐに破裂させる事はできなかったんだ。

   事実、俺はC・Rの姿を見ていたが、C・Rはサイコロを持ったまま、動きを止めていた。」

九堂「それが……どうしてC・Rがイカサマをしているっていうことになるんだ?」

五代「厳密にはC・Rのイカサマは『イカサマ』じゃあない。ある種の『技術』なんだ。」

C・R「!」

五代「C・Rは……サイコロを転がす力加減を調整して、思い通りの目を出す事が出来る。」

九堂「何ッ!?」

五代「麻雀のイカサマの基本となるワザだ。サイコロに一回転半転がすだけの力を加えて転がす……。

   麻雀では1cm立方にも満たない大きさのサイコロを二つ使う。3cm立方のサイコロひとつ操作するのなんか造作もないだろうよ。

   ヤツはこのすごろくが始まってからそのワザを使い続けていたんだ。」

九堂「マジかよ……。」

五代「確信したのはサイコロが破裂した時だ。ヤツはあの時、それまでサイコロを投げていた右手でなく左手でつかんだ。

   サイコロを投げなかったのは運任せに投げてヘタにまずいマスを踏んでしまうのを恐れた為だろう。」

C・R「フフフ……そのことに証拠はあるの?」

C・Rは口では笑ってはいたものの、目をしめかて五代を睨んでいた。

五代「証拠?…………証拠なんか必要ない。これから証明してみせる。」

C・R「どうやって?」

五代「C・R、てめえがそのワザを使っていないっていうのなら、投げ方を変えろ。まだてめえはサイコロを投げてなかったよな。
  
   『サイコロを握って手を下向きにし、プレートの上から落とせ。』それができないならてめえはそのワザを使ったって事になる。」

九堂「オラぁ、やってみやがれ!!(つってもこっからじゃ見えねーけど)」

C・R「フフ……わかったわ。エキストラ!ゲーム再開よ。」






【C・R:三投目(仕切りなおし)】


15 【C・R】
16 3マスもどる
17                
18 ?マス
19  
20  
21 一回休み


五代(正直これはハッタリだ。ヤツがサイコロの目を操作できるのは確信した。

   それをあえて言うことでそのワザを封じる。……しかし)

C・Rはプレートの上のサイコロを手にとった。

C・R「…………」

C・Rはサイコロを右手で握り、プレートの上に差し出した。

C・R「…………五代。」

五代「……………」

五代は5マス先にいるC・Rをしっかりと見ていた。

C・R「さすがね。私はあなたたちの資料を見て、一番初めにあなたに目をつけた。

   あなたの真っ黒な瞳の鋭い眼光から、青く燃える炎のような情熱の中に内在する冷静さを感じ取った。私の目に狂いはなかった。

   あなたに出会えてよかった。あなたが……私を一番楽しませてくれる男だッ!!」

C・Rはそう啖呵を切ると、握っていた拳を開き、手のひらの上からサイコロをプレートに転がした。

C・Rは五代の要求を無視し、『ワザ』を使ったのだ。

五代「てめえっ!!」

コロコロ……

エキストラ「GOOD!サイコロの目は……『5』!!」

C・R「よく私のワザを見抜いたね。でもこれはイカサマなんかじゃあない。あんたに私の行動を制約する権利はないッ!!」

五代「クソッ…………。」

九堂「な……だめだったのか?」

五代「C・Rはサイコロの目を操作できる……それは確定した。

   そしてわかったことの四つめ、『俺達は運任せで勝つ事は決してできない』…………。」







ディザスター本隊二人目の刺客C・Rは中国の小都市のスラムで生まれた。

膨大な人口の国の急激な経済発展にはかならず弱者の淘汰がつきものであった。

生まれながらにして孤児だった彼女は、物心ついたときからすでに『敗北者』であり、まわりすべてが『敵』だった。

誰かが誰かを騙し、富を得るために競争する事は、多くの民族が共存するこの国のさらに小都市においてはもはや日常であった。

10歳で施設を追い出された彼女はこれから自分の生活を自分で支えなければならなかった。しかし幼い彼女にとってできることなど何一つなかった。

彼女が足を踏み入れたのは闇の賭場だった。もちろん何も持たぬ彼女が賭けられるものは自分自身しかない。

彼女は命を懸けて戦った。しかし、当然すぐに彼女が勝てるはずが無かった。賭場の人間にとっては彼女は格好の「カモ」であり、

彼らがあからさまなイカサマを仕掛けても、彼女がイカサマをすることは認められなかった。

彼女は負けるたびにその場から必死で逃げ、生き延び続けた。負けた賭場には戻れないので彼女は何日もかけて街と街を歩き回った。

彼女と同じ志を持って賭場に入った孤児の仲間もいたが、ある者は負けて捕らえられ、ある者は街へ行く道中でのたれ死に、

またある者は仲間を騙して勝ち、その後仲間に殺された。もしかしたら施設をでた多くの者がそうしたように、路地裏でゴミをあさり、物乞いをして

食いつないでいく生活をしたほうがまだましだったかもしれない。しかし彼女はそんなみじめな想いだけはしたくなかった。

彼女がそんな生活の中で身につけた処世術が……イカサマではない『技術』だった。

疑われても文句のつけようの無いそのワザは、常にアウェーで戦ってきた彼女だからこそ身につけることのできるものだった。

そうして生き延びてきた彼女が後に身につけることになるスタンド能力は、まさに彼女の『技術』を生かすことのできるものだった……。







C・R「………………」

九堂「おい、どうなったんだよ五代?」

C・Rが6マス以上先にいたため九堂からC・Rの様子を見ることはできなかった。

五代「C・Rは……5マス進んだ。俺からも見えなくなった。」

九堂「どうすんだよ!このままじゃ差がひらく一方でこっちに勝ち目がねえじゃねえかよ!」

五代「いや、あるさ。俺達にはヤツにはねえ武器を持っている。」

九堂「…………はあ?」

五代「忘れたのか?『俺達はスタンドを使う事ができる。』……危害を加える事が無い限りな。」

九堂「だが、どうやって使おうというんだ?」

五代「なに、いくらだってやりようがある。紅葉がやったように、サイコロにスタンドの能力を使う事はできる。

   それに九堂、おまえの『繋げる』能力は、サイコロを転がすのに適した能力じゃないのか?」

九堂「…………」


【九堂:3投目】


08 【九堂】
09 6マスすすむ
10 【五代】
11                
12 ?マス
13  
14  


九堂(五代……おまえの言いたいことは分かる。俺が出したい目でサイコロを『繋げ』ればたしかにサイコロを操作する事は出来るかもしれない。

   だが……『できないんだ』。いや、難しいと言った方がいいか……。

   しかし、『アウェーキング・キーパー』を使わなければ勝ち目がないのは目に見えている……。)

九堂「畜生……やるしかねえか。」

九堂はアウェーキング・キーパーでサイコロをとり、手のひらの上にのせる。

九堂「…………ゴクッ。」

コロコロ……

エキストラ「出目ハ…………『3』!!」

五代「な……九堂!」

九堂「だめなんだ、五代……。『アウェーキング・キーパー』が繋げられるのは俺が能力を発動する『一瞬のタイミング』なんだ。

   つまり、俺が転がるサイコロの目を見ることができなければできないことなんだ。すまない、五代……。」

五代「わかった、九堂。おまえは普通にプレイしていろ。それでも何かヒントは得られるかもしれない。」

九堂「そんなヒントったって……そんな悠長にしてて間に合うのかよ?」

五代「勝つ見込みはある……もう『ウォーミングアップは済んだ』からな。」

九堂「…………?」


【五代:4投目】


10 【五代】
11 【九堂】
12 ?マス
13                
14  
15  
16 3マスもどる


九堂「『勝つ見込みはある』だって……?五代、たとえおまえが何をだしても6マス以内には『すすむ』マスもないんだぜ?」

五代「『ワン・トゥ・ワン』!」

五代はワン・トゥ・ワンを発現し、サイコロをつかむ。

五代「さあ、ビビりやがれ……C・R!」

コロコロ……







マップの20マス目……五代とは10の差をつけているC・Rは、後方に見える6つのマスを眺めていた。




C・R「もし五代の姿が見えるとしたら、ここから見えるマスでは14・15・16……だけど16は『3マスもどる』マスだから、



   五代にとっての最善は『5』を出して15に止まること……それでも、私との差は縮まらないわね。」



C・Rの視界の先から、サイコロを振り終えた五代の姿が現れた。一歩一歩悠然と歩みを進めている。

C・R「ここからじゃ五代が何を出したかはわからないけど……いい目が出たようね。ま、カンケーないけど。」

五代のいた10マス目から5つ目のマス……15のマスに足を踏み入れた。五代の憮然とした表情から、C・Rは五代はそこで止まるものと思っていた。

しかし、五代は15のマスからさらに歩みを進める。

C・R「あーあ、『6』がでちゃったんだ。残念だけどそこは『3マスもどる』。また私の視界から消えちゃうわけね。」

五代は、C・Rの声に反応せず、16のマスで足を止めた。



C・R「…………!!」

そう、思ったが。

五代は16のマスから『さらに歩みを進めた。』五代を阻む透明の壁は現れず、五代は10のマスから『7マスめ』を歩みだした。

C・R「な……ありえない!『サイコロは6まで』!!これはルール以前の問題のはずなのに!!」

五代「『6面サイコロはかならず1から6まででなければならない』……そんな法律がある国をおまえは知ってるのか?」

五代は7マス目でも歩みを止めない。8マス目、9マス目………そして、C・Rのいる10マス目、20のマスにたどりついた。

同じマスに立った五代はC・Rを見下していた。

五代「イカサマだと……エキストラに申し立てるつもりか?それなら、エキストラが止めもせずに俺がここまでこれたのはどう解釈する?」

C・R「くッ……『ワン・トゥ・ワン』か。『サイコロの6面全部の数を二倍にした』……そうなんでしょッ!?」

五代「さあ……なんのことかわからないな。ちなみに、ワン・トゥ・ワンの能力で2倍に出来るのは『ひとつ』だけだ。

   もしおまえの言うようにやろうとしたところで、俺は『ひとつの面しか2倍に出来ない』ぜ。」

C・R(………なんにせよ『ワン・トゥ・ワン』を使ったのは確実……。)

C・R「ふっ……。そうこなくっちゃあね。あんたらはスタンドを使って初めて私と対等!!これで勝ったと思うなよ!」

五代…4投目を終えてのこり16マス。






【C・R:4投目】


20 【C・R】【五代】
21 一回休み
22 ?マス
23                
24  
25  
26 3マスすすむ


C・R「また、投げ方を指定するつもりかしら?」

五代「どうせ守るつもりもないだろう。」

C・R「フフ……よくわかってるじゃない。」

コロコロ……

エキストラ「GREAT!サイコロノ目ハ……『6』!サラニ、進行先ノマスノ指示ニヨリ、C・Rハサラニ『3マスススム』!」

C・R「わあ、ラッキー!(棒読み)五代、追いつけるかしら?」

C・Rは進行先のマスへ歩み出した。『21:一回休み』……『22:?マス』……そして、C・Rは『26:3マスすすむ』から3マス進んだ。



C・R「………!!!」

ここで、C・Rはある違和感を抱いた。もちろん……五代に。

C・Rが29のマスから後ろを振り返っても、6マス以上先にいる五代の姿は見えなかった。

C・R(なぜ……『五代は10マス進んできた?』もし、ヤツの言うように『一面しか2倍にできない』のなら、

   最良なのは『6』を2倍にし、『12マス』進むのを狙うハズ……。なのにヤツが二倍にしたのは『5の面』。それはおかしい!!

   だとしたら、ヤツの言うとおりでなくて、本当は『全面2倍に出来る』……。それだったら何も問題ない。

   運良く『5の面』……『10』が出て、私と並んだ…………『運良く!?』)

C・Rは再びもときた道の方をむく。もちろん、6マスから先は見ることが出来ない。

C・R(違う!五代にとって最良だったのは『5の面』……『10』を出す事だった!なぜなら、『12』を出せば『22:?マス』に止まっていたから!

   何も起こらない可能性だってあるけど、一回休みになるリスクを考えたら適切ではない……。

   いや、待てよ……6マス以上先は見ることができないんだから、12マス先に何があるのかはわからない。リスクなんて考える余地もないはず……。)

C・R「あっ!!」

先ほどの五代の手番のとき、五代がいた10のマスから見えない17のマス以降で、たったひとつだけ『ノーリスクのマス』があったことにC・Rは気づいた。

C・R(それは、『私のいたマス』……すなわちさっき五代が止まった『20のマス』!!

   私が『ワザ』を使ってリスクを絶対回避しながら進んでいた事を知っていた五代は、『私のいるマスは絶対安全なマス』だとわかっていたんだ!)

C・Rは思考をすすめるうちに、違和感がどんどん確かな形になっていくのがわかった。そして、たどり着く一つの可能性……。

C・R(ん……?『五代は安全なマスだとわかっていた』……まるで五代が狙って20のマスに止まったみたいじゃない。

   五代は『全部の面を2倍にできて』、『たまたま5の目』がでたのかもしれない。でももし五代の言うとおり、

   『2倍にできるのは1面だけ』で、『10マス先が安全だとわかってて』5の目を2倍にし、その目を『狙って』出したんなら……)

C・R「もしかして、五代……あなたは……。」

C・Rは目を凝らして五代のいる方向の闇の方を見た。……しかし、五代の表情をとらえることは出来なかった。


【九堂:4投目】


11 【九堂】
12 ?マス
13                
14  
15  
16 3マスもどる
17  


九堂はエキストラの持つプレート上にあるサイコロもとらずに独り言をつぶやいていた。

九堂「ククク……五代め、てめえが2倍にできるのは『一つの面だけ』と聞いて焦ったが……ハハハッ!

   道理でC・Rのイカサマ……『ワザ』を見抜けるハズだぜ。」

エキストラ「ドウシタ九堂、ハヤク投ゲナイト失格ニナルゾ。」

九堂「ヘッ、もう俺はサイコロを投げる必要はねぇーよ。もし五代がだめだったなら、俺が勝てるはずがないからな。

   俺はここで五代が勝つのをまってるよ。おおっと、人形にはしないでくれよ?コエーからな。

   俺の命運は五代に託したからよ。」

エキストラ「……マアイイダロウ。試合放棄トミナスガ、人形ニスルノハ少シ待ッテイテヤロウ。」


【九堂秀吉:リタイア】






【五代:5投目】



C・Rはただじっと五代のいる方向を見ていた。行き着いた一つの可能性……それを確信に変えるために。

C・R「私の推測が正しければ、五代はきっと……」

暗闇の先から五代が現れた。サイコロを振り終えて、歩みを進めているところだった。

そして、五代が止まったマスは、C・Rの予想通り………『C・Rと同じマス』だった。


五代「…………」

C・R「……これで、確信した。あんたも使えるのね。私と同じ『ワザ』が。」


ドドドドドドドドドドドド……



五代「さあ、なんのことかわからないな。」

C・Rを見下ろしていた五代は視線を外してそうつぶやいた。しかしその表情に焦りは感じられない。

C・R「今思えばアンタは初めからけっこう『いい目』を出してた。順番決め、1投目、3投目であんたは3回も『6』を出した。」

五代「…………」

C・R「もうしらばっくれなくても結構。あんたはさっきの4投目のときも『5の面』だけを2倍にし、狙い通り『5の目』を出した。

   そして、今もサイコロの面を2倍にして進むリスクは負わず、普通に『6の目』を出してまた私と同じマスに立った。

   …………驚いたわ。まさか私と同じ『ワザ』を持ったスタンド使いがいるなんて。」

五代「俺は……いや、俺と四宮は生活費をまかなう為には高レートの麻雀が手っ取り早かったんだ。

   久しぶりにこの『ワザ』を使ったが……腕は鈍ってなかったようだぜ。」

C・R「なめられたものね……」

C・Rは五代を見上げて睨みつけた。

C・R「アンタが私にわざわざ『1面しか2倍』にできないって言ったのは………私にアンタの『ワザ』に気づかせて動揺させるつもりだったのかしら?」

五代「…………さあ。」

C・R「あたしを……裏世界の賭場で生き抜いてきたあたしをナメんじゃねえッ!!ニッポンの若造のアンタなんかよりずっと修羅場くぐってきたんだッ!

   そんな安い挑発で私の『ワザ』がブレるとでも思ったんか!!バカにするんじゃあねえッ!!『エキストラ』!!」

エキストラがC・Rの前に現れれ、C・Rはプレートの上のサイコロをつかんだ。

C・R「決着だ、五代ッ!!てめえらの望みは私が立ち切るッ!!」






【C・R:5投目】


29 【C・R】【五代】
30 一回休み
31 4マスもどる
32                
33 一回休み
34  
35 6マスもどる


C・R(ゴールまで……36マス目のゴールまではあと7マス。これは五代と同じ。

   あと7マス……つまり五代は『次の一投でゴールすることは不可能。』なぜならルールとして『複数のサイコロを投げる事は許されてないから。』



   今までなかったサイコロが急に増える事は、投げた当人がイカサマしたことはあきらかだからね。『ワン・トゥ・ワン』で増やしてもそれは同じ。

   再び『一つの面を2倍にしても』、奇数である『7』は出せない。それは五代もわかっているはず……。)

C・R「五代……悪いけど、もう勝負は決まっているのよ。」

五代「……なぜだ?」

C・R「少し考えればわかるでしょ?お互い残りは『7マス』。どちらも最低で2回はサイコロを振らなきゃゴールできない。

   それなら、先に投げる私のほうが有利……ましてや、サイコロの目を操れる私なら確実ね。アンタの『ワザ』も認めるけど、もう手遅れなのよ。」

五代「いいたいことはそれだけか?」

C・R「はあ?」

五代「最後までやってみなければ何が起こるかわからない。それが、ギャンブルってもんだろ。」

C・R「それは違うね。勝ちへの『道標(みちしるべ)』をたててこそのギャンブルだ。もう、私の勝利の方程式は完成しているの。」

五代「……いいから、さっさと投げろよ。」

C・R「おあいにく様だけど、何を言っても私の心は乱れないわ。」

コロコロ……

エキストラ「サイコロノ目ハ……『3』!!」

C・Rは何も書かれていないマスに止まった。

C・R「さあ、これでゴールまで4マス……アンタが『ワザ』を使って3でも5でも出そうが、私の勝利にかわりはないよ。」


【五代:6投目】


五代の目の前にエキストラが現れる。勝負の終盤にもかかわらず、ゲームマスターであるエキストラはスタートのときと一切変わらない様子で佇んでいる。

……といってもスタンドなのだから当然なのかもしれないが。

プレートの上におかれたサイコロを五代はじっと見つめる。そして……

五代「『ワン・トゥ・ワン』!!」

五代はワン・トゥ・ワンを発現させた。五代はワン・トゥ・ワンにサイコロを取らせて、投げる体制をとる。

C・R「ワン・トゥ・ワンを使った!?……まさか、『8以上をだせばゴールできる』なんて考えてないでしょうね。

   一般的なスゴロクはぴったり止まらなければゴールできない……そんなことも知らないとは言わせないわよ。」

五代「黙ってろ……俺は本気だぜ。」

五代(頼むッ…………!!)

コッ……コッ……

サイコロはプレートの上でゆっくりと転がった。しかしそれでいて勢いは保ちつつ、

転がるサイコロの目が見えるほどサイコロはゆっくりと長く転がり、止まった。

エキストラ「サイコロノ目ハ…………『5』!!」

五代「フゥーー………」

五代は深く息をついた。

C・R「何安心してるのよ。何を出そうが、私が勝つことに代わりはない。」

五代「それはちょっと違うな……。俺は次の番で勝てる可能性を残せた事に安堵しているんだ。

   そして……てめえの『勝利の方程式』を崩せたことにな……。」

C・R「フッ……何を言ってるのかぜーんぜんわかんないわよ。」

五代「ギャンブルは最後まで何が起こるかわからない……。すぐにわかることだ。」






【C・R:6投目】


C・Rの目の前にエキストラが再び姿を現す。C・Rは『4』を出せば勝利が決定する。しかし、C・Rに緊張している様子は微塵も見られない。

それも当然の事である。彼女にとってはエキストラでの勝負は何百回とやってきた事であったし、

全てのギャンブルで数えれば星の数ほどのうちの一つにすぎないからだ。

C・R(確実な敗北を前にして五代もおかしくなっちゃったんだね。私をヒリつかせてくれるいい男だと思ってたけど……しょせんは凡夫。

   くだらない悪あがきでこちらの心を乱しにかかろうとする。

   でもね、私は心の平静さで勝ってきた訳じゃあないんだ。幾千回、幾万回と繰り返し訓練してきた手の感覚で勝ってきた。)

C・Rはプレートの上のサイコロをとった。

これも彼女の言うとおり、今まで幾千回、幾万回、幾億回とやってきた手順と同じ動きだった。

C・R(何も、かわらない。眠ってても私は思い通りの目を出せるだろう。私の手の感覚は……)

そう、手順は同じだった。………ここまでは。

C・R(手の……感覚………かん…か……く………………感覚が……!!)



C・R「お……『重い』ッッ!!??」

C・Rにとって予想外の出来事だった。……いつもよりもサイコロの重さが『重かった』のだ。

疲れとか、病気がC・Rの身体に今起こったわけじゃあない。サイコロ自体の重さが『重くなっていた』のだ…………『2倍』に!

C・Rは五代のほうをきっと向く。

C・R「五代ィィィィィィ!!!!!」

五代「……どうしたよ?俺にかまわずさっさとサイコロを振れよ。」

五代(『ワン・トゥ・ワン』の能力でサイコロの重さを『2倍』にした。

   手番が変わっても、解除しない限りはスタンドの効果はサイコロに残ったままになる事は

   紅葉が攻撃した時の事で明らかになっている。俺は『運任せ』で投げる羽目になったが……『運良く』何もないマスに止まれた。)

そう、五代がワン・トゥ・ワンでサイコロを『触って』重さを2倍にしたことで、五代自身も重くなったサイコロを振らなければならなかった。

そして、五代は自身の試行によって確信できた。『重さの変わったサイコロ』で『ワザ』は使えない事を……!!

五代(しかし、これでC・Rを引きずり出せたぜ。『運任せの勝負』に!!)



C・R「畜生ッ………まだだ、私はサイコロの転がる感覚を憶えることができるッ……!投げなくても、時間をかければ……!」

エキストラ「ドウシタC・R、早ク投ゲロ。失格ニスルゾ。」

C・R「うるッセェ、エキストラ!テメェ私のスタンドだろうがァ!!」

エキストラ「私ハ『ゲームマスター』、中立ノ立場ダ。今更何ヲ言ッテイルンダ。」

C・R「だまれだまれだまれェェェェ!!出来る……私なら乗り越えられるゥゥ!!」

C・Rは手をサイコロにのせたままゆっくりと手のひらを傾ける。

C・R(いつもと何も変わらないッ!一回転半……それだけで望む目を出せる!!)

C・R「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ………」

集中し、集中し、ゆっくり手を傾けるC・R。そして……



手のひらからサイコロが落ちる。ガリレオのピサの斜塔での実験で証明されたように、重さが変わっても同じスピードでサイコロは手から落ちていく。

しかし、C・Rの目にはこのサイコロのほうがむしろゆっくりと落ちているように見えた。

サイコロは……ある面を上にしたままプレートの上に落ち、止まった。



その数は…………C・Rがもっとも期待していた数字の……『4』だった。







C・R「あ…………」

プレートの上のサイコロは動かない。黒い穴ポチ4つの面を、上にしたまま。

C・R「やったあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!

   勝ったわああああああああああアアア!!!やったやったあああああ!!!!!!

   ざまあみろ、五代ッ!!!たった、これしきのことで、私が負けるはずがないんだ!!

   五代ッ!そっから見える?プレートの上のサイコロが見える!?」

五代「……ああ、見える。……『4』だな。」

C・R「これで、わかったでしょう!?アンタの負けが、そして、私の勝ちが決まったことがああああああ!!!!」

五代「いいや、決まったのは……『おまえの負け』さ。」

C・R「………はあ?」


そしてC・Rは気づいた。エキストラがサイコロの目のコールをしていないことに。

エキストラ「…………………」

C・R「どうしたの、エキストラ。はやくコールしなさいよ。サイコロが見えないの?」

エキストラは待っていた。……五代の言葉を。



五代「……C・R、おまえは今、サイコロを手のひらからゆっくり落とした。そして、サイコロは『転がらずに』止まった。」

C・R「………?」

五代「この『転がらせずに投げる行為』……これをエキストラはしっかりと明言している。……イカサマ行為だと!!!」
 
 

紅葉「例えば、サイコロを6の面を上にしてプレートの上につまんで持ち、そのまま落として『6』が出るのを狙う……ってのはアリかしら?

   これはイカサマじゃないわよね?」

エキストラ「NO、ソレハ『イカサマ』ニ当タリマス。『6』ヲ出ソウト手心ヲ加エルコトガ明ラカデアルカラデス。」

紅葉「…………じゃあなんにせよサイコロは転がさなきゃいけないのね。転がしさえすればその手段はなんでもいいの?」

エキストラ「YES、手デモ足デモ何デモ、サイコロヲプレート上ニ『転ガシ』サエスレバイイノデス。」



ドドドドドドドドドド……


C・R「そんな……私はそんなつもりじゃなかったッ!」



五代「『そんなルール知らなかった』とシラを切らなかったことだけは褒めてやるが……




   『ふつうのプレイヤー』なら、そんな疑わしい行為をすることも避けるんじゃねえのか!?」

C・R「……グッ!!」


五代「ちなみにおまえに『ひとつの面しか2倍にできない』と言ったのは、『一つの面か、全ての面か』を考えさせて、

   重さを変える可能性から思考をそらすためだ。俺が最後に運任せの勝負をするうえでの作戦だ。」

C・R「な……に…ッ!」

五代「時には運任せの勝負をすることもある……それがギャンブルだ。だがおまえは最後まで技術に頼り、ギャンブルをしなかった。

   黙って普通にサイコロを投げてりゃ先に投げる分おまえの方が十分有利だったのによ。わざわざ失格になるなんてな。」

C・R「『失格』!?まさか!そんなはずはない!!そうでしょう、エキストラ……!!」

C・Rがエキストラを見ると、すでにエキストラは巨大化し、両手をC・Rの横においていた。……『紅葉を人形にしたときのように』。

エキストラ「『失格者ハ人形ニ』……処罰ヲ執行スルッ!」

C・R「うぁああああああああああああッ!!!!!」

バァ――――――――――――ン!!







五代の目の前にエキストラが現れる。

エキストラの持つプレートの上にはサイコロと、人形になったC・Rがあった。

エキストラ「サア、アナタノ番デス、五代。」

五代「……プレイヤーは俺だけなんだろ?続ける必要があるのか?」

エキストラ「『エキストラ』ハ誰カガゴールスルマデ解除サレマセン。サア、サイコロヲ。」

五代「………フン。」

コロコロ……



エキストラ「……サイコロノ目ハ……『2』!!CONGRATURATION!!五代、キミハ栄光ヲ手ニシタ!!」

五代がゴールのマスに止まると、目の前の大きな扉がゆっくりと開き、薄暗かった宮殿のに光が差し込む。



五代「……これが、栄光か。」

扉の先にあった部屋には、テーブルいっぱいに敷き詰められた豪華な料理の数々。

視線を別に移せば高く積み上げられた金銀財宝の山。そして、正面の奥には、大きくて柔らかなベッド。

五代「スタンドは本体の精神を表したもの……この『栄光』とやらは、C・Rが欲しくてたまらなかったものだということなのか……。」

部屋の扉がゆっくりと閉まってゆく。一本道の先の栄光をつかむための戦い……競い合いは幕を閉じた。







八畳一間の五代のアパートの部屋に紅葉、五代、九堂とC・Rは立っていた。

エキストラの能力が解除され、現実の世界に戻ってきたのだ。

C・Rが負けたため、紅葉は人形から元の姿に戻っていた。そして、C・Rも人形から元の姿に戻っていた。

C・Rにとってはエキストラは自分のスタンドなのである。勝負に負けたところで自分が失うものはなかったのだ。

……事実上では。



しかしC・Rはうつろな目で生気は感じられなかった。

五代「とりあえず、吐いてもらおうか。『ディザスター』のこと、そして、連中の居場所を……。」

C・R「……それは、できないわ。」

C・Rは懐から拳銃を取り出した。そして、ポケットからサイレンサーを取り出し、銃に取り付ける。

紅葉「な……スゴロクで勝てなかったからって、実力行使ッ!?」

C・R「バカなこというもんじゃあないよ、紅葉ちゃん……私は、『ギャンブルに勝ち続けることで生きてきた』……。

   『ギャンブルに勝つことこそがアイデンティティー』なんだ。それ以外のところで勝つのなんてクソッ喰らえだ。」

C・Rは銃を下に向けたまま、安全装置をはずす。

C・R「そして、『ギャンブルに負けた』今、『私は私でなくなった』。わたしは自らの『道標』を失ったの。

   五代……人生にはノーリスクの道なんかない。でも、立ち止まっちゃダメよ。

   あなたたちにはまだ『道標』が見えているでしょう?見失わないうちに、早く進みなさい。」

C・Rは拳銃をみずからのこめかみに当てた。

C・R「最期に……最高の好敵手に出会えてよかった。」

九堂「バカな……やめろ!!」

九堂がC・Rに駆け寄る。しかし、止めるには距離が足らなすぎた。

C・R「永遠に勝ち続ける人間はいない。私が負けたのがあなたでよかったわ、五代……。」



プシュッ…………











アパートの外の塀のそばにアッコはうずくまっていた。

カン、カンとアパートの階段を下りる音が聞こえるとアッコは立ち上がり、3人を迎えた。

アッコ「ずいぶン遅かったじゃナイ。ナニしてたノ?」

五代「なに、ただの弔いだ…………。」

アッコ「?」



――その日の晩、五代の住んでいたアパートが全焼する火事があった。

幸い住民は全員出払っていたのだが、焼け跡から女性と思われる焼死体が発見された。

損傷が酷く、住民の心当たりもないことからこの女性の身元は今だわかっていない…………。




五代「…………畜生。」



第五章 -道標の世界- END




to be continued...



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