模「僕は……なぜ、戦っているんだろう……。」
気がつくと僕は校舎の屋上に立っていた。空は夕焼けでオレンジ色の光がさしていた。
視線を下に向けると、紅葉が立っていた。
紅葉は僕に語りかけた。
紅葉「……もしかしたら、あんたはいい『仲間』になれるかもしれない。」
そう、そうだよ。紅葉は僕とセクター9を出会わせてくれた。
僕は紅葉に恩返しするために、紅葉の力になるために戦っているんだ。
???「紅葉の……ため?」
首筋に冷たいものが触れた。ハッとして上を見上げると、雨が降っていた。
さっきまでの夕焼けの空は消え、灰色の雲に覆われていた。
五代「四宮ッ……!!」
五代くんの声が聞こえた。気がつくと僕が立っていたのは霊園近くの河川敷だった。
五代くんが、四宮くんを抱えていた。四宮くんは目を瞑ったまま動かない。
五代「模……頼む、力を貸してくれ。
四宮を奪った……あいつに、この恨みを『倍返し』……してやりたいんだ。」
そう、僕は戦わなければならない。『弓と矢の男』に殺された四宮くんの敵をとるために。五代くんと協力して。
???「四宮………五代の、ために?」
そうだ。僕は仲間のため……戦う。
???「クックック……甘い考えだねェ。」
瞬間、空間は闇に包まれた。濃淡もなく、ただ黒色だけが塗りつぶされた世界。
紅葉も、四宮くんも五代くんの姿も消えた。
感じるのは、声だけだった。
???「仲間なかまナカマ……それがてめえ自身の戦う理由になると思ってんのかよ。」
!
後ろから誰かの声が聞こえ、振り返った。しかしそこにはだれもいない。
向き直すと、衛藤が立っていた。
衛藤?「常に『誰か』のためってよォ……つまりは誰かの、紅葉や五代が戦う理由によりかかってるだけじゃねえか。『マネ』してるだけなんだよ。」
???「中途半端なんだよ。強い意志のない決意は自分が危ないだけじゃなく、仲間にも迷惑をかける。」
また声が聞こえた。ふりかえると、五代くんが立っていた。
五代?「死んだ四宮は五代の親友だった……。その敵を取りたいのは当然だ。
……だが、てめーは自分が狙われていたわけでもねえ、個人的な恨みもねえ。そうだろ?」
でも……でも、僕は……!
五代くんの姿がグニャーッとねじれ、変形した。もとに戻ったかと思うと、今度は紅葉の姿になった。
紅葉?「紅葉も言ったでしょう?『模には関係がない。』『私を助けなくてもいい』って。
悪いことは言っていないよ?無理に関わることはない。なにせ戦う理由がないんだから。」
仲間のために戦うことの、なにがいけないんだよ……!
紅葉?「無理しないほうがいい、戦う理由のないあんたが、連中と渡り合えるわけがない。
戦いに足を踏み入れたら……死の恐怖が待ち受けている。中途半端な立場のあんたが……耐えられるはずがない。」
そんなことはない!僕は……僕は……!
紅葉の形をした「それ」が右腕を掲げた。腕はボコボコと変形し、大きな腕になった。
この腕に僕は見覚えがある。生まれてから今まで、一番の恐怖を感じた『ジョセフ・ナッシングの腕』……
紅葉?「死の恐怖は……こんなもんじゃあないよ……」
僕の全身から血の気が引いた。冷や汗をダラダラ流し、足がすくんで動くことさえできない。
紅葉の形をしたそれは腕を振りかぶった。こちらに殴りかかってくることはわかってる。
でも、足がガクガク震え、動くことができない。逃げられない。
戦ったら、これ以上の恐怖が待っている?
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
模「うわああああああああああああああああああ!!!!」
ガバッ!
深夜の午前3時、模は自室のベッドの上にいた。
汗で服やシーツがぐっちょり濡れていた。
模「はあ、はあ、はあ………」
今まで見ていたものが夢だったとわかっても、安堵することはできなかった。
模は放課後のことを思い出した。
<衛藤「クックック……とんだアマちゃんだぜ坊っちゃんよ。てめえ、これからもそんな調子で俺たちと戦う気なのかよ。
言っただろ?俺たちは戦いを生業とした人間だって。……喧嘩ごっこのつもりで戦ってたら、すぐに死ぬことになるぜ。>
<五代「てめえ……まさか、自分が殺されるはずがないと思ってるんじゃねえだろうな。
やらなきゃ、テメエがやられるんだよ。生半可な気持ちで戦うんじゃねえ!!」>
模「僕は……これから戦っていけるのかな…………。」
杜王町の観光業の中心地となる別荘地帯。
サマーシーズンは市外から多くの観光客が集まるが、シーズン前は別荘はほとんど使われず、あたり一帯は閑散としている。
そしてさらに人の近寄らぬ深夜、ある別荘の前に一台の車が止まった。
運転席から出てきたのは模を奇襲した衛藤であった。
衛藤は車を降りると、後方のトランクを開けた。
衛藤「………さあ、着いたぜ。起きる時間だ、小娘。」
???「んーーーーっ、んーーーーっ!」
トランクの中に入っていた少女は手足を縄で縛られ、タオルで口をふさがれていた。
衛藤「おうおう暴れんなよ。いまはずしてやるからよ。……くれぐれも暴れるんじゃあねーぜ。俺はいつでもてめえを殺すことができるんだからな。」
衛藤が少女の手足を解くと少女は口を覆っていたタオルを取り、衛藤に向かって叫んだ。
ナナ「なにするんだよオッサン!この………変態がッ!」
トランクに入れられていたのは、紅葉と戦った後行方をくらませていたはずの蜂須賀ナナだった。
衛藤「ククク……罵倒されるおぼえはねえぜ、むしろ感謝してもらいたいくらいだ。紅葉を始末しそこなったてめえは本来なら『粛清』されなけりゃいけねえんだ。
俺がてめえをかくまってやらなけりゃ今頃死んでたんだぜ?」
ナナ「何が『かくまった』よ、むりやり監禁したくせに。今度はこんなところに連れてきてどうするつもり?私だってただじゃあ殺されないよ。」
衛藤「ヒヒ、殺す気なんてねえさ。ちょいと『協力』してもらいてえのさ。」
ナナ「はあ?」
衛藤「今、『組織』の『先遣部隊』としてこの街に送り込まれたのは俺とあいつ(弓と矢の男)だってのは知ってるな?」
ナナ「……ええ、それがどうかしたの?」
衛藤「聞いた話じゃ今回の作戦がうまくいけば、あいつのもとには多くの利権が舞い込んでくるらしい。
全世界の裏社会に根を張るウチの『組織』なら、その規模は計り知れないだろうよ。」
ナナ「……それで?」
衛藤「今、この街にいる『組織』の人間は俺とあいつ。あいつの調達したスタンド使いも残すはおまえだけだ。
そこでだ……俺とお前であいつを『始末』しちまって、その利権を横取りしちまうのはどうだ?この街のスタンド使いに殺されたことにしてよ。」
ナナ「はあ!?何言ってんのよ!」
衛藤「よく考えろ……あいつさえいなければてめえが紅葉の始末に失敗したことを知る組織の人間は俺だけになる。
あいつがいなければ、俺が推薦してやればてめえだって『組織』に入ることだってできるし、利権も俺達ふたりのものだ。いい話じゃねえか?」
ナナ「…………」
衛藤「どっちみち、てめえには断ることはできねえぜ。てめえは『追われる身』だ。そうだろ?」
ナナ「………わかったわよ。」
衛藤「素直でいい子だねェ。……あと数日で『組織』の『本隊』もくるらしい。行動するなら今しかない、さっさと行くぜ。」
衛藤は車に乗り込み、ナナも後部座席に乗り込んだ。
衛藤(ま、あいつを殺した後でこの女も殺すがな……。利用できるものは利用しねえとな。俺ってずる賢いねェ~~。)
二人が乗った車は別荘を後にした。
二人が話していた場所の近く…別荘の影に男が立っていた。車が走り去っていくのを見届け、男はフッと姿を消した……。
午前4時、『弓と矢の男』は町はずれの廃工場を訪れていた。
弓と矢の男「……………」
<衛藤(電話)≪紅葉と五代の間を取り持った人間をつきとめた。『杖谷』というヤツだ……。詳しい話がしたいから、指定する場所に来てくれ。≫>
電話で呼び出された『弓と矢の男』だったが、いくら待てども衛藤は姿を現さなかった。
弓と矢の男「………衛藤、来ているんだろ?くだらない冗談は不要だ、早く出てこい!」
声が廃工場の中をこだまする。
弓と矢の男「…なんのつもりだ………」
弓と矢の男はポケットからタバコを取り出し、火をつけた。そして、その瞬間………
プツッ
弓と矢の男「!!」
弓と矢の男は首筋に痛みを感じて、タバコを落としてしまった。
指で痛みのあった場所に触れてみると、かすかに『膨らんで』いた。
???「やっぱり…無意識のうちにはスタンド能力は使えないみたいね……。」
弓と矢の男「その声は……蜂須賀か。」
弓と矢の男が向いた先には、ナナがスタンドを発現させて立っていた。
ナナ「覚悟しなッ……あんたを、ここで殺す……!」
弓と矢の男「フム…………」
弓と矢の男は『クイーン・ビート』が刺した場所を指でなぞった。
弓と矢の男「やはり……期待するのは間違っていなかったな。実力は、あるようだ。……『最終試験』には失敗したがな。」
ナナ「フザけるなッ!私は……紅葉を倒していたんだ。あんたが、五代をちゃんと始末していれば、あいつらが来ることはなかった!」
弓と矢の男「クックック……」
ナナ「何がおかしいのよ……。」
弓と矢の男「つくづく信頼できない女だ。私は君に『信頼』を見せろといっただろ?
それなのに、その前に私が五代を倒すのを『信』じ『頼』っていたんじゃあお話にならない。
やはり、組織に入るには不適確な人間のようだ。残念だったな。」
ナナ「……だけどもう関係ない。あんたを殺しさえすれば私は生きられるんだ。
そして決着はもうついている!首の『腫れ』をつぶしてみろッ!もう『腫れ』は動脈を破裂させるまで膨れ上がっている!」
弓と矢の男「…………」
ナナ「もう一発だ、『クイーン・ビート』!!」
クイーン・ビート「BEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!」ドシュウ!
クイーン・ビートが弓と矢の男に向かって針をとばした。
……しかし、針は弓と矢の男の体をすり抜け、向こう側に落ちた。
ナナ「クッ……やっぱダメか。」
弓と矢の男「紅葉との戦いで、君のスタンド能力も『成長』したようだな。前よりも『腫れ』るスピードが速くなっている。」
ナナ(もう一発……もう一発さえ入れられれば、確実にヤツを倒せる……!『頼む』わよ、『衛藤』……)
ナナは『クイーン・ビート』の針で靴底に弾力を持たせて、バックステップで弓と矢の男から距離を取った。」
弓と矢の男「ところで蜂須賀……君がなぜここにいる?そして衛藤はなぜ姿を現さない?お前たち、何か企んでいるんじゃないだろうな。」
ナナ(衛藤の作戦では……まず、あいつの意識を私に集中させる……!)
30分前、車内にて
衛藤「あいつの能力……てめえもちょっとは知ってるだろ、『すり抜ける』能力のことをよ。」
ナナ「……不気味すぎる能力よ。ほんとにあいつを殺すつもりなの?」
衛藤「まともに戦ったらまず勝ち目はないだろうな。……だが、弱点はある。」
ナナ「弱点!?」
衛藤「どんな能力をもっていようが、所詮あいつも人間であることには変わりねェんだ……。」
ナナ(あいつを倒すために……あらかじめこの廃工場で準備をしておいた。たった一回の……チャンスのためにね。)
ナナは廃工場の中を跳びまわり、弓と矢の男の出方をうかがった。廃工場の吹き抜けの最上階の3階に立ったところで、1階にいる弓と矢の男を見下ろした。
弓と矢の男はその場から全く動かない。それが、ナナには不気味に思えた。
弓と矢の男「不意打ちだが……攻撃を受けたのは久しぶりだな。なるほど、頸動脈を破裂させようと……」
そう言った後、弓と矢の男の雰囲気が変わった。黒く絶望的な……目には見えぬオーラをナナは感じ取った。
弓と矢の男「なあ、蜂須賀……おまえが、『私を殺してくれるスタンド使い』だったのか?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ナナ(何……離れていても感じる、この『威圧感』は……!)
弓と矢の男「おまえが……私の願いをかなえてくれる人間だったのか?私を『不死』から解放してくれる死神なのか……?」
ナナ(何を言ってるの!?……でも、コイツは確実にヤバい!)
弓と矢の男「蜂須賀……私を殺したいんだったな。……『チャンス』をやろう、『ラクリマ・クリスティー』!」
弓と矢の男はスタンドを発現させた。『ラクリマ・クリスティー』と呼ばれたそのスタンド……
ナナには白色の無機質なシンプルな姿が、かえって不気味に感じられた。
そう思った瞬間、弓と矢の男は直立不動の体勢のままナナに急速に近づいた。
物理法則を一切無視し、空中を一直線に移動してナナの目前に迫った。
ナナ「えっ!!?」
弓と矢の男「これが私の『本気』だよ蜂須賀……」
ナナ「ななな……何…なの、『すり抜ける』能力なんてもんじゃあないじゃない……。」ガタガタ
人ならぬ動きを見せた弓と矢の男に、ナナは恐怖を抱かずにはいられなかった。
弓と矢の男「私の『ラクリマ・クリスティー』は、『この世の全ての拘束から解放される』能力……私の意識下では、『死』からも解放されてしまう……。」
弓と矢の男は空中からナナの立っている場所に降り立った。
弓と矢の男「しかし……私の無意識からの攻撃は、受けてしまうこともある。……感謝するよ蜂須賀。私に死ぬチャンスを与えてくれたことを……」
弓と矢の男は、自分の首筋にある『腫れ』に手をかけた。『腫れ』はすでにゴルフボール大のサイズになっていた。
ナナ「何を……するつもり…なの?」
弓と矢の男「見ての通りさ。腫れをつぶして死ぬかどうか試してみるんだ。」
ブチャッ!!
ナナ「…………あ……」ガタガタガタ
ナナの顔面は蒼白になっていた。目の前に立つ男の、不可解な行動に恐怖を感じていたのだ。
ブシュウ――――――z________ッ
弓と矢の男の首からおびただしいほどの量の血が噴き出した。
しかし弓と矢の男の表情は変わらず、そばに『ラクリマ・クリスティー』が立っていた。
すると、出血は急速におさまり、傷口がじわじわと消えていった。
ナナ「き……傷が……?」
弓と矢の男「やはり……ダメだったか、この程度では、私は死ぬことはできないのだな。
私のスタンドは……ある意味で『呪われた』能力だ。私のことを守ろうとするスタンドは、『死ぬ』ことさえも許さないのだ。」
ナナ「うわっ、うわっ、うわあああああああああああ!!!!」
弓と矢の男「もう君に用はない。消えてもらおう、蜂須賀。『ラクリマ・クリスティ』ッ!!」
グォオオン!!
ナナはラクリマ・クリスティーの攻撃を間一髪で避けた。
跳びあがったナナは1階に降り立ち、3階の弓と矢の男がいる方向を見た。
弓と矢の男「逃げてもムダだ。」
ナナ「うわあああっ!!」
弓と矢の男はすでに3階からナナの目の前まで移動していた。驚いたナナは尻もちをついてしまった。
どうみても、ナナの勝機は何一つとしてなかった。だが、ナナは溢れる恐怖をおさえて勇気をふりしぼり……
ナナ「『クイーン・ビート』ぉ!!」
ドシュウ!
クイーン・ビートの針を発射させた。ナナを見下ろす弓と矢の男に向けて。
弓と矢の男「ムダだよ、蜂須賀。」
クイーン・ビートの針は弓と矢の男の体をすり抜けていった。
弓と矢の男「この世のすべてから『解放』されているんだ。スタンド攻撃さえ、私に当てることはできない。」
弓と矢の男にダメージを与えられなかったナナであったが、恐怖こそ今だ感じてはいるものの、少しだけ笑みを浮かべた。
ナナ「ああ、そうだ。あんたに『針』をあてることはできない。……でも、今私が狙ったのはあんたじゃない。」
ドバァン!!バゴォン!
弓と矢の男の頭上で、『破裂音』が聞こえた。爆発ともいえる、大きな音がした。
ズズズズズズズズズズズ……
ナナ「見上げてみな……クイーン・ビートで破裂させた天井を……!」
弓と矢の男「!」
弓と矢の男が天井を見上げると、廃工場のトタン屋根の天井が破損し、今にも崩れ落ちそうになっていた。
ナナ「あんたが来る前にあらかじめ『クイーン・ビート』の針で天井を『腫れ』させていた。
時間が経ち膨らんだモノは、破裂させればそのモノを破壊することができる……!」
ナナは力を振り絞って弓と矢の男から離れた。
弓と矢の男が気づいた時には、もう天井は崩れ落ちはじめ、頭上に降りかかってきていた。
ドガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
ナナ「天井に『針』を?天井を膨らませてどうするのよ?」
衛藤「蜂須賀、まずはてめえがあいつをおびき寄せて……天井を落とすんだ。あらかじめ膨らませておけば、もう一度針で刺して天井は落とせるだろ?」
ナナ「それは……そうだけど、天井を落としてどうするのよ。『すり抜ける』能力なら、ガレキが落ちてきても問題ないじゃない。」
衛藤「……そうさ、おそらくあいつは『すり抜けて』脱出するだろうな。……そして、その直後が最大のチャンスなのさ。」
ドガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
崩れ落ちた天井が弓と矢の男の頭上に降りかかる。弓と矢の男は頭上を見上げたまま微動だにしなかった。
ドグァーーーーーーン!!
ナナ「はあ……はあ……はあ……」
天井はほぼ全部崩れ落ち、ぽっかり空いて見えた空は夜明けが近づいているのかほのかに明るかった。
ナナは弓と矢の男に降りかかったガレキの山のほうを見た。まだ、弓と矢の男の姿はない。
ナナ「これで殺した………なんてことはありえない。」
衛藤「ああ、そのとおりだ。」
ナナ「!」
急に衛藤の声がしてナナは驚いて周囲を見回した。……しかし、衛藤はどこにもいなかった。
衛藤「蜂須賀、ここからは俺に任せろ。」
衛藤の声はナナのすぐ横から聞こえた。衛藤が姿を消したままガレキの山に近づいていることが分かった。
ナナ「ここまでお膳立てしたんだ、頼んだわよ衛藤……。」
姿を消したまま衛藤はガレキに近づいて行った。音を立てずゆっくりと……
衛藤(『すり抜ける』能力……『透明になる』能力と違って、目には見えても実体がない能力……正直、お前の能力がうらやましい時もあった。)
ガレキからは何も起こる気配がなかった。
衛藤(だがな……『無意識からの攻撃』という弱点をつくのに俺の能力は一番適しているんだ。)
衛藤はガレキの上に立った。姿は見えなくとも、弓と矢の男がその中にいることは衛藤には感じ取れた。
衛藤(ここで……俺はてめえを超える!富も名誉も……全部俺のモノだあッ!!)
ガレキの中から、頭がひとつ浮かんで出てきた。弓と矢の男は続けて肩から足までゆっくりと姿を現した。
ナナ「やっぱり……出てきたな。」
弓と矢の男「私の能力はいかなるものから解放される。ムダだよ蜂須賀。」
ガレキから出たまま宙に浮いていた弓と矢の男はゆっくりとガレキの上に降り立とうとしていた。その瞬間を……衛藤は待っていた。
衛藤(コイツを倒すには……『能力を発動していない時』に、『無意識』からの攻撃を当てることだ……
それまで『すり抜けて』いたガレキの上に立つことは、『能力を解除した』ことに他ならねえッ!)
弓と矢の男の背後に透明になって立っていた衛藤は、ガレキに降り立つ瞬間を待っていた。
ストッ
衛藤「今だ、『ジョセフ・ナッシング』!!!」
グゥオオオオオオオッ!!!!!!
衛藤は攻撃するために姿を現した。
ジョセフ・ナッシングの腕は、弓と矢の男の体を貫いた。
衛藤「ヒャーーーーーーーーッハッハッハッハァーーーー!!!!!」
ナナ「や、やったッ!」
ナナの眼からも、ジョセフ・ナッシングの腕が弓と矢の男から突き出ているのが見えた。
ドドドドドドドドドド………
しかし、弓と矢の男の体からは血が一滴もでていなかった。
衛藤「ハッハッハッハ…………」
ナナ「な………!」
弓と矢の男「『ラクリマ・クリスティー』。」
ドグチャアッ!!
衛藤「んなッ………!」ゴフッ
衛藤の腹をラクリマ・クリスティーの腕が貫いていた。
弓と矢の男はジョセフ・ナッシングの攻撃を『すり抜け』させ、受けてはいなかった。
衛藤「な……なぜ………だ……」
弓と矢の男「なんていうか……衛藤、君はつくづく暗殺に向かない男だな。殺気を出し過ぎだ。現れた瞬間、すぐにわかったよ。」
衛藤「がっ………ぐっ……」
弓と矢の男「はじめから裏切るつもりだったのかは知らないが……どのみち君はもう必要がない。謎の人物についても、名前がわかれば十分だ。」
衛藤「う……てめ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」
弓と矢の男「『ラクリマ・クリスティー』。」
ドバァーーーン!!
ナナ「ひぃッ!!」
ラクリマ・クリスティーの拳は衛藤の顔面を打ち抜き、衝撃で衛藤の首は千切れ飛んだ。
力を失った衛藤の体はラクリマ・クリスティーの腕からズルズルと落ちた。
弓と矢の男「さて……次は君の番だ。」
ナナ「いやっ、いやああああああああああああ!!!!」
バッ!
ナナは弓と矢の男に背を向け、出口に向かって駆け出した。
ナナ(ダメだ……はじめからこいつに勝てるはずがなかったんだ!私は……こんなところで死にたくないッ!)
弓と矢の男から逃げ切る自信はあった。人目のつくところに逃げ込めば、弓と矢の男は追ってこれないからだ。
ナナ「絶対に、逃げ切れる!」
その時、ナナの向かった先の出口に、人影が現れた。
その出口は小さな扉だったため、人一人立つだけでその出口はふさがれてしまう。
ナナ「作業員なのか知らないけど…邪魔だッ、『クイーン・ビート』!!」
ドシュウ!
人影に向けて『針』を放った。針は出口に立っていた人間の首に命中した。
……しかし、その人間はたじろぎもせず、立ちふさがっていた。
ナナ「なっ……早くどいてよ!」
ナナはそのまま出口に向かっていた。うしろから弓と矢の男が迫っているかもしれない。ナナは立ち止ることができなかった。
出口に立ちふさがっていた人物は、ナナには見覚えがない人物だったが、弓と矢の男にとっては『よく知る人物』だった。
その男は黒衣を身にまとい、長い髪をたなびかせていた。……数日前、杜王港から杜王町に上陸した男だった。
ガシッ!
ナナ「んグッ!」
長髪の男は自らの『スタンド』を出していた。長髪の男のスタンドは、向かってきたナナの首を掴み、動きを止めた。
ナナ(な……なんて…パワー……苦し…)
長髪の男は首筋の『腫れ』を指で触れた。
ナナ(こいつに……命中はしたんだ…あとは、つぶすだけ……)
長髪の男「…………」ブチャッ!
ナナ「!!」
長髪の男は自ら『腫れ』を指でつぶした。
しかしナナが驚いたのは、『腫れ』をつぶしても首から全く血が出なかったことだ。
弓と矢の男でさえ、はじめは大出血したが、その男の傷口からは血が全く出なかった。
長髪の男が指を傷口から離すと、傷口はすでにカサブタになり、ボロボロと首からはがれおちていた。
ナナ「何……が、おきているの?」
グググググ……
ナナ「くうっ…………(く、苦しい……)」
長髪の男「…………」
長髪の男のスタンドが彼女の首を吊っていることによる苦しみよりも先に、長髪の男の『スタンド能力』が、ナナを苦しめていた。
ナナ(あ……あたまが…ぼうっと………まるで、貧血のときのような……体から血が抜けているような……)
長髪の男「…………」
ナナ「わた……し……死ぬ………の…?」
ナナの後ろには、弓と矢の男が立っていた。
弓と矢の男「さようなら、蜂須賀。」
ナナ「――――――――――――ッ!」
ドサッ
意識を失ったナナの体は長髪の男のスタンドの腕からだらりと垂れ下がった。
それを確認した長髪の男は、ナナを床に落とした。
弓と矢の男は長髪の男に近づき、一礼した。
長髪の男「………この街の状況はどうだ、『キル・シプチル』。」
『キル・シプチル』と呼ばれたその男………弓と矢の男は、長髪の男の質問に答えた。
弓と矢の男・キル「……あまりよいとは言えない。我々の邪魔をするスタンド使いが、この街には多くいる。」
長髪の男「想定の範囲内だ。スタンド使いの多いこの杜王町さえおさえておけば、この国を『とる』のはわけない。」
キル「『本隊』は?」
長髪の男「じきに来る。『本隊』と言っても、単独で動く連中ばかりだがな。」
キル「それでは……」
長髪の男「ああ……これから、本格的にこの街のスタンド使いを『殲滅』する。」
キル「……………」
長髪の男「おまえにも働いてもらうぞ………キル・シプチルよ。」
キル「わかりました………我らが『ボス』………『ディエゴ・ディエス』様。」
ドドドドドドドドドドド………
衛藤清多夏……死亡
蜂須賀ナナ……死亡
弓と矢の男・『キル・シプチル』
スタンド能力……『ラクリマ・クリスティー』
スタンド能力……『ラクリマ・クリスティー』
長髪の男・『ボス』『ディエゴ・ディエス』
スタンド能力……不明
スタンド能力……不明
【スタンド名】
ラクリマ・クリスティー
【本体】
キル・シプチル(弓と矢の男)
【タイプ】
近距離型、チート系
【特徴】
凹凸の無いスリムな機械人型 無駄な装飾が全く無く翼が生えている
メイド・イン・ヘブンみたいな顔 白い
メイド・イン・ヘブンみたいな顔 白い
【能力】
この世の全ての「拘束」から解放される能力
所謂全ての「法則」や「ルール」を無視することが出来る能力
たとえば重力にも拘束されず空中を自由に動き回れる
壁などの障害物も無視してすり抜けて歩ける
相手スタンドの「拘束」「妨害」「時間停止」等の能力すら無視して行動できる
「生」や「死」からすらも開放され絶対に死ぬことがない
など様々な「拘束」から開放される
所謂全ての「法則」や「ルール」を無視することが出来る能力
たとえば重力にも拘束されず空中を自由に動き回れる
壁などの障害物も無視してすり抜けて歩ける
相手スタンドの「拘束」「妨害」「時間停止」等の能力すら無視して行動できる
「生」や「死」からすらも開放され絶対に死ぬことがない
など様々な「拘束」から開放される
破壊力-A
スピード-A
()
()
射程距離-D
(能力射程-本体のみ)
(能力射程-本体のみ)
持続力-E
精密動作性-A
成長性-完成
「死の恐怖は……こんなもんじゃあないよ……」
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
ガバッ!
模「……はあ…はあ…はあ…」
模が窓の外を眺めると、空は明るくなり朝を迎えていた。
模は寝るたびに同じ悪夢をみて、目前に迫る恐怖におびえ何度も目を覚ましていた。
寝起きは悪かったが、連続する悪夢から解放されて模は少し安心した。
模の母「あら模、おはよう。」
台所に入ると、模の母が朝食の用意をしていた。
模「………おはよう。」
模の母「朝ごはん、食べるでしょ?」
模「……食欲ないから、パンだけでいい。」
模の母「あらそう、大丈夫?」
模「学校行ってきます。」
模がパンを一切れつかみ、台所を出ようとした時、
模の母「模!」
模「!」
模の母「……なにかお母さんに話したいことがあるんじゃない?」
模「…………」
模は母に背を向けたまま黙っていた。
模「……大丈夫だよ、母さん。……行ってきます。」
バタン!
模は台所の扉を閉め、学校へ向かった。
話したいことがないわけではなかった。
しかし、それは母に話してもどうしようもないことだった。
模の母「……今朝は様子がヘンな気がしたけど……気のせいよね。
あの子顔には出さないけど、最近明るい気がするもの。やっとこっちで友達が出来たのかしら。」
バラバラの家族の状態を見かねて模を連れ出したのは、母の独断だった。
模の母は、それが正しい選択だったのかどうかまだ悩んでいた。
模の母「……ここに引っ越してよかったわあ。」
ガチャ!
台所の扉の奥……玄関の扉が開く音がした。
模の母「あれ、忘れ物でもしたのかしら?」
模は一人で学校に向かっていた。
模の家のある勾当台三丁目はぶどうヶ丘高校からそれほど遠くはないが、駅周辺の商店街のはずれのあたりで、朝の時間は人通りが少なかった。
ガササッ!
模「!!」バッ
模は音のした方向をふりかえる。
塀の上には黒ネコが立っていた。
黒ネコ「ニャーン……」トタタッ
模「…………はあ……」
いつ新手のスタンド使いに襲われるかわからないとはいえ、模は周囲に過敏になりすぎていた。
それは自分でもわかっているのだが、ここ数日で体験した恐怖はそう簡単にぬぐいされるものではなかった。
それに昨晩の悪夢のあとならなおさらだ。
模「…………」
さらに模は、家を出た時から……今日は何か不吉なことが起こりそうな予感があった。
模は空を見上げた。学校の方向の、山の上空には黒い雲が広がっていた。
模「……雨、ふりそうだなあ。傘わすれてきちゃったよ。」
しばらく歩き、学校が近づいてくると、模は違和感を覚えた。
腕時計をのぞくと時刻は8時すぎだったが、学校近くだというのに学生がだれひとり歩いてなかったのだ。今日は休日だったなんてわけではない。
仮に休日だったとしても、中高一貫校の学校の近くに学生がだれもいないなんてことはありえないのだ。
模「なんなんだよ……この雰囲気は。」
そして模が学校につくと、先ほど感じた不吉な予感が現実に目の当たりにすることになった。
模「!!」
ぶどうヶ丘校の校門のそばに、大きな体で、学生服を着ている男が倒れていた。
模「……銀次郎くんッ!!」
模が近づくと、『レッド・サイクロン』の銀次郎は全身にやけどを負って、痛みのために苦しんでいた。
銀次郎「なんだ……お、おまえは模ッ……!」
模「何があったの!?こんな火傷……。」
模はすぐさまセクター9を繰り出し、波紋で治療を始めた。
銀次郎「ヤツらが来た……。『組織』の……連中が俺を殺しに来たんだッ!」
模「そ……『組織』!?」
銀次郎「俺のところに来たあいつは……『作戦が始まった』と言っていた……。この街の、スタンド使いを『殺す』と……!
模…おまえの名前もあいつは言っていたんだ、逃げろ模ッ!」
模「そんな……だって銀次郎くんだって……」
銀次郎「早く逃げろッ!!あいつは……まだ近くにいるんだ!模、おまえじゃあいつにはかなわない!!」
???「『ロスト・ハイウェイ』!!」
銀次郎「!『レッド・サイクロン』、電柱を『掴め』!!」
ギュン!!
銀次郎は『レッド・サイクロン』の能力で3メートル先の電柱を掴み、『引っ張る』のとは逆に『引っ張られる』ようにして移動した。
銀次郎「模、こっちに来い!」
ギュン!
銀次郎はさらに模を『レッド・サイクロン』で『掴み』、引き寄せた。そしてその直後、
バシャッ!
シャッター音とともに強い光が発せられた。
そして、シャッター音のした方向の物陰に隠れていた男が姿を現した。その男のそばにはスタンドが立っていた。
???「コノヤロー……『ロスト・ハイウェイ』、テメーまだカメラの使い方覚えてねーのかよッ!!」
ロスト・ハイウェイ「キ――――――ッ!!」
???「いや、前のカメラ壊したのは俺だけどよォ、『任務』なんだぜ!?しっかりやってくれよォ。」
模「……ッ!」
銀次郎「コイツだ……俺を襲ってきたのは。」
レイヴン「なんだなんだ銀次郎クンよォ、この『ヨルゴス・レイヴン』様が一回のシャッターで仕留められなかったヤツはテメーくらいだぜえ!?ずいぶんタフなヤローだぜ。」
ロスト・ハイウェイ「キキィ―――ッ。」
銀次郎「はあ…はあ…はあ……」
レイヴン「テメーが焼け死ぬ前に写真が燃えきっちまったんだなァ?……まあ、もう一度やりゃあすむ話だ。」
銀次郎「逃げろ、模……。」
模「ダメだ、銀次郎くんを残しては行けないよ……。」
銀次郎「模、おまえはこのことを皆に伝えるんだ……。『組織』が、本格的にこの街のスタンド使い……特にお前たちを狙っている。
コイツらは、ひとりでどうにかできる連中じゃねえ。……俺はこいつを食い止める。」
レイヴン「今度は失敗すんなよなあ~~『ロスト・ハイウェイ』。面倒だ、そっちのボーヤも写しちまえ。」
ロスト・ハイウェイ「キキィ――――――ッ!!!!」
銀次郎「行けッ、模!」ドン!
銀次郎は模の体を強く押し飛ばした。
バシャッ!
シャッター音とともに強烈なフラッシュがカメラから発せられた。
あまりのまぶしさに模は目を閉じた。
そして、ゆっくり目を開けると、そこに銀次郎の姿はなかった。
模「銀次郎くーーーーーんッッ!!!」
レイヴン「『ロスト・ハイウェイ』、コイツの処分は後だ。先にこのボーヤもやっちまうぜ。
話きく限りだと、テメーも『スタンド使い』なんだろォ?」
模「よくも……銀次郎くんを……!」
<「とんだアマちゃんだぜ坊っちゃんよ。てめえ、これからもそんな調子で俺たちと戦う気なのかよ。
言っただろ?俺たちは戦いを生業とした人間だって。……喧嘩ごっこのつもりで戦ってたら、すぐに死ぬことになるぜ。」>
模「……!!」
模(『戦いを生業とした人間』……)
<五代「こっちは、一人殺されてるんだよ!てめえ……まさか、自分が殺されるはずがないと思ってるんじゃねえだろうな。」>
模(『死』………!)
模は自分の脚が無意識に震えていることに気がついた。
レイヴン「オオ、ビビっちゃってまあ……。恐れることはねェ、俺の能力なら死ぬのは一瞬だからよ。まずは記念撮影されときな。」
模(どうして……どうして脚が動かないんだよ!衛藤と戦った時には集中できたのに……!)
レイヴン「動くなよ……いい遺影撮ってやるぜ?」
模(ダメだ……戦うどころか、逃げることさえできない……!)
模の脚の震えは全身に広がり、もはや腕一本動かすことでさえままならなかった。
レイヴン「さあ……『ロスト・ハイ……!!」
ザシュッ!!
ロスト・ハイウェイがカメラを構えようとした瞬間、模の背後から何者かが高速でロスト・ハイウェイに近づき、
持っていたカメラを真っ二つに『叩き割った』。
レイヴン「んなッ………!」
カメラを割った何者かは、ぶどうヶ丘高校の女子制服を着ていて、右手に『剣』を持っていた。
アッコ「『ファイン・カラーデイ』。」
模「ア……アッコ。」
アッコは模のほうに振り向いた。
アッコ「バク……逃げるヨ。」
模「え……でも、銀次郎くんが……!」
アッコ「敵は一人とハ限らナい。今戦ウのはヒジョーに危険だヨ。」
模「………」
アッコ「それニ………バクに来てもらいタイところガある。」
そういうとアッコは模の体を肩に抱えて、走り出した。
アンドロイドらしく、すごいパワーで走り出す。
みるみるうちにレイヴンの姿は小さくなっていった。
レイヴン「……ッチ、まあいい。とりあえず俺の任務はコイツの始末だけだ。だが……ヒッヒッヒ、いいこと思いついた!」
【スタンド名】
ロスト・ハイウェイ
【本体】
ヨルゴス・レイヴン(英語の⑪イレブンより)
【タイプ】
近距離型 人型
【特徴】
常に泣いているような表情の人型
【能力】
写真の中に、本体及び本体が許可した者のみを引きずり込む能力。
写真内の世界は、シャッターが切られた瞬間の世界であり、全てのものはその時点で停止した状態で存在する。
写真の中に存在するものを動かしたり使ったりすることができるのは、本体及びこのスタンドのみ。
それ以外の者が写真内のものに触れてもピクリとも動かすことはできない。
写真に映っている範囲内では自由に移動することができる(建物の外観のみ映っている場合も内部に移動可能)。
スタンド能力にパワーを割いているため、格闘能力は低い。
写真内の世界は、シャッターが切られた瞬間の世界であり、全てのものはその時点で停止した状態で存在する。
写真の中に存在するものを動かしたり使ったりすることができるのは、本体及びこのスタンドのみ。
それ以外の者が写真内のものに触れてもピクリとも動かすことはできない。
写真に映っている範囲内では自由に移動することができる(建物の外観のみ映っている場合も内部に移動可能)。
スタンド能力にパワーを割いているため、格闘能力は低い。
破壊力-C
スピード-C
()
()
射程距離-D
(写真の中の世界では数百m)
(写真の中の世界では数百m)
持続力-A
精密動作性-D
成長性-D
アッコは模を抱えたまま走り続けていた。
ぶどうヶ丘高校から駅前を抜け、商店街を通って行った。
アッコに抱えられたまま、模は問いかけた。
模「一体なにが起きたんだよアッコ……それに、来てもらいたいところって……」
アッコ「………」
模「アッコは敵のことも少し知ってるようじゃないか。いったい……どういうことなの?」
アッコ「バク……アタシはあなたニ謝らなキャいけナいことがアル……」
模「え?」
アッコ「アタシがバクに近ヅイたのニは、理由がアルんだ……」
模「……どうして?」
アッコ「……着いタラ、話すヨ。」
景色がものすごい速さで通り過ぎていく。
アッコは商店街を走り抜け、商店街の西南……オーソンの前に辿りついた。
模「アッコ……ここって……」
アッコ「行くヨ、バク。」
そこはかつてアッコが入るを嫌がっていた場所……地図にない小道だった。
アッコが先に入り、続いて模も足を踏み入れた。
小道を進んでいくと、大きな屋敷の前に模のよく知る人たちがいた。
紅葉「…………模!」
模「く、紅葉!!どうしてここに?」
そこには紅葉と五代、そして五代と戦った九堂の姿もあった。
紅葉「抱えて連れてこられたのよ……その子に。」
紅葉はアッコのほうを見た。
九堂「『緊急事態』だ……って言ったよな?何が起きたんだ?」
???「それは、私から話しましょう。」
屋敷の扉があき、女の人が出てきた。それは、模がここに入った時出会った『桐生零』だった。
零「以前からあなたたちを襲っていた者たち……その実態がわかったのです。」
五代「待て……いきなりここに連れてこられて、さらに俺たちを襲った者たちの実態だと……?
それ以前にてめーは何者なんだよ。」
零「私のことは今は話せません。ただ……この杜王町を守りたいという強い気持ちはあります。私は、あなたたちの味方です。」
五代「俺はてめーとは初対面だ。それなのに、なぜお前は俺たちのことを知ってる?」
零「林原温子……彼女の視覚カメラを通じて、あなたたちを見ていました。あなたたちの戦いは、ハッキングした杜王町内の監視カメラと、温子の目を通してすべて見ていました。」
模「…………アッコ?」
アッコ「……ゴメンね、バク。アタシは、レイさんの指示で動いていた。ズット、戦いを遠くから見てイタんだ。
ホントウは、ミンナを助けてアゲたかったんだケド……。」
零「ごめんなさい、敵にこちらの存在を知られたくなかったの。敵はあまりに巨大な組織だから……。」
紅葉「『組織』……?やっぱり敵は何かの組織なのね?ナナの『最終試験』って言葉から推察出来たけど。」
九堂「衛藤……あのクソヤローも『組織』だって言ってたな。あいつ自身がその構成員だったみてーだが……。」
零「そう、蜂須賀や衛藤も組織の手先でしょう。……そしてその二人ですが、廃工場にて何者かによって『殺され』ました。」
模「!!」
零「廃工場に一つだけ設置していたカメラ……そこから確認できたのは蜂須賀と衛藤だけ。ほかにいた二人はわかりませんでした。
だけど……蜂須賀と衛藤はおそらく『組織』によって完全にこの世から『消され』ました。」
紅葉「『消された』……?」
零「衛藤はおそらく『組織』の人間……もともと公式の記録では存在しない人間です。しかし蜂須賀はぶどうヶ丘高校の生徒でしょう?」
紅葉「……ええ、話したことはなかったけれど中等部からいたはずよ。」
零「ぶどうヶ丘高校のデータにアクセスしたところ……すでに彼女のデータは『なかった』。」
紅葉「え……?」
零「『死亡』でもなければ、『転校』や『休学』でもない。はじめからいなかったことにされている。
一般の生徒や教師の記憶からも、そのうち『消される』ことでしょう。『組織』内のその分野に長けたスタンド使いによってね。」
九堂「おいおい、さっきから聞いてりゃあよー、『記録に存在しない人間』とか、『記憶からも消される』ってよー、そんなことが可能な組織なんかあるのかよ?
スタンド能力だけじゃ片付けられない問題だってあるだろ?」
零「……それを可能にするほど巨大な組織よ。」
五代「…………で、その組織ってのはいったい何なんだ?」
零「結論を言いましょう。あなたたちを、この杜王町のスタンド使いを狙っている組織は…………『ディザスター』。」
五代「………『ディザスター』?」
紅葉「……聞いたことない名前ね。○○学会や、幸福のなんちゃらってのが出てくるかと思ったけど。」
零「『ディザスター』は、この地球上の全世界の裏社会に広く根をはる組織。各国の主要人物や各省庁、有力企業を裏でおさえて、社会の流れを牛耳っているといわれている。」
九堂「それが……なんで杜王町に?」
零「今度の目標が日本だからでしょう。ディザスターの侵略はその国の反抗分子となりうる『スタンド使い』を殲滅することから始まる。
……日本のスタンド使いが集中するのがこの杜王町だからでしょう。」
五代「その……『ディザスター』がどんな組織だとか、どうして杜王町に来たのかはどうでもいい。
てめーがなぜかそれについて詳しいこともな。だが……なぜ俺たちを集めた?」
零「私は……あなたたちの戦いを見て判断しました。『あなたたちこそが、ディザスターに対抗できる黄金の精神を持つ者たちだと。』」
五代「…………」
零「実際……あなたたちは当事者でもある。ディザスターがはじめに狙うスタンド使いはあなたたちなのだから。」
五代「……そんな、デカい組織に俺たち数名で立ち向かえって言うのか?」
零「ディザスターがその国に送るスタンド使いはおよそ十数名の精鋭。だからこそ……私たちが結束すれば、大きな力になると私は信じています。」
紅葉「……私だって、今まで自分の身を守るので精いっぱいだった。その、『ディザスター』の構成員ですらないナナには負けたのに、
それよりも強い組織のスタンド使いと戦えっていうこと?」
零「……私は強要するつもりはありません。この杜王町を出るという選択肢もあります。そのためのお金も私が工面しましょう……。」
零「あなたたちをここに集めたのは、この小道はまだディザスターに知られていないからです。ここを出れば……常に危険にさらされることになるでしょう。
『選択』していただきたいのです。杜王町から出るか、ディザスターに立ち向かうか……。」
模「…………ッ。」
零「私と温子と一緒にディザスターと戦ってくれるのなら、門からこの屋敷の庭に入ってください。
屋敷の中で……詳しい話をします。」
彼らの間に重い沈黙が続いた。
これまで襲ってきたスタンド使いたちが、それほどまでに大きな組織だとは想像もつかなかった。
すぐに『戦える』と言うことができないのも当然だった。
しかし……一番最初に動いたのは五代だった。
五代「俺は……『三度』死んだ男だ。」
五代は屋敷のほうに体を向けた。
五代「俺は生まれてすぐ、親に捨てられた……。そして、とんでもねえ下衆に拾われて、俺の人生は無いも同然だった。
そして三度目……『弓と矢の男』だ。あそこで俺は死ぬはずだったんだ。……だが、かわりに死んだのは四宮だ。」
そして、屋敷に向かって歩き出した。
五代「俺はもういつ死んだって構わない。だが……最後に、四宮の仇は絶対にとってやりたい。これは俺の『目標』であり、『ワガママ』だ。
たとえ……敵がどんなデカイヤツだとしてもな。」
ダン!
五代は屋敷の門から中に足を踏み入れた。『ディザスター』と戦う決意をしたのだ。
……いや、彼ははじめから決意していたのかもしれない。
模「ご、五代くん……。」
紅葉「『杜王町から出るか、ディザスターに立ち向かうか……』だって?」
うつむいていた紅葉が、強いまなざしを持って顔をあげた。
紅葉「私はずっとこの杜王町で暮らしてきた。私はこの街が大好きなんだ。
生まれ育ったってだけじゃあない。街並みやすむ人々……それらすべてが私を包み込んで私を育ててきたんだ。
この街が『私』なんだ。この街を出ることは……私が死ぬも同然だ。私は……命に変えてもこの街を守るんだ!」
ダン!
紅葉も足を踏み入れた。
九堂「俺はよー、あいつらに関してひとつ悔やまれることがあるんだよな。
ちっちゃいころから好きだった日曜の朝の戦隊モノ……あの人たちを動かすのはゆるぎない『正義の心』だ。俺はそれにずっと憧れていた。
だけどよおー、衛藤は……あいつらはそんな俺の『正義の心』を利用してバカにしたんだ!」
九堂が屋敷に足を踏み入れた。
九堂「俺の『正義の心』は決して屈することはねェッ!!あいつらを見返してやるんだッ!!
五代……俺がおまえに負けたのは、あれは『偽りの正義』だったからだ!次は絶対負けねえからな!!」
模「…………」
気づけば屋敷の敷地外……道路に立っていたのは獏一人だった。
紅葉「模……あんたはどうするの?」
模「ぼ……僕は…………。」
紅葉「私は、模にも一緒に戦ってもらいたい。あんたがいなければ今の私は無かった。模の力が必要なのよ。」
模「…………」
九堂「…………」
五代「…………模。」
模「…………僕は……まだ、決められない。僕は、本当に戦えるのか………わからないから。」
模はひとり、うつむいた。涙が出そうになるのを必死にこらえていた。
模の胸中では、仲間に信頼される嬉しさと戦うことの恐怖がぐちゃぐちゃに渦巻いていた。
模「……もう少し、考えさせてもらえないかな。…………すぐ、決めるから。」
ダッ!
模は屋敷に背を向け走り出した。
意志を固く持った仲間に比べ、模は弱すぎる自分が恥ずかしく思えた。
紅葉「模!」
五代「待て、紅葉。…………こればかりは、自分で決めなくちゃいけねえ。俺たちが、無理に巻き込むことはできねえんだ。」
紅葉「…………」
雨が、降り出した。
雲の隙間から指していた日の光は完全に遮られ、
空を黒い雲が覆って、大粒の雨を落としていた。
模は濡れるのも構わず、ただただ走っていた。
小道を抜け、商店街を走り、自分の家に向かっていた。
さっきまでこらえていた涙がずっと溢れていた。
雨と涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっても、走るのをやめなかった。
どうすればいいのか自分でもわからなかった。
どんなに信頼されている仲間でも、今の自分の気持ちをわかってくれるはずがない。
模は、急に母親に会いたくなった。
小さいころから、波紋を習い始めたころからも、ひいじいちゃんが死んでからも、ずっと模の味方だった母親に。
相談に乗ってもらうことなんかできるはずはないが、それでも母の顔を見たかった。
ザアーーーーーーーッ……
模「はあ……はあ……はあ……」
模は家の前までたどり着いた。
ゴロゴロゴロ…………
雷がうなりはじめていた。
そして模は、周囲の異様な雰囲気を感じ取った。
模「………?」
模の家の庭を覗いた。
洗濯物が、物干しざおにかかったままだった。山に雲がかかっていたとはいえ、朝はまだ晴れていた。
模「……取り込むの忘れたのかな……。」
模が、庭から玄関に向かっていく。
ドアの前に立った瞬間、模は理解した。
朝から感じていた不吉な予感は、すべてこの時のことを暗示していたのだと。
銀次郎が襲われたことよりも、『ディザスター』が来ているということよりも、模にとって恐ろしいことが起こったことを。
模「…………!!」
ドアノブに、血がべっとりとついていた。
模「か、母さんッ!!」
家の中に入ると、壁や床に血のしみがいくつもあった。
血のしみは台所に続いていて、台所の扉が開いていた。
台所に入ると、あたりは物が散乱し、廊下と同じようにあたりに血のしみがついていた。
そして……台所の奥で、黒衣の男が模の母の首を掴みあげていた。
模「母さんッ!!」
模の母「ば……ばく……に、逃げ………」
模の母が模に気がつくと、黒衣の男が模のほうを見た。
黒衣の男「……そうか、貴様がキルの言っていた『杖谷』か。」
ドサッ
黒衣の男が模の母から手を離した。そして模の母はそのまま床に崩れ落ちた。
模「母さんに……母さんに何をしたァーーーーっ!『セクター9』ッ!!」
セクター9「ウリャァーーーーーーッ!!!」
黒衣の男「……『ミレニアム・チョーク』。」
バシィッ!!
黒衣の男は自身の『スタンド』を繰り出し、セクター9の拳を止めた。
黒衣の男「……脆弱だな。我が『ディザスター』に対抗できるとは思えん。衛藤を破ったと聞いたが……」
模「…………」
黒衣の男「まあいい、ここで殺してしまおう。『ミレニアム・チョーク』。」
模「!?」
突然、模の右手の力が抜けた。ミレニアム・チョークが掴んだセクター9の右手から何か吸いとられているような感覚だった。
まさに……『血の気が抜けるよう』だった。
模「……マズいッ、セクター9『波紋の世界』!!」
バチィン!!
模はセクター9の右手からミレニアム・チョークにはじく波紋を流し、手を離れさせた。
黒衣の男「……!?」
模(な……何だったんだ今のは……?この男の『スタンド能力』?)
模は右腕を見ると、その色が『青白く』なっていた。
黒衣の男「『力』で引き離したわけじゃあないようだ。……杖谷の能力…その実態はわからないが、『ミレニアム・チョーク』には多少相性が悪いようだ。」
模(もしかして、母さんもこの能力を喰らって……。もしそうだとしたら今母さんは……!)
黒衣の男「今は脆弱な力だ。……だが、このスタンドが成長すれば、『ミレニアム・チョーク』の……いや、『ディザスター』の脅威になるかもしれない。
……スタンドのもっとも恐るべきものはその『成長性』だ。今は弱くとも……成長することによっていずれ大きな力を持つ可能性がある!
杖谷……貴様は今この場で殺す。俺の脅威となりうる若い芽は潰しておかねばならない!『ミレニアム・チョーク』ッ!!」
グオオオオオオッ!!!
模「セ、セクター9!『衝撃の世界』!!」
模は近くに落ちていた皿でミレニアム・チョークのパンチをガードし、衝撃を留めさせた。
黒衣の男「……?」
模は衝撃を受け止めた皿を投げ、床に当たった皿は衝撃の解放とともに割れた。
黒衣の男「今のも……スタンド能力なのか?やはり……この少年は危険だ。キルの見込み違いではなかったということか。」
模(……ダメだ、こいつを倒しうる手段がない………)
黒衣の男「だが、次で終わりだ。『ミレニアム―――――――」
その時、玄関のほうから物音がした。
*「杖谷さーーん、洗濯物……きゃああああああああ!!!!!」
黒衣の男「ッ!!」
*「血ィ、血がああああああッ!!警察、警察ゥーーーーー!!」
黒衣の男(チッ……ここで人に集まられるのはマズい。しかし………)
*「だれか、だれか来てェーーーーーー!!!」
黒衣の男「………ッ!杖谷……覚えておけ。貴様がこの杜王町にいるうちは、俺の部下のスタンド使いが必ず貴様を始末しに行く!」
模「…………!」
ディエス「これは『戒め』だ。我が組織に刃向かうことは『死』を意味する!脅しじゃあない、確実に殺すッ!
世界を支配するのは……この『ディエゴ・ディエス』なのだ!!」
そう言って黒衣の男……『ディザスター』の首領、ディエゴ・ディエスは模の家から出て行った。
模は、出ていくディエスを追うよりも先に母のもとへ駆け寄った。
模「か……母さんッ!!」
模の母は顔色が悪く、苦しそうにはしていたもののかろうじて意識はあった。
模の母「ば……ば…く………」
模「ごめん、母さん………ぼくの、僕のせいで……母さんまで……」
模の母「……あなたの……せいじゃない………」
模の母は手を模の頬に当てた。模の母の手は、氷のように冷たかった。
模の母「『波紋』さえ……」
模「……!」
模の母「『波紋』さえ……学ばなかったら、あなたは傷つかずにすんだのにね……。」
あの時……私がムリにでもやめさせればよかった。普通の人にはない力なんて、持たないほうが良いんだよね……。」
模「そんな……そんなコトっ……!」
模の母「離れましょう、模……杜王町から………。波紋を使うこともやめて……ね?
もう……あなたが……傷つけられるのを、見たく……ない…も……の……」
模「………ッ!母さん!!」
模の母は意識を失い、手が模の頬から離れて力なく床に落ちた。
模は母の手を握り締めた。しかし、母の手はそれに応えることは無かった。
模はこの時知った。
模の波紋は、家族のだれからも求められていなかったのだ。
模「うあああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!」
【スタンド名】
ミレニアム・チョーク(millennium choke-千年の窒息-)
【本体】
ディエゴ・ディエス(スペイン語の⑩ディエスから)
『ディザスター』のボス。
『ディザスター』のボス。
【タイプ】
近距離パワー型
【特徴】
フルフェイスメットのような頭、体は紅と黒の網目
【能力】
本体、または殴った相手の血液の成分を操作する。
主な使い方としては、血液中に主に含まれる赤血球、白血球、血小板の比率を変える。
本体に対しては、赤血球の比率を一時的にあげて体内の酸素の巡りを強化させたり、血小板を増やして傷口の止血を早めたりする。
殴った相手に対してはこれの逆をするほかに白血球の比率を上げて白血病の症状を起こさせたりする。
また本体への輸血にも有用であり、他者の血液の血液型を自分のそれに変えたり、血液の血漿中の抗体を自分のそれと同じものにし、全血輸血を可能にする。
主な使い方としては、血液中に主に含まれる赤血球、白血球、血小板の比率を変える。
本体に対しては、赤血球の比率を一時的にあげて体内の酸素の巡りを強化させたり、血小板を増やして傷口の止血を早めたりする。
殴った相手に対してはこれの逆をするほかに白血球の比率を上げて白血病の症状を起こさせたりする。
また本体への輸血にも有用であり、他者の血液の血液型を自分のそれに変えたり、血液の血漿中の抗体を自分のそれと同じものにし、全血輸血を可能にする。
破壊力-A
スピード-A
射程距離-E
持続力-E
精密動作性-?
成長性-?
模が外に出ると、すでに雨はあがっていた。
模の家の前にはパトカーと救急車が止まっていて、野次馬も多くいた。
ディエスに襲われた時に入ってきた、模の家の隣人が呼んだらしい。
警察官「詳しいことは後で聞くけど、君はお母さんと一緒に救急車にのりなさい。」
模「………はい。」
模は答えたものの、警察官の言うことは全く耳に入ってこなかった。
模は救急車の後方から乗り込んだ。
救急隊員A「ぶどうヶ丘病院は引受不可のようだ。多少遠いが、S市の大病院まで搬送しよう。」
模(S市………)
救急隊員B「ああ、一刻を争う。早く行こう。」
模(杜王町から離れるのか……。)
救急車のエンジンがかかった。模は座席でうつむいたまま座っていた。
模(もしかしたら、ここには…………)
???「…………く……模ーーッ!」
模「?」
外から誰かが自分を呼ぶ声がして、模は救急車の窓から外を眺めた。
紅葉「模ーーーーッ!!」
模「く、紅葉……!」
野次馬の中に、紅葉が立っていた。
紅葉は野次馬の中から飛び出し、救急車の中の模を見つめた。
紅葉「私は……待ってるからッ!」
模「………ッ!」
救急車が発進し、紅葉もそれを追って走り出した。
紅葉「私は……信じてるから!模が戻ってくることを!あんたは……絶対に杜王町に帰ってきてくれる!!」
模「…………紅葉……」
救急車のスピードが増すにつれて紅葉の姿はしだいに遠ざかり、曲がり角で見えなくなった。
模(紅葉は、僕を必要としてくれている。……それはわかっている。
僕の波紋の力だって……紅葉や五代くんは頼ってくれている。……でも)
模は目の前に横たわる母を見た。顔は青白く、生気は感じられなかった。
母がこうなったのは自分の責任だと模は思っていた。
模(僕は……弱すぎる。あまりに……なにもかもが重すぎる。)
模は顔をあげて窓の外の景色を見た。
模はこれまでの杜王町での出来事を思い出していた。つらいことが多かったが、うれしいこともあった。
最後に思い出したのは、地図にない小道……屋敷の前で桐生零が問いかけた言葉……
<零「『選択』していただきたいのです。杜王町から出るか、ディザスターに立ち向かうか……。」>
そして、模はボソリと一言つぶやいた。それは、模自身の決意も含んだ言葉だった。
模「さよなら、杜王町…………。」
第四章 -繋がりの世界- END
to be continued...
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